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ねむりのラムネ|マフマフラー

2002/11/25      
GYUUNE CASSETTE / CHILDISH SOUP

1. Apple Candy
2. That Boy
3. クローバー
4. 慈悲を…
5. Beachboys For Me Beach Girls For You
6. ねむりのラムネ
7. メロメロンソーダ
8. My Sailor Man

「マフマフラー」(muffmuffler)は女性2人組の音楽ユニット。
「くまとりあ あゆこ」(ボーカル、ギター)と「たなか みきえ」(ドラム、コーラス)で1990年代後半に活動を始めている。
本作はデモ作品やコンピレーションアルバム参加を経て、インディーズレーベルCHILDISH SOUPからリリースされた1stアルバムとなる。

まずユニット名が女性ならではのセンスで、名前だけで可愛い音楽性だろうと想像できるのが良い。このアルバムはKOGA RECORDSから作品をリリースしていた「The Playmates」の山本聖がプロデュースを手掛けている。
音楽性はガレージパンク×ギターポップという感じのサウンドに、キュートなボーカルをのせるというインディーポップ好きのど真ん中を突くエバーグリーンな輝き溢れる作風である。
通好みのロウなサウンドが素晴らしい出来で、可愛らしくもラフに疾走する初期衝動に満ちたロックからサイケデリックな雰囲気をもつふわふわした曲まで多彩な魅力が光る1枚となっている。

冒頭①からドライブ感満点のガレージサウンドにキュートボイスが組み合わさり、ノイジーなのに可愛いというマフマフラー独自の魅力が全開。続く②は心地良い浮遊感とセンチメンタルなメロディーの良さが光るシューゲイザー/ドリームポップ路線のキラーチューン。透き通った歌声がかなり可愛いのがポイントで、延々と聴いていられる魅力がある。
③はみんなのうたに通じる親しみやすい歌とおもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドが融合しており、楽しさと切なさを同時にたっぷりと伝えてくれるのが秀逸。
④は①同様に荒々しいガレージロックにキュートなボーカルをのせて力強く疾走する。ただ可愛いだけの歌は世の中に腐るほどあるが、マフマフラーのような好感の持てる可愛らしさは希有である。⑤もスピード感あるパンキッシュなナンバーで気分爽快。
アルバムタイトル曲⑥は、メロディアスで上質な美しさを持つ一方で、ワールドミュージックやプログレなどの要素もあるアヴァンギャルドなサウンドが凄い。
⑦は女子インディーポップ史上に残る素晴らしい名曲。胸キュンと締めつける甘酸っぱいメロディーと超絶キュートな歌声が、ドリーミーなギターポップ・サウンドと絶妙に溶け合う旋律には【ときめき】という言葉がぴったりだ。
ラスト⑧は疾走するメロディック・パンクで、元気いっぱいにアルバムの締めを飾る。

当時のインディーズシーンを語る上で重要な音楽要素であるギターポップやパワーポップのキラキラしたフィーリングを大切にしている作風で、女性音楽ユニットならではふんわりとした可愛らしさは特筆すべきものがある。また王道路線から一風変わったものまでバラエティに富んだサウンドは聴いていて楽しい気持ちになれるもので、山本聖のプロデュースが優れていると感じられる。インディーズ女性デュオの名作と言っていい内容だ。

000321|スパナ

2000/3/21 OW Records

1. EISBAHN1
2. CR-2032
3. アイノカンフル
4. EISBAHN2
5. ワラウナギサ
6. JOY
7. アクノアカシ
8. シエル
9. コスモス(MACHA MIX)
10. EISBAHN M1+2

「スパナ」は2000年前後のインディーズシーンで活躍した大阪のインディーポップ・バンド。本作は1stアルバムである。
当時、山本精一(ボアダムス、羅針盤、ROVO)に大絶賛されたという逸話がよく知られている。

サウンドは雑多な印象で、エレクトロポップ、ヒップホップ、ジャズ、ロックなど、様々な音楽要素を独特のスペーシー感覚で表現している。不思議なトリップ感覚をもたらす一風変わった世界観を盛り上げるハルコ(ボーカル、ギター)のスタイリッシュなキュートボイスが曲の印象をカラフルにしており、見事に女性ボーカルの利点を生かしたバンドだと言えるだろう。凝りまくった音作りなど、かなりマニアックな雰囲気も感じさせるが、トータルで爽快感のあるダンスポップとして聴きやすい優れた内容の1枚である。

導入の電子音①に続く②は、近未来感覚溢れるドライブ感満点のエレクトロポップ。ハルコのチャーミングな歌い回しはアニメキャラクターのような魅力があり、サウンドはロックフィーリングも感じるのがグッド。
③はサックスをフューチャーしたエレクトロサウンドをバックにクールなラップを聴かせる。これはオシャレでかなりカッコいい。
④は①同様の電子音の短曲。アルバムでは冒頭、中盤、最後にこのタイプのインストが配置されている。
⑤は渋谷系やシティポップに通じる洗練されたグルーヴ感やポップなメロディーが冴えている。ピコピコした電子音やサックスも良い感じだ。⑥は怪しげな空気を漂わせるアンビエントテクノという感じで、チルアウトしてしまいそうになる。
⑦は「Gang of Four」に通じる硬質なギターリフに合わせた可愛らしい歌が、ロックの未体験ゾーンに導くポストパンク系ダンスポップのキラーチューン。これはノリがファンキーで楽しい気持ちになれるし、切れ味鋭いギターの音色が良いので何度も聴きたくなる。
⑧は浮遊感のあるエレクトロサウンド&透き通った歌声が生み出す旋律が宇宙の海を漂うかのようで心地良い。
⑨は緊張感のあるアヴァンポップで空間がねじれたようなサウンドがカッコいい。
⑩は①④同様のインストの短曲で、このアルバムの締めを飾る。

インディーズバンドならで毒やトゲトゲしいものを感じるところもあるが、基本的にはキュートポップスなので、女性ボーカル好きなら満足できるだろう。規則性にとらわれずやりたいようにやっているという感じは好感が持てる。

THE LITTLE GIRLS RECIPE|NICE FELLOW

1998/8/25  CHILDISH SOUP

1. ホラ Femme Fatale をうたおう
2. 1.2.3.4            
3. Fluffy
4. My Dear Dan  
5. オレンジ        
6. おやすみよ    
7. @シークレット・トラック@

「NICE FELLOW」(ナイス・フェロー)は1995年に結成されたギターポップ系の4人組ガールズバンド。本作は須原敬三が主宰するインディーズレーベルGYUUNE CASSETTEのサブレーベルCHILDISH SOUPからリリースされた1stアルバムである。

このCHILDISH SOUPという音楽レーベルは女性ボーカルものに定評があることで知られており、レーベルを主宰する黒瀬順弘のスパロウズ・スクーター、マドモアゼル・ショートヘア!、シノワ、マフマフラーなど、ポップでありながらも一風変わった魅力がある女性ボーカル作品をリリースしている。ギターポップを主軸としながらもサイケデリックな雰囲気も併せ持つのが特徴的だと言えるだろう。そしてこのナイス・フェローも「Talulah Gosh」や「Heavenly」といったUKアノラックバンドに影響を受けながらもそこに不思議ちゃん的なへんてこなフィーリングが組み合わさることにより、個性的なギターポップを生み出しており非常に面白いバンドである。

