BLINDNESS|どーぷちゃん
2021/11/17 Doping! RECORDS
1. Verbal bullet
2. BLAME
3. ディピクト
4. Fizzy Fizzy
5. dope is (inst)
6. glare
7. NIGHT SURFER
8. stargaze
9. Another day
10. letter (inst)
11. 花の便り
12. 失明
13. ミラクルスコープ
2018年から2021年まで活動していたヒップホップ・アイドルグループ「どーぷちゃん」の1stアルバムにしてラストとなったアルバム。
元々は「韻ふめ!どーぷちゃん」と名乗っていたが、2021年に改名している。Twitterで投稿していた【ラップしてみた動画】で人気に火がつき、SNSを中心に高い知名度を獲得していたグループである。
音楽的にはノスタルジックな雰囲気のラップで、地に足がついたボーカルやメロウな楽曲の良さは特筆すべきものがあり、アイドルラップとして申し分のない完成度を誇っている。
冒頭①から強烈に耳を惹きつけるエレクトロサウンドの音色と凄まじい勢いのラップでギア全開。アイドル的な虚像ではなく、リアルな感覚の生々しい熱量がどーぷちゃんの真骨頂である。②はカッコいいイントロからフルスロットルで爆走するナンバー。爆音ロックビートと切れ味あるラップのダイナミックな疾走感はインパクトがある。外側に向かって放つエネルギーが感じられるのが良い。
④は楽曲自体の良さが光るメロディアスな青春ラップのキラーチューン。リリックや殷の踏み方も耳に残るもので、センチメンタルな感情の切なさに胸が締めつけられる。
⑧はやるせない叙情的なラップが良い。ドラマチックに盛り上がるサウンドも含めて、これぞエモいヒップホップという感じだ。
⑨はシンガロングできる歌メロと力強いメッセージが壮大なうねり生み出しており秀逸。懐かしさを覚える曲調は元気ロケッツやQ;indiviが流行っていた時代を彷彿とさせるもので、胸が熱くなる。
⑪は感動的なシンフォニックな旋律を奏でており、感情を込めた熱唱に心が揺さぶられる。
⑫は何とも切ない余韻が残るバラードで、サウンドの揺らぎと心地良いフロウが絶妙である。
作詞・作曲を含めてメンバーが楽曲制作段階から関わっている比重が大きいと思われるので、アイドルシーンの中でもアーティスト寄りの立ち位置であったと言えるだろう。高いラップスキルと完成度の楽曲が上手く組み合わさっている1枚だ。
星空ロジック|岸田教団
2007/12/31
1. ただ凛として
2. クリアレイン
3. 84
4. 秋空
5. 星空ロジック
6. Telegnosis
7. Hello,world
東方アレンジ作品を発表していた同人音楽ユニット「岸田教団」の2007年にリリースした4枚目となる作品で、初のフルボーカル・オリジナルアルバムである。
本作でロックバンドとして自身のスタイルを確立しており、次作からは同年5月リリースした東方アレンジCDでも使用した名義「岸田教団&THE明星ロケッツ」に名前を改めて精力的に活動を行い、メジャー音楽シーンでブレイクしている。
音楽的にはロキノン系から強く影響を受けた、乾いた音色のギターを全面に出した疾走感あるメロディアスなロックである。ボーカルを務めるichigoの静かに熱を帯びた歌声やキレキレのビートなど、手に汗握るエモーショナルなギターロックが楽しめる。本作はビジュアルノベルゲームの名作をモチーフした楽曲も多くあるので色々な楽しみ方ができそうだ。
冒頭①は耳を捉えるイントロのギターリフから、切なげな表情を見せながら鮮やかに疾走するキラーチューン。サビの伸びやかのメロディーを一語一語噛みしめるように歌うichigoのボーカルが心に響く。この曲はTYPE-MOONのゲーム『Fate/stay night』に登場するキャラクター遠坂凛をモチーフにしている。普段はツンツンしているが、センチメンタルな感情を秘めた遠坂凛の思いを上手く描写しており秀逸だ。
②は前向きな気持ちになれる爽やかなメッセージがほとばしる歌モノとして優秀な1曲。サビのメロディーの清涼感や間奏のギターの気持ち良さが印象に残る。③はまさに青春ロックという感じの熱い疾走感に痺れる。
④は小気味の良いテンポで進む邦ロックの良さを体現しているナンバー。不安や憂鬱を切り裂くようなギターがカッコいい。
アルバムタイトル曲⑤は、岸田教団の真骨頂と言えるソリッドなサウンドとキャッチ―な歌が絶妙なバランスで疾走する。この前のめりに突っ走る躍動感と熱さはロックとして大正義なもので、聴き手の心を震わせてくれるだろう。
⑦はイントロのエモいギターの音色からじわじわと盛り上げてサビで感情を爆発させるドラマチックな曲展開が光る力作。この雰囲気抜群の力強い切なさは特筆すべきものがあり、彼らがこの時期にいかに波に乗っていたかがよく分かる。
叙情的な雰囲気にぴったりな歌声や持ち前のメロディーの良さが荒削りな音と組み合わさり、ダイレクトに胸響くロックとなっている。
