全ディスクレビュー

PS4U|Tomato n’Pine 

2012/8/1 SMR

1. Train Scatting
2. ワナダンス!
3. なないろ☆ナミダ
4. 渚にまつわるエトセトラ
5. 10月のインディアン
6. キャプテンは君だ!
7. POP SONG 2 U
8. 踊れカルナヴァル
9. 旅立ちトランスファー
10. ジングルガール上位時代
11. ためいきはピンク
12. そして寝る間もなくソリチュード(SNS)
13. 大事なラブレター
14. 夢ノカケラ・・・
15. ワナダンス! -strike the pose remix-

ミュージック・マガジンで2012年J-POP部門年間ベストアルバムに選出されるなど音楽マニアからの評価が非常に高く、楽曲派アイドルの先駆的な存在であった「Tomato n’Pine」の名作アルバム。ディスコやハウスからロックまで様々な音楽要素を綺麗にまとめ上げた最高品質のアイドルポップである。プロデュースは音楽クリエイター集団agehaspringsとそのメンバーで今では有名なジェーン・スー。

冒頭①から意表をつくスキャットナンバーに驚かせるが、上質なガールズポップとして違和感なく聴かせてくれる。
代表曲である③や⑨などのノスタルジックな美メロ&ハーモニーの煌びやかな楽曲は、1990年代に活躍した同じ3人組アイドルグループの「Qlair」にも通じるものがあり。切なさと力強さの両方を兼ね備えた耳当たりの良い楽曲は自然と聴き入ってしまう魅力がある。
このグループの代名詞といえるディスコポップの名曲②、ポジティブな力強さに満ちている⑥、キャッチーでキュートなダンスポップ⑦は、クラブ向けアイドルポップの傑作で、今でも多くの人に愛されている。
クリスマスソングとして歴史に残る⑩は、ドキドキやわくわく感を詰め込んだガールズポップの大傑作。メリハリの効いたラフなロックサウンドとフックのあるメロディーライン、これは日本産パワーポップの名曲といえる。他にも激烈なロックサウンドの⑫などバラエティにも富んでおり良質な楽曲揃いである。

アイドルという先入観抜きに音楽好きなら上質なポップソング集として誰もが楽しめる1枚だ。

鼓動の秘密|東京女子流 

2011/5/4 avex trax

1. Intro~鼓動の秘密
2. Love like candy floss -TGS ver.-
3. ヒマワリと星屑
4. 頑張って いつだって 信じてる
5. サヨナラ、ありがとう。
6. Attack Hyper Beat POP
7. おんなじキモチ
8. ゆうやけハナビ
9. きっと 忘れない、、、
10. 孤独の果て~月が泣いている~
11. キラリ☆ -Album Mix- ~Outro

エイベックスが手掛けるガールズグループとして2010年に結成された「東京女子流」の1stフルアルバム。系統としてはアイドルグループではあるが、卓越したダンススキルと安定したボーカルワーク、ファンクやAORなどのシティポップといえる都会的な洗練された楽曲は刺激に満ちており、アイドルという枠を越えた存在感がある。

冒頭を飾る①は「ClariS」への楽曲提供や後に「CYNHN」のソングライターを務める渡辺翔が作曲を手掛けたアイドルポップ史上に残る名曲。記憶に残るクールなサウンドと洗練されたメロディー&ボーカルは、派手さよりもじっくりと聴かせることを重視した通好みの職人芸である。   
②は同じエイベックスでかつて活動していたアイドルグループ「SweetS」の名曲のカバーで、東京女子流版ではアレンジがシティポップやフュージョンのような洒落たサウンドとなっており、原曲とはまた違った魅力がある。
③は凄まじくカッコいいサウンドとリズムのアイドルファンクの大傑作。⑥もスピード感あるファンクで、10代特有の勢いと熱量に胸が突き動かされる。当時中学生であったメンバーの大人びた魅力が感じられるダンスポップは爽快感抜群だ。               
⑦はNHKのTVアニメ『はなかっぱ』にタイアップされて、東京女子流の名を世間に知らしめた代表曲のひとつ。子供から大人まで踊り出してしまうようなキャッチーなリズムとダンス、可愛らしさとカッコよさが同居する絶妙なバランスの楽曲は、アイドルポップアンセムとなり多くの人に愛されている。
⑪はデビュー曲のアルバムヴァージョンで、イノセンスに溢れた旋律が真っ直ぐと心に響いてくる。

シティポップ的なサウンドのカッコよさ、音楽好きを唸らせるコード進行やメロディー、メンバーのボーカルスキルの高さと三拍子揃ったアルバムで、まさに楽曲派アイドルというにふさわしい名盤である。

BedHead|BELLRING少女ハート 

2013/8/10 クリムゾン印刷

1.World World World
2.the Edge of Goodbye
3.D.S.P ~だいすぴッ~
4.ボクらのWednesday
5.Shout!!!
6.ライスとチューニング
7.夏のアッチェレランド
8.Pleasure ~秘密の言葉~
9.サーカス&恋愛相談
10.yOUらり
11.BedHead
12.ダーリン
13.アイスクリーム
14.Teck Teck Walk
15.WIDE MIND

「BELLRING少女ハート」は、黒いセーラー服に黒い羽の衣装でステージを縦横無尽に駆け回るパフォーマンスで、地下アイドルシーンでは『東京最狂』と呼ばれたアイドルグループである。
60年代ガレージロックやサイケデリックロックからプログレとニッチな音楽要素を取り込んだ異質なアイドルポップは当時音楽シーンに衝撃を与えた。本作はそんなBELLRING少女ハートの2013年にリリースされた1stアルバム。メインソングライターはタニヤマヒロアキや田中紘治など。

完成度が高い刺激的な楽曲とは裏腹に、メンバーのボーカルはお世辞にも上手いとは言えなかったが、少女達のヘロヘロなボーカルにはサイケ感があり、サウンドとの相乗効果で何回も聴いてしまう中毒性がある。                 マニアックなこだわりを感じる音作りがとにかく面白くて、1960年代ガレージロックサウンドでぶち上げる②はロックンロールの初期衝動に満ちており、問答無用のアイドルロックの名曲と言えるだろう。歌謡曲っぽい④は懐かしさを感じるメロディーと可愛らしいボーカルがクセになる。
⑥は無気力ラップが逆にインパクトを残し、音楽の未体験ゾーンに突入するような新鮮さがある。幻覚が見えてきそうな⑩や⑪はまさにサイケデリックロックとしか言いようがない。ボーカルは素人の下手くそな歌といえばそれまでだが、サイケデリックサウンドとの組み合わせは音楽的化学反応を起こし、新鮮な魅力がある。
⑬はゴシックでプログレな退廃的世界観に飲み込まれるダークな歌謡ロック。終盤の演奏もカオティックで良い。
他にも⑦のような意外な王道アイドルポップもあり良いアクセントになっている。

BELLRING少女ハートは聴く物に得体の知れない世界に引っ張り取り込んでくれる希有なアイドルグループであり、本作は地下アイドル史上に残る名盤である。

YOUTOPIA|ゆるめるモ!

2017/11/29  YOU’LL RECORDS

1. 歩くの遅い犬
2. 逃げない!!
3. ミュージック 3、4 分で終わっちまうよね
4. モイモイ
5. しんぼりくむ れすぽんす する
6. You とピアザ
7. サマーボカン(Remastered)
8. やる
9. うんめー
10. あ! 世界は広いすごい
11. ごろごろ物思い
12. ナイトハイキング(Remastered)
13. 永遠の瞬間
14. must 正
15. 天竺

2012年に結成されて以来、プログレッシヴ・チェンバー・ポップ・バンド「箱庭の室内楽」やアンダーグラウンドノイズの帝王「非常階段」といった先鋭的なグループともコラボしてきたニューウェーブアイドルグループ「ゆるめるモ!」の3rdアルバム。
『君だけの楽園』をテーマに、独自の脱力的な雰囲気とキャッチ―なニューウェーブサウンド、キレのある日本語詩のメッセージが聴く物に突き刺さる1枚。

本作ではお馴染みの作家陣に加えて、大森靖子、後藤まりこ、ハヤシヒロユキ(POLYSICS)などが楽曲提供しバラエティに富んだ内容だが、全体通してこのグループの特徴である「ゆるさ」が大きな魅力となっている。
大森靖子節炸裂の⑨や刹那感爆発の後藤まりこによる⑬など聴き所は多いが、注目したいのは本作で11曲の作詞を担当し、このグループの作詞を多く手掛ける「小林愛」の存在である。彼女の作詞は素晴らしく、代表曲のひとつとなった②やメッセージソングの③、脱力感が楽しい④など、彼女独特の日本語詩が楽曲に大きなうねりをもたらし、聴く物に元気を与えてくれる。

日本独自のアイドルロックを確立したと言ってもいい個性的な内容である。親しみやすい脱力的な雰囲気な楽曲と耳に引っかかりを残す歌詞の切れ味は特筆するものがある。

GUSTO|Especia 

2014/5/28 つばさレコーズ

1.Intro
2.BayBlues
3.FOOLISH
4.アバンチュールは銀色に(GUSTO Ver)
5.Mount Up
6.BEHIND YOU
7.嘘つきなアネラ
8.Intermission
9.No1 Sweeper
10.L’elisir d’amore
11.海辺のサティ(PellyColo Remix)
12.ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)
13.くるかな
14.アビス
15.YA・ME・TE!(GUSTO Ver)
16.Outro

2012~2017年に渡り活動していた大阪/堀江系ガールズグループ「Especia」。本作は2014年にインディーズからリリースされた1stフルアルバムである。

期間限定の合体ユニットを結成するなどの交流があった新潟の「Negicco」と同じくローカルアイドルのアーバンポップ路線を代表する存在であり、シティポップやファンクを取り込んだ懐かしくも新しいアイドルポップは、当時の音楽シーンに少なからず衝撃を与えている。
またMVの演出やメンバーのファッションも含め2010年代初頭に生まれた音楽ジャンル『ヴェイパーウェイヴ』からの影響を強く感じさせる。サウンドプロデューサーは「BIS」のNerveを編曲したSchtein & Longer。

MVも特徴的だった本作のリードトラックとなるアイドルファンクの大名曲⑨は特に素晴らしい。踊りたくなるような気分をアゲアゲにしてくれるアッパーな曲だが、アイドル特有のどこか儚さや刹那感が漂う質感はまさに唯一無二だ。個人的にはアイドルポップの長い歴史の中でも至高の1曲である。
80年代UKニューウェーブバンド「Tears For Fears」からの影響を感じさせるシンセサウンドの⑬は、初めて聴いても昔から知っているような懐かしさがあり、メロディーラインと初々しいボーカルに夢見心地になってしまう中毒性がある。
心に迫ってくる旋律の⑤やikkubaru作曲の雰囲気抜群のジャジーで切ない⑭、SAWAが提供した希有なガールズポップのユーロビートアレンジである⑫、松隅ケンタが提供したやさぐれ感がある⑮などとにかく捨て曲なし。2010年代のアイドルポップを代表する名盤である。

WORLD’S END|lyrical school 

2018/6/19 BootRock

1. -PRIVATE SPACE-
2. つれてってよ
3. 消える惑星
4. High5
5. 夏休みのBABY
6. 常夏(ナッツ)リターン
7. オレンジ
8. CALL ME TIGHT
9. Play It Cool
10. DANCE WITH YOU
11. Hey!Adamski!
12. WORLD’S END

ヒップホップアイドルグループ「lyrical school」が5人体制となってから初となるフルアルバム。前身の「tengal6」も含め10年以上のキャリアを誇り、時期によりメンバーが異なるが、本作は代表的なアルバムのひとつといっていいだろう。
音楽的にはよくある男勝りの女子ラップや文科系女子ラップとは異なり、純然たるアイドルラップを確立しており、ラップはすごくキュートかつテクニカルである。メロディアスな旋律とセンスの良いトラックも聴いていて心地良い。

非常に完成度が高いアルバムだが、アイドルラップの金字塔と言っていいのが、名曲②である。切れ味抜群の耳に引っかかるリリックとスキルある女の子達のフロウは素晴らしくて、ほぼパーフェクトな出来であると思う。③もキャッチーで親しみやすいとても良い曲。
⑤とスチャダラパー提供の⑥は夏がテーマのオシャレで爽やかな曲で胸がドキドキさせられる。アルバムタイトル曲⑫はアルバムの最後を飾るに相応しい力作で感動的だ。

メンバーの卓越したラップスキルとセンスの塊のような楽曲は、まさに楽曲派アイドルポップというに相応しい。アイドル好き以外も必聴の傑作アルバムだ。

「             」|・・・・・・・・・

2018/1/12  TRASH-UP!! RECORDS

1. ねぇ
2. きみにおちるよる
3. トリニティダイブ
4. ソーダフロート気分
5. 文学少女
6. 星屑フィードバック
7. サイダー
8. サテライト
9. スライド
10. 1998-

「・・・・・・・・・」は2016年に結成されたシューゲイザーアイドルグループ。グループ名は様々な呼び方がありdotstokyoという呼称が有名か。顔は全員バイザーで隠し、名前は全メンバー「・」。アイドルを記号的に表現しようとしたグループで、これは1stフルアルバムとなる。楽曲プロデュースはみきれちゃん。

音楽性はそれまでアイドルではあまり取り上げられることがなかったシューゲイザーやエモコアからの影響が強いギターロックで、インディーロックのアイドル版といえるだろう。
曲の質感は1980年代の初期NAV KATZEにも通じるものがある。
本作の良さはサウンドの抜けの良さとポップセンス溢れる楽曲に尽きる。ノイジーなロックサウンドだが、フックのあるメロディーと明確な歌詞を真っ直ぐに歌うメンバーのボーカルはアイドルポップとして優れていると言える。

冒頭を飾る①はドラマチックに刹那感と儚さが押し寄せる圧巻の曲で、アイドルポップとシューゲイザーが見事に融合した名曲である。
②はキャッチ―な疾走する王道アイドルポップで、とにかくサウンドに切れがあり良い。③はダンサブルなリズムとノイズギターがカッコいい。
疾走感ある青春ロック⑧はサウンドプロダクションが素晴らしくて、アイドル系のギターロックでは最高峰の出来といえるだろう。
⑨はFor Tracy Hydeの管梓が提供しており、繊細なギターの音色が印象的な切なさ爆発の名曲。⑩はタイトル通り、1990年代のオルタナティブロックのアイドル的解釈といった感じだ。

曲の良さはもちろんのこと、サウンドのバランスや録音が素晴らしくて、音に力強さとメリハリがある。2010年代地下アイドルの中でも屈指の名盤と言っていいだろう。

cocoon ep|sora tob sakana 

2017/4/11 FUJIYAMA PROJECT JAPAN

1. ribbon
2. タイムマシンにさよなら
3. 夢の盗賊
4. tokyo sinewave
5. 透明な怪物
6. 夜間飛行

ポストロック系バンド「ハイスイノナサ」の照井順政が音楽プロデュースするアイドルグーループ「sora tob sakana」の2017年リリース6曲入りのEP。

1stアルバム収録の『広告の街』のようにDon Caballero~ Battlesに代表される幾何学的な変拍子を用いるマスロックやエレクトロニカからの影響が強いサウンド構築だが、そこにメンバーの瑞々しい無垢なボーカルが乗り、儚さやセンチメンタルな躍動感を感じる仕上がりとなっている。音楽オタクに向けたようなニッチな音楽性だが、基本はアイドルポップなので楽曲はキャッチ―で敷居は高くない。

冒頭を飾る①はテンポが速くトリッキーなプログレ要素も含む名曲。ドラムとベースの暴れっぷりが印象に残るが、変則的な構成でもメロディーがキャッチ―なのはさすが。
シンセサイザーでぐいぐい盛り上げるスピード間溢れる②はニューウェーブエレポップ感もある傑作。
③はラフなオルタナティブロックサウンドと美しいハーモニー&メロディーが見事に調和しておりノスタルジックな気持ちにさせてくれる。
ラスト⑥はデビューシングル『夜空を全部』にも通じる疾走感溢れる楽曲で、ピュアな歌声がいつまでも心に残る。

幼さを残す歌声は好き嫌いもあると思うが、楽曲の完成度は非常にハイレベルで、アイドルポップの進化系としてひとつの形を示した重要グループであった。

BPM15Q all songs|BPM15Q 

2016/11/23 イチゴスタイル

1. BPM15Q!
2.ドキドキパリラルラ
3.すれ違い僕と君の通信
4.はくちゅーむ
5.HANNARI
6.カタオモイワズライ
7.コクハクワープ
8.GOOD LUCK
9.ごーしゅー!

元BISの『苺りなはむ』と自撮り美少女で有名な『にかもきゅ』からなるアイドルユニット「BPM15Q」の2016年リリースのフルアルバム。

楽曲提供はトラックメイカーとして有名なYunomiが行っており、EDMやFuture Bassを基調としたキュートなエレクトロアイドルポップが楽しめる。メリハリのある力強い打ち込みサウンドは爽快感があり、ボーカロイド風のボーカル処理やメンバーによる個性的な詩の世界観も含めてトリップ感が強い内容だ。

和風のリズムやメロディーと舌足らずなボーカルが、日本独自の文化である【Kawaii(カワイイ)】を見事に体現している名曲④を筆頭に粒ぞろいの曲が収録されている。
何度を聴いてしまう魅力があるキッチュなエレクトロサウンドの①、ゆるい可愛らしさに心が和みほっこりする②、ロマンティックなSF感が可愛い③、相対性理論のミスパラレルワールドに並ぶ?パラレルソングの⑦、切なさが溢れる⑧などなど。

Yunomiの楽曲の素晴らしさはもちろんのこと、二人の作詞やボーカルも優秀である。アルバムトータルとしてひとつの物語を奏でている傑作アルバムだ。

Negative|EMOE 

2020/9/8 

1. Victim (Intro)
2. Victim (Re-rec. Vocal Version)
3. 予防接種のすゝめ
4. レラリンルンリンラン (Intro)
5. レラリンルンリンラン
6. 季節を背に
7. Scar (Intro)
8 .Scar
9. 燃える夜
10. To Be Free

『エモ』と『萌え』の化学反応をコンセプトにしているアイドルグループ「EMOE」の1stフルアルバム。楽曲派をキャッチコピーにしており、ヒップホップやシティポップを取り入れたエモーショナルなアイドルポップである。これまでに発表してきたシングルがすべて収録されたこの時点でのベスト盤的内容であり、聴きごたえたっぷり。

②はイントロから徐々に盛り上がっていき、サビでエモーショナルさが爆発するドラマチックなエレクトロポップ。⑤は切ないメロディーとラップが心に響く、洗練された都会的な質感の名曲である。⑥はシティポップ系のオシャレサウンドが心地良くて、J-POPとしても良質なナンバー。⑩はピアノのイントロから始まる美しいバラード曲で、疲れた心を癒してくれる。

自ら楽曲派を名乗るだけあって、とにかく曲が良い。地下アイドルの魅力は現場に会いに行ってこそという風潮があるが、本作は音楽を聴くのみでも充分に満足感が得られることを示した傑作アルバムである。

Herz uber Kopf|Hauptharmonie 

2016/7/12 箱レコォズ

1.BUDDY
2.Kidnapper Blues~人攫いの憂鬱~
3.パラレルワープ
4.LAST CHANCE(幸福の妨げ)
5.Alice in Abyss
6.yearning(erneutes)
7.トゥー・スウィート・トゥー・リブ
8.きらり
9.シャンパンゴールド・トワイライト・ラグゼ(erneutes)
10.Old Gaffer’s Confession
11.almsgiving
12.assuage his disappointment
13.レディ・ファーイースト(極東淑女)(erneutes)
14.ソプラノ・オーバードライブ
15.春夏秋冬
16.国王

「Hauptharmonie」は2014年から2017年まで活動していた地下アイドルグループで、本作は2枚目となるフルアルバム。楽曲プロデュースはあーりーしゃん(O-ant)。UKロック、ギターポップ、ジャズ、ポストロックなどを取り込んだ、粗削りなアイドルロックは生々しい魅力があり独自の存在感を放っている。

冒頭①はやさぐれ感が凄いロックで、ボーカルも自由自在というかやけっぱちな感じだ。続く凄まじい勢いのジャズロック②は、力強いサックスがうなりを上げる名曲。この曲は地下アイドル(インディーズ)にしか表現できないものが詰まっていて最高である。
③はタイトル通りSF世界観の曲で、煌びやかなメロディーが心に沁みる。④は昭和歌謡な歌メロとサックスでレトロな気分が味わえる。⑩は疾走感溢れるスカナンバー。
⑫はポストロック/エモコアな質感のドラマチックで切ないナンバー。これも素晴らしい曲で、有り体に言えばアイドルの枠を越えている。
⑭は煌びやかなサウンドが心地良い1980年代っぽい爽快なポップナンバーで良い出来だ。

ニッチな音楽要素を上手く取り込み、個性のあるアイドルポップとして完成している。また独自のアングラ感覚も面白さがありクセになる魅力がある。2010年代の地下アイドルグループの中でも音楽性はトップクラスのクオリティであった。

It’s A SAKA-SAMA World|SAKA-SAMA 

2018/11/14 TRASH-UP!! RECORDS

1. 終わりから
2. 寿司でぃ・ないと・ふぃーばー!!
3. デジタルリレーション
4. 光と陽炎(Bye Bye Bye)
5. RISE
6. 物語はいつも
7. 可能性
8. パルピテーション・パルプフィクション
9. マサカサカサマ
10. 聴こえる
11. tetsubou
12. 世界
13. 朝日のようにさわやかに

2016年に結成されたLo-Fiドリームポップアイドル「SAKA-SAMA」の1stフルアルバム。

キャッチコピー通リドリームポップ/シューゲイザーな楽曲もあるが、シティポップやヒップホップなど多彩な音楽要素を取り込んでおり、バラエティに富んだアイドルポップを聴かせてくれる。
プロデュースはTRASH-UP!! RECORDSで同レーベルからリリースされた「・・・・・・・・・」(dotstokyo)の「 」と並んでアンダーグラウンドなアイドルロックを象徴するアルバムと言えるだろう。

冒頭を飾るアイドルドリームポップの金字塔といえる名曲①は、シングル盤では繊細なギターの音色が印象的な儚さや刹那感を感じる出来だったが、本作ではメンバー増員により再録されており、ギターが力強い音色で、始まりを告げるような爽快感溢れるサウンドとなっている。同じくドリームポップ/シューゲイザー路線の⑦や⑩はギターロックとして優秀なエモーショナルな楽曲だ。②はユーモラスなヒップホップダンスチューンで、意外性があるが、楽曲の完成度は非常に高い。
渋谷系っぽいオシャレポップの③は中毒性が強い楽曲で、メンバーのカラオケ的な上手さではない、素人っぽい等身大の可愛らしい歌声が楽しめる。他にもみんなのうたのような⑪やグループアンセムいえそうなデジタルサウンドの⑬などとにかく佳曲揃い。

音楽的に何でもありとなった2010年代のアイドルポップシーンを象徴する充実した内容の1枚だ。

magic hour|tipToe. 

2018/3/28 6jomaproject

1. 特別じゃない私の物語
2. ひとりごと
3. ハッピーフレーバー
4. ビギナー
5. 僕たちは息をする
6. クリームソーダのゆううつ
7. ハートビート
8. かすみ草の花束を
9. 夢日和

tipToe. (ティップトウ)は「みんなで青春しませんか?」をコンセプトに2016年に活動を始めたアイドルグループで、本作は2018年にリリースした1stフルアルバムとなる。

メンバーは3年任期となっており、必ず入れ替えが行われるというルールがあり、アイドルの瞬間の煌めきや儚さに胸がキュンとなる青春ポップだ。メインソングライターはボカロPとして有名な瀬名航。

Capsuleなどの渋谷系ポップからの影響も感じさせ、初々しさ溢れるボーカルなど、青春のキラキラ感が存分楽しめる1枚となっている。
シンセサイザーの音色が印象的なタイトルも秀逸な①は、王道的なアイドルギターポップで、清涼感と等身大の真っ直ぐさが胸に刺さる1曲。
渋谷系サウンドのキャッチ―な⑨はキュートな歌に胸躍るアイドルポップの名曲だ。
他にもエレクトロポップの⑥やアンセムといえそうなエモーショナルな⑧など捨て曲なしで素晴らしい。

①のタイトル通り普通の女の子がアイドルとして踏み出す決意や勇気といった未完成な魅力が良質な楽曲とシンクロしているのが魅力的で、多くの人に聴いて欲しい傑作アルバムである。

CLARITY|PassCode 

2019/4/3 Universal Music =music=

1. PROJECTION
2. DIVE INTO THE LIGHT
3. Ray
4. 4
5. Taking you out
6. THE DAY WITH NOTHING
7. horoscope
8. It’s you
9. In the Rain
10. TRICKSTER
11. Tonight
12. WILL
13. 一か八か -Bonus Track-

ラウドロック系アイドルグループ「PassCode」のメジャーデビュー後2枚目となるフルアルバム。

音楽プロデューサーの平地孝次が手掛けるラウドロックとEDMを掛け合わせたエレクトロニコア/ピコリーモはアイドルシーンに新しい旋風を巻き起こした。完全にロックバンド+アイドルといった質感で、メンバーの今田夢菜が繰り出す激烈なデスボイスとシャウトが大きな魅力のひとつとなっている。

冒頭①からヘビィなギターが唸りを上げて疾走し爽快感抜群。曲調はメロコア風でウルトラキャッチーだ。②も同様に凄まじい勢いで爆走し、エレクトロサウンドのリズムがクセになる。
⑤はPassCode真骨頂といえるキャッチーなリズムのヘビィサウンドと、デスボイスとクリーンボイスが交差する怒涛の突進が圧巻である。
③はPassCodeを代表する名曲のひとつで、とにかくメロディーが良い。このグループは問答無用に重厚なサウンドで圧力をかける楽曲を得意としているが、これはポップソングとしても優れており、メッセージ性の強い歌詞も含めて白眉のナンバーである。
⑦はミドルテンポの聴かせるナンバーで、サビの切ないメロディーの歌唱は王道アイドルポップで意外性がありとても良い。⑩はストレートなぶち上げ電子ロックで高揚感が得られるこれまたいい曲だ。

ハイテンションでキャッチーなリズムのロックが満載のアルバムで、聴けば爽快感が得られるだろう。サウンドは細部にこだわりを感じるアレンジがあり、音楽作品としての完成度は非常に高い1枚だ。

Brand-new idol SHiT|BiSH 

2015/5/27 SUB TRAX

1. スパーク
2. BiSH-星が瞬く夜に
3. MONSTERS
4. Is this call??
5. サラバかな
6. SCHOOL GIRLS,BANG BANG
7. DA DANCE!!
8. TOUMIN SHOJO
9. ぴらぴろ
10. Lonely girl
11. HUG ME
12. カラダ・イデオロギー
13. Story Brighter

BiS(第一期)解散後にプロデューサーであった渡辺淳之介が「BiSをもう一度始める」宣言し、活動をスタートしたBiSHのデビューアルバム。
「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチーコピー通り、サウンドプロデューサーの松隈ケンタが手掛けるラフなロックサウンドのパンキッシュな楽曲が特徴的である。

BiSHの始まりを告げた①はロックバンドeastern youthからの影響を感じさせる、熱いロックスピリットに溢れるナンバー。この曲独自のエモーショナルさは心地良さとクセになる中毒性がある。代表曲のひとつ②はメロディアスなギターとシンガロングスタイルの歌が心を震わせるアイドルロックアンセム。③は重厚なサウンドのハードな曲だが、しっかりとキャッチーさもあり。④はミドルテンポの切なさが爆発するエモロック。
⑤は切実に心に響くメロディーとメンバーの歌唱が素晴らしい、アイドルポップ史上に残る名曲である。人生で心が折れそうになったときにそっと傍に寄り添ってくれるような優しさがある。
⑥はBiSHのチャーミングな一面が垣間見れる可愛らしいナンバー。ラストを飾る⑬はギミックなしのストレートなメッセージロックで清々しい。

後に大ブレイクするBiSHだが、脱退したメンバーも含むこの作品はまさに原点といえる内容で、荒削りな初期衝動を感じる傑作アルバムである。

ユモレスキ|ヤなことそっとミュート 

2019/10/23 クリムゾン印刷

1.Pstureland
2.uronos
3.BLUE
4.Nostalgia
5.Stain
6.Westminster Chime
7.Whirlpool swirls
8.ワンダーゲート
9.ぼくらのちいさな地図

「ヤなことそっとミュート」はオルタナティブロックを歌う4人組のアイドルグループで、本作は配信限定で発売した3部作EPをすべて収録した編集盤である。

作曲家のタニヤマヒロアキを含むチームDCG ENTERTAINMENTがプロデュースを行っている。グランジ、シューゲイザー、エモなどの1990年代に全盛を誇ったオルタナティブロックサウンドと切ないメロディーに感情を込めて歌い上げるメンバーのボーカルがエモーショナルな波を起こす楽曲は、アイドルの枠に留まらずロック好きにも支持が得られそうだ。

①は歪んだギターが唸りを上げて爽快感があり、センチメンタルなメロディーと透明感ある歌声が心に沁みる。④は印象的なギターリフとサビの美しいメロディーを力強く歌い上げるボーカルに心揺らされる。
⑤は切なさ爆発のスローなギターロックで、まさに【エモ】を体現している。⑥はシンフォニックなサウンドと熱唱するボーカルが絶妙に絡みあう感動的なナンバー。
⑨は憂鬱や葛藤を受け入れて前を向くポジティブなメッセージにパワーを貰える名曲。展開は難解さもあるがキャッチーにまとまっているのが素晴らしい。

ロック系アイドルグループの中でもこれだけ切ない系の楽曲で押すタイプはあまりおらず、感情を乗せたメンバーの熱い歌唱も大きな魅力となっている。アイドルの儚さが切ないロックと上手くリンクしている1枚だ。

タブラチュア|CYNHN 

2019/6/26 テイチクエンタテイント

1. ラルゴ
2. FINALegend
3. トゥインクルスター
4. 絶交郷愁
5, 甘党センセーション
6. リンク to アクセス
7. 雨色ホログラム
8. アンフィグラフィティ
9. 空気とインク
10. wire
11. タキサイキア
12. So Young
13. はりぼて
14. Pray for Blue

2017年にデビューしたディアステージ所属のアイドルグループ「CYNHN」(スウィーニー)の1stアルバム。「CYNHN」は青色という意味でビジュアルや曲の世界観は青をテーマにしたものが多い。メインソングライターは「ClariS」や「LiSA」などのアニメタイアップ曲を手掛けている渡辺翔。「でんぱ組.inc」や「バンドじゃないもん!」などで知られるディアステージのアイドルグループとしては異色の路線で、メンバーの真っ直ぐな歌声とサウンドの輪郭がはっきりとした力強い楽曲は洗練された硬派なアイドルロックである。

アルバムリードトラックの①は、キャッチーなリズムのメッセージ性の強い楽曲で、メンバーひとりひとりのボーカルがエモーショナルに響く名曲である。間奏ではクラシック音楽からの引用もあり、ドラマチックな盛り上がりを聴かせてくれる。②はチャーミングにはっちゃけるアイドルらしい楽しいナンバー。⑤はステップ踏むような胸躍らせるキュートな曲。⑨はJ-POPとしても優秀なホロっとくる切ないナンバー。⑪は気分をアゲてくれるカッコいいガールズロック。
⑬は葛藤や憂鬱を吹き飛ばして前に進もうとするポジティブな姿勢が伝わるCYNHNのアンセムと言えそうな傑作。

アイドルという枠には囚われない楽曲の良さがあり、聴き手を限定していない傑作アルバムである。シングル曲とアルバム曲との並びに違和感はなく、トータルで良く出来ている好盤。

ALICE|MIGMA SHELTER

2020/8/26 AqbiRec

1. In Wonderland
2. Rabiddo
3. Drops
4. Egg Head
5. Y
6. It doesn’t matter
7. Unbirthday
8. Road
9. QUEEN
10. My Wonderland

音楽事務所AqbiRecが「BELLRING少女ハート」に続いて送り出したアイドルグループ「MIGMA SHELTER」の初となるフルアルバム。

サウンドプロデューサーはヤなことそっとミュートの仕事で知られるタニヤマヒロアキ。グループのキャッチーコピー通り重厚なサイケデリックトランスで踊れる高揚感が得られる曲が特徴的である。また基本はトランステクノであるが、ラテンなど様々な音楽要素があり、プログレッシブな曲展開やロック的な衝動性や攻撃性が感じられるものも多い。本作はタイトルから分かるように不思議の国のアリスをコンセプトにしており、幻想的な物語性が強い内容となっている。

ジャズとトランスが交差するクールで刺激的な③は、これぞ楽曲派アイドルポップという感じだ。陽気な雰囲気が逆に怖い④、軽快だが変則的なリズムの⑤、異国情緒溢れる⑦など、かなりプログレッシブな仕上がりである。
ドラマチックかつシンフォニックな盛り上がりを見せる⑧⑨は、アルバムの核となる重要ナンバー。切なさ爆発するメロディー&ボーカルと怒涛のように押し寄せるトランスサウンドは圧巻の一言。

アイドルポップによくあるデジタルサウンドものとは一線を画している内容で、「MIGMA SHELTER」の問答無用のかっこよさと奇妙な世界観が楽しめる傑作アルバムだ。

Pink|RAY

2020/5/22 Distorted Records

1.Fading Lights
2.バタフライエフェクト
3.世界の終わりは君とふたりで
4.Blue Monday
5.ネモフィラ
6.Meteor
7.尊しあなたのすべてを
8.星に願いを
9.no title
10.GENERATION
11.シルエット
12.オールニードイズラブ
13.スライド
14.サテライト

シューゲイザーとアイドルポップを融合させた先鋭性で注目を集めたアイドルグループ「・・・・・・・・・」解散後、その運営チームと元メンバーが2019年に始動させた「RAY」の1stアルバム。

「・・・・・・・・・」の流れを組んでいるシューゲイザーを基調としたギターロックで、For Tracy Hydeの菅梓、cruyff in the bedroomのハタユウスケ、Ringo DeathstarrのElliott Frazierなど日本とアメリカのシューゲイザーバンドのメンバーが楽曲を提供している。「・・・・・・・・・」の楽曲も収録されており、プロデュースは同じみきれちゃん。アイドルシューゲイザーとしては最高峰の1枚だ。

For Tracy Hydeの菅梓による①は王道シューゲイザーナンバーで、光が射しこむような透明感あるギターの轟音とイノセンスを感じるボーカル&メロディーが素晴らしい。
②はMy Bloody Valentine直系の轟音ギターとフックのあるメロディーが絶妙な味わいで、まさにシューゲイザーとアイドルポップが組み合わさったといえる名曲。
③はサビでのメロディーの切なさが記憶に残るエモーショナルなナンバー。このメロディーラインはポップソングとしても優秀である。
⑥はRingo DeathstarrのElliott Frazierが作編曲しており、ほぼ彼らのいつものシューゲイザー楽曲をRAYメンバーが歌唱している感じだが、サウンドや曲調は文句なしにカッコいい。
cruyff in the bedroomのハタユウスケが提供した⑦は幽玄な雰囲気と浮遊感に引き込まれるナンバー。
⑬と⑭は「・・・・・・・・・」の名曲を「RAY」で新たにリメイクしたもの。サウンドも新録なので原曲とは違った新鮮な魅力がある。

シューゲイザー×アイドルという音楽好きに向けたある意味ニッチなジャンルではあるが、本格的に良いものをつくろうとする制作陣の熱量が伝わってくる傑作アルバムだ。

ファルセット|RYUTist 

2020/7/14 PENGUIN DISC

1. GIRLS
2. ALIVE
3. きっと、はじまりの季節
4. ナイスポーズ
5. 好きだよ・・・
6. センシティブサイン
7. 絶対に絶対に絶対にGO!
8. 青空シグナル
9. 時間だよ
10. 無重力ファンタジア
11. 春にゆびきり
12. 黄昏のダイアリー

新潟のローカルアイドルグループ「RYUTist」の4枚目となるフルアルバム。沖井礼二(元Cymbals) 、北川勝利(ROUND TABLE)、柴田聡子、蓮沼執太、ikkubaruなどの豪華作家陣による良質な楽曲とメンバーの美しいハーモニーは、アイドルポップの枠に留まらない普遍的な輝きを持っており、J-POPの名盤と言っていい出来だ。

蓮沼執太が提供した②は管楽器等を用いた現代音楽的なサウンドと複雑な曲構成に驚かされるが、その挑戦的なサウンドと美しいメロディー、ハーモニーが絶妙に調和している名曲である。ここまでスッと心に入ってくるアイドル曲も珍しい。
柴田聡子による④はウキウキな気分になれるキュートなナンバー。シンリズムが提供した⑥は王道青春アイドルポップに胸キュンという感じで、センスのあるメロディーラインと真っ直ぐな歌声は心に響く。
⑧は沖井礼二節炸裂の渋谷系ガールズポップの傑作ナンバーで、疾走感ある力強いバンドサウンドは圧巻の一言。⑩はikkubaruによる雰囲気抜群のオシャレで幻想的なシティポップナンバー。
ラストを飾る⑫はRYUTistのメンバーと楽曲を手掛けた清浦夏実、沖井礼二、北川勝利の多彩な才能がひとつに結び付いたアイドルポップ史上に残る名曲だ。

とにかく曲の良さは特筆すべきものがあり、サウンドやボーカルもほぼパーフェクトな出来といえる希有なアルバムである。渋谷系やシティポップなどが好きなら必聴の1枚だ。

むだい|代代代 

2018/10/24 DEMON TAPES

1. クラウスイハ
2. 凶ぺ
3. ZZアリン
4. TENPENCHii!!
5. インター流動
6. 血湧き肉DANCE
7. 歪んだ歪み、歪んだ歪み
8. ワールドワイドハピネス

2016年に大阪で結成されたアイドルグループ「代代代」の2枚目となるミニアルバム。ブレイクコア、ハードコアテクノ、インダストリアルなどをごちゃ混ぜにしたようなソリッドでカオティックな異質なアイドルポップである。Nine Inch Nailsからの影響も大きいサウンド構築はかなり意欲的。

6分を越える疾走感溢れる重厚なテクノサウンドの①、実験的な曲構成と激烈なエレクトロサウンドの②、アイドルの曲とは思えないバキバキで切れ味抜群のインダストリアル曲③など、基本的に売れることが目標とされるアイドルポップではあまり例がないメーターの振り切り方だ。
注目はこのグループにしてはストレートなサウンドとキャッチーなメロディーの名曲⑧の存在だ。明るくアッパーな曲調とは裏腹に哲学的な歌詞が印象的で、究極の自己完結というか、マイノリティなオタク心に沁みるアンセムといった感じだ。

説明なしに一聴するとアイドルとは思わない人も多いかも知れない、本格派楽曲派アイドルポップであり、音楽的に刺激的なものを作っていると思う。

BRICKS|There There Theres 

2018/12/12 AqbiRec 

1. Primitive Drain
2. ペリカン
3. NYLON FLAMINGO
4. dignity
5. IKENIE
6. スナッキー
7. There’s something behind
8. SOIL
9. JUKAI
10. 白昼夢
11. STOP
12. RadicalHead
13. Upstairs down
14. Burnable Garbage
15.クロノメサイア
16. Sunrise=Sunset
17. メタリクス

黒いセーラー服に黒い羽をつけた衣装で、サイケデリックロックなど興味深い楽曲をパフォーマンスしていた「BELLRING少女ハート」の2016年『崩壊』後に結成された後継グループ「There There Theres」。本作はそんな彼女達の2018年にリリースされた1stアルバムである。

田中紘治やタニヤマヒロアキといったお馴染み作家陣による二ューウェーブ/ポストパンクからテクノまで幅広いジャンルを取り込んだ音楽性はアイドルの枠を超えており非常に聴き応えがある。

バウハウスなどのゴシックロック/ポジティブパンクかと思えるようなサウンドの②は名曲で、歪んだベースとサビのペリカンという言葉の連呼が頭にこびりついて離れない。
チェンバーロックのような音作りとダークな世界観が圧巻の⑦、ジョイディヴィジョンを思わせるポストパンク系の実験的なロックサウンドでヒリヒリとした切迫感が凄い⑧など、これらをアイドルの音楽作品として出してくることは中々挑戦的。他にはギターがかっこいいストレートなロック⑥や4つ打ちのテクノポップ⑮やアンダーワールドからの影響を感じる⑯などの聴きやすい良曲もありバラエティに富んでいる。

楽曲派アイドルという言葉があるが、まさに本作に相応しい呼称であり、2010年代のアイドルグループ戦国時代の隠れた名盤のひとつである。

WWDD|でんぱ組.inc 

2015/2/18 トイズファクトリー

1. でんぱな世界 ~It’s a dempa world~
2. でんぱーりーナイト
3. ダンス ダンス ダンス
4. NEO JAPONISM
5. FD2 ~レゾンデートル大冒険~
6. ちゅるりちゅるりら
7. まもなく、でんぱ組.incが離陸致します□
8. Dear☆Stageへようこそ□
9. バリ3共和国
10. ファンシーほっぺ□ウ・フ・フ
11. 檸檬色
12. ブランニューワールド
13. イロドリセカイ
14. サクラあっぱれーしょん

2010年代のアイドルポップシーンを代表する「でんぱ組.inc」が絶頂期にリリースした3枚目となるフルアルバム。【大冒険】を全体のテーマとしており、でんぱ組の真骨頂である電波ソングのアイドルポップ解釈といえる頭のネジが飛んだようなダンサブルなナンバーに加えて、これまではなかった聴かせる切ない楽曲も収録しており、音楽的な振り幅が広くなり充実した内容の傑作アルバムだ。

でんぱ組の魅力を最大限に引き出す玉屋2060%が手掛けた楽曲はインパクトがあり、おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドが楽しい①や、アイドルポップ史上に残るダンスナンバー⑭など理性を溶かす問答無用の旋律は圧巻の一言。
前山田健一によるぶっ飛んだ電波ソング⑥や清竜人によるキュートな⑧など豪華作家陣によるバラエティに富んだ楽曲は聴き手を飽きさせない。
またBISの『primal.』にも通じる松隅ケンタによるエモーショナルなロック⑫やアイドルポップバラードのお手本のような⑬などはでんぱ組の新しい魅力を感じさせる楽曲だが、違和感なくでんぱ組の曲として聴けるのはさすがか。

楽曲の質の高さがでんぱ組メンバーのアイドル力というか熱量とシンクロしており、絵に描いたようなアイドルポップの名盤である。

CHECK-IN|ぱすぽ☆ 

2011/12/7 ユニバーサルJ

1. Boarding
2. 少女飛行
3. キス=スキ
4. Hello
5. Street Fighter
6. Turn Round
7. マテリアルGirl
8. ウハエ!
9. Starting Over
10. ViVi夏
11. じゃあね…
12. ハカナ
13. Rock Da Week
14. See You Again
15. 晴れるよ

本作は2009年に結成されたアイドルグループ「ぱすぽ☆」(2013年からはpasspo☆に改名)のメジャー1stアルバムである。

グループのコンセプトは『空』と『旅』で、モチーフはキャビンアテンダント。ペンネとアラビアータ(阿久津健太郎)などの作家陣が手掛ける楽曲は、西海岸がイメージできるアメリカンロック系の爽やかなガールズロックで爽快感抜群。当時チャートを席巻していたAKB48グループとはまったく違う魅力があり、2010年代アイドル戦国時代の中でも良質な楽曲を多数生み出していたグループである。

まず注目はペンネとアラビアータが提供した傑作ガールズロック②③⑦である。メジャーデビューシングル②は女性グループデビューシングル史上初の初登場オリコン1位を獲得したことで知られている。洋楽エッセンスを上手くJ-POPに取り込んだ西海岸を思わせるメロディックなビートは清涼感に溢れており、歌詞やメンバーのハーモニーも素晴らしい名曲。ギターのイントロを聴いただけでいい曲だと分かる③は、パワフルなロックサウンドとキャッチーなリズムが高揚感を与えてくれるパワーポップっぽいロックナンバー。⑦はこれぞガールズロックンロール!と言いたくなるような王道のカッコ良さ。
⑨は大人びた雰囲気の歌唱に引き込まれる傑作。当時チャートでのAKB48との対決も話題になった⑩は、ギターリフが印象的なご機嫌なサマーナンバーで、夏にぴったりの爽快な気分を運んでくれる。⑪はこれもギターが耳に残り、サビでは王道アイドルポップなメロディー&ボーカルに胸が熱くなる。

録音も含めてすべてに非の打ち所がないガールズロックアルバムである。楽曲は完成度はもちろん、メンバーのハーモニーが耳に馴染みやすい声質なのがポイント。今も色褪せない1枚だ。

WORLD WIDE 2010 | SAORI@DESTINY 

2010/04/14 VICTOR JAPAN

1.Re:revolution
2.WORLD WILD 2010
3.エスニック・プラネット・サバイバル
4.I can’t
5.Lonely Lonely Lonely
6.Play
7.BABY tell me
8.ファニー・パレード
9.グロテスク
10.プリズム
11.シンパ
12.Lonely Lonely Lonely (FUNKOT.JP remix)

2007年にデビューしたテクノポップアイドルSAORI@DESTINYの2枚目となるフルアルバム。Perfumeブレイク以降に大量に登場したテクノサウンドを基調したアイドルの一人だが、単なるフォロワーには留まらず、本作ではエスニック・トランス感溢れる独自のエレクトロポップサウンドを確立している。

先行シングルとなった③によく表れているように、サウンドはPerfumeのようなテクノポップとは一味違うものになっており、よりクラブ志向が強いフロア仕様のエレクトロサウンドに病んだ悲観的な歌詞が組み合わさり刺激的なものになっている。彼女のボーカルはクセがなく聴きやすいので聴く物をすんなりとこのダークな世界に取り込んでくれる。サウンドの切迫感が凄い、援助交際をテーマにした歌詞も強烈な⑥、ピアノが印象的なやるせない⑨など聴きどころは多くあり、
特に切なく疾走するアゲアゲのクラブポップ④はエレクトロアイドルポップの中でも屈指の大名曲。

先悦的な音楽性とSAORI@DESTINYのキャラクターが見事に調和している埋もれるには惜しい名盤である。

Prism|amU 

2009/12/15 amU Planet

1. prism
2. love the candy stream
3.「「chat」」
4. 0’00”
5. NEO TRAVERAL
6. キティニッシュ・キッチン
7. DIVER
8. moco
9. LiNK U
10. U&Me The カラフル メリーゴーランド ハッピーエンド!