冒頭①は「The Velvet Underground」の『Femme Fatale』への愛情がよく伝わる楽しいポップチューン。ドタバタと騒ぎ出すようなラフな演奏とボーカルを務める池田ミチヨの天真爛漫な魅力を放つ歌声が強烈である。牧歌的だが勢いのある歌い回しはユニークなもので、チープなキーボードも良い。
続く②もガレージバンドのような不安定な演奏とキュートなハーモニーが楽団みたいな迫力である。これぞインディーポップ!という感じのゆるさと力強さが同居しているのが面白い。
③はトイポップみたいなおもちゃ箱をひっくり返した感じのインストナンバー。
④は楽団が行進するかのような怒涛の演奏と好き勝手に歌っています!という雰囲気の歌がプリミティブな衝動を伝える。
⑤はギターポップの伝家の宝刀シャララコーラスがこれでもかと炸裂するキラーチューン。これを聴けば荒んだ心も浄化されるに違いない。
⑥は疾走感溢れるギターポップにヘタウマボーカルがのり、インディーズ女子の等身大を叩きつける。当時のメジャーなJ-POPでは聴くことができない いなたい雰囲気がグッド。
ラスト⑦はメンバーへのインタビューから始まるユニークな曲で、綺麗なハーモニーに癒されるナンバー。ルンルン気分でステップ踏めるキュートチューンでアルバムの締めを飾る。

いわゆる完成度の高いポップミュージックという感じではなく、格好つけることなく自然体で奏でられた生々しい音楽である。1990年代インディーズ女子バンドの面白さがたっぷりと詰まったキラキラ輝く1枚だ。

mary’s 9th cut|mary’s 9th cut

1999/1/2  Smile Records

1. Cherry Red Coke
2. Good Friend
3. Mon Cher Fairy
4. Brand New Day
5. Today Is The Day
6. Cheek Fellow
7. Orange
8. Hello Goodbye
9. Snowfall (Theme)

「mary’s 9th cut」は永野朋子と神宇知正博によるギターポップ系音楽ユニット。
本作は1999年にインディーズレーベルSmile Recordsからリリースされたフルアルバムである。音楽的には基本英詩の純然たる清々しいネオアコ/ギターポップで、休日昼下がりのカフェタイムに聴いたり、青空の下を自転車で走りながらイヤホンで聴いたりと色々と楽しみ方がありそうなキュートなポップスだ。
胸をキュンと締めつけるメロディーや永野朋子の清潔感のあるボーカルはエバーグリーンな輝きがあり、しっかりとインディーポップの王道的なツボを押さえたサウンドも普遍的な魅力があるので、特に予備知識なく聴いても楽しめる内容となっている。

冒頭①から小気味よく疾走する清涼感溢れる旋律で気分爽快。インディーポップ好きなら曲名からしてニヤリとさせられるはず。
続く②はこれぞネオアコという感じの輝きが溢れている。無駄のないドリーミーなサウンドも出来が良い。
③もソフトなサウンドと可愛らしい歌声で奏でられるほのぼのとした雰囲気が心地良い。
④は珍しく日本語詩の曲で、アコースティックギターの音色と和的な叙情性をもつ歌が良い。⑥は本作の中でも特にキャッチ―な歌メロが光る。このグループにしては珍しく力強さを感じるのが面白い。
⑦はカラフルな印象の可愛らしい曲で、魔法にかけられてしまった!という感じのポップミュージックとして普遍性が宿るナンバーとなっている。
⑧は楽しさと切なさを併せ持つ青春ギターポップのキラーチューン。曲調は明るいがどこか寂しさを感じさせ、センチメンタルな気持ちにどっぷりと浸らせてくれる。

1990年代のギターポップの中でも、メロディーの良さを追求し、直球で勝負している瑞々しい魅力がある。パワーポップやサイケデリックな要素を取り込まず、ネオアコ好きによるネオアコ好きのための音楽という感じの真面目さを感じる1枚だ。

MARGINAL POLARITY|moonwalk

2001/2/28 Slow Records

1. THE NEW BORN EVIL RISES FROM THE FRIDGE OF JEFFERY DAHMER
2. SEASICK ASTRONAUTS
3. .45 AUTOMATICS
4. RITES FOR YOUR MARGINAL ONE
5. CORNERSTONE
6. SINCE YESTERDAY
7. WEST COAST HOLOCAUST
8. A.R.R.O.W
9. THE PLACE WHERE I WANNA GO
10. ASTERISK YOUR SWAMP
11. BUT EVERLASTING DAYS
12. NEVERGREEN
13. THE DARKSIDE OF THE MOON

「moonwalk」は「COWPERS」のベーシストKOMORIを中心とした札幌のロック・バンド。本作は2枚目となるアルバムである。
KOMORIはこのバンドではベースではなく、ドラムを担当している。
音楽的にはエモ、ハードコア、メタルなど様々な音楽要素を取り込んだソリッドな演奏にボーカルを務めるAYAHOのスウィートボイスがのるというスタイルだ(ギターのISAIボーカル曲もあり)。ハードな音楽性を女性ボーカルの利点を生かしてポップに聴かせるのは「BP.」と同系統の方向性をもつバンドと言えるが、「moonwalk」はシューゲイザーの要素は濃くなく、メロディックなエモロックという側面が強い。
本作ではメロウな曲以外にも男性メンバーが絶叫するボーカルを叩きつける過激なハードコアナンバーも繰り出されるので、アルバムとして飽きずに聴ける構成もナイスだ。
また全体的に音の抜けが良いのが特筆すべき点で、KOMORIの縦横無尽なドラミングやISAIのエモーショナルなギター、透明感のあるAYAHOの歌声などのバンドグルーヴがくっきりとした輪郭で浮かび上がってくるので、自然とダイナミックな高揚感が得られる内容となっている。

冒頭①はいきなり意表を突く激烈なハードコアで、凄まじいスピード感で駆け抜ける。勢いあるシャウトとメタル度数の高いギターが印象的だ。
続く②はイントロの爽快なギターリフを合図に軽快に疾走するキラーチューン。AYAHOの歌声がとにかくポップで聴き心地が良く、曲全体の印象をカラフルなものにしており秀逸だ。
③はKOMORIの怒涛のようなドラムが強烈な刺激的な演奏パートとメロディックなボーカルパートが交差するのが熱い。後半パートではAYAHOとISAIのユニゾンも聴ける。
⑤はこのバンドのメロディックな旋律を作るセンスが存分に発揮されている。それにしてもAYAHOの声質がグッド。
⑥はキュートな女性ボーカルの定番である「Strawberry Switchblade」の名曲のカバー。儚さ全開の原曲とは違い、ポップなパンクとしてドライブ感のあるサウンドに昇華している。
⑦は①同様に激烈なサウンドで爆走するハードコア。何かに取りつかれたような絶叫が心を震わせる。曲の終わりには「Brutal Truth」の『Fisting』を彷彿とさせる過激なサンプリングセリフパートあり。⑨は儚く揺れるバンドグルーヴが良い。ギターの音色が印象的である。
⑩はISAIがメインボーカルで、キャッチーなパンクとしては文句なしの渋い魅力がある。
⑪はこれぞエモコアという感じのサウンドの叙情性が光る。女性ボーカルが切ないギターロックと思わせて、終盤にカオティック・ハードコアな展開になるのが良い。
⑫は胸を熱くする王道的なメロディック・パンク。ISAIの静かに熱を秘めたようなボーカルが映えるナンバーだ。
⑬はアンダーグラウンド感覚溢れるハードコアでフラストレーションをぶちまけてアルバムの締めを飾る。

サウンドやボーカルは耳を惹きつける吸引力があり素晴らしい。メロディックなパンクとしても個性的なセンスが光っており文句なし。「Strawberry Switchblade」のカバーから悶絶するハードコアまでこなすところは、まさにポストハードコアと呼ぶに相応しい。名盤と言っていい1枚だ。

yesterday,12 films later.|chouchou merged syrups.