全編通して、【これから何かが始まる予感】に満ちており瑞々しい。そしてそれは完全に後付けとなるが、彼らがブレイクする波動であったと言えるだろう。そういったことも含めて名盤と言っていい1枚だ。
TATA|konore
2019/3/21
1. pepper
2. chinese butter
3. in the meadow
4. rātrī
インディーロックバンド「the rooms」のボーカルを務めた「konore」の2nd EP作品。
the rooms解散後は「Controversial Spark」や「超大陸パンゲア」などでボーカルを務めていたが、その後はシンガーソングライターとして本格的に活動している。
知る人ぞ知るという立ち位置であったが、Steamでも大ヒットしたカトゥーンアニメを導入したビジュアルノベルゲーム・マルコと銀河竜の主題歌『飢餓と宝玉』のボーカルを担当したことにより、一躍海外も含めて広い知名度を獲得した。the rooms時代から受け継がれるアグレッシブなガレージロックサウンドとkonoreのキュートな歌声が織りなす不思議な感覚をもたらす世界観は中毒性があり独創的な魅力がある。
冒頭①から切れ味あるギターリフから始まるパワフルな歌声のカッコいい女子ロックをキメてくれる。直球の荒々しいガレージロックな演奏と可愛い声質なのにぶっきらぼうな感じがする絶妙の歌い回しが光る。
②は君島大空をギターに迎えた、必殺のキュートロックチューン。インパクトがあるギターの音色や言葉遊びのセンスがある歌詞、そしてウルトラキャッチ―なリズム&気風の良い歌声など、すべてが素晴らしい名曲。
③は映画のような壮大なスケールを感じるドラマチックなナンバー。本作では異色の作風だが、暴力的な轟音ギターの音色や無国籍感あるボーカルなど圧倒される1曲である。
④はサイケデリックでドリーミーな旋律が耳に心地よく響く。ギターの一音一音の響きの美しさや切々と歌い上げるボーカルが胸に迫る。
the roomsは聴いていると違和感を残す、非常に個性的で面白いバンドであった。このソロ作品では荒々しいガレージロックの音色はそのままに、一風変わった楽曲センスや大幅に向上している巧みなボーカル技術が光る内容となっている。
Future Cαke|YUC’e
2017/10/18 Miraicha Records
1. Future Cαke
2. わたあめパレード
3. Night Club Junkie
4. POISON
5. Tick Tock
6. intro-duck-tion!!
7. MUDPIE
8. 戦国HOP
9. Gemini Tale
10. PUMP
11. Future Cαndy
トラックメイカー/シンガーソングライター「YUC’e」(ゆーしえ)の1stフルアルバム。
自身の作品以外にも音楽原作キャラクタープロジェクト「電音部」や人気アイドルグループ「FRUITS ZIPPER」に楽曲提供するなど多方面で活躍している。
本作はYunomiと共同で立ち上げたMiraicha Records(未来茶レコード)から2017年にリリースされている。音楽性はYunomi同様にEDMやFuture Bassを基調にしたハッピーなサウンドにYUC’eのキュートな歌声を乗せたエレクトロポップである。ネオ渋谷系/フューチャーポップ系アーティスト「EeL」に通じるような自身オリジナルの可愛い音楽を追求する姿勢が感じられる1枚となっている。
冒頭①から目まぐるしいエレクトロサウンドと可愛らしい歌声で別世界にトリップするような恍惚感が得られる。サウンドの音色や曲展開がかなり凝っており、非常に耳に残るキラキラした電子ポップである。②はYUC’eのキュートなセンスが全開のキラーチューン。サウンドも可愛いが、声質や歌い回しがこういったエレクトロポップに相性ばっちりである。
③は意表を突くオシャレなエレクトロスウィングが炸裂し胸躍る。ジャジーでダンサブルなリズムはノリノリになれるもの。クールな雰囲気が感じられる作風は、音楽的な懐の深さが感じられて興味深い。⑤は渋谷系やアイドルポップにも距離が近いと言える歌モノのキュートポップス。このファンシーな可愛さはYUC’eのポップマジックと言ってもいいだろう。
⑧は戦国時代をテーマにしたユニークな曲で、エレクトロサウンドに和風の旋律が上手くマッチしている。⑩はお得意のキラキラした電子音で畳みかける展開が爽快感抜群。
⑪はサウンド主体で日本の文化である『Kawaii』(かわいい)を見事に表現しており秀逸。作詞・作曲・編曲のすべてをこなす彼女ならでは音に対するこだわりが感じられる1曲となっている。
サウンドはかなり細部まで作り込んであり、インパクトのある音色など、聴き手の耳鮮やかな印象が残るサウンドは完成度が高い。また歌声を始めとしてキュートなポップセンスが存分に発揮されているので、オシャレなポップミュージックとしても優れている。
Screamin’ Showcase|t+pazolite & ななひら
2021/12/31 C.H.S
1. Screamin’ Showcase
2. キラメケ→Shoot it Now! (SSLong ver.)
