MASTER PLAN|ユレルランドスケープ
2024/1/17 最南端トラックス
1. The regoto
2. How to Be loved
3. トワイライト
4. unity
5. Still Alone
6. つがい
7. 生きている
8. バッドティック
9. Second me
10. 東京
『エモーショナルシティポップ』をコンセプトにしたアイドルグループ「ユレルランドスケープ」の2024年リリースのフルアルバム。
ロックからヒップホップまで取り込んだ都会的な洗練された雰囲気のポップスで、一般的な可愛らしいアイドルポップのイメージとは異なる渋い作風である。初期の音源ではインディーロックに近い空気感の曲もあり、若い荒削りな質感が魅力であったが、本作では現体制メンバーによる完成度の高いスタイリッシュなガールズポップが楽しめる。
冒頭①はメロウなグルーヴが雰囲気抜群で、ドープな女子ラップと切ないハーモニーが胸の奥にあるセンチメタルな感情を刺激する。孤独感や疎外感が伝わる叙情性が素晴らしい。
②は聴き心地の良さをとことんまで追求したクールなシティポップで、細部にまでこだわりを感じるサウンドや力強いハーモニーは、ポップミュージックとしての強度があるものだ。
③はキラキラしたサウンドや儚い歌声が甘酸っぱい気分にさせてくれる。淡くロマンティックな旋律は青春ポップスとして優れている。
④は夜にぴったりと合いそうなドライブ感あるロックナンバー。⑥はサウンドセンスが光るエモいラップで青さ全開の歌詞も印象に残る。
⑦は苦悩や葛藤をストレートに歌い上げており、やるせなさにグッとくる。サウンド面ではギターの音色が繊細で美しい響きで良い。
⑩は東京で生きることをテーマにした葛藤と成長の歌という感じで、すべてを受け入れて前に進もうとするポジティブなメッセージに元気が貰える。
『エモーショナルシティポップ』とはよく言ったもので、夜に車のドライブ中に聴けば更なる感傷に浸れる内容である。ある種ストイックな姿勢を感じるほどに生真面目な作風は珍しいもので、独特の雰囲気に大きな魅力がある。
cocoro|PLASTIC GIRL IN CLOSET
2011/7/6 Only Feedback Record
1. Pretty Little Bag
2. Raspberry Plant
3. Rabbit House
4. Stompin’+Swingin’
5. Animal Brooch
6. Pearl
7. Collage Flowers
8. Lip Stick
9. Swimmer
10. Take me away
11. Tiny Tambourines
12. KIDS
岩手県出身のシューゲイザー/ドリームポップバンド「PLASTIC GIRL IN CLOSET」の2枚目となるアルバム。
須貝彩子と高橋祐二の男女ツインボーカルやノイジーな轟音ギターとセンチメンタルなメロディーが織りなすドリーミーな浮遊感が心に潤いを与えてくれるギターロックである。SUPERCARにも通じる感傷にどっぷり浸れる曲の数々はポップセンスを感じるもので、若さとイノセンスが走る1枚となっている。
冒頭①から清涼感溢れる煌びやかなサウンドと透明感あるボーカルに胸がキュンとなる。ギターポップエッセンスを感じる可愛らしい旋律は、インディーロックならではの魅力があるものだ。③はキュートな歌声や懐かしさを感じるメロディーでノスタルジックな気持ちになれる。ポップソングとしても優れており、心がほっこりするのでいつまでも聴いていたくなる名曲である。④はキュートでカオティックという感じの刺激的サウンドが耳に残る。⑤は幻想的な浮遊感が絶品で、上質なシューゲイザーが楽しめる。⑨はかなりハードな轟音サウンドで、浮世離れした美しさに酔うことができる。
⑪は音が鳴りだした瞬間に良い曲だと確信が持てる。大きなうねりをもたらすサウンド&メロディーが感傷の渦となって押し寄せてきて、とにかくエモいとしか形容しようがない。可愛らしくも切ないを体現する極上の逸品である。
⑫はウィスパーボイスで歌われるみんなのうた的な親しみやすいメロディーに癒される。
ノイジーながらもポップであることを意識したサウンド作りや抜群のメロディーセンスはさすがの一言で、まさにグッドミュージックと呼べるものである。センチメンタルなロックが聴きたいなら文句なしにおすすめできるバンドだ。
悪夢のような1 週間|ブランデー戦記
2024/8/21 JORYU RECORDS
1. Coming-of-age Story
2. 土曜日:高慢
3. 悪夢のような
4. Twin Ray
5. ストックホルムの箱
2022年に結成された3人組のロックバンド「ブランデー戦記」の2枚目となるEP作品。
YouTubeで公開した昭和歌謡風のロックナンバー『Musica』のMVが話題となり一気にインディーズシーンの注目のバンドとなった。音楽性はGO!GO!7188にも通じるガーレジロックという感じで、懐かしさを覚えるメロディーラインやボーカルを務める蓮月のキュートとワイルドの両方を併せ持つ歌声は一度聴けば病みつきになる魅力がある。
冒頭①はギターリフが非常に印象的で、美しい歌声と爽快なメロディックなビートに心が洗われる。青春の儚さや危うさが伝わる湿った空気感が絶妙な味わいのキラーチューンである。
②はヒリヒリとした焦燥感や切迫感を感じる渋い歌声と性急なロックビートに痺れる。
③はシティポップっぽい都会的な洗練されたポップロックで、オシャレで上質な雰囲気の歌声とラフな質感のサウンドが絶妙なバランスで成り立っている。⑤はちょっとやさぐれたインテリ女子という感じの歌唱や歌詞などの個性的な世界観が面白い。キャッチーなので親しみやすさがありながらも一風変わっているという、まさにサブカル音楽と呼びたくなる感じだ。
近年の女性ボーカルバンドの中でも耳を惹きつける存在感があり、オルタナティブロックとレトロな雰囲気を持つ歌の組み合わせは新鮮な魅力がある。大衆性も獲得できそうな路線ではあると思うので、今後の期待が高い注目のバンドである。