2008年に大阪で結成された2人組のテクノポップアイドルamUの唯一のフルアルバム。Perfumeブレイク以降に大量に登場したエレクトロサウンドのアイドルポップのひとつだが、楽曲の出来が非常に素晴らしくて、ただのフォロワーでは終わらない、自分たちのオリジナリティが確立されている傑作アルバムである。

②や⑤はいかにも当時流行っていた中田ヤスタカ系のエレクトロガールズポップだが、緻密なサウンド、フックのあるメロディーと期待を裏切らず気持ちよく聴ける。
可愛らしい旋律で胸がときめき、切ない余韻も残す⑧はこのユニットの真骨頂といえる名曲。
⑨は時間、地球、宇宙など壮大のテーマを君と僕の物語として表現した儚いアイドルポップの大名曲。特にこの⑧⑨は埋もれるにはあまりにも惜しい魅力的な楽曲だ。

デジタルサウンドであるが楽曲が伝える情感には地下アイドルやローカルアイドル的な生々しさがあり、心にいつまでも残る優れたアイドルポップだ。

Perfume 〜Complete Best〜|Perfume 

2006/8/2 徳間ジャパンコミュニケーションズ

1. パーフェクトスター・パーフェクトスタイル
2. リニアモーターガール
3. コンピューターシティ
4. エレクトロ・ワールド
5. 引力
6. モノクロームエフェクト
7. ビタミンドロップ
8. スウィートドーナッツ
9. ファンデーション
10. コンピューター ドライビング
11. Perfume
12. wonder2

中田ヤスタカ(CAPSULE)のプロデュースで大ブレイクし、日本の音楽シーンに多大な影響を与えた3人組テクノポップアイドルユニット「Perfume」のメジャー初となるフルアルバム。
それまで発表してきたシングル等を収録したこの時点でのベスト盤的な内容で、初期のPerfume独特の刹那感や儚さを含んだ透明感あるエレクトロポップが心に響く傑作アルバムだ。

メジャーデビュー後に発表してきたシングルの近未来三部作②③④はSF世界観が印象的な当時のPerfumeを象徴するナンバーであろう。
②は中田ヤスタカお得意の渋谷系フューチャーポップな可愛らしいナンバー、③はSF小説のような機械文明と人間性というテーマが面白い曲、④は仮想現実が崩壊する終末世界観がやるせない気持ちにさせる名曲。
他には⑥⑦⑧のようなストレートな可愛らしいアイドルポップもあり。
本作で唯一新曲の①はエモーショナルな旋律が心を叩く、アイドル史上に残る大名曲で、当時のPerfumeの名刺代わりといっていいほどの素晴らしい曲だ。

今ではPerfumeブレイク前のアルバムといった位置付けだが、当時はベスト盤ということもあり、この先グループが続いていくのかも不確定で、その刹那的な空気感が魅力といえる作品である。

うりゃおい!!!|BIS  

2014/7/2  avex trax

1. Give me your love 全部
2. BiS
3. 太陽のじゅもん
4. nerve
5. レリビ
6. My Ixxx
7. primal.
8. IDOL
9. PPCC
10. BiSimulation
11. DiE
12. Fly
13. STUPiG
14. primal.2
15. FiNAL DANCE
16.ただ泣いて(FiNAL ver.)

ソロ・シンガーとして活動していたプールイを中心に2010年に結成され、既存のアイドルのイメージを覆す過激なMVやライブパフォーマンスで伝説となった「BIS 新生アイドル研究会」(第1期)のラストアルバムとなった再録中心のベストアルバム。

破天荒なイメージとは裏腹に楽曲クオリティは高く、サウンドプロデューサー松隈ケンタの才能とBISメンバーの力強いボーカルワークが楽しめる。音楽的にはメロコアやエモコアといったパンクシーンからの影響が強い面があり、初期の名曲の再録である⑥や⑦は叙情的なエモロックで、これをアイドルの楽曲としてリリースしていたことは当時かなり新しいことだった。
BISのテーマ曲である傑作②やアンセムとなったダンスポップ④、上田剛士(THE MAD CAPSULE MARKETS)が手掛けたインダストリアル色が強い⑬など良曲揃い。
ラストシングルとなった⑮は、爽快なメロコア風だがどこか切なさを残すアイドルロックの名曲といえるだろう。BISメンバーが書いた詩はアイドルの作詞のひとつの到達点ともいえ、松隅ケンタの楽曲の中でも屈指の曲のひとつである。

音楽性としてはまさにロックサウンド+アイドルといった感じで、メインボーカルであるプールイとファーストサマーウイカのパワフルな歌唱がぴったり合うガールズロックアルバムである。

MEME TOKYO.|ミームトーキョー

2023/2/8 トイズファクトリー

1.メランコリックサーカス
2.レトロフューチャー
3.モラトリアムアクアリウム
4.リアリティ・ウォー
5.スーサイド ボーダレス
6.アンチサジェスト
7.THE STRUGGLE IS REAL
8.ROAR
9.ニュー・ポスト
10.アニモア
11.OVERNIGHT
12.Sweet Dream
13.リバーズ・エンド
14.メテオ蜃気楼
15.ブルーレター

でんぱ組.incのジュニアユニットとして2019年に結成されたアイドルグループ「ミームトーキョー」の1stフルアルバム。デビューから発表してきた全曲と新録2曲からなるこの時点のベスト盤的な内容である。MVやメンバーのファッションなどのビジュアル面も含め非常にスタイリッシュでキャッチーなガールズポップで、ヒップホップとK-POPと王道アイドルポップを掛け合わせたような曲は一度聴いたら忘れられないインパクトがある。

デビューシングル①によく表れているようにラップリズムはキャッチーで、サビでは王道アイドルポップなフックのあるメロディーを決めてくれるので、音楽的な情報量に関係なく軽快なポップソングとして楽しめるのが魅力的だ。
浅野尚志が作曲/編曲したサビの転調が素晴らしい②はこのグループを代表する名曲。これを聴くとでんぱ組というよりEspeciaのようなヴェイパーウェイヴ系のアイドルポップに近いものがあるように思える。③も①と同路線の佳曲でとにかくアゲアゲである。
アルバム前半にある初期の曲に比べて後半の最近の曲はアイドルっぽい可愛い部分は薄くなり、⑨や⑬などより洗練されたかっこいいガールズ系の曲が多くあり。⑩は白眉な出来の不思議系電子ポップで面白い。

楽曲はどれも覚えやすく完成度も高くかっこいい。爆音で流せばテンションアゲアゲで気持ちよくなれるアイドルとしては正義といえる内容のアルバムである。

王国(静岡盤)|fishbowl 

2023/3/24 payayaam records

1. 開幕
2. 熱波
3. 白線
4. 完食
5. 茶切cute side
6. 半分
7. 茶切dope side
8. 湖月
9. 尻尾
10. 平均
11. 風花
12. 五五 demo track (ボーナストラック)

静岡県のローカルアイドルグループ「fishbowl」の2枚目となるフルアルバム。サウンドプロデューサーは元ふぇのたすのヤマモトショウが手掛けており、シティポップからヒップホップまで取り込んだ、オシャレ感ある楽曲はガールズポップとして非常に完成度高くて聴きごたえあり。前作に続き曲のタイトルはすべて漢字二文字で、静岡県をテーマにした楽曲が収録されている。

②はラップパートありのダンスポップで、スタイリッシュで爽快感抜群の名曲である。これは夏のガールズポップとして印象に残る本当に良い曲だ。④はすべてに非の打ち所がないポップナンバーで、特に細部にこだわったサウンドとメロディーセンスが素晴らしい。
⑥はサッカーのハーフタイムをイメージした曲だそうで、リズムと歌詞がばっちりハマっていてノリノリな気分になれる。⑧は幻想的でロマンティックな曲で、メンバーのボーカルの表現力も素晴らしい。

とにかくヤマモトショウの楽曲センスが良くて、どの曲も普遍的なポップミュージックとして良く出来てきている。またfishbowlのボーカルも好感が持てる雰囲気があり、ハモリの聴き心地がとても良い。

リビングデッド|きのホ。

2023/5/24 古都レコード

1.ゲイン
2.魂リリース
3.リビングデッド
4.片鱗
5.泣きのPOWER
6.反面教師
7.渋滞
8.あなたはそうだろう
9.昔の話
10.DANGER!

京都を拠点として活動するローカルアイドルグループ「きのホ。」の2枚目となるフルアルバム。楽曲は同じ京都発のシンガーソングライター「ハンサムケンヤ」が手掛けており、インディーバンドのような粗削りなラフなロックサウンドと劣等感などネガティブな感情を昇華するキャッチ―な曲はライブ感があり、問答無用に元気が貰えるアイドルロックだ。

冒頭を飾る①はギターの音色がカッコよくて、パワフルに歌い上げるメンバーのボーカルが爽快な気分を運んでくれるロックンロール。
②はシングルでリリースされた曲を現体制メンバーで再録したもの。更にラフな生々しいロックに進化しておりカッコいい。
⑦はリズム、リリックともに切れ味抜群のヒップホップナンバー。終盤のメロディアスなパートで大団円という感じになるのも面白い。
⑧は一緒に歌えそうなメロディーと意味深な哲学的な歌詞が突き刺さる名曲である。こういったマイノリティを肯定するアイドル楽曲は良い。
⑩は王道のガールズポップで、キラキラした魅力に元気が貰えるだろう。

ハンサムケンヤの楽曲はユーモアセンスたっぷりで、とにかく聴いていて面白さがある。またそれを全身全霊で歌い上げるきのホ。のボーカルが上手くマッチしており、唯一無二のアイドルロックとなっている。

NUSEUM|NUANCE 

2022/7/13  Lonesome record

1. ミライサーカス
2. セツナシンドローム
3. sekisyo
4.サーカスの来ない街
5. I know power
6. sky balloon
7. タイムマジックロンリー
8. highlight
9. FlatRat
10. 雨粒
11. きみのてのひら

神奈川県横浜市の商店街の企画イベントから2017年に誕生したアイドルグループ「NUANCE」の1stフルアルバム。新メンバー加入により新体制となり、過去に発表してきたミニアルバムから代表的な10曲を現メンバーで再録して、そこに新曲を加えたベスト盤的な内容のアルバムである。

サウンドディレクターはシンガーソングライターの佐藤嘉風。テクノポップからヒップホップまで取り込んだ多種多様なサウンドと王道アイドルポップから歌謡曲を思わせる歌メロが特徴的で、シティポップ的な要素もあり。ローカルアイドルらしい親しみやすい雰囲気のキュートな歌声も魅力がある。

①は曲名通り近未来のサーカスをイメージしたテクノポップで、その独自の世界観は可愛らしいが、歌詞も含めて狂気を感じるイカレっぷりが最高。聴いていると横浜の情景が浮かんでくる②は、刹那的なメロディーとヒップホップパートがカッコいい名曲である。
④は横浜のシンガーソングライターkaoruのカバー曲で、原曲の泥臭さとは違うアンニュイでアイドルらしい可愛らしい仕上がりとなっている。
⑤は歌謡テイストとラップを駆使したユニークな作風でNUANCEの自己紹介的ソングという感じか。⑥は清涼感溢れる青春アイドルポップで、サビの王道メロディーが胸をキュンとさせてくれる。⑦はタイムトラベルを題材にしたSF作風のダンスナンバーで、歌謡曲っぽい歌メロが良い。ナレーションや演劇的なセリフが映画的な世界観を盛り上げてくれる。新曲の⑪はストレートなキュートさに元気が貰える。

メロディーの覚えやすさ、歌いやすさが魅力の大きなポイントで、テクノ歌謡などの古き良き歌謡曲へのリスペクト精神が感じられる作風である。NUANCE独自の毒がある世界観は個性的な魅力があり、本作はそれらが存分に楽しめる1枚だ。

AN ALIEN’S PORTRAIT|Broken By The Scream 

2018/8/22 DAWN DEAD / グラウンド・ベース

1. 恋は乙女の泣きどころ
2. ジャッジメント!!
3. Looking for
4. 繋いだ星座のラブレター
5. 裸の太陽
6. I wish…
7. Do・Do・N・Pa!!
8. oh!my!ME・GA・MIに恋してる!
9. 泣いて泣いて泣きまくれ
10. Message
11. サヨナラバースデー
12. 空駆ける風のように

本作は2017年にデビューしたメタル系スクリーミングアイドル「Broken By The Scream」の1stフルアルバムである。PassCodeなどに代表されるラウドロック系のアイドルグループのひとつに数えられる。メタルコア、ヘビィロックといったラウドなバンドサウンドと、アイドルと思えない強烈なデスボイスとアイドルらしい甘いクリーンボイスが同居する楽曲は、凄まじいエネルギーに満ちておりインパクトは絶大だ。

ラウドロック系アイドルポップの名曲⑪を聴けば分かるが、激烈なヘビィロックサウンドとツインデスボイスで問答無用に畳みかけて、サビである意味ベタともいえる王道アイドルポップなメロディーとクリーンボーカルに鮮やかに場面転換するのは、聴いていて新鮮で高揚感が得られる。①や②も同様路線の傑作で、超ハードかつ超ポップな楽曲構成は唯一無二。単純に聴いているとカタルシスが得られる。
⑥は1990年代J-POP風の曲にデスボイスやブラストビートが割り込んでカオスに突入する。⑦になるとデスボイスのみでもはや完全にメタルコアである。

楽曲には得体の知れないカオティックな爆発力があり、何より聴いていて楽しさや面白さがある。今では数多くいるラウドロック系アイドルの中でも傑作アルバムのひとつである。

Synchronism|Ringwanderung 

2021/8/4  Lonesome Record

1. overture
2. memories
3. es
4. ハロー ハロー
5. FlashBack
6. fall into sky
7. 君のいない街
8. KIRAIDA
9. 夜彩
10. ユレ↑ル↓ナ→
11. 燃える火曜日
12. ササル
13. La La

2019年に結成されたアイドルグループ「Ringwanderung」の1stフルアルバム。
トータルプロデューサーはIMATETSU。ピアノやキーボードを主体とした畳みかけるようなロックサウンド、独特のキャッチーさを持つメロディー、メンバーの歌唱力あるハーモニーなど、聴けばRingwanderungの曲だとはっきりと分かる個性的な魅力があるアイドルポップである。

インスト①から続く②はスピード感溢れるキーボードサウンドと力強いメロディーを歌うメンバーのボーカルが聴き心地が良くて耳に残る。③はピアノとキャッチーなリズムで引っ張る中毒性が高い曲で、やはり歌声が良い味をだしている。④はゲーム音楽かと思うようなインパクトあるイントロからメロディックに疾走するナンバー。⑦は王道アイドルポップなエレクトロポップナンバー。⑩はキーボードのキャッチーなフレーズが素晴らしくて、メロディーの良さも含めて優れたダンスポップの名曲と言えるだろう。代表曲である⑪は歌謡曲的な歌メロが親しみやすく、耳にすんなりと馴染む。

ピアノやキーボードを効果的に使ったサウンド構成は刺激的で面白さがあり、メンバーの安定感あるボーカルも含めて完成度の高い1枚だ。

chronicle|クロスノエシス 

2019/9/30  ekoms

1. cross
2. 残夜
3. in the Dark
4. ペトリコール
5. skit
6. 薄明
7. seed
8. インカーネイション
9. previously

「HAMIDASYSTEM」の元メンバー3人がekomsに移籍して結成された「クロスノエシス」の1stミニアルバム。アイドルグループにはあまりないダークな雰囲気のエレクトロポップで、ビジュアル系バンドに通じるような部分もあり面白い。

冒頭①から攻撃的な電子サウンドの洪水が炸裂し、反復するフレーズが印象的な名曲である。インストパート主体の楽曲構築だが、後半はメンバーのシンフォニックな歌唱も聴ける。
続く②は一転変わってエモーショナルな歌モノで、ボーカルとギターの音色が良い。④は切なく儚い情感がしっかりと伝わる傑作バラード。⑦はしっとりとした中にも力強い意志を感じる曲で、じわじわと心に沁みるメロディー&ボーカルが良い。⑧はアルバムの中でも随一のキャッチーなメロディーのポップナンバーで耳に残る。⑨は近未来的なエレクトロサウンドと浮遊感あるメロディーがトリップ感を与えてくれる。

クロスノエシス独自の耽美感を随所に感じることができる内容で、オリジナリティ溢れる世界観を確立している傑作アルバムである。

Ghost Cat|校庭カメラガール 

2015/6/3  tapestok records

1. Nua
2. Wedge Sole Eskimo
3. Dance with Mr.loneliness
4. Puppet Rapper
5. Swallow Maze Paraguay
6. Tyranno
7. Where the Wild Things
8. Her L Bo She
9. Unchanging end Roll

エレクトロサウンドとラップが特徴的なアイドルグループ「校庭カメラガール」の1stアルバム。グループは略称で「コウテカ」といい、プロデュースはALYT-。ヒップホップ色もあるが、楽曲は感傷的でメロウな旋律で、ボーカルや歌詞も含め刹那感やノスタルジーが押し寄せるような独特の魅力があるアイドルポップである。

佳曲揃いであるが、③⑤⑨は校庭カメラガールの特色がよくでたオリジナリティある傑作である。孤独と音楽の刹那的瞬間を切り取ったような、疾走感溢れるダンスポップ③はアイドルポップ史上に残る名曲。音楽好きなら共感できそうな歌詞やメロディーから感じられる煌めきと高揚感が素晴らしく、音楽への愛情が感じられる1曲だ。⑤は王道的なエレクトロポップナンバーだが、放たれる切迫感や焦燥感は唯一無二。⑨はノスタルジックという言葉がぴったり合うラップ&メロディーのエモーショナルな曲で、延々とずっと聴いていられるような心地良さがある。他にもキュートかつスタイリッシュなご機嫌なポップナンバー④やストレートなエレクトロポップ⑤など楽曲の出来は文句なし。

このアルバム以降、校庭カメラガールは改名後の校庭カメラガールツヴァイも含めて意欲的な作品を多くリリースしている。本作は若い時期でしか表現できないような初期衝動や刹那感に心が突き動かされる傑作アルバムである。

工業製品|テンテンコ 

2016/12/14 トイズファクトリー

1.くるま
2.放課後シンパシー
3.次郎
4.星の電車
5.くるま~助手席 school~
6. Good bye, Good girl.
7.流氷のこども

BIS(第1期)解散後にソロアーティストとして活動を始めた「テンテンコ」の1stミニアルバム。全曲作詞は自身が手掛けており、アレンジではボアダムスの山塚アイやllicit Tsuboiなどが参加している刺激的な音像は聴きごたえたっぷり。YMOや戸川純といったニューウェーブ系を好んで聴いていたという彼女らしいキャッチーでアバンギャルドなエレクトロポップが楽しめる1枚。

①は山塚アイの攻撃的な電子サウンドが炸裂するが、テンテンコのボーカルが可愛らしい声質なので意外にポップな印象を残す。タイトルからして期待してしまう②はillicit tsuboiによる低音を強調したアレンジが印象的なニューウェーブなテクノポップの傑作。③は童謡やみんなのうたっぽい歌モノで、何度もリピートしてしまう中毒性がある。⑥は東電OL殺人事件をテーマにした曲で、レベッカを彷彿とさせる1980年代ポップサウンドとメロディー、テンテンコのキュートな歌唱、意味深な歌詞とすべて素晴らしい名曲。⑦は七尾旅人作曲のエレメンタルを感じるしっとりとした癒されるナンバー。

バラエティに富んだエレクトロサウンドにテンテンコの不思議系キャラクターがばっちりとハマった楽曲は独特の可愛らしい魅力がある。

さくら学院 2010年度 ~message~|さくら学院  

2011/4/27  トイズファクトリー

1. FLY AWAY
2. Hello ! IVY
3. チャイム
4. ハッピーバースデー
5. プリンセス☆アラモード
6. Brand New Day
7. Dear Mr.Socrates
8. めだかの兄妹
9. ド・キ・ド・キ☆モーニング
10. 夢に向かって
11. message

アミューズから2010年にデビューしたアイドルグループ「さくら学院」の1stアルバム。義務教育を終えると同時にグループ卒業となるルールがあり、サイドプロジェクトとして「BABYMETAL」を生んだことでも有名である。音楽的には明るく元気を貰える王道アイドルポップで理屈抜きに楽しめる内容である。

ビジュアル系バンドdefspiralのRYOが作編曲した冒頭①からパワフルなロックサウンドの煌びやかなアイドルポップで爽快感と高揚感が得られ、続く②も疾走感あるキャッチーな曲に胸躍る。⑪はキラキラしたメロディー&ボーカルの、青春の直向きさに心が明るくなる曲。④~⑨は部活動という派生ユニットの楽曲群で、それぞれテーマに沿った音楽性は興味深く面白さがある。クッキング部(ミニパティ)の⑤はキュートなデジタルポップ。新聞部(SCOOPERS)の⑥はハードロック調のご機嫌なガールズロック。
バトン部(Twinklestars)の⑦は元Cymbalsの沖井礼二が提供した楽曲で、古代哲学者ソクラテスをテーマにした胸キュンアイドルポップの名曲。ソクラテスを題材にした楽曲を女子小中学生が歌うのが最高である。重音部(BABYMETAL)の⑨は切れ味あるギターリフの本格派ヘビィメタルサウンドと可愛らしいアイドルポップが見事に同居しており、この独自の楽曲センスは当時の音楽シーンで先鋭的であった。

ハロー!プロジェクトのようなアイドルグループ内派生ユニットには楽しさと魅力があり、楽曲も粒ぞろいである。アイドルポップとして文句なしの傑作アルバムだ。

3776を聴かない理由があるとすれば|3776

2015/10/28 Natural Make

1. [Introduction]
2. 登らない理由があるとすれば
3. [IntervalA]
4. 水でできている
5. [IntervalB]
6. 洞窟探検
7. 避難計画と防災グッズ
8. 日本全国どこでも富士山
9. [IntervalC]
10. 春がきた
11. 湧玉池便り
12. 生徒の本業
13. [IntervalD]
14. 旅ふぉとセレクション
15. [IntervalE]
16. 八合目にゃまだ早い
17. [IntervalF]
18. 春は巡る
19. 3.11
20. [Ending]

富士山のローカルアイドル「3776」が2015年にリリースした1stフルアルバム。
元々は前身の「TEAM MII」からの流れを組むアイドルグループであったが、メンバー卒業などに伴い、「井出ちよの」のソロユニットとして活動している。プロデュースしている石田彰の楽曲センスや世界観に面白さがあり、天真爛漫な井出ちよのの魅力に上手くマッチしている。

スペーシーなイントロダクション①に続いて始まる②は戸川純のような歌唱法のボーカルと鋭利なギターリフが印象的なニューウェーヴ色の強い曲。④は疾走する透明感あるギターロックだが、インディーロック的な生々しい魅力がある。
⑦は皮肉が効いた歌詞が痛快な軽快なロックナンバー。⑪はTEAM MII時代の楽曲で、幻想的というかサイケデリックなトリップ感があり、中毒性が高い1曲。⑯はふんわりとしたアバンギャルドな作風のポップソング。震災復興応援ソング⑲は今この瞬間を大切にというメッセージに心が揺さぶられる名曲。アルバム収録曲の中では意外性があるストレートなギターポップで、記憶に残る優れた楽曲である。

富士山をテーマにしながらも一般的なアイドルというイメージからはかけ離れた挑戦的な作風のアルバムである。例えるならポストパンクのような刺激的な音楽を作っていると言えるだろう。2010年代のローカルアイドル勢の中でも特に個性的な1枚だ。

Discovery|amiinA 

2018/12/5   SHIBUYA GIRLS POP

1. zion
2. Jubilee
3. sign
4. Caravan
5. allow
6. nana
7. Unicorn
8. magic
9. eve
10. Rising
11. Discovery

2人組の女性アイドルユニット「amiinA」のセカンドアルバム。音楽性はアイドルポップでは珍しいエレクトロニカ、ポストロックやフォーク/トラッドなどの影響を感じさせるもので、透明感ある歌声と美しいメロディーはザバダック、遊佐未森、坂本真綾らに通じるものがあり。

GOING UNDER GROUNDの松本素生作曲の②は爽快感抜群の青春パワーポップナンバーで、力強さを感じるメロディーとメリハリのあるロックサウンドは聴いていて気持ちが良い。③はアイドルらしいイノセンスを感じる旋律に胸躍るエレクトロガールズポップ。
アイリッシュパンクバンドTHE CHERRY COKE$が作曲、演奏を手掛けた④は、意表をつくコラボに驚かされるが、ワールドミュージック色ある楽曲は意外にアイドルポップと相性がいいのか違和感なく楽しめる。the band apart作曲、演奏の⑤は目まぐるしい展開のバンド演奏とキャッチーなメロディーが気分をアゲてくれる。⑥は可愛らしい歌声と暖かいアコースティックサウンドに心がほっこりする。
⑨はスペーシーな雰囲気のヒーリングポップで、終盤のスティーヴライヒを彷彿とさせるサウンドとフレーズがエモーショナルに耳に響く。タイトル曲⑪は大地や地球を感じさせる壮大なスケールの楽曲で、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二による身体に沁み渡るメロディー、切々と歌い上げる2人のボーカルに心揺らされる名曲である。

豪華作家陣が提供した多彩な楽曲がamiinA独自の世界観に上手くはまっており、真っ直ぐな歌声がストレートに胸に刺さる傑作アルバムだ。

I am ONLY|脇田もなり 

2017/7/26 VIVID SOUND

1. IN THE CITY
2. IRONY
3. 泣き虫レボリューション
4. ディッピン
5. Cloudless Night
6. 祈りの言葉
7. Boy Friend
8. I’m with you
9. EST! EST!! EST!!!
10. 赤いスカート
11. あのね、、、
12. 夜明けのVIEW

シティポップやAORなどアーバンな音楽性でアイドル音楽シーンに多大な影響をもたらしたガールズグループ「Especia」から脱退した「脇田もなり」の1stフルアルバム。グループ時代から魅力があった個性的な歌声と豪華作家陣によるシティポップやディスコなどのグルーヴィーな楽曲は聴きごたえたっぷりだ。

冒頭を飾る、はせはじむが手掛けた①は都会での戸惑いと期待をオシャレなサウンドで包み込んだ洗練されたシティポップナンバー。脇田もなりの雰囲気にぴったりとハマっている名曲である。
ノーナリーヴスの西寺郷太が提供した③は、胸躍る小気味よいダンスロックで、チャーミングでキュートな脇田もなりの歌声がとにかく良い。
⑤は手掛けたikkubaruお得意の大人な雰囲気のジャジーな楽曲で、曲の良さを最大限に引き出すクールなボーカルがカッコいい。
マイクロスター提供の⑦はキラキラした1980年代ユーロビートサウンドと元気に弾ける歌声に胸がキュンとなる。矢舟テツローによる⑧はジャジーなムード歌謡で、脇田もなりはこういったタイプの楽曲と相性がとても良い。⑩は可愛らしいボーカルが映えるアイドルっぽい爽快なシンセポップで、提供したマイクロスターの楽曲センスの良さが感じられる。

各作家陣の多彩な楽曲をソロシンガー脇田もなりの世界として表現できる歌声は素晴らしいの一言。存在感ある独自の歌声が存分に楽しめる1枚である。

GREENPOP|加納エミリ 

2019/11/20 なりすコンパクト・ディスク/Hayabusa Landings

1. 恋せよ乙女
2. ごめんね
3. NextTown
4. ハートブレイク
5. 恋愛クレーマー
6. Just a feeling
7. フライデーナイト
8. 1988
9. 二人のフィロソフィー
10. Moonlight
11. ごめんね(Extended Ver.)

作詞/作曲/編曲まですべて自身で手掛ける完全セルフプロデュースのアイドル/シンガーソングライター「加納エミリ」の1stフルアルバム。1980年代エレポップサウンドを基調としたサウンドと胸をキュンとさせるメロディーは、懐かしくも新鮮な魅力があり、そのレトロな世界観は2010年代に登場した音楽ジャンル『ヴェイパーウェイヴ』と親和性があるものである。

冒頭①は加納エミリのコンセプトや楽曲の方向性がわかりやすく聴き手に伝わる名曲である。とにかくレトロ&キュートなセンスが全開で、サウンドはもちろんのこと歌詞の言葉選びにも才能が感じられる。代表曲②は1980年代後半のユーロビートをオマージュしたようなキラキラしたサウンドと切ないメロディーが、波のように押し寄せる傑作ナンバー。
③はクールでアーバンなカッコよさを詰め込んだニューウェーヴ色が強いナンバー。
⑥は本作の中でも白眉な煌びやかなダンスポップで、彼女の日本人離れしたフィーリングに驚かされる。⑨は1980年代のアイドルポップっぽい楽曲で、伸びやかなボーカルと歌詞の可愛らしさが印象に残る。

楽曲が良いのはもちろんのこと、自分がやりたいことがはっきりしており、それがシンプルに伝わるのが良い。デビューアルバムとは思えないほど完成度が高い1枚である。

青春群像|タイトル未定

2023/9/5 ‎TSUIMA Inc.

1. 踏切
2. いつか
3. 主題歌
4. 薄明光線
5. ガンバレワタシ
6. 鼓動
7. 綺麗事
8. 溺れる
9. 道標
10. 青春群像
11. にたものどうし

北海道札幌市を拠点に活動するアイドルグループ「タイトル未定」が、数量限定で2021年にリリースした1stアルバムを新体制メンバーで再録したものに新音源1曲をプラスしたアルバム。ローカルアイドルは楽曲に力を入れたグループが多くあるが、同時代のfishbowl(静岡)やきのホ。(京都)などのユニークな音楽性とは違い王道アイドル感が溢れたもので、イノセンスを感じるピュアな歌声と青春をテーマにした美しい楽曲が心を揺さぶる1枚。

①は青春の葛藤や戸惑いを受け入れながら前に進もうとするメッセージが胸に刺さる、真っ直ぐなポップナンバー。③は「リリィさよなら。」が手掛けた耳に残るメロディーと音楽愛が伝わる歌詞が秀逸な曲。④はやるせない葛藤や焦燥感が心に迫る傑作バラード。
⑤は洗練されたポップセンスとストレートな歌詞が光る1曲。⑥はシンガロングできそうな美しく力強い楽曲で、アイドルポップアンセムと言っていいだろう。⑦は清涼感ある前向きな歌に元気を貰える。アルバムタイトル曲⑩は「リリィさよなら。」提供の青春ソングの決定版と言えるような瑞々しい魅力に溢れており胸がキュンとなる。

好感の持てる真面目さが印象に残るアルバムである。様々な葛藤や憂鬱を音楽として昇華する前向きなメッセージは聴く人を勇気づけること間違いなしだ。

ヨモスガラ|yosugala

2023/5/20 WEXS

1. prologue
2. indigo
3. 会心の一撃
4. 僕のわがまま
5. バカばかC
6. オヒメサマ?
7. スペードのエース
8. エスカレート
9. ひとりごと
10. オトギバナシ
11. となりどうし
12. canvas
13. 四葉のクローバー
14. 夜明けの唄

2022年に結成された4人組のアイドルグループ「yosugala」の配信でリリースされた1stアルバム。前向きなメッセージ迸るストレートなロックで、楽曲の良質さと歌唱スキルの高さは特筆すべきものがある2020年代の最新型アイドルロックである。

デビュー曲①はyosugalaの始まりを告げる決意表明のような熱い曲で、力強いメロディーと歌詞が心に響く。②は疾走感溢れるサウンド&メロディー、メンバーの熱いボーカルが素晴らしいアイドルロックの名曲である。特に歌声の良さは特筆すべきものがあり本作の中でも目玉の1曲と言えるだろう。③はRingwanderungに通じるようなリズミカルなダンスロックナンバーで、聴く物に勇気を与えてくれるエネルギーに満ち溢れている。
心地良いリズムが中毒性を生む⑤はシンセの音色や歌詞の語感などセンスの良さが光る。⑦は王道的なストレートなポップロックで、アニメなど映像作品にタイアップできそうなメジャー感がある。J-POPとしても非常に良く出来ている⑨はエモーショナルなメロディーとハーモニーが優しく心を包み込む。⑬はノスタルジックな旋律が波のように押し寄せる壮大な楽曲。
⑭はyosugalaの代名詞と言えるナンバーで、センチメンタルなメロディーやメッセージ性などこのグループらしさが詰まった秀逸な1曲。

楽曲の良さやボーカルの魅力はもちろんのこと、ブレイク必須の空気感が随所に感じられる。2023年を代表するアイドルポップの傑作アルバムである。

さとりパイオニア|さとりモンスター

2020/6/27  ‎NTKCREATiON

1. さとりパイオニア
2. トワイライト
3. HIKIGANE
4. といととい
5. 春が踊る
6. はじめの季節
7. さとりパイオニア(Instrumental)

下北沢を拠点に活動しているアイドルグループ「さとりモンスター」の1stミニアルバム。
cinema staffが所属するTHISTIME RECORDSが手掛けるアイドルであり、楽曲もcinema staffの三島想平が提供しているものが多くある。直球のエモロックから王道アイドルポップまで良質な楽曲が揃っており親しみやすい雰囲気が魅力である。

①は三島想平提供のPerfumeタイプのエレクトロポップで、キャッチーなリズムとユニークな歌詞が印象に残る。②は真っ直ぐと心に響く青春エモロックで、さとりモンスターの中でも屈指の名曲と言っていいだろう。クセのないストレートなロックだが、リッチー鎗ヶ崎が手掛けた切ないメロディーラインがメンバーのボーカルとぴったりマッチしており素晴らしい。④は個性的なメロディーと意味深な歌詞が光る一風変わったアイドルポップである。⑤は②と同タイプの熱く切ないロックナンバー。⑥はシンガロングできそうな清涼感ある王道アイドルソングで文句なしに良い曲だ。

②を筆頭にとにかく曲が良く、アイドル好きだけでなくロック好きにアピールできるような魅力がある傑作アルバムである。

天秤|INUWASI

2022/3/29 ロックフィールド

1. ストリングスウォーズ
2. Planetes
3. Altair
4. Soaring
5. memento
6. 別れ道

犬と鷲の融合『ハイブリッドラプター』をイメージしたアイドルグループ「INUWASI」の3枚目となるミニアルバム。初期はポストハードコア路線であったが徐々に音楽性は変化していき、ロックからエレクトロサウンドまで幅広く取り込んだ2020年代最新型のアイドルポップである。

佳曲揃いのミニアルバムであるが、特に辻久カオルが手掛けた、タイトル通りストリングスの洪水に飲まれる①は聴きごたえある力作である。壮大でエモーショナルだが複雑な展開はなく、メンバーの飾らないボーカル含めストレートに魅力が伝わるのが良い。②は疾走感溢れるエレクトロポップで、切れ味あるサウンドは気分をあげてくれる。③も②と同路線だがよりピコピコした電子サウンドに胸躍らされる傑作ナンバー。④は大人びたクールでハードなエレクトロポップでカッコいい。ラスト⑥はINUWASIには珍しいキュートな王道アイドルポップで切ない余韻を残す。

インパクト大の①を筆頭に楽曲は粒ぞろい。アイドルの枠にはとどまらない優れた内容のミニアルバムで多くの人が楽しめそうな1枚だ。

BESIDE U|The Idol Formerly Known As LADYBABY

2018/6/1 PLAST

1. Pelo
2. Me! Me! Me!
3. Sanpai! Gosyuin Girl
4. Easter Bunny
5. Generation Hard Knocks
6. Onigiric Riviver
7. Shibuya Crossing
8. Shan Shan Shantan
9. Pinky! Pinky!
10. Lady Baby Blue

メンバーに女装外国人を含むユニークなパフォーマンスで世界的な知名度も獲得したアイドルグループ「LADYBABY」。2016年からは金子理江と黒宮れいの2人組となりグループ名も「The Idol Formerly Known As LADYBABY」に改名。本作は2016年~2017年に発表したシングルすべて収録したコレクションアルバムである。音楽性はBABYMETALと同様にヘビィメタルとアイドルポップを掛け合わせたもので、スピード感あるキャッチーなガールズロックがたっぷりと楽しめる1枚。

①や⑨などの疾走感溢れるメロディックな楽曲はヘビーなギターサウンドと可愛らしいボーカルの掛け合いが上手くマッチしており、熱量あるアイドルロックとして優れていると言えるだろう。②も同路線だがよりキュートさが強調されており親しみやすい。③はエレクトロサウンドとロックを掛け合わせた近年のアイドルポップではお馴染みの曲展開が楽しめる。④はアイドル楽曲を多く手掛けている浅野尚志が作曲・編曲した会心の傑作。メタルサウンドのパワフルさと一緒に歌いたくなるメロディーが絶妙に組み合わさっており秀逸である。ラスト⑩は大森靖子が提供した2人にぴったりの世界観の歌詞とエモーショナルなメロディーが光る名曲。オルタナティヴギターロックなアレンジもセンスが良く、アイドルという枠には留まらない良質な楽曲である。

名曲⑩を筆頭に聴きごたえたっぷりの充実した内容のアルバムである。気軽に聴いて高揚感が得られるが、楽曲はそれぞれ良く作り込んである印象で、メタル系のアイドルロックの中でも必聴の1枚だ。

exFallen|ゆくえしれずつれづれ

2018/8/1 コドモメンタルINC.

1. Phantom Kiss (feat.Fronz from Attila)
2. 行方不知ズ徒然
3. 我我
4. Ways to Die
5. Exodus
6. Paradise Lost
7. MISS SINS
8. JUDAS
9. Helpless
10. Primal Three
11. 白と黒と嘘
12. Loud Asymmetry
13. Hue
14. Call my name Miss Felis
15. Existence Metaphysical
16. 黒白夜

『だつりょく系げきじょう系』をコンセプトとして2015年に結成されたアイドルグループ「ゆくえしれずつれづれ」の2枚目となるフルアルバム。PassCodeに代表されるラウドロック系のアイドルグループのひとつだが、ポストハードコアやスクリーモからビジュアル系まで取り込んだ激烈な音楽性は個性的なもので、異質な存在感を放ちながらもキャッチーなアイドルポップとして親しみやすい魅力がある優れたアルバムである。

アメリカのメタルコアバンドAttilaのボーカルFronzがゲスト参加した冒頭①から凄まじい勢いの激情ヘヴィロックが炸裂し圧倒されるが、可愛らしい歌声の叙情的なメロディアスなパートと激情迸るシャウト/スクリームのパートを上手く組み合わせており、ストレスが解消されるようなカタルシスが得られる。②も①の流れをくみ激烈&メロディックに疾走する。ハードコアなサウンドの洪水とシャウト/スクリームはアイドルの枠を越えており感動的ですらある。③はギターリフが印象的な爽快なアイドルロックで、絶妙なキャッチーなリズムが中毒性を生み出す。⑥は切ないメロディーがドラマチックな曲調にぴったりとハマっている。⑦は疾走する泣きのメロディーにインパクトがあり、メタルや同人音楽などへの親和性が感じられる。カオス渦巻く⑫はこの手のラウドロック系アイドル楽曲の中でも屈指の出来と言える名曲。まさにアイドルポップ+激情ハードコアの完成形で、スピリットを感じるほどの激烈なシャウト/スクリームと最高にメロディアスな旋律の融合は必聴である。本作の初回限定盤にはボーナストラックとして⑬~⑯にメンバーのソロ曲が収録されており、英艶奴の⑭や◎屋しだれの⑯などハードかつメロウな佳曲が楽しめる内容となっている。

メンバーの尋常ではないテンションの高さがハイクオリティな楽曲と上手く結びついた希有な作品である。2010年代後半のアイドルロックの名盤と言っていい1枚だ。

アイライフスターターパック(TypeA 集合盤)|iLiFE!

