新着レビュー

Break Your Mind|POMERO

2019/6/24 リーディ

1. Intro
2. Can’t Let It Go
3. グラデーション
4. wait for tomorrow
5. シャラリラ
6. スイートタルト
7. 木枯らし吹く頃
8. パラレルワールド
9. Outro

2018年から2021年まで活動していたアイドルグループ「POMERO」の1stアルバム。
音楽性はアイドル歌謡から渋谷系ポップスまで取り込んだ、オシャレなセンスが光るアイドルポップだ。2020年に新体制に移行した後はノリノリのディスコ路線になりそれも良かったが、アルバムとしては本作が最高傑作と言える充実した内容で、楽曲の優れたポップセンスと通好みの音質が堪らない1枚である。

②は力強いエレクトロビートと伸びやかなメロディーを歌う思い切りのいいボーカルが高揚感を与えてくれるナンバー。③は不穏なピアノのイントロから始まる暗い歌謡曲っぽい歌で、大人びた雰囲気が渋くてカッコいい1曲。
④は王道的なデジタルサウンドのアイドルポップで懐かしさ溢れる曲調に痺れる。
⑥は昔のアーケードゲームの音楽みたいなチープな電子サウンドでメロディックに疾走するキラーチューン。レトロ感覚の洒落たセンスが効いており、POMEROならではの個性的な魅力が感じられてとても良い。
⑦はしっとりと聴かせるアイドル歌謡で、切ない歌メロと綺麗な響きのボーカルが気持ち良くノスタルジックな感傷に浸らせてくれる。
⑧はオシャレな歌声や独自のメロディーが耳を捉えて離さない渋谷系アイドルポップの大傑作。音質があまり良くないで、そこは好みが分かれそうだが、非常に面白い魅力がある。

基本的にはキャッチ―なアイドルポップだが、メジャーなアイドルグループと比べると音も含めて質感が全然違うのが興味深い。インディーっぽいと言えばそれまでだが、有名アイドルグループでは満たされない何かを発見できるかもしれない。

Plus-Tech Squeeze Box|FAKEVOX

2005/4/13 VROOM SOUND

1. Channel No.17
2. Early Riser      
3. A Day In The Radio      
4. Test Room      
5. Rocket Coaster
6. Scene1 – Launch A Spaceship Into Space  
7. ☆     
8. White Drops   
9. Milk Tea         
10. Scene2 – Citybilly Lived Happily Ever After          
11. Sneaker Song!
12. Clover           
13. track>

ネオ渋谷系音楽ユニット「Plus-Tech Squeeze Box」。本作は2000年にリリース1stアルバムをリマスタリング再発したものである。
2000年代に起こったネオ渋谷系ムーブメントを代表するグループのひとつで、イギリスでも人気を獲得するなど、当時の音楽シーンで大きな注目を集めた。彼らのような1990年代の元祖渋谷系の流れを受け継ぎつつ、エレクトロサウンドを主体としたオシャレポップスを聴かせる音楽ユニットはフューチャーポップとも呼ばれた。おもちゃ箱をひっくり返したと形容されることが多いフューチャーポップ勢の中でも、一風変わったサウンド構成や奇抜な曲展開が特徴的ではあるが、すべて可愛らしいポップミュージックとして上手く昇華しているので、単純に誰もがハッピーな気持ちになれる1枚である。

テーマパークの入場するようなワクワクするインスト①に続く②は、力強いビートでキュートに疾走する。目まぐるしく景色が変わっていくジェットコースター感覚のドキドキ感が楽しい。③はギターポップエッセンスが効いた可愛らしい電子ポップ。渋谷系ミュージシャンが得意とする王道的な曲であるが、サウンドが凝っており面白い。
⑤もキュートな歌声&ドライブ感あるサウンドで力強く疾走する。アグレッシブなサウンドとネオアコっぽい歌のバランス感覚が絶妙で、聴きながら自転車で飛ばしたくなるような爽快感がある。⑦はセンチメタルな感情を刺激するキラキラした電子サウンドの洪水が気持ち良い。どこか懐かしさを感じる歌メロもノスタルジックで素晴らしい。⑧は洒落たドタバタしたサウンドと透明感ある歌声が上質な聴き心地である。⑨はファニーなサウンド&チャーミングな歌に自然と笑顔になれる楽しいナンバー。
⑪はピコピコしたテクノロック。持ち前のメロディーの良さとキュートな魅力が全開で、フューチャーポップの名曲と言っていい会心の出来である。

サウンドは雑多でかなり凝っており挑戦的な部分もあるが、ポップセンスが優秀なので、メロディアスな渋谷系ポップスとして文句なしの完成度を誇っている。
『雑貨屋さんでかかっているキュートなポップス』というネオ渋谷系のイメージを決定づけた傑作アルバムだ。

ファミリーミュージック|YMCK

2004/11/3 USAGI-CHANG RECORDS

1. ファンファーレ
2. Magical 8bit Tour
3. パステル・キャンディーは悪魔のささやき
4. Darling
5. POW*POW
6. Interlude
7. S!O!C!O!P!O!G!O!G!O(YMCK Version)
8. Synchronicity
9. Tetrominon ?From Russia with Blocks?
10. ジョン・コルトレーンは回転木馬の夢を見るか
11. Yellow、 Magenta、 Cyan and Black(YMCKのテーマ)
12. Your Quest is Over

ファミコンのゲーム音楽を彷彿とさせる8bitポップスを聴かせてくれる音楽ユニット「YMCK」の1stフルアルバム。
チップチューンという音楽ジャンルで語られるようなファミコンの電子サウンド+キュートボイスという斬新なアイデアは当時多方面で話題となり、ネオ渋谷系/フューチャーポップシーンで大きな注目を集めた。音楽的にはストレートな作風で、ボーカルを務めるMidoriの可愛らしい歌声を主役に展開されるピコピコした8bitポップスであるが、ジャズやボサノバなど様々な音楽からの影響を感じさせる曲はポップミュージックとして優れた魅力がある。