2015/10/21  Imperial Records

1. 何度も
2. ラストダンサー
3. overdose
4. scapegoat worldend
5. スローモーション
6. 赤い砂漠
7. メロウ
8. irony
9. 或る種の結論
10. strobila
11. sweet november
12. あなたの笑う頃に

「chouchou merged syrups.」(シュシュ・マージド・シロップス)は2010年に京都で結成されたオルタナティブロック・バンド。
本作はインディーズの残響レコードでミニアルバムを2枚発表した後、満を持してメジャーでリリースされた1stフルアルバムである。
『孤独の中にある美しさ』を音楽で表現することをコンセプトにしており、その世界観にぴったりと合う、ポストロック/マスロックを主軸とした切れ味鋭い演奏と川戸千明(ボーカル/ギター)の静かな熱をもった透明感のある歌声が特徴的である。
「School Food Punishment」や「mass of the fermenting dregs」を彷彿とさせるボーカルの声質や歌メロなど、日本ならではの親しみやすい旋律が魅力的だ。本作はメジャー作品ということもあり、より幅広い層にアピールできる洗練されたサウンドとポップセンスが冴えている力作となっている。

冒頭①から幾化学的な演奏に感傷的なメロディーを歌う川戸千明の淡く儚いボーカルが同居し、このバンド独自の切なさと焦燥感が全開。続く②はマスロックとJ-POPが華麗に融合したダンサブルなキラーチューン。歌モノ好きにもアピールできるメロディーには普遍性があり、リアルな感情を伝える歌声が味わい深い。
③はドライブ感たっぷりに疾走するギターロック。矢継ぎ早に歌われるメロディーに中毒性がある。④もリピート必至の不思議な魅力があるナンバー。割とストレートな曲調で、サビでの少年のような歌声が瑞々しい。青臭い真っ直ぐさが感じられてグッドだ。
⑤は和的な叙情性が刺さる切ないバラード。葛藤を含んだやるせない感情が見事に表現されおり秀逸。
⑥は疾走感溢れるソリッドな演奏とちょっとアニソンっぽい歌が気分をアゲてくれる。実際このバンドの世界観やメロディーはアニメと相性が良さそうであったので、フジテレビのアニメ枠ノイタミナなんかにタイアップされたら売れたかもしれない。
⑧は切なげな表情を見せながら走る青春ロック。小気味良い疾走感とジュブナイル小説の主人公のような歌声。10代や20代で抱えるような複雑な葛藤を含んだ歌詞も心に響く。
⑨は痙攣ギターを合図にメロディックに走り出す。キレキレの演奏や歌い回しは爽快感抜群だ。⑩は切なく揺れるソフトなサウンドと淡々としながらも悲しみを伝える歌声が良い。
ラスト⑫はこのバンドらしいセンチメタルなバンドグルーヴで疾走してアルバム締めを飾る。

基本的にメロディーはキャッチーだし、マスロックの要素を含んではいるものの、ストレートな作風のギターロックもあるので、聴きやすいアルバムと言えるだろう。
女性ボーカルバンド好きの間ではすでに伝説となった感もあったchouchou merged syrups.だが、2025年まさかの活動再開し、新曲もリリースしているので今後が楽しみである。

GOLDEN BP. PLATINUM COMPLETE 93-97|BP.

2012/1/25 Meguro Records

1. ES     
2. Cereal
3.  Diving Death Drive    
4. a girl in closet  
5. Count
6. Picnic
7.  (Behind the)Green door          
08. Nameless      
09. Giant(Long version)   
10. Apollo           
11. ES   
12. Nameless      
13. Picnic            
14. a girl in closet
15. Giant            
16. Go Go Pea    
17. (Behind the)Green door           
18. Diving Death Drive    
19.  unknown    
20. unknown

「BP.」は1990年代に活躍したオルタナティブ・ロックバンド。
本作は1997年にリリースされたミニアルバム『ゴールデン BP』と7インチ・シングル『Giant EP』に未発表音源を加えた編集盤である。このバンドは後に「COALTAR OF THE DEEPERS」でギターを弾いたイチマキ(ボーカル、ギター)がやっていたバンドということでよく知られている。

音楽性はシューゲイザー、エモ、ガレージロック、ハードコアパンク、メタルなどの要素を含むカオティックなサウンドが怒涛のように迫りくるインディーズ・ギターロックである。つまり演奏はかなりハード路線なわけだが、その激烈な音にイチマキのスウィートボイスをのせることにより、上手くポップに聴こえるロックに仕上げている。嵐が吹き荒れる変態オルタナティブ・ロックにギターポップのフィーリングをもつ女子ボイスを組み合わせるという当時としては画期的なアイデアが冴えており面白い(イマニシもボーカルをとるので、実質男女ツインボーカル)。この方法論はもしかしたら1990年代インディーズ系ギターポップの清潔感への皮肉みたいなものかもしれない。札幌の「moonwalk」といった後進バンドに影響を与えた部分も大きいと思うので、歴史的な価値も高い興味深い内容の1枚となっている。

①~⑧がミニアルバム『ゴールデン BP』収録曲。
①から凄まじい勢いのアグレッシブなバンドグルーヴが火花を散らす。疾走感というより前のめりに突進していく感じで、そこにイチマキのキュートなボーカルがのることにより、曲の印象は浮遊感があり華やかである。特に手数の多いドラムが熱い。
②はグランジなどのオルタナティブ・ロック好きのど真ん中を突く曲調がグッド。渋谷系と呼ばれてもおかしくない声質のボーカルとノイジーなギターロックの融合は刺激的である。
③は激情と繊細な感情がドラマチックに交差する名曲。ドリルのように突進するハードコアパンクパートとエモやポストロック度数が高い切ない轟音パートが劇的に胸に迫る。この曲はイマニシとイチマキの男女ツインボーカルで、その利点を生かした巧みな感情表現が光る力作だ。
④は軽快に疾走感とキラキラした躍動感をもつギターポップ寄りの曲だが、シューゲイズな唸りをあげる轟音ギターやハードコアなシャウトなど一筋縄ではいかない。
⑤は物憂げな表情を見せる叙情的なパートから激烈なハードコアパンクが炸裂するパートへの繋ぎが見事。こちらも男女ツインボーカルの掛け合いが良い。
⑥はヘヴィなドラムなど重厚なサウンドと可愛らしい歌声が同居するのが何とも言えない味わいである。⑦は爽やかな曲調であるが、間奏のメタリックなギターの音壁に痺れる。
⑧はメロディックなビートの爽快感溢れる旋律で、『ゴールデン BP』の優秀の美を飾る。

⑨⑩が『Giant EP』収録曲。
⑨は車をアクセル全開で飛ばすかのようなスピード感とまさに混沌という感じラフな演奏が熱すぎるキラーチューン。ボーカルの爽やかな歌声に対比するメーターを振り切りそうなサウンドが良い。⑩も尋常ではない熱量に溢れたナンバーで、メタリックなギターリフが印象に残る。