2023/1/10 CROSS SIDE MUSIC

1. 会いにKiTE!
2. アイドルライフスターターパック
3. 初恋リバイバル
4. ヒラリラリア
5. むげんだいすき
6. Hands up!
7. ころころガール

『私(i)と貴方(!)で作るアイドル(i)ライフ(LiFE)』というキャッチコピーをコンセプトに2020年に結成されたアイドルグループ「iLiFE!」の初CDアルバム。配信では全16曲だが、CDでは8種類の形態があり、7曲目が異なる仕様となっている。底抜けな明るさと可愛らしさに元気を貰えるアルバムで、理屈抜きに楽しめる王道アイドルポップで好感が持てる内容である。

まず注目はiLiFE!のブレイク曲となった②のユニークさだ。アイドル現場では定番のオタクによるコールを取り込んだ楽曲で、TikTokなど動画で幅広い層にアイドル現場の面白さを伝えることに成功している。楽曲提供したMedansyの着眼点が素晴らしく、アイデアの勝利とも言えるが、単純にアイドル曲としても誰もが楽しめる良い曲である。同じく①もコールを使った自己紹介ソングで、アイドル文化をテイストに元気に弾けるキュートな魅力が楽しめる。他にも切なさ滲むメロディーがとてもアイドルらしい青春ポップ③、可愛さ全開の⑤、チャーミングなポップセンス溢れる⑦などストレートな王道アイドルポップがふんだんに収録されている。

テーマとしてアイドルとオタクの関係性を表現した曲が多くあり、親しみやすいノリやキャッチ―なリズムと上手くリンクしていると感じる。マニアックでコアなアイドル文化というものをポップミュージックとして解りやすく伝えている傑作アルバムである。

9nine|9nine

2012/3/7  SME Records

1. Fly
2. 少女トラベラー
3. チクタク☆2NITE
4. 夏 wanna say love U
5. koizora
6. オレンジ days
7. Cross Over
8. too blue
9. Love me?
10. ダーリン、ダーリン
11. #girls
12. SHINING☆STAR
13. 9nine o’clock (Bonus Track)

2005年に結成されたアイドルグループ「9nine」の3枚目となるアルバム。2010年に新体制に移行した後の初となるアルバムで、プロデュースはagehaspringsが担当している。

Perfumeなどのアーティスト寄りのアイドルグループを意識したのか音楽的にはいかにもなアイドルっぽさはあまりなく、ガールズグループという感じの作風で、ポップミュージックとして非常に完成度の高い楽曲が多く収録されている。

①は力強いビートと歌声がダイレクトに響くエレクトロポップで気持ち良い高揚感が得られる。②は気分アゲアゲのトランステクノサウンドとフックのあるメロディー&歌詞が刺さるスタイリッシュなナンバー。③は1980年代っぽいロマンティックでキュートな旋律に胸がキュンとなる。④は清涼感ある爽快なサマーチューンで清々しい気分を運んでくれる。
⑦はハートフルなメロディー、コーラスや楽曲構成など全てが素晴らしい名曲。1度聴けば延々とリピートしてしまう魅力があるパーフェクトなポップソングである。⑫はノスタルジックに疾走し、煌びやかなメロディーと瑞々しいボーカルが胸に迫る。ボーナストラック⑬は9nineメンバーの自己紹介ソング。ファンキーなグルーヴやメンバーの洗練されたボーカルワークなどクールなカッコ良さが全開で、グループのテーマ曲に相応しい秀逸な曲である。

楽曲の完成度はさすがagehaspringsという感じでメンバーのボーカルは表現力含め安定感抜群で文句なしの出来。誰もが楽しむことができるアイドルポップの名盤である。

StartingOver|我儘ラキア

2019/7/9 ロックフィールド

1. Beginning of the story
2. Zettai Kakumei
3. PreciousTime
4. My life is only once
5. Sing with you
6. Be light for you
7. In the end
8. To be continued
9. But, not alone
10. There is surely tomorrow
11. Reboot with… 「 」
12. Days
13. Declaration of war
14. Trash?
15. I’ll never forget 「 」
16. The Reason
17. Prayer
18. We’ll keep raising the flag
19. Leaving
20. Melody

2016年に結成されたアイドルグループ「我儘ラキア」。本作はそれまでに発表された楽曲を再レコーディングして2019年にリリースされた1stアルバムである。アイドルグループというよりガールズバンドに近いカッコ良さがあり、メンバーのカリスマ性あるボーカルの存在感を生かした切れ味鋭いポップロックである。

インスト①から続く②は直球の熱いロックナンバーで、我儘ラキアの魅力がわかりやすく伝わる。③もメリハリのついた力強いサウンドとメロディアスな旋律で高揚感が得られる。④は力強い意志を感じさせる歌詞が良い。⑧は温かいメロディーとボーカルが聴く物を優しく勇気づけてくれる。⑩は切ないメロディーの洪水とクールなラップパートが印象的。
⑫は2ビートでメロディアスに疾走し、後半はエモーショナルな展開で感動的なフィナーレを迎える。メロコアやエモコアへのリスペクトを感じる優れた楽曲だ。⑲はメロディーの良さが光る英詩のスタイリッシュなナンバー。⑳は懐かしさを感じるような王道ガールズポップで、ハートフルなメロディーと前向きなメッセージが清々しく心に響く。

20曲と大ボリュームのアルバムであるが、メンバーのボーカルのカッコ良さも含め中毒性を生みだす楽曲が多くあり。全体の流れや雰囲気も個性的な傑作アルバムだ。

Do The Right Thing|O’CHAWANZ

2021/4/6 SECOND FACTORY

1. Rest of the Girls
2. Rolling Hill
3. MARCH FORCE 2020
4. DADA
5.. SPARK!!
6.. EARTH
7. LINE
8. Party Online
9. TWILIGHT

文化系アイドルヒップホップユニット「O’CHAWANZ」の3枚目となるアルバム。アイドルらしいキュートなラップを軸にした、ポップネスが弾けるダンサブルなヒップホップである。可愛らしさと楽曲のカッコ良さが絶妙なバランスで調和しており、チャーミングな歌声とグルーヴィーな旋律に心がほっこりする1枚。

①はキャッチ―なリズムのゆるふわなラップが気持ち良いダンスポップ。冒頭から親しみやすい雰囲気が全開で好感が持てる。②はクールなグルーヴ感あるサウンド&ラップがひたすらカッコいい。⑤は高速ラップを畳みかける軽快なナンバーで、リリックもユーモアセンスがあり面白い。⑥はファンキーなトラックと可愛らしい陽気なラップと元気が貰える。口ずさみたくなるキラキラした歌メロなどアイドルラップとして秀逸だ。⑧はノリノリなリズムで押しまくるパーティーラップで、リリックも含めポップネスが光る1曲。⑨はノスタルジックで温かい感動的な曲で、メロウな雰囲気の耳に残るバラードである。

アイドルポップ×ヒップホップを聴かせてくれるグループは未だにそう数は多くなくマニアックな音楽性だと思うが、ストレートに良いものを追求している印象で、大衆性も兼ね備えた超ポップなアイドルヒップホップがふんだんに楽しめる。

歪んだ鉛筆は誰かに折られないために|HAMIDASYSTEM

2018/9/5 DASHI RECORDS

1. 歪んだ鉛筆
2. 夜の箱庭
3. インビジブル・ムービー
4. 水槽標本
5. 舞台に溶かされて
6. 行方

『メロディック・エレクトロニカ』をコンセプトに活動していたアイドルグループ「HAMIDASYSTEM」。本作は3枚目となるミニアルバムである。音楽性としてはエレクトロニカを軸にポストロックやエモコアなどの要素も含み、インディーロックやヴィジュアル系に距離が近いものをグループ独自のカラーとして打ち出している。楽曲の個性や陰鬱な空気感は特筆すべきものがあり、異質な存在感を放つアンダーグラウンドな世界観に圧倒される1枚。

インスト①に続く②は重厚なポストロック/エレクトロサウンドと叙情的なメロディーが洪水ように押し寄せ、儚く刹那的な世界観にどっぷりと浸ることができる。やるせない感情を伝えるシリアスなボーカルやシューゲイザーのような浮遊感も素晴らしい。③は印象に残るギターの音色と切なくメロディアスな旋律が絶妙に絡み合う。④はエレクトロポップとギターロックを組み合わせたという感じのエモーショナルなナンバー。エレクトロとロックの絶妙な調和が中毒性を生み出している。⑥は本作の中でも特に繊細なメロディーやメンバーの透明感ある歌声が耳を捕らえて離さない魅力があり、文学的な歌詞のメッセージ性も優れている。

地下アイドルの中でも珍しいアンダーグラウンドな感覚の音楽性がじっくりと楽しめる内容で、その独創性に満ちた世界観は特筆すべきものがある。

きみわずらい|まねきケチャ

2018/4/18 日本コロムビア

1. きみわずらい
2. タイムマシン
3. 青息吐息
4. ありきたりな言葉で
5. 奇跡
6. キミに届け
7. 僕が僕を
8. カクカクシカジカ
9. 一刀両断
10. 妄想日記
11. キミが笑えば
12. SEVENTH HEAVEN
13. 冗談じゃないね

日本ツインテール協会のプロデュースで2015年に結成されたアイドルグループ「まねきケチャ」の1stアルバム。日本ツインテール協会が手掛けたということもあってメンバーの美少女ぶりに注目が集まったが、本作にも収録の『きみわずらい』が2010年代のアイドルポップを代表する曲のひとつとなり音楽的にも高評価を獲得した。作曲・編曲はアニメやゲームの楽曲を数多く手掛ける音楽制作集団Elements Gardenが担当しており、直球のエモロックから王道アイドル曲まで、真っ直ぐと心に響く良質なアイドルポップが楽しめる1枚。

注目は藤永龍太郎が作曲・編曲を手掛けている①~④で、ストレートな作風ながらもよく作り込んであり、メロディーの良さや音作りなどその卓越したセンスが味わえる楽曲は聴きごたえたっぷり。前述のアイドル史上に残る名曲①は、ストリングスやギターの音色などシンフォニックなサウンドアレンジや大きなうねりを生み出すメロディーラインは記憶に残る旋律で、未完成な魅力に溢れるボーカルとドラマチックなサウンドの絶妙な調和が素晴らしい。②はストレートな青春エモロックで、切ないメロディーを歌い上げる飾らない歌声が印象的。
③はsupercellにも通じるスタイリシュなギターロックで、青春の葛藤をロックで昇華した熱いビートが高揚感を与えてくれる。メンバーのハーモニーも美しさを感じるもので、優れたアイドルロックだ。④はアイドルらしい清涼感あるセンチメンタルな情感が胸に刺さる。他にはチャーミングな魅力がある⑤、ピコピコしたテクノポップ⑧、はっちゃけたアゲアゲな⑬など底抜けな明るさに元気を貰える曲もあり、アイドルポップとしては申し分ない内容である。

①の存在感はやはり別格で、まねきケチャのイメージにもあっている。シリアスで切ないキラーチューンが連発される前半と元気なアイドルロックを聴かせる後半まで、気持ち良く聴けるアルバムである。

Melian|じゅじゅ

2018/10/2 箱レコォズ

1. 祈り
2. 蜘蛛の糸
3. 煉獄
4. ゆらりゆらり
5. コノ世界・闇
6. 月光ピエロ
7. 零
8. 呪呪
9. イトシスギテ
10. 黒糸
11. 僻心
12. アンシェント・ファーメンティング・イービル
13. 35席
14. イケニエ
15. 怨返し
16. idoll
17. 君が産声を上げたのは
18. Melian
19. 食

『呪い』をコンセプトにしたアイドルグループ「じゅじゅ」が2018年にリリースしたフルアルバム。4人体制となってからの初のフルアルバムで、過去に発表した曲の再録なども含むベスト盤的な内容となっている。音楽性はアイドルの中でも珍しいゴシックロック路線であり、アニメ/ゲーム系のゴシック系女性ボーカルに距離が近い方向性である。アイドルらしい可愛らしい歌声とダークでメロディアスな楽曲はゴスロリ系アイドルとして完成度が高いもので、Asrielや電気式華憐音楽集団などに通じるようなシンフォニックなゴシックメタルが楽しめる。

美しいコーラスが聴ける短曲①に続く②は、ヘヴィなギターサウンドやおどろおどろしい雰囲気を盛り上げる歌声が、まさに『呪い』といった感じで暗黒の世界に引き込まれる。③も陰鬱なムード全開のヘヴィロックで歌詞の世界観も面白い。⑤はファンタジック感あるシンフォニックなアレンジやアニメにタイアップできそうなメロディーの王道感が良い。幻想的なイントロが印象的な⑧はメロディックに疾走するナンバーで、アイドル版メロスピという感じの質感が新鮮である。⑩は歪んだベースのイントロが強烈で、キャッチ―なテンポのボーカルなど中毒性が高い。⑬は青春ホラーという感じで、現世とあの世をテーマにした世界観も凄いが、特にサビの哀愁漂うメロディーラインが耳に残るもので優れている。⑯は音圧を感じる力強いサウンドのアイドルメタル。リズムやメロディーはアイドル的なもので、可愛らしさがある旋律が印象に残る。⑱はドラマチックに奏でられる幻想的なバラード。西洋的なサウンドとメンバーの歌声が美しく響き、じっくりと退廃的な世界観に浸らせてくれる。

大ボリュームのアルバムでたっぷりと「じゅじゅ」独特のホラー色が強い世界観が楽しめる。陰鬱だがキュートなボーカルのおかげかそこまで重苦しくはないので、ゴシック色が強いアイドル曲が聴きたいならマストな1枚だ。

殺人事件|少女閣下のインターナショナル

2016/7/1  TRASH-UP!! RECORDS

1. 真夜中に餌を与えてはならない
2. mug
3. グランギニョルのフラミンゴ
4. ATARI SHOCK LOVE
5. 乙女みたいな季節
6. 少女閣下のPKウルトラ計画
7. ecole
8. ショートクタイシ・イズ・デッド
9. みなごろしフライデー(naked)
10. HAL451
11. 怨み節/マカロンウエスタン
12. No where on-do
13. 僕らの心電図
14. 万国お化け博覧会
15. アイドルに恋をしてはならない

2014年から2016年まで活動していた地下アイドルグループ「少女閣下のインターナショナル」の1stアルバム。本作リリース直後に活動休止したので、唯一のフルアルバムとなっている。メンバーにはシンガーソングライターとして活動している里咲りさも在籍。B級ホラー映画や昭和特撮のようなユニークな世界観を、ヒップホップやロックなど色々な音楽要素をごちゃ混ぜにした変態アヴァンギャルドサウンドで表現しており、尋常じゃないテンションのボーカルも含めメーターを振り切ったプログレッシブなアイドルポップが聴くことができる。

冒頭①からねじれた電子サウンドとはっちゃけたラップの怪奇な世界観に驚かされる。②は疾走するハードなジャズロックで、勢いあるボーカルのやさぐれた感じもグッド。サウンドはかなり凝っておりアイドルと思えないアグレッシブな演奏のアングラ感が良い。③はホラーな歌詞と怪談のようなボーカルの語りにぴったりの緊張感ある電子音がインパクト大で、殷の踏み方などラップとしても面白い。④はスペーシーな近未来的な美しい旋律にユーモラスな可愛らしい歌が乗るというもので、アイドルらしいプラスのエネルギーに憂鬱も吹っ飛び陽気な気分になれる。
8分に渡る大曲⑥はこのグループを象徴するぶっ飛んだ曲で、アイドルとプログレを強引に融合させて先悦化したようなカオティックな曲展開に圧倒される。⑦は西洋的な世界観の歌自体は綺麗なバラードだが、凝ったサウンドや怖い歌詞は聴いていて不安になってくる。⑪はタイトル通りマカロニウェスタンのパロディで、踊りだしてしまいそうな軽快なリズムに胸躍る。⑬は哀愁漂うメロディーと切なさ爆発のハーモニーが壮大な感動を呼ぶ。奇妙な楽曲が多い本作の中では逆に異色な魅力がある王道アイドルポップ路線である。

実験的な作風ではあるが、聴く物に元気を与えるというアイドルの基本姿勢に沿った、エンターテイメント性ある楽しさも忘れていないところが良い。一度聴けば記憶にいつまでも残るであろう鮮烈な1枚だ。

テル・ディスコ|MAGI(C)PEPA

2017/4/12 GOTOWN RECORDS

1. 備長炭
2. メイク真似
3. なんだかわからんフラッシュモブ
4. 功夫ガール
5. LOVE-KISS-HUG-HUG
6. 浪人ボーイ
7. テンセイリンネ ~GONG! GONG! GONG!~ 2017
8. 君に、いんすぴれいしょん!
9. 不条理コズミック
10. TELL DISCO

NONA REEVESの西寺郷太や村田シゲなどの凄腕ミュージシャン達が、ラップなどで有名なアイドル「吉田凜音」をボーカルにフューチャーした7人組のバンド「MAGI(C)PEPA」(マジぺパ)の1stアルバム。メンバー全員が作曲を手掛けており、『2020年代のフリートウッド・ マックを目指す』がコンセプトとなっている。
吉田凜音の躍動感溢れるキュートな歌声の魅力を最大限に引き出した、オシャレかつ少しひねくれたセンスが刺さるポップソングの数々は中毒性が高いもの。バンドという形態ではあるが、非常に上質なアイドルポップを楽しむことができる。

①は自分自身の信念を曲げないというメッセージ性の強い歌詞をポップなサウンド&メロディーで包んでおり、活力に満ちた吉田凛音のパワフルなボーカルがぴったりハマっている。
②はニューウェーブ色が強いポップソング。爽快でキレのある歌声が痛快で、間奏のピコピコしたシンセやサビのメロディーの浮遊感など印象に残るもので秀逸。⑤はシティポップ度数が高い都会的な洗練されたポップスで、ちょっと大人っぽいラブソングをクールに決めておりカッコ良い。⑥は吉田凜音がラジオ放送風に語るユニークな電子ポップ。⑦は吉田凜音お得意のラップとスペーシーな浮遊感が良い。
ラスト⑩は壮大なノスタルジックな旋律が切ない余韻を残すディスコポップ。わくわくする楽しさがありながらもセンチメンタルな情感にどっぷり浸ることができる優れた曲だ。

実力派ミュージシャン達が、吉田凜音の声にジャストフィットする楽曲を提供しており、聴きごたえたっぷりの内容である。とにかく歌声に魅力があり、器用に様々な曲を自分のものにして歌いこなせるところが吉田凜音の強みである。

THE PARK|赤い公園 

2020/4/15 ERJ

1. Mutant
2. 紺に花
3. ジャンキー
4. 絶対零度
5. Unite
6. ソナチネ
7. chiffon girl feat.Pecori
8. 夜の公園
9. 曙
10. KILT OF MANTRA
11. yumeutsutsu

本作は4人組のガールズバンド「赤い公園」がボーカルの佐藤千明が脱退後、新ボーカルにアイドルグループ「アイドルネッサンス」のメンバーであった石野理子が加入しリリースしたフルアルバム。ソングライターであったギターの津野米咲死去により本作がラストアルバムとなった。

オルタナティブロックを基調としたポップロックで、オシャレに聴かせる曲もあってシティポップ要素も感じられるのがポイント。津野米咲の才気溢れる作曲センスと綿密に組み立てられたサウンドは圧巻の一言である。

爽快感がクセになる①は津野米咲節炸裂の凄まじくカッコいいロックナンバー。ずっしりとしたバンドサウンドにフックのあるメロディーは高揚感を与えてくれて、石野理子のパワフルだが耳あたりが良いボーカルも味わい深く、文句なしの名曲であるといえるだろう。
②は疾走感あるロックで、どこか和風を感じさせるメロディーが良い。④はアニメにタイアップされたキャッチーな曲で、新体制となった赤い公園の名刺代わりの1曲だ。
⑧はミドルテンポのエモロックで、サウンドメイキングも優秀だが、歌モノとしても素晴らしい曲。⑪はドラムが激しい熱くなれるハードなロックナンバー。

抜群のメロディーセンスに加えて、サウンドの作りこみが半端ではなく、津野米咲の才能爆発の内容である。2020年代のガールズロックを代表する名盤である。

若者たちへ|羊文学 

2018/7/25  felicity

1. エンディング
2. 天国
3. 絵日記
4. 夏のよう
5. ドラマ
6. RED
7. Step
8. コーリング
9. 涙の行方
10. 若者たち
11. 天気予報
12. 天使たちの会話

3人組のオルタナティブロックバンド「羊文学」の1stフルアルバム。鳴り響く轟音ギターと作詞・作曲を手掛ける塩塚モエカの透明感ある繊細なボーカルは心地良くすっと耳に入ってくる。ナンバーガールやスーパーカーからの影響も感じさせ、きのこ帝国の流れをくむ女性ボーカルギターロックである。

①は冒頭にも関わらず『エンディング』という曲名がユニークで、静から動へとエモーショナルに展開する幽玄な雰囲気のナンバー。
②はキャッチーなフレーズがシンガロングできそうなチャーミングさも感じる曲で、終盤の歪んだギターの音色がとても良い。
③はストレートな青春ロックで、情景が浮かぶような歌詞が記憶に残る。④は夏の気怠い空気が見事に表現されている素晴らしい曲。
⑥は歌声に熱量がある切なさ爆発のやるせないナンバー。⑦は軽快なギターポップっぽい曲調だが、非常にナイーブな印象を残す。
⑪はメロウなサウンド&メロディーが耳にすんなりと馴染んできて、何とも言えない儚い余韻を残す名曲。

轟音ギターサウンドはやかましい印象は受けず、繊細な歌声と絶妙に絡みあい癒しを与えてくれるようなみ耳触りの良さがある。敷居が低いというかなんとなく聴き始めてもすんなりと全曲聴き終えてしまえるような魅力がある傑作アルバムだ。

New Young City|For Tracy Hyde 

2019/9/4 Pヴァイン・レコード

1. Opening Logo (Photo High Inc.)
2. 繋ぐ日の青
3. ハル、ヨル、メグル。
4. 麦の海に沈む果実
5. ラブイズブルー
6. ハッピーアイスクリーム
7. 君にして春を想う
8. Hope
9. Grow With Me
10. ライトリーク
11. 曖昧で美しい僕たちの王国
12. Girl’s Searchlight
13. Can Little Birds Remember?
14. 水と眠る
15. 櫻の園
16. Glow With Me

ラブリーサマーちゃんがボーカルとして在籍していた時期もあることで知られるシューゲイザー/ドリームポップバンド「For Tracy Hyde」。本作はボーカルとしてeureka加入後の3枚目となるフルアルバム。

サウンドはラフなインディーロックではあるが、J-POP的な旋律を基調しており、eurekaのキュートな歌声を生かしたドリーミーなポップロックである。Nav Katze、SUPERCAR、きのこ帝国などの日本産ギターバンドの流れを受け継いでいるような楽曲は懐かしさも覚えるし、渋谷系やアニソンからの影響もあり。バンドの中心メンバーである夏bot(管梓)は、自身のもうひとつのバンドエイプリルブルーでも活動し、アイドルグループの・・・・・・・・・やRAYに楽曲提供するなど才能を発揮している。

これまでの作品よりも歌メロがキャッチ―になり聴きやすくなった印象で、乙女チックでロマンティックなドリームポップ②は本作のリードトラックとなる名曲。同路線の傑作⑫と並んで映像作品にタイアップできそうなほどキャッチーで立体的な音像である。煌びやかなサウンドの音色が素晴らしい③と切ない女性ボーカルロックのお手本のような⑩など楽曲の完成度は高い。他にもインディーバンドらしい勢いがある⑬やオルタナティブロックサウンドに透明感あるボーカルがばっちりとハマった⑮など音楽的な懐は深い。

こういったオルタナティブロックサウンド可愛らしい声質の女性ボーカルの組み合わせはある意味日本独自の文化といえるだろう。サウンド、ボーカル共に満足感が高い充実した内容である。

eureka|きのこ帝国 

2013/2/6 DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

1. 夜鷹
2. 平行世界
3. 春と修羅
4. 国道スロープ
5. ユーリカ
6. 風化する教室
7. Another Word
8. ミュージシャン
9. 明日にはすべてが終わるとして

女優として活動していた佐藤千亜妃が2007年に大学の同級生と結成したロックバンド「きのこ帝国」のインディーズ時代にリリースされたフルアルバム。

バンド名の名付け親はなんと「ゆらゆら帝国」とのこと。ナンバーガールからの影響も感じるオルタナティブロックサウンドを基調としており、歪んだギターと佐藤千亜妃の透き通った声質の幽玄なボーカルが別世界へといざなってくれるシューゲイザー/ドリームポップである。

①はTHA BLUE HERBやShing02などのヒップホップ勢からの影響を感じさせる意表を突くポエトリーリーディング調の轟音ロックで、佐藤千亜妃のクールなボーカルが良い味を出している。
②は別世界に連れていってくれるような緩やかな轟音ギターロック。③はヒリヒリとしたやさぐれ感を上手くキャッチーにまとめおり、ダイレクトに響くロックンロールである。④はやり場のない感情を吐き出すようなエネルギーに圧倒される。
⑤は美しい轟音ギターと壮厳なボーカルのシューゲイザー/ドリームポップの金字塔と言っていい名曲で、光が降り注ぐような神々しいまでの質感は日本人離れしており驚かされる。
⑧はスローでエモーショナルなオルタナティブロックバラードで、切なさの洪水に心揺らされる。

その後メジャーデビューしブレイクするきのこ帝国だが、この盤含めインディーズ時代の作品にはヒリヒリとした焦燥感が満ちており得体の知れないパワーが渦巻いている。この後に登場した女性ボーカルバンドへも絶大に影響を与えている希有な1枚だ。

 

Still Dreaming, Still Deafening|揺らぎ 

2018/8/8 FLAKE SOUNDS

1. B/C
2. Horizon
3. Utopia
4. Bedside
5. Unreachable
6. Path of the Moonlit Night

滋賀県出身の4人組のシューゲイザーバンド「揺らぎ」の2018年リリースのミニアルバム。

My Bloody ValentineとAsobi Seksuを掛け合わせたような重厚な轟音と美しい女性ボーカルは幻想的なトリップ感を与えてくれる。
日本の女性ボーカルシューゲイズの中でも洗練されたサウンドの完成度や力強さは群を抜いており、代表的なバンドといえるだろう。特に④は圧倒的な轟音に飲み込まれる、シューゲイザーの名曲というに文句なしの出来で、バンド名通り轟音ギターの揺らぎと美しいメロディー、ボーカルが心地良い浮遊感に浸らせてくれる。③も同路線の傑作で、④と並んでアルバムの中核をなすナンバーだ。ラストを飾る⑥は10分越えの大曲となっており、静から動へとドラマチックな曲展開を見せる圧巻の曲である。

ギターロックとしてこれ以上ないほどのサウンドの完成度を誇っており、日本を代表するシューゲイザーアルバムといえるだろう。

Evergreen|Moon In June 

2022/7/20  DREAMWAVES RECORDS

1. hikari
2. Summer Pop’97
3. Lovesong
4. ミストラル
5. Tremolo Mind
6. Noise Reduction

2018年に東京で結成されたシューゲイザー/ドリームポップバンド「Moon In June」の2枚目となるEP。

2010年代後半はFor Tracy Hydeや17歳とベルリンの壁など女性ボーカルのシューゲイザー系インディーロックは良質なバンドが多くあり、Moon In Juneも素晴らしいバンドのひとつである。Pains Of Being Pure At HeartやAlvvaysのような海外のシューゲイザー/ドリームポップからの影響もあるが、メロディーや透明感のあるボーカルはSUPERCARやadvantage Lucyなどの日本のギターポップ/ロックに通じるものがあり、それらが好きなら文句なしにおすすめできるバンドだ。

本作の目玉は何と言ってもリードトラックとなる②で、ノスタルジックな爽やかな旋律でどこか儚さを残すギターポップの名曲である。耳にすんなりと入ってくる馴染みやすいサウンド&メロディーはさすがで、楽曲センスの良さが感じられる。歌モノとしても◎。④も同路線のギターポップでこちらも切ない旋律が印象に残る良い曲だ。他にも力強いギターロックの①や⑥など楽曲の出来が良い。

インディーバンドらしいラフなサウンドが魅力で、Mihoのボーカルも含め飾らない自然体の魅力が楽曲から感じられてとても良い。良質なインディーロックを体現したような爽快感ある楽曲が楽しめる傑作EPだ。

Blue Peter|エイプリルブルー 

2019/12/4 Pヴァイン・レコード

1. Intro
2. エイプリルブルー
3. スターライト
4. ベイビーブルー
5. 朝
6. サンデー
7. 運命の人
8. イノセンス
9. 花とか猫とか
10. ミルキーウェイの岸辺から

For Tracy Hydeの管梓 (夏bot)を中心としたバンド「エイプリルブルー」の1stフルアルバム。
For Tracy Hydeと同様にシューゲイザーとJ-POPを融合させたような作風で、船底春希の透明感ある歌声を生かした繊細で真っ直ぐに心に響く楽曲はポップミュージックとして良質といえるだろう。

イントロのギターだけでいい曲だと分かる②は、メロディアスなギターとの切ない歌声が見事に調和している名曲。メロディーはもちろん、サウンドの音色が素晴らしいので、何度も聴きたくなる。他にも③や⑧など疾走する煌びやかなサウンド&メロディーの美しいシューゲイザーナンバーの出来がとにかく良い。なんというか女性ボーカルマニア的にもこういうのが聴きたかったよというような、どストライクな感じがある。⑨も王道のエモーショナルなギターロックで期待を裏切らない。

シューゲイザーというある意味マニアックなロックサウンドではあるが、単純に歌モノとしても優れており、幅広い層にアピールできる可能性を秘めていると言えるだろう。

ALL SHIMMER IN A DAY| My Lucky Day 

2021/3/3  ‎ TESTCARD RECORDS

1. March
2. Young and Lost
3. Bootleg
4. Sunny day Highway
5. ameagari
6. no title
7. Farewell summer
8. Tully

熊本で2018年に結成されたシューゲイザーバンド「My Lucky Day」の1stフルアルバム。

サウンドはシューゲイザー基調だが、歌メロがキャッチ―でボーカルや音の輪郭もはっきりとしており、メリハリのあるギターポップ/ロックである。SUPERCARやadvantage Lucyといった1990年代後半のギターバンドからの流れを感じさせ、ただのインディーロックに終わらない大衆性も獲得できそうな楽曲が魅力的だ。

本作収録の①のMVを観たときはあまりのイノセンス溢れる旋律に胸が高鳴った。文句なしの名曲だと思う。王道ギターロックで、特筆すべきは透明感と清潔感のある歌声の良さ、クセがなく真っ直ぐ響くボーカルは青春ロックにぴったりだ。
音楽と青春をキーワードに青春時代の瞬間的煌めきが切ない③やJPOP的な歌モノとしても優れているネオアコサウンドの④などキラキラした爽やかなギターポップは胸がキュンとなること間違いなし。

サウンドには良い意味でインディーバンド的な粗削りな部分もあり、ポップセンス溢れる良質な楽曲と綺麗な歌声は素晴らしい。爽快感のある青春ギターロックが存分に楽しめる好盤だ。

ex Negoto|ねごと 

2011/7/13 KRE

1. サイダーの海
2. ループ
3. カロン
4. ビーサイド
5. メルシールー
6. ふわりのこと
7. 七夕
8. week…end
9. 季節
10. AO
11. 揺れる
12. インストゥルメンタル

本作は4人組のガールズバンド「ねごと」の1stフルアルバムである。Base Ball Bearなど日本産ギターロックバンドからの影響も感じさせ、オルタナティブロック、シューゲイザー、エレクトロポップなど様々音楽を取り込んだガールズロックは儚く響く。幻想的な世界観と、それを盛り上げる蒼山幸子のパワフルに歌い上げるボーカルとシンセの音色が魅力のひとつのポイント。

冒頭①からねごとの独自の世界に引き込まれる。女性らしい柔らかいメロディーセンスが素晴らしい。続く②も煌びやかなサウンドとキャッチーなリズムで高揚感が得られる。
アニメにタイアップされて、ねごとがブレイクした③は、独自の浮遊感とうねるような伸びのあるメロディーがクセになる曲で、2010年代ガールズバンドの楽曲の中でも名曲といえるだろう。
⑤も浮遊感とメロディアスな疾走感が気持ち良い曲だ。優しさと癒しを与える⑥のようなミディアムバラード調の歌モノもとても良い曲である。

優等生的な感じは好き嫌いが分かれそうだが、良質なガールズポップロックのお手本のような作品で、楽曲はサウンド、メロディーともに非常に完成度が高い。

生命力|チャットモンチー 

2007/10/24 キューンレコード

1. 親知らず
2. Make Up!Make Up!
3. シャングリラ
4. 世界が終わる夜に
5. 手のなるほうへ
6. とび魚のバタフライ
7. 橙
8. 素直
9. 真夜中遊園地
10. 女子たちに明日はない
11. バスロマンス
12. モバイルワールド
13. ミカヅキ

3ピースのガールズバンド「チャットモンチー」のメジャー2枚目となるフルアルバム。

オルタナティヴロック系のサウンドのキャッチーな曲に、橋本絵莉子のYUKI(JUDY AND MARY)やTama (Hysteric Blue)を思わせる可愛らしい声質のハイトーンボーカルが力強く、時に切なく響くエモロックだ。

変拍子である5/4拍子を取り込んでいることで有名な③は、音楽シーンでのチャットモンチーのブレイクを決定づけた重要な1曲。リズムの面白さを追求したガールズロックの名曲といえるだろう。
歌詞も非常に重いシリアスなギターロックの④はこのバンドでも異色な曲で、刹那的な情緒を感じるドラマチックな曲である。
⑦はこれぞ青春ロックと言ってしまいたくなる傑作で、切ない歌声とメロディー、オルタナティヴロック系のギターサウンドが心に響く。
心地良い疾走感の⑨はこのアルバムの目玉といえそうな爽快なナンバー。⑩はネガティブな歌詞とは裏腹に憂鬱を吹き飛ばそうとするラフなロックに元気を貰える。

チャットモンチーが大ブレイクを果たした作品で、メジャー感あるずっしりとした音作りとメロディーの充実ぶりが印象に残り、ガールズバンドの名盤というに相応しい出来のアルバムである。

ワールドイズユアーズ|MASS OF THE FERMENTING DREGS  

2009/1/21 Abocado Records

1. このスピードの先へ
2. 青い、濃い、橙色の日
3. かくいうもの
4. She is inside,He is outside
5. なんなん
6. ワールド イズ ユアーズ

兵庫県神戸市‎で結成されたオルタナティヴ・ロックバンド「MASS OF THE FERMENTING DREGS」、通称マスドレの2ndアルバム。

本作は元NUMBER GIRLの中尾憲太郎を共同プロデューサーに迎えて、1stに比べて音の分離が良くなった印象で、輪郭がはっきりとしたダイレクトなギターロックだ。NUMBER GIRLからの影響も感じさせ、ハードで疾走感のあるオルタナ系ギターロックサウンドに、センチメンタルなメロディーと青春の葛藤を含んだ歌詞、そこに透明感のある真っ直ぐな宮本菜津子のボーカルが乗り、聴く物の心を揺さぶる。とにかく宮本菜津子の声質が良い、憂いを含みながらも先に進もうとするような力強さを感じる一方で、可愛らしさもあり、ジュブナイル小説の主人公のような情感を伝えてくれる。

冒頭①からメロディックに疾走し解放感と爽快感を運んでくれる。
タイトル、曲調、歌詞すべてがたまらない青臭さがある②はこのバンドの良さが解かりやすく伝わるキャッチーな名曲で、女性ボーカルロック好きにはぜひ聴いて欲しい逸品。
他にもカオティックな轟音の③やマスドレ独自の世界観全開の⑥などエモーショナルな良曲揃い。

6曲という少ない曲数だが、全体通してまとまりが良く、このバンドの唯一無二の個性がしっかりと聴き手に届く傑作である。

ハイファイ新書|相対性理論 

2009/1/7  みらいrecords

1. テレ東
2. 地獄先生
3. ふしぎデカルト
4. 四角革命
5. 品川ナンバー
6. 学級崩壊
7. さわやか会社員
8. ルネサンス
9. バーモント・キス

前作『シフォン主義』で、衝撃のデビューを果たし、サブカル系女性ボーカルバンドを代表する存在となった「相対性理論」の2枚目となるアルバム。

ニューウェーブやポストロックといったニッチな音楽性を、可愛らしいスタイルで昇華しており、メインソングライター真部脩一の個性的なセンスが光る楽曲とやくしまるえつこの小悪魔っぽいキュートなウィスパーボイスが魅力である。

①はオシャレな雰囲気と魅惑的なボーカルが甘い空間に誘ってくれる。②は小悪魔的な女子高生という感じの青春ポップ、あざとくも聴こえるが、女性ボーカルものとしての虚構を完璧に構築しており面白い。
③は心霊がテーマの和風テイストの可愛らしい曲。④は相対性理論お得意のSF世界観な曲で、ここでないどこかへ連れていってくれる。
メロディーや言葉選びがキャッチーな⑦はガールズポップとしても優秀な名曲。⑨はやくしまるえつこの声の魅力を最大限引き出したバラード曲。

洗練されたはポストロック系サウンドは洒落たセンスの良さがあり、不思議系女子高生なキャラクターという感じのやくしまるえつこの歌声と絶妙にブレンドされている。ある意味ではアイドルにも通じる虚構を楽しめる刺激的な一枚だ。

ADVANCE GENERATION|TRiDENT 

2021/3/17 ジャパンミュージックシステム

1.Opening -the return of us-
2.JUST FIGHT
3.IMAGINATION
4.RIDE ON
5.SURVIVOR
6.Dystopia
7.Ambivalent
8.Brand New World
9.Continue
10.Supernova
11.Re:ply
12.Last Hope

ガールズバンド「ガールズロックバンド革命」がドラムに新メンバーを迎えて、改名した新バンド「TRiDENT」の1stフルアルバム。

疾走感溢れるメロコア風の曲調であるが、演奏はテクニカルでメタル要素もある。パワフルに歌い上げるASAKAのボーカルもカッコよく、気持ち良い高揚感が得られる曲が魅力的だ。

インストの①に続いて始まる②はこれぞTRiDENTという感じの重厚なサウンドと疾走感が気分を上げてくれる。③はメロディーラインの良さと歌詞のメッセージが際立つ曲、⑦はテクニカルなサウンド、ドラマチックな曲展開、熱量あるボーカルが凄まじくカッコいい。
代表曲といえる⑨はキャッチーなメロディーの爆走ロックで、まさに名刺代わりの1曲。ラスト⑫は1990年代のガールポップを思わせるような曲調は懐かしさもあり新鮮で、何回もリピートしてしまう傑作だ。

とにかく演奏、ボーカルと勢いが凄い内容である。女性ボーカルのロックで熱い感情を感じたい人には文句なしにおすすめできる作品だ。

New Beginning|BAND-MAID 

2015/11/18 Gump Records

1. Thrill
2. FREEZER
3. REAL EXISTENCE
4. Price of Pride
5. Arcadia Girl
6. Don’t apply the brake
7. Beauty and the beast
8. Don’t let me down
9. Shake That!!

メイド衣装でハードロックを基調とした渋いロックをパフォーマンスする異色のガールズバンド「BAND-MAID」の2015年リリースのフルアルバム。

メイド喫茶で働いた経験があるメンバーもいるが、そういった可愛らしい秋葉原文化のイメージとは裏腹に、高い演奏力と圧倒的なパフォーマンスに度肝抜かれる本格派ハードロック/ヘヴィメタルである。楽曲はAC/DCなど海外のハードロックバンドからの影響が強くあり、海外での人気と評価も高い。

リフ主体の重厚なサウンドのクールな①はBAND-MAIDを代表する名曲で、まさに女子ロック界のAC/DCと言いたくなるほどにカッコいい。
ガールズハードロックの名曲としか言いようがない爽快感抜群なキャッチーな③も本作の目玉ナンバーのひとつだ。王道的な問答無用なビートで押す⑧もアドレナリン吹き出る傑作ロックンロールでキラーチューンといえるだろう。他にもアルバム全編通して浮ついた印象はまったくない硬派なロックンロールが嵐のように押し寄せる内容である。

楽曲の完成度、演奏力ともにずば抜けており、クールなSAIKIボーカルも非常に魅力的である。とにかく理屈抜きにひたすらカッコよさを追求した素晴らしいガールズロックアルバムだ。

PS2015|ふぇのたす  

2015/3/11 ユニバーサルミュージック

1. 今夜がおわらない
2. ふふふ
3. 女の子入門
4. ファッション戦争
5. サラダになあれ
6. 夜更かしメトロ

2012年に結成された3人組のエレクトロ・ポップユニット「ふぇのたす」のメジャー唯一となる3rdミニアルバム。

ギター・シンセサイザー担当のヤマモトショウが全ての詩/曲/編を手掛けている。ボーカルMICOのキュートな歌声を生かしたニューウェーブエレポップで、曲タイトルからも分かるようにガーリーでドリーミーな世界観が特徴的。渋谷系のフューチャーポップにも通じるような作風で、メジャーデビュー盤ということもありサウンドは前2作より洗練されており、シンセサイザー主体のキャッチーで爽快なガールズポップが楽しめる。

リードトラックとなる①はふぇのたすを代表するダンスナンバーで、キャッチーがクセになり何度もリピートしてしまうエレクトロ・ガール・ポップの名曲。②や③のようないかにも「女の子」な可愛らしい曲もあり、ラスト飾る⑥はギターリフが印象的な切なさが残る良曲。

残念ながら本作がラストアルバムとなってしまったが、後にアイドルポップの名曲を多く手掛けるヤマモトショウの楽曲は、素晴らしいの一言だ。

pop go the happy tune|Melting Holidays 

 2005/9/21 Air Records

1. Pavement
2. Kiss your shadow
3. Butterfly dance
4. Memories of my love
5. Northern express
6. The first step in new party
7. Ladybug
8. I can fly

2000年代にインディーズで活動していた渋谷系音楽ユニット「Melting Holideays」の3枚目となるアルバム。

元祖渋谷系のピチカート・ファイヴやカヒミカリィからCymbalsなどの影響を感じさせる王道の渋谷系女性ボーカルポップだ。ソフトロックを基調としたオシャレサウンドに上品で清潔感のある女の子ボーカルが同居しており、爽やかな明るい楽曲は元気とハッピーを運んでくれる。

本作で注目したいのはこのグループでは珍しく日本語詩楽曲の①と⑤。①はイントロから胸躍る疾走感のある名曲。光が差し込むようなサウンド&メロディーそして透明感あるキュートなボーカルと三拍子揃ったパーフェクトなオシャレ系の女子ボーカルポップだ。⑤はミドルテンポのノスタルジックで切ないナンバーで、しっとりとした気分に浸らせてくれる。他にも清涼感ある②や洒落たボサノヴァの③など良い曲が多く充実した内容である。

楽曲の完成度は非常に高く、ほぼ理想的なイメージの渋谷系ポップなので、聴き手の期待を裏切らない1枚だ。

タイガー・リリィ|CECIL 

2004/3/24  ‎ UKプロジェクト

1. うらら
2. プラバルーン
3. 永遠と一日
4. 待ち合わせ

CECIL(セシル)は、元the REDSの中心人物であった大平太一がプロデュースした音楽グループで、本作はCECILとして最後の作品となった春がテーマのミニアルバム。大平太一が作るノスタルジックな楽曲に、セラニポージのボーカルも務めたゆきちのキュートなウィスパーボイスが見事にマッチングしており、非常に良質な渋谷系ポップロックである。

①はアコースティックサウンドと爽やかなメロディー、ゆきちが可愛らしい声で歌う春の情景に心が癒される名曲。曲構成としてはシンプルだが、誰が聴いても伝わる日本的な情緒は、音楽表現として優れており素晴らしい。
②は乙女チックなギターポップナンバーで、聴いていると少し気恥ずかしくなってくるが、可愛らしい青春ポップの傑作である。
③は力強さと切なさが同居するナンバー。伝わってくる芯の強さが聴き手に元気を与えてくれる。
④は遊び心がある楽曲で、おもちゃ箱をひっくり返したような雑多なサウンドがひたすら楽しい。

曲数は4曲と少ないがどれも粒ぞろいで、CECILの到達点といえる完成度の高い楽曲が味わえる1枚となっている。

That’s Entertainment|Cymbals 

2000/1/21 ビクターエンタテインメント

1. Show Business
2. What A Shiny Day
3. So You Want To Be A ROCK’N’ROLL STAR #4
4. Rain Song
5. So What?
6. So You Want To Be A ROCK’N’ROLL STAR #5
7. RALLY
8. Air Guitar
9. ANSWER SONG(alternate mix)
10. Mach 0.8~亜音速による移動~
11. So You Want To Be A ROCK’N’ROLL STAR #6
12. My Brave Face
13. Muzak Cycle
14. What’s Entertainment?

Cymbals(シンバルズ)は1997年から2003年まで活動していた3人組のバンドで、本作は2000年にリリースされた1stフルアルバムである。

後に作曲家としてアイドルポップなどを多く手掛けている沖井礼二のオシャレでポップな楽曲に土岐麻子のキュートなボーカルの渋谷系ポップは、サブカルに留まらない大衆性も獲得できそうな優れたポップロックであった。

冒頭①からこれぞ渋谷系という曲調であるが、目まぐるしいバンドサウンドはアグレッシブで、それまでの渋谷系バンドとは違う個性がある。②はキャッチーなリズムの胸躍るポップナンバー。
代表曲のひとつ⑦はこのバンドのコンセプトである「かわいくっていじわるな感じのバンド。ただしパンク」というキャッチーコピーのすべてが詰まった会心の傑作。可愛らしい女性ボーカル好きならほとんどの人に刺さりそうなJ-POP史上に残る名曲である。
⑧はネオアコな午後という感じのリラックスできる洒落たポップナンバー。⑫は清涼感溢れる爽快な気分を運んでくれる青春の名曲。

全編パワフルなロックサウンドとキュートな女性ボーカルが楽しめる贅沢な1枚といえる。後の女性アーティストに与えた影響もかなりあると思われる傑作アルバムだ。

APRIL|ROUND TABLE featuring Nino  

2003/4/23 ビクターエンタテインメント

1. Let Me Be With You
2. Dancin’ All Night
3. Beautiful
4. New World
5. Day by Day
6. Birthday
7. Book End Bossa
8. Where Is Love
9. Today
10. In April
11. Love Me Baby
12. Let Me Be With You (new step mix) (bonus track)

1993年に北川勝利を中心に結成された音楽ユニット「ROUND TABLE」が2002年から女性シンガーNinoをフューチャーして活動を開始し、本作はその名義での1stフルアルバムである。

音楽的には渋谷系のグループであるが、ゲストボーカルにNinoを迎えたこの名義では、アニメソングのタイアップを中心に楽曲を発表しており、ギターポップやソフトロックを基調としたオシャレな女性ボーカルポップは、元祖アキシブ系としても評価されている。

冒頭①はアニメにタイアップされてROUND TABLE featuring Ninoの名を世間に知らしめた名曲である。Ninoのキュートなボーカルやコーラスと洒落たサウンドは爽やかな風のように耳にスッと入ってくる。
②はファンキーなダンスポップナンバーで、職人芸のような高揚感が得られる旋律は文句なしの完成度で必聴だ。③は抜群のポップセンスに驚かされる可愛らしい曲。
④は力強いロックナンバーで、オルタナティブロック色の強い作風。
⑥はキラキラしたエレクトロポップナンバー。⑩は普遍的なポップネスを感じる傑作で、本作の目玉トラックといえるだろう。

とにかく北川勝利による楽曲が良く、抜群の才能を感じるポップセンスが随所に散りばめられている。渋谷系やアニメソングという枠だけではなく、良質なポップアルバムとして誰もが楽しめる内容だ。

Fennec!|SWINGING POPSICLE 

2000/1/26 ‎ ソニー・ミュージックレコーズ

1. 赤い光
2. something new
3. Rainyday&Sunshine
4. サテツの塔
5. あるべきかたち
6. my superstar
7. クラリネット
8. 冬休みにつき~いつか来る岐路に立ってすぐ飛ばされぬ様に
9. ROCK SHOW
10. シューゲイザー
11. 満月
12. TOURS DE FRANCE
13. remember

渋谷系スリーピースバンド「SWINGING POPSICLE」が2000年にリリースした2ndアルバム。同時期のAdvantage Lucyなどと共にオシャレなギターポップサウンドとJ-POP的な「歌」を交差させた楽曲で、1990年代後半~2000年代前半の渋谷系音楽界隈の女性ボーカルバンドものとしては人気の1枚である。

1stアルバムでは王道的なオシャレな渋谷系ポップを聴かせてくれたが、本作では輪郭がはっきりとした抜けが良いギターロックサウンドに、しっとりと歌い上げるボーカル、苦悩と向かいあった歌詞など味わい深い進化が見られる。

アコースティックギターが心地良い、切なさと力強さが同居するボーカルが印象的な①は、SWINGING POPSICLEの魅力が詰まった名刺代わりの1曲。フックのあるメロディーと作詞センスも光る疾走感溢れる④は中毒性も高い名曲で、淡々としながらもじわじわと心に沁みる切ないギターロック⑩と共にアルバムの中核をなしている楽曲だ。⑤はエモーショナルとしか言いようがない圧巻のバラードナンバーで、疲れた心にそっと寄り添ってくれる。⑧はドラマチックなオルタナティブロックで、サビの伸びのあるメロディーが良い。⑫は非常に上品な印象を残す日本産ギターポップの名曲だ。

単純にいい曲と良いサウンドがここにあるとった感じで、誰が聴いてもこのバンドの魅力はわかりやすく伝わる作風となっている。

CUTIE CINEMA REPLAY|CAPSULE 

2003/3/19 ヤマハミュージックコミュニケーションズ

1. open
2. sweet time replay
3. キャンディーキューティー
4. プラスチックガール
5. french lesson
6. music controller (piconova-mix)
7. おでかけ Go! Go!
8. fashion fashion
9. ウダガワフライデー
10. close

CAPSULE(カプセル)は中田ヤスタカとこしじまとしこの音楽ユニットで、本作は2003年リリースの2枚目となるフルアルバム。

ピチカート・ファイヴに代表される1990年代の渋谷系ミュージシャンの流れを受け継いでおり、当時ネオ渋谷系と言われたムーブメントの中心的な存在であった。ネオ渋谷系は、おもちゃ箱をひっくり返したような、女性ボーカルがキュートなエレクトロポップを聴かせるアーティストが多く、それらはフューチャーポップと呼ばれた。

本作の③はゲストにSonic Coaster Popを迎えた、ピコピコした可愛らしいテクノポップで、フューチャーポップのイメージがわかりやすく伝わる傑作である。初期のCAPSULEはこういったキュートさにこだわりを感じる電子ポップが多くあり、それらは後のkawaii future bassと言われるアーティスト達にも多大な影響を与えていると思われる。
Eelとコラボレーションした④は、オシャレかつファンシーな可愛い曲で聴き心地が良い。②や⑥などの渋谷系王道路線の小洒落たポップナンバーも嫌味なく聴かせ、中田ヤスタカの突出した音楽センスをふんだんに楽しむことができる。

Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースで、世間一般にも広く知られる中田ヤスタカだが、その才能の原石が詰まった、輝きのあるアルバムだ。

future electro star|Sonic Coaster Pop 

2001/1/25  LD&K

1. No.2001 [BPM135]
2. future electric machine [BPM180]
3. attraction pop [BPM185]
4. my star [BPM180]
5. sunny side up! [BPM205]
6. No.2002 [BPM135]
7. my star (star star mix) [BPM180]
8. attraction pop (happy space mix) [BPM185]

渋谷系エレクトロポップユニット「Sonic Coaster Pop」の2001年リリースの1stアルバム。

後にメンバーの鈴木アキラは自身のインディーレーベル『USAGI-CHANG RECORDS』を設立し、8bitポップのYMCKなどエレクトロ女性ボーカルユニットを多数輩出している。
中田ヤスタカのCAPSULEなどと共にネオ渋谷系フューチャーポップの先駆的な存在である。打ち込み主体のギターポップに清潔感のあるキュートな女の子ボーカルが乗るというスタイルで、おもちゃ箱をひっくり返したような音楽と形容されることが多かったフューチャーポップのひとつの形を完成させている。

ずっしりとした音作りとキャッチ―なメロディーは絶妙な味があり、非常に良く出来ている。胸をキュンとさせる王道ギターポップの旋律をエレクトロサウンドと組み合わせており、③や⑤などの傑作を収録している。特に疾走感溢れる⑤は胸をキュンとさせるエレクトロポップの名曲で、このまま埋もれるのはもったいない。いつ聴いても最高な1曲である。

2001年にこの音楽性を展開していたことは凄いことだと思うし、今聴いてもまったく色あせてはいない1枚だ。

乙女の勲章|デラ☆センチメンタル 

2006/3/15 R and C Ltd.