ノスタルジーで胸いっぱいになるインスト①に続く②は、YMCKの名前を世間に知らしめた女性ボーカルチップチューンの名曲。若い世代にはレトロで新鮮な響きがあると思うし、年長者は子供の頃にワクワクしながらファミコンのコントローラーを握っていた思い出がよみがえるだろう。③は8bitダンスポップという感じの陽気に弾けている楽しいナンバーである。
④もご機嫌なステップが踏めそうなダンサブルな曲でノリノリに決める。
⑤は8bitジャズという感じの洒落たセンスが良い。ファミコンサウンドとジャズの相性の良さにはビックリだ。
⑦はこのアルバムをリリースしているインディーズレーベルUSAGI-CHANG RECORDSを主催する鈴木アキラの音楽ユニットSonic Coaster Popの楽曲をカバーしたもの。溢れる光の中を突き抜けるような爽快感に満ちた原曲とは一味違う、のんびりとした可愛いらしさが光るYMCKらしい良い出来となっている。
⑩はテンポの良い男女ツインボーカルと細部にまでこだわりを感じる8bitサウンドは聴きごたえ抜群で、ちょっぴりホラーな感じがするサビの歌メロが最高。⑪はYMCKのテーマ曲で、壮大な世界観はまさにRPGゲームみたいである。

テクノポップのようにファミコンの8bitサウンドとキュートな女性ボーカルは相性が絶妙である。こういった音楽性はレトロゲームと音楽、両方への愛がなければ作れないもので、その溢れんばかりの熱意がよく伝わる1枚だ。

short short|macdonald duck eclair

2004/6/9  USAGI-CHANG RECORDS

1. mac teenage riot
2. en route
3. texas
4. the yellow go
5. lily rose melody
6. amoureux solitaires
7. ニャンコ
8. butterfly in the stomach
9. sunflower202020
10. perpetuel
11. ni le jazz,ni le kir
12. my honey dip
13. over the rainbow

ネオ渋谷系/フューチャーポップ界隈で人気のあった3人組音楽ユニット「macdonald duck eclair」の1stアルバム。
良質な女性ボーカルものをリリースしてくれるインディーズレーベルである『KOGA RECORDS』と『USAGI-CHANG RECORDS』の両方から作品をリリースしているという期待を裏切らない音楽ユニットだ。
エレクトロサウンドをフレンチポップやギターポップなどで可愛らしく味付けしている。打ち込み主体ではあるが、突き抜けるようなパンキッシュな魅力が痛快な作風である。凄まじい勢いのハードコアテクノからキュートなボーカルを生かした歌モノまで幅広い音楽性が楽しめる1枚。

冒頭①はハードなテクノサウンドに可愛い歌を乗せており、独自の音楽センスの面白さが全開である。フロア向けデジタルサウンドとキュートなインディーポップの組み合わせは意欲的なもので聴きごたえがある。
続く②も力強いエレクトロビートでメロディックに疾走する。ロック色が強い分厚い電子音にウィスパーボイスというのが、マニアックな音楽的嗜好を満たしてくれて秀逸。
③はピコピコした電子音のテクノポップで、陽気にステップが踏めそうである。⑤は可愛い絵本のようなファンシーなナンバー。ファンタジックなチャーミングの歌に心が和む。
⑦はピコピコした猫がテーマの短曲で、ユーモラスな可愛さにほっこりする。
⑨はチップチューンっぽい音色も楽しい、レトロの感覚のキュートポップスで胸がキュンとする。⑪はオシャレなジャズポップで、フレンチポップ度数の高い囁く歌声がアンニュイである。
⑫は本作の中でも意表を突く、冬がテーマの美しいバラード。センチメンタルなメロディーや切なさと可愛らしさの両方を兼ね備えた歌声が光る名曲である。元々メロディーセンスが良いグループであったが、この曲での感傷的な旋律はその力量が十二分に発揮されており感動的だ。

情報量の多いサウンドを展開しながらもしっかりとポップで可愛らしいのが良い。またシンプルな音で純粋にメロディーと歌声で勝負した⑫などを聴くと逆に音楽的な懐の深さが分かるし、ポップミュージックとして色々な楽しみ方ができる内容となっている。

キュプラ|フレネシ

2009/6/3 ‎ 乙女音楽研究社

1. アセテート
2. nero
3. 仮想過去
4. 覆面調査員
5. スカイバストーキョー
6. スプロウル
7. ローウィッツアーク
8. わたしのイエスマン
9. 砂と硝子
10. マージナル
11. サバラン
12. キュプラ
13.  超臨界流体

熊崎ふさ子によるソロユニット「フレネシ」の1stアルバム。1990年代後半から活動しているという実力派才女で、本作以前にもハモンドオルガン奏者の河合代介とのユニット「blueno」名義でも作品を発表するなどで話題となった。
音楽的には乙女チックな世界観が特徴的な渋谷系ポップスで、8歳でささやき声しか出なくなったというフレネシの歌声にベストマッチしたオシャレで独創的な雰囲気の曲が楽しめる。

優雅な気分に誘われる短曲①に続く②からフレネシ独自のキュートな歌い回しが炸裂しており耳を惹きつける。サウンドやメロディーも上質な雰囲気を感じるもので、なんだか気恥ずかしい気分になれるのも良い。
③はレトロな感じがするサウンドと歌メロなど陽気なウキウキ感が楽しいナンバー。上機嫌でお買い物に行けそうなビートである。
④は個性的なフレネシワールドに引き込まれるキラーチューン。媚びるような可愛さではなく、自身のキュートなフィーリングを生み出すこだわりやインテリジェンスも感じさせる乙女な雰囲気が彼女の真骨頂。
⑤は不思議な感覚をもたらす音響や歌声の透明感が、日常から非日常に迷い込んでしまったかのようで楽しい。⑥も摩訶不思議な迷路に入ってしまったかのような現実離れした可愛い雰囲気に癒される。
⑦はユーモラスな歌唱の表現力に驚かされる。このボーカルテクニックは聴きごたえがある。
⑩はオールディーズ風味の雰囲気で、ダンサブルなリズムに体が揺れる。
アルバムタイトル曲⑫は、シンプルなピアノ伴奏と飾らない歌声が作り出すリラックスできる雰囲気が良い。

フレネシの『尖った可愛さ』を追求する姿勢がよく伝わる傑作アルバムである。ポップミュージックとして普遍的な魅力があるものを作りながら、同時に自分自身のオリジナリティも開花させているのは凄いの一言だ。

転校生|転校生

2012/5/2 EASEL

1. 空中のダンス
2. 人間関係地獄絵図
3. 東京シティ
4. エンド・ロール
5. ほうかご
6. 家賃を払って
7. ドコカラカ
8. 傘
9. パラレルワールド
10. きみにまほうをかけました