MILESTONE|Hysteric Blue
2002/2/20 Sony Records
1. キミと会う瞬間
2. ベイサイドベイビー
3. Party!
4. ちょっとゲンカ
5. Great Love
6. フラストレーション ミュージック
7. なみだ
8. ドントマインド
9. 路傍の人々
10. Reset me
11. Motive Power Live
12. 暖炉
1999年に発売したセカンドシングル『春〜spring〜』が大ヒットし、当時のJ-POP女性ボーカルバンドを代表する存在となった「Hysteric Blue」。本作は2002年リリースの4枚目となるアルバムである。
ボーカルTamaの声質やJUDY AND MARYと同じく佐久間正英がプロデュースを手掛けたこともあってか、フォロワー的な扱いをされていたが、実際には音楽性は似て非なるもの。
JUDY AND MARYがYUKIのキャラクター性が重要な要素となっているのに対して、Hysteric Blueはストレートに良質なポップロックを追求していた印象が強い。本作で聴けるボーカルTamaの青空に突き抜けるような元気な歌声を生かした爽快感溢れるパワーポップは完成度が高いもので、後続の女性ボーカルバンドに与えた影響は絶大なものと思われる。
冒頭①からメリハリのあるパワフルなロックサウンドが鳴り響き、フックのあるメロディーのパワーポップで気分爽快。Tamaのボーカルは可愛い声が魅力的なので、耳に馴染みやく、伸びやかなハイトーンボイスも女性ボーカルバンドとしては文句のないもの。
続く②もキレッキレの演奏とキャッチ―なビートにチャーミングな歌声という無敵感ある曲で、爽快感を与えてくれる。
⑤は当時インディーズシーンで盛り上がっていたスカコア/メロコア風の曲で、メーターを振り切ったパンキッシュな高揚感が得られる。
⑥はフラストレーションをキュートに昇華してくれて理屈抜きに元気が貰える。⑧はサビのメロディーが印象に残るものでクセになる良さがある。⑩は西海岸風の清涼感溢れる爽快な曲で、憂鬱を吹き飛ばし前向きな気持ちになれるHysteric Blueの魅力が詰まった名曲。
アルバム通してフレッシュな魅力に溢れており、ロックからバラードまで音楽的に共通するのは単純に楽曲の良さと元気が貰える歌声である。女性ボーカルバンドのポップロックとしては非常に完成度が高い非の打ち所が無い傑作アルバムである。
For Cherry Girls|THE ★SCANTY
2002/3/20 ユニバーサルミュージック
1. Home Girl
2. Promise List
3. レディースナイト
4. ウサミツ
5. Waist (Album Mix)
6. I □ U
7. ラブレターヒストリー (Album Mix)
8. Chocolate Day
2001年にモデルとして活動していたYOPPYを中心に結成されたガールズバンド「THE ★SCANTY」の1stアルバム。
コンセプトが『女の子の、女の子のための、女の子によるギャルバン』という女の子成分の高いポップミュージックへのこだわりを宣言していたバンドで、プロデュースは佐久間正英が担当している。佐久間正英が手掛けているのでもちろんJUDY AND MARYやHysteric Blueの流れをくむガールズロックで、YOPPYのキュートな歌声の魅力を最大限に引き出したカラフルなポップセンスが光る楽曲は未だに色褪せてはいない。
冒頭①からフレッシュに弾けるご機嫌なガールズロックが炸裂し、イカした女子ロックのギアが全開。②は軽快なリズムでパンキッシュに疾走する青春ロック。
③はキュートでカッコいいガールズバンドの理想を体現するキラーチューン。ギャルっぽいサバサバした感じとロックンロールの衝動性が上手くブレンドされており、突き抜けた明るさに元気を貰える。④は王道的なエモいバラードで、期待を裏切らず盛り上がる。
⑥はウキウキするキャッチ―なリズムとサビのどこか切ない歌メロが良い。パワーポップと呼べそうなダイナミックなビートは理屈抜きに爽快な気分になれるもの。⑧はバレンタインデーの乙女心をストレートに表現しており、キラキラしたメロディーや力強さを持つ可愛い歌声に胸がキュンとする。この曲もサビのメロディーが切ない余韻を残すのが良い。
キュートでカッコいい爽快なガールズロックが連発される内容で、佐久間正英らしいメリハリのあるサウンドプロデュースが素晴らしい。憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれるYOPPYのチャーミングな歌声にパワーを貰える1枚だ。
つちのこ男爵|マサ子さん
1989/10/10 IKA-TEN
1. マサ子さんのテーマ
2. LOVE:LOVE SONG
3. 花梨(リーフォア)
4. DEVO
5. Nonsense Song
6. 雨にヌレテモいーや
7. PSYNOMEY
8. 知らぬ世界
9. PUNK花梨
10. フルーツ オレ ヨーグルト
11. 夜の都会(まち)に眠れ
12. 車からみてね
マユタンとサブリナの姉妹ボーカルを中心としたガールズバンド「マサ子さん」。本作は1989年にリリースした1stアルバムである。
これ以前には有頂天のケラが主宰していたインディーズレーベル『ナゴムレコード』からリリースしており、元々姉妹はナゴムギャル(奇抜なファッションをした女性ファン)だったとのこと。TBSテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』に出演以降は一風変わった女子バンドとして一般的な知名度も獲得していた。
音楽性はニューウェーブを基調としているが、頭のネジがとんだような個性的な世界観は電波ゆんゆんの不思議少女系ポップスという感じだ。またサウンド面では弦楽器にギターではなく大正琴を使用しているのが特徴的である。
冒頭①はバンドの自己紹介ソングで、はっちゃけた雰囲気のボーカルが陽気な気分を運んでくれる。②はトイポップ風の愉快なサウンドとへんてこりんな歌がふわふわとしながら脳神経を直撃する。④はチャーミングな電波を発しながら軽快に疾走する。ユニークな歌詞も面白い。⑤は浮遊感あるニューウェーブサウンドと淡々しながらもどこかおかしい歌声により異世界への扉が開かれてしまうようなトリップ感の強い曲。⑥は学芸会みたいな未成熟な歌声と奇妙な雰囲気が耳を虜にする。奇妙な作風ではあるが、歌メロがキャッチ―なので親しみやすさがある。⑪は都会的な洗練されたカッコ良さが光る良い曲だが、途中で林家ぺーの語りが入ったり、サビの歌詞も林家ぺーに関するもので、やはり普通のバンドではない。⑫はぶっ飛んだ世界観やキュートなコーラスなどマサ子さんの魅力がつまった渾身の1曲。リズムやボーカルの掛け合いは中毒性が高いもので、狂気を感じる陽気な雰囲気が最高である。
一言で内容を表せばまさに【Strange Girls Music】と呼べるものである。不思議で一風変わっているが、同時にガールズバンドならではのキュートな魅力もあるので、敷居はそれほど高くはなく、多くの人が楽しめる1枚である。