1. 恋するBeat!
2. 純情☆乙女ゴールド
3. 勝手にシンドロ~ム
4. マジョリカマジョリカ
5. Boyz BB Ambitious・・・orz
6. ロマンス宣言
7. センチメンタルブレイカー
8. <ボーナストラック>デラデラ宣誓しょん。

2000年代にインディーズで3枚のアルバムを残している女性ボーカルロックバンド「デラ☆センチメンタル」の2006年リリースのラストアルバムである。

ガレージロックやヘヴィロックな粗削りなサウンドに早口ラップが特徴的な乙女ロックンロールとでもいうべきか。ボーカルの可愛いが投げやりな歌声や身も蓋もない本音を言ってしまう歌詞など、インディーズでしか表現できない女性ボーカルバンドの面白さがある。

代表曲?といえそうな早口ラップと脱力ボーカルがインパクト大の②は名曲である。この早口ラップは今聴くと初音ミク登場前の人力ボーカロイドのようである。③などは女性ボーカルの音楽では禁じ手ともいえる駄目な女子を表現しており独自性がある。⑤は当時の2ch全盛のオタク文化をメタ的な視点で見た歌詞が冴えている。

本作には初期のような早口ラップはほとんどなく、純粋にロックンロールという内容だが、ボーカルや歌詞も含めクセになる独自の音楽性が楽しめる好盤である。

SPACE DREAM BATHROOM|エイプリルズ 

2005/5/18 SOFTLY!

1. THE BATHROOM SYMPHONY-Opening
2. キ・ラ・メ・キ・ムーンダイバー
3. COSMO ’80s
4. タイム・アフター・タイム
5. ADVENTUR IN SPACE
6. 虹の惑星
7. 世界を越えて
8. END OF DREAMING-Closing

本作は男女ツインボーカルの渋谷系バンド「エイプリルズ」が2005年にリリースしたアルバムである。ネオ渋谷系/フューチャーポップのアーティストの中でも、1980年代のエレポップに通じる音楽性で、キュートな女性ボーカルとレトロ感あるサウンドが楽しめる1枚だ。

曲のタイトルからして1980年代的な②は清涼感ある男女ボーカルの掛け合いが気持ち良い、疾走感あるスペーシーなエレクトロポップ。
③はTommy february6に通じるような、1980年代のエレポップを現代解釈したガールポップで、胸がときめくこと間違いなしの名曲である。④も王道の打ち込みサウンドで、ドリーミーな雰囲気が楽しめる。

渋谷系というサブカル音楽の枠に留まらない、多くの人にアピールできる傑作ポップアルバムである。

SURF-TRIP!|browny circus 

2004/8/4 GROOOVIE DRUNKER RECORDS

1. BOY meets SURF
2. walking with a smile
3. RIDE ON
4. your song
5. my girl
6. SURF AROUND
7. wendy
8. タイムマシンにおねがい

女性ボーカルのパワーポップ/パンクを聴かせるインディーバンド「browny circus」が KOGA/ GROOOVIE DRUNKER RECORDSからリリースした2枚目のアルバム。

ラモーンズmeetsビーチ・ボーイズmeetsフランス・ギャルと呼ばれた楽曲は、超キャッチーかつ超キュートなパンクポップで爽快感抜群である。透明感あるのに子供っぽい可愛い女性ボーカルがこのバンドの大きな魅力となっている。

冒頭①からアクセル全開なサーフパンクで、まさに「夏到来!」といった感じだ。②と③も問答無用に畳みかけるパンキッシュなパワーポップで、サビのメロディーの良さとキュートなボーカルに胸がキュンとなる。⑤は他の楽曲に比べるとテンポが遅めなので、メロディーの良さがじっくりと味わえる。
⑧は映画『下妻物語』のエンディングテーマに使用されたサディスティックミカバンドの名曲のカバー。本作唯一の日本語詩の曲であるが、これが実に良い出来でパワーポップ解釈の素晴らしいカバーとなっている。

理屈抜きに楽しい気持ちになれるパワーポップ/パンクが収録されており、独自の魅力があるキュートなボーカルに元気が貰える1枚だ。

アージ|Catch Up 

2000/3/9 Major Records

1. アージ            
2. やさしい光    
3. 6月   
4. マイペアレンツ           
5. STAR
6. アンダーフラワー        
7. U2    
8. Cold Green Soup(L)     
9. 窓際のコッコちゃん    
10. 暑い日はブレイク

現在はシンガーソングライターとして活動しているミナクマリがメンバーだったガールズバンド「Catch Up」のセカンドアルバム。

UKギターロックやUSインディーロックからの影響を感じるオルタナティブロックである。可愛らしい歌声とインディーバンドらしい粗削りなサウンドはライブ感があり、当時のインディーシーンの熱さを感じることができるだろう。

アルバムタイトル曲である①はシューゲイザーサウンドの透明感あるボーカルと切ないメロディーが印象的なナンバー。本作随一の名曲と言ってもいいだろう。②や⑧はストレートなオルタナティブギターロックで、葛藤や焦燥感を感じさせながらも可愛らしい歌声のおかげか重くはない。④は感動系のバラードナンバーで佳曲である。⑨はみんなのうたのような曲調が印象に残るガールズバンドならでは曲だ。

インディーバンドらしいラフなギターロックサウンドと、日本ならではともいえるキュートな女性ボーカルの組み合わせが楽しめる傑作アルバムだ。

Chronicle2nd|Sound Horizon

2004/3/19  Sound Horizon

1. 黒の予言書
2. 詩人バラッドの悲劇 ※
3. 辿りつく詩
4. アーベルジュの戦い
5. 約束の丘
6. 薔薇の騎士団
7. 聖戦と死神 第1部「銀色の死神」 〜戦場を駈ける者〜
8. 聖戦と死神 第2部「聖戦と死神」 〜英雄の不在〜
9. 聖戦と死神 第3部「薔薇と死神」 〜歴史を紡ぐ者〜
10. 聖戦と死神 第4部「黒色の死神」 〜英雄の帰郷〜
11. 書の囁き
12. 蒼と白の境界線
13. 沈んだ歌姫
14. 海の魔女
15. 碧い眼の海賊
16. 雷神の左腕
17. 雷神の系譜
18. 書の魔獣
19. キミが生まれてくる世界
20. <ハジマリ>のクロニクル (隠しトラック)21. <空白>のクロニクル (隠しトラック)

現在ではオタク音楽界の大物アーティストとなったRevoが率いる音楽ユニット「Sound Horizon」が、2004年にリリースした同人音楽作品としては最後となる6枚目となるアルバム。

全編インストルメンタル作品であったファーストアルバムのリニューアル盤となっている。アニメやゲーム系のファンタジックな物語性とそれを盛り上げるナレーションのような「語り」とドラマCDのようなキャラクターのセリフのパートがあるのが特徴的である。その「語り」とZABADAKや平沢進などに通じる幻想的な楽曲に、Aramaryの澄んだ美しい歌声が同居し、この手の幻想音楽系女性ボーカルものが好きなら堪らない魅力がある。

冒頭を飾る①はアニメ・ゲームソング的な疾走感あるシンフォニックな楽曲で、彼らの魅力が詰まった名曲である。③のようなアイリッシュトラッドサウンドの歌モノや演劇的な表現がユニークな⑬、メロディーとコーラスが美しい⑰、RPGゲームのラストバトルのような⑱、優しさと勇気を貰えてほっこりくる⑳などファンタジー音楽として聴き手の期待を裏切らない楽曲が多く収録されている。美しい女性ボーカルと民族音楽やハードロックを取り込んだサウンド、そして過剰なまでの「語り」やセリフがドラマチックに組み合わさり、圧巻の音楽オペラが楽しめる1枚だ。

Today Is A Beautiful Day|supercell 

2011/3/16 SMR

1. 終わりへ向かう始まりの歌
2. 君の知らない物語
3. ヒーロー
4. Perfect Day
5. 復讐
6. ロックンロールなんですの
7. LOVE & ROLL
8. Feel so good
9. 星が瞬くこんな夜に
10. うたかた花火
11. 夜が明けるよ
12. さよならメモリーズ
13. 私へ

ニコニコ動画で初音ミクの楽曲を発表していたryoを中心としたクリエイター集団である「Supercell」。本作はゲストボーカルにnagi(やなぎなぎ)を迎えた2枚目となるフルアルバムである。

サウンドはオルタナティブロック基調としており、ストレートに高揚感が得られるポップロックだ。ryoは音楽シーンに新しい価値観をもたらした初音ミクの「メルト」に代表されるように、聴いた人をスッと引き寄せる良質なポップネスをもっており、本作でもその魅力を存分に楽しむことができる。

アニメにタイアップされてヒットした②は、Supercellの名前を世間に知らしめた曲で、センチメンタルな青春の情景が浮かぶ名曲である。
⑨も②と同路線の疾走するロマンティックな青春ロックナンバー。
③は切なさと力強さを兼ね備えた傑作で、nagiのボーカルが良い味を出している。④はエモーショナルなロックバラードでこれも切ない曲。⑥は勢いあるハードなロックンロールで、ラフな演奏とボーカルがカッコいい。⑫は卒業をテーマにしており、J-POPの名曲のひとつに挙げたくなるほど良く出来ている。

一聴して耳に残るポップセンスある曲が多く収録されており、アルバム全体としてもまとまりが良い1枚だ。

Love+|第二文芸部 

2010/08/13

1. Like a Life, Like a Live!
2. O.H.B.I~校歌絶叫~
3. Let’s Jump!
4. 君の元へ
5. 南風
6. t r a v e l e r s
7. lead to your dream
8. go on a trip
9. Keep on going!!
10. 悲しきラガー
11. Happy Go!!
12. Get out!!

青春恋愛ロックンロールノベルゲーム【キラ☆キラ】の劇中に登場する架空のガールズバンド(女装男子含む)「第二文芸部」の1stアルバム『Love』に追加曲を加えて再発したもの。

音楽ユニット「milktub」が手掛けたと思われる楽曲(作家表記は第二文芸部)は粗削りなサウンドのビートパンクで、YUKI(JUDY AND MARY)やTama(Hysteric Blue)を思わせる椎野きらり(UR@N)のキュートでパワフルなハイトーンボーカルは聴いていて気持ち良い爽快感が得られる。

①はザラついたロックサウンドがクセになるストレートな青春パンクの傑作で、とにかく音色が良い。③は問答無用にアゲてくれるロックンロールナンバー。④は「静から動」に展開するドラマチックで切ないナンバー。⑥はJ-POPとして聴いても優秀な力強くキャッチーなポップロック。⑩はニューロティカのカバーで、女子ボーカルだと原曲とは違った味があり楽しく聴ける。

後にリリースしたアルバムのサウンドに比べると本作はインディーバンドのような粗削りさが特徴的で、宝石の原石のような魅力があり、ダイレクトに心に響く作品である。

T H E|tricot 

2013/10/2 BAKURETSU RECORDS

1. pool side
2. POOL
3. 飛べ
4. おもてなし
5. artsick
6. C&C
7. おちゃんせんすぅす
8. 初耳
9. 99.974℃
10. タラッタラッタ
11. CGPP
12. Swimmer
13. おやすみ

海外でも高い評価を獲得している4人組のオルタナティブロックバンド「tricot」の1stフルアルバム。ポストロックからの派生ジャンルであるマスロックという変拍子を多用した複雑なリズムの楽曲が特徴的である。椎名林檎に影響を受けたと思われる中嶋イッキュウのパワフルで色気あるボーカルとナンバーガールにも通じる切れ味抜群のサウンド、メロディーのキャッチーさは1度聴いたら忘れられないインパクトがある。

インスト①に続くこのバンド独自の不思議なユーモアセンスが感じられる②はリズム、歌メロ、歌詞などすべてにインパクトがあり、tricotの魅力がストレートに伝わる傑作ナンバー。③は青春時代の葛藤やノスタルジーを含んだ焦燥感が心に刺さる曲。代表曲といえる⑦はtricotの演奏テクニックが存分に楽しめるインストパート中心のナンバー。⑨はスリリングなバンドサウンドとサビメロのキャッチーさが耳に残る曲。ラスト⑬はセンチメタルでノスタルジックな気分になれる叙情的なナンバー。

演奏技術の高さはもちろんのこと、楽曲には女性的なしなやかさを感じさせる部分が多くありそれが大きな魅力となっている。2010年代のガールズバンドを代表する傑作アルバムである。

The Rooms 1st Demo|The Rooms 

2010/10/30

1. チアチアゴー
2. 炭酸幽霊
3. シャンプー

現在はシンガーソングライターとして活動しているkonore(こうのれい)がボーカルを務めていたインディーズロックバンド「the rooms」の初音源となる作品。粗削りなガレージロックサウンドに可愛らしい声質だが投げやりな歌い方のボーカルという組み合わせは、GO!GO!7188にも通じるものがあり。期待されていたバンドであったが、残念ながらほとんど音源は残さずに2013年に無期限活動休止しその後解散している。本作はデモ音源ではあるがこのバンドの魅力がストレートに伝わる優れた内容である。

代表曲①はまず強烈な歌詞のインパクトに驚かされるが、こうのれい独自の歌い回しとメロディーセンスが光るインディーロックの名曲といえるだろう。この個性的な魅力はかなり面白いので、アルバムを残さなかったのがやはり残念である。②は疾走感ある爽快なロックンロールで、①と同じく独自の作詞センスも良い。③もラフな勢いのあるナンバーでチャーミングな魅力がある。
曲数は3曲と少ないがこのバンドが可能性を秘めていたことが伝わる傑作である。

BLU-SWING 10th ANNIVERSARY BEST|BLU-SWING

2019/5/8 JUNONSAISAI RECORDS

1. Sunset (2019 Y.Nakamura Remastering)
2. Syndrome
3. I am
4. Find Your Way
5. Pulse
6. Fabulous
7. Sum
8. ゴールデンタイム
9. Lark
10. 満ちていく体温
11. 蜃気楼
12. 太陽のベール
13. Rain
14. Like We’re Lovers
15. Flash
16. ひとひら

2008年にメジャーデビューしたジャズ/シティポップバンド「BLU-SWING」の10周年を記念してリリースされたベストアルバム。オリジナルアルバムは入手困難なものが多くあるので、いいとこどりの内容である本作は手っ取り早くこのバンドの凄さと魅力が味わえる1枚だ。

シンセのイントロから始まる①は、ピアノ/サックス/ベースが絶妙に調和する緻密なサウンドとボーカルを務める田中裕梨のアンニュイな雰囲気漂う表現力抜群の歌声が、見事に組み合わさった名曲である。一度聴けば記憶に残るメロディーラインも優秀で、まさにパーフェクトな1曲。②はアップテンポな軽快に疾走するポップナンバーで、シンプルだが力強さを感じるバンドサウンドやメロディーは素晴らしい出来だ。
③は気持ち良いギターのカッティングやベースラインなど、お洒落なポップソングというイメージを具現化したような曲。⑥は大人な雰囲気のジャズポップで、技術の高いバンド演奏など刺激的な旋律が楽しめる。⑩は鳴り響くサックスが高揚感を与えてくれて、自然に耳に馴染む良質なメロディー&ボーカルは、J-POPとしても最高水準である。⑬はアコースティックでメロウなサウンドと美しいボーカルが心に安らぎを与えてくれる。⑮はドライブミュージックにしたくなる疾走感あるシティポップ王道チューン。

ジャズ/フュージョンを基調としたサウンドは隙のないほどの作り込みがされており、高度なバンド演奏が楽しめる。シティポップやJ-POPとして優れたポップな楽曲と豊かな表情を見せるボーカルの圧倒的な歌声は、文句なしにおすすめできるグッドミュージックと呼べる内容である。

NEW KINGDOM|the peggies 

2015/11/11  ぽっぽエクスプレス

1. グライダー
2. 青春なんかに泣かされて
3. LOVE in the TOKYO
4. ブリキ
5. 花
6. いきてる
7. 深海
8. ときめきシンフォニー
9. P/F

2011年に結成された3ピースガールズバンド「the peggies」の1stフルアルバム。
ソングライティングはボーカルを務める北澤ゆうほが手掛けている。JUDY AND MARY、Hysteric Blue、チャットモンチー等の流れをくむ北澤ゆうほの可愛らしい声質のハイトーンボーカルにストレートなロックサウンドという王道的なガールズポップロックである。

冒頭①は前向きな気持ちに溢れている直球のポップロックで、伸びやかなメロディーと力強い歌声に元気を貰えること間違いなしの名曲。②は切ないギターサウンドの青春エモロック。
③は北澤ゆうほのラフでキュートな歌声が光るロックンロールナンバー。⑥は真っ直ぐなメッセージが込められた心を打つバラードナンバーでとてもエモーショナルである。⑧は遊び心を感じるチャーミングな曲。ラスト⑨は静から動へとドラマチックに感情が波打つ渾身の1曲。

邦楽女性ボーカルバンドの伝統的な形のひとつであるパワフルでキュートなロックがいっぱいに詰まった傑作アルバムである。

Miracle Milk|Mili 

2016/10/12 さいはてレコーズ

1. Red Dahlia
2. Ga1ahad and Scientific Witchery
3. RTRT
4. Unidentified Flavourful Object
5. Meatball Submarine
6. Vulnerability
7. 与我共鸣-NENTEN-
8. Bathtub Mermaid
9. Cerebrite
10. Space Colony
11. world.execute(me);
12. Utopiosphere -Platonism-
13. Painful Death for the Lactose Intolerant
14. YUBIKIRI-GENMAN -special edit-
15. Sl0t
16. Past the Stargazing Season
17. Colorful
18. Komm, susser Tod

音楽ゲームDeemoやCytusなどのゲーム音楽を中心に多くの楽曲を手掛けている音楽グループ「Mili」のセカンドアルバム。
『世界基準の音楽制作集団』というキャッチーコピー通り、ファンタジックな世界観や異国情緒ある楽曲は海外でも受け入れられそうである。メンバーはボーカロイド系楽曲に関わっていた経歴があり、初音ミク登場以降と言えるボーカルの歌唱や楽曲構成など近年のアニメ/ゲーム系女性ボーカルポップの中でも興味深い内容である。

冒頭の荘厳な美しいバラード①に続く②は、西洋の雰囲気漂うプログレッシブなサウンドとシンフォニックなメロディーが素晴らしくて、ボーカルのmomocashew(現在はCassie Wei)の独自歌唱が中毒性を生み出す名曲である。③は中華な世界観とメロディー、クセになるリズムとボーカルなどMiliの真骨頂といえる曲。
④⑧⑫はガラス細工のように美しく、まさに幻想音楽と呼ぶに相応しい楽曲で、高揚感が得られる傑作バラードは聴いていてうっとりさせられる。Miliはこういった西洋的なシンフォニックに盛り上がるバラード曲を作るのが本当に上手。⑭もお得意の美しいバラードだが、日本語詩であることもあって切なくダイレクトに心に響くだろう。
代表曲である⑪は一聴すればSFな世界観が聴き手にしっかりと伝わるのが優れている。サウンドやボーカルの近未来的な雰囲気など、音楽としての表現力はピカイチだ。
ラスト⑱は新世紀エヴァンゲリオンの映画挿入歌のカバー。Momocashewの甘い歌声が持つ魅力が光っており原曲とは一味違う儚さがある。

全編に渡り完成度が高い楽曲のオンパレードで圧巻の内容だが、特筆すべきはやはりMomocashewの個性的な歌い回しである。ファンタジーやSFなど空想世界を表現するにぴったりのボーカルと言えるだろう。

circulation|ASHADA  

2006/7/20 ポセイドン/インター・ミュージック

1. 鍵〈Kagi〉 (Instrumental)
2. Snowflake (Instrumental)
3. 扉〈Deperture〉
4. sacred visions
5. ある少女の願い〈A girl’s wish〉
6. 螺子〈Neji〉
7. birth

本作は妙(vo.Mandolin.p)と緑(p.accordion)の2人からなる女性ユニット「ASHADA」の1stアルバムにして唯一となったアルバムである。プログレ風味もあるアコースティックでファンタジー色が強い楽曲は、影響を受けたというZABADAKに通じるものがあり。プログレバンドKBBの壺井彰久(vln)とDani (b)がゲスト参加しており、シンフォニックさもある楽曲を盛り上げてくれる。

プログレッシブなインスト曲①はピアノ、ヴァイオリン、アコーディオン、ベースなど様々な楽器が絶妙に絡み合う素晴らしい名曲。コーラスもいい感じで、異世界の物語が幕を開けるようなファンタジックな世界観に引き込まれる。続くタイトル通り冬を感じさせる②も同路線のインスト曲で、刺激的なアンサンブルが楽しめる。③は切ないバラード曲で、飾らない魅力がある歌声が印象に残る。⑥はこのアルバムと目玉と言っていいドラマチックでシンフォニックな歌モノで、アレンジの完成度も高い。⑦はナイーブな歌と浮遊感、透明感あるサウンドが癒しを与えてくれる。

プログレからの影響もある幻想音楽としてのサウンド構築は見事な出来で、素直でまっすぐな印象を残すボーカルも魅力がある傑作アルバムだ。

13leaves|fra-foa 

2002/9/19 トイズファクトリー

1. edge of life
2. light of sorrow
3. blind star
4. 出さない手紙
5. perfect life
6. green day
7. 消えない夜に
8. lily
9. 小さなひかり。
10. crystal life
11. 煌め逝くもの
12. afterglow

2000年にメジャーデビューしたオルタナティブロックバンド「fra-foa」のセカンドアルバム。ソングライティングはボーカルを務める三上さち子、プロデュースはCoccoなど数多くのアーティストを手掛けた根岸孝旨(Dr.Strange Love)。
1stアルバムは三上さち子の凄まじい気迫のボーカルなど、メランコリックで青臭い切なさが全開で情念が渦巻くような重い内容であったが、本作ではスタイリッシュで洗練されたサウンドとメロディーにシフトチェンジしており、多くの人におすすめできる良質なギターロックである。

冒頭①は唸りを上げるギターと自信とパワーに溢れた歌声に気持ちが高揚する、ロックンロールと呼びたくなる熱い曲。②と⑦は三上さち子の艶やかな歌声が印象に残るロックバラード。歌も上手いがとにかく声質に色気があり可愛らしくもあるので耳にすんなりと入って馴染みやすい歌声である。③はカッコいいストレートなロックで、心に真っ直ぐと響いてくる。⑨はオルタナティブロックとしても歌ものとしても優れている楽曲で、エモーショナルなメロディー&ボーカルが胸に迫る名曲。⑪は伸びやかなボーカルとメロディアスな旋律に飲み込まれる切なく力強い1曲。

やはり三上さち子のカリスマ性ある歌声の魅力は特筆すべきものがある。またシンガーソングライターとしても才能を感じる良質なポップロックが多く収録されており、根岸孝旨のプロデュースも素晴らしい。オルタナティブロックの名盤と言っていいだろう。

Dragonvarius|Dragon Guardian

2010/1/30  Dragon Guardian

1. 序曲
2. 暗黒舞踏会
3. 旅立ちの朝
4. 港街バッカス
5. 忘却の島
6. ドラゴンヴァリウス
7. 邪神への鎮魂歌
8. 白銀の髪
9. 忘却の島(SPECIAL MIX VER.)(ボーナストラック)

勇者アーサーによるヘヴィメタル音楽プロジェクト「Dragon Guardian」。2009年にリリースしたサードアルバムをリマスター&リミックスしてボーナストラックを加えた新装版である。
コンセプトはアニソンとメロスピ(メロディックスピードメタル)の融合で、疾走感あるメタルサウンドとシンフォニックなメロディーをパワフルに歌い上げる女性ボーカル(本作のゲストボーカルはFuki)が特徴的である。Sound Horizonと同じくRPGゲームのようなファンタジックな物語性があり、ナレーションのような語りでストーリーを説明したり、キャラクターのセリフなどのパートあり。

②はアニソンに親和性がある超シンフォニックなメロディーと激烈なメタルサウンド、Fukiの全身全霊の歌唱が高揚感を与えてくれる白眉のナンバーで、本作のリードトラックといえるだろう。③はタイトル通りに冒険の始まりを告げる力強いナンバーで、ベタな王道感みたいなものが良い。アルバムタイトル曲である⑥は10分を越える大曲で、静パートと動パートがドラマチックに絡みあい、壮大な叙事詩を奏でる。⑦はクライマックスのラストバトルという感じで物語の盛り上がりが頂点に達する熱い曲だ。

聴きやすいシンフォニックなファンタジーメタルとして重宝しそうな傑作アルバムである。

Cell-Scape|Melt Banana

2003/6/10 ‎ A-ZAP Records

1. Phantasmagoria
2. Shield for Your Eyes, a Beast in the Well on Your Hand
3. A Dreamer Who Is Too Weak to Face Up to
4. Lost Parts Stinging Me So Cold
5. Chain-Shot to Have Some Fun
6. Like a White Bat in a Box, Dead Matters Go on
7. Key Is a Fact That a Cat Brings
8. A Hunter in the Rain to Cut the Neck Up in the Present Stage
9. If It Is the Deep Sea, I Can See You There
10. Outro for Cell-Scape

海外での人気や評価が非常に高いノイズロックバンド「Melt Banana」。本作は2003年にリリースされた5枚目のアルバムである。日本のアンダーグラウンドノイズロックを象徴するような激烈な作品を多く発表していたバンドだが、前作『Teeny Shiny』(2000年)からボーカルYakoのハイトーンボイスを生かしたポップな作風にチェンジしており、本作ではその路線を更に進化させたキュートかつ奇天烈な独特のオルタナティブロックを聴くことができる。

冒頭のエレクトロニックなインスト①に続く②は音色が良いノイジーなギターリフと野太いベースラインが圧巻で、クセになるスペーシーな感覚と個性的だがキャッチーなリズムのボーカルも面白い魅力がある。③はスピード感ある幾化学的でSFチックなハードコアパンク。サウンドはハードだがボーカルがチャーミングなので親しみやすさがある。⑤も③と同路線のハードコアパンクで、痙攣したようなギターリフとドリルのような突進で高揚感が得られる。
⑦は奇天烈に疾走する変態ロックで、ボーカルの歌いっぷりがインパクト大だがキャッチーなのはさすが。⑨はこのバンドにしては珍しくサビで聴かせるギターポップっぽいメロウな旋律が耳に残る傑作。

注目ポイントはやはり可愛い声質とポップなリズムが魅力のYakoのボーカルで、歌唱法はぶっ飛んではいるが、ヒステリックな印象はなく親しみやすくファニーである。重厚なサウンド構築もロックとしてダイレクトな快感が得られるもので、女性ボーカルの長所を生かしたポップなノイズロックとして文句なしの1枚だ。

LISTENING SUICIDAL|Boat

2000/8/23  イーストウエスト・ジャパン

ディスク1

1. LISTENING 40(burn up the club ’99)
2. PLANET FOXY
3. 狂言メッセージ
4. グッバイ・マイ・ストレンジ・ナンバー28
5. 銀色うつ時間
6. ラッキー・スイサイダル
7. PRETEND
8. 代打デストロイ&サーチ
9. NO MESSAGE
10. 紋味
11. 雲番人Bと釣人A
12. DON’T YOU
13. LISTENING 40(close your eyes ’00)

ディスク2

1. Theme of BOaT
2. I CAN SEE THE RADIO WAVE
3. NIGHT HAWK NIGHT(NO MIX Version)

大学の音楽サークルを母体として1996年に結成されたロックバンド「Boat」。本作は2000年リリースの通算3枚目となるメジャー1stアルバムである。パンク、ヘビィメタル、サイケデリックロック、ギターポップなど様々な音楽要素を意欲的に取り込んだ個性的なミクスチャーロックで、リーダーA.S.E(ボーカル、ギター)が生み出すファンキーでサイケデリックな楽曲やアインのキュートなボーカルが魅力である。

冒頭エレクトロノイズインスト①に続く②は激烈なサイケデリックロックサウンドに圧倒されるが、メロディーセンスの良さが光り、透明感ある男女ツインボーカルが非常にポップに響く1曲。シューゲイザー楽曲として聴いても優れた逸品である。メジャーデビューシングル③はアインの可愛い歌声の魅力を最大限に生かしたファンキーかつキャッチーな曲で、特にメロディーラインはいつまでも記憶に残るものである。可愛い+激情な⑥はサビのA.S.Eのデスボイスとアインのキュートなコーラスの掛け合いが奇妙で面白い。良質なギターポップセンスを感じる⑧は、Boatのメロディーの良さとチャーミングさが味わえる。インスト曲⑫ではポストロック系の轟音を聴くことができて、懐の深さが垣間見える1曲。⑫はこれぞBoatという感じのラフなポップロックで、このバンドが持つ独特のノリ(サークルっぽさ?)も魅力である。
初回盤には3曲入りのボーナス8cmCDが付属しており、次作『RORO』で本格的に展開されるプログレ/ポストロック路線に通じるインストロック③などの佳曲が収録されている。

音楽的にはサイケデリックでマニアックな方向性だとは思うが、定評のあるメロディーの良さや飛び道具的とも言えるアインのキュートボイスで、ポップ感が際立つ仕上がりとなっている。またバンド自体に親しみやすい雰囲気があるので、それがアルバム全体からも感じられ大きな魅力となっている。

the Post|リーガルリリー

2016/10/19 Biotope records

1. ジョニー
2. ぶらんこ
3. リッケンバッカー
4. White out
5. 魔女
6. 好きでよかった。

3人組のガールズバンド「リーガルリリー」の1stミニアルバム。グランジやシューゲイザーから影響を受けたオルタナティヴロックだが、たかはしほのかのイノセンスを感じる歌声やポップなメロディーセンスには定評があり、聴きやすいJ-POP風のギターロックとして楽しめる内容である。

冒頭①はシンプルながら力強いギターサウンドと口ずさめそうなキャッチーなメロディーが親しみやすく、言葉選びのセンスを感じる意味深な歌詞も素晴らしい。②は感傷的なメロディーの良さが光り、センチメンタルな雰囲気に引き込まれる。リーガルリリーの代表曲と言える③はアグレッシブな演奏、メロディーに張り付いている個性的な歌詞など絶妙なバンドアンサンブルを奏でる文句なしの1曲。⑤は静から動へとエモーショナルに響く轟音ポストロックナンバーで、こういった曲調でもリーガルリリー色と言える個性が確立されているのはさすが。

オルタナティヴロックとして完成度が高いが、メロディーの良さや歌詞の鋭さなど歌モノとしても優れた魅力があり、幅広い層にアピールできる傑作ミニアルバムである。

人間なのさ|Hump Back

2019/7/17 林音楽教

1.LILLY
2.拝啓、少年よ
3.サンデーモーニング
4.コジレタ
5.生きて行く
6.オレンジ
7.Adm
8.クジラ
9.恋をしよう
10.ナイトシアター
11.僕らは今日も車の中

3人組のガールズバンド「Hump Back」のメジャー1stアルバム。フラワーカンパニーズやサンボマスターなどの『The日本語ロック』と呼べるような音楽性が女性ボーカルで楽しめる貴重なバンドである。メッセージほとばしるギミックなしのロックンロールで飾らない魅力があり、ボーカルの林萌々子の歌声はカリスマ性と親しみやすさの両方を兼ね備えており聴く物の心を揺らす。

冒頭①からストレートな等身大のロックが疾走し気分を上げてくれる。そして続く②はHump Backを代表する名曲で、シンガロングできる歌メロやメッセージ性の高い歌詞などすべてにインパクトがあるパーフェクトな1曲。多くの人にいつまでも愛されるような優れた楽曲である。⑤はつまらない日常の中でも前向きなパワーも貰える実にこのバンドらしい良い曲。⑨は切ないメロディーや歌詞が光る直球のラブソング。⑪はマイペースな雰囲気が心地良くて、気負わずのんびりと生きる力を与えてくれる佳曲。

2分前後の楽曲も多くあり、シンプルに歌いたいことをストレートなロックとして表現しており好感が持てる。憂鬱な日常の鬱憤を晴らしてくれるようなパワーに満ちた傑作アルバムである。

アラビアの禁断の多数決|禁断の多数決

2013/11/20 AWDR/LR2

1. 魔法に呼ばれて
2. トゥナイト、トゥナイト
3. 真夏のボーイフレンド
4. 今夜はブギウギナイト
5. リング・ア・ベル
6. ココアムステルダム
7. くるくるスピン大会
8. 踊れや踊れ
9. 勝手にマハラジャ
10. Crazy
11. フライデイ・ナッツ
12. 渚をスローモーションで走るも夢の中
13. バンクーバー
14. アイヌランド

動画サイトに投稿したPVが話題を呼び、2012年デビューした音楽制作集団「禁断の多数決」のセカンドアルバム。当初は謎に包まれていたグループであり、そういった匿名性を武器にしたネット時代を象徴するようなガールズポップである。音楽的にはアイドルポップや渋谷系に距離が近いと言えるが、前作収録の『透明感』のようなエレクトロポップやオルタナティヴロックをオマージュした楽曲もあり、遊び心を感じるところも魅力である。

本作のリードトラックと言える②は懐かしさを感じるキュートなエレクトロポップ。センチメンタルな情感が波のように押し寄せて胸がキュンとなる。③もキラキラした爽やかなエレクトロサウンドと感傷的なメロディーを歌う可愛らしいボーカルが心地良い。禁断の多数決はノスタルジックな雰囲気を作り出すのが非常に上手。⑤は渋谷系やソフトロックっぽいオシャレポップで疲れた心を癒してくれる。⑨はサイケデリックなムードのダンスポップで、歌謡曲っぽい歌メロも含めレトロなセンスが楽しい。
⑩はゆったりしたビートに乗った美しいメロディー&キュートなボイスに胸がときめく。⑭はワールドミュージック色が強いサウンドとビートが高揚感と感動を与えてくれる。

女子ボーカルの可愛らしさを生かした楽曲が多く収録されており、アイドルポップなどが好きであれば気に入る人が多いだろう。サウンドはよく作り込んである印象で、単純にメロディーの良さが光る楽曲が多い。ポップミュージックとして優れた1枚だ。

amp-reflection|school food punishment

2010/4/14  ERJ

1. signal
2. goodblue
3. butterfly swimmer
4. future nova -album edit-
5. 電車、滑り落ちる、ヘッドフォン
6. light prayer
7. after laughter
8. 04:59
9. 駆け抜ける
10. futuristic imagination -album version-
11. line
12. パーセンテージ
13. sea-through communication

ボーカル&ギターの内村友美を中心としたロックバンド「school food punishment」。本作はメジャー初となるアルバムである。ポストロックやエレクトロニカを取り込んだ洗練されたサウンドと内村友美のカリスマ性ある歌声はスタイリッシュで魅力的。特に内村友美の声質や歌い方が素晴らしく、それを生かした曲の数々はポップロックとして素晴らしいの一言に尽きる。2010年代のJ-POPとしても完成度の高い1枚だ。

インスト曲①に続く②からシンセとギターを軸に展開されるスペーシーな雰囲気と爽快なメロディー&ボーカルでschool food punishmentの世界観に一気に引き込まれる。②はしっとりとした序盤パートから力強いバンドサウンドが一気に疾走し、特にギター音色が良い。清涼感溢れるメロディーや透明感ある歌声は上質でポップセンスがある。③は新しい朝に未来への前向きな気持ちを込めたような瑞々しい旋律が気持ち良い。メリハリのついた立体的な音像は耳に残るものである。
⑥は暗闇の中を駆け抜けるような雰囲気と小気味良い疾走感が心地良くて、伸びやかなメロディーも素晴らしい。⑦は爽やかな風が吹くようなキュートなポップナンバーで胸躍る。⑧は都会的でクールなシティポップっぽいオシャレなナンバー。⑩はシンフォニックな旋律が怒涛のように押し寄せる名曲。この曲での内村友美のボーカルのカッコ良さは特筆すべきものがあり必聴である。

サウンドは細部までこだわりを感じるマニアックさもあるが、あくまでポップミュージックとして良いものを作っている印象で、幅広い層が楽しめる内容となっている。表現力豊かな歌声を聴かせてくれる内村友美は1人のボーカリストとしても才能があり、その魅力がたっぷりと楽しめるだろう。

あらためまして、はじめまして、ミドリです。|ミドリ

2008/5/14 Sony Music Associated Records

1. スキ
2. ゆきこさん
3. かなしい日々。
4. お猿
5. 根性無しあたし、あほぼけかす
6. ちはるの恋
7. ひみつの2人
8. 5拍子
9. ハウリング地獄
10. 無欲の無力

2003年に大阪で結成されたロックバンド「ミドリ」のメジャー初となるフルアルバム。2000年代に起こった関西ゼロ世代というムーブメントを代表するバンドのひとつで、ボーカルである後藤まりこの絶叫やセーラー服衣装での過激なパフォーマンスも話題になった。音楽性はラフなパンクを基調とするが、ジャズやプログレなどの要素もあり一筋縄ではいかないものとなっている。

パンキッシュな破壊衝動に満ちた②は本作の核となるナンバー。カオティックな凄まじい演奏だがメロディアスでもあり、その絶妙なバランスが素晴らしい。④はジャジーでキャッチ―なリズムのブルースといった感じで、後藤まりこの歌い回しがカッコいい。⑦はピアノの美しいメロディーと大阪弁のストレートな歌詞、やさぐれた歌唱という組み合わせが異色で面白い。⑧はタイトルそのまま5拍子の楽曲で、手数の多いドラムや哀愁漂うメロディー&ボーカルがエモーショナルに響く。⑨はメルトバナナを彷彿とさせるキャッチ―なアバンギャルドロックという感じで、アンダーグラウンドな激烈サウンドとポップなリズムの絶妙なブレンドが楽しめる。

メジャーリリースということもありインディーズ時代の作品よりもポップになった印象があるが、パンクな攻撃性は鋭さを増しており圧倒される内容である。またピアノをフューチャーしたジャズ要素によるものか、昭和の歌謡曲や場末のクラブのような雰囲気があり、それが大きな魅力となっている。

Indifferent|Interpose+

2007/6/27 POSEIDON Records

1. Rosetta
2. Man from the Forest
3. Dayflower – Part Three
4. Heliopause
5. Alive
6. Anonymous

1980年代から活動しているという長いキャリアを持つプログレバンド「Interpose+」のセカンドアルバム。前作はシンフォニック系のプログレとして優秀なアルバムであったが、今作はジャズロックを基調とした刺激的なバンドアンサンブルを奏でており、透明感という言葉がぴったりの女性ボーカルを生かした叙情的なロックが楽しめる1枚だ。

冒頭①は目まぐるしくスリリングな演奏のジャズロックでドラマチックな構成が光る。テクニカルな演奏と感傷的なメロディーや透明感あるボーカルが絶妙に調和しており聴き心地が良い。②は美しいピアノと優しい歌声から徐々に盛り上がり、後半はエモーショナルな爆発を見せる大曲。静から動への展開を違和感なく聴かせてくれており、このバンドの魅力が良く伝わる楽曲である。⑤は切ないロックバラードで叙情的なメロディーと歌声の良さがじっくりと味わえる。⑥は①同様のアグレッシブなバンドサウンドと美しいメロディーをバランス良く聴かせてくれる。

ラフで技巧的な演奏は文句のないカッコ良さがあり、そこに情緒に溢れるメロディーと耳に優しい声質の女性ボーカルが見事にハマっている。日本の女性ボーカルプログレの中でも傑作と言えるアルバムである。

or|Spangle call Lilli line

2003/6/11  felicity

1. piano
2. rrr
3. dism
4. B
5. nano
6. ma
7. metro
8. carb cola
9. ice track
10. soto

1998年に結成されたバンド「Spangle call Lilli line」の3枚目となるアルバム。ポストロックやエレクトロニカを基調とした透明感と浮遊感あるサウンドで、メランコリックでメロウな旋律に大坪加奈のアンニュイな雰囲気のボーカルがばっちりとハマっており、心に安らぎを与えてくれる。

①はミニマルなピアノのフレーズなど静かで美しいサウンドがドラマチックに展開されており、幽玄な世界へ連れていってくれる。孤独感や空虚感を感じるハスキーな歌声や親しみやすい叙情的なメロディーはこのバンド独自の魅力である。②もシカゴ音響派のような質感のポストロックサウンドではあるがキャッチ―でポップな魅力がある。③は浮遊感漂うシューゲイザーっぽいギターロック。代表曲のひとつ⑤は琴線に触れるメロディーと物憂げな歌声がメランコリックな情景に引き込む名曲。⑦はクセになるリズムと無駄を削ぎ落としたサウンドがエモーショナルに心に刺さり、⑧はひたすら美しい歌声とメロディーにうっとりさせられる。

アルバムとしての統一感は抜群で捨て曲なし。ポストロックはある意味ニッチで難解なジャンルに思われがちだが、個性的ながらもポップネスを大切にしている作風なので、幅広い層が楽しめる内容の1枚である。

CIRCLE|POLLYANNA

2016/1/6  Two sHOT

1. TAKE ME WITH OVERLAND
2. YUMEMITERU
3. HIT SPIKE
4. WANDERING ON THE SATELLITE
5. FURNITURE AND MOVING
6. CHEESE CHEESE CHEESE
7. LONG SPELL OF RAINY WEATHER

『最新型渋谷系バンド』をテーマに掲げて2014年に結成されたロックバンド「POLLYANNA」の1stミニアルバム。Cymbals直系の王道渋谷系女性ボーカル路線という感じで、アグレッシブなバンドサウンド、煌びやかなメロディー、キュートなボーカルと三拍子揃った爽快なポップロックが楽しめる。

①から期待を裏切らない直球の渋谷系ロックビートが鳴り響き気分爽快。ギターポップエッセンスをまぶしたワクワクするような旋律と可愛らしいボーカルは胸をキュンとさせてくれる。②はシューゲイザーなギターサウンドの浮遊感とキラキラしたメロディーに引き込まれる名曲。通好みのサウンドをポップに昇華しておりこのバンドのセンスを感じる1曲だ。③は切れ味鋭い演奏と大人な雰囲気のボーカルなど、クールなカッコ良さが光る。⑤は小洒落たレトロな雰囲気の男女ツインボーカル曲で渋い魅力がある。⑥はドタバタしたハードな演奏で、オシャレに疾走するご機嫌なロックナンバー。

渋谷系路線ではあるがロックサウンドは轟音ギターなどハードな印象で、インディーっぽいラフな部分と職人芸のようなポップネスが上手く融合していると感じる。

上々|ポップしなないで 

2020/11/11   ‎ KINGAN RECORDS

1. 魔法使いのマキちゃん
2. 夢見る熱帯夜
3. 救われ升
4. Creation
5. UFO surf
6. おやすみシューゲイザー
7. 2人のサマー
8. オシマイノリティ
9. 前頭葉
10. Life is walking
11. エレ樫
12. ミラーボールはいらない

2015年に結成された男女2人組のユニット「ポップしなないで 」の1stフルアルバム。キャッチコピーの【セカイ系おしゃべりJ-POP】というフレーズでも分かるように、ラップを主体にした独創的な世界観のポップロックである。ボーカルのかめがいあやこのハイトーンボーカルはチャーミングで爽快感があり、ポエトリーリーディングのような言葉の意味深な響きや相対性理論やパスピエにも通じるひねくれたポップ感など、まさにサブカル系ポップという感じの興味深い内容の1枚だ。

ポップしなないでの代表曲と言える①は日常の隣にあるファンタジーをユーモラスに表現しており、可愛らしくも切ない余韻が残る。②はポップなリズムとサビのはっちゃけた歌唱がインパクト大の不思議で奇妙なポップソング。イマジネーションを掻き立てる意味深な歌詞も面白い。③は可愛らしいパートからやさぐれたカッコ良さが光るサビへの展開が秀逸。⑥は夜にぴったりのメランコリックな切なさ全開だが、それと同時に前向きになれる力強さも与えてくれる感動的なナンバー。⑨は言葉遊び的なセンスのリリックとキャッチ―なリズムの殷踏みが印象に残るユニークなポエトリー楽曲。⑪は吉幾三の『俺ら東京さ行くだ』をオマージュしたと思われるパートのインパクトが凄いが、ポップかつねじれた世界観はハードSFのようで唯一無二の存在感がある。

力強い言葉をポップなリズムで歌っているので中毒性が非常に高く、歌詞など随所にインテリジェンスの高さを感じてしまうという不思議な魅力がある。一風変わった音楽性ではあるが、ポップミュージックとしての強度があるのが素晴らしい。

春愁秋思|空気公団

2011/2/16 フワリスタジオ

1. まとめを読まないままにして
2. 春が来ました
3. だんだん
4. 毎日はカノン
5. 絵の具
6. 僕ら待ち人
7. 日寂
8. 文字のないページ
9. 春愁秋思
10. なんとなく今日の為に

1997年に結成されたポップロックバンド「空気公団」の6枚目となるアルバム。はっぴいえんどからの流れを感じさせる日本の『歌』を大切にした作風で、何気ない日常の美しさを表現した楽曲がボーカルの山崎ゆかりの飾らない声で歌われている。普段の生活にそっと寄り添ってくれるような温かさがある良質なポップスに心が癒される1枚。

冒頭①から心地良い空気感のソフトロックなサウンドと山崎ゆかりの優しい歌声に心が和む。歌詞は印象に残るような言葉を上手く選んでおり、メロディーへの乗せ方も優れている。
②は春の訪れを爽やかな風のように表現したノスタルジックな歌で、ソフトながらも躍動感を感じるサウンドや美しいボーカルワークなど絶品である。③はのんびりとした雰囲気の歌モノだが、鋭い歌詞など前向きなメッセージに元気を貰える。⑤はピアノ伴奏を主体とした切ない歌声が光る曲。リバーブが効果的に響き、幻想的な空間に連れて行ってくれる。⑨は街の風景が浮かぶような季節感と心にふと感じる寂しさを叙情的に表現している。誰もが感じたことのある情感を美しい音色で紡ぎ出しており秀逸。
⑩は変わらない毎日の中に小さな幸せを見つけて、自己肯定できる勇気を貰えるメッセージが心に刺さる。さりげなく傍にいてくれるような柔らかさと芯の強さを併せ持つ名曲である。

街の風景やそこに生きる人の情感など、都会的なセンスを感じるアルバムであるが、格好つけたような所はなく、あくまで自然体で作られているので耳にスッと馴染んでくる魅力がある。

シー・ガット・ザ・ブルース|microstar

2016/7/20  VIVID SOUND/HIGH CONTRAST

1. Chocolate Baby
2. Tiny Spark
3. 月のパレス
4. 友達になろう
5. My Baby
6. 夕暮れガール (Album Mix)
7. 私たちは恋をする
8. She Got The Blues
9. 夜間飛行
10. おやすみ

渋谷系音楽ユニット「nice music」の佐藤清喜とボーカル飯泉裕子による音楽ユニット「microstar」(マイクロスター)のセカンドアルバム。1996年に結成されたという長いキャリアを誇るが2008年に1stアルバムを発表しており、近年多方面で高評価を得ている良質なポップユニットである。シティポップや渋谷系として語られるような都会的なオシャレポップスで、その卓越したポップセンスがふんだんに詰まった1枚。

冒頭①からウキウキするリズム、ご機嫌なメロディー、飯泉裕子の上品なボーカルとメリハリのある力強いポップネスが全開で、高揚感が得られる。耳への馴染みやすさなどお手本のようなグッドミュージックである。続く②も才気を感じさせる楽曲センスが光り、ワクワクするポップソングに胸躍る。③は爽やかな胸をキュンとさせるビートと歌声に自然と笑顔になれる。⑥は絵に描いたような王道シティポップのキラーチューン。普遍的なポップミュージックの魅力を大切しており、泣き笑いのようなセンスも印象的で素晴らしい。アルバムタイトル曲⑧はナイアガラサウンドのエモーショナルなバラード。いいバラード曲の教科書に乗りそうな職人芸が堪能できる。⑨は情景が浮かぶようなロマンティックな叙情性と美しさに心が洗われる素敵な1曲。ストレートに曲が良いのはもちろんこと、しっかりと情緒を含み表現されている世界観は胸の奥を刺激する。

とにかく全編に渡り曲が良いの一言に尽きる。シティポップ系女性ボーカル曲の理想形と言えるような完成度の高い内容だ。ある意味では似たような曲が多いのも事実だが、小難しさ抜きにこれだけいい曲ばかり聴かせてくれるのは凄いことである。

Little Gang Of The Universe|INSTANT CYTRON

2021/7/7    GT music

1. Ma petite fille
2. Little gang of the world (Dreamsville Version)
3. Playtime’ll be over
4. Love your way
5. Happy puppy in the desolation
6. My melodies
7. Christmas kills me
8. Stylissimo!
9. Good day broken heart
10. Jolly fellows
11. Lullaby in winter (bonus track)
12. Sing along (with your heart) (bonus track)

片岡知子と長瀬五郎の2人組の音楽ユニット「INSTANT CYTRON」(インスタントシトロン)。本作は2000年にリリースされた3枚目のアルバムをリマスターしてボーナストラックを加えて再発したもの。片岡知子の上品でキュートなボーカルを軸としたギターポップ、ソフトロック、ラウンジなどの幅広い音楽要素を含んだ渋谷系ポップロックである。ゲストにNRBQのメンバーが参加した楽曲もあり、その類い稀なポップセンスが冴えわたる1枚。

①はおもちゃ箱をひっくり返したようなトイポップサウンドの可愛らしいナンバー。ドリーミーという言葉がぴったりと合う聴けば笑顔になれる1曲だ。②はのんびりとした雰囲気と小さな幸せをみつけたようなビートが心地良く響き、メロディーセンスの良さとそれを最大限に生かす片岡知子キュートな歌声が最高である。③はアコースティックなサウンドのふんわりとした空気感の可愛らしい歌で、みんなのうたのような親しみやすさがある。⑥はカフェでまったりするようなオシャレで可愛らしいサウンド&温かいメロディーに優しく癒される歌声という上質な女性ボーカルポップのお手本のような曲。⑦はアレンジの良さが光るクリスマスソングで、切ないボーカルとスペーシーなサウンドに引き込まれる。⑨はカントリーミュージック風の軽快なビートが気持ち良く響く、陽気だがどこか切ない雰囲気もあるナンバー。ボーナストラック⑪⑫も本編の流れのままの完成度の高い楽曲が楽しめてお得である。

サウンドやメロディーの良さはもちろんこと、元気や癒しを与えてくれるような片岡知子のチャーミングな歌声が素晴らしい。まさにグッドミュージックと呼べる曲がふんだんに楽しめる内容である。

Chilli Beans.|Chilli Beans.