水本夏絵によるソロ・プロジェクト「転校生」の1stアルバム。熊本県出身のシンガーソングライターであり、本作が現在のところ唯一のアルバムとなっている。
ふんわりとした可愛らしい声で歌われる内省的で繊細な世界観は生々しい感情が溢れるものである。そしてそのリアルな感情をポップミュージックとして美しく昇華しているのが素晴らしい。孤独で鬱屈しながらも同時にドリーミーでキラキラしているところが転校生の音楽の真骨頂と言える。本作はその才能の輝きがいっぱいに詰まった1枚だ。

冒頭①はピアノを主体とした美しいサウンドと詩的な言葉を感情豊かに歌い上げるボーカルが心に刺さる。悲しみや孤独、そして自殺念慮を独自の目線で表現した歌詞はまるで詩人のようで儚い魅力があり、感傷的なメロディーや情緒的な歌声と見事にマッチしている。
②は陽気な雰囲気だが歌われている内容は自虐的で辛辣さがある。痛々しい歌をチャーミングな魅力で包んでキュートポップにしてしまうのはさすがと言える。
③は東京への憧れをストレートに歌うオシャレポップス。サウンド面ではマーチング風のドラムリズムにインパクトがあり、フックのあるメロディーも良い。この曲はかなり技巧的で驚かされる。④は感動的なサウンドでじわじわと盛り上げて、サビの力強いエモーショナルなメロディー&ボーカルにグっとくる王道的なバラード。⑤はシンプルなピアノ伴奏を中心にした、しっとりとした雰囲気のサウンドに独白するような等身大の歌声がベストマッチ。このやるせなさはどっぷりと浸っていたくなる魅力がある。⑦はパワフルな躍動感というか微妙にやけくそな感じがあるアップテンポなポップチューン。文学性のある歌詞もユニークで面白い。
⑨は不思議な感覚をもたらす中毒性の高い曲で、サウンドアレンジも凝っており聴きごたえがある。

アルバム通して彼女個人の様々な感情が渦巻いており、ポップセンスが優れているので聴き手をこの独自の世界観に引き込む力がある。
聴き心地が良いが、同時に切なさで胸が締めつけられる。もっと作品を聴いてみたかったが、この1枚だけだからこその瞬間の刹那を感じることができる名盤である。

九伝|ばってん少女隊

2024/11/13 BATTEN Records

1. トライじん    
2.  My神楽       
3.  it’s 舞 calling
4.  ureshiino      
5. でんでらりゅーば!       
6. サニー・サイド・スリープオーバー        
7. あんたがたどこさ~甘口しょうゆ仕立て~
8. ヒナタベル    
9. BAIKA            
10. でんでらりゅーば!feat.Daoko Produced by GuruConnect

2015年に九州を拠点に活動を開始したアイドルグループ「ばってん少女隊」の5枚目となるアルバム。ももいろクローバーZなどが所属するスターダストプロモーションが手掛けるグループであり、初期の頃はスカコアやメロコアなどのパンキッシュな作風が特徴的であった。
2020年に発表したシングル『OiSa』が、地元福岡のお祭りである博多祇園山笠をモチーフにしたエレクトロポップで、有線で多くの人の耳を捉えて一躍注目される存在となった。
伝統音楽とEDMを融合させた個性的なダンスポップからシティポップまで幅広い要素を持った洗練されたポップスは、2020年代アイドルポップの新スタンダートとも言える。

冒頭①はケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)が手掛けた、フラメンコ+EDMという透明感のあるエレクトロポップで、軽やかに舞うように曲調が変化していくのが刺激的で面白い。容易にイメージが湧くアイドルの瞬発力を上手く音楽として昇華したキラーチューンである。②は可愛らしい電子サウンドとリズミカルなボーカルが、おもちゃ箱をひっくり返したようなドタバタ感を生み出しており楽しい気分になれる。PARKGOLFが作曲・編曲しており、かつての渋谷系フューチャーポップを思い出すサウンドである。③は前述した『OiSa』を手掛けた渡邊忍(ASPARAGUS)が提供した楽曲。ナチュラルな雰囲気が親しみやすいキュートポップスで、特に矢継ぎ早に歌うボーカルが巧みで耳を惹きつける。
⑤は長崎の手遊び歌『でんでらりゅうば』をフューチャーしたユニークなラップソング。作詞はDAOKOがしており、⑩は彼女をゲストに迎えた別ヴァージョンとなっている。伝統音楽を取り上げているが音楽センスが今風というか、音楽情報が溢れている現代社会ならでは曲だ。⑦も肥後手まり唄『あんたがたどこさ』をキュートなエレクトロポップに仕上げている。作詞がRachel(chelmico)、作曲・編曲がPARKGOLFという面白い組み合わせである。
⑧はアイドルらしいエネルギッシュに弾けるクリスマスソングで胸がキュンとなる。

とにかく圧倒的な完成度に驚く内容である。良い曲というだけではなく音楽的な面白さをとことん追求しており、アイドルポップの最先端というに相応しい1枚だ。

episode|plums

2021/5/19  FrengersRecord/sambafree

1. 僕の世界
2. ナンバー
3. すべて
4. 夢想
5. おとぎ
6. 優しい嘘
7. エピソード

2013年に高校の軽音楽部で結成された北海道小樽のシューゲイザー/ドリームポップバンド「plums」の2枚目となるミニアルバム。
きのこ帝国に影響を受けたというセンチメンタルなサウンド&メロディーとボーカルを務める吉田涼花の感情豊かな美しい歌声は、ドリーミーなトリップ感があり心に癒しと潤いをもたらす。特に歌メロの良さとボーカルの柔らかい声質や歌唱の表現力は特筆すべきものがあり、ノスタルジーを感じる雰囲気も良い。
誰もが大人になるにつれて失ってしまったものを再び見つけ出せるかのような優しさや煌めきが心に響く1枚だ。

冒頭①は切なさと儚さが同居した内省的な雰囲気に心が揺さぶられる。優しく耳を包み込む安らぎがある一方で、やるせなさで胸が締めつけられる。眩い光のような轟音ギターや情緒たっぷりの歌声も心の内側に迫るもので生々しい魅力がある。②は爽快で甘酸っぱい『青春ギターロック』のキラーチューン。感傷的なサウンドの良さはもちろんのこと、吉田涼花の声質自体がジュブナイル小説のような情景が浮かぶのである。③はミドルテンポでじっくりと盛り上げる、幻想的な揺らぎが美しいナンバー。一言で表せば『ドラマチックでエモい!』というありふれた言い方になってしまうが、plumsの奥深さを感じる力作である。⑤もしっとりとしたパートから轟音ギターが鳴り響き感情が爆発する。静から動へとエモーショナルに展開される王道的なサウンドは期待を裏切らない。
⑦はアコースティックギター主体の可愛らしい歌で、意味深な歌詞も興味深い。