CARTA|Especia
2016/2/24 ビクターエンタテインメント
1. Clover
2. Over Time
3. Sunshower
4. Interstellar
5. Saga
6. Saudade
7. Rittenhouse Square
8. Mistake
9. Fader
10. サタデー・ナイト
11. Boogie Aroma (CARTA Ver.)
12. Aviator (CARTA Edit)
大阪の堀江系ガールズグループ「Especia」のメジャー初となるフルアルバム。シティポップやファンクを主体とした音楽性は時代先取りとしたもので、後の音楽シーンに影響を与えた偉大なグループである。本作はアメリカの音楽メディア【ピッチフォーク】で、日本のアイドルポップアルバムとしては初めてレビューされたことでも知られている。メジャー作品ということもあり、大衆性も獲得できそうな良質なダンスポップがふんだんに収録されており、ディスコやソウルからジャズ/フュージョンまで様々な要素を取り込んだ本格的なアーバンポップが楽しめる。
冒頭①はEspeciaの中では異色の楽曲と言えるハードロックっぽいナンバーで驚かされる。作詞が山根康広で作曲が藤井尚之という豪華作家陣によるEspeciaの新たな一面が垣間見える興味深い曲である。②は爽やかなシティポップで本領発揮とったところ。上質なサウンドや清涼感あるボーカルワークなど、すべてが最高の聴き心地である。
③はダンサブルなサウンドや洒落た雰囲気がスタイリッシュでカッコいい。歌声も含めガールズグループと呼ぶのが相応しい質感で、洗練されたポップスは完成度が高い。④はドラムンベースとラップが織りなすクラブポップといった感じで、本作の中では意表をつく切れ味が鋭い一風変わったナンバーである。⑤は透明感あるサウンドや親しみやすい歌メロが甘い気分に浸らせてくれる。⑧はブラックミュージック色の強いナンバーで、この時期のEspecia最高のグルーヴとフィーリングが胸を熱くするキラーチューン。
⑪と⑫はシングルとしてリリースした楽曲のアルバムバージョン。⑪はこちらの方か細部にまでこだわりを感じるサウンドの響きが良く、ファンク系のダンスポップとして一聴で耳を捉える魅力がある。⑫は強度を感じるキャッチ―なサウンド構築が素晴らしくて、メンバーの爽やかなボーカルワークも含めフュージョン系の女性ボーカルの名曲と言えるだろう。
アイドル的な未完成な魅力があったインディーズ時代に比べると実力派ガールズグループのカラーを強くだしている作品である。基本的にはシティポップを軸にしているが、④や⑧など音楽性の幅は広い。楽曲が良いのはもちろんのこと、ソロになってからアーティスト性を開花させている冨永悠香(HALLCA)や脇田もなりが在籍していたことからも分かるように、この時のメンバー5人だからこそ作り出せた意欲的な作品である。
impure|TOKYOてふてふ
2021/4/28 コドモメンタルINC.
1. innocence soar
2. effect pain spiral
3. cry more again
4. merry-go-round
5. rainy milk
6. phantom pain
7. for something
8. cross
9. double
『翔び堕ちル、夢と現実の狭間ノ街並みト』というコンセプトで2020年に結成されたアイドルグループ「TOKYOてふてふ」の1stアルバム。
音楽性は「ぜんぶ君のせいだ。」などが所属するコドモメンタルお得意のメロディックなビートでぐいぐいと押す爽快感ある女子ロック。ダイナミックな快感が得られると同時にアイドルらしい儚さやメンヘラチックな繊細さがじわじわと心にくる内容である。
冒頭①は最初から最後までキャッチ―な歌メロで押しまくるアイドルロックのキラーチューン。メロディーに中毒性があり、歌詞の無常観はグループの世界観にぴったり。メンバーの生々しい歌声も魅力がある。②はドラムのカッコ良さが際立つエモロック。切ないメロディーを熱く歌い上げるボーカルとドラマチックなサウンドが絶妙なバランスで成り立っており、気持ち良い高揚感が得られる。③はシンフォニックなサウンド&メロディーで疾走し、独自の耽美な世界観に引き込まれる。⑤は勢いのある曲が多く収録されている本作の中でも異色のまったりとした曲調に癒されるナンバー。キュートでほんわかした雰囲気は好感が持てるもので新鮮な味わいがある。
ラスト⑨はエモいとしか言いようがない感動的な旋律が胸に迫る。やるせない世界観をこれでもかと盛り上げるサウンドが良いのはもちろんのこと、自然体の歌声はリアリティを感じるもので、寂寥感や刹那感をしっかりと伝えてくれる。
独自の美意識を感じる楽曲の良さはさすがコドモメンタルといったところ。随所に女の子っぽさにこだわりを感じる部分があり、良い意味で未完成な魅力溢れるボーカルも良い味を出している。
wind surfing school|cephalo
2024/5/22
1. NocturnE
2. 夜窓
3. cinnamon
4. アコンドライト
5. phew
2023年に結成されたロックバンド「cephalo」の初となるEP作品。
音楽性はシューゲイザーやドリームポップに影響を受けたと思われるギターロックで、デビューEPにも関わらず完成度が高い内容で、すでに貫禄ある存在感を示す1枚となっている。女性ボーカルシューゲイズ勢の中でも大人っぽい渋い作風で、透明感あるサウンドとボーカルfukiのアンニュイな雰囲気漂う歌声が織りなす暗い海を彷徨うような世界観は、奥深い魅力がある。サウンドは違うが歌声や空気感はSalyuやAimerに通じるものがあり。