⑪~⑳が未発表のデモ音源。
本編より更に生々しい剝き出しの演奏を聴くことができる。
最初期にあたる1993年のデモ⑲⑳など、インディーロックとして刺激的で興味深い。

プリミティブな衝動をそのまま音にしたような荒々しいサウンドとふわふとした可愛らしい女性ボーカルの組み合わせはまさに1990年代インディーズシーンの至宝と言えるだろう。ぜひ聴いておきたい凄いバンドだ。

Rainy Days|MINT AFTER DINNER

1999/9/22  日本クラウン

1. 5年後
2. 君と僕の
3. マンホール
4. きっと、もっと、すっと、そっと
5. 月のない夜
6. 永遠

「MINT AFTER DINNER」は「山中ナッツ」によるソロプロジェクト。本作は1999年にメジャーでリリースされたミニアルバムである。
インディーズシーンで話題を呼んだデビュー作品『One Day』発表時はバンドであったが、後にシンガーソングライター山中ナッツのソロプロジェクトとなった。
音楽性は【京都のソフィー・セルマーニ】と称された山中ナッツの儚いウィスパーボイスを主役とした不思議な浮遊感をもつネオアコ/ギターポップである。
メジャー作品ではあるが『そうそう!インディーズ女子ボーカルものってこんな感じだよね』というふうに妙にしっくりとくるセンチメタルな叙情性や繊細な空気感が心地良い1枚だ。

冒頭①は透明感ある歌声や揺らめくサウンドが心にやすらぎを与えてくれるキュートチューン。可愛らしくふわふわとした旋律はインディーズ女子ボーカル好きのど真ん中を突く。
続く②は、どこか懐かしさを覚えるアコースティック・サウンドと口ずさみたくなる親しみやすい歌メロに心が和む。これは素直で良いラブソングだ。③はアンニュイな雰囲気を生み出すキュートボイスとフォーキーな切ないサウンド&メロディーが見事に調和している名曲。儚く刹那的な感傷の波が心に押し寄せてきて秀逸だ。この曲は前作にも収録されているが、これは新ヴァージョンとなる。
④はステップが踏めそうな陽気なリズムと可愛らしい歌に元気が貰える。サウンドが結構凝っており、一風変わった魅力が光る。
⑤はしっとりとした美しさが浮かび上がる旋律が印象的だ。シンプルなギターの音色が良い。ラスト⑥は切ない雰囲気のロックバラード。声質の良さを武器にした淡々と歌われるメロディーと歌謡ロックアレンジがノスタルジーを伝えてくれる。

箱庭系のネオアコ/ギターポップとして、ドリーミーな儚い世界観をしっかりと伝えてくれるのが秀逸。当時は結構有名だったMINT AFTER DINNERだが、今ではあまり語られることはない。日本のインディーポップ系は新旧の入れ替わりが激しいのが宿命だが、こういったその隙間に生まれた良質な作品に耳を傾けると色々と新鮮な発見もあるものだ。

Rakuda|arthur

2006/11/25 SDC Music

1. pipo – fall in the dark but my mother singing a song –
2. マーメイド
3. ケイト・シー
4. ナイフ
5. しらゆきひめ
6. ながれぼし
7. ラビットのラビリンス
8. プリンス
9. きみのカラダはぼくらのもの
10. ナンバー・スパンコール
11. ラクダにのって。

「arthur」(アルチュール)はhana(ボーカル/作詞/作曲)と代介(キーボード/ギター/ベース)による2人組の音楽ユニット。
本作はインディーズでリリースした1stアルバムにしてこの時点での代表曲を網羅したベスト盤である。
ヴィレッジヴァンガードで流れていてマニアックな人気を獲得したことからも分かるように、雑貨屋が好むようなウィスパーボイスとカラフルなサウンドを武器にしたキュートなポップスだ。渋谷系の系譜にあるオシャレなサウンド(かなり凝っている)に、メルヘンチックな絵本のような世界観の歌が同居するファンタジックな旋律は不思議な懐かしさを覚えるものである。
「CECIL」を彷彿とさせる煌びやかなギターポップ・エッセンスと「ZABADAK」周辺のような幻想的な物語性を併せ持つのが個性的でグッド。みんなのうたにも通じる可愛らしくも切ない歌は、じっくりと聴いて感傷に浸ることもできるし、BGMとして使用しても雰囲気抜群だ。

冒頭①からhanaの可愛らしい声と歌い回しが破壊力抜群である。おそらくウィスパーボイス好きであれば歌い出しを聴いただけで、このふんわりとした空気感とシンクロしてしまい一気に彼らの世界観引き込まれてしまうであろう。楽団のように奏でられる絵本のようなサウンドは、ピュアなわくわくやドキドキを伝えるもので、口ずさめる歌メロも親しみやすくて良い。
続く②は前のめりに力強く行進する演奏と元気いっぱいの歌が良い。子供の頃を思い出せるノスタルジーを感じることができる。
③はゲーム音楽っぽいピコピコしたサウンドを駆使したドリーミーな雰囲気とキラキラした躍動感をもつナンバー。
④はセンチメンタルを絵に描いたような切なさが良い。精一杯強がりながらもじわじわと悲しみが滲むという感じが絶妙な味わいだ。
⑤はarthurの持ち味であるメロディーの良さが発揮されたキラーチューン。ゆったりとしたパートからサビで感情を爆発させるのは定番とも言える展開だが、童話のような物語をストレートに伝えてくれるハートフルな歌声が良い。
⑥はメルヘンチックかつロマンティックな旋律が瑞々しい。こういった明るく弾ける曲でもどこか切なさを含んでおり、胸をキュンと締めつけるのがとにかく上手い。
⑦は頭にこびりついて離れなくなるサビの歌メロが良いので何度もリピートしてしまう。
⑧はステップ踏んで踊りだしたくなるハッピーチューン。一風変わった個性がありながらも親しみやすい雰囲気は楽しい気持ちになれるもので、まさにグッドミュージックである。
⑩は可愛いだけはなく、ユーモアを交えながらオシャレに決めるのがエレガントな感じで面白い。洗練されたサウンドの女子ボーカルものとして秀逸である。
ラスト⑪は聴いていると照れてしまうほどhanaの可愛らしい歌声の魅力が発揮された名バラード。口ずさめる切ないメロディーを超キュートボイスで素直に歌い上げることで、とんでもない中毒性が生まれている。

hanaのウィスパーボイスが良いとのはもちろんこと、ダイナミックな高揚感が得られる鮮烈なサウンドや一度聴けば覚えられるメロディーの出来は素晴らしいものがある。
インディーズ系のキュートな女性ボーカル・ポップスとしては非の打ち所がない名盤である。
arthur の活動休止後、代介はニコラフという音楽ユニットで活動していた。ボーカルのhana は2009年より近藤花と名義を改めて、2025年現在も精力的に活動中である。