サウンドは音質も良く、ダイナミックな高揚感が得られるもので文句なし。作詞・作曲も担当する吉田涼花の心の内面に入り込むような個性的な世界観と光が溢れ出すような歌声がとにかく耳を惹きつける。

SIRENS|空色ナイフ

2016/4/28 

1. セイレーン
2. LIVEWELL
3. リトル・ストーリー
4. 夏の雨
5. 螺旋状のアリア
6. 空色
7. 月と青猫
8. 叫びと祈り

「日々の憂鬱や焦燥を切り開く音楽」をテーマに作品を発表している同人サークル「空色ナイフ」の1stアルバム。
サークル主・ユヤによる詩的世界観をオルタナティブロック系のサウンドと女性ボーカル(めらみぽっぷが担当)で表現している。注目は本作でメインの作曲・編曲を手掛ける松本文紀である。主に美少女ゲームの音楽を手掛けており、2010年の『空気力学少女と少年の詩』から始まり、『さくらとことり』(2013)、『櫻ノ詩』(2015)、『刻ト詩』(2023)と名曲を連発。
女性ボーカルの透明感やキュートな声質に合う楽曲として【これしかない!】という理想的な旋律を生み出す奇才である。本作はタイアップなしでその音楽センスがたっぷりと楽しめるお得な内容。ユヤ、松本文紀、めらみぽっぷが作り出す美しく幻想的な世界観に引き込まれる1枚だ。

冒頭①から期待を裏切らず、松本文紀節が炸裂。エモーショナルなギターの音色と切ないメロディーを歌う透明感あるボーカルがファンタジックな物語の幕開けを告げる。続く②も勢いそのままにメロディアスに疾走し、情緒たっぷりの歌いあげるボーカルに胸が熱くなる。
③はミステリアス&ドラマチックな雰囲気にぞくぞくするナンバーで、こちらも切なくて熱い。④はミドルテンポでじっくりと盛り上げる曲で、ギターリフと歌メロの良さが印象に残る。⑤はシンフォニック系のプログレっぽいインスト曲で、美しいピアノの旋律を主体に各楽器が奏でる刺激的なアンサンブルが楽しめる。
⑥は本作では唯一松本文紀ではなくアルクが作曲した楽曲。アルバムの中で浮いた印象はなくしっかりとこの世界観に溶け込んでおり良い。
⑧は幻想的な揺らぎのあるサウンドが切ない雰囲気をぐいぐいと盛り上げてくれる。耳に残るサビのメロディー、透き通った歌声や歌詞の美しさなど、ドラマチックな淡く儚い感傷に気持ち良く浸れる。

ユヤが紡ぎ出す物語を松本文紀が見事に音楽として表現した力作である。オルタナティブロックを主軸にしながらも女性ボーカルということを考慮した曲作りはさすがの一言で、その才能が存分に発揮されている内容だ。

STRUGGLE TO SURVIVE|G-SCHMITT

1989/8/15 ヴェクセルバルク

1. Kの葬列 (K)
2. Catholic
3. Limit
4. 千夜一夜 (The 1001 Nights)
5. Farewell
6. Waltz
7. Mescaline Dream
8. 赤い華 (Belladonna)
9. Lotus Garden
10. Someday Somewhere
11. Grand Circle
12. Public Game
13. Farewell

1983年に結成されたゴシックロック/ポジティブパンクを基調としたバンド「G-SCHMITT」(G-シュミット)のベスト盤。
AUTO-MODのジュネが主催するポジティブパンク専門のインディーズレーベル『ヴェクセルバルク』を代表する女性ボーカルバンドである。音楽性はUKポジティブパンクからの影響から受けた耽美感あるダークで幻想的なもの。
ボーカルを務めるSYOKOが持つ独自の美意識やカリスマ性のある雰囲気がこのバンドの肝であり、その透明感ある儚い歌声は、今聴いても色褪せない美しさを感じる。

冒頭①は名作コンピレーション・アルバムである『時の葬列』に収録された曲で、儀式のような荘厳な雰囲気に引き込まれる。祈りを捧げるようにも聴こえるSYOKOの歌声は気高い気品を感じるもので、孤高の歌姫と呼びたくなる存在感がある。
②は『時の葬列』に収録された曲の再録ヴァージョン。イントロのギターから幻想的な世界観に誘われる。暗黒の深淵という感じの雰囲気と圧倒的なカリスマ性を帯びた感情豊かな歌声にインパクトがあり、メロディーもキャッチ―なのでこのバンドの魅力がストレートに伝わる1曲である。③はソフトなアレンジで聴きやすいアイドル歌謡風の歌モノで、大衆性も獲得できそうな路線である。
⑤はしっとりとしたバラードで、繊細な感情が伝わる切ない歌声と幻想的なサウンドはガラス細工のように美しい。また⑬は同曲のヴァージョン違いであり、こちらはアップテンポなニューウェーブ・ロック色が全開のアレンジが楽しめる。⑥はタイトル通り幻想的なワルツで、刹那的な儚い世界観はSYOKO独自の【美】へのこだわりが感じられるものである。
⑦は意表を突くプログレッシブな展開が冴えている名曲。なんの脈絡もなく突然導入されるジャーマンプログレを彷彿とさせるシンセサイザーの音色が異空間にトリップするかのような感覚をもたらし最高。このバンドのサウンド面での面白さがよく分かる1曲だ。
⑧はアグレッシブなギターの音色がカッコよく、ボーカルも魂の熱唱という感じがエネルギッシュで良い。G-SCHMITTの中でもダイナミックな高揚感が得られるナンバーで、ポップな魅力がある。⑨はアンビエント風味の歌モノで、意味深なポエトリーが良い。一風変わった方向性ではあるが、バンドの懐の深さを感じさせる。⑪は壮大で感動的なバラードで、特に叙情的なギターフレーズが感情を刺激する。