冒頭①からfuki独自の情緒たっぷりな歌い回しと内省的な世界観が耳を捉える。ソフトな演奏なので、気怠いムードの中で様々な感情を伝える歌声の魅力がじっくりと楽しめる。
本作のリードトラックとなる②は、ノイジーな轟音ギターと雰囲気抜群の歌が絶妙なバランスで成り立つキラーチューン。ギター音色が聴き心地よく響き渡り、情景から空気や匂いまで伝わる優れた表現力はポップソングとしても極上である。③はメロディックに疾走しする爽やかな曲で、やはりギターの美しい音響が良い。
⑤はまったりとした雰囲気やメロウなギターが心に癒しを与えてくれるポストロック風味のエモロック。
新人バンドとは思えない成熟した内容で、シティポップ的でもある都会的な洗練された楽曲は出来が良く、それを盛り上げる歌声も素晴らしい。またギターの音色が美しいのが大きなポイントで、本作の大きな魅力となっている。
dayflower|mel
2020/11/6
1. Yours
2. See You Never
3. Haze
4. Ghost
5. This Moment
2019年に札幌で結成されたロックバンド「mel」の1stEP。シューゲイザーやドリームポップに影響を受けたと思われる美しいギターサウンドやアンニュイな雰囲気の歌声が特徴的な女性ボーカルインディーロックである。直球のギターロック路線でありながらも、ギターのドリーミーな音響が素晴らしくて、気持ちの良いトリップ感を与えてくれる。
ギターが鳴り響いた瞬間にいい曲だと分かる①は、本作のリードトラックとなるキラーチューン。煌びやかなギターの音色などの、音響が優れているサウンドは強烈に耳を捉えるもので、淡々とした歌声やメロディーも親しみやすいので、一聴してドリーミーな世界観に引き込まれること間違いなし。②もイントロのギターリフからの歌いだしからして良い曲だと確信できる切ないエモロック。楽曲が派手なわけではないが、単純に初聴きで『これは!』と思える音作りはさすが。③は叙情的なメロディーセンスや透明感ある歌声が光るミドルテンポのナンバー。メランコリックな世界観を盛り上げるギターと物憂げなボーカルとは心地良く響き文句なしの逸品。⑤はノイジーな轟音ギターでパワフルに疾走するシューゲイズな1曲。気持ち良く聴くことができる歪んだギター音色は中毒性があり、何度もリピートしてしまう魅力がある。
サウンドの良さは特筆すべきものがあり、ボーカルも主張しすぎずに音に上手く溶け込んでいる印象である。随所に音楽センスの良さを感じる部分があり、可能性に満ちた輝きを感じることができる1枚だ。
dawn praise the world|toddle
2007/6/8 World Wide Waddle
1. colonnade
2. sack dress
3. recollection
4. in a balloon
5. gulp it down
6. step with the gloom
7. callgram
8. wind chimes
9. dawn praise the world
10. ode to joy
NUMBER GIRL解散後にギターの田渕ひさ子が結成したロックバンド「Toddle」の2枚目となるアルバム。プロデュースは吉村秀樹(bloodthirsty butchers)。ナンバーガールの流れを受け継ぐオルタナティブロック路線で、轟音ギターと飾らない歌声がダイレクトに心に響いてくる、淡く儚いギターロックである。ボーカルは透明感ある歌声の田渕ひさ子と可愛らしい声質の小林愛の2人が担当している。女性ならではの柔らかいセンスが随所に感じられて、メロディックなロックとしても秀逸な内容である。
冒頭①から田渕ひさ子の透き通った歌声と揺らぐイメージが浮かぶメロディックな旋律が耳を捉える。NUMBER GIRLではボーカルを取ることはなかった彼女だが、素直で真っ直ぐな印象を残すボーカルは心に安らぎを与えてくれるもので、浮遊感あるギターロックにぴったりの女性ボーカルだ。続く②は孤独感を伝える憂いを含んだ歌と繊細なサウンドがメロディーと上手く調和している。淡々としながらも非常にエモーショナルであり、静かに燃え上がる青い炎のような熱を感じるナンバー。③は爽やかに疾走し、どこかセンチメンタルな情緒と、小林愛の物憂げなキュートな歌声が素敵。⑤は細部まで作り込んで組んである力強いバンドグルーヴが良い。⑥は印象に残るギターリフなどパンキッシュに弾けている。アルバムタイトル曲⑨は、小林愛の呟くような可愛らしい歌声の魅力によるものか、ギターポップと言ってもさしつかえない優しいナンバー。
女性ボーカルのギターロックとしてはポップセンスあるキラーチューンが連発される充実したアルバムである。田渕ひさ子と小林愛のツインボーカルで、それぞれ異なる個性が発揮されているので、飽きずに聴ける傑作アルバムである。
もはやこれまで&モア 1985~1987|パパイヤ パラノイア
2010/6/16 SOLID RECORDS
ディスク1
1. ゴーゴンズ
2. 夏が終わる
3. 極楽コレクション
4. 月のうさぎ
5. 貴婦人の散歩
6. 鬼の好物アニマルプリント
7. ダンスがスンダ
8. シュールアンダースタンド
9. わがままな肉食
10. あなたに会いたい
11. もはやこれまで
12. たこのおんがえし (デモ)
13. おじさんよってって (デモ)
14. 貴婦人の散歩 (第28回 Yamaha Popcon 実況録音)
15. 踊らにゃソン!
16. おじさんよてって
17. リンス
18. もはやこれまで (シングル・ヴァージョン)
19. パパイヤパラダイス(デモ)
20. ジャングルの夕日(デモ)
ディスク2
1. 金曜金髪
2. A・X・I・A
3. 踊らにゃソン!