2022/7/13 A.S.A.B

1. School
2. lemonade
3. It’s ME
4. This Way
5. neck
6. アンドロン
7. マイボーイ
8. L.I.B
9. Tremolo
10. HAPPY END
11. blue berry
12. Vacance
13. シェキララ
14. call my name

YUIやVaundyを輩出した『音楽塾ヴォイス』の生徒だったMoto、Maika、Lilyの3人で2019年に結成されたガールズバンド「Chilli Beans.」の1stフルアルバム。レトロな感覚のガレージロックから現代風のエレクトロポップまで幅広い洗練された楽曲とMotoのクールだが静かな熱を感じるボーカルなど、アメリカのガールズバンドHaimにも通じるスタイリシュな踊れるガールズポップがふんだんに楽しめる1枚。

まず注目はVaundyとの共作で話題になった②と⑥である。②はChilli Beans.のブレイク曲となったキラーチューンで、シンプルなロックビートと抜群のポップネスが、耳にスッと入り馴染んでくる。メロディ―センスや楽曲の良さを最大限に引き出すボーカルなどJ-POPだけではなく洋楽エッセンスを上手く吸収した旋律を聴かせてくれる。⑥はシンプルだがダイナミックなサウンド&メロディーが大きなうねりを生み出す良質なガールズポップのお手本のような佳曲。他にも気だるい日常を突き抜けようとするようなレトロな感覚の青春ロック①、やさぐれ感とオシャレ感が同居するボーカルとギターリフが印象的な③、飾らない魅力が溢れる小気味よい⑦、Chilli Beans.流のシティポップという感じの⑨、メロディーセンスが光る、チャーミングで爽快感がある⑩など良い曲揃い。

いわゆるルーズな部分が魅力となるガールズバンドも多いが、フレッシュな雰囲気を持ちながらも熟練を感じるほどの完成度の高い音楽性は素晴らしいの一言。無駄を削ぎ落としたシンプルなサウンドが、メロディーの良さとボーカルの声質と上手くマッチしている傑作アルバムである。

Me|AliA

2021/12/22  SLIDE SUNSET

1. 天気予報
2. ノスタルジア
3. まあいっか
4. ケセラセラ
5. 翼が生えたなら
6. 100年に一度のこの夜に
7. impulse
8. equal
9. かくれんぼ
10. あかり
11. おにごっこ
12. SLIDE SUNSET
13. Me

2018年に結成された男女混合のロックバンド「AliA」の1stフルアルバム。ロックやクラシックなど様々なルーツを持つメンバー全員が主役であるという意味合いの『ハイブリッドロックバンド』をコンセプトにしている。キーボートとヴァイオリン含む編成でエモーショナルなビートを鳴らし、情緒たっぷりに歌い上げるAYAMEのボーカルの熱量も凄い。どこか懐かしい感じがする普遍的なポップロックの魅力を追求している作風はストレートで好感が持てる。またメンバーはアイドルグループ「yosugala」への楽曲提供を行うなど多方面で活躍しておりその才能を発揮している。

冒頭①は温かいサウンド&メロディーと感情豊かに歌われる前向きなメッセージに勇気づけられる。曇り空から青空に突き抜けるような旋律は心に感動的に響く。②はエモロック風のJ-POPという感じで、ヴァイオリンなどのシンフォニックなサウンドと王道感溢れるフレッシュな歌メロは一聴して耳に残るものだ。⑥は哀愁漂うメロディーを美しく歌い上げており、ハードロック調のギターとヴァイオリンの絡みも良い。⑦はアニソンやメロコア風のキャッチ―なメロディー&全身全霊の熱いボーカルが力強く疾走する。
⑨はアニメのMAD動画に使われることが多い人気曲で、AliAの真骨頂と言える速いテンポで畳みかける壮大なサウンドと叙情的なメロディーを歌う【エモい】としか言いようがない熱唱がドラマチックに迫る名曲。他の楽曲にも言えることだが、曲の最初から最後までここまでキャッチ―で盛り上がるのは普通に凄い。ポップミュージックの快楽原則を大切にしているバンドと言えるだろう。⑪は泣きのメロディーと力強く歌い上げるボーカルに心地良さがありいつまでも浸っていたくなる。⑫は王道感ある心に沁みる必殺バラードで、アニメやゲームのエンディングテーマとしてすぐに使えそうなノスタルジックな女性ボーカル曲として秀逸である。

とにかく日本人好みの哀愁漂うメロディーの楽曲を作るのが上手い。そしてそれにぴったりのAYAMEのエモーショナルな歌声はAliAの大きな魅力となっている。ノスタルジーやセンチメンタルな情感を直球で伝えてくれる熱い1枚だ。

ONE!|ネクライトーキー

2018/12/5 Necry Talkie

1. レイニーレイニー
2. こんがらがった!
3. めっちゃかわいいうた
4. タイフー!
5. 許せ!服部
6. オシャレ大作戦
7. がっかりされたくないな
8. だけじゃないBABY
9. ゆうな
10. 遠吠えのサンセット
11. 明日にだって
12. 夏の雷鳴

ロックバンド「ネクライトーキー」が2018年にインディーズでリリースした1stアルバム。バンド「コンテンポラリーな生活」やボカロP「石風呂」として活動していたギターの朝日が、女性ボーカルバンドをやるため2017年に結成。本作はそれまでに発表したシングルなどの既存曲はすべて新録されている。ボーカルを務めるもっさのチャーミングな可愛らしい歌声を生かした爽快なポップロックで、ちょっとひねくれた感じが面白いサウンドや脱力的な世界観など、渋谷系とアニソンを掛け合わせたようなユニークなパワーポップが楽しめる。

冒頭①からフレッシュな雰囲気と可愛らしさ全開の歌声に元気を貰える。手数の多いドラムやキッチュなキーボートの音色も楽しい。続く②はリズミカルなボーカルとメロディーの力強さが印象に残る。陰キャっぽい屈折した歌詞はユーモアセンスがあり、言葉をメロディーに乗せるのが上手い。③はタイトル通りひたすらかわいいうたであるが、ぶっ飛んだ歌詞や終盤の爆走などやけくそな感じが最高。⑤はユニコーンの『服部』オマージュしたと思われるコミカルで陽気な曲調だが、お金の貸し借りに関する身も蓋もないことを言ってしまう歌詞は、皮肉が効いておりメタな視点が冴えている。
⑥はもっさのチャーミングな魅力が全開の歌声と目まぐるしいキャッチ―な演奏が気分を上げてくれる。一緒に歌えそうなメロディーは親しみやすさがあり、劣等感をキュートに昇華して突き抜けるような爽快感を与えてくれる。
⑧はおもちゃ箱をひっくり返したようなキラキラしたサウンドと明るい歌声とは裏腹に、趣味などの現実逃避は楽しいが、しっかりと現実に向き合わななければならない時があるというリアルが胸に突き刺さる。⑨はノスタルジックなバラードで、もっさが声が可愛いだけでなく、歌唱力があることがよくわかる。ラスト⑫はアコースティックギター主体のシンプルな演奏から徐々に音数が増えて盛り上がるドラマチックな曲。叙情的で大きなうねりを生み出すメロディーが素晴らしい。

キャッチ―で中毒性がある曲が多く収録されており何度もリピートしてしまう魅力がある。キュートなだけでなく、文学的な歌詞やメロディーへの言葉の乗せ方など、日本語ロックとしても優れており、何より女性ボーカルバンドの重要な要素である好感が持てる雰囲気を持っているのが良い。

そういうことだった|マイミーンズ

2014/5/1 MYMEANS

1. そういうことだった
2. short days
3. 歩くような速さで
4. ハローグッバイハロー

音楽シーンに多大な影響を与えたロックバンド「ハヌマーン」解散後にメンバーであったベースの大久保恵理を中心に結成された「マイミーンズ」。本作は初リリースとなった4曲入りのCD。グッドメロディーと生々しいサウンドの音色や伸びやかで清涼感ある大久保恵理のボーカルなど、良質なポップセンスが光るギターロックである。

冒頭①はマイミーンズの代表曲となった女性ボーカルパワーポップの名曲。プリミティブなギターサウンドと親しみやすいメロディーを歌う飾らない素直なボーカルが良い。カラフルで爽快なビートはすぐに耳に馴染むもので、何度もリピートしてしまう魅力がある。
②は直球の青春ギターロック!という感じで、印象に残る痙攣するギターの音色や青空を見上げるような伸びやかな歌声が元気を与えてくれる。③は情景が浮かぶようなノスタルジックな旋律が胸に刺さる。淡々としながらも微妙な感情を伝える歌声など非常にエモーショナルな味わいがある。④は柔らかいメロディーやビートが爽やかな風のような心地良さを運んでくれる。ギターポップっぽいのんびりとした雰囲気は疲れた心を癒してくれる。

聴けば前向きな気持ちになれる良い曲揃いで、女性ボーカルのインディーロックとして文句なしの好盤。フルアルバムをリリースしていないのが残念だが、等身大のポップロックに胸がときめくこと間違いなしだ。

潮騒のうた|BELL&ACCORDIONS

2000/9/20 アンサンブル/Daizy Woods

1. 潮騒のうた
2. プロテストソング
3. HIMAWARI
4. STARZ
5. 空の重さ
6. 潮騒のうた(Chinese Version)
7. 潮騒のうた(Instrumental)

1980年代から活動しているロックバンド「ピカソ」とボーカル「かがわひろみ」によるバンド「BELL&ACCORDIONS」の1stミニアルバム。本作収録の『潮騒のうた』が1999年にNHKみんなのうたで使用されて人気となったことで知られている。かがわひろみの上品で真面目な印象を残すボーカルや哀愁漂う叙情的なロックサウンドと日本の正統派ポップスとして優れている歌メロなど、完成度の高い良質なポップソングを聴くことができる。

前述の①はやはり本作の白眉と言える名曲である。これでもかと叙情的なサウンドと歌謡曲っぽい切ないメロディーが鳴り響いており、歌声の真っ直ぐさや日本語として美しい歌詞などまさにこれぞ【日本の歌】という感じだ。
②はアコースティックサウンドのゆったりとしたパートからサビに向かって壮大に盛り上がる感動的なナンバー。日本人好みの叙情的なメロディーとシンフォニックな曲展開が大きなうねりを生み出している。④は幻想的なサウンドと歌謡的な歌メロを上手く組み合わせた切なさ爆発する曲。特にサビの泣きのメロディーは普遍的な感動を届けてくれるもので、情緒たっぷりに歌い上げるボーカルも良い。⑤も日本の歌謡ポップスとして印象に残る曲で、懐かしさを感じるメロディーは口ずさみたくなる親しみやすさがある。⑥は『潮騒のうた』の中国語ヴァージョンで、サウンドも中華風のアレンジになっているのが面白い。

基本的には冒頭の『潮騒のうた』と同タイプの曲が続くので、みんなうたで気に入った人が聴いたら満足できるように制作してあると感じる。日本人好みである哀愁の歌メロや叙情的なサウンドがふんだんに楽しめる1枚だ。

ぼくはバカだよ。|アサキ 

2018/3/7 ‎ 術ノ穴

1. Gender
2. シンメトリー
3. Give me a hand
4. unwise
5. 夢中歩行
6. FR

2018年に泉まくらなどを輩出した音楽レーベル術の穴(現ササクレクト)からデビューしたシンガーソングライター「アサキ」(現在は4s4ki)の1stミニアルバムである。

泉まくらやDAOKOの流れをくむようなティーン女子の等身大のヒップホップ路線だが、切ない雰囲気を盛り上げるシンプルなトラックとキャッチーなメロディーは耳に馴染みやすく、自身の葛藤と向かい合って吐き出したようなリリックを歌う素直なボーカルに心揺らされる1枚だ。

冒頭①は渋谷の街と三角関係をテーマにした切なくメロウなナンバー。曲構成はシンプルだが、耳に引っかかるリリックなど感性の鋭さがダイレクトに聴き手に伝わり、その時代性を捉えたようなフィーリングに驚かされる。
②はメランコリックな雰囲気抜群のトラックが素晴らしくて、まるで独白するようなボーカルが心に沁みる名曲である。
③はサビの高音の儚い歌唱が美しくて引き込まれ、④はノスタルジックな旋律と青春の苦味に胸が締め付けられる。
⑥は有り体に言えばまさに等身大の言葉を紡ぐ楽曲、率直に飾らない自分自身の意思や葛藤をラップしており、聴き手の心に大きな引っかかりを残すだろう。

この後、アサキは4s4kiに改名して、ラップだけに留まらずハイパーポップ、エレクトロポップ、ロックなど様々な音楽を雑食的に取り込み独自の音楽スタイルを築き上げている。原点と言えるこのデビューミニアルバムでのシンプルかつ素直な作風は、まさに宝石の原石と呼べる輝きが感じられる。ここまでストレートな印象を残す作風も珍しいもので、貴重な作品といっていいだろう。

超怒猫仔/Hyper Angry Cat|4s4ki 

2020/12/16 SAD15mg

ディスク1

1. 超怒猫仔 (ブチギレニャンコ)feat.Mega Shinnosuke,なかむらみなみ
2. I LOVE ME
3. monmon
4. 猫Jesus猫
5. 35.5
6. Liar feat. CVLTE
7. 欠けるもの
8. escape from
9. ラストシーン
10. ラベンダー
11. kg
12. gekkou

ディスク2

1. おまえのドリームランド
2. プラトニック
3. NEXUS feat.rinahamu
4. moniko feat.Anatomia
5. 風俗嬢のiPhone拾った feat.Gokou Kuyt
6. サキオはドリームランド
7. lover
8. eyes feat.Rin音
9. bed
10. SUCK MY LIFE
11. SUCK MY LIFE2
12. クロニクル

2018年に泉まくらなどを輩出した音楽レーベル術ノ穴からデビューしたシンガーソングライター「4s4ki」(アサキ)の1stフルアルバム。2019年後半から2020年に配信した作品と新曲とで構成された2枚組の大作となっている。KOTONOHOUSE、Snail’s Houseなどの有名トラックメイカーやラッパーのGokou Kuyt、Rin音といった多彩なメンツが参加した刺激的な作品に仕上がっている。デビューミニアルバムでは、DAOKOの流れをくむようなティーン女子の等身大のヒップホップ路線だったが、その後はラップだけに留まらずエレクトロ、ロックなど様々な音楽を雑食的に取り込み、ハイパーポップというジャンルで語られるような独自の音楽スタイルを築き上げている。4s4kiは感性が非常に現代的であり、曲のテーマも時代性を捉えているものが多い。良い意味で初々しさもあるキュートな歌声も魅力で、優れた2020年代のオルタナティブガールポップである。

ディスク1は4s4kiの先悦的な姿勢が感じられる曲や心に沁みるものまでバラエティに富んだ内容である。
Gigandectと共作した①はゲームボーイ音源で作られた8bitサウンドがレトロな感覚を刺激し、情報量の多いカオティックな音響に飲みこまれる。②はメランコリックな雰囲気のエレクトロポップで、葛藤や苦悩を受け入れて前に進もうとする歌詞や切ないメロディーなど耳に残る傑作。⑤は疾走感溢れる電子サウンドにぴったりのボーカルが気分を高揚させてくれる。⑦は4s4kiの大きな魅力のひとつである飾らない素直な声で歌われる切なくメロウなラップが心に刺さる。⑫も自己の葛藤を素直に吐き出した歌詞や淡々としながらも感情の揺れを感じる歌声など切なく心に響く。

ディスク2は4s4kiの良質なポップセンスを感じられる曲が多くあり、より多くの層にアピールできそうな内容だ。
①はKOTONOHOUSEと共作した名曲で、印象に残るキャッチ―なリズムなど、楽曲の出来が良く、葛藤しながらも前を向こうとする姿勢を垢抜けたセンスで煌びやかに表現している。メロディーはPerfume的な親しみやすさがあり、歌詞の言葉選びのセンスやラップパートのリズム感もカッコいい。③もKOTONOHOUSE との共作曲で、ゲストボーカルにCY8ERのrinahamu(苺りなはむ)が参加している。4s4kiとrinahamuのフィーリングは相性ばっちりで、キュートでストリート感溢れるスタイリッシュな旋律に元気を貰える。⑤はGokou Kuytと共作、共演した楽曲で、4s4kiを代表する曲のひとつである。ユニークな曲名に驚かされるが、切ない歌唱とやるせない歌詞、メランコリックなメロディーが心に沁みる。Gokou Kuytのボーカルパートも良い味わいがある。⑧はRin音と共作、共演した楽曲で、2人のボーカルが切ない雰囲気をしっとりと盛り上げてくれる。ラスト⑫は切々歌われるメッセージに心震える名曲。弱者に寄り添うような視点の無力感がやるせない歌詞や儚さや刹那感が伝わるボーカル、切ないメロディーなどまさに魂が込められた渾身の1曲である。

雑食的な作風で4s4kiの音楽家としての様々な顔が楽しめるお得な作品である。根底にあるのは聴き手に良い曲を届けたいという真っ直ぐな姿勢で、全体通してそれがよく伝わってくる内容である。楽曲は無力感や虚無感といったネガティブな感情をテーマにしたものも多いが、聴き手を限定するような実験的な重さはなく、しっかりと4s4ki流のポップソングとして成立させているところが素晴らしい。

’99 PEACHY|uyuni

2020/12/23  ROMANTIC°

1. intro
2. anone
3. MUSTARD
4. 711071
5. sparking romance
6. After hours
7. swimmer feat.Le Makeup
8. Blueberry Gum
9. stay alive feat.Saint Vega
10. Skit
11. whisper
12. Mellow feat.堂村璃羽
13. Sleeping Sheep – Kazui_Datura Remix

作詞、作曲、トラックまでセルフプロデュースで楽曲制作を行う福岡県出身のラッパー/シンガーソングライター「uyuni」の1stフルアルバム。

自己を俯瞰した鋭いリリックを可愛らしさもある特徴的な低音ボイスでラップしており、非常にエモーショナルなヒップホップだ。DAOKOや泉まくらなど文科系女子ラップの系譜にも通じる部分はあると思うが、uyuniの楽曲はメンヘラチックな部分はあまりなく、リアルなストリート的な生活感を感じるラフで突き抜けた力強さがある。また彼女の「声」そのものに言い知れぬ魅力があるのも注目すべき点である。

本作のリードトラックのひとつである③は、自身のバンド出身という経歴を生かしたギタープレイを存分に披露しているロックナンバー。uyuniのこういったガールズロック系の曲にも見事にピタッとハマるような尖ったキャラクター性は魅力的だ。④はシンプルでクールな雰囲気だが、uyuniのぶれない強い軸を感じる傑作。聴く物にしっかり届くメッセージ性があり、「言葉」を生み出すセンスに溢れている。⑥もシンプルなミドルテンポのラップだが、とにかく声が良い。
⑧はイントロから引き込まれる、突き刺してくるリリック&メロディアスな楽曲で、キュートな女性ボーカルポップの名曲。こういった耳にすんなり入ってくるポップセンスある曲が作れるのは才能を感じる。⑪もキャッチーなリズムと独特のフロウで引き込まれる。

他にも男性ラッパーをフューチャーした楽曲もあり充実した内容である。どれも、uyuni自身の音楽に対する真面目さとぶれずに自分を貫き通す意思が感じられ、それをポップに仕上げている傑作アルバムだ。

春と修羅|春ねむり 

2018/4/11 パーフェクトミュージック

1. MAKE MORE NOISE OF YOU
2. 鳴らして
3. アンダーグラウンド
4. 春と修羅
5. zzz
6. ロストプラネット
7. せかいをとりかえしておくれ
8. 夜を泳いでた
9. zzz
10. ナインティーン
11. ゆめをみよう
12. zzz
13. ロックンロールは死なない with 突然少年
14. zzz
15. 夜を泳いでた(Nemu remix)
16. アンダーグラウンド feat.NERO IMAI(shnkuti remix)
17. 鳴らして(長谷川白紙 remix)

2018年にリリースされたラッパー/シンガーソングライター「春ねむり」の1stフルアルバム。

少年のような声で歌われるポエトリーリーディング色が強い〈言葉〉を主軸に、ヒップホップからシューゲイザーまで幅広いジャンルのサウンド取り込んで独自の世界観を構築している。その異質ともいえる個性は海外でも評価が高い。本作はそんな彼女の圧倒されるほどの熱量が存分につまっている1枚だ。

名曲②や突然少年をフューチャーした⑬は、まるで戸川純と神聖かまってちゃんが出会ってしまったような熱いロックンロールで、彼女のスピリットを感じるエキセントリックな感情に胸を突き動かされる。
アルバムタイトル曲の④は、宮沢賢治の同名小説からインスパイアされたという、ポエトリーラップ×シューゲイズといった感じの、轟音をバックに綴られる文学的な歌詞は叙情的でもあり、聴く物を春ねむりの世界に取り込んでしまうような力強さがある。代表曲のひとつである愚直までの真っ直ぐさの⑪など、春ねむり節といえるような独特の世界観がありオリジナリティを確立している。

いわゆる文科系女子ラップではなく文学系激情ラップと言ってしまいたい希有な女性アーティストのひとりである。

 

as usual|泉まくら 

2019/7/24  術ノ穴

1. as usual
2. あの夜に
3. エンドロール
4. 思い出の昼下がり
5. ラスト
6. sunshine
7. something blue
8. yunagi
9. 君のかがやき
10. いのち feat.ラブリーサマーちゃん

2012年に音楽レーベル術の穴よりデビューしたフィメール・ラッパー「泉まくら」の6枚目となるアルバム。DAOKOなどと共に『文科系女子ラップ』の代表的なヒップホップMCである。打ち込みやジャズなどオシャレなトラックに乗るポエトリーリーディング調の日本語をハスキーなウィスパーボイスでラップするのが特徴的で、少しメンヘラチックな女の子のリアルな生活感を上手く表現している。

冒頭を飾る①や⑧はサウンドも歌唱もドープな雰囲気な曲。彼女のボーカルは可愛いらしものも多いが、こういった低音ボイスでつぶやくような歌唱スタイルは魅力的で、聴き手の心の深い場所に入り込んでくる。③はシティポップ風な洒落たトラックにメロウなフロウが心地良い傑作。⑩は「202」以来となるラブリーサマーちゃんとの共作となる切なさ爆発のエモーショナルな名曲。泉まくらのラップもリリックが心に引っ掛かり、サビでのラブリーサマーちゃんの歌唱も良い。

初期にあった初々しさに比べるとアーティストとしての成熟が感じられ、完全に泉まくらとしての独自のラップスタイルを確立しており、音楽作品として完成度が高い。

ALWAYS FRESH|仮谷せいら 

2022/6/15 PUMP!

1. シュドン
2. ZAWA MAKE IT
3. Midnight TV
4. ONE S’MORE
5. 話をしようよ
6. Odora Never Cry
7. HOME
8. HYPE
9. 水星
10. Colorful World
11. 本音

tofubeatsの『水星 feat.オノマトペ大臣』のPVに出演したことで一躍有名になったシンガー/シンガーソングライター「仮谷せいら」の1stフルアルバム。

フックのあるメロディーと清涼感と力強さに元気を貰える彼女のボーカルはまさにグッドミュージックの申し子のようだ。本作はこれまでにEPで発表された名曲群と新曲も収録された充実した内容である。

代表曲といえる⑩は、2010年代のガールズポップの名曲といえるだろう。楽曲はもちろん、憂鬱を吹き飛ばすようなエネルギーを与えてくれる歌声は素晴らしいの一言。⑩と同路線のAbema TVの番組タイアップの⑥も前向きなパワーに満ちているかっこいい曲で文句なし。
②のようなオシャレかつ大人っぽいスタイルも違和感なくこなしており、これまたとても良い曲だ。前述のtofubeatsの名曲カバー⑨は以前カバーしたものにあった初々しさとは異なり、シンガーとしての大きな成長を感じることができ、感情豊かな歌の表現力を感じることができるだろう。
自身作詞作曲のアコースティックバラード⑪はしっとりとした雰囲気の中にも葛藤に立ち向かう意思が込めらている。

仮谷せいらのボーカルは王道的なガールズポップ/ロックにベストマッチする。透明感と力強さの両方を兼ね備えた歌声は、聴き手にパワーを与えてくれること間違いなしだ。

VILLA|HALLCA 

2019/9/25  MAGELLAN-BLUE RECORDS

1. Diamond
2. Show the Night
3. burning in blue
4. WANNA DANCE!
5. コンプレックス・シティー
6. Utopia
7. Dreamer
8. Milky Way
9. モイスチャーミルク
10. guilty pleasure (Blackstone village remix)
11. Diamond (Yohji Igarashi remix)

Especiaのリーダーであった冨永 悠香がグループ解散後に「HALLCA」名義で活動を始めて、2019年に発表した1stフルアルバム。Especia時代から楽曲制作に携わっていたPellyColoやRillsoulが楽曲提供しているほか、自身でも作詞と作曲も手掛けており、シンガーソングライターとしても一歩踏み出した記念碑的作品である。Especiaからの流れを組むシティポップ、アーバンポップ路線で、大人の魅力を感じるオシャレポップが楽しめる内容となっている。

その魅力は冒頭①から全開で、良質なシティポップのお手本のような楽曲は素晴らしいの一言。HALLCAの透明感あるアンニュイな雰囲気のボーカルも楽曲にベストマッチしており、文句なしの傑作だ。②は胸躍る王道シティポップナンバーで気分が高揚する。
代表曲といえる④はHALLCAが初めて作曲したそうで、これが元気を貰えるダンスポップの名曲である。シンプルだが力強いサウンドも良いし、何よりHALLCA自身の音楽に対する真面目さが伝わってくる。
⑤は1980年代的な懐かしい感じのポップでカッコいい。⑦は細部にもこだわりを感じる煌びやかなサウンドの出来が素晴らしくて、何度聴いても新鮮な感動がある。

希有なガールズグループであったEspecia解散後に、再び自分自身で素敵な音楽を作りだそうとする姿勢とその真っ直ぐな楽曲が心に響いてくる。聴いていて真摯な気持ちが伝わる傑作アルバムだ。

THE THIRD SUMMER OF LOVE|ラブリーサマーちゃん

2020/9/16 日本コロムビア

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

キュートな歌声を武器にイケてるロックンロールを鳴らす女性シンガーソングライター「ラブリーサマーちゃん」。これはフルアルバムとしては3枚目となる作品である。初期の頃は可愛らしいウィスパーボイス、音楽性ともに相対性理論(やくしまるえつこ)からの影響が強かったが、作品を重ねるごとにオリジナリティー開花させている。本作はUKロック色が強い作風で、the brilliant greenへのリスペクト精神も感じる。

③や⑥はハードなギターサウンドに、声質は可愛らしいのに気だるげな歌い方のボーカルが乗り、それがたまらなく良い。⑨はまさにブリグリ風だが、彼女の儚げなボーカルが印象的。⑦と⑪は彼女の真骨頂ともいえる傑作。⑦は前向きに生きるパワーを与えてくれて、⑪はシンプルなギターロックだが、メロディー、歌詞ともに素晴らしく心に沁みる。ロック好きにはぜひ聴いて欲しい名曲。

全体通してノリノリで気持ちよく聴けて、ラブリーサマーちゃんのロックスピリットが全身に伝わってくる傑作アルバムである。

絶対少女|大森靖子 

2013/12/11  PINK RECORDS

1. 絶対彼女
2. ミッドナイト清純異性交遊
3. エンドレスダンス
4. あまい
5. Over The Party
6. 少女3 号
7. プリクラにて
8. PS
9. hayatochiri
10. W
11. 展覧会の絵
12. 青い部屋
13. あれそれ
14. 君と映画
15. I&YOU&I&YOU&I

サブカル系女性シンガーソングライターの代表的な一人といえる超歌手「大森靖子」の2枚目となるフルアルバム。プロデュースはカーネーションの直枝政広が手掛けている。戸川純や椎名林檎の流れを受け継いだ不思議ちゃんキャラと女性の情念が渦巻くメンヘラチックな楽曲はインパクト大だ。ソングライティングの才能がずば抜けており、個性的な面白い女性ボーカルポップを多く生み出している。

本作の①と②は大森靖子のカラーを決定づけた名曲で、未だに色褪せないサブカル系女性ボーカルポップの金字塔である。①はクセになるキャッチーなリズムと突き刺してくる独自の歌詞センスなど素晴らしい曲。②は1980年代っぽいサウンドのレトロチックなポップソング。この作曲センスの良さは特筆すべきものがある。
③は心がほっこりする可愛らしいアコースティックバラードの傑作。切なさ爆発の④、Theピーズの名曲『実験4号』のオマージュと思われる⑥、アバンギャルドなサウンドとボーカルの表現力が凄い⑪、重くシリアスなピアノバラード⑫など、そのボーカルスタイルも含めソングライターとしての才能が遺憾なく発揮された楽曲の数々は聴きごたえ抜群である。

人にサブカルっぽい女性ボーカル音楽とはどんな感じかと聞かれれば、迷わず本作を聴いてもらうほどに、少し奇妙なポップミュージックがふんだんに味わえる名盤である。

R°(アール)|RURUTIA 

2002/3/6 EMIミュージック・ジャパン

1. エレメンツ
2. 知恵の実
3. 愛し子よ
4. ロスト バタフライ
5. 赤いろうそく
6. 雨の果て
7. 僕の宇宙 君の海
8. 僕らの箱庭
9. 銀の炎
10. ハートダンス

プロフィールは非公開で謎に包まれ、ライブ活動も一切行わないシンガーソングライター「RURUTIA」(ルルティア)の2002年リリースの1stアルバム。

当時、音楽性を説明する際にCoccoが引き合いに出されており、確かにサウンドや曲調は通じるものあるのだが、大きく違う点として、ルルティアのボーカルスタイルは囁くようなウィスパーボイスである。

彼女の神秘的な魅力が全開の①、オルタナ系ギターサウンドに儚い歌唱が乗る②、女神のような母性を感じるデビューシングルの③、エモーショナルなメロディーが炸裂する⑧など傑作揃いだが、特に曲名からして秀逸なセカンドシングルの名曲④は白眉の出来で、苦しみを受け入れながらも最後の希望を絞り出すような歌唱は必聴。

ルルティアの最大の魅力は彼女の繊細なウィスパーボイスであるが、実はアイドルのような可愛らしい声質であり、楽曲も神秘性を持ちながらもポップでキャッチ―、この手の女性ボーカル好きなら誰もが楽しめる1枚である。

Kung-fu Master|Eel 

2001/4/11 Fille Unique

1.Fille Unique 2001
2.Kung-Fu Master
3. homme sympathic (charmant)
4. Cherry Pie
5. Sa vous plait?
6. DO RE MI
7. HAPPY MONDAY
8. who can teach me?
9. 神様
10. JUMP
11. 幸せな日
12. a Paris

CAPSULEとコラボするなど、ネオ渋谷系ムーブメントにて注目を集めた、大阪の女性アーティスト「Eel」が2001年にリリースしたフルアルバム。フューチャーポップの文脈で語られることが多く、打ち込みサウンドとキュートなボーカルに胸がときめくエレクトロガールポップである。特にEelの歌声には特筆すべきものがあり、カヒミ・カリィとも違う、自身のこだわりを感じるキュートなウィスパーボイスは魅力がある。

アルバムタイトル曲の②は遊び心あるEelの魅力が良く伝わる曲で、軽快なリズムとファニーな歌声が印象に残る。③は王道のオシャレ渋谷系という感じだが、ここまで極端に可愛らしいものを追求する女性アーティストも珍しい。⑧は疾走感あるロックナンバーで、まさにおもちゃ箱をひっくり返したようなEelのボーカルの表現力が凄い。⑨はシンプルなギターポップナンバーで、Eel独自のキャンディーボイスが良い。⑪のようなみんなのうたのような曲調もばっちりハマっている。

Eelの可愛い声質を生かした軽快なポップナンバーが多数収録されている。とにかく「可愛らしさ」に対するこだわりが半端でなく、ある意味異色ともいえる世界観が楽しめる1枚だ。

Lia*COLLECTION ALBUM Vol.1 「Diamond Days」Lia 

2007/9/19  PONYCANYON INC.(PC)(M)

ディスク1
1.disintegration
2.Spica ~Reaching for the Stars version~
3.Moon
4.夏影
5.鳥の詩
6.Farewell Song
7.Last regrets ~acoustic version~
8.Light Colors
9.Ana
10.小さなてのひら

ディスク2
1.Love Sick Maze
2.will
3.somewhere
4.GIRLS CAN ROCK
5.Over the Future
6.I wish
7.HAIL THE NATION
8.Light In the Air
9.桜風 ~Another Dream Mix~
10.Starting Over ~Reproduction STAYCOOL 2007 Edition~
11.射光の丘
12.Diamond Days
13.青空 ~Lia 1st Concert Lia’s Cafe “Prologue” LIVE音源~ <BONUS TRACK>

ゲーム・アニメソングを中心に活動を行うシンガー「Lia」の初期の代表曲を網羅したベストアルバム。美少女ゲームブランドKeyの麻枝准や折戸伸治、美少女ゲームやアニメソングを多く手掛ける音楽集団I’veの高瀬一矢などが手掛ける良質な楽曲とLiaのクリスタルボイスと称された透明感ある伸びのある美声が楽しめる一枚だ。

ディスク1では何と言ってもオタクの間では国歌と呼ばれた、Liaの出世作の⑤の名曲ぶりである。ゲーム・アニメのオープニングソングは盛り上がりを重視したキャッチーかつシンフォニックなものが多いが、これは全盛期の遊佐未森にも通じるようなノスタルジックな旋律が心に突き刺さる素晴らしい曲だ。
ドラマチックなトランステクノでエモーショナルな高揚感が得られる⑧やこれぞエンディングテーマという感じの⑥もいい曲だ。④は元々ゲームのBGMだったものに歌をつけたもので、夏景色の儚さにグッとくる。ケルト民謡のカバー⑨はLiaの美声が存分に味わえる。

ディスク1の良さに比べるマニアックな選曲のディスク2だが、ストレートなロックナンバー④やメッセージ性を感じるロックバラードのアルバムタイトル曲⑫などその真っ直ぐな歌声を楽しむことができる。

収録曲の曲調は様々だが、一聴すればLiaだと分かる個性が確立されており、ゲーム・アニメソングの枠だけで語るのは惜しい優れた女性シンガーである。

MAIDEN VOYAGE|Salyu 

2010/3/24 トイズファクトリー

1. messenger
2. イナヅマ
3. EXTENSION
4. コルテオ ~行列~
5. 新しいYES
6. L.A.F.S.
7. emergency sign
8. iris ~しあわせの箱~
9. HALFWAY
10. SWEET PAIN
11. cruise
12. BIRTHDAY
13. LIBERTY
14. VOYAGE CALL

小林武史プロデュースで、味わい深い独自のボーカルやメランコリックな楽曲の世界観が音楽好きを惹きつけてやまないJ-POPシーンを代表する女性シンガー「Salyu」の3枚目となるアルバム。
本作は初の自身によるプロデュース作品であり、小林武史はコ・プロデュースとなっている。リリィシュシュ名義も含め初期作品では、低音で呟くような声を生かした陰鬱な楽曲が特徴的であったが、徐々に歌声は高音を意識したものとなり、本作は良質な日本のポップスがふんだんに詰まった傑作アルバムである。

佳曲揃いのアルバムだがまず注目は代表曲となった④と⑨である。④はSalyuの情緒感たっぷりに歌い上げるボーカルが心に響く切ないバラードナンバー。歌謡曲風味もある小林武史によるエモーショナルなメロディーがいつまでも耳に残る。⑨は小林武史の才気煥発のソフトロック、ネオアコ風の爽やかな楽曲で、温かさを感じるメロディーラインとSalyuの優しい歌声に夢見心地になってしまう名曲である。
他にも疾走するサウンドと力強い歌声に元気を貰える②、ドラマチックで切ないムードが素晴らしい⑦、シンフォニックに盛り上がるバラード⑧、重厚なサウンド、ダークな雰囲気と全身全霊の歌唱に心揺れる⑬など聴きどころは多い。

小林武史を初めとした作家陣の安定したクオリティの高い楽曲と非常に個性的でありながらも聴く物の心を揺さぶるSalyuのソウルフルな歌声がとにかく凄い1枚。

「0」|青葉市子

2013/10/23 ビクターエンタテインメント

1. いきのこり●ぼくら
2. i am POD (0%)
3. Mars 2027
4. いりぐち でぐち
5. うたのけはい
6. 機械仕掛乃宇宙
7. 四月の支度
8. はるなつあきふゆ

2010年に19歳でデビューしたシンガーソングライター「青葉市子」が2013年にリリースしたメジャー1stアルバム。クラシックギターの弾き語りというシンプルなスタイルで、スピリットを感じる独自の世界観がある楽曲と味わい深い歌声が魅力である。

①は青葉市子の魅力が分かりやすく伝わる秀逸な楽曲で、まさにシンプルイズベスト。不安定で不気味な世界観とギターと美しく調和する歌声が作り出す雰囲気は個性的な魅力がある。②は暗闇から浮かび上がるようなエモーショナルな佳曲で、ギターと歌のみで深淵な世界に誘い込んでくれるのが素晴らしい。④は10分以上ある環境音などを取り入れたアンビエント風の楽曲。⑥は山田庵巳の楽曲を自身のセンスでカバーしており、原曲とは一味違う女性的な嫋やかさが感じられるものである。⑧はアルバムのラストにドンピシャな淡く儚い情感が胸に沁みる感動的なナンバー。

ほぼギター1本と歌声のみのシンプルな構成でここまで唯一無二の表現ができるのが素晴らしくて、才能あるシンガーソングライターとしての力量が遺憾なく発揮された傑作アルバムである。

Ephemeral|Piana

2005/10/1 ‎ Happy

1. Something Is Lost
2. Early in Summer
3. Beside Me
4. Color of Breeze
5. Little Girl Poems
6. Muse
7. Mother’s Love
8. Moon and Cello
9. Beginning

エレクトロニカやアンビエントを基調とした音楽作品を発表している女性アーティスト「Piana」のセカンドアルバム。ビョーク、ムーム、シガーロスなど北欧エレクトロニカ女性ボーカルの影響を感じさせる、幻想的な電子サウンドと妖精のような可愛らしいボイスで歌うのが特徴的である。繊細な音作りと多重録音ボーカルが織りなす、まるで絵本のような世界観が楽しめる1枚。

冒頭①からキュートなウィスパーボイスとアコースティックな質感の電子サウンドで幻想世界に引き込まれる。メロディーやPianaの可愛い声質などは和のセンスを感じるものがあり、北欧系の旋律を上手く消化して日本的なものとして表現している。続く②はヴァイオリンなどの生楽器としっとりとしたエレクトロサウンドで、夏のノスタルジックな情景が胸に迫る。ポエトリーのような囁きと幻想的なコーラスから叙情的なメロディーへの繋ぎはドラマチックでお見事。③はメルヘンチックで箱庭的な世界観の優しく美しい曲。情緒たっぷりに歌い上げる透明感あるボーカルなど、女性ボーカル好きのツボをピンポイントでつくような作風である。⑤は荘厳な雰囲気のパートからエモーショナルに展開する感動的なナンバー。⑧はアンビエントなサウンドと幻想的なコーラスという環境音楽に女性ボーカルを組み合わせたような曲。

楽曲の出来はどれも素晴らしく、親しみやすいメロディーラインも魅力的である。Pianaのキュートなボイスは破壊力抜群で、少し気恥ずかしさを覚えるが、これぞ日本流の女性ボーカルエレクトロニカと言いたくなる存在感がある。

RADIO ONSEN EUTOPIA|やくしまるえつこ

2013/4/10   みらいrecords

1. ノルニル
2. 恋するニワトリ
3. ヴィーナスとジーザス
4. COSMOS vs ALIEN
5. 北風小僧の寒太郎
6. ヤミヤミ
7. 少年よ我に帰れ
8. キャベツUFO
9. ラジャ・マハラジャー
10. ときめきハッカー
11. メトロポリタン美術館
12. ロンリープラネット

相対性理論のボーカル「やくしまるえつこ」のソロ1stアルバム。相対性理論同様にやくしまるえつこの小悪魔っぽいキュートなウィスパーボイスを生かしたアートのようなポップロックであるが、バンド時に比べよりやくしまるえつこの歌声に焦点を当てた内容となっているので、その魅力がじっくりと味わえる1枚となっている。シングル曲も新アレンジで収録されているので、新鮮な感覚で楽しむことができる。