Every day|ROCKY CHACK

2000/9/20 Outgroup Records 

1. Let me Fly
2. GOOD DAY
3. Could you see?
4. Summer Day
5. 真夏の恋
6. Spiritual rise
7. I remember
8. ONE DAY

「ROCKY CHACK」は1998年にデビューした5人組の男女ツインボーカル・ポップ・ロックバンド。本作は2枚目となるアルバムである。
音楽性は爽やかな渋谷系ギターポップという感じで、当時は「advantage Lucy」や「Swinging Popsicle」と共にサブカル界隈では人気があった。小気味いいネオアコライクなサウンドにちょっぴりセンチなメロディーというインディーポップ好きのど真ん中を突く作風がグッド。山下太郎とnoeの飾らない素直な歌声は、まさに青春の輝きを伝えてくれるもので、胸をキュンと締めつける。
本作発表後、バンドとしては活動停止してしまうが、2005年からは山下太郎とnoeの音楽ユニットとして活動再開。
TVアニメ『ゼーガペイン』や『狼と香辛料』のエンディングテーマを手掛けたことでよく知られている。元々メロディーセンスは抜群であったので、アニソンでも良い曲を発表していた。
本作はそんなROCKY CHACKの魅力がふんだんに詰まった最高傑作と言っていい内容で、特に予備知識がなくても誰もが楽しめるポップ・ロックが次々と繰り出される力作である。

冒頭①から清涼感あるギターポップで気分爽快。青い季節の透明感がジャングリーなサウンドで表現されており、煌びやかなメロディーと小気味良い疾走感が心地良いキラーチューンである。山下太郎とnoeのボーカルも絶妙なコンビネーションを決めており素晴らしい。
続く②はまったりとした雰囲気のミドルテンポの曲で、ノスタルジックなメロディーの良さが光る。また印象的な間奏を含めて全体的にアコースティックなギターの音色がキラキラしておりグッド。
③は劇的な盛り上がりが熱いエモロック。同時期に活動していた「BOaT」にも通じるグッドメロディーと轟音ポストロック系の演奏がダイレクトに胸を突き刺す。
⑤は男女ツインボーカルの利点を存分に生かしたリズミカルなサマーチューン。とにかくボーカルの掛け合いが優れている。
⑥はnoeの凛とした歌声とエモーショナルな演奏でじわじわと盛り上げる切ない表情が全開のナンバー。このあたりのこれでもかと切ない旋律で押しまくる感傷的なセンスは、後のゼーガペインの名曲『リトルグッバイ』などに通じるところがあり。
⑦は心が癒される牧歌的なバラード。懐かしさを覚える空気感が秀逸である。
ラスト⑧は王道路線をいく清涼感溢れるセンチメンタルなポップチューン。極上のメロディーラインはアルバムの締めを飾るに相応しい。

爽やかな風に吹かれるようにさり気なく良い曲を聴かせてくれるのが良い。等身大と言えば陳腐になるかもしれないが、自然体の空気感が大きな魅力のひとつとなっている。

The Essence Of Pop-Self 1996-2001 + menu|ya-to-i

2013/2/20 P-VINE

1. Funny Feelin’
2. ひまわり
3. シークレット・ソング
4. Nothing new under the sky
5. Street to Go
6. Landsat
7. Cycle
8. POWDER
9. Funny Feelin’ (reprise)
10. 空の名前
11. Technostress Fever
12. Button
13. 空の名前 (Peking’s Sky Mix)
14. Cycle (Summer Smooth Mix)
15. Hustle (Toy’s Hustle Mix)
16. となえるよ (bonus track)

「ya-to-i」は山本精一(ボアダムス、羅針盤、ROVO)、岡田徹(ムーンライダーズ)、伊藤俊治による音楽ユニット。本作は5年間に渡る制作期間を経て2001年にリリースされた1stアルバム『The Essence of Pop-self 1996-2001』にミニアルバム『menu』と新曲を追加収録した編集盤である。
当時かなりのインパクトを残した1stアルバムでは全編に渡り様々な女性ボーカリストをフューチャーしたオシャレなエレクトロポップを聴くことができる。参加しているのは有名な女性シンガーではなくかなりマニアックな人選となっており、女性ボーカルの音楽としては匿名性の魅力があるということも大きなポイントである。
人脈からしてニッチな音楽になるかと思いきや純粋にポップミュージックとして優れているものが多く、渋谷系やシティポップ好きも満足できるスタイリッシュな楽曲が目白押しである。女性ボーカルの隠れた名盤と言っていい聴きごたえのある1枚だ。

①~⑩がアルバム『The Essence of Pop-self 1996-2001』収録曲。
①は浮遊感のあるオシャレポップスで、ほとんど洋楽のように聴こえる。エレクトロサウンドによく合う透明感ある歌声を聴かせてくれるのは小林ふみえ(ASLN)。音はかなり凝っているが、曲調自体はヒットチャートに入っていてもおかしくはない感じだ。
続く②も喫茶店で流れていそうな洒落たポップソング。トランペットの音色と淡々とした歌声が印象的である。こちらも小林ふみえがボーカルを担当している。
③は寺本りえ子をボーカルに迎えた王道的な渋谷系ポップス。山本精一とのツインボーカルハーモニーが良い感じだ。休日の昼下がりにかけてまったりしたくなる定番の曲調である。
⑤はロック寄りのサウンドであるが、雰囲気は早すぎたPerfumeと言いたくなるキラーチューン。凝りまくった曲が多いこのアルバムにおいて、わくわく感のあるメロディーが光るストレートなビートが気持ちいい。キュートなボーカルを聴かせてくれるのは、岡田徹の娘であるMOA(岡田紫苑)。⑦は小林ふみえの爽やかな歌声の魅力が、ギターポップっぽい旋律に見事にハマっている。タイトル通り青空の下を自転車で飛ばしたくなる。
⑧はLori Fine(COLDFEET)がボーカルをとるジャジーな雰囲気のナンバー。奥行きのあるサウンドが素晴らしく、表情豊かな歌声含めて無国籍感漂う音空間に引き込まれる。
⑩はMiki(Pyokn)をボーカルに迎えた空から光が差し込むようなアンビエント風の曲で、透明感溢れる歌声と情景の美しさに心が癒される。後期Nav Katzeにも通じるものがある作風である。

⑪~⑮がミニアルバム『menu』収録曲。
この作品ではインストパートに重きを置いたテクノポップが楽しめる。
⑪は疾走感のあるドリーミーなエレクトロサウンドがカッコいい。ボーカルは岡田徹が担当している。⑫はファンタジックな音の洪水が高揚感を与えてくれる。山本精一の歌声も良い。
⑬⑭は前作の女性ボーカル曲のリミックスヴァージョン。鈴木慶一が手掛けた⑬、Speedometerによる⑭共に大胆なアレンジが楽しめる。

⑯が2013年の本作リリース時の新曲で、ボーカルに柴田聡子とじゅんじゅんを迎えている。本作の後にオリジナルアルバム『Shadow Sculpture』をリリースしている。

実力派ミュージシャン達が集まり、女性ボーカルにこだわるアルバムを作るというのが、マニアックな趣味趣向を捉えておりグッド。女性ボーカルのポップスとしてかなり出来の良いので、聴いておいて損はないはずだ。

とりあえずベスト!|PINPONS

2013/8/12  KIRAKIRA RECORD

1. 素敵なチャーリー
2. trick*trip
3. 水の中の天使
4. ゼッケン
5. 猫の舌
6. タイムマシーン惨号
7. 8月のプラネタリウム
8. 幸福ノ原理
9. 輪転サアカス
10. スイセイムシ
11. 恋のライフセイバー
12. 星に願いを
13. 駱駝
14. 放電エレガンス
15. 週末論
16. パースペクティヴ
17. butterfly
18. いたいけなリビドー