ベスト盤というとことで代表曲も多く収録されている充実した内容である。インディーズバンドならでは独創的な作風は刺激的なもので、【孤高の美】を体現するようなSYOKOの歌姫としての魅力が存分に楽しめる1枚である。

メルクリウス|いんど猫

1990/8/21  日本クラウン

1. ムネモシュネー
2. 逆行
3. カプリチオ
4. 境界線
5. 極楽鳥
6. 月の光
7. 水の中
8. 白日-HA・KU・JI・TSU-
9. クラック・オブ・ドゥーム

1986年に結成されたガールズバンド「いんど猫」の1stアルバム。
バンドブームの中でもサイケデリックな作風で異端の存在感がある音楽性で、TBSテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(イカ天)に出演したことで一躍世間的にも知名度を獲得した。イカ天に出演したというポピュラーな経歴ながらもZELDAに通じるようなひねくれたニューウェーブロックは、アンダーグラウンドな雰囲気を感じるもので、アクの強い独創的な世界観がユニークな魅力を放っている。

冒頭①からサイケデリックな雰囲気全開の揺らぎを感じる演奏と個性的な歌唱を聴かせるボーカルなど、その独自のバンドグルーヴに引き込まれる。不穏な空気を漂わせながらもしっかりとメロディアスに仕上げており良い。
②はミドルテンポでじっくりと聴かせるヘヴィなナンバーで、気だるい雰囲気が心地良い快感をもたらす。
③はプログレ風味あるドラマチックな展開が光る曲で、幻想的な儚さを静から動へとシンフォニックに表現している名曲である。
④は美しいアコースティックギターのイントロからじわじわと盛り上げていく長尺の曲。いんど猫節みたいなものが確立されているとよく分かる構成である。
⑤は土着的な歌モノとしてインパクトがある曲で、民族音楽風のメロディーと気持ち良いギターリフが耳に残る。不思議な世界に誘われるような未知のドキドキ感が楽しい1曲である。
⑦はダンサブルなリズム、アグレッシブなサウンドに呪術的にも聴こえる歌声がばっちりとハマっておりインパクトがある。ポストパンク色が強い曲と言えそうだ。
⑨は大地を感じさせる壮大な世界観を美しく歌い上げており、それを最大限に盛り上げるメリハリのある演奏が良い。

今聴いてもかなり面白い音楽センスを持ったバンドである。考えてみればイカ天に出演したバンドは人間椅子やたまといった本来はアングラで愛されるバンドも多かったのだ。このいんど猫もバンドブームの中で自身の立ち位置を模索していたバンドだったと言えるだろう。

バニラビーンズ|バニラビーンズ

2009/2/25 
Tokuma Japan Communications

1. Opening (Instrumental)
2. サカサカサーカス
3. U□Me
4. happy merry-go-round
5. 気まぐれなパレットタイプ
6. Winter Has Gone
7. あしたはあしたの夏がくる (Album Ver.)
8. Afternoon a Go-Go (Album Ver.)
9. Shopping☆Kirari (Album Ver.)
10. ニコラ
11. バニラード
12. Ending (Instrumental)
13. Afternoon a Go-Go -We Love You Mix- (Remastering Ver.) (Encore)
14. Shopping☆Kirari -掟ポルシェ+Dr.USUI Waterfront Mix- (Remastering Ver.) (Encore)
15. あしたはあしたの夏がくる -掟ポルシェ+Dr.USUI Death Techno Mix (Remastering Ver.) (Encore)
16. (エンハンスド)サカサカサーカス (Promotion Video)

2007年デビューした2人組のアイドルユニット「バニラビーンズ」の1stアルバム。
『北欧の風にのってやってきた』というキャッチ―コピーで分かる通り、The Cardigansに代表されるスウェディッシュ・ポップ要素をふんだんに含むオシャレでキュートなポップスは清涼感に溢れており胸キュン必至。
新しいスタイルのアイドルポップであったこともあり、音楽シーンで大きな注目を集めた。
渋谷系ミュージックを標榜するアイドルとしては代表的な存在であり、音楽的にも「キュート」(可愛い)という部分では並ぶ物がいないほど強烈に可愛らしい魅力がある。

爽やかなインスト①に続く②は、おもちゃ箱をひっくり返したようなワクワクするサウンドと可愛らしい歌声に胸躍る。細部にまでこだわりを感じる優雅な音色や透き通ったメロディー&ボーカルなど、とにかく聴き心地の良さは特筆すべきものがあり、パーフェクトな出来のポップソングと言っていいだろう。
続く③も上質で爽やかなポップスで、自然と耳に馴染む柔らかさはさすがである。そしてとにかく2人の歌声が可愛くて癒される。
④はソフトな音と歌声でドリーミーな甘い気分を届けてくれる。⑤はゆったりとまろやかな雰囲気のファンシーなナンバー。バニラビーンズにはこういったまったりとした楽曲も声質的には相性ぴったりな印象だ。
⑦は口ずさみたくなる歌メロと前向きな気分になれる歌詞が良い。ネオアコ気分の夏という感じでほっこりする。
⑧はお天気のいい日に散歩しながら聴きたくなるウキウキするポップチューン。
⑩はイントロ~歌い出しから魔法に掛けられたように耳が惹きつけられる名曲。どこかノスタルジックな余韻を残すのも良い。数多くあるギターポップや渋谷系などの音楽要素があるアイドルソングの中でも屈指の出来である。まさにグッドミュージックという言葉を具現化した旋律であり、多くの人の心を捉える煌めきが感じられる。
ボーナストラックとしてリミックスが収録されており、大胆なアレンジバージョンを楽しむことができる。

衝撃的なほどに完成度が高いアルバムである。オシャレではあるが聴き手を限定しない柔らかい雰囲気がとにかく良い。ここまで心を癒してくれるアイドルポップも珍しい。

RIDE|Subway Daydream

2023/1/18 
RAINBOW ENTERTAINMENT

1. Skyline
2. Timeless Melody (Album ver.)
3. Radio Star
4. Stand By Me
5. シュガードーナツ (Album ver.)
6. ケサランパサラン
7. Yellow
8. Pluto
9. Twilight (Album ver.)
10. The Wagon

2020年に結成されたロックバンド「Subway Daydream」の1stフルアルバム。
ギターポップ、シューゲイザーなどのインディーロックエッセンスが効いた瑞々しいサウンドとキラキラした魅力がある力強いメロディーやボーカル・たまみの思い切りの良い歌声は、大空を突き抜けるような爽快感に満ちている。
「REBECCA」や「JUDY AND MARY」から脈々と続く無敵感あるポップネスを持つ女性ボーカルバンドに通じる輝きを持っており、前向きな気持ちになれるパワーを届けてくれる。それがこのバンドの大きな魅力となっている。