4. Swimming In The Pool
5. ジャングルの夕日
6. 20世紀の子供達
7. WAR×3
ボーカルを務める石嶋由美子を中心としたパンク/ニューウェーブ系ガールズバンド「パパイヤパラノイア」。本作は宝島社が設立したインディーズレーベル【キャプテンレコード】からリリースしたアルバム『もはやこれまで』(1985年)と『WAR WAR WAR』(1986年)に加えて、シングル、オムニバス参加曲、デモやライブ等のレア音源を収録した編集盤である。戸川純や高橋佐代子(ZELDA)と同時代性を感じさせる石嶋由美子のエキセントリックなボーカルやソリッドなパンクサウンドなどはメーターを振り切った初期衝動を感じるもので、得体の知れないエネルギーに満ちている。
ディスク1は『もはやこれまで』(①~⑪)を中心にシングルやデモ音源が収録されている。
冒頭①から切れ味の鋭いパンキッシュな演奏で疾走し、尋常ではないテンションのボーカルを含めて勢いが凄い。②は打って変わってアンビエント風味のサウンドが神秘的な旋律を奏でており、荘厳な雰囲気や祈りを捧げるような歌声など懐の深さに驚かされる。⑤はスカっぽいチャーミングな曲調から突然ブチ切れるボーカルが痛快。サウンドも後半カオティックになり面白い。⑨はエキゾチックなサウンドやメロディーがここではないどこかに誘ってくれる。
⑪は縦横無尽という言葉がぴったりの暴力的な歌唱に圧倒される。デビューシングル⑰は緊迫感あるサウンドから解放感を感じるパートへの展開がお見事。歌詞もユーモラスで楽しい。
ディスク2は『WAR WAR WAR』(①~⑧)を中心に収録。
①からキャッチ―なビートのロックンロールが炸裂する。やはりテンションが高いボーカルはこのバンドの大きな魅力のひとつである。②は斉藤由貴の名曲をパンクロック解釈でカバー。原曲のバラード調とはまったく違う暴力的なパワーが渦巻いており、パパイヤパラノイア流の個性的な仕上がりとなっている。④は神秘的なサウンドと透明感ある歌声という異色のナンバー。パンキッシュに弾けるだけではなくこういった奥深さを感じる音色の楽曲があるのが面白い。⑦はポストパンク色が強いヘヴィな激烈サウンドと野性的なボーカルが絶妙に組み合わさり、理屈抜きに高揚感が得られる名曲。
⑧は幻想的なシンセの音色が印象に残るプログレッシブなポップス。ワールドミュージックを取り入れた独創的なセンスが光るキラーチューンである。
パンクバンドらしい暴力的なロックからニューウェーブ色が強いナンバーまで幅広い音楽性が楽しめる。ストレートなロック一辺倒ではなくてインテリジェンスを感じる不思議な楽曲を差し込んでくるのがパパイヤパラノイアの面白いところである。
airattic|airattic
2023/3/15 Lonesome Record
1. #343
2. invisible
3. crawl syndrome
4. plastic dada
5. mixjuice
6. フィルムリールを回して
7. appetizer
8. 閃光
9. 環状線チルドレン
10. 屋根裏から愛を込めて
11. 灰色の街について
2022年に結成されたアイドルグループ「airattic」の1stアルバム。tipToe.を手掛けている本間翔太がプロデュースを担当しており、多彩な作家陣が楽曲提供を行っている。ギターロックからエレクトロポップまで幅広くこなし、インディーロック路線から王道アイドルポップまで様々な魅力を楽しむことができる。
冒頭①は女性シンガーソングライターのaoi Kanata(彼方あおい)による淡く美しい曲で、サビの目まぐるしく畳み掛ける展開や儚い歌声は非常にエモーショナルだ。内省的な世界観がアイドルと上手くマッチした好例である。
②は疾走するメロディックなビートとハードなギターで畳みかける直球アイドルロックで爽快感抜群。
⑥は管梓(エイプリルブルー、For Tracy Hyde)が手掛けた必殺のギターロックチューン。管梓節炸裂!という感じで、ドリーミーなサウンドやポップセンスが発揮されたメロディーは清涼感に満ちており、何度もリピートしてしまう魅力がある。こういった一聴して耳を惹きつける曲が作れるのはさすがといったところだ。
⑧は人気のシンガーソングライターぼっちぼろまるが提供した、2020年代のアイドルポップ人気楽曲スタイルのひとつといえる高速リズミカルに展開するエレクトロポップ。⑨はクセのあるメロディーが頭の中に残ってぐるぐる回るほど印象的。手掛けたのは、アイドルに楽曲提供を多く行っている林直大で、独自のセンスが光っている。⑪はドラマチックに盛り上がる美しいロックバラードで、メンバーの切ない歌声が胸に迫る。
楽曲はバラエティに富んでおりどれも作家陣の力量が存分に発揮された力作揃いである。またそれを歌いこなすメンバーの歌声も耳当たりの良さや安定感を感じるもので、曲の良さを絶妙に引き出していると言える。
Reflect|17歳とベルリンの壁
2017/5/3
1. 地上の花
2. プリズム
3. 反響室
4. 窓際
5. 平面体
6. ハッピーエンド
2013年に結成された男女ツインボーカルロックバンド「17歳とベルリンの壁」の2枚目となるミニアルバム。シューゲイザーやドリームポップに影響を受けたギターロックで、青春の儚さや尊さを透明感あるサウンドや歌声で表現しており、直球のイノセンスが心に潤いをもたらしてくれる。
冒頭①は重厚な轟音ギターとダウナーな男女ツインボーカルにより、メランコリックな世界観に引き込まれる。サウンドやメロディーの美しさや浮遊感は特筆すべきもあり非常に完成度が高い。②は女性ボーカルシューゲイザーのキラーチューンで、唸りをあげるギターが生み出す浮遊感と揺らぎ、爽やかな歌声など文句なしの逸品。③はギターポップセンスある煌びやかな音やキュートな歌声が清涼感に溢れており、このバンドのポップセンスが光っている名曲。きらきらした光が差し込むような旋律は何度聴いても新鮮な感動があり、初恋のようなときめきが眩しい1曲である。ラスト⑥は③と同じく持ち前のポップセンスが遺憾なく発揮されており、小気味よいメロディックなギターが爽快な青春ロックに胸躍る。
ハードなロックからポップな曲まで粒ぞろいの楽曲が収録されている力作。特に③⑥のようなポップな音響はフレッシュな雰囲気で清々しい気分を届けてくれる。
kimi wo omotte iru|kurayamisaka
2022/10/2 tomoran
1 theme (kimi wo omotte iru)
2 cinema paradiso
3 seasons
4 last dance
5 farewell
6 curtain call
7 さあ冒険だ [bonus track]