3. アイツラゲイナゲイン
4. ピコPico*とらんすれーしょんっ!(with Cranky & Pico)
5. Hardcore ASMR
6. Ukakuf Kins (SSLong ver.)
7. ONOMATO Pairing!!! (SSLong ver.)
8. Otsukimi Party Hard (SSRemake)
9. めっちゃ煽ってくるタイプの音ゲーボス曲ちゃんなんかに負けないが?????
10. なんかずるいな
太古の達人などの音楽ゲームへの楽曲提供でも有名な音楽家「t+pazolite」が、キュートボイスに定評のあるボーカリスト「ななひら」をフューチャーしたアルバム。内容は基本的には彼が得意とする高速ハードコアテクノにななひらのチャーミングな歌声が乗るというもので、怒涛のように押し寄せる萌える電子ポップは気分をアゲアゲにしてくれる。
そして本作で注目すべき大きなポイントは、随所に感じられるメタな視点が冴えている実験性である。曲によってはかなり面白いアイデアを駆使しており、その発想の鋭さが非常に興味深い。
冒頭①はシンフォニックなイントロとななひらの小悪魔っぽい笑い声をスタートにフルスロットルで疾走する。畳みかけるテクノサウンドにはっちゃけた歌声が見事にハマっており、このコンビの音楽的な相性の良さが感じられる。
続く②は更に頭のネジを飛ばした可愛らしさに振っている王道電波ソング。爆走するハッピーハードコアサウンドとアニメキャラのような萌えるボーカルの組み合わせがグッドだ。
④はCranky & Picoをフューチャーしたユニークな発想が光る1曲。Pico言語で歌われる壮大な雰囲気のPicoの歌をななひらが追っかけて翻訳していくというもので、その翻訳が『風邪をひいて体がだるいが無理して歌っています』という日常的な内容である。サビではPicoとななひらのユニゾンもあり、これも個性的で面白い。歌姫からは神々しいオーラを感じることがあるが、それをメタな視点で解体した挑戦的な作品だ。
⑤はASMR(同人音声)をテーマにした曲である。アンビエントな雰囲気のサウンドにロリ声での囁きという、同人音声ではよくある導入から始まる。同人音声ならこの前振りからここでは書けないようなエロい展開になるのだが、そこで意表を突く激烈なハードコアテクノが炸裂する展開になる。こちらもよく閃いたと感心する曲だ。
⑦は音ゲーで盛り上がること必至の音展開とキュートな歌声がいい感じにミックスされている。⑨は音ゲーでよくある高難易度の展開をパロディにしたもので、よくプレイする人には共感を得そうでこれまた面白いナンバー。
音ゲーに使用されている曲もあるので、基本的にはそちらのファンに向けたアルバムではあると思うが、④などの着眼点の鋭さは特筆すべきものがあり、色々な楽しみ方ができる1枚となっている。
MOE MOE|MOE SHOP
2018/7/4 MOE SHOP RECORDINGS
1. Magic (w/MYLK)
2. Virtual (w/Puniden)
3. Baby Pink (w/YUC’e)
4. Lovesick (w/maisou)
5. Notice (w/TORIENA)
6. Fantasy (w/MONICO)
7. Magic (Instrumental)
8. Virtual (Instrumental)
9. Baby Pink (Instrumental)
10. Lovesick (Instrumental)
11. Notice (Instrumental)
12. Fantasy (Instrumental)
東京を拠点に活動しているフランス出身のトラックメーカー「MOE SHOP」のEP作品。
音楽性はFuture Funkと呼ばれるシティポップやJ-POPからの影響が色濃いエレクトロポップと日本のアニメや萌えなどのオタク文化を融合させた独自のエレクトロミュージックである。