冒頭①はシューゲイザー風の浮遊感と透明感ある歌声が特徴的で、センチメンタルな感傷に気持ち良く浸らせてくれる。
②はギターポップエッセンスが光るエバーグリーンな1曲。煌びやかギターと文字通りタイムレスなメロディーの歌に胸躍る。
③はパワーポップ調のメリハリのあるサウンドとグッドメロディーが耳を強烈に捉える。憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれそうなパンチのあるボーカルも良い。タイトルで分かるが、「The Buggles」の『Video Killed The Radio Star』と同じポップミュージックの普遍性を感じる名曲である。④はメロディックに疾走する直球の青春ロック。小気味よいビートとキャッチーな歌というシンプルな作風はエネルギッシュで気分も上がる。⑤は心に沁みる爽やかなポップロックで、温かいメロディーや真っ直ぐと歌うボーカルなどポップソングとしての良さが際立っている。⑥は口ずさみたくなる歌メロが親しみやく、ウキウキ陽気な気分になれる。
⑨はイントロのギターを聴いただけで甘酸っぱい気持ちになり、一瞬で良い曲だと確信できる。インディーロック系のサウンドながらもその枠には留まらない記憶に残るメロディーラインが素晴らしい。⑩はまさに元気をくれる女性ボーカルバンドの王道的なポップロックチューン。このバンドならではの音楽の魔法を体現する雰囲気は本当に良い。

数多くいる2020年代のインディーズ女性ボーカルバンドの中でも、期待を裏切らない王道感や良い曲が聴ける信頼感という部分ではピカイチの逸材である。音楽が多様化した今だからこそ逆にこの路線が求めてられていると感じる。

LUCKY|Lucie,Too

2018/2/7 THISTIME RECORDS

1. Lucky
2. キミに恋
3. Siesta
4. ドラマチック
5. 幻の恋人
6. May
7. リプレイ

2016年に結成されたガールズバンド「Lucie,Too」の1stミニアルバム。
2017年に初音源となるシングル『Lucky』を配信リリースすると各所で話題になり、MVも爆発的な再生回数を記録している。音楽性はギターポップを基調とした女性ボーカルインディーロック王道のど真ん中。
躍動感があるギターの煌びやかな音色、グッドメロディー、飾らない自然体の歌声と三拍子揃った清涼感あるポップロックを楽しむことができる。

冒頭①は前述のブレイク曲となった軽快なポップチューン。短い楽曲であるが、ギターのキラキラした音色とじわじわとくる歌メロの良さが光る。また歌詞内容は直球のラブソングだが、それとは対照的な等身大の淡々とした歌声が、リアルな感じがして好感が持てる。
続く②も爽やかなギターポップでメロディックに疾走する。ここでもギターの音色が耳を惹きつける。③は春に散歩しながら聴きたくなる感じで、明るいがどこか切ない余韻を残すのが良い。⑤は女性ボーカルだからこそのチャーミングなセンスが効いているキュートな歌。インディーロックとしては満点を上げたいドライブ感あるサウンドも素晴らしい。
⑥もセンチメンタルな気分になれる歌とアグレッシブなサウンドのバランスが良い。
⑦はバラード調の切ない曲で、静かな曲調ゆえに歌声の美しさが十二分に伝わる。

近年のインディーロックの定番であるノイジーな音ではなく、品のある綺麗なサウンドの響きにこだわりを感じるところが良い。バンド自身による手作り感が親しみやすい雰囲気を作り出しており、多くの人を虜にしたのも頷ける内容である。

Somehow hear songs.|cattle

2015/7/8 ZERO COOL

1. Somehow hear
2. Bit and little
3. Fluff
4. Amy
5. Blue star
6. Birth

2013年に結成されたシューゲイザーバンド「cattle」の1stミニアルバム。
バンド名は岩井俊二の映画『リリイ・シュシュのすべて』に登場する架空のライヴハウスからつけたという、聴く前から期待してしまうバンドである。プロデュースはZEPPET STOREの五味誠。インディー系のシューゲイザーバンドの中でも随一の洪水のようなノイジーな轟音ギターの強度やドリーミーなメロディー&透明感あるボーカルが生み出す浮遊感は聴いていて気持ちが良い。メロディックな旋律と暴力的なノイズギターが絶妙なバランスで成り立っており優れた内容の1枚だ。

冒頭①からドリーミーな雰囲気抜群のメロウな歌とノイジーかつダイナミックに響く轟音ギターで幽玄な世界に誘われ、気持ちの良いトリップ感が得られる。シューゲイザー/ドリームポップと聞いて頭に浮かぶイメージを具現化したような理想的な出来であり、ボーカルの素直な歌い回しもキュートで良い。続く②もメロディックに疾走するギターロックで、ハードなサウンドとセンチメンタルメロディーが上手く同居しておりとても良い。
③はこのバンドが鳴らすサウンドの存在感これでもかと感じられるナンバー。ノイズギターの嵐が美しいガラス細工のように繊細に響き渡る。轟音であるのに甘美な聴き心地の良さを感じるのが素晴らしい。④は爽快な疾走感とドライブ感、そして清潔感ある女性ボーカルと、ギターロックのお手本とも言える傑作。⑥は最後を飾るに相応しい幻想的な揺らぎが見事で、疲れた身も心も解放される。

分厚いサウンドとギターポップセンスが光るメロディー、飾らない魅力があるボーカルなど、これぞインディーロックの神髄と言いたくなる傑作である。特に印象に残る美しい爆音ノイズギターの音色が耳に残るもので良い。

The Best of Bonjour Suzuki|ボンジュール鈴木

2017/8/9 2.5D PRODUCTION

1. 甘い声でちくってして
2. キミと恋したいのです
3. ごめんあそばせ
4. 21時のクラゲと月
5. Tick Tock Skip Drop
6. Lollipopシンドローム
7. 金魚
8. Pipo Password
9. Lovin’ You
10. 5番目のPoupee “コレット”
11. 私こぶたちっく
12. allo allo
13. アゲハ蝶の破片とキミの声
14. 月のかけてく夜に
15. PM9:55
16. Je ne sais pas pourquoi
17. あの森で待ってる