冒頭①から可愛らしいボイス、SF世界観の歌詞、プログレ風味ある曲展開など、やくしまるえつこ節が炸裂しており、その不思議ワールドに引き込まれる。③はキャッチ―でストレートな作風のキュートなポップソング。歌声の可愛らしさと清涼感溢れる楽曲の相性は抜群に良い。④はユーモラスな歌詞のラップや個性的な殷を踏むほんわかしたボーカルなどインパクトがある。スペーシーなアレンジもいい味を出しており中毒性がある。⑥は童話のような世界観をキュートに歌い上げており、声質的にこういった曲調とも相性はばっちりである。⑦は切なく壮大な世界観をドラマチックに疾走するシンフォニックな曲。こちらも①同様に可愛らしさにプログレ成分をまぶしたような不可思議さがあり面白い。⑫は9分を越える大曲で、静から動へとエモーショナルな爆発を見せるオルタナティヴギターサウンドとやくしまるえつこのボーカルが絶妙なバランスで成立しており秀逸。他に②⑨⑪などみんなのうた有名曲のやくしまるえつこ流のカバーが収録されており、原曲と違いなど興味深く楽しめるものとなっている。

やくしまるえつこのキュートなボーカルは心をほっこりさせるのと同時に怖さや違和感なども含んでおり、不思議少女という感じの尖った感覚とプログレッシヴな壮大さを併せ持つ個性的な世界観がこれでもかと表現されている。

呼吸が止まる前に|swancry

2023/6/28

1. 花
2. snowdome
3. 深海から
4. ambivalence
5. Re:spiration

「swancry」は2022年に始動したボーカルhikageによるソロプロジェクト。本作は2枚目となるEPである。以前はアイドルグループ(ゆくえしれずつれづれ)で活動しており、その頃からの持ち味である個性的な激情ボーカルが更に進化。Envyにも通じる、激情系ハードコア、エモ、ポストロックなどを基調としたラフなインディーロックで、可憐で繊細な歌声のパートから感情を一気に爆発させる激情ボーカルパートなど、起伏のあるドラマチックな曲が楽しめる。

冒頭①からメランコリックで内省的な歌と感情を吐き出す全身全霊の叫びが胸を突き刺すように響く。静と動のコントラストは鮮やかで、hikage自身による歌詞の言葉選びも印象に残るもので優れている。②は囁くような歌声と幻想的でメロウなサウンドが印象的。③は透明感あるボーカルが歌うポエトリーリーディングのような意味深な言葉と轟音ギターの浮遊感に飲み込まれる。シューゲイザー+ポエトリーという感じの質感は新鮮な魅力があり、歌声はキュートだが同時に繊細で美しくもある。⑤は軽快なビートに乗った可愛らしくも切ない歌声と激情シャウトがダイレクトに心に伝わる。女性らしい柔らかさがあるキャッチ―な旋律なので、理屈抜きに感情が突き動かされ、気持ちの良い高揚感が得られる。

女性ボーカルでこれだけ激しくシャウトするスタイルは珍しいのでそれだけでも貴重と言えるが、非常に個性的な魅力があり、女性ボーカルのインディーロックとして優れた独創的な世界観がじっくりと味わえる1枚となっている。

祝祭|カネコアヤノ

2018/4/25 we are

1. Home Alone
2. 恋しい日々
3. エメラルド
4. ごあいさつ
5. ジェットコースター
6. 序章
7. ロマンス宣言
8. ゆくえ
9. サマーバケーション
10. カーステレオから
11. グレープフルーツ
12. アーケード
13. 祝日

女性シンガーソングライター「カネコアヤノ」の3枚目となるフルアルバム。ギター弾き語りからバンドサウンドまでこなす才女で、飾らない歌声や親しみやすく温かいメロディーライン、日常を鋭く切り取った文学的な歌詞など、孤独にそっと寄り添ってくれるような優しさのある音楽である。特に歌声の良さは特筆すべきものがあり、素直で素朴な感じの声質だが芯の強さを感じさせ、独特のクセがある歌い方は感情表現として非常に優れている。

冒頭①は真っ直ぐな歌声で伝える前向きなメッセージが心を勇気づけてくれるフォークロックの名曲。力強いが押し付けがましい感じではなく、日常の小さな幸せを見つけるような等身大の表現に元気を貰える。続く②も柔らかなサウンドが光るフォークロックで、変わらない日常のちょっとしたウキウキ感を弾けるリズムで心地良く聴かせてくれる。③は「Television」の『marquee moon』をオマージュしたと思われるギターリフが印象的で、まったりとした雰囲気の中で、自分にとって大切なものを美しく歌い上げている。⑦は昭和歌謡のような歌メロやグループサウンズを思わせるガレージサウンドがレトロな気分に浸らせてくれる。⑪はアコースティックギターの音色やのびのびとした歌声が清々しさを運んでくれて、心がふっと軽くなったような開放的な気分になれる。⑫は日々の鬱憤をロックで昇華したエネルギー溢れる旋律がダイレクトに心に響く。ラスト⑬はアコースティックギターの弾き語り曲で、切々とした歌声が生み出すシリアスな空気感に圧倒される。シンプルがゆえにカネコアヤノの存在感がより強く感じられる1曲となっている。

アルバム全体を通して、聴き手に良い音楽を届けたいという真摯な思いが伝わってくる。何気ない日常の大切をそっと教えてくれる、温かさに満ちた1枚だ。

ゆのもきゅ|Yunomi 

2017/10/18   Miraicha Records

1. めんたいコズミック (feat.nicamoq)
2. 枕元にゴースト (feat.nicamoq) [w/ Aiobahn]
3. ロボティックガール (feat.nicamoq)
4. インドア系ならトラックメイカー (w/ nicamoq)
5. ゆのみっくにお茶して (feat.nicamoq)
6. サンデーモーニングコーヒー (feat.nicamoq)
7. 星降る夜のアデニウム (feat.nicamoq)
8. 東京シュノーケル (feat.nicamoq)
9. 守護霊 (feat.nicamoq)
10. ココロフロート (feat.nicamoq)
11. ダンスフロアの果実 (feat.nicamoq)
12. 明けない夜、醒めない夢 (feat.nicamoq)
13. 神様の渦 (feat.nicamoq)
14. 銀河鉄道のペンギン (feat.nicamoq) [w/ Aiobahn]
15. サ・ク・ラ・サ・ク (feat.nicamoq)
16. 夢でまたあえたらなあ (feat.nicamoq)
17. ハッピーライフ (feat.nicamoq)

Yunomiはアイドルユニット「BPM15Q」やその後継グループ「CY8ER」に楽曲提供したことでも知られるトラックメイカーで、本作はYUC’eと共同で立ち上げた音楽レーベルの未来茶レコードから2017年にリリースされた1stフルアルバムである。

EDMやFuture Bassを基調としたハッピーでキュートなサウンドはKawaii Future Bassと呼ばれ、そこに可愛らしい女の子ボーカルが同居するエレクトロ・ガールポップは、日本独自のサブカル文化とリンクした新時代のポップミュージックとして注目を集めた。本作はゲストボーカルにBPM15Q のnicamoq(にかもきゅ)を迎えた、このジャンルを代表する名盤のひとつである。

佳曲が揃っている充実した内容のアルバムであるが、特に④はYunomiの名前を轟かせたEDMラップの金字塔で、オシャレかつキュートでクセになるリズムとユニークな語感など、センスの塊のような曲で素晴らしい。他にも日本的な旋律が印象的なダンサブルなナンバー①、歌メロが良いテクノポップで、切ないSF世界観に胸が締め付けられる③、タイトルからして可愛い、ふわふわしたポップソングの⑤、可愛らしさ全開で、重低音が気持ち良い⑩など、傑作揃いである。またAiobahnとの共作となる②や⑭も音の細部にこだわりを感じる、職人芸のようなエレクトロ・ガールポップを楽しむことができる。

Yunomiの楽曲センスが良いのはもちろんのこと、nicamoqのボーカルが非常にキュートで、このタイプの電子サウンドにぴったりである。とにかく可愛い音楽が聴きたいという人に大変おすすめできる内容のアルバムだ。

Neko Hacker|Neko Hacker 

2020/1/15 子猫レコード

1. From Zero feat. 利香
2. くいしんぼハッカー feat. くいしんぼあかちゃん
3. Home Sweet Home feat. KMNZ LIZ
4. Hack You feat. うごくちゃん
5. Daydream feat. mega & Sithu Aye
6. Sweet Dreams feat. 利香
7. Interlude(タイトル未定)
8. Erased feat. YuNi
9. ガチで恋するお前らへ feat. うごくちゃん
10. Night Sky feat. Mashilo & ichika
11. Chocolate Adventure feat. ななひら
12. Rainbow In The Dark feat. 利香

「Neko Hacker」は2人組のトラックメーカーユニットで、本作は2020年にリリースした1stフルアルバムである。全編可愛らしい女性ボーカルをフューチャーしており、EDMやFuture baseを基調としたサウンドにギターを組み合わせたKawaii Future Rockという独自のスタイルを確立している。

キュートな楽曲センスとサウンドの完成度はもちろんのこと、歌詞が素晴らしい③はネットやSNSが普及した現代的な女性ボーカルポップの名曲といえるだろう。職人芸のような「Kawaii」に溢れる⑥を聴くと、渋谷系女子ボーカルものなどこの手の音楽好きには堪らない魅力があると思われる。④と⑨は人気YouTuberであったうごくちゃんをボーカルに迎えた楽曲で、不思議ちゃんっぽいキャラクター性が楽しめる。爽快に疾走するチャーミングな⑪はギターの音色が心地良くて、はっちゃけたボーカルも印象に残る傑作である。

良質なエレクトロなガールポップがふんだんに楽しめる内容で、ギターサウンドがいい味を出している。楽曲コンセプトも現代性を捉えており、多く人に聴いて欲しい傑作アルバムだ。

睡眠都市|大嶋啓之、茶太 

2009/8/15 大嶋啓之 

1. swim into the city (instrumental)
2. 飛ぶ夢を見ない
3. ハルシオン
4. うそつきライアー
5. close to close
6. パーフェクトヴァニティ
7. 睡眠都市

TVアニメひぐらしのなく頃にのエンディングテーマ『why, or why not』を手掛けたことでも知られる同人音楽家「大嶋啓之」。本作は自身のレーベルからリリースしたボーカルに茶太をフューチャーしたコンセプトアルバムである。

鬱や諦観など精神的葛藤がテーマの暗い世界観が特徴的で、エレクトロニカやアンビエントを基調としたサウンド構成に、切なく美しいメロディーを茶太が透明感あるウィスパーボイスで歌うという内容で、聴く物の心揺さぶる名盤である。

冒頭エレクトロニカサウンドのインスト曲①からシューゲイザー風のエモーショナルな名曲②への繋ぎはドラマチックで、聴き手をこの鬱々した世界観に引き込んでくれる。圧巻は後半の3曲で、最高に切ない泣きのバラード⑤、やるせなさ漂うエレクトロポップ⑥、アコースティックなエレクトロニカサウンドの⑦の三連打は、世界が閉じていくような虚無感と刹那な孤独感にこれでもかと浸らせてくれて、この作品のテーマのである絶望や諦観というものについて考えてしまう。

アルバム全体通して浮いた楽曲はひとつもなく、あくまでも一貫したテーマに沿った曲作りがされている。ボーカルの低体温さや重苦しい世界観は好みが分かれると思うが、癒しの効果も感じる作品なので、ぜひ多くの人に聴いて欲しい1枚だ。

berpop melodies & Remixies|bermei.inazawa 

2005/8/14  ‎ Campanella 

1. 嘘
2. 嘘ップ
3. holothurian George
4. echo
5. circle
6. rarefied song
7. メロディ
8. 嘘 (ESTi mix)
9. メロディ (mirawi mix)
10. circle (zts mix)

同人音楽サークル『studioCampanella』を主宰し、アニメの音楽なども手掛けている音楽家「bermei.inazawa」の2005年リリースの自主制作アルバム。エレクトロニカを基調とした電子ポップが基本路線で、男性ボーカルをフューチャーした楽曲やインスト曲もあるが、ゲストボーカルに女性歌手を起用することが多い。

ゲストボーカルに茶太を迎えた①は、独特の浮遊感あるエレクトロポップで、透明感という言葉がぴったりの楽曲である。霜月はるかボーカルの④は、ピアノをフューチャーした美しい電子サウンドの洪水に飲まれ、別世界にトリップしてしまう。Mayuがボーカルを務める⑦は、サックスが力強い音色を奏でるジャジーでオシャレなガールポップ。渋谷系アーティストに通じるものもあり、センスの良いポップソングのお手本のような楽曲だ。①と⑦はリミックスも収録されており、原曲より軽快でポップになった⑧と激速になった⑨が楽しめる。

同人音楽シーンが注目され始めた時期にリリースされた傑作アルバムである。bermei.inazawaの音楽センスの良さが存分に詰まっている内容となっている。

SHORT CIRCUIT II|I’ve 

2007/6/22 ‎ ファクトリーレコーズ

1. ねぇ、…しようよっ!
2. ↑青春ロケット↑
3. Princess Bride!
4. ナイショ★Naiしょ
5. 新しい恋のかたち -SHORT CIRCUIT II EDIT-
6. Mighty Heart ~ある日のケンカ、いつもの恋心~
7. はじめまして、恋。
8. 乙女心+√ネコミミ=∞
9. きゅるるんkissでジャンボ♪♪
10. アナタだけのAngel☆
11. Princess Brave!
12. I’m home
13. めぃぷるシロップ
14. Double HarmoniZe Shock!!

美少女ゲームやテレビアニメ等の音楽を手掛けるサウンドチーム「I’ve」。本作は美少女ゲームタイアップ楽曲の中でも電波ソングをコンセプトに収録したコンピレーションアルバムの第2弾となる。ボーカリストとしてKOTOKO、詩月カオリ、島みやえい子が参加しており、I’veの中沢伴行、高瀬一矢、C.G mixなどのお馴染み作家陣に加えて、ボーカルを担当するKOTOKOも作詞のみならず作曲もこなしている。前作収録のKOTOKOが歌う『さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~』に代表される頭のネジが飛んだようなハイテンションの萌えボーカルとキャッチーなメロディーの組み合わせの電波ソングは世界的に見ても異質な音楽であった。

タイトルからして直球な①はチープな電子サウンドとKOTOKOの萌えボーカル技術がたっぷりと堪能できる傑作で、謎なスペイシーな感覚もあり中毒性が高い。③はKOTOKOの韻を踏みまくるキャッチーなラップの切れ味が凄い名曲で、これも絶妙にスペイシーな感覚がありクセになる。
⑥はKOTOKOお得意のストレートな可愛らしいアニメ/ゲームソングといった感じだが、聴いて脱力させてくれるというか実にリラックスさせてくれる良い曲である。⑪はカッコいいギターが唸りを上げる熱いロックナンバーで、KOTOKOのボーカルも曲調に応じて変幻自在できるのが凄い。詩月カオリがボーカルをとる④⑩⑫は電波ソングというよりは王道アイドルポップのような曲調の胸キュンナンバーで、⑫のような意表をつくバラードも良い味がある。

電波ソングの金字塔と呼べる出来のアルバムである。中毒性の高い楽曲構築に加えて、KOTOKOのハイレベルなボーカル技術が存分に楽しめる1枚だ。

ソングブック|竹村延和 feat.アキツユコ

2001/12/21 徳間ジャパンコミュニケーションズ

1. 鏡の塔
2. 魔法のひろば
3. おばおば
4. 不思議な世界
5. つらら
6. 星のはなし
7. トゥイリルカピンポン
8. くろいろマントのはなし
9. Swimmy
10. Soleil d’eau
11. Bell buoy
12. 樹海より
13. flabby
14. かみしばい
15. Blab La La
16. 海のコンパス
17. 水たまりのおたまじゃくし
18. 月の弦
19. イーヴニング
20. vibrante
21. 湖畔への道
22. うるう

エレクトロニカなどの先悦的な作品を発表している音楽家「竹村延和」が、ゲストボーカルにアキツユコをフューチャーした『歌もの』主体のアルバムである。彼の作品の中でもポップな作風のアルバムのひとつだが、アンビエント・現代音楽的なサウンドとアキツユコの子供が歌うようなボーカルの組み合わせはアヴァンギャルドなもので、一風変わった刺激的でファンタジックなポップミュージックである。

先行シングルでは日本語ヴァージョンも収録された②は、本作では英語詩ものが収録されている。子供のイノセンスを感じさせる歌が楽しめる前半パートから、ドラムを始めとした各楽器がアグレッシブに鳴り響く後半部分まで、聴きごたえたっぷりなプログレッシブな名曲である。⑦や⑯もこの②の流れをくむような作風で、ドラムの暴れっぷりなど各楽器が競い合うようなサウンドがカッコいい。③は童話の世界に迷い込んだようなサウンドと美しい歌声が印象に残る。⑧は現代音楽風のサウンドに童謡のような歌が同居しており、目まぐるしい展開かつキュートな1曲。⑭はアキツユコのボーカルの可愛らしさ良さが存分に楽しめる美しい曲。ラスト㉒はアンビエントな作風でチルアウトできそうだ。

派手さはないがじっくりと聴かせるサウンドは細部までこだわりを感じさせるもので、邦楽女性ボーカル音楽としても類を見ないような独自の世界観にどっぷりと浸れる1枚だ。

『サクラノ詩-櫻の森の上を舞う-』ヴォーカルCD

2015 枕

1. 櫻ノ詩
2. Bright pain
3. Pica pica
4. ZYPRESSENの花束
5. 天球の下の奇蹟
6. DearMyFriend
7. 在りし日のために
8. 櫻ノ詩 - Piano Vocal ver –
9. 櫻ノ詩 – inst ver –
10. Pica pica – inst ver –
11. ZYPRESSENの花束 – inst ver –
12. 天球の下の奇蹟 – inst ver –
13. DearMyFriend – inst ver –
14. 在りし日のために – inst ver –
15. 櫻ノ詩 - Piano inst ver –

本作は美少女ゲーム「サクラノ詩」の歌曲を集めたCDコレクションである。ゲームブランド『ケロQ』のゲーム音楽を手掛ける松本文紀やピクセルビーはオルタナティヴロックへの造詣が深く、エモーショナルなギターサウンドを軸にした楽曲に透明感のあるキュートな女性ボーカルを組み合わせるのが非常に上手。本作ではメロディーセンスに更に磨きがかかり、ゲーム音楽の中でも完成度が高い女性ボーカルポップを楽しむことができる1枚だ。ボーカルは、①⑤⑥はな、②橋本みゆき、③④⑦monetの3名が担当している。

松本文紀が作曲・編曲した①⑤⑥はどれも出来が良いが注目はゲームのOP曲である①の名曲ぶりである。美しいピアノのイントロからアグレッシブなサウンドが疾走し、感傷的なメロディーをはながキュートに歌い上げる。哲学的な歌詞も素晴らしく、言葉の意味深な響きが力強いメロディーと組み合わさり音楽として大きなうねりをもたらしてくれる。⑤もノスタルジックなメロディーが刺さるエレクトロポップで、はなの可愛らしい歌声も良い。⑥はお得意のエモーショナルなギターが唸りを上げるオルタナティヴロックで切なくカッコいい。ピクセルビーが作曲・編曲した③は浮遊感漂うギターサウンドと美しいボーカルが中毒性を生み出すシューゲイザー楽曲と言える秀逸な曲。⑦もピクセルビーによるポップなメロディーと爽快なギターロックサウンドが楽しめる。

ゲーム歌曲の歴史に残りそうな①を筆頭にノスタルジックなメロディーにぴったりとあった女性ボーカルが楽しめる1枚である。

アイドル・ミラクルバイブルシリーズ Qlair Archives|Qlair 

2005/11/30 Sony Music Direct

ディスク: 1
1. 瞳いっぱいの夏
2. 恋のメダリスト
3. 真夜中のオルゴール
4. 笑顔の花束
5. 見えない涙
6. お願い神さま
7. 約束
8. 冒険の Sunny day
9. 素直な疑問符
10. 雨の帰り道
11. さよならのチャイム
12. ハッピーバースデーカウントダウン

ディスク: 2
1. SPRING LOVER 大作戦
2. 眩しくて
3. お引越し
4. 君住む街
5. CITRON
6. タヒチアン ラブ
7. 泣かないでエンジェル
8. 思い出のアルバム
9. パジャマでドライブ
10. 一緒に見た風
11. IN YOUR EYES
12. 秋の貝殻
13. 新しいシャツ

ディスク: 3
1. Sanctuary
2. リボンのないプレゼント
3. うたたねのソファー
4. スノーブーツのwish
5. 夢見るヴァイオリン
6. 暖かな森
7. Sanctuary ~The light of three stars~
8. HAPPY BIRTHDAY
9. 恋のメダリスト (1993Version)
10. SUMMER LOVER 大作戦
11. /瞳いっぱいの夏
12. 永遠の少年 <2005 Miracle Recording>

CoCoやribbonを輩出した乙女塾から1991年にデビューした3人組のアイドルグループ「Qlair」の全楽曲と未発表音源等を収録した編集盤である。

山口美央子や外間隆史など才能ある作家陣による良質な楽曲とメンバー3人の美しいハーモニーはキラキラして清涼感に溢れており、1990年代のアイドルポップの中でも屈指のグループだ。

デビュー曲であるディスク1の①は夏の訪れ感じる爽やかな青春ポップで、胸をキュンとさせる名曲である。王道アイドルポップの佳曲⑥と並びQlairの魅力がいっぱいに詰まっており必聴だ。
そしてその魅力は山口美央子が手掛けた三部作と呼ばれるディスク1の⑪、ディスク2の②、⑫でアイドルポップとしての頂点を迎えている。曲はもちろん3人の清潔感ある美しいハーモニーが素晴らしい。三部作は⑪が卒業をテーマにした切ない青春ソング、②は夏の情景と淡い片思いが甘酸っぱさを運んでくれるアイドルにしか表現できないであろう素晴らしい曲、⑫は大人っぽさがあり、歌謡曲としてもとても良い曲である。すべて傑作だが、特に②はアイドルポップ史上に残る大名曲である。
他にもディスク2の⑧のような遊佐未森にも繋がるようなノスタルジックな曲や、ディスク2の①みたいなご機嫌なロックンロールナンバーもあり、その音楽的な完成度は圧巻の一言。

いつまでも色褪せないものがあるとしたらそれはQlairが残してくれた作品の中にあるのかもしれない。

ボーイ・フレンド|森下恵理 

2003/12/25 ヴィヴィッド

1. 中古のムスタング
2. ダンスはクラスメイトと
3. 真冬のデイト
4. Kiss Me Tonight
5. ブルージン・ボーイ!
6. わたしは街のバレリーナ
7. ちょっぴり・ボーイフレンド
8. Hey!Baby
9. トワイライト
10. 恋の祈り
11. 秘密のダイアリー (ボーナス・トラック)
12. ふられて・フーフー (ボーナス・トラック)
13. 九月のERI (ボーナス・トラック)
14. サマータイム・グラフィティ (ボーナス・トラック)

森下恵理は1985年にシングル「ブルージン・ボーイ」でデビューしたアイドルで、本作は1986年にリリースされた1stアルバムにボーナストラックを加えて再発したものである。

加藤和彦プロデュースで、彼の他に竹内まりや、呉田軽穂(松任谷由実)などが楽曲提供行い、アレンジには鈴木博文(ムーンライダーズ)も参加している80年代アイドルポップの名盤だ.

彼女のキュートで人懐っこいボーカルとオールディーズからの影響が強いサウンドに胸躍るポップロック。冒頭を飾る①は爽快なモータウンビートに可愛らしい歌声が乗り、初々しいわくわく感が楽しい曲。続く②はサックスが鳴り響く、胸キュン青春ポップナンバーで、メロディー、歌詞共にフックがありとても良い。③は竹内まりや提供のしっとりとしたオールディーズバラード。
デビューシングルの⑤も基本オールディーズ歌謡だが、ロックっぽい歌い回しが魅力で、加藤和彦によるメロディーは爽やかで、安井かずみの歌詞も面白い。⑧は竹内まりや提供作品で、日本産アイドル系パワーポップという感じの一曲。⑨はユーミンの作曲で、後に自身のアルバムでもセルフカバーしている。ミドルテンポで青春の儚さや刹那感を感じる名曲である。ボーナストラックではシングル⑭などの佳曲を収録している。

楽曲はどれも粒ぞろいで、森下恵理の声そのものに魅力がある素晴らしい1枚。

クレッシェンド・アンド・シングルズ|奥田圭子 

2008/3/19 ヴィヴィド・サウンド

1. プラスティック
2. 真赤なシューズを飛ばす時
3. 地下鉄におけるスタンリーキューブリック的考察
4. STORMY NIGHT
5. 夢ください-知・的・優・遊-
6. ため息の予感
7. なんて・・・・
8. 悲しみアベニュー
9. Bay Sideロマンス
10. 想い出の傘の下で
11. 夢ください-知・的・優・遊-(Single Version)
12. 明日からのフォトグラフ
13. 瞳の中に
14. グラデイション
15. 家族
16. 演歌は歌えない

1985年にシングル「夢ください―知・的・優・遊―」でデビューしたアイドル歌手・女優の奥田圭子。本作は唯一のアルバム『cresc.』にシングル曲を追加した編集盤である。

アンニュイな雰囲気の物憂げな奥田圭子のボーカル(声質は可愛い)と豪華作家陣によるニューウェーブ色の強い楽曲が組み合わさり、1980年代の王道アイドルポップとは一味違う持ち味がある。

その独自性は玉置浩二作曲のデビュー曲⑤⑪ですでに感じられ、幻想的なサウンド&メロディーと豊かな表情を見せる歌声が儚く印象的だ。
そして本作で注目すべきはシングルとしてもリリースされた名曲①である。秋元康×氷室京介×布袋寅泰というこの時代だからこそ実現した作家陣による、アンニュイなニューウェーブ歌謡の傑作で、奥田圭子のどこか冷めた歌声は聴き心地が良く、布袋寅泰によるギターもカッコいい。アルバム曲としては秋元康作詞のインパクトあるタイトルのエレポップの③や王道アイドルポップ⑥など全体的に楽曲は充実している。

そう数は多くないアンニュイ性を持ったアイドル歌手のひとりだが、楽曲の出来は良いので、聴いて損はないはずだ。

yes we’re SINGLES+8|早瀬優香子 

2020/5/27 ワーナーミュージック・ジャパン

1. サルトルで眠れない
2. ピンクのCHAPEAU
3. 硝子のレプリカント
4. セシルはセシル
5. 私は女
6. マリー・ラフォレはもう聞かせないで
7. 2/3 amino co de ji
8. シニアな記憶
9. 椿姫の夏
10. 太陽とクレッセント
11. マリリン&ジョンの微笑 <シングル・ヴァージョン> (Bonus Tracks)
12. 冷たい水 (Bonus Tracks)
13. IL (ベッドの中では) (Bonus Tracks)
14. 家へ帰るの (Bonus Tracks)
15. Lobbyの生活 (Bonus Tracks)
16. 光合成 cock-a-doodle-doo (Bonus Tracks)
17. 薔薇のしっぽ (Bonus Tracks)
18. 5才の子供 (Bonus Tracks)

カヒミ・カリィが影響を受けたことでも知られる1980年代アイドル歌手/女優「早瀬優香子」。本作はシングル1枚目から5枚目までのAB面曲をすべて収録したベストアルバム『yes we’re SINGLES』にその後のシングルすべてを追加収録した新規編集盤である。

秋元康作詞曲も多くあり、フレンチポップ、ネオアコ、ワールド・ミュージックなどを消化した意欲的な楽曲は興味深いが、彼女最大の魅力は独自のアンニュイな雰囲気と、最高にキュートで舌足らずなロリータウィスパーボイスにある。1980年代にこの声で歌っていたことは、それだけで他のアイドルとは一線を画している。

ポカリスエットCMに使われた井上大輔が作曲した③は、その歌声の突出した魅力が詰まった名曲である。さすがに今聴くと1980年代のエレポップサウンドは古さがあるが、彼女の透明感あるボーカルが伝える幻想的ともいえる美しさや儚さ、刹那感といった情感は特筆すべきものがある。
秋元康作詞、MAYUMI作曲の④はキャッチーなメロディーと秋元康のユニークな歌詞が可愛らしい歌声にばっちりとハマった傑作。フレンチ風の⑦は早瀬優香子の舌足らずの声がとにかくキュートで心がほっこりする。フレンチポップ、ネオアコ風の矢野顕子作曲の⑥は心安らぐ脱力系のオシャレな楽曲で、王道アイドルポップとは違う独自の個性に驚かされる。
細野晴臣作曲の⑨はテクノ歌謡の名曲で、1980年代後半のアイドルポップの中でも屈指の出来といえる楽曲である。他にもエスニックな旋律にぞくぞくする⑬や癒されるアコースティックバラード⑭などその歌声の魅力を最大限に生かす楽曲群は、色あせてはいない輝きがあり素晴らしい。

フルーレ+4 コンプリート・コレクション|島崎路子 

2020/7/8 SOLID

1. クロッカス・ヒルで逢いましょう
2. ガールフレンド
3. 悲しみよりもそばにいる
4. 世界でいちばんちいさな海
5. 愛をひとりにしないで (Winter Version)
6. さざ波のアラベスク
7. いつも心に花束を
8. グッドラック・チャーム
9. いつか見たそよ風
10. 粉雪感傷
11. 十二月の窓辺 ~Silent My Love~
12. ラベンダーの予言
13. “Voice letter” from ROKO with love
14. 愛をひとりにしないで (シングル・バージョン)
15. 青い鳥がいる風景

本作は1988年にデビューしたアイドル「島崎路子」が同年に残した唯一のアルバムにボーナストラックを加えて再発したものである。

アイドルとしてはブレイクすることはなかったが、このアルバムはその充実した内容からアイドルポップの名盤として聴き継がれている。清水信之、米光亮、杉山卓夫、武部聡志などが手掛けるサウンドアレンジが素晴らしくて、煌びやかで切ないファンタジックな楽曲と島崎路子の透明感ある真っ直ぐな歌声が、心を癒しくれる1枚。トータルプロデュースが上手くできており、アルバム全体で小説のような物語性がある。

冒頭①はシンセのイントロからの眩しく疾走するドリーミーなナンバー。夢見がちな少女のような歌声も世界観を盛り上げる。デビュー曲である③は壮大な愛を感じさせ、アイドル好きがアイドルに求めるものを体現したような曲で面白い。
⑦はパワフルなシンセのイントロがインパクト大で、サビの美しいメロディーも良い。⑧は小気味いいキュートなナンバーで、ギターポップ風味があるのもポイントのひとつ。⑪は幻想的でシンフォニックなクリスマスソング。

サウンドの完成度は圧巻で、じんわりと沁みる良いメロディーの楽曲多く収録されている。アルバムトータルで島崎路子のアイドルとしてキャラクター性を上手く表現しており、コンセプトアルバムとしても優れている。

「ガラスの国境」+「MAKIN’ IT(+5)」|矢野有美

2019/6/4 Bridge

「ガラスの国境」
1. 夏への手紙
2. MARINE BLUE
3. 恋のクスリはバンシャガラン
4. STAY NEXT TO ME
5. マーマレード飛行
6. 幻の輪舞
7. 真珠海岸
8. ガラスの国境
9. FADE OUT
10. ちぎれ雲にウィング

「MAKIN’ IT(+5)」
1. MAKIN’ IT
2. EAT YOU UP
3. CUPID GIRL
4. FOLLOW ME
5. CUPID GIRL(ROLLER COASTER VERSION)(ボーナストラック)
6. 経験・美少女 (ボーナストラック)
7. 新しい淋しさ (ボーナストラック)
8. キュートにeyeして! (ボーナストラック)
9. ハートのアドレス (ボーナストラック)

本作はアイドルグループ「シャワー」の元メンバー「矢野有美」が1985年にリリースした唯一のアルバム『ガラスの国境』に洋楽カバーアルバム『MAKIN’ IT』とシングル4曲、リアレンジ1曲を加えたコンプリートアルバムである。名作と名高い『ガラスの国境』は長らくCD化されていなかったが、このアルバムで初CD化となった。プロデュースはムーンライダースの岡田徹。初期シングルでは歌謡曲色が強い1980年代王道アイドル路線であったが、ムーンライダース岡田徹プロデュースした『ガラスの国境』ではシティポップのような洗練されたポップに路線変更している。

『ガラスの国境』の冒頭を飾る①はPSY・Sの松浦雅也が作曲したアイドルポップの大名曲。岡田徹が編曲した生々しい打ち込みサウンド&リズムがダイレクトに響き、儚く美しいメロディーラインも絶品である。②はドラマチックで演劇的な構成のロマンティックなナンバー。
③は綿密な音作りに驚かされるテクノポップで、複雑な曲構成なのにしっかりとキャッチーなのはさすが。⑤はアンニュイな雰囲気のサウンドと歌唱が良くて、ベースラインが印象に残る。タイトル曲⑧は非常に上品で美しいボーカル&メロディーとサックスを使用したオシャレなテクノポップサウンドが心地良い。⑨は王道感あるパワフルでストレートな歌謡曲的ナンバー。

『MAKIN’ IT(+5)』では洋楽カバーの他に、貴重なファースト、セカンドシングル収録の⑥~⑨が聴くことができる。初期の濃い歌謡曲路線が楽しめるが、やはりここからの劇的なイメージチェンジは素晴らしいものがあり、『ガラスの国境』はアイドル史上に残る傑作アルバムと言えるだろう。

チロリン・アンソロジー1986-1987|チロリン 

2014/12/10 Solid Records

1. こんなじゃダメ神様
2. (チロリンの)星に願いを
3. MIRAとお散歩
4. こんなじゃダメ神様…Reprise
5. 今日から私はあなたの羊
6. チョコレイト戦争
7. 空を見ている少年少女
8. 走る人
9. 途中にしてね
10. えくぼッチャブル

雑誌アンアンの表紙モデルなどで活躍した島崎夏美を中心に結成されたガールズユニット「チロリン」の1986~1987年に発表した全音源を収録したコンプリートコレクション。
テクノポップやネオアコ/ギターポップを基調としたニューウェイヴ系の楽曲とチロリンメンバーのキュートな歌声に心が癒される1枚。
ムーンライダーズの岡田徹がプロデュースしており、音質や空気感は同時期に手掛けているNav Katzeの作品群に通じるものがあり。

冒頭①は鈴木慶一が提供した楽曲で、ワールドミュージック色が強い異色のダンスポップナンバー。岡田徹が作曲した②は映画『ノーライフキング』の主題歌だったノスタルジックな3拍子のワルツで記憶に残る名曲である。同じく岡田徹作曲の⑥はネオアコからの影響を感じさせるギターの音色が印象的なナンバーで、いとうせいこうによるユニークな歌詞も面白い。⑨はのどかな情景が浮かぶキュートな曲で意味深な歌詞が良い。⑩はメンバーの可愛らしいボーカル&コーラスが魅力の行進するようなイメージが伝わるポップナンバー。

アイドル的な立ち位置のガールズグループであったと思われるが、サブカル色が強い音楽性で、1980年代の王道アイドルポップとは一線を画しており、独自のクセがある中毒性が高いガールズポップを楽しみことができる。

ハロー+3|伊藤智恵理

2009/11/9 ソニーミュージック

1. Winter Wonderland
2. トキメキがいたくて  LPバージョン
4. ルージュ
5. 雨に消えたあいつ
6. Merry Christmas
7. 辞書の最後のページ
8. 大切な気持ち
9. 魔法をかけて
10. パラダイス・ウォーカー LPバージョン
[ボーナストラック]
11. Diner
12. ルージュ(Another Version)
13. Step Your Life

本作は1987年デビューしたアイドル「伊藤智恵理」の1stフルアルバムにボーナストラックを加えて再発したものである。1980年代アイドルの中でも歌唱力の高さや可愛くも凛としたヴィジュアルが魅力のアイドルであった。
音楽性は楽曲の提供も行っていた中原めいこにも通じる洗練された都会的なポップミュージックで、歌謡曲からJ-POPへと移行していく時代の良質なアイドルポップが楽しめる1枚。

まず注目は1980年代アイドルポップの名曲を多数手掛けている岸正之作曲の①②⑤⑥である。①は1980年代王道のデジタルサウンドが爽快なキャッチーな楽曲。②は切なさ爆発のメロウな曲で、表情豊かに歌い上げる伊藤智恵理の歌唱力に驚かされる。⑤はある意味ベタなサビのメロディーや歌詞など、これぞアイドル楽曲と言いたくなるドラマチックな名曲である。⑥はご機嫌なクリスマスソングで、①と並んでゲレンデで流れていそうな冬のポップチューンだ。他にも重厚なシンセサウンドと力強いリズムの⑨や爽快感抜群の胸躍る⑩など、伊藤智恵理の歌唱力を生かせる良い楽曲が多く収録されている。

伊藤智恵理のボーカルや楽曲の完成度は文句なしで、1980年代後半のアイドルポップの中でも名盤のひとつに数えられるだろう。

アイドル・ミラクルバイブルシリーズ|宍戸留美

2005/11/30  Sony Music Direct

1. コズミック・ランデブー
2. Rainbow Days
3. ナクヨアイドル平成2年
4. 恋のロケットパンチ
5. Panic in my room
6. コンビニ天国
7. 地球の危機
8. 全人類が愛しい夜
9. おとこのこ
10. Here Comes the るみちゃん
11. 男のコが泣いちゃうなんて(La Da Dee)
12. ダンスの神様
13. 恋はマケテラレネーション
14. なかよしお泊り倶楽部
15. るみちゃんの危機
16. 秘密よDIET
17. ママ、悩んでるよ
18. プンスカ
19. 二人は映画みたいに行かないね

1990年にデビューしたアイドル「宍戸留美」。本作はソニー時代のベスト盤でシングル盤のみリリースの代表曲の数々が聴けるので、彼女の魅力を知るにはうってつけの1枚である。デビューシングルは正統派アイドルソングであったが、その後は次々に個性的な楽曲を発表し、元祖サブカルアイドルと言えそうなマニアックな人気を獲得した。

デビューシングル①は楽曲の雰囲気はストレートな王道アイドルポップであるが、ドラマチックな曲展開が素晴らしく、サビのメロディーが絶品。メロディーラインが伝える儚さやロマンティックな情感がいつまでも記憶に残る名曲である。⑤は宍戸留美の奇天烈な魅力が全開のエキセントリックな曲で、何かに取り憑かれたように言葉を吐き出すボーカルは必聴。⑥はチャーミングな歌声とシンセサウンドが光るキュートなテクノ歌謡。⑦は頭のネジが飛んだような世界観に圧倒される元祖電波ソングと呼べるような怪曲。⑨はみんなのうたのような雰囲気とリズムがクセになる。⑬は元気いっぱいに歌い上げる可愛らしいボーカルが印象的でキャッチーな曲構成も光る。⑱は宍戸留美のキャラクターとボーカルがばっちりとハマった、女の子がプンスカしている感情を上手く表現している可愛くも切ない曲。

バラエティに富んだ楽曲は聴いていて楽しさがあり、宍戸留美のアイドルとして様々な表情を見せるボーカルには元気を貰える。また偶像という感じの遠い距離間ではなく親しみやすいキャラクター性が魅力なので多くの人が楽しめる内容である。

Shaking Memory+6 オール・ソングス・コレクション|かとうゆかり

2009/11/10  SONY MUSIC DIRECT

1. ダイナマイトに火をつけて
2. 夕闇 You & Me
3. ルート・涙・セブンティーン
4. 失恋エキスプレス
5. Knock Out Boogie
6. 恋するカレンダーガール
7. September Rainbow
8. 今夜どっきりTAKE OUT
9. アバンチュールに御用心
10. シュガーぬきのSaturday Night
11. 放課後ロック(Back To School Again)
12. 熱風半球
13. やめないでDancing
14. ダイナマイト・チャンス
15. Stay
16. Gotcha!