Snail’s Houseと共作したKawaii Future Bassを代表する名曲『Pastel』(2017)などの音楽シーンに鮮烈な印象を残した重要曲を発表している。本作では、Puniden(ぷにぷに電機)、YUC’e、TORIENA、モニ子などの女性ボーカルをフューチャーした、ラップを主軸としたキュートなエレクトロポップを聴くことができる。
冒頭①はMYLKの可愛い歌と軽快にステップ踏めそうな打ち込みサウンドが印象に残る。萌えをオシャレに解釈しているのがMOE SHOPの真骨頂である。中田ヤスタカ系に通じる質感もあるので、その系統が好きなら気に入るだろう。②はぷにぷに電機のウィスパーボイスのラップなど、キュートなフィーリングが光る。ぷにぷに電機は都会的な大人の雰囲気を感じる歌声を聴かせることが多いが、本曲のような可愛い魅力は彼の作風にぴったりだ。
③はボーカルにYUC’eをフューチャーしており、音楽的にも相性が良いと言えるコンビによるキラキラした洒落たダンスポップ。こちらも可愛いラップが良い味を出しており、フロアで盛り上がりそうなダンサブルな曲調と相まっていい感じに気分が上がる。
⑤は思春期の女子が先輩に抱く恋心をクールなラップで表現したキラーチューン。テンポやリズムの軽やかさかとTORIENAの女子高生みたいな声質と淡々とした歌い回しが中毒性を生み出しており秀逸。⑥は不思議な感覚の浮遊感ある電子サウンドとモニ子のアンニュイな雰囲気の歌声が別世界に誘ってくれる。ポップでキュートであるが、同時にダウナーであるのが良い塩梅となっている。
イメージ的には都会の10代女子という感じのリアルと二次元キャラクター等のオタク文化の萌えをミックスした音楽表現である。萌えをテーマにしているが、100%そちらに振ってないのがポイント。現実と虚構の間を漂うオシャレなガールズポップがふんだんに楽しめる1枚となっている。
Break Your Mind|POMERO
2019/6/24 リーディ
1. Intro
2. Can’t Let It Go
3. グラデーション
4. wait for tomorrow
5. シャラリラ
6. スイートタルト
7. 木枯らし吹く頃
8. パラレルワールド
9. Outro
2018年から2021年まで活動していたアイドルグループ「POMERO」の1stアルバム。
音楽性はアイドル歌謡から渋谷系ポップスまで取り込んだ、オシャレなセンスが光るアイドルポップだ。2020年に新体制に移行した後はノリノリのディスコ路線になりそれも良かったが、アルバムとしては本作が最高傑作と言える充実した内容で、楽曲の優れたポップセンスと通好みの音質が堪らない1枚である。
②は力強いエレクトロビートと伸びやかなメロディーを歌う思い切りのいいボーカルが高揚感を与えてくれるナンバー。③は不穏なピアノのイントロから始まる暗い歌謡曲っぽい歌で、大人びた雰囲気が渋くてカッコいい1曲。
④は王道的なデジタルサウンドのアイドルポップで懐かしさ溢れる曲調に痺れる。
⑥は昔のアーケードゲームの音楽みたいなチープな電子サウンドでメロディックに疾走するキラーチューン。レトロ感覚の洒落たセンスが効いており、POMEROならではの個性的な魅力が感じられてとても良い。
⑦はしっとりと聴かせるアイドル歌謡で、切ない歌メロと綺麗な響きのボーカルが気持ち良くノスタルジックな感傷に浸らせてくれる。
⑧はオシャレな歌声や独自のメロディーが耳を捉えて離さない渋谷系アイドルポップの大傑作。音質があまり良くないで、そこは好みが分かれそうだが、非常に面白い魅力がある。
基本的にはキャッチ―なアイドルポップだが、メジャーなアイドルグループと比べると音も含めて質感が全然違うのが興味深い。インディーっぽいと言えばそれまでだが、有名アイドルグループでは満たされない何かを発見できるかもしれない。