2021年に結成された5人組のロックバンド「kurayamisaka」のEP作品。Twitterにアップした曲が話題となり、一気にインディーロック注目のバンドとなった。ノイジーな轟音ギターに透明感ある女性ボーカルという王道的なスタイルのシューゲイザーで、ボーカルを務める内藤さちのアンニュイな雰囲気の歌声や爽快感あるメロディックなビートなど、女性ボーカルのギターロックとしては申し分ない魅力がある。
冒頭①は1分に満たない短曲だが、このバンドのやりたい方向性が充分に伝わってくる。続く②はメロディーセンスの良さが光るミドルテンポのエモロックで、ノイジーなギターサウンドとセンチメンタルな感情を刺激する歌声がとても良い。③は疾走感溢れる小気味いい演奏とポップスとしても優れている歌メロが理屈抜きに気分を高揚させてくれる。爽快なスピード感と哀愁のメロディーは、パワーポップやメロコアなどに通じる無敵感あるもの。⑤も③と同じく轟音ギターとフックのあるメロディーで疾走し、J-POP度数が高い歌メロや気怠い空気を生み出す歌唱が良い。⑥は暴力的なギターサウンドの中で浮かび上がってくる透明感あるボーカルが耳に心地よく響く。⑦は『ポンキッキーズ』で使用された和田アキ子の曲をカバーしている。可愛らしい素敵な出来で心がほっこりとする。
ハードなギターサウンドとポップネスが絶妙なバランスで成立しており、とにかく聴いていて気持ちが良い。インディーロックの枠には収まらず、大衆的な人気も獲得できそうなグッドミュージックである。
天使のいない街で|Blurred City Lights
2024/2/17
1. 流星の子守唄
2. 蜃気楼
3. 花束
4. 夢際
5. Orange
6. 帰路
7. 回葬
8. saisei no hoshi
9. 彗星
10. 夜明け
11. 始発列車
12. citylights
2022年に名古屋で結成されたシューゲイザーバンド「Blurred City Lights」の1stアルバム。
轟音ギターと透明感ある女性ボーカルというインディーロックの王道スタイルだが、他と大きく違う点として表現している世界観が『セカイ系』であることである。刹那的な美しさが儚い箱庭的な世界観は、幻想浮遊系と呼ばれるアーティスト達やアニメ/ゲーム系音楽に親和性があるものだが、インディーズ系ならではのラフなサウンドや飾らない歌声は自然体の魅力がある。
タイトル通り子守歌のような優しい歌に癒される短曲①に続く②は、ノイジーな轟音ギターとボーカル神谷の繊細で美しい歌声の組み合わせが切ない揺らぎを生み出しており、幻想的な甘い感傷に気持ち良く浸ることができる。③は静から動へとドラマチックに展開するエモロックで、特に静パートのキュートなウィスパーボイスが儚くて良い。④はノイズギターと透明感ある歌声が幽玄な世界に誘ってくれる。⑦はメランコリックな雰囲気全開で、ギターの音色のカッコ良さが印象に残る。
⑨はタイトル通り彗星という感じの鮮やかなギターサウンドや叙情的なメロディーがセンチメンタルな感情を刺激する。夜空を浮遊するようなトリップ感は心地良いもので秀逸である。⑩はピアノを中心とした美しいサウンドと刹那的な感情を伝える歌声に心揺らされる。バラード曲なので神谷のボーカルの良さをじっくりと感じることができる。
ラスト⑫はポストロックとシティポップを掛け合わせたようなノスタルジックな曲で、情景が浮かんでくるメロディーと歌声、サウンドのエモさは特筆すべきものがある。超ド級の切なさが胸を貫く名曲である。
数多くいるシューゲイザー系バンドの中でも一風変わった個性があるバンドと言えるだろう。自分達が表現したい世界観へのこだわりが感じられるのが良い。独創性があり耳を惹きつけること間違いなしの傑作アルバムである。
C‐ROCK WORK|ZELDA
1994/11/2 CBSソニー
1. 夜の時計は12時
2. Electric Sweetie
3. 風の景 -Mind Sketch-
4. 時計仕掛けのせつな
5. ファンタジウム
6. Endless Line
7. Emotional Beach, Communication Party
8. Question-1
9. MOO/六月はいつも魔の月
10. 浴ビル情
1980年代を代表するニューウェーブ系ガールズバンド「ZELDA」が1987年にリリースした4枚目となるアルバム。本作はサウンドプロデュースに佐久間正英を迎えて、それまでのZELDAの特色であったアングラ感は抑えめとなり、エネルギッシュに弾けるガールズロックを楽しむことができる。後期はレゲエに傾倒したり、時期によって音楽性が変わる彼女達だが、このアルバムは正統派女性ロック路線として完成された充実した内容である。
①はストレートなロックの高揚感を大切にしながらも、ファンタジックなセンスも感じるサウンドアレンジが秀逸。派手さはないがじわじわとくるメロディーも味わい深い。②はストレートなポップロックで、キャッチーなリズムと小気味よい演奏が爽快感抜群。シンプルだがポップセンスが光るサウンドと高橋佐代子のカリスマ性ある女性ロッカーを体現しているクールな歌声がカッコいい。
④は幻想的な雰囲気を盛り上げるサウンドと淡々とした飾らない歌声が心に安らぎを与えてくれる。意味深な歌詞や心地良いメロディーも秀逸で、ニューウェーブ系女性ボーカルの名曲と言っていいだろう。⑤は個性的なサウンドによって表現される奇妙な世界観が不思議な感覚をもたらすトリップ感ある曲。サウンド構築が独創性に満ちた刺激的なものでありながらもポップで洗練されており素晴らしい。⑥は1980年代の空気全開なロックに心が和む。⑦はZELDAのチャーミングな魅力が味わえるキュートなサマーチューン。きっぷがよさそうなはちゃめちゃな雰囲気に元気が貰える。⑧は野性的で自由奔放さを感じる歌いっぷりが痛快。
音楽的にはZELDAのニューウェーブ期最後となるアルバムで、これ以後はワールドミュージック路線に方向転換していくこととなる。1980年代のZELDAらしさがつまった集大成と言える傑作アルバムである。
The Last Rose in Summer|NAV KATZE
1992/9/23 ビクターエンタテインメント
1. 海
2. フローズン・フラワー
3. マリリン
4. 不機嫌
5. アルカディア
6. 子供の名前
7. 光の輪
8. きらきら
9. 蒼い闇
10. 名残りの薔薇
イギリスのニューウェーブに影響を受けた繊細なギターロック/ポップを聴かせてくれるガールズバンド「NAV KATZE」の1992年リリースのアルバム。ドラマーが脱退し2人組となってからの初アルバムで、これまでよりネオアコ寄りになったシンプルなサウンドと魅力である飾らない素直な歌声など美しさが際立つ内容で疲れた心を癒してくれる。