ヨーロッパ風のキュートなポップスを聴かせてくれる女性シンガーソングライター「ボンジュール鈴木」のベスト盤。まずアーティスト名がユニークで、名前だけで西洋の優雅なイメージが湧いてくる。いわゆる宅録系のアーティストであり、囁くような甘いロリータボイスとエレクトロポップやラップを取り込んだレトロな感覚のポップスは海外でも受け入れられそうだ。印象としてはMylène Farmerを全力でロリータ趣味にしたような感じである。その独自の美意識によって表現される耽美的な世界観は一風変わった魅力がある。

冒頭①からタイトル通り甘い歌声が強烈で、フレンチポップスっぽい雰囲気も良い。とにかく個性的な歌い方はインパクトがあり、彼女オリジナルの『可愛さ』に対するこだわりが強く感じられる。②はウィスパーボイスのラップと幻想的なメロディーが、童話のような世界に誘ってくれる。曲構成も刺激的で面白く、この声でラップするのは反則技である。
④はESNOがボンジュール鈴木をフィーチャリングした楽曲。透明感あるキュートボイスでラップしており、サビの叙情的なメロディーをふわふわと歌うのが印象的である。この曲は結構シティポップ的な部分もあるので親しみやすい。⑥は1980年代のエレポップ感あるダイナミックなポップセンスが光るキラーチューン。ダンサブルなビートにロリータボイスが見事にマッチしている。⑧はTeddyLoidとのコラボレーションで、重厚なエレクトロサウンドと透き通った歌声が違和感なく組み合わさり聴き心地が良い。⑪はラップとメロウな雰囲気で押すお得意のスタイルだが、普遍的なポップミュージックに距離が近いと感じる洗練された作風で聴きやすい。⑫はうっとりするほど美しくロマンティックで、形容しがたい切なさに胸が締め付けられる。⑬は妖精の囁きかと思う幻想的なボーカル処理がとても印象的。⑮はバラードとして優秀な綺麗なメロディーが心地良い。
⑰はアニメにタイアップされた有名な曲で、作曲センスが遺憾なく発揮されたメロディアスな旋律が耳に残る。

ベスト盤ということもあり、粒ぞろいの曲が揃っている充実した内容である。独創的な世界観ながらもしっかりとメロディアスに仕上げるセンスはさすが。ラップパートは音楽的にもかなり面白いので聴きごたえがある。

Points|・・・・・・・・・

2019/4/4 TRASH-UP!! RECORDS

1. しづかの海
2. Can You Feel The Change Of Seasons?
3. ふたりのダイアリー
4. サイン
5. YOLO no taki
6. クリームソーダのゆううつ
7. いくつかの夜、いくつかのさよなら(Until You Awake From The Dream MIX)

シューゲイザーアイドルグループ「・・・・・・・・・」のラストアルバム。
メンバー全員がバイザーで素顔を隠していたりと、謎に包まれた存在感が魅力であった。
音楽的にはシューゲイザーやエモロック等のインディーロックをアイドルでやってみたという感じだ。アイドルとしては一風変わったコンセプトはユニークなもので、インディーズバンド系の才能ある作家陣が提供した楽曲の完成度は非常に高い。

冒頭①は管梓(For Tracy Hyde)が提供したシューゲイザー+アイドルを独創的に表現した名曲。My Bloody Valentineを彷彿とさせるトリップ感が強い轟音ギターやセンチメンタルなメロディーを歌う透明感ある歌声が、深海を彷徨うような雰囲気を作り出しており秀逸。特に後半のポエトリーパートの詩的な響きが繊細な美しさを感じるもので素晴らしい。
②は青春のイノセントを感じるオルタナティブロックで、キラキラしたメロディーや清潔感あるボーカルに胸がキュンとなる。
③はハタユウスケ(cruyff in the bedroom)が手掛けた切ないギターロックのキラーチューン。炭酸水が弾けるようなノスタルジックな旋律がとにかく良い。
④は細部にまでこだわりを感じる上質なエレクトロポップ。ダンサブルなビートと透き通った青さが心地良い文句なしの1曲。
⑤はアイドル関係ないほぼインスト曲で、次々と展開が変わるアヴァンギャルドなサウンドが面白い。暴力的なグラインドコアとプログレッシブなリズムが嵐のように吹き荒れる激烈な音である。アンダーグラウンドで様々なバンドで活動しているOHTAKEKOHHANが提供している。⑥はtipToe.の楽曲をカバーしており、このグループのカラーを強く打ち出したエモーショナルな出来となっている。

④のようなアイドルポップとして楽しめる曲がある一方で、過激さに全振りした⑤などの挑戦的な方向性の曲も印象に残る。
アイドルとしては奇妙なコンセプトであった「・・・・・・・・・」ならではのアイドルミュージックの可能性を追求した意欲的な内容となっている。

覚悟を決めろ!|サバシスター

2024/3/8 ポニーキャニオン

1. サバシスター’s THEME (2024 ver.)
2. 覚悟を決めろ!
3. ヘイまま!プリーズコールミー (2024 ver.)
4. リバーサイドナイト
5. 東京こえー
6. しげちゃん
7. キラキラユー
8. 22
9. !
10. よしよしマシーン
11. ジャージ (2024 ver.)
12. タイムセール逃してくれ (2024 ver.)
13. ミュージック・プリズナー
14. ナイスなガール (2024 ver.)

2022年に結成された3人組のガールズバンド「サバシスター」の1stアルバム。
Hi-STANDARDやTHE BLUE HEARTSに影響を受けた日本語詩のパンクで、音楽性もメロコア+ビートパンクという感じの躍動感ある青春パンクである。メロディックなビートに加えて、古き良き日本語ロックを思い起こす、聴き手の日常に寄り添ってくれる飾らない魅力があり元気が貰える。本作ではこれまで発表されたEPの曲はすべて新録で収録されており、勢いと気合が感じられる内容となっている。