Plus-Tech Squeeze Box|FAKEVOX
2005/4/13 VROOM SOUND
1. Channel No.17
2. Early Riser
3. A Day In The Radio
4. Test Room
5. Rocket Coaster
6. Scene1 – Launch A Spaceship Into Space
7. ☆
8. White Drops
9. Milk Tea
10. Scene2 – Citybilly Lived Happily Ever After
11. Sneaker Song!
12. Clover
13. track>
ネオ渋谷系音楽ユニット「Plus-Tech Squeeze Box」。本作は2000年にリリース1stアルバムをリマスタリング再発したものである。
2000年代に起こったネオ渋谷系ムーブメントを代表するグループのひとつで、イギリスでも人気を獲得するなど、当時の音楽シーンで大きな注目を集めた。彼らのような1990年代の元祖渋谷系の流れを受け継ぎつつ、エレクトロサウンドを主体としたオシャレポップスを聴かせる音楽ユニットはフューチャーポップとも呼ばれた。おもちゃ箱をひっくり返したと形容されることが多いフューチャーポップ勢の中でも、一風変わったサウンド構成や奇抜な曲展開が特徴的ではあるが、すべて可愛らしいポップミュージックとして上手く昇華しているので、単純に誰もがハッピーな気持ちになれる1枚である。
テーマパークの入場するようなワクワクするインスト①に続く②は、力強いビートでキュートに疾走する。目まぐるしく景色が変わっていくジェットコースター感覚のドキドキ感が楽しい。③はギターポップエッセンスが効いた可愛らしい電子ポップ。渋谷系ミュージシャンが得意とする王道的な曲であるが、サウンドが凝っており面白い。
⑤もキュートな歌声&ドライブ感あるサウンドで力強く疾走する。アグレッシブなサウンドとネオアコっぽい歌のバランス感覚が絶妙で、聴きながら自転車で飛ばしたくなるような爽快感がある。⑦はセンチメタルな感情を刺激するキラキラした電子サウンドの洪水が気持ち良い。どこか懐かしさを感じる歌メロもノスタルジックで素晴らしい。⑧は洒落たドタバタしたサウンドと透明感ある歌声が上質な聴き心地である。⑨はファニーなサウンド&チャーミングな歌に自然と笑顔になれる楽しいナンバー。
⑪はピコピコしたテクノロック。持ち前のメロディーの良さとキュートな魅力が全開で、フューチャーポップの名曲と言っていい会心の出来である。
サウンドは雑多でかなり凝っており挑戦的な部分もあるが、ポップセンスが優秀なので、メロディアスな渋谷系ポップスとして文句なしの完成度を誇っている。
『雑貨屋さんでかかっているキュートなポップス』というネオ渋谷系のイメージを決定づけた傑作アルバムだ。
ファミリーミュージック|YMCK
2004/11/3 USAGI-CHANG RECORDS
1. ファンファーレ
2. Magical 8bit Tour
3. パステル・キャンディーは悪魔のささやき
4. Darling
5. POW*POW
6. Interlude
7. S!O!C!O!P!O!G!O!G!O(YMCK Version)
8. Synchronicity
9. Tetrominon ?From Russia with Blocks?
10. ジョン・コルトレーンは回転木馬の夢を見るか
11. Yellow、 Magenta、 Cyan and Black(YMCKのテーマ)
12. Your Quest is Over
ファミコンのゲーム音楽を彷彿とさせる8bitポップスを聴かせてくれる音楽ユニット「YMCK」の1stフルアルバム。
チップチューンという音楽ジャンルで語られるようなファミコンの電子サウンド+キュートボイスという斬新なアイデアは当時多方面で話題となり、ネオ渋谷系/フューチャーポップシーンで大きな注目を集めた。音楽的にはストレートな作風で、ボーカルを務めるMidoriの可愛らしい歌声を主役に展開されるピコピコした8bitポップスであるが、ジャズやボサノバなど様々な音楽からの影響を感じさせる曲はポップミュージックとして優れた魅力がある。
ノスタルジーで胸いっぱいになるインスト①に続く②は、YMCKの名前を世間に知らしめた女性ボーカルチップチューンの名曲。若い世代にはレトロで新鮮な響きがあると思うし、年長者は子供の頃にワクワクしながらファミコンのコントローラーを握っていた思い出がよみがえるだろう。③は8bitダンスポップという感じの陽気に弾けている楽しいナンバーである。
④もご機嫌なステップが踏めそうなダンサブルな曲でノリノリに決める。
⑤は8bitジャズという感じの洒落たセンスが良い。ファミコンサウンドとジャズの相性の良さにはビックリだ。