1980年代に大映ドラマ【不良少女とよばれて】や【ポニーテールはふり向かない】に出演したことでも知られるアイドル歌手「かとうゆかり」。
本作は1982年にリリースしたアルバム『Shaking Memory』にボーナストラック6曲を追加収録した全曲集である。亀井登志夫、渡辺敬之、加藤和彦、大谷 和夫、鷺巣詩郎などの豪華作家陣が作り出すオールディーズ色が強いポップナンバーを愛嬌ある声でパワフルに歌い上げており、懐かしさを感じる爽やかな女性ボーカルポップスがふんだんに詰まった1枚。

①~⑩がアルバム『Shaking Memory』。
①は1960年代オールディーズ風味のウキウキするビートとチャーミングな歌声でノリノリな気分になれる。かとうゆかりの歌声は10代のキラキラ感や危うさが伝わるもので、レトロな感覚も楽しいこれぞ青春ガールポップという感じだ。②はセンチメンタルな胸キュンラブバラード。ストレートに好きという感情を表現しているスウィートな1曲だ。⑤はダンスフロアにぴったりな陽気なポップチューンで、ダンサブルなサウンドとスタイリッシュなカッコ良さを放つボーカルが印象的。
⑨はキュートなはっちゃけた歌声とキャッチ―なビートに胸躍る。デビューシングル⑩は極上のオールディーズ歌謡で、まるで歌劇のようなパンチのある歌い回しがインパクト大。

⑪~⑯はシングル曲などのボーナストラックとなっている。夏のアイドル歌謡の傑作⑫、①の歌詞違いヴァージョン⑭、ドラマの挿入歌となったご機嫌なロックンロール⑮などが収録されている。特に⑮は本人のキャラクターにもあっている感じで、今聴いても新鮮な魅力がある。

歌唱力は抜群で楽曲も良いが、コンセプトなどマニアックな魅力を追求している部分があり、そこがブレイクしなかった原因と思われる。女性歌手としての個性もあり、若さと勢いが存分に味わえる内容である。

ファンファーレ|advantage Lucy 

1999/5/12 EMIミュージック・ジャパン

1. メトロ
2. Solaris
3. シトラス (album mix)
4. 真昼
5. カタクリの花
6. smile again
7. グッバイ (album mix)
8. 8月のボサ
9. so
10. Armond

本作は1995年に結成されたギターポップバンド「advantage Lucy」(バンド結成時はLucy Van Pelt)がメジャー移籍後にリリースした初のフルアルバムとなる。

イギリスのネオアコバンドやフリッパーズギターなどの渋谷系の流れを受け継いだサウンドが、耳に残るグッドメロディーと透明感ある真っ直ぐなアイコのボーカルと組み合わさり、良質なポップとして誰もが楽しめる魅力がある。

先行のシングルとしてリリースされた③と⑦は白眉の出来で、本作ではアルバムヴァージョンとして収録されている。③は切ないメロディーと瑞々しい歌声が胸に迫る素晴らしい曲で、ギターポップに限らずJ-POPとしても名曲のひとつだろう。このバンドの真骨頂といえる爽やかな⑦は日本の女性ボーカルのギターポップを代表するといっていい名曲。力強さと儚さを含んだメロディーとボーカルはいつまでも心に残る。⑥や⑩も上記2曲の流れを組む清涼感のある曲で、耳にすぐに馴染むメロディーはさすがか。また疾走感溢れる②やエモーショナルな轟音ギターロック⑨など曲調はバラエティに富んでおり、バンドの懐の深さが感じられる内容である。

良い意味でクセがないアイコのボーカルが楽曲の良さを最大限に引き出しており、J-pop的なギターポップとしてこれ以上ないほどの完成度を誇る名盤である。

HYS|ヤプーズ 

1995/6/21 日本コロムビア

1. ヒス
2. 本能の少女
3. ラブ・バズーカ
4. シャルロット・セクサロイドの憂鬱
5. 思春期病
6. 少年A
7. いじめ
8. それいけ!ロリータ危機一髪
9. あたしもうぢき駄目になる
10. 赤い花の満開の下

戸川純を中心としたバンド「ヤプーズ」の5枚目となるフルアルバム。様々な表情を見せる戸川純の変幻自在のボーカルは相変わらず強烈だが、楽曲はそれまでよりもポップになって聴きやすくなっている。また今作でも心の深いところまで抉ってくる戸川純による鋭い歌詞も冴えている。

メタ的な視点の批評性ある歌詞が良い①は、今聴いても痛烈な響きがある。②はテクノポップの名曲といえるだろう。これまでのヤプーズにはありそうでなかったオタク受けしそうな作風が楽しめる。④はヤプーズお得意のSF世界観のエレクトロポップで、いかにも近未来という感じのサウンドに胸躍る。曲名からして期待せずにはいられない⑧は、サックスと戸川純の可愛らしい歌声を生かしたスパイ映画のようなダンスポップ。⑨はメンタルの臨界点を表現した重いテーマの曲だが、シンプルな打ち込みサウンドにメロディアスな旋律と敷居の高さは感じさせない。ラスト⑩は大団円な心温まるナンバー。

戸川純による冴えまくる歌詞は大きなポイントで、それがキャッチーな作風と組み合わさり、聴き手に伝わりやすくなっているといえるだろう。それまでのヤプーズの名盤にも劣らない傑作アルバムである。

身体と歌だけの関係|Hi-Posi 

1995/8/25 キティ

1. 保存する方法
2. ママになっちゃダメ
3. 身体と歌だけの関係
4. あと何日?
5. 体重分の愛
6. バースディパーティ~いっぱいだ
7. あなたはなんでもいい
8. 愛の因数分解リミックス(BonusTracks)
9. 身体と歌だけの関係(プライベートスナップ)

「Hi-Posi」(ハイポジ)は1988年にボーカルのもりばやしみほを中心に結成された音楽ユニットである。

本作は1994年にインディーズでZABADAK主催のレーベルBIOSPHERE RECORDSからリリースされたミニアルバムにボーナストラックを加えて、メジャーのキティから再発したもの。作詞作曲も手掛けるもりばやしみほの色気ある可愛らしいウィスパーボイスが特徴的なエロティックな楽曲は一度聴いたら忘れられないインパクトがあり、質感は1980年代アイドル早瀬優香子にも通じるものがあり。

冒頭①からキュートでエロティックなボーカルに圧倒されるが、ドラムなど緻密なサウンドの完成度は非常に高い。タイトル曲③は9分50秒に及ぶアンニュイな雰囲気全開の楽曲で、エスニックテクノサウンドと官能的な歌詞を囁くウィスパーボイスが見事にハマった傑作。後に早川義夫もカバーしている。もりばやしみほの歌声はエロスだけではなく、アンビエント系の楽曲④では切なく癒しを与えるような表情も見せており、幅広い情感を表現できるボーカリストといえる。J-pop全盛時代の女性ボーカルポップの隠れた名盤である。

遠い音楽|ZABADAK 

1990/10/25 イーストウエスト・ジャパン

1. 満ち潮の夜
2. 夢を見る方法
3. 遠い音楽
4. 二月の丘
5. 愛は静かな場所へ降りてくる
6. 生まれた街へ
7. Sarah
8. Around The Secret
9. とぎれとぎれのSilent Night
10. harvest rain(豊穣の雨)

ZABADAK(ザバダック)は1985年に吉良知彦と上野洋子を中心に結成されたロックユニット。デビュー以来、様々な音楽要素を取り込んで思考錯誤していたZABADAKのイメージを決定づけたともいえる1枚。

イギリスの60~70年代のフォーク/トラッドやプログレッシブ・ロックからの影響を感じさせ、ケルト音楽等のワールドミュージック色の強いポップロックだが、上野洋子の澄んだ歌声を中心とした日本の伝統的な「歌」を大切している作風で、良質なポップミュージックとして聴ける名盤である。録音はピーター・ガブリエルのイギリスのリアル・ワールド・スタジオで行い、作曲はすべて吉良知彦と上野洋子が担当、作詞はKARAKの小峰公子が大半を手掛けている。また演奏陣にはヴァイオリニストの金子飛鳥、ベーシスト渡辺等、KARAKの保刈久明など豪華面子が参加している。

冒頭を飾る①は上野洋子ボーカルの美しい3拍子のワルツでこれぞZABADAKな幻想的な楽曲。②はアイリッシュ的なリズムの吉良智彦ボーカル曲で、間奏の金子飛鳥のフィドルがひたすらかっこいい。
③はZABADAKの代表曲となったアコースティック楽器主体の大名曲。吉良智彦の書く美しいメロディー、上野洋子の澄んだ瑞々しい歌声、「詩」としても優れている原マスミが手掛けた歌詞、奥行きのあるアレンジなど素晴らしい1曲。⑧はアコーディオンが印象的な民族音楽的な高揚感のあるダンス曲。⑩はジブリアニメ等にタイアップしてもハマりそうな壮大なフォーク/トラッドソング。

アルバム通して記憶に残る素晴らしい曲が多く、小難しい知識等は必要なく誰もが楽しめる内容なのでぜひ多くの人に聴いて欲しい1枚だ。

Goddess in the Morning|Goddess in the Morning 

1996/3/10 biosphere records

1. Reincarnation
2. Ucraine
3. Goddess in the Morning
4. Flower Crown
5. Tribute of Jungle
6. Saga
7. 14

アニメソング系女性シンガーソングライターとして独自の世界観で支持を集める新居昭乃とYAYOIによる音楽ユニット「Goddess in the Morning」が残した唯一のアルバム。Hi-Posi も作品を出しているZABADAK系列の音楽レーベルBIOSPHERE RECORDSから1996年にリリースされて、同レーベル最高のセールスを記録したとのことである。

アンビエント風味もあるヒーリング/ワールドミュージックという感じで、民族音楽色のあるボーカルやコーラスなど細部にもこだわりを感じる意欲的な作風である。新居昭乃お得意のナイーブで箱庭的なファンタジー色が強い歌モノも収録されている。

①は新居昭乃の王道と言える透明感のある幽玄なボーカル主体のメロウな曲で、癒しを与えてくれる。③と⑥はブルガリアンボイスのような民族音楽色が強いもので、二人の高度なボーカル技術を楽しむことができる。④はこのアルバムの中核をなす楽曲で、童話のような世界に引き込まれる名曲。メロディーラインが素晴らしくて、記憶に残る旋律である。

新居昭乃と柚楽弥衣のお互いの個性を上手く調和させており、日本産のヒーリング/ワールドミュージックの傑作アルバムである。

空色帽子の日|ZELDA 

1985/10/21 CBSソニー

1. DEAR NATURAL
2. 自転車輪の見た夢
3. FOOLISH GO・ER
4. FLOWER YEARS OLD
5. WATER LOVER
6. 湖のステップ
7. 小人の月光浴
8. 時折の色彩
9. 無人号地・357
10. ハベラス

1979年にベースの小嶋さちほを中心に結成されたガールズバンド「ZELDA」。日本のガールズバンドの草分け的存在として1996年に解散するまでロックシーンを引牽していたバンドである。本作は前作に続いてムーンライダーズの白井良明がプロデュースした3枚目となるフルアルバム。

1970年代後半のパンク/ニューウェーブムーブメントから登場したバンドであり、イギリスのSiouxsie & The Bansheesなどのニューウェーブバンドからの影響が感じられるガールズロックだ。

冒頭を飾る①は意表を突く三拍子のワルツ。タイトル通りナチュラルスタイルの高橋佐代子のボーカルが映える傑作。②はネオアコ風の可愛らしい曲。この女の子っぽい天然なキュートな質感は後の女性アーティストへ多大な影響を与えたと思われる。⑥は乙女チックなときめきが眩しいニューウェーブサウンドのガールポップの名曲。白井良明が作るサウンドが素晴らしい。
⑦はこのバンドお得意のぶっ飛んだ曲調と歌唱がインパクト大のポストパンク系の曲。⑧はZELDAの代表曲といえる名曲で、エキゾチックなメロディーと文学的な歌詞、クールなボーカルと一度聴いたら忘れられない魅力がある。

後のZELDAもそうだが、このアルバムでも曲によって表情が変わりまったく印象が変わるというのは、女性の不可思議さを表現しているようでもあり、いつまでも色褪せない女性の不可解さが味わえるアルバムである。

Switch Complete 1986~1987| Nav Katze  

2001/8/23 アゲント・コンシピオ

1. 御亡夜の夢
2. 夕なぎ
3. ゆりかご
4. 入浴
5. 愛し合う夜
6. 水のまねき
7. 銀の羽の戦士
8. 螺旋階段
9. 赤い真夏
10. 闇と遊ばないで
11. 黒い瞳
12. 病んでるオレンジ
13. 駆け落ち
14. パヴィリオン

Nav Katze(ナーヴェカッツェ)は1984年に結成されたスリーピースガールズバンド。本作は1986年の「Nav Katze」と1987年の「OyZaC」の2枚をまとめた初期のベスト的内容のアルバムである。

当時和製ポリスと言われた通りイギリスのニューウェイヴ系のバンドからの影響を受けており、クールな質感のロックサウンドとアンニュイな雰囲気を持つ飾らない歌声が特徴的なギターロックである。メロディーや歌詞には日本的な叙情性があり、それがこのバンドの大きな個性と魅力になっている。

冒頭①はこのバンド独自の冷めたような批評性が感じられるが、シンプルなロックサウンドはカッコよくて、歌ものとしても優秀である。
②はエモーショナルなギター、メロディーと文学的な歌詞が、独自の空気とひとつの物語を紡ぎ出す「自己」への鎮魂歌のような曲。この時代のインディーシーンだからこそ生まれた奇跡のような大名曲である。
心に安らぎを与えてくれる③はジャングリーなギターポップナンバー。⑥は軽快で爽快感ある曲で、一筋縄ではいかない文学的な歌詞も記憶に残る。ワールドミュージック調の⑦はファンタジー色が強い旋律が、別世界に連れていってくれる。⑩はネオアコサウンドと親しみやすい歌メロに可愛らしくも怖い意味深な歌詞が印象的な曲。疾走感ある⑬はギターリフが良くて、刹那的な情感が切ない。
⑭は作詞にサエキけんぞうを迎えた、SF世界観の退廃的で儚い名曲。サウンドやメロディーはシンプルだし、ボーカルもそっけないが、とにかく心揺さぶる。

アルバムとしてひとつの物語を奏でているような素晴らしい内容で、日本のガールズバンドの中でも屈指の内容の1枚である。

NON-FICTION|PSY・S 

1988/8/1 ソニー・ミュージックレコーズ

1. Parachute Limit
2. Spiral Lovers   
3. (Shooting Down) The Fiction     
4. Romeo            
5. EARTH〜木の上の方舟〜          
6. Angel Night〜天使のいる場所〜 (Album Version) 
7. Silver Rain      
8. Robot
9. 薔薇とノンフィクション           
10. HOURGLASS〜時の雫〜

PSY・S(サイズ)は1980年代から1990年代にかけて活動していた松浦雅也とCHAKAによる音楽ユニットである。本作は1988年にリリースした4枚目のフルアルバム。

フックのあるメロディーと透明感のある瑞々しいボーカルが印象的なニューウェーブ系の電子ポップで、1980年代のサブカル系女性ボーカルポップを代表するというに相応しい内容だ。特に冒頭を飾る①は青春のセンチメンタルな情感と真っ直ぐさが突き刺さる名曲で、美しいメロディーとエモーショナルなボーカルは最高である。アニメのタイアップで有名な代表曲⑥は、疾走感溢れる力強さと切なさが同居する傑作。⑨はまさに1980年代の女性ボーカルポップという感じで、王道の胸をキュンとさせるメロディーはさすが。また⑤のような自然・大地系の壮大なバラード曲もあり、収録曲はバラエティに富んでいる。

電子楽器を用いたニューウェーブポップとしては申し分ない出来である。特に松浦雅也の作るメロディーはセンス抜群で今聴いても楽しめる素晴らしいアルバムだ。

Silent Days|KARAK  

1991/6/21 キングレコード

1. 羽化 
2. ウィングス・オブ・アン・エンジェル    
3. 明日ヲ見ル丘 
4. 水の底の映画 
5. くじらの夢    
6. 雨の日のピアノ           
7. 傷つけぬよう 離れぬように      
8. スロウ・トゥ・ミー    
9. カデンツァの森           
10. 老人と船

KARAK(カラク)は小峰公子と保刈久明による音楽ユニットで、本作は1991年リリースの1stアルバムである。ケイトブッシュやコクトーツインズなどのイギリスの幻想的なプログレッシブロックやニューウェーブからの影響を感じさせるポップロックで、透明感ある小峰公子のボーカルと保刈久明による幻想的な楽曲が特徴的である。

冒頭①から遊佐未森と同時代性を感じるドリーミーでファンタジックな世界観に引き込まれ、続く②ではUKロックを思わせる繊細で耽美的な旋律を聴かせてくれる。⑦はPSY・Sにも通じるようなシンセとギターが唸りを上げるニューウェーブポップで、KARAKにしては珍しくストレートな盛り上がりで高揚感が得られる。⑧はネオアコ風の爽やかなサウンド&メロディーが懐かしい気持ちを運んでくれて、乙女チックなボーカルと歌詞に少し気恥ずかしさを覚える。⑨は壮大でエスニックなフォーク/トラッドソング。

派手さはないが楽曲の完成度は非常に高くて、じわじわと心に沁みるアルバムである。また小峰公子の歌声が独特の可愛らしさがありそれが大きな魅力となっている。

ハニー・チャパティ|メンボーズ 

1997/9/21 バッド・ニュース音楽出版

1. 電車にのって
2. はやくはやく
3. ななちゃん
4. たびたち
5. おばあちゃんが夏を待ってる
6. 窓
7. オロナイン
8. フラワー
9. 大正区
10. 水
11. 夢

1990年代のインディーシーンに少なからず衝撃を与えた2人組の音楽ユニットの1stアルバム。音楽性はアコースティック主体の歌モノで、ふわふわというかフニャフニャした無垢なボーカルが心をほっこりさせてくれる。歌声はプロの歌手やカラオケ的な上手さとはまったく違う素人女子という感じで、独自の世界観を持つフォーキーなポップソングである。

冒頭を飾る①はこのユニットの魅力が詰まった名曲で、未完成な響きの女性ボーカルものの金字塔と言えそうである。②は持ち前のゆるいキュートさが心地良い佳曲。③はみんなのうたにタイアップできそうな感じだが、歌詞のセンスが凄くて驚かされる。⑨はリアルな日常の生活感や風景を感じる、不思議っぽい女の子の歌。

特筆すべきはやはり真っ直ぐで無垢な印象のボーカルで、インパクト大だが、単純に曲として良いものが多く、良質なポップソング集として楽しめるアルバムだ。

猿の宝石+2Songs|ミン&クリナメン 

2002/8/21 インペリアルレコード

1. フラッシュ・ザ・ナイト
2. タコツボ
3. ササヤキ
4. ハゴロモ
5. 猿の宝石
6. フューチャー・ナウ!!
7. 夢見るシャンソン人形I
8. 夢見るシャンソン人形II

ミン&クリナメンは1980年代に活動していたバンドで、ボーカルの泯比沙子がライブ中にセミを食べるなどの過激なパフォーマンスで有名であり、後にハイロウズで活躍するベーシストの調先人が在籍していたことでも知られている。本作は1987年にリリースした唯一のメジャー作品にボーナストラック2曲を追加したものである。

泯比沙子のボーカルは戸川純からの影響が強いと思われるエキセントリックなロリータボイスで、サウンドはパンキッシュなニューウェーブ系のロックだ。冒頭を飾る①は1980年代的なニューウェーブ色の強いノスタルジックなポップロックで、今聴くとサウンドはやや古さを感じるが、爽やかなビートは懐かしい気持ちを運んでくれる傑作。原マスミが書いた感動的な④やタイトル曲⑤など楽曲はバラエティに富んだ内容で、全編に渡り泯比沙子の不思議ちゃんキャラといえそうな歌声が楽しめる1枚だ。

crossed fingers|D-DAY 

2009/10/20  Caraway Records

ディスク 1
1.Yacht Harbour
2.失した遊園地
3.Peaches
4.Night Shift
5.CITRON
6.わたしの昼と夜
7.NOSTALGIA
8.Sweet Sultan
9.Dead End
10.MEMORY
11.DUST
12.KI・RA・I
13.So Thst Night
14.Vale of promises
15.Hills Dream
16.Float a Boat
17.僕には特別なクリスマス
18.ジェリー・ビーン
19.In The Midnight Hour

ディスク2
1.Kiss Me At The Garden Gate
2.天使に似た君
3.Sunday Thinker
4.a slice of the night
5.Innocent Lover
6.Pho’be
7.Last Summer Wind
8.ひとりじめのx’mas
9.Here I Am
10.シェリーにくちづけ
11.Milky Way

本作は1982年に結成され、インディーズシーンで活躍したニューウェーブ系バンド「D-DAY」の1980年代の全音源を収録した編集盤である。ニューウェーブサウンドのガールポップであるが、ボーカルの川喜多美子の可愛らしいビジュアルや歌声は、当時の殺伐としたインディーズシーンでは異彩を放っており、一服の清涼剤のような存在であったといわれる。

ディスク1はベスト的な内容である。②は気怠げな雰囲気が堪らない、切ない幻想的なナンバーで名曲である。⑤はアイドルポップ風のキュートなポップチューン。⑥は後の渋谷系にも通じるようなオシャレポップ。⑨⑩はハードなロックサウンドに透明感あるボーカルが組み合わさり、気持ちの良い高揚感が得られる。⑬はキャッチーなメロディーのギターポップで聴きやすい曲、⑰はみんなうた的な可愛らしい歌声に心が和むポップナンバー。ディスク2は未発表曲などのレア音源を収めたもので、斉藤美和子とコラボしたガールポップの傑作⑬などバラエティに富んだ音楽性が楽しめる。

キュートな歌声を生かしたインディーポップは、サブカル系の女性ボーカルバンドの走りといえそうで、その儚い輝きが詰め込まれた曲は色褪せない魅力がある。

幻想庭園+1|蟻プロジェクト 

1996/11/11  PROP-FIZZ RECORDS

1. 靑蛾月
2. マリーゴールド・ガーデン
3. 鏡面界 im Juni
4. アンジェ・ノワールの祭戯
5. 紅い睡蓮の午後
6. 桜の花は狂い咲き
7. 少女忌恋歌
8. パラソルのある風景
9. 硝子天井のうちゅう
10. 幻想庭園
11. Puppé Frou Frou
12. フラワーチャイルド

現在ではアニソンアーティストとして有名な音楽ユニット「蟻プロジェクト(現ALI PROJECT)」が1988年にインディーズからリリースした1stアルバムにボーナストラック⑫を加え再発したものである。

ゲルニカやザバダックからの影響もありそうなプログレからエレポップまで取り込んだゴシックロックで、片倉三起也のクラシックや西洋音楽からの影響が強いサウンド構成や作曲センスは様式美を感じさせる。

冒頭を飾る①は蟻プロジェクトの魅力が分かりやすく表現されている楽曲で、チープな打ち込みサウンドと幻想的な世界観、宝野アリカのゴシック/ロリータ的な魅力がある可愛らしい歌声が印象的である。本作のリードトラックといえる⑥はキャッチーな和風のメロディーラインに、チープなエレポップサウンドと粗削りなギターが組み合わさったダンサブルな楽曲である。③のようなクラシカルなバラードもあり、アルバムの良いアクセントとなっている。

全体的にサウンドはチープで軽いがそれが幻想的なゴシックロックと上手く調和している傑作アルバムだ。

銀の翼|STARLESS 

2001/3/7 キングレコード

1. プロローグ
2. 銀の翼
3. 瞳の奥に…アイ・ルック・イン・ユア・アイズ
4. アフロディジアック
5. 章末
6. ブレス
7. ダジリング・ディザイア
8. 予感
9. 明日の影

本作は元Scheherazadeの大久保寿太郎が1984年に結成したプログレッシブ・ハードロックバンド「STARLESS」のデビューアルバムがCDで復刻されたもの。バンド名はKing Crimsonの『STARLESS AND BIBLE BLACK』から。

音質はやや硬い質感だが、シンフォニックな様式美を基調としたハードロックサウンドと、歌謡曲やアニメソングのようなキャッチーさを持つ楽曲をボーカルの宮本 “JULLA” 佳子がパワフルに歌い上げている。

アルバムタイトル曲である②は高揚感得られる文句なしの名曲で、日本産プログレハードとして先駆的な旋律は今も色褪せてはいない。③などもいかにも1980年代の日本的なハードロックという感じで、聴き手の期待を裏切らないシンフォニックな盛り上がりを見せる。プログレ度数が高い⑥は本作の目玉トラックといえ、ドラマチックな目まぐるしい演奏に引き込まれる。

メロディーラインは一緒に歌えるほどキャッチーなので、敷居は高くなく気軽に楽しめる1枚である。

LET’S KNIFE|少年ナイフ 

1992/8/26  MCAビクター

1. RIDINDG ON THE ROCKET/ロケットにのって
2. GET THE WOW
3. TWIST BARBIE
4. TORTOISE BRAND POT CLEANER`S THEME(SEA TURTLE)
5. ANTONIO BAKA GUY(アントニオバカ貝)
6. AH SINGAPORE/嗚呼、新嘉坡
7. FLYING JELLY ATTACK
8. BLACK BASS
9. CYCLING IS FUN/サイクリングは楽し
10. WATCHIN` GIRL
11. I AM A CAT
12. TORTOISE BRAND POT CLEANER`S THEME(GREEN TORTOISE)
13. DEVIL HOUSE/悪魔の館
14. INSECT COLLECTOR
15. BURNING FARM/焼畑農業のうた

ニルヴァーナと全英ツアーを行うなど海外で非常に評価が高いガールズロックバンド「少年ナイフ」の1992年リリースのフルアルバム。それまで発表してきた代表曲の数々を再録し、収録したベスト盤的内容である。ラモーンズなどの海外パンクバンドからの影響を感じるヘタウマで可愛らしいポップパンクで、のんびりとした雰囲気があり親しみやすさがある。

冒頭を飾る①は少年ナイフを代表する曲のひとつで、これを聴けばこのバンド独自のゆるさと可愛らしさが伝わることだろう。ヘビーなギターがうなりを上げる⑤はやさぐれロック。センスの良いフィーリングが光る軽快な⑨はガールズポップとしても良い曲だ。⑪は味のあるつたない英語詩の歌唱とノスタルジックなメロディーが印象的で、胸に何とも言えない切なさが迫る名曲である。⑮はニューウェーブ色が強いキャッチーで凄まじくかっこいい曲。

全体的にはストレートなロックアルバムであるが、サウンドは凝っているものも多くあり一筋縄ではいかない内容となっている。洋楽的なセンスを感じるものが多くあり、少年ナイフが海外で受け入れられたことも頷ける傑作アルバムだ。

Wee Wee Pop!!|TEENY FRAHOOP 

1998/2/1  K.O.G.A Records

1. eat candy
2. Flower Goes On
3. SHE IS BABY PANDA
4. VOMIT
5. GRUDGE
6. A Bird in the Narrow Cage
7. THE LUCKY★STAR
8. BANANA JUICE
9. Happy Vanilla Pop
10. Soy bean sprouts
11. to lay
12. Kitchen
13. Heavy Smoked,Salmon Sand(wich)
14. Elephant mummy

ヴィーナス・ペーターの古閑裕が主催するインディーレーベルK.O.G.A Recordsからデビューした3ピースのガールズギターバンド「TEENY FRAHOOP」の1stフルアルバム。K.O.G.A Recordsは良質な女性ボーカルバンドの作品を多数リリースしており、このTEENY FRAHOOPもパンク、パワーポップ、ギターポップなどを取り込んだキュートなガールズロックが楽しめる。

基本的には②、③、⑩などの勢い一発といった感じのラフな疾走感溢れるパンクポップが多く収録されている。目玉はダイナソーJr.のようなエモーショナルなオルタナギターロックの名曲①で、切ない轟音とメロディーの洪水は◎。アルバム内では冒頭のこの曲だけ他とは毛色が違う作風となっており、このバンドの渾身の1曲といっていいだろう。

インディーバンドらしい粗削りなロックサウンドと可愛らしいボーカルが楽しめる当時のインディーシーンの熱さが感じられる1枚だ。

最後は天使と聴く沈む世界の翅の記憶|黒百合姉妹 

1990/12/25 SSE COMMUNICATIONS

1. 最後は天使と聴く沈む世界の羽根の記憶
2. Little Star
3. 深
4. 花
5. 地中海の夢
6. Under The Moon
7. Le Chant De L’etoile
8. 黒猫ティヴの子守歌
9. Marble Angel

1980年代後半から長年に渡りインディーズシーンで活動しているJURI(妹)とLISA(姉)による姉妹音楽ユニット「黒百合姉妹」。本作は1990年にリリースされた1stアルバムである。作詞/作曲は姉妹で行い、メインボーカルはJURIが担当し、LISAは主にピアノ/キーボード演奏を行う。宗教音楽や教会音楽のような荘厳な楽曲は尊さがあり、イギリスのゴシック系音楽グループのデッドカンダンスに通じるような独特の美意識と耽美感も魅力である。

①は黙示録的な世界観の中で天から救い光が降り注ぐような美しい讃美歌が心を癒してくれる。まだ熟練していない初々しい無垢な歌声が印象的である。③は美しいピアノ伴奏と悲哀を感じるメロディー&ボーカルがダークな世界にいざなってくれる。④はオルガン伴奏と終末的な世界観の歌詞が強烈なインパクトを残す、切なくも力強さを感じる曲。⑥は悲劇的なピアノがリードするドラマチックな曲構成に引き込まれる。ラスト⑨は天使のような旋律を聴かせてくれて、ひたすら美しいピアノと歌声にうっとりとしてしまう。

デビュー作ということもあってか歌声はまだ成熟していない部分が感じられるが、インディーズっぽい可愛らしい魅力があると言える。こういった音楽性をDIY精神で作り上げているのは凄いことだと思うし、当時のインディーシーンの中でも異色と言える傑作アルバムである。

Kokushoku Elegy|黒色エレジー

2020/12/30 SUPER FUJI

ディスク1

1. 訪れざる宴
2. 満月の夜
3. Warrior
4. Goddess
5. 花粉犯罪
6. 夢の成る頃
7. 安息日
8. □鵺の想い
9. 邪宗門
10. 太陽眼
11. サンストローク
12. 揺籃の刻
13. 神々のレース
14. 虹と蛇のブルース

ディスク2

1. Crepuscular Rays
2. Seiren
3. 虹と蛇のブルース
4. Dear Sheba
5. 青いダリア
6. □鵺の想い
7. Cosmictrigger
8. 訪れざる宴
9. 日々の泡
10. Goddess
11. 神々のレース
12. 夢の成る頃

1980年代に活躍した伝説のゴシック/ポジティブパンク「黒色エレジー」。本作は1985~1989年のスタジオ録音の14曲と初出6曲を含む未発表ライブの2枚組からなる27年ぶりとなるリリースの編集盤である。スージー・アンド・ザ・バンシーズに影響を受けたと思われるニューウェーヴ系のゴシックロックだが、ヒリヒリするような緊張感あるサウンドに和楽っぽいメロディーが組み合わさったスタイルは日本独自の個性がある。ボーカルkyokoのカリスマチックなダークで艶やかな歌声は存在感があり、1980年代日本の女性ボーカルゴシックロックでは「G-シュミット」と並んで代表的なバンドと言えるだろう。

スタジオ音源のディスク1は黒色エレジーの魅力が存分に味わえる濃い内容である。③はアンダーグラウンドな雰囲気全開のラフなバンドサウンドが堪らなく良い。ポストパンクとしても優秀な楽曲で、メロディアスなギターなど暗黒のエモーショナルさは特筆すべきものがある。代表曲⑤はキャッチーでこのバンドの魅力が分かりやすく聴き手に伝わる秀逸な曲。ざらついたギターの張り詰めた緊張感と和風なメロディーを歌う幽玄な世界に誘うような妖しいボーカルは必聴である。⑥は異様にカッコいいうねるベースなどクールなロックサウンドをポップに味付けしており、幻想的な雰囲気も素敵な曲。⑨はプログレッシブな展開を見せるドラマチックな楽曲で、ダークでパンキッシュな迫力とカオティックな旋律に圧倒される。
他にも狂気のゴシックロックという感じの①や透明感ある美しいボーカルと激烈なサウンドが上手く調和されている⑪など個性的な佳曲が揃っている。ディスク2のライブ音源は録音状態があまり良くないものの当時の熱さは伝わるもので貴重な記録と言えるだろう。

あまり似たような音楽性が浮かばないほど独自性があるバンドである。ニューウェーヴらしいパンキッシュさだけでなくプログレやハードロック的な部分が要所に感じられ、アンダーグラウンドなバンドらしい混沌渦巻く内容で聴きごたえ十分の1枚だ。

螺鈿幻想|ページェント 

2006/5/25 キングレコード

1. 螺鈿幻想
2. ヴェクサシオン
3. 木霊
4. 人形地獄
5. 夜笑う
6. セルロイドの空
7. エピローグ

1980年代に活動していたプログレバンド「ページェント」が1986年にリリースした1stアルバムを紙ジャケ再発したもの。ジェネシスなどのプログレバンドからの影響を受けたシンフォニックなロックサウンドを基調とし、歌謡曲っぽい日本的なメロディーをボーカルの永井博子(現在は大木理紗)が圧倒的歌唱力で表情豊かに歌い上げるという内容である。永井博子は同時期にミスターシリウスにも在籍した日本のプログレッシブロックを代表する女性ボーカルである。

タイトル曲①はシンフォニックな演奏と和を感じるメロディーと歌詞が見事に同居する秀逸なナンバー。永井博子の歌唱力の高さは特筆すべきものがあり、1人のシンガーとしても素晴らしいと言えるだろう。オルゴールのイントロとセリフが印象的な②は前半のアコースティックなパートから後半のドラマチックな演奏までひたすら美しい楽曲である。前半と後半で歌い方がまったく違うボーカルの表現力にも注目である。③はストレートなハードロック歌謡で、ベタとも言える臭いメロディーを情緒たっぷりに歌い上げるボーカルが力強い。④はメロディアスなギターがとても良い、日本的なホラー感がある曲。ラスト⑦は壮大なロックバラードで、タイトル通りエピローグという感じの感動がある。

演奏のドラマチックさは素晴らしいものがあり、親しみやすいメロディーも含めて聴きやすい内容である。永井博子の歌声にはこの幻想的な世界観に引き込んでくれる存在感があり、期待を裏切らない傑作アルバムだ。

クレヨン社の展覧会 BEST SELECTION 1988-1991|クレヨン社

1992/3/21 NECアベニュー

1. 夕映えのグラウンド
2. 痛み
3. いつも心に太陽を
4. さよならボーイフレンド
5. 手の中の魔法
6. 辻ヶ花浪漫
7. Broken Heart
8. 少年の時間
9. 口笛とビー玉とヒコーキ雲と
10. 風の時代
11. 地球のうた

柳沼由紀枝と加藤秀樹による音楽ユニット「クレヨン社」のベストアルバム。代表曲が多数収録されており、クレヨン社の魅力を知るにはうってつけの1枚。本作にも収録されている1988年デビューシングル『痛み』は愚直なまでにシリアスな歌詞が凄まじいインパクトであったが、音楽性はPSY・SやZABADAKなどに通じるようなワールドミュージックやファンタジックなものも多い。

前述した通りデビューシングル②は、サウンドはシンプルなチェロのみで、メッセージ性が強い歌詞を核にした楽曲である。尾崎豊やブルーハーツと同時代性を感じるものではあるが、柳沼由紀枝の優しい歌声で切々と訴えられるメッセージは青春時代に誰もが抱く葛藤であり、いつまでも色褪せることはないだろう。③は心を優しく包み込んでくれる温かい歌声とメロディーが良い。⑤は躍動感あるリズムのシンセポップで、わくわくする旋律に元気を貰える。⑥は古代の日本の情景が浮かぶような民族音楽色が強いポップソング。和を感じるサウンドや美しいメロディーは絶品で、透明感あるボーカルも良い。⑪は地球をテーマにした壮大な曲で、大地や生命の息吹に触れるような感動的な1曲。

楽曲はポップミュージックとして普遍的な魅力がありながらも個性的でもある。特に②のような曲はJ-POPシーンではほとんど聴くことができない、ある意味挑戦的なものであり、創作意欲に満ちた音楽性が楽しめる1枚である。

改造への躍動|ゲルニカ

2006/2/22  ‎ Sony Music Direct

1. ブレヘメン
2. カフェ・ド・サヰコ
3. 工場見學
4. 夢の山獄地帯
5. 動力の姫
6. 落日
7. 復興の唄
8. 潜水艦
9. 大油田交響楽
10. スケエテヰング・リンク
11. 曙
12. 銀輪は唄う
13. マロニエ読本

戸川純、上野耕路、太田螢一による音楽ユニット「ゲルニカ」。本作は1982年にリリースされた1stアルバムに1stシングルを追加収録した紙ジャケ再発盤である。プロデュースは細野晴臣で、上野耕路のチープなシンセサウンドと戦前の大陸歌謡を思わせる楽曲を戸川純が演劇的に歌い上げるという超個性的な内容の1枚。

②はうねるようなシンセと透明感ある歌声が非現実空間に引き込む、アンダーグラウンド感が堪らない曲。⑤は歌い出しからオペラチックな戸川純独自の歌唱に耳を奪われ、怪奇映画のようなホラーな雰囲気のサウンドに圧倒される。⑥は現代音楽のような実験的なピアノ伴奏と暗く生々しいボーカルが印象的。⑦は本作の中核をなすナンバーで、シンプルなシンセにタイトル通リ戦後の復興をテーマにした歌をミュージカルのように歌うというもの。歌メロがキャッチーで親しみやすく、歌詞の内容も興味深い。⑪ドラマチックな組曲調の曲で、アルバムの最後を飾るに相応しい感動がある。ボーナストラックとして収録された⑫と⑬は本作リリース後に1stシングルとして発売された音源。青春と自転車をテーマにした⑫は当時としてもインパクトがあったと思われるオーケストラサウンドの大陸歌謡。⑬は戸川純の熱唱が胸に迫る西洋的な世界観の壮大なバラード。

独自の個性が光る内容で、今聴いても異質とも言える濃い世界観に圧倒される。その後の音楽シーンにも多大な影響を与えていると思われるが、このアルバムと同じ質感を再現できたものはなく、まさに唯一無二の名盤である。

フリー(アット・ラスト)|PLATINUM 900

2021/8/4 Sony Music Direct

1. 天国と地獄-Heaven or Hell
2. 眩しいフォトグラフ
3. フリー(アット・ラスト)
4. 夜明け前
5. ハリーは毛むくじゃら
6. 月灯りの下で
7. セイ・ホワット?
8. クライ・ベイビー・クライ
9. レッツ・ブギ・ザ・ナイト
10. カミーニョ・ド・マー

1990年代に活動していた3人組のバンド「PLATINUM 900」。本作は1999年にリリースした1stフルアルバムをリマスターした再発盤である。近年、名盤として紹介されることが多くあり待望の再発であった。キュートな坂田直子のボーカルやジャズ、ファンクを基調とした洗練された楽曲はポップネスに満ちており、聴き心地の良い上質な女性ボーカルポップが楽しめる1枚。

冒頭①からサックスをフューチャーしたファンキーなグルーヴと爽快なボーカルが気分を高揚させてくれる。続く②は感傷的なメロディーや情景が浮かぶ歌詞などノスタルジックな旋律に心が癒される秀逸な曲。③はジャズ/フュージョンからディスコまで感じさせるクールな極上のポップナンバー。⑤は懐かしい雰囲気の曲で歌詞も面白い。⑥は吸血鬼をテーマにしたユニークな曲で、ゆったりとしたお洒落なムードと美しいメロディーが味わい深い。⑨はジャジーでファンキーなダンスポップで、軽やかなリズムでスタイリッシュに決める名曲。

全編に渡って洗練されたグルーヴ感溢れる曲が楽しむことができ、耳にすんなりと馴染む坂田直子の歌声など、まさに魅力のある音楽がここにあるという感じだ。1990年代後半の隠れた名盤と言えるだろう。

重力泥棒|noodles

1995/5/26  BENTEN

1. Mellow Metallica
2. Brain Child
3. Blessed Someday
4. Lemon Tree
5. A Gravity Thief
6. Control
7. New Thrills
8. 6 Colors
9. My Cynic -Lovel

1991年に結成されたガールズバンド「noodles」(ヌードルス)の1stアルバム。ボーカルYOKOのガーリーでキュートな歌声を生かしたガレージロックで、インディーズバンドらしい粗削りで生々しいロックサウンドと甘く極上のメロディーは聴く物を虜にしてしまう中毒性がある。

冒頭①からラフな演奏の中でもメロディーと色気あるボーカルの良さが光っており、日本人離れしたポップセンスを感じることができる。
④はグランジっぽいサウンドでメロディアスに疾走する。⑤と⑧はヌードルスお得意のセンチメンタルで切ない旋律をこれでもかと聴かせてくれるロックバラード。可愛さの塊のようなキュートかつセクシーなボーカルの魅力がじっくりと味わえる。⑨はギターポップ感あるキャッチ―なナンバーで、乙女チックな雰囲気や歌声のカッコ良さが印象的。

楽曲の空気感は海外のバンドに近いものがあるが、YOKOの歌声の可憐さは日本ならではと言えるものである。このボーカルを聴くだけでも価値があるが、楽曲センスも良いので、音質などのインディーっぽさに抵抗がなければ文句なくおすすめできる1枚である。

manamoon(まなもぉん)|セラニポージ

1999/10/30 ヒートウェーヴ

1. spiral da-hi!
2. ふたごの恋
3. もじもじ
4. まなもぉん
5. 128号の謎
6. Octopus Daughter
7. 宇宙船はどこへいった?
8. 15秒
9. 僕のマシュ…
10. 勇気のでる歌

セガのドリームキャスト用ゲームソフト『ROOMMANIA#203』の音楽を手掛けるユニットとして結成された「セラニポージ」の1stアルバム。アルバムによってボーカルが違うメンバーとなっているが、本作では翌年から活動を開始する「CECIL」のボーカルを務める【ゆきち】が担当している。プロデュースは福富幸宏、メインソングライターはササキトモコ。ハウス色が強いエレクトロサウンドにゆきちの繊細で可愛らしいボーカルという都会的なポップスで、渋谷系の流れにあるオシャレな女性ボーカルポップが楽しめる。

②は爽やかな打ち込みサウンドと透き通ったボーカルが清涼感を与えてくれる。ゲーム音楽ということもあってかBGMとしても優秀である。③は王道渋谷系ポップという感じで、胸躍る洒落たリズム、センスの良いアレンジや爽快なメロディーにゆきちのキュートなボーカルがジャストフィット。⑦は印象としては不思議系ポップスというか、SFな歌詞のねじれ具合などちょっとズレた感じが堪らない1曲。⑧は恋をしているもどかしさを陽気なサウンドで表現した良質なポップソング。⑨は非常にユニークな歌詞とそれを違和感なく表現する洒落た雰囲気の楽曲が上手くマッチしている。⑩はのら犬の気持ちを歌った曲で、過酷な環境に置かれても生きることに前向きさを持てるようなメッセージが感動的である。

サウンド、ボーカル共に透明感が印象的で、通好みのメロディーラインも良い。聴けばさりげなく耳に馴染む曲が多いので、多くの人が楽しめそうな1枚である。

グラス・チューブ+シングル|After Dinner

2005/4/22 Arcangelo

ディスク1

1. セピア・チュール1
2. 加速度のエチュード
3. ソニャドール
4. おじょうさんとシャベル
5. 砂漠
6. グラス・チューブ
7. デザート
8. セピア・チュール2
9. 髪モビールの部屋(ボーナス・トラック)

ディスク2

1. アフター・ディナー
2. 夜明けのシンバル

1981年にHACOを中心に結成された音楽ユニット「After Dinner」。本作は1984年の1stアルバムとデビューシングルをリマスタリング音源で復刻したものである。ニューウェイヴ、電子音楽、民族音楽など様々な要素を組み合わせてプログレッシブに展開されるアヴァンポップはガラス細工のような繊細さと美しさを持つ唯一無二の音響芸術だ。

ディスク1は1stアルバム『グラス・チューブ』が収録されている。①は音楽楽団のような演奏で絵本のような幻想的な世界観をHACOが可愛らしく歌い上げる。みんなのうたのような親しみやすさもある一方で、奇妙な違和感というか異世界に連れていかれるような怖さがある。
⑧は①のパート2で、同じ旋律だがこちらはアヴァンギャルドなサウンドが牙を剥いており、狂気を感じるねじれ具合が圧巻である。②は早すぎたエレクトロニカと言ってしまいたくなるような先悦性がある。美しい歌声と実験的でアンビエントなサウンドの組み合わせは知的で刺激的なものだ。③は童謡のような可愛らしい歌と現代音楽のようなサウンドのミスマッチ感が楽しい。④はバイノーラル録音による実験的な立体音響が前衛的で面白い。アルバムタイトル曲⑥は本作の中でも特にドラマチックな曲展開や叙情的なメロディーが光る名曲。繊細なボーカルや細部にまで拘ったサウンドも凄いが、これだけ実験的な方向性であるのにシンフォニックな曲として優れているのが素晴らしい。

ディスク2はデビューシングルが収録されており、異国情緒溢れる前衛ポップ①は即興的な演奏の音響と荘厳なメロディー&ボーカルがひたすら美しい。②はミュージカルや演劇風の歌モノで、After Dinnerの中でも聴きやすい曲だがやはり個性的である。

挑戦的なサウンド構築は圧巻の出来で、一言で表せばまさに音の万華鏡。実験的でありながらもキャッチ―さも忘れないポップセンスやHACOの儚い歌声など、まさにアヴァンポップの最高峰と言える内容である。1980年代のアンダーグラウンドが生んだ奇跡のようなアルバムだ。

うたかたの日々|Mariah

2017/7/19 日本コロムビア

1. そこから……
2. 視線
3. 花が咲いたら
4. 不自由な鼠
5. 空に舞うまぼろし
6. 心臓の扉
7. 少年

サクソフォーン奏者の清水靖晃を中心に1979年に結成されたロックバンド「Mariah」(マライア)。本作は1983年にリリースされたラストアルバムである。ジャズ/フュージョン、ワールドミュージック、ニューウェイヴなど様々な音楽要素が刺激的に絡み合う実験的な作風で、エスニックかつメロディアスな旋律がプログレッシブに展開される。女性ボーカルはアルメニア人のジュリー・フォーウェルが担当。近年、海外でもレアな和モノとして高く評価されており、無国籍感漂う女性ボーカル音楽として非常に優れた内容の1枚である。

冒頭①は力強いパーカションの音色とエスニックなメロディーが壮大に鳴り響く。民族音楽的なリズムと語りのようなボイスが、ここではないどこかへと連れていってくれる。②はスティーヴライヒを思わせる現代音楽的な美しいサウンドと即興のように聴こえるポエトリーなボーカルが独創的な空間を生み出す。④は反復するリズムとスペーシーなサウンドがトリップ感を与えてくれる。ジャーマンプログレやニューウェイヴを取り込み、幾何学的にも聴こえるリズムなどとにかく個性的。⑥はオリエンタルな雰囲気と独自の浮遊感が堪らない名曲。エスニックなファンクという感じだが、無国籍感溢れるボーカルの独自の歌い回しなど中毒性がある。⑦は④同様にミニマルなビートとスペーシーなサウンドに引き込まれ、まるで呪文のようなボーカルが別次元に誘うようである。

多種多様な音楽ジャンルを複合させているが、それを上手く消化しマライア独自の個性として表現できている類まれな内容である。日本人離れしたセンスがありながらも、同時に強く『和』を感じさせる部分もある。1980年代邦楽の中でも必聴の名盤である。

第一歌曲集|招き猫カゲキ団

2010/8/25 SUPER FUJI DISCS

1. 人形
2. 砂漠のマリアンヌ
3. 森のおくりもの
4. 幻夜

日本を代表するガールズバンドであった「ZELDA」のボーカル高橋佐代子とベース小嶋さちほの音楽ユニット「招き猫カゲキ団」。本作は1984年にインディーズレーベルのテレグラフからリリースされた唯一となる音源作品の再発盤である。当時なんと1万枚のセールスを達成したというインディーシーンの大ヒット作品で、本家ZELDAとは一味違う箱庭的で演劇チックな幻想音楽が楽しめる。

①は音数の少ないシンプルな演奏で、虚空に響くような透明感ある歌声が美しい。演劇のようでもあり、ねじれたファンタジック歌謡という感じの独特の世界観に引き込まれる。②は民族音楽的なパーカションと天真爛漫なボーカルに無国籍感があり、歌詞のセンスも面白い。③はみんなのうたや童謡のような可愛らしい歌モノだが、得体の知れない怖さを感じさせるところは、まさにアンダーグラウンドミュージックである。④は叙情的なメロディーと美しい歌唱にうっとりするバラードで、夜に響く孤高の歌というに相応しい。

音楽性自体にはさほど難解さはなく美しいメロディー&透明感あるボーカルがたっぷり堪能できるが、少しズレている感覚というか異質な個性が随所に感じられ、1980年代のインディーズならではの独創的な内容となっている。 

スリーアウトチェンジ 10th Anniversary Edition|スーパーカー

2007/4/4 キューンミュージック

ディスク1

1. cream soda
2. (Am I)confusing you?
3. smart
4. DRIVE
5. Greenage
6. u
7. Autmatic wing
8. Lucky
9. 333
10. Top 10
11. My Way
12. Sea Girl
13. Happy talking
14. Trash&Lemmon
15. PLANET
16. Yes,
17. I need the sun
18. Hello
19. TRIP SKY

ディスク2

1. cream soda PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
2. (Am I) confusing you? PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
3. DRIVE PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
4. PLANET ~the end of childhood~ PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
5. Lucky LIVE AT GIGANTIC
6. RIGHT NOW LIVE AT GIGANTIC
7. Trash & Lemmon LIVE AT GIGANTIC

1995年に結成されて2005年まで活動していたロックバンド「スーパーカー」。本作は1998年にリリースされた1stアルバム『スリーアウトチェンジ』をリマスターし、ライブ音源等のレアトラックを追加収録した2枚組CDである。邦楽ロックを代表するバンドで、その後の音楽シーンに多大な影響を与えており、チャットモンチーのプロデュースを手掛けたいしわたり淳治もメンバーであった。この1stアルバムは1990年代を代表する邦楽ギターロックの名盤。基本的には作曲を手掛ける中村弘二がボーカルを務めることが多いのだが、フルカワミキが煌びやかな声で歌う楽曲もあり、これが実に魅力的で一聴で虜にしてしまう力がある。

ディスク1は『スリーアウトチェンジ』のリマスター盤。フルカワミキのボーカルが楽しめるのは④⑧⑨⑫⑬⑯⑱。可愛らしさとイノセンスを感じる歌声は、心に清涼感を与えてくれるもので、粗削りなギターサウンドとポップセンス溢れるメロディーとの相性も良い。④はアコースティックギターのキラキラした音色にぴったりのキュートで煌びやかな歌声とメロディーが心地良く響く。歌詞も印象に残るもので、語りかけるようなボーカルが心に届けてくれるものはまさに【元気】。
⑧は男女ツインボーカルの金字塔と言えるスーパーカーを代表する名曲。フルカワミキが歌い出した瞬間に胸に去来するものは初恋にも似た情感。眩しいほどの輝きを持つ旋律はまるで魔法のようだ。⑨は中性的な魅力も感じさせる歌声とラフなサウンドが織りなすセンチメンタルな青春ロック。⑫は力強いブリブリしたベースラインと轟音ギターで押しまくるアグレッシブな演奏に爽やかな透明感溢れるボーカルというまさにシューゲイズな1曲。⑬はインディーロックっぽいシンプルな曲調で、のんびりとした空気感に心が和む。⑯は⑫と同じく轟音ギターと透明感あるボーカルが浮遊感を生み出すシューゲイザーなギターロック。⑱はフレッシュな雰囲気の男女ツインボーカル青春ロック。
もちろん中村弘二ボーカル曲①⑮などキラーチューンも必聴で楽曲の出来は文句なし。

ディスク2は未発表のレア音源が収録されている。『DRIVE』の別ヴァージョン③は原曲よりも生々しい空気感にじっくりと浸ることができてこちらも良い出来となっている。ライブ音源はあまり音質が良くないが、熱い雰囲気は十分に伝わるだろう。