①はエネルギッシュな轟音ギターと透明感あるボーカルというシューゲイザー要素を含む痛快なギターロックで、アルバムの開幕を飾るに相応しいパワフルな曲である。
②は奥深いセンスが光るアコースティックサウンドと淡々とした醒めた感覚を持つ歌声や文学的な歌詞など、『元祖セカイ系』と呼びたくなる、NAV KATZEらしい箱庭的な世界観がやるせなく胸を突き刺す。⑤はすべてが耳と心に優しく響く、桃源郷のような多幸感を与えてくれるナンバー。シンプルだが美しさは絶品で、これ以上ないほどの表現力に震える1曲。
⑦は祈りのような歌声とファンタジックな旋律が壮大な感動を呼ぶ。コーラスで遊佐未森が参加しており、幻想的な女性ボーカル曲として文句なしの出来である。⑧はタイトル通りきらきらしたフォーキーなサウンドとひたすら美しい歌声で感傷に浸ることができる。はっきりとした発音で歌われる詩の美しい響きも素晴らしい。⑩は情景が浮かぶようなノスタルジックな曲で、叙情的なメロディーや透き通った歌声が儚い情感を胸に運び切ない余韻を残す。
ハードなギターが唸りをあげる①を除けば、基本的にはソフトなアコースティックサウンドを基調とした無駄のない美しさが輝く。NAV KATZEの持ち味である儚さや刹那感を含んだ歌世界をじっくりと楽しむことができる1枚だ。
ココデパ!|クマリデパート
2019/5/28 MUSIC@NOTE
1. 開店アナウンス
2. おいでよクマリデパート
3. 愛Phone 渋谷
4. あいろにー
5. ウダガワ・ヨッキュー
6. ピアノ
7. 迷子のお知らせ
8. セカイケイ
9. あれ?ロマンチック
10. 二十四時間四六時中
11. アンサー
12. シャダーイクン
13. サマーニッポン夏サマー
14. いくじなし
15. 閉店アナウンス
「クマリデパート」は、いずこねこやMaison book girlを手掛けたサクライケンタのプロデュースで、彼の音楽事務所ekomsより2016年にデビューしたアイドルグループ。本作は2019年にリリースした1stフルアルバムである。
『世界のこころのデパート』をコンセプトに王道アイドルポップからダンサブルな楽曲までバラエティに富んだガールズポップを聴かせてくれる。サクライケンタのサウンドの特徴であるスティーブ・ライヒなどの現代音楽サウンドとアイドルポップを掛け合わせた楽曲もありユニークな魅力がある。
冒頭①~②ではクマリデパートのコンセプトに沿った『おもてなし』をキュートに表現しており、正統派アイドルのキラキラした魅力に元気が貰える。③はイケイケの電子サウンドと1980年アイドル歌謡を彷彿とさせる懐かしい感じの切ない歌メロが気分を盛り上げてくれる。
⑥は渋谷系女性ボーカルポップに通じるオシャレで可愛らしいナンバー。サクライケンタによるウキウキとスキップするようなアレンジやメンバーのキュートな歌声などすべてが輝いている。⑧はアニソン風の熱く切ない曲で、王道的な気持ちの良い高揚感が得られる。
⑫はアイドルポップを多く手掛けている玉屋2060%とサクライケンタが共作したキラーチューン。現代音楽とアイドルポップを組み合わせた異色の曲で、サウンドはライヒっぽいが曲調がパワーポップという2人の個性をそのまま融合させた独創的なポップソングに仕上がっている。特に終盤の展開はアヴァンポップのような刺激的なもので痺れる。⑬は爽やかな夏のアイドルソングで、チャーミングな魅力が全開。⑭は清涼感100%の王道アイドルポップに胸がキュンとなる。
⑫や⑥など音楽的には凝っている部分があり一筋縄ではいかない感じだが、可愛らしいボーカルやフックのあるメロディーなど基本的には正統派アイドルポップなので誰もが楽しめる内容となっている。
GREATEST HITS 2011-2017“ALTER EGO”|EGOIST
2017/12/27 SACRA MUSIC
1. 英雄 運命の詩
2. Welcome to the *fam
3. KABANERI OF THE IRON FORTRESS
4. Door
5. Ghost of a smile
6. リローデッド
7. s
8. 好きと言われた日
9. All Alone With You
10. カナデナル
11. 名前のない怪物
12. Planetes
13. The Everlasting Guilty Crown
14. エウテルペ
15. Departures ~あなたにおくるアイの歌~
16. Departures ~あなたにおくるアイの歌~ (Acoustic Ver.) -Bonus Track-
「EGOIST」はテレビアニメ『ギルティクラウン』に登場する架空の音楽グループで、アニメ終了後も2023年まで活動していた。本作は2017年リリースのアニメタイアップ曲をふんだんに収録した良いとこ取りのベスト盤である。プロデュースと楽曲はsupercellのryoが手掛けており、打ち込みサウンドを主体とした幻想的でシンフォニックな楽曲とボーカルを務めるchellyのカリスマ性ある歌声が魅力である。ryoの音楽家としての才能が存分に発揮されており、Supercell同様にアニメ系女性ボーカルグループでは最高品質の内容で聴きごたえたっぷり。
冒頭①から壮大な物語が幕を開けるようなシンフォニックな旋律が全開。Sound Horizonや妖精帝國に通じる日本ならではのオタク文化を消化したファンタジックな物語性のある女性ボーカル曲が楽しめる。③も凄まじくスケールがでかいサウンドやメロディーが印象的で、ゴシックロックっぽい耽美な世界観がこれでもかと盛り上がる。⑤はピアノ伴奏で歌うシンプルな構成ゆえにchellyの美しい歌声の魅力がよく伝わる。儚くやるせない雰囲気は胸を打つものがあり、文句なしの絶品のバラードである。
⑥はEDM感あるメロウなダンスポップで、サウンドは細部までよく作り込んである印象だ。
⑦もEDM色が強いスタイリッシュなエレクトロポップでカッコいい。⑪はヘヴィなサウンドとダークな雰囲気に引き込まれる。特にサビのメロディーは一度聴けば耳に残るもので秀逸。
⑬は人類規模の壮大な歌詞やドラマチックなメロディー展開など、『超ド級のシンフォニックがここに極まる』という感じのインパクトある曲だ。プログレのような複雑な曲構成というわけではないが、とにかく壮大なスケールで圧倒的な盛り上がり見せる、まさにアニソンの名曲。
さすがryoという感じの印象に残るサウンドやメロディーはさすがの一言。そして何よりchellyの声質がとても良く、ずっと聴いていられる心地良さがある。
はちみつ白書|ZABADAK
1998/9/2 ポリスター