「PINPONS」は「さっぽろももこ」(RIKA)のソロプロジェクト/バンド。
本作はオリジナル曲と提供したエロゲソングのセルフカバーで構成された1stアルバムである。
バンド版PINPONSもあり、精力的にライブ活動も行っている。
「さっぽろももこ」は1980年代には「RIKA」名義でシンガーソングライターとして活躍。1987年にはニューウェーブ路線の傑作アルバム『ロマンチック』をリリース。更に伝説のPC用パズルゲーム【Dragon Shock】にボーカル曲を提供し、サブカル界隈でマニアックな人気を獲得した。
シンガーソングライターとしての活動終了後は、「さっぽろももこ」名義で主に美少女ゲームの音楽を制作しており、特に三大電波ゲームと称される異色作である【さよならを教えて 〜comment te dire adieu〜】の音楽を手掛けたことでよく知られている。また音楽家としての活動と並行して、自身も原画家として美少女キャラクターを描いており、ゲームクリエイターとしても活躍している。
本作は「さっぽろももこ」の可愛らしい歌声を生かしたテクノポップがふんだんに収録されており、コンセプトに掲げる へなちょこPOPの神髄が味わえる脱力的な空気感が心地良い内容である。1980年代ニューウェーブ勢ならではの独自のゆるさは面白いセンスを感じるもので、洗練されたエレクトロポップにはない不思議な魅力がある。

冒頭①から懐かしくも新鮮な響きをもつキュートなテクノポップが炸裂する。摩訶不思議なスペーシー感覚とふわふわした浮遊感が耳に優しく響く。チープでキッチュな感じがナイスである。
続く②は樋口レンが歌った【学園カウンセラー】の主題歌セルフカバー。頭にこびりつくメロディーと意味深な歌詞が冴えている。
③はピコピコ電子サウンドと可愛らしい歌というニューウェーブど真ん中を突くキラーチューン。まったりとした雰囲気の中で、ちょっぴりセンチな感情が滲むのが良い。
④はキラキラした躍動感のある曲で、独特の歌い回しに味がある。
⑥はユーモアセンスを感じる愉快で楽しいナンバー。ミュージカルのような雰囲気とキャッチー歌メロが中毒性を生み出している。
⑦・・・これもニューウェーブ好きのツボを突きまくるピコピコしたテクノポップで、好きな人には堪らない作風となっている。持ち前のメロディーセンスの良さも十二分に発揮されている。
⑧⑨はMarica、榎津まおが歌った【ピエタ 幸せの青い鳥】のOP/ED曲のセルフカバー。
⑧はイントロからして怪奇幻想音楽という感じの妖しい雰囲気バリバリの1曲。戸川純や平沢進に通じるような大陸系の旋律がマニアックな音楽趣向を満たしてくれる。
⑨はゲルニカや須山公美子のような戦前の歌謡曲っぽい雰囲気がただならぬ存在感を示す。
⑩はゲーム【天気姉】のBGMを歌入りアレンジしたもの。ニートスピリット全開のダメ人間賛歌で、無気力症候群をコミカルに表現したイカした曲なので必聴だ。
⑫はチロリンの『こんなじゃダメ神様』を彷彿とさせる1980年代ニューウェーブ女子ポップ系の不思議ちゃんセンスが熱い。⑭はタイトル通りクールで上品な美しさをサウンド&ボーカルで見事に表現しており、非常に上質な聴き心地である。
⑮はイントロからイノセントを感じる清々しい曲で、サビのメロディーが感動的だ。
⑯は透明感のあるサウンドや歌声の叙情性がグッド。メロウで感傷に浸れるし、聴いているとなんだかぞくぞくする。

1980年代ニューウェーブの生き証人である彼女の才気がみなぎる1枚である。
テクノポップとしてサウンドは良く出来ており、耳に引っ掛かりを残すメロディーセンスもさすがといったところだ。

夢子+シングルコレクション|北岡夢子

2008/7/16 ポニーキャニオン

1. 世界中でたったひとつの
2. ゆめの半分
3. Yes.
4. 雨降り娘にご用心
5. さよならセンチメンタル
6. 憧憬
7. 告白
8. 優しくなりたい
9. 三日月でサヨナラ
10. ただいま失恋中
11. 海に架る虹
12. 追伸
13. 恋心
14. 夢をあげよう
15. もういちど逢えたら
16. IT’S-ME
17. マイアミ午前5時
18. ミスティー

「北岡夢子」は1988年にデビューしたアイドル歌手。本作は唯一のアルバム『夢子』にシングル曲を追加収録した編集盤である。1980年代後半のアイドルの中では姫乃樹リカなどと並んで歌が上手いことでよく知られている。本人の魅力と言える素朴な雰囲気がそのまま表れた初々しい声ながらも歌唱テクニックが優れているという実力派であった。
歌声以外にも特筆すべき点としては、非常に楽曲に恵まれたアイドルであったということである。簡単に1980年代のアイドル歌手といっても前半、中盤、後半と時期によってかなり音楽性に違いがある。北岡夢子のデビューした時期は歌謡曲からJ-POPへの移行期であり、よりスタイリッシュな方向性のアイドルポップが多く登場した(バンドブームによりアイドルの時代は終わりつつあったが)。この時期のアイドルソングは今聴いても違和感なく受け入れられるものが多くあり、ポップミュージックとしての普遍性も兼ね備えている。北岡夢子の曲も単なる懐メロとして楽しめるだけではなく、デビュー曲『憧憬』によく現れているような違和感を含ませた楽曲センスなども興味深いもので、聴きごたえのある内容となっている。

①~⑪がアルバム『夢子』収録曲。
①は旅をテーマに清涼感に満ちたキュートな歌唱を聴かせる青春アイドルポップ。矢野立美が作曲したキラキラしたメロディーと北岡夢子の透明感ある歌声は心をほっこりとさせてくれる。
③はかつての青春ソングの定番である少年野球をテーマにした躍動感溢れるナンバー。いかにも1980年代的な胸キュンな世界観が良い。
④はほんわか柔らかい曲調が心地良い。特にサビのメロディーが印象的だ。
⑥はデビューシングルで、聴いているとなんだか照れてしまうほど初々しい魅力がある名曲。彼女の雰囲気にぴったりとハマっているし、まさに胸がときめく歌声という感じで良い。松宮恭子が手掛けるメロディーは独自の味わいがあり、萩田光雄による無駄のないテクノポップ・アレンジも素晴らしい。
⑦は子供から大人への階段を上っていく微妙な乙女心を上手く表現している。日本語の響きの美しさへのこだわりを感じる歌詞も印象的である。⑧はわくわくするアップテンポのナンバーで元気が貰える。
⑩はオールディーズっぽい雰囲気のバラードで、透き通った歌声含めたちょっぴり切ない旋律に心が癒される。
⑪も懐かしさを覚えるバラードで耳当たりがとても良い。

⑫~⑱がシングルを収録したもの。
⑬は恋する乙女全開のスウィートな曲で、それを盛り上げる萩田光雄のアレンジが秀逸。
⑭は哀愁のアイドル歌謡ど真ん中という感じのナンバー。今聴くとこのベタな雰囲気が逆に新鮮である。⑮は印象的なサビのメロディーを美しく歌い上げるのが良い。
⑯は爽やかな女性ボーカルのJ-POPサマーチューンとしては申し分のない出来。楽曲に北岡夢子の可愛らしい声質がベストマッチしており、後藤次利が手掛けたフックのあるメロディーも記憶に残る。⑰は松田聖子の有名曲のカバーで、アレンジなど結構原曲と違うところが楽しめる。