冒頭①はサバシスターのテーマソングで、気持ちの良い疾走感とシンガロングできそうなメロディーは憂鬱な気分も吹っ飛ばしてくれる。
ボーカルを務めるなちの思い切りのいい歌唱も良い。②は本作のリードトラックとなる重要曲で、ロックスピリットを感じる熱いナンバー。ぶっきらぼうな感じがありながらも前向きな気持ちになれるエネルギーに満ちている。
③はレトロな曲調が楽しいアメリカンなロックンロール。ウキウキするリズムはキュートで楽しい気持ちになれる。⑥は和的なフィーリングが良いエモーショナルなロックバラードで、切ないノスタルジーに胸打たれる。王道パンクロック⑧は可能性に溢れたキラキラ感にパワーを貰える22歳賛歌。⑪は口ずさみたくなる歌メロがとても印象的で、青春時代を描いた泣き笑いのセンスに心がほっこりする。
⑫はEPで発表されて多くの反響を呼んだメロディー、歌詞共にフックがあるキラーチューン。若手バンドが書いたと思えない人生の本質を突いたメッセージは、若者だけでなく年配者にも響くもので素晴らしい。⑬も熱いメッセージが活力を与えてくれるサバシスターの真骨頂と言える傑作ナンバー。小細工なしの等身大のスタイルがこのバンド最大の魅力である。

直球の熱いパンクロックが連発される充実した1枚で、親しみやすい歌メロや歌詞の鋭さは日本のロックとして申し分ないもの。リスナー1人1人と真摯に向き合う姿勢が伝わってきて好感が持てる。

IT’S NOT FOOD​!​!|Pandagolff

2023/6/7

1. HAMBURG LEMON
2. ZETTON
3. RADIO PAPA, RADIO MAMA
4. ADDITIONAL LEMON
5. OSAIHOU REFRESH
6. FLEECE LOVE YOU
7. MIKE ARIGATOU
8. GURUGURUGU

2019年に結成されたロックバンド「Pandagolff」の4枚目となるアルバム。
まず日本ではあまりいないポストパンク系の女性ボーカルバンドであるのが興味深い。
音楽的にはローファイ、サイケデリックロック、ジャンクロック、インダストリアル等に影響を受けたと思われる、アンダーグラウンドな空気が漂う乾いた音色やクールなボーカルが特徴的である。一音一音で徐々に緊張感を高めていくサウンドはまさにポストパンクといった感じだが、何だか可愛らしい遊び心も感じる内容である。

冒頭①はベースやギターの不穏な音色が耳を強く捉える。儀式のような重い雰囲気であるのに関わらず、脱力した可愛らしい歌が乗るというスタイルが、面白い個性を作り出している。
続く②は一転ダンサブルなグルーヴが印象的。ざらついた音の洪水とカッコいい女子ロックを体現するボーカルが相乗効果を生み出し最高にエキサイティング。
③はガレージパンクっぽいストレートな作風で、気分をアゲアゲにしてくれるキャッチ―なロックビートに痺れる。ロックンロールとしても優秀なキラーチューンである。
④はシンプルなビートの上で暴れまくるジャンクなギターの音色が良い。⑥はアンビエントな空気と牧歌的な歌が耳を優しく包み込む。
⑧はサイケデリックな雰囲気とメロウな歌が心地良い。幽玄な旋律は疲れた心を癒してくれるもので、メロディーの良さも光っている。

緊迫感ある曲からポップに弾けるものまで、どの曲も独創性があり、聴き手を飽きさせない魅力がある。またポストパンクというニッチな音楽ジャンルであるが、女性ボーカルのポップな魅力が充分に生かされているので、理屈抜きに楽しめるアルバムとなっている。

Doughy|Summer Whales

2024/7/17 Raw Rider Records

1. Are People Flowers?
2. Stroller
3. Crack!
4. Scene: 4 A.M.
5. Chasing Your Shadow

2022年に京都で結成されたロックユニット「Summer Whales」の初となるEP作品。
海外のバンドと並べて聴いても違和感のない、スタイリッシュに決めるポップロックは爽快感抜群で、ボーカルのハスキーな歌声もカッコいい。一聴して『これイケてる!』と聴き手に思わせるオシャレな雰囲気は、巧みな音楽センスが光るもの。

冒頭①は性急なメロディーやサウンドが印象的な透明感あるギターロック。1990年代のオルタナティブロックを彷彿とさせる質感は懐かしくも新鮮な魅力がある。②は洗練されたダンサブルなロックで、特にギターリフが良い。日本人と思えないほどの洋楽的なセンスが光る。
③はメリハリのある力強いロックサウンドと一回聴けば覚えられるキャッチ―なメロディーという、問答無用の高揚感が得られるキラーチューン。耳にした瞬間『これいいね』となる確かなポップセンスはさすが。⑤はじっくりと聴かせる切ないエモロック。こういったしっとりとしたナンバーは本作でも良いアクセントとなっている。

③を聴けばブレイクの予感をひしひしと感じるが、残念ながら本作発表後すぐに活動終了となっている。これだけハイレベルなポップミュージックが作れるのだからこの先の音源も聴きたかったというのが本音である。

Aster|青い薔薇

2024/10/30

1. *
2. moon
3. 焦燥
4. アリー
5. 花束とワルツ
6. けむりのといき

2022年に結成された大阪のオルタナティブロックバンド「青い薔薇」の2枚目となるEP作品。シューゲイザー、ドリームポップ、サッドコアなどを基調とする幻想的なロックサウンドは孤独な悲壮感全開。メランコリックな世界観にぴったりなアンニュイな雰囲気漂う透明感あるボーカルも叙情性があり、聴く物にダイレクトに悲哀や諦観といった感情を伝えてくれる。

アンビエントな小曲①に続く②は、深海の中にいるような雰囲気や気だるげな歌声が心地良い。浮世離れした繊細な美しさにずっと浸っていたくなってしまう中毒性がある。
③は本作の核となる静から動へとエモーショナルに展開する名曲。悲しみを具現化した旋律や苦悩や葛藤を独白するボーカルが、虚空に叫ぶように響き、心を突き刺す。どこか懐かしさを覚える叙情性がとにかく良い。
④はメロウな揺らぎが感傷の波のように押し寄せるセンチメンタルなナンバー。温かさや優しさを感じる雰囲気はバンドのポップセンスが感じられるもの。⑤はじわじわと感情を爆発させる轟音ギターと儚い歌声がドラマチックに響く。こういった静かなスローテンポから展開させていく作風は、箱庭的な切ない世界観にぴったりである。

③を筆頭にどの曲も出来が良い。生々しい演奏や素直な歌声はインディーズバンドならでは魅力がある。サウンドやメロディーセンスは懐かしさを感じるところがあり、飾らない美しさを持つ歌声と上手く調和しているので、自然に耳を捉える内容となっている。

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