1. 100 AKER WOOD
2. CHRISTOPHER ROBIN
3. MERRY GO ROUND みたいな君
4. 北極を探しに
5. かえりみち
6. はねっかえりのTIGGR
7. COTTLESTON PIE
8. 太陽は眠っている
9. 悲しい夢なんか見ない
10. HARP & PIPE
11. 永遠の森
12. 世界中の悲しみがいっぺんに
1993年に上野洋子が脱退し吉良知彦のソロユニットとなった「ZABADAK」がシンガーソングライター「高井萌」をボーカルにフューチャーしたアルバム。くまのプーさんをコンセプトにしたメルヘンチックな作風で、高井萌のキュートな歌声を生かしたファンタジックな女性ボーカルポップが楽しめる(吉良知彦ボーカル曲もあり)。それまでのZABADAKとは少し違う異色の作品で、正統派ポップスを基調にした細部にまでこだわりを感じる可愛らしい世界観は感傷的でどこか懐かしさを感じるもので非常に良く出来ている。
インスト①に続く②から高井萌の子供っぽいキュートボイスの魅力が全開で、わくわくするような爽快なポップソングに胸躍る。吉良智彦にしてはストレートな曲調だが、可愛らしい陽気なポップスには新鮮な魅力がある。③はドリーミーで箱庭的な世界観が、ロマンティックで夢見心地な気分にしてくれる可愛らしいナンバー。④はしっとりしたシンプルなバラードで、透明感のあるウィスパーボイスが女性ボーカル好きの心をがっちりと掴んで離さない。派手さはないが、聴けばセンチメンタルな気分になり記憶に残る出来の良い曲だ。
⑤は吉良智彦節炸裂の民族音楽風味のノスタルジックな歌もので、いかにもZABADAKらしい名曲。子供の頃の無垢な自分に戻りたいという歌詞は切なさがあり、叙情的なメロディーや独自の歌い回しが光るボーカルが素晴らしい。
⑧は童話のような世界観の不思議系ポップスで、一風変わったサウンドやクセのあるメロディーは非常に印象的である。⑫はほぼアコースティックギターと歌のみで、絶品の美しさに癒される。
高井萌の可愛らしい声の魅力を100%引き出した曲の数々はさすが吉良知彦といったところ。企画盤という側面は強いが、女性ボーカルものとして文句のなし大傑作である。
BOYS TREE|コクシネル
2002/2/25 いぬん堂
1. 天と地の偶像
2. 少年の木
3. 記憶
4. 再生
5. 夜の歌
6. 叫び
7. この光の中
1970年代に活躍したロックバンド「めんたんぴん」のメンバーであった池田洋一郎とボーカル野方攝を中心に1980年に結成されたバンド「コクシネル」。本作は1986年にリリースされた1stアルバムにボーナストラック1曲を加えてCD化したものである。
初期メンバーであったアンダーグラウンドを代表する音楽家である工藤冬里がピアノで参加している。音楽性はアヴァンギャルドな要素も含むニューウェイヴ色が強いポップスという感じで、荘厳な雰囲気やノスタルジックな空気を感じる楽曲と野方攝の美しい歌声が心に安らぎを与えてくれる。
冒頭①はシンセのイントロから始まるアンビエントサウンドに野方攝の自由奔放な印象の独特の歌唱が耳に残る。②は音数の少ないシンプルな演奏にまるで子守唄のように聴こえるノスタルジックな歌が心を癒してくれる。③は現代音楽要素を含む万華鏡のようなサウンドと幻想的な雰囲気漂う歌が上手く絡み合っており、不思議な世界観に浸ることができる。⑤は本作の中でもギターの音色や叙情的なメロディーの良さが光っており秀逸。テクニカルなギターと素朴だが芯の強さを感じる歌声が絶妙に調和している。⑥はプログレッシブに展開するサウンドと美しいメロディーが心地良く耳に響き、いつまでも聴いていたくなる魅力がある。⑦はボーナストラックでアンビエントな電子ポップが楽しめる。
サウンドは先悦的で実験的な部分もあるが、基本的には野方攝の歌声をフューチャーした女性ボーカルポップスである。アンダーグラウンドなバンドならではの一風変わったポップソングを聴くことができる傑作アルバムである。
Along Ago|Oxz
2020/3/13 Captured Tracks
1. Fall in the Night
2. Along Ago
3. Life and Death
4. Touching My Heart
5. Vivian
6. Be Run Down
7. Etranger (1985)
8. Boy Boy
9. Etranger (1988)
10. Is Life
11. Teenage B
12. ()
13. Blue Sing
14. Bleed Love
15. Down Easy
16. Angel
17. Orgel Bony
18. Truth
19. Baby Again
関西を拠点に1981年から1989年まで活動していた3人組のガールズバンド「Oxz」。
本作は活動期間にリリースした3枚のEPとデモや未発表曲を収録したコンプリートアルバムである。ポストパンクやポジティブパンクに影響を受けたと思われるダークな雰囲気や気だるげな空気感は引き込まれるものがあり、ボーカルMikaの呟くような淡々とした歌声や切迫感あるプリミティヴな演奏などは同時代のガールズバンドとはひと味違う尖った魅力がある。Siouxsie And The Banshees、Cocteau Twins、Joy Divisionあたりに親和性が高いのでそれらが好きならおすすめできるバンドだ。
冒頭①からノイジーな荒削りなサウンドとダウナーな雰囲気に圧倒される。音楽センスが日本人離れしており、イギリスのニューウェーヴバンドに近い空気感である。②は独自の美意識を感じる曲調や世界観がドラマチックに響く。耽美なメロディーは浮世離れした味わい。③はやさぐれたガールズロックという感じの渋い格好良さが光る。④は幻想的なサウンドとメロディーが異世界にトリップさせてくれる美しいバラード。⑤は野性的なドラムのリズムが印象的で、儀式のような雰囲気が漂う。呪術的なボーカルなど民族音楽色が強い曲である。
⑧はインディーズならではの破壊力を持つソリッドなサウンドにキャッチ―なリズムが見事にハマっているキラーチューン。
⑫はピーンと張りつめた緊張感あるパートから解放的なダンサブルなパートへの展開が鮮やかで、中毒性のあるビートが耳を捉えるダンスロック。日本のポストパンクの名曲と言っていいクールなカッコ良さだ。⑯はどこかグラムロックっぽい割とストレートなパンクで、シンプルなロックとして楽しめる。
聴けば思わず『1980年代にこんなバンドが日本にいたの?』と言ってしまうほど、海外のニューウェーヴっぽい音楽センスが光る1枚である。インテリジェンスを感じるクールさとロックの初期衝動が絶妙なブレンドされた凄いバンドだ。