声が可愛いうえに歌も上手い・・・そして更に曲にも恵まれた。音楽面で見た場合、アイドルとしてはある意味無敵とも言えるが、残念ながらブレイクすることはできなかった。
しかしその輝きは今も色褪せていないはずだ。

Laideronnette|matryoshka

2012/12/12 Virgin Babylon Records

1. Monotonous Purgatory
2. Noctambulist
3. Sacred Play Secret Place
4. Instant Immortal
5. Cut All Trees
6. Butterflysoup
7. Hallucinatory Halo
8. Oblivion
9. Niedola
10. Gentle Afternoon

「matryoshka」は2006年に結成された、トラックメイカーのSenとボーカルのCaluによる音楽ユニット。本作は2枚目となるアルバムである。Sigur Rósやmúmなどの北欧系に通じる質感をもつポストロックやエレクトロニカを主軸にした儚いサウンドが特徴的だ。
プログレッシブなセンスも感じる映画的なサウンド構成は素晴らしいものがあり、美しいピアノやドラマチックに響き渡るストリングス、Caluの透明感ある幽玄なボーカルが荘厳な雰囲気を生み出し、言葉にできない程の感動を呼ぶ。いわゆる洋楽に聴こえる邦楽という感じだが、絶品の美しさを奏でるサウンドや歌声が伝える叙情性は和的なセンスも含んでおり、日本の音楽ならでは美意識も感じることができる。

冒頭①は美しいピアノからスタートするクラシカルな旋律に圧倒される。ファンタジックな感じもする壮大な叙事詩を奏でており、生演奏とエレクトロサウンドのバランスも良い。
②はこの世の最果てを描き出すような美しいオーケストレーションと女神のような存在感を示すCaluの幽玄な歌声がとにかく凄い。終盤には轟音ポストロックなエモーショナルに盛り上がる展開もあり、感動はMAXに高まる。
③は牧歌的な雰囲気に心が洗われる。こちらも後半にはシンフォニックに盛り上がるパートがあり、曲のメリハリがはっきりとしている印象だ。
④は光に包まれるような優しい空気感がグッド。ノイジーなサウンドとストリングスが見事に調和しており、どこか懐かしさを覚えながらも前向きな気持ちになれるのが秀逸。
⑤は溜息がでるほどの美しさを奏でるピアノが良い。全体的に陰りのある雰囲気が耳に心地よく響き、絶品のメロディーが心に沁みる。
⑥は割とストレートな歌モノバラードなエレクトロニカ。
⑦はRPGのゲーム音楽などに使用されても良さそうなサウンドがオタク心をくすぐる。
⑨は近未来的な想像を刺激するスペーシー感のあるサウンドがトリップ感覚をもたらす。
⑩は最後に相応しい感動的なフィナーレを迎える。桃源郷に降り立ったような美しさがあり圧巻である。

サウンドは様々な要素が混在しかなり凝っているが、映像的というかイメージが湧いてくる音は素晴らしいの一言。
ポストロックやエレクトロニカに興味がなくともニューエイジ/ヒーリング系の音楽や映画/アニメなどのサウンドトラック好きにも大変おすすめできる内容となっている。

BETTA FLASH|BETTA FLASH

2008/2/20 
NBC ユニバーサル・エンターテイメント

1. Nazaree
2. BETTA FLASH
3. HORIZON
4. A Four-Dimensional Smile
5. AGATA

「BETTA FLASH」は2005年に結成されたTAMAYO(元ZUNTATA)とCyua(元Filtrike)からなる電子音楽ユニット。本作は1stミニアルバムである。
楽曲を手掛けるTAMAYO(河本圭代)は1980年代にカプコンに入社し『大魔界村』などのアーケードゲームの音楽を手掛けた後、1990年代にはタイトーのサウンドチーム「ZUNTATA」に加入。1994年に発売されたアーケード用シューティングゲーム『レイフォース』から始まるレイシリーズ3部作の音楽を手掛けて、カリスマ的な人気を誇った女性コンポーザーである(フュージョンの要素が強めのレイストームのサントラはかなり売れた)。
その後、タイトーを退社しフリーとなったTAMAYOがボーカル入りの音楽ユニットをやるということで、ゲーム音楽界隈ではいったい彼女がどんな歌を作るのか注目が集まった(BETTA FLASHを始めるまではボーカル入り曲はほとんどない)。
このBETTA FLASHでは【無国籍エレクトロニカ】をコンセプトにしているが、基本的にはCyuaの透明感のある歌声を主役とした歌モノなので、レイクライシスの名曲『女の子にはセンチメンタルなんて感情はない』などで聴ける女性的な音楽センスを駆使したTAMAYOの大胆なテクノサウンドは抑えめとなっている。あくまでもCyuaのボーカルの魅力を引き出す方に振ったサウンドやメロディー作りに徹しているが、さすがTAMAYOと唸らされる部分が随所にあり、聴きごたえ抜群である。

冒頭①からエキゾチックな雰囲気のテクノサウンドにCyuaの声質の良さを生かした巧みな歌い回しのボーカルが同居し、無国籍な世界観を盛り上げる。一音一音にこだわりを感じさせるサウンドの出来が良く、ここではないどこかへと誘われるエスニックな女性ボーカルのキラーチューンである。
続く②は浮遊感のあるテクノにインパクトのあるセリフパートとオシャレなメロディーパートが融合し個性的で面白い。セリフパートが、いかにもTAMAYOらしい世界観でニヤリとさせられる。③はアイリッシュ・トラッド風の歌モノで、電子サウンドと伝承歌を組み合わせたエレクトロフォークという感じだ。なぜかテクノサウンドはこういった伝統的な大陸系の旋律と相性が良い。④はゲーム音楽好きには刺さるピコピコした音とメロディアスな歌をバランスよく聴かせる傑作。中毒性を生むユニークな歌唱が面白い。
ラスト⑤はCyuaが情緒たっぷりに歌い上げる大陸系の歌モノ。TAMAYOの無駄のないサウンドが素晴らしい。いたずらに音を厚くするのではなく、最小限の音で存在感を示すことができるのは巧みの技である。

ボーカル入りということを考慮しているTAMAYOの音作りが光る内容である。Cyuaもボーカリストとしての実力は申し分ないので、安心して楽しむことができる。
TAMAYO は2025年現在も精力的に活動しており、曲を提供したスマホゲーム『アリス・ギア・アイギス』のサウンドトラックVol.8が発売されて話題となった。Cyua はソロとして多くのアニメのエンディングテーマや挿入歌を担当し、幅広く活動を行っている。
またBETTA FLASH本隊も自主制作などで、定期的に作品をリリースしている。

Prayer|JACK OR JIVE

1999 IRIS / PRIKOSNOVENIE 

1. 憂国 -Worry About The Country
2. A Prayer
3. The Cosmic Ray
4. For Children’s Future
5. We Lost
6. 37°C
7. The Earth
8. Prayers
9. 高架下 -Ko-Kashita
10. Black Mountains
11. Non
12. The Last X’Mas