若さと勢いがこれでもかと溢れだすロックの初期衝動に満ちた名盤である。フルカワミキの歌声が良いアクセントとなっている部分が大きいので、女性ボーカルのバンドとしても優れている内容だ。

New Machinegun Etiquette|’else

1998/12/3 テイチクミュージックコーポレーション

1. New machinegun etiquette
2. Angel Talk
3. Love Eggman
4. Sweet Star,Jetset
5. The Sun Only Knows
6. Weasel
7. Comanche
8. POP 45
9. Melody Fair
10. High Time For Less Low Life
11. Swallow
12. “666”
13. Born to Sleep

1992年に結成されて2003年まで活動していたポップロックバンド「’else」のメジャー1stアルバム。UKロックに影響を受けたと思われる分厚いギターサウンドとフックのあるメロディーの女性ボーカルパワーポップで、理屈抜きに気分を上げてくれるご機嫌な1枚。1990年代の女性ボーカルバンドの中でも随一のストレートな作風で、小難しさは一切ないグッドミュージックである。

冒頭①からボーカルを務める河村裕子のキュートな掛け声を合図に疾走し、メロディックなガレージロックを決めてくれる。ウルトラキャッチーな楽曲に可愛い歌声という無敵感溢れるカッコ良さに痺れる。②は湿ったようなサウンドの空気感が印象的だが、ここでも無論ポップに疾走する。③はボーカルのギターポップ的な切なさがじんわりくる。⑧はこれでもかとキャッチ―なメロディーとエッジの効いたパワフルなギターで畳みかけてくれるので、憂鬱も吹き飛び爽快な気分になれる。⑪はエモーショナルな盛り上がりを聴かせるロックバラードで、情緒たっぷりに歌い上げるボーカルに聴き惚れる。⑫は轟音ギターと煌びやかなメロディーの嵐で押しまくり、センチメンタルな情感を伝える歌詞のナイーブさも良い。

ハードなギターサウンド、グッドメロディー、キュートな歌声と三拍子揃った女性ボーカルロックとして申し分のない出来。ここまで直球で勝負したバンドも珍しいので、今聴くと新鮮な魅力があると感じる人も多いかもしれない。

私を赤痢に連れてって|赤痢

2022/8/3 P-VINE

1. デスマッチ
2. 4649
3. ヨーレイヒ
4. どろどろ大江戸
5. かつかつROCK
6. だーらだら
7. 青春
8. 仏滅ラプソディー
9. カメレオン
10. FUCKしよう
11. ちった
12. ENDLESS
13. ナンバー (BONUS TRACKS)
14. ニャンニャンで行こう (BONUS TRACKS)
15. 赤痢作用(セキリプロセス) (BONUS TRACKS)
16. 夢見るオマンコ (BONUS TRACKS)

1980年代のインディーズシーンを代表する京都発のガールズバンド「赤痢」。本作は1988年にアルケミーレコードからリリースした1stアルバム『私を赤痢に連れてって』にボーナストラックを追加した再発盤。後のガールズバンドに多大な影響を与えており、ソニック・ユースのサーストンムーアもファンであることを公言している。荒々しいガレージロックサウンドは初期衝動を感じるカッコ良さがあり、身も蓋もないことをストレートにぶちまける歌詞やぶっきらぼうな歌い方のボーカルなど、強烈なパンクロックを聴くことができる。

冒頭①から今では考えられないような、過激な歌詞のインパクトに驚かされるが、切れ味鋭いギターやポップなリズムで疾走するさまは王道のロックンロールと呼べるもの。
②はどんよりとした空気の中で、ボーカル「みゆ」の日常の鬱憤をぶちまける感情豊かな歌声の表現力が光る。投げやりに歌っているかと思えば、カリスマ性ある力強い歌声を聴かせたりと不良っぽいラフな雰囲気のボーカルは個性的で魅力がある。③はソリッドなサウンドと生活の不満を淡々と歌うくぐもったボーカルがカッコいい。④はタイトル通りどろどろした感情をヘビィなロックで発散する。
⑦は苛立ちを軽快なビートで昇華した青春ロック。⑧はドラムのカッコ良さが際立つミドルテンポの渋いナンバー。⑩はあまりにも直球な歌詞が痛快な赤痢らしい1曲。この曲もそうだがパンクを基調にブルースっぽいセンスが随所に感じられる。⑫はこの頃の赤痢にしては長尺のナンバーで、やさぐれたガールズロックがたっぷり堪能できる。ボーナストラックでは代表曲⑯などのレアトラックが楽しめる。

フラストレーションが渦巻くような荒々しい演奏はインディーロックならではの熱さがある。好き勝手に歌っている印象のボーカル含め、ルーズというより飾らない自然体の魅力があると言えるだろう。生々しいガールズパンクが楽しめる1枚だ。

SUPERSTUPID! |SUPERSNAZZ

1999/1/25 ダブリューイーエー・ジャパン

1. Breakout
2. Johnny
3. Black Cat
4. Sometimes
5. Middle of the Way
6. Playing With My Guitar
7. Uncle Wiggly
8. Hardcore
9. Comanche
10. Creeps
11. First Time Is the Best Time
12. Papa Oom Mow Mow

ガールズバンド「SUPERSNAZZ」が1993年にリリースした1stアルバム。Nirvanaを輩出したシアトルの名門インディーズレーベルSub Popからいきなりデビューしたというちょっとビックリな1枚。このバンドは後にキュートなパワーポップ路線で胸キュンパンクポップを聴かせてくれたイメージも強いが、このデビュー盤ではグランジ色の強いギターが特徴的な勢いのあるガレージパンクを楽しむことができる。

冒頭①からノイジーなロックンロール炸裂という感じで、ボーカル務めるスパイクのワイルドな歌いっぷりに痺れる。続く②も疾走するキャッチ―なガレージパンクで、ロック以外の何者でもないボーカルが良い。④は本作の中でも白眉のポップセンスが光るキラーチューン。エッジの効いたギターとポップなメロディーがバンドの初々しい雰囲気と上手くマッチしており躍動感溢れる1曲だ。⑦はロック魂を感じる渋いボーカルとヘビィなサウンドが気分を高揚させてくれる。⑧はガールズロックのカッコ良さを詰め込んだようなクールでスタイリッシュな魅力が溢れている。
⑫は1960年代のアメリカ西海岸のボーカルグループThe Rivingtonsのカバー曲。SUPERSNAZZ流のオリジナリティあるカバーとなっており、ガールズバンドのカッコ良さや楽しさを感じることができる。

いきなり海外レーベルからデビューするという当時のインディーシーンの混沌や熱さを象徴する1枚である。曲には日本人離れした空気感があり、アメリカのバンドと並べても違和感がないセンスが光る1枚だ。

HOPE|遊佐未森 

1990/9/21 ピックレコードジャパン

1. Forest Notes
2. 雨あがりの観覧車
3. いつの日も
4. 雪溶けの前に
5. Holiday of Planet Earth
6. 夢をみた
7. 午前10時午後3時
8. 君のてのひらから
9. 夏草の線路
10. Echo of Hope
11. 野の花

1988年にデビューしサブカル界隈では絶大な支持を獲得したシンガー/ソングライター「遊佐未森」の4枚目となるフルアルバム。代表作である『空耳の丘』、『ハルモニオデオン』に続く空耳三部作といわれるアルバム群のラストとなる作品。サウンドプロデュースは前二作に続いて外間隆史で、ファンタジックで個性的な世界観と澄んだボーカルの魅力はそのままに、更に洗練されたメロディーとサウンドの楽曲はポップソングとして圧倒的な完成度を誇っている。

遊佐未森の楽曲群の中でも決定的な名曲といえる⑥と⑨は、日本のポップスとしても歴史に残る素晴らしい曲である。⑥は日常(青春)とファンタジーが上手くかみ合わさったドラマ性のある曲で、心に響くメロディーと歌詞は特筆すべきものがある。⑨はケルト音楽風のサウンドと日本の普遍的な美しい夏景色を描写した清涼感のある名曲。他にも心に染み渡るノスタルジックな②やタイトルからしてSFっぽい⑦、トラッド風のバラード⑪など良い曲揃いである。

全盛期の遊佐未森のひとつの完成形の作品であり、独自のファンタジックな箱庭的世界に引き込まれる名盤である。

水の冠|鈴木祥子 

1989/4/21 エピックレコードジャパン

1. Swallow
2. サンデーバザール
3. 水の冠
4. 電波塔
5 . Get Back
6. 最後のファーストキッス
7. 月の足音
8 . Sweet Basil
9. ムーンダンスダイナーで

同業のミュージシャンからも非常に高い評価を受ける女性シンガーソングライター「鈴木祥子」の1989年リリースの2ndアルバム。

卓越した作曲センスとドラムを始め多彩な楽器を演奏できるスキルを持ち、天才と言われることも多かった鈴木祥子だが、初期は同じエピックの遊佐未森と同じくサブカルのアイドルといえる存在で、彼女が瑞々しい透明感のある声で歌い上げるセンチメンタルで幻想的な世界観の文系ガールポップは心に癒しを与えてくれる。本作は全曲鈴木自身の作曲の他、作詞は川村真澄、メインアレンジは佐橋佳幸が手掛けている。

冒頭を飾る①はデビュー曲である『夏はどこへ行った』の流れにあるアコースティック曲で、彼女の澄んだ歌声が美しく印象的な傑作。②は異国の雰囲気を感じるドラマチックで切ない曲。物語として伝わる歌詞も秀逸だ。美しいメロディーと可愛らしいボーカルで胸キュンと締め付けられる③は映画のようなロマンチックな名曲。アニメにタイアップされた⑥と並んで彼女のキュートな魅力が楽しめる。⑤はネオアコといえるサウンド、メロディー、歌い回しなどすべてパーフェクトなガールポップの名曲。⑧はキュートな曲だが、歌詞は一筋縄ではいかない怖さがあり面白い。アルバム通して捨て曲が一切ない、素晴らしい出来の名盤だと思う。

4 to 3|小川美潮 

1991/2/21 エピックレコードジャパン

1. デンキ
2. Four to Three
3. 夜店の男
4. 野ばら
5. On the Road
6. 記憶
7. ほほえみ
8. 天国と地獄
9. 窓
10. おかしな午後

音楽グループ「チャクラ」のボーカルであった「小川美潮」が1991年に発表した2枚目となるアルバム。本作から本格的なソロ活動を始めており、その後の『ウレシイノモト』、『檸檬の月』と共にEPIC3部作という位置づけのアルバムである。板倉文や近藤達郎などチャクラ時代からのお馴染みの作家陣によるポップな楽曲と小川美潮の透明感あるふんわりとしたボーカルに心が癒される1枚。

自身の作曲である①は、じっくりと心にしみわたるメロディーと恋をした瞬間のときめきを上手く表現したサウンドがばっちりとハマった名曲だ。工藤順子によるストレートな歌詞と乙女心を感じる歌声も素晴らしい。アルバムタイトル曲である②は、板倉文による洒落たシティポップなアレンジが心地良くて、小川美潮の天真爛漫なボーカルに元気を貰える。祭りがテーマの③は、近藤達郎によるパーカションアレンジが印象的な和を感じる壮大な曲。⑥はファンタジックなワールドミュージック色が強い曲でコーラスが美しい。⑨は感動的なバラード曲でエモーショナルな歌唱は圧巻。⑩は1stアルバム収録曲のリメイクで、小川美潮のキャラクターにもあった曲といえるだろう。

小川美潮と実力派ミュージシャン達が才能を遺憾なく発揮して、独自の世界観を作り上げている。じっくりと聴かせる良質な楽曲揃いの傑作アルバムだ。

グレープフルーツ|坂本真綾 

1997/4/23 ビクターエンタテインメント

1. Feel Myself
2. I and I
3. グレープフルーツ
4. 右ほっぺのニキビ
5. ポケットを空にして
6. オレンジ色とゆびきり
7. 青い瞳
8. 約束はいらない
9. マイ・ベスト・フレンド(「ともだち英語」VERSION)
10. 風が吹く日
11. そのままでいいんだ

声優として活動していた「坂本真綾」が1996年に『約束はいらない』で歌手デビューし、その後にリリースされた1stフルアルバム。アニメ音楽やCMソングを手掛けていた作曲家「菅野よう子」がプロデュース手掛けており、今では本格派女性シンガーとしての存在感を確立した彼女の第一歩となった記念碑的な1枚だ。菅野よう子のじっくりと聴かせることを意識したようなじわじわと染み渡るサウンド&メロディー、岩里祐穂や自身が手掛ける歌詞、当時10代であった坂本真綾の光が差し込むような瑞々しい歌声とすべてが素晴らしい出来である。

冒頭①からサックスが印象的なリラックスして楽しい気持ちになれるような良質なポップナンバーで、菅野よう子の抜群のメロディーセンスが味わえる。②も小気味よい可愛らしいポップチューンでスッと耳に馴染んでくる。③はアンビエント風味と洒落た雰囲気が同居し、聴き手を別世界に連れていってくれる。⑤はアコースティックアレンジが心地良いキャッチーでキュートな曲。デビューシングル⑧は幻想的なサウンドの3拍子ナンバーで、菅野よう子の独自の音符割りは面白さがあり、坂本真綾のあまりにも無垢な歌声に飲み込まれてしまう。神々しさを感じるほどの名曲である。ワールドミュージック調のエスニックな⑨は真っ直ぐな歌声と歌詞が心に響いきて、自然と前向きな気持ちになれる素晴らしい1曲。

デビューアルバムながら菅野よう子独特のセンスを感じる楽曲と坂本真綾のピュアな歌声に存分に浸れる内容で多幸感が得られるアルバムである。

月姫|山口美央子 

1983/1/1  Pinewaves

1. 夕顔 ―あはれ―
2. 夏
3. 沈みゆく
4. 鏡
5. 白昼夢
6. 月姫 ―Moon Light Princess―
7. さても天晴 夢桜
8. 恋は春感

CoCoやQlairなどのアイドルポップの名曲を多く手掛けたことでも知られる山口美央子がシンガソングライターとして活動していた1983年にリリースした3枚目となるフルアルバム。長らくCD化されていなかったが、2017年にリマスター音源で初CD化されており、入手がしやすくなっている。

エキゾチックな香りが漂うテクノポップの大傑作で、山口美央子の色気のあるボーカルとミステリアスな雰囲気も相まって、幻想的な世界に取り込まれてしまう。冒頭①はピアノが印象的なしっとりとした空気感の切ない「歌」の名曲。民族音楽のような要素も感じられるが、とにかく問答無用にいい曲である。②は民族音楽的な要素に加えてプログレッシブな曲展開がドラマチックで、アンニュイな雰囲気も最高な名曲。タイトル曲⑥はシティポップといえるファンタジックで可愛らしいテクノポップ。他にも大衆性も獲得できそうなテクノ歌謡の⑦や⑧などもあり、音楽性の振り幅は広くて、楽曲センスも抜群の内容である。埋もれるにはあまりにも惜しい才能の塊のようなアルバムだ。

エポック・ドゥ・テクノ|コシミハル 

2009/11/18 ‎ ソニー・ミュージックダイレクト

ディスク1
1. ラムール・トゥージュール
2. レティシア
3. スキャンダル・ナイト
4. ラムール…あるいは黒のイロニー
5. シュガー・ミー
6. プッシー・キャット
7. キープ・オン・ダンシン
8. 日曜は行かない
9. プティ・パラディ
10. Belle Tristesse 妙なる悲しみ (bonus track)

ディスク2
1. 龍宮城の恋人
2. Capricious Salad
3. IMAGE
4. サン・タマンの森で
5. メフィストフェレスを探せ!
6. 逃亡者
7. パラレリズム
8. Decadence 120
9. 薔薇の夜会~あるいは甘い蜜の戒め
10. プティ・パラディ (English Mono Version) (MONO) (bonus track)

1979年にデビューした女性シンガーソングライター「コシミハル」(越美晴)がアルファレコード内に細野晴臣が立ち上げたYENレーベルからリリースした1983年作「Tutu」と1984年作「Parallelisme」の2枚を収録した、リマスターされた編集盤CD。

細野晴臣プロデュースのもと本格的にテクノポップサウンドを導入しており、細部まで作りこまれたサウンドと彼女の小悪魔的なボーカルを生かした耽美な雰囲気が魅力のテクノポップである。

ディスク1(Tutu)は、冒頭のヨーロッパ風で耽美的な①がベルギーのテクノポップユニット「テレックス」の日本語カバーで、テレックスのメンバーもゲスト参加している。②はリズムがクセになるサウンドと透明感ある歌声が爽やかな風のように響く。⑤はキッチュでチープなテクノポップという感じで、とってもキュートな作品。⑥は小生意気で小悪魔的な表情を見せるオシャレなナンバー。⑨はみんなのうたで流れても違和感なさそうな親しみやすい曲。

ディスク2(Parallelisme)も前作で流れを受け継いだ内容で、冒頭①はキャッチーな王道のテクノ歌謡で、今聴いても新鮮な感動がある名曲だ。②は耽美的ないじわるな可愛らしさが炸裂しており面白い。⑤は1980年代的な勢いのあるアレンジが印象に残るカッコいい曲。⑧は演劇的なダンサブルなサウンドとリズムに中毒性があり、一度聴いたら忘れられなくなる。

細野晴臣のプロデュースが優れている。非常に完成度が高いサウンドと、彼女のヨーロッパ的な持ち味が絶妙に組み合わさっており、唯一無二の味わいがある。2枚とも1980年代を代表するテクノポップの名盤である。

コンプリート・スーザン|スーザン 

2005/2/23 Sony Music Direct

ディスク1
1. MODERN FLOWER IN BOOTS
2. 24,000回のキッス
3. DREAM OF YOU
4. DO YOU BELIEVE IN MAGIC?
5. AH! SOKA
6. FREEZIN’ FISH UNDER THE MOONLIGHT (Eatin’ my backbone)
7. GLASS GIRL
8. IT’S NO TIME FOR YOU TO CRY
9. SCREAMER

ディスク2
1. YOU’RE MY NUMBER ONE
2. 恋せよおとめ
3. TRAINING
4. “BLOW-UP”
5. I NEED YOUR LOVE
6. I ONLY LOVE OUT AT NIGHT
7. GO GO
8. NUIT DE SAINT-GERMAIN (サンジェルマンの夜)
9. TOKYO SUE
10. MY LOVE
11. モダン・ワールド
12. サマルカンド大通り
13. シャボン・ドール
14. 恋はダンス

テクノポップの歌姫「スーザン」がリリースした2枚のアルバム(1980年『DO YOU BELIEVE IN MAZIK』、1981『恋せよおとめ』)とシングルを網羅した全曲集である。YMOの高橋幸宏がプロデュースした、キッチュなニューウェーブサウンドのテクノポップは今聴いても新鮮な響きがある。

ディスク1はまるごとアルバム『DO YOU BELIEVE IN MAZIK』が収録されている。加藤和彦が作曲したキャッチーな②は、スーザンのキュートな歌い回しが魅力に溢れており、ガールポップの名曲といっていいだろう。オールディーズのテクノアレンジカバー④、細野晴臣作曲のまさに当時のテクノポップという感じのユーモア感ある⑤、切ないゴリゴリのエレクトロポップ⑨など、高橋幸宏のアレンジが印象的なややマニアックな作風のテクノポップが多数あり。

ディスク2はアルバム『恋せよおとめ』とシングルのみで発表された曲で構成されている。前作よりポップで聴きやすくなっており、大村憲司による冒頭①から可愛らしいガールポップが楽しめる。②は細野晴臣が提供したテクノ歌謡で、個性的な細野節全開の傑作。④は立花ハジメによる爽快感あるナンバー。⑩は壮大な宇宙のような愛を表現したエレクトロポップの名曲。⑫はシングルのみで発表されたもので、胸躍るテクノ歌謡で良い曲だ。

キュートでポップな胸をキュンとさせる曲から、細部にこだわったコアな楽曲まで様々なテクノポップが楽しめるお得な1枚だ。

Atttack Treatment|ちわきまゆみ 

1987/2/4 東芝EMI

1. オーロラ・ガール
2. プリーズ・プリーズ
3. 妖精の海
4. あなたなくなる
5. エンジェル・ダスト
6. ピストル・ソング
7. シネマキネビュラ
8. スキャンドール
9. ムーンライト・マッドネス
10. 遊星少女フィオラ
11. Revenge Of Publison

1980年代にステージでは過激なSM風衣装を着るなどビジュアル面でも話題を呼んだ女性シンガーちわきまゆみの2枚目となるフルアルバム。

沖山優司、岡野ハジメ、ホッピー神山、外間隆史からJUN(THE WILLARD)までバラエティに富んだ豪華作家陣が参加している。グラムロックやニューウェーブを基調としたポップロックで、当時の異名通り「グラマラスロック」な1枚。

代表曲のひとつといえる爽やかな風が吹いてくるような①は透明感あるサウンド&ボーカルが心地良いポップロック。⑦は外間隆史と岡野ハジメによる王道的なグラムロックナンバー。メリハリのついたロックサウンドとキャッチーなメロディー、ちわきまゆみの自信たっぷりに歌い上げる挑発的ボーカルが気分をアゲアゲにしてくれる。そして注目はピンキー青木とJUNが提供したご機嫌なロックンロール⑩である。ちわきまゆみのチャーミングな魅力がよくでており、憂鬱を吹き飛ばすような爽快感が気持ち良い名曲である。

今聴くと多少サウンドに古さを感じるものの、1980年代ロックの熱量がたっぷりと詰まっており、楽しめる内容のアルバムだ。

HURTS|大塚純子 

1990/7/21 ソニー・ミュージックレコーズ

1. HURTS
2. Be With You
3. So Sorry
4. Dreamers’Shuffle
5. 星降る夜に
6. シューズ・ショップで聴いた歌
7. はだかの窓
8. オフィス街のクライマー
9. Money,Money
10. 金網ごしのBlue Sky

大塚純子はソロでは1980年代後半から1990年代にかけて起こったガールポップムーブメントの全盛期に活躍していた女性歌手。90年代後半にはSPEEDのプロデュースで有名な伊秩弘将のユニットThe gardensのボーカルとして活動していた。本作はそんな彼女の90年にリリースされた1stアルバムで、伊秩弘将が4曲提供しており、作詞は6曲大塚純子自身が手掛けている。編曲は西本明がアルバムの半数を手掛けており、抜けの良いサウンドと大塚純子の元気でパワフルな歌声、ストレートな青臭い詩と、まさに青春ガールポップといった感じだ。

冒頭を飾る①はシンプル&キャッチ―なロックナンバーで、サウンドに乗る詩も印象に残る傑作。伊秩弘将の作曲だが、90年代後半の彼の全盛期の作品とは一味違う味があり。②はサックスが印象に残るシティポップ度数が高いオシャレなガールポップ曲。シングル曲の③はまさに「90年のガールポップ」といった感じの良曲だ。⑩はテレビ番組熱闘甲子園のテーマとして有名な代表曲のひとつ。青春時代のひと夏にかけた思いを上手く表現している名バラードである。

本作は大塚純子のガールポップシンガーとしての魅力が全開で、問答無用に元気を貰える楽曲の数々は、ぜひ多くに人に聴いて欲しい。

POISON KISS|熊谷幸子

1994/4/8  EMIミュージック・ジャパン

1. WORD GAME
2. 光の鐘を鳴らせ
3. 恋の黙示録
4. Night Flyer
5. Bye Bye My Happy Days
6. 女神とピアニスト
7. そして…
8. 紫陽花の坂道
9. ONE
10. 風と雲と私

1992年にデビューした女性シンガーソングライター「熊谷幸子」の3枚目となるフルアルバム。テレビドラマ『夏子の酒』の主題歌⑩がスマッシュヒットして、一躍J-POPシーンで注目される存在となった。

その⑩はやはり代表曲といえる素晴らしい出来で、いつまでも心に残るこれぞ日本ポップスの名曲と言いたくなる。名バラード⑧も聴いていると情景が浮かんできて、楽曲とボーカルの見事な調和と、その豊かな表現力は凄いの一言。①や②を聴けば分かるように、その独自の作曲センスは才能の塊で、当時の女性シンガーソングライターの中でもひとつ抜けていたといえるだろう。

本作の作詞に関してはマイカプロジェクトが担当しているように、作曲家という意識が高い人である。同業者からも絶賛された作曲スキルが、たっぷりと楽しめる1枚だ。

トワイライトの風|相曽晴日 

2001/12/19 ヤマハミュージックコミュニケーションズ

1. トワイライト
2. コーヒーハウスにて
3. 雨の日にはワルツ
4. 舞
5. フルムーンに寄せて
6. 歳末の街角
7. 彼女はまき毛
8. 哀しみのトワイライトゾーン
9. 金糸雀色の風
10. マジカルソング

ヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)で入賞や優秀曲賞をとり、1982年にTDKコアからデビューした女性シンガーソングライター「相曽晴日」の1stアルバム。こちらは後にCD化したものである。

相曽晴日の情緒たっぷりに歌い上げるボーカルと、フォークを基調とした歌謡曲要素を持つ楽曲はじんわりと心に沁みる。本作では全作曲と①②⑥以外の作詞を自身で手掛けており、アレンジにはクニ河内が参加。

①は切ないメロディーとハーモニカ―が印象的で、黄昏時に独り歩く情景が浮かんでくる。
②はノスタルジックな歌謡曲寄りのフォークソングで、青春のやるせなさを描写した歌詞が非常に印象に残る。これはいつまでも記憶に残る名曲だ。デビュー曲の④は幻想的で美しいナンバー。⑧は王道的な癒される切ないバラード。

基本的にはフォーク/歌謡曲だが、シティポップ的な要素も感じさせる。シンプルな美しいアレンジが印象に残り、相曽晴日のソングライティングの才能が遺憾なく発揮された傑作アルバムである。

にんじん +1|佐々木好 

2013/09/30  オーダーメイドファクトリー

1. ストレート
2. 残雪草
3. カニさん卯月
4. 21才
5. 客観
6. 終点駅
7. You
8. 雪虫
9. 多分
10. 以前
11.雪虫(シングル・ヴァージョン)

1980年代に活動していた女性シンガーソングライター「佐々木好」が1983年にリリースした2枚目のアルバムにボーナストラックを加えて、再発したもの。

中性的で透明感のある歌声が胸に迫る繊細なフォークソングは森田童子にも通じるものがあり。前作に引き続きアレンジには鈴木茂が参加している。1987年のアルバム『りらっくす』を最後に活動停止しているが、現在でも音楽好きからは根強い人気がある。

①は由紀さおりに提供した楽曲をセルカバーしたもので、佐々木好を代表する曲のひとつといえる。とにかく繊細でナイーブな旋律と、タイトル通り本音をストレートに吐き出す歌詞が心に沁みる。④はキャッチーなリズムに乗った文学的な歌詞が印象的な曲。⑧は冬の訪れを知られる雪虫がテーマの曲で、儚い美しさが感じられ素晴らしい。⑩はやるせない感情が怒涛のように押し寄せて心揺らされる。

佐々木好の歌声が放つ孤独感は強烈なものがあり、ストレートな歌詞と卓越したサウンドアレンジも含め独自の世界観を確立している。特に①や⑧は絶品な味わいがあり、埋もれるには惜しい傑作アルバムである。

GIRL’S TALK|川崎真理子

1993/10/25 WEA JAPAN

1.  失恋はつかれる
2.  知るときがきたから
3.  Tea Potラヴソング
4.  ティースブラッシング
5.  コンビニエンスヘヴン
6.  教えてあげられない
7.  ティッシュの箱
8.  電話ベイビー
9.  大好きチャーリー
10.  行かないでね

ロックバンド「UNISEX」のボーカルを務めた「川崎真理子」がソロに転向し発表した1stアルバム。複雑な乙女心を分かりやすく表現した歌詞やひねくれたポップセンスを感じるメロディー、鼻にかかった独自のふにゃふにゃとした歌声などシンガーソングライターとして個性的な才気溢れる1枚である。

良質なポップソング揃いだが、まず注目は槇原敬之が編曲している①の名曲ぶりである。失恋したやけくそな感じとそれを受け入れて前を向こうとしている姿勢が上手く表現されている楽曲で、失恋とバッティングセンターという絶妙な組み合わせの歌詞とクセのあるメロディーは聴いていると情景が浮かんできて素晴らしい。②は煌びやかなサウンドと切ないメロディーが印象的で素直な歌詞も良い。③は乙女チックでドリーミー、何とも言えない味わいがあり、川崎真理子のオリジナリティが良く伝わるナンバー。⑥は王道ガールポップという感じだが、シンプルな曲構成の中でメロディーセンスの良さが光る。⑧はストレートなやさぐれたロックでこういったラフな楽曲とも相性の良さを感じさせる。

①を筆頭に川崎真理子の音楽家としての力量が発揮された充実した内容のアルバムである。やはりボーカルは印象的で、あまり似たタイプが思い浮かばない個性的な歌声であり、それがナイーブな楽曲にぴったりとハマっている傑作アルバムだ。

かれん|桐島かれん 

1990/6/27 EMIミュージック・ジャパ

1. 憂鬱な姫君
2. 世界の果てまで追いつめて
3. こんな素敵な日に
4. Traveling Girl
5. はだかになりたい
6. CHATTANOOGA CHOO CHOO
7. LIFE LINE
8. WILD FLOWERS
9. INFINITY
10. FAMILIES(家庭の構造)

モデルであり、第二期のサディスティックミカバンドのボーカルを務めた「桐島かれん」。本作は1990年にリリースされたソロファーストアルバムである。高橋幸宏、鈴木慶一、加藤和彦など非常に豪華なプロデュース/作家陣を迎えた力作で、桐島かれんのキュートでアンニュイな魅力が上手く引き出されている。

森雪之丞、高橋幸宏、鈴木慶一が共作した①は、ワールドミュージック色あるエキゾチックな楽曲の雰囲気がアンニュイな歌声とばっちりハマっており秀逸。いとうせいこう、高橋幸宏、鈴木慶一による②は可愛らしい声質を生かした壮大な世界観のガールポップで、特にサビのメロディーラインがキュートなボイスと絶妙に調和しており中毒性がある。佐橋佳幸が作曲した④は、メロディーセンスの良さが光るクールなポップナンバー。1人旅をテーマにした尾上文による作詞も素晴らしく、淡々しながらも色気を感じるボーカルも素晴らしい。⑦は懐かしさを覚える1980年代的な王道アイドル歌謡で熱くクールに燃え上がる。高橋幸宏、鈴木慶一が手掛けたラスト⑩は澄んだ歌声が印象的なバラードナンバーで感動的、まさにエンディングという感じだ。

シティポップ的な洒落たガールポップとして文句なしの完成度を誇っており、埋もれるにはあまりにも惜しい傑作アルバムである。

時の記憶|福島祐子

1991/10/21 ‎ ヴァージン・ジャパン

1.  桜舞い
2.  Sensitive Heart
3.  ひめた想い
4.  平安栄華
5.  逢いたい
6.  MIKO
7.  天球の音楽
8.  雪
9.  Army Grief
10.  夏のよるの夢

劇伴を多く手掛けている音楽家「福島優子」の1stアルバム。ミステリアスな雰囲気の幻想音楽という感じで、山口美央子にも通じるようなプログレ風味もある『和』の世界観が楽しめる1枚。

冒頭①から美しいピアノの音色とウィスパーボイスでファンタジー世界に誘ってくれる。続く②は透明感あるシンセサウンドが印象的で、パワフルなギターと囁くような歌声と一体となり、独自の空気感を生み出しており秀逸である。④は民族音楽色が強いキャッチーなデジタルポップで高揚感が得られる。⑥はタイトル通り古代の巫女が祈りを捧げるような旋律が印象に残る。⑦はひたすら美しい壮大なバラードで心に癒しを運んでくれる。⑨は儀式のような荘厳な雰囲気の楽曲で、独特の味のある歌声がダークな世界観を盛り上げてくれる。

1991年というガールポップ系女性アーティストの全盛期にリリースされた作品であるが、太古の日本をテーマにしたワールドミュージック色ある音楽性は異色と言えるもので、その独自の世界観は特筆すべきものがある。

世界なんて終わりなさい|畑亜貴

1999/2/19 ‎ ディスクユニオン

1. 琥珀
2. 針の実
3. 火を見る未来
4. 紀元前
5. 天狼星
6. 不眠が全て
7. 窒素揺れて
8. 熱
9. メソポタミアの殺人
10. 赤い蝋燭
11. 海への眺めの
12. けだし,目とは
13. 香気よ
14. 安堵
15. 死霊の館
16. 世界なんて終わりなさい

現在はアニメソングを中心に手掛ける作詞家としても有名なシンガーソングライター「畑亜貴」。本作は1995~1996年にテープなどで発表した音源に未発表曲を加えたコレクションアルバムである。音楽性はプログレ風味のアイドル歌謡という感じで、畑亜貴の可愛らしい声質と少しぶりっ子な歌い方はアイドル度数が高い。いかにも自主制作なローファイな音質の中で花開く乙女チックな幻想音楽が楽しめる1枚。

①から少女漫画のような世界観を甘いボイスで歌い上げており、メロディーの良さもあり独特の屈折した世界に引き込まれる。②はシンフォニックなアレンジと1980年代のアイドルのような歌唱とメロディーが同居しており面白い。⑤は民族音楽っぽいファンタジックな曲で、ゴシックで箱庭的な世界観が印象的。⑨は囁くようなボーカルとゲーム音楽のようなチープなアレンジが通好みの味わいを醸し出している。⑩は爽やかなサウンドや透明感ある歌声など清涼感ある旋律が心地良い。⑭は1980年代っぽい懐かしいデジタルポップで、歌詞のインパクトなど記憶に残る曲だ。

音質はあまり良くないものが多いが、曲自体はポップセンスが発揮された良いものが多い。歌詞もそうだがとにかく自身が音楽として表現する世界へのこだわりを感じさせる内容である。

薬屋の娘/ ナチコ・ファースト+1|NACHIKO

2014/5/30   ソニーミュージック

1. 魂が旅に出ちゃった
2. 昨日から明日ヘ
3. 水の炎
4. 足跡を食べないで
5. ボストンバックの詩
6. ブラック・ジャックの子守唄
7. あんた
8. 絵の中のDoor

EPIC・ソニーの女性アーティスト第一号としてデビューしたシンガーソングライター「NACHIKO」(ナチコ)が1980年リリースした1stアルバムにボーナストラック1曲を加えてCD化したもの。プロデュースは四人囃子やプリズムのメンバーであった森園勝敏。和製ケイトブッシュと呼ばれたエキセントリックな歌い回しとジャズ/フュージョンやプログレを基調としたドラマチックな楽曲は時代を越えて異形の存在感を放っている。

冒頭①から個性的なナチコワールドが全開といった感じで、サウンドはシンプルなジャズ/フュージョンだが、ぶっ飛んだ歌詞やメーターを振り切ったような歌声は切迫感があり圧倒される。③はアルバムの中核をなす13分に及ぶプログレッシブな大作。間奏の緊張感溢れる演奏や静から動へとドラマチックに展開される構成は刺激的で秀逸である。④はパーカッションが印象的なキャッチ―に弾けるナンバー。ファンキーというかチャーミングな感じもする歌声が良い。⑤は重く叙情的な曲で、切なさを伝えるボーカルの表現力や後半のエキサイティングな演奏が素晴らしい。⑥は親しみやすい歌メロや可愛らしい歌声にほっこりするレゲエ調のナンバー。

ナチコの魅力である天真爛漫で自由奔放なところが、洗練されたテクニカルなジャズ/フュージョンサウンドと上手く結びついており、アクが強いが聴きやすい内容となっている。

最新式ひるね百科|大正九年

1998/11/21 KIRAKIRA RECORD

1. ICE CITY 78
2. 驚き一発
3. ベイベ
4. 青春のしるし
5. ロック魂
6. 昔の話
7. 野望の星
8. ティーンエイジストーリー
9. 会議でgo
10. 小池の幽霊さん
11. 目がハート
12. マイエンジェル

テクノポップアーティスト「大正九年」のインディーズからリリースされた1stアルバム。
作詞・作曲はもちろんのことアレンジや打ち込み、ボーカル録音とすべて自身で手掛けているという才女である。不思議系テクノ少女という感じの毒のある可愛らしい世界観にどっぷりと浸れる1枚。

冒頭①から透明感あるキュートな歌声と繊細なテクノサウンドが奏でる大正九年ワールドに引き込まれる。②はピコピコした電子サウンドに乗るチャーミングなボーカルが耳に優しく響く。電波な歌詞などオリジナリティ溢れる表現に驚かされる。⑤は打ち込みサウンドなのにロック魂を感じさせる秀逸な曲。歌詞やリズムがユーモラスで面白い。ひねくれた感じが全開の⑦は愉快なキャッチ―なリズムが中毒性を生み出す摩訶不思議なナンバー。⑧はミニマムなフレーズがドリーミーな世界に連れて行ってくれる。⑫はみんなのうたのような親しみやすい歌メロの可愛らしい曲で心がほっこりする。

最初のアルバムということもあり、生々しいというか宝石の原石のような魅力がある。1人で全部作っているのも凄いが、1990年代後半にこのような方向性の音楽をやっていた個性は特筆すべきものがある。

秘密のナイフ|Phew

1995/9/1 Creative Man Disc

1. わたしときみのわかれめ
2. おそい春
3. 秘密のナイフ
4. 急がなければ
5. 花がきれいなわけ
6. おわりのあと
7. みえない道
8. ひとのにせもの
9. きれいな日
10. いつか
11. きょうの名残り

パンク/ニューウェイヴ全盛の1979年にバンド「アーント・サリー」で活動を開始し、長年に渡り日本のアンダーグラウンドで孤高の存在感を示し続ける女性アーティスト「Phew」の1995年リリースのアルバム。近藤達郎、西村雄介、山本久土、植村昌弘などの凄腕ミュージシャン達と作り上げた世界観は唯一無二のもので、ゲストとして大友良英も参加している。 Phewは前衛的で難解な音楽というイメージもあるが、本作ではその尖った魅力と普遍的なポップネスが上手く融合しており、とても味わい深いアヴァンポップを聴くことができる。

①はドリーミーなサウンドと煌びやかなメロディーの洪水が圧巻で、ファンタジック感溢れる旋律と淡々としながらも温かさを感じる心地良い歌声がエモーショナルに響き渡る。特にギターの音色やドラムのカッコ良さは特筆すべきものがあり、記憶に残る素晴らしい曲である。②はノスタルジックな情感を伝える美しいサウンドがトリップ感を与えてくれる。アルバムタイトル曲③はアヴァンポップの金字塔と言える名曲。サウンドやボーカルが生み出す荘厳な雰囲気に圧倒されるが、Phewの刹那感や儚さを含んだ歌声やポップな歌モノとして優れているメロディーなど秀逸である。
④は意表を突くラップに驚かされるが、アバンギャルドなサウンドと絡み合いカオティックな未体験ゾーンに引き込まれる。⑤は8分以上あるプログレッシブな大曲。幻想的なサウンドと透明感あるボーカルが印象的で、穏やかな前半パートから徐々に盛り上がっていき、終盤はエキサイティングな演奏が炸裂する。⑧はフラストレーションをぶちまけるような、やさぐれた歌声やヘヴィなサウンドがダイナミックに響き、初期衝動を感じる快感が得られる。⑩はプログレッシブに展開されるノスタルジー溢れるサウンドとまさに歌姫と呼びたくなるボーカルがひたすら美しい。

サウンドの完成度は圧巻で非の打ち所がない。よくこれほどの音を構築できたなと溜息が出るほど。メロディーも印象に残る素晴らしいもので、カリスマ性あるボーカルの存在感を最大限に生かした曲の数々は必聴である。1990年代の女性ボーカルアルバムの中でも名盤と言える内容の1枚だ。

夢の崖(ユメノキリギシ)|多加美

1995/4/25  ベル・アンティーク

1. 紫陽花の庭にて
2.  例えば・・・とあなたは言う
3. 冥い森
4. 夢ノ崖
5. 雪の境閾
6.  空の迷宮

1980年代のアンダーグラウンドシーンで2枚アルバムを残した伝説の女性アーティスト「多加美」。本作は1985年にリリースしたセカンドアルバムである。プネウマが作り出すジャーマンプログレやアンビエントのようなシンセサウンドに多加美の『和』と『狂気』を感じさせる暗い情念が渦巻いた歌声が乗るというもの。実験的な作風でありながらも多加美のボーカルが主体の曲も多くあり、幻想的な女性ボーカルものとして超個性的な世界観が味わえる1枚だ。

冒頭①は4分に渡るアンビエントサウンドが展開されて、その後多加美の歌パートが始まるが、その緊張感たるや凄まじいものがあり、一気に陰鬱とした世界に引き込まれる。歌声の緊迫感は凄いが、透明感と美しさがあるので聴きやすい。歌詞はJ・A・シーザーのような日本的な土着性があり狂気を感じるものだ。②はクラウス・シュルツェに通じる万華鏡的な透き通ったシンセサウンドにまるで独白するようなボーカルが同居し、何とも言えない切ない余韻が残る。③は大地の混沌を感じさせる、シンセサウンドの構築が圧巻で、うねるような先悦性ある音にただただ畏怖してしまう。そして孤高の存在感を放つボーカルの凄さも際立っている。④は静かな癒される旋律だが、シンプルな音に囁くようなボイスが絡み合い唯一無二の音響空間を作り上げている。⑥は14分に渡るプログレッシヴな大作。静から動へドラマチックに展開され、多加美の儚い歌声とジャーマンプログレや民族音楽など多種多様な音楽要素がカオスを生み出す。とにかく他に類を見ないほど独創的で神々の領域に踏み込んでしまった感すらある。

巫女のようにも聴こえる多加美の歌声はカリスマ性があり、そのボーカルの魅力を最大限に生かす前衛的なサウンドは圧巻の一言。多加美の声自体も音の素材のひとつとして捉えたような音響構築がとにかく凄い。

籐子|tohko 

1998/8/26 ポニーキャニオン

1. take a breath
2. is it too late?
3. BAD LUCK ON LOVE~BLUES ON LIFE~
4. ふわふわ ふるる
5. It`s all about us-from the motion picture”BEAT”
6. etude1
7. LOOPな気持ち
8. Orgel
9. I`ll be there
10. eternal dreams
11. and now the party`s over
12. ANGEL

1990年代に全盛を誇った小室ファミリーのメンバーの中でも良質なポップソングを多数発表し、未だに音楽好きからは人気が高いシンガー「tohko」の1stフルアルバム。tohkoの歌唱は小室ファミリーの特徴といえるハイトーンボーカルだが、可愛らしさから美しさまで表情豊かに歌い上げる優れた女性シンガーである。小室哲哉と日向大介の共同プロデュースであり、楽曲も小室哲哉だけでなく日向大介も提供していることから、小室哲哉単独プロデュースの女性シンガーとはひと味違う音楽性を楽しむことができる。

冒頭①から小室哲哉お得意の切なくダンサブルな歌が聴けるが、編曲が日向大介ということもあって新鮮な魅力がある。日向大介が作曲・編曲したデビューシングル③は、まったりとした前半パートから後半の性急なビートに変化させる曲展開が一度聴いたら忘れられなくなる。洋楽エッセンスを感じるドラマチックかつメロディックな曲であり、あまりJ-POPでは聴けない鮮やかな曲である。小室哲哉の④はTK節炸裂の切ない曲で、本領発揮といったところ。特にサビのメロディーは印象的なもので、ガラス細工のような繊細な歌声はいつまでも耳に残る。まったりとした雰囲気のバラード⑤ではtohkoの歌声の魅力がじっくりと味わえる。
⑦は日向大介による春の風景が浮かぶような温かいサウンド&メロディーは爽やかな風のようで、tohkoの表現力あるキュートな歌唱の魅力は特筆すべきものがある。作詞は小室哲哉で、10代の葛藤や輝きを飾らない言葉で表現しており素晴らしい。イノセンスとノスタルジーが心の奥の扉をノックするJ-POP女性ボーカルの名曲である。⑩は儚さを具現化したようなサウンドやメロディ―とそれを繊細に歌い上げる表情豊かな歌声が絶品の味わいである。

今聴いてもまったく色褪せていない③と⑦を筆頭に完成度の高い曲が多く収録されている。小室哲哉、日向大介という希有な才能を持った音楽家が、天性の声を持ったtohkoの可憐な歌声を最大限に生かした楽曲を提供しており、聴きごたえがある傑作アルバムだ。

超時空コロダスタン旅行記|アポジー&ペリジー 

2006/2/22 Sony Music Direct

1. プロローグ
2. 月世界旅行
3. プロフェッサー・パーセク
4. アニマロイド・MVII
5. 逆さ賢人・イーガス
6. アポジーのテーマ~スペース・フォークロア~
7. クイーン・グレイシャー
8. ペリジーのテーマ
9. 真空キッス
10. ホープ

本作は1984年にリリースされたニッカCMのキャラクター・ロボットが主人公の企画アルバムが、2006年にCD化されたものである。細野晴臣プロデュースでYENレーベルオールスターズが参加した作品であり、アポジー(三宅裕司)、ペリジー(戸川純)、越美晴、テストパターンなどが参加している。

松本隆&細野晴臣の黄金コンビによるテクノ歌謡の名曲②は、通好みの曲調と戸川純のわくわく感をそのまま歌唱に変換したような独自のボーカルに胸躍る。越美晴による④は個性的な超キュートなボイスが炸裂するピコピコしたテクノポップの名曲。橋本ミユキの⑦は1980年代ハードロック歌謡で意表を突かれるが、楽曲自体の出来は良い。戸川純が歌う⑨は細野晴臣による可愛らしいアレンジと中毒性がある個性的なメロディーが素晴らしい1曲。ラストを飾るテストパターンによる⑩は、春の始まりを告げるような清涼感あるテクノで気持ちよく聴ける。

細野晴臣をはじめとした参加ミュージシャンの個性が存分に発揮された内容で、企画アルバムとは思えないほどの完成度を誇る名盤である。

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