「JACK OR JIVE」は1989年に姫路で結成された、服部誠とChakoによる音楽ユニット。
本作は1991年の1stアルバムにボーナストラックを4曲追加して再発したものである。
海外を中心に活動していたグループらしく、1stアルバムはドイツから、この再発盤はフランスのレーベルからリリースされている。
音楽的にはニューウェーブ、ゴシック、インダストリアル、ジャーマンプログレなどの様々な音楽要素が混在するアンビエント・ミュージックである。服部誠が作り出すエクスペリメンタルなサウンドとボーカルを務めるChakoの幻想的な歌声が見事に調和しており、彼らならではの神秘的な世界観が楽しめる内容となっている。
Cocteau Twins やThis Mortal Coil 等の4AD系からヒーリング/ニューエイジ系を好む人にもおすすめできる1枚である。

①~⑧がアルバム『Prayer』収録曲。
冒頭①・・・これがいきなり意表を突くアヴァンギャルドな作風で驚かされる。
君が代+三島由紀夫の演説+ヒーリング・サウンドというメッセージ性や実験性も感じる楽曲だ。まるでNHKのドキュメンタリー番組『映像の世紀』を視聴しているような重さがあり、三島事件の衝撃を思い返すことができる。
続く②は力強い打ち込みビートに切なさ溢れるピアノ伴奏が絡む感傷的なサウンドをバックに、Chakoの美しい歌声が儚く響き渡る。繊細かつ神秘的で、古代のような空気感が心地良い名曲だ。
③はスペーシーな感覚をもつしっとりとしたアンビエント。一音一音の響きが耳に残る。
④は透き通ったサウンドと相性の良い巧みなボーカルワークが光る。
⑥は柔らかいエンジェルボイスを駆使した浮遊感のある美しい旋律に心が癒される。エレクトロニカ好きにもおすすめできるナンバーだ。
⑦は凝りまくった複雑なサウンドや何かに取り憑かれたようなボーカルの叫びなど、その緊迫感が圧巻だ。タイトルは地球であるが、よくある大陸系の歌モノではなく、儀式的でありカオスが渦巻く暗黒系のアヴァンポップである。
⑧は透明感のある壮大なニューエイジ系のサウンドに、お経とChakoの巫女のようなボーカルが同時にのるという面白い作風だ。かなりインパクトがある曲で、意図がよくわからなくてもスケールがでかい雰囲気に圧倒される。

⑨~⑫が再発盤の追加トラック。
ホラーな雰囲気も漂う和風アンビエントという感じで異様な迫力をもつ⑨、Klaus Schulzeを彷彿とさせる幻想的な音空間に引き込まれる⑩、My Bloody Valentineと同質のトリップ感をもつ⑪など、こちらもかなり凝っているサウンドや神々しいボーカルを楽しむことができる。

疲れた心を癒してくれるヒーリング効果があるが、随所に感じられる尖った個性が良い。
いわゆる洋楽に聴こえる邦楽の走りとも言えるが、和的なものへのこだわりがある作風の曲もあり興味深い内容となっている。

天皇|NOISE

2014/8/30 アルケミーレコード

1. 死
2. 水
3. 地球は青い
4. 天皇
5. 羊

「NOISE」は工藤冬里(キーボード、ドラム)と大村礼子(ボーカル、ギター、トランペット)による音楽ユニット。本作は1980年に自主制作でリリースした唯一のアルバムを再発したものである。
「Maher Shalal Hash Baz」の工藤冬里がその前にやっていた音楽ユニットで、アンダーグラウンド好きには人気のある定番のアルバムだ。翌年発表された灰野敬二の『わたしだけ?』と並びインパクトのある記憶に残る内容である。
音楽性は工藤冬里のノイジーなオルガンに大村礼子の祈りを捧げる巫女のような歌声が同居するというもの。尋常じゃない歪んだオルガンの音色、最果ての彼方で歌っているように聴こえるボーカルなど、サウンドに臨場感があり、当時のインディーズならではの生々しい空気感が圧巻の1枚である。

冒頭①から9分を超える大曲。延々と奏でられるオルガンの伸びまくるノイジーな音色がまさにタイトル通り【死】を連想させる。そして途中から木村礼子の幽玄な歌が始まる。徐々に緊張感は増していき、後半にはあの世へトリップするかのような凄まじい音響処理のボーカルが響き渡り、これが後戻りはできない感じで怖い。続く②はオルガンとドラムに合わせた淡々とした歌が進み、終盤はカオティックなノイズ・ギターが炸裂する展開に。
③は日本古来の村などで歌われていそうな童謡みたいな短曲。
④は10分以上に渡るアルバムタイトル曲。①と同タイプの曲で、オルガン・ノイズと異様な空気を纏う歌声に畏怖してしまう。それにしてもこの音壁というに相応しいオルガンは凄い。
ラスト⑤も基本的にはノイズサウンドだが、透明感ある歌声のおかげか、ドリーミーな浮遊感を感じることができる。

サウンド面だけで見ればノイズミュージックというカテゴリに入る作品である。癒しの効果もある美しい女性ボーカルを導入することにより、ぎりぎりのところでアヴァンポップとして成立している希有な1枚である。

ガラクタ|螢

1999/6/14 JOTA

1. だいいろ子鹿
2. 虹~ダンボール
3. くらげ
4. ふうせんガム
5. 大切ココロ

「螢」は1990年代後半から2000年代前半にかけて、サブカル界隈で人気があった少女詩人/シンガー。本作は1999年にインディーズでリリースした初のミニアルバムである。
翌年にはクイック・ジャパン誌の表紙を飾るなど、サブカル周辺では異様なほどの注目を浴びていた。本作の後にメジャーデビューもしているが、あまりにもコアな存在感のためか残念ながらブレイクはしていない。
本作では若干13歳ながらも終わりのない悲しみが溢れ出すポエトリーと囁くような儚い歌声を自身のカラーとしてメランコリックな世界観を作り上げている。複雑な家庭環境や学校でのいじめなど様々な問題を抱えた彼女の深淵な闇と痛みは、当時の世紀末の終末感ともリンクして、特に10代の少年少女達から熱狂的な支持を受けた。
サウンドはゴシック・ロック、アンビエント、ニューエイジなどの要素があり一筋縄ではいかないが、基本的には螢の詩と歌声を中心とした作品なので、あまりにも儚い少女詩人の魅力にどっぷりと浸ることができる。

冒頭①は雨が降る街並みの環境音をバックに展開される螢のポエトリーリーディングがただならぬ存在感を示す。可愛らしい声で囁かれる文学的な詩の重みは、まさに孤高の少女詩人というに相応しい。続く②は軽快なギターリフから始まるソフトなロックビートをバックに、螢の淡々としながらもポップな歌が始まる。聴きやすいJ-POPだと思っていると、途中から突然アンビエントな雰囲気の音響空間にチェンジし、自身のトラウマといった負の感情を直視する螢の重い詩の朗読が響き渡る。真面目に内面の痛みと向かい合って感情が吐き出されており深刻な迫力がある。
③はゴシック・ロック風味のダークなサウンドが螢のキャラクターと上手く合わさっており良い。
④はウィスパーボイスで歌われる美しいメロディーと詩に心が洗われる名曲。サウンドも歌もシンプルだが、絶望の果てに救いを求めるような螢の歌声は最高に切ない感傷を運んでくれる。ラスト⑤は螢の悲しみを綴ったポエトリーリーディングと神秘的/映画的なサウンドの融合。詩の朗読を音楽としてドラマチックに表現するスタイルとしてはひとつの完成形だ。

伝説の少女詩人「螢」が残した思いの塊のような音源である。この少女性と刹那感は心に刺さるもので、実は多くの人を救ってきたのではないだろうか。再評価が求められる1枚だ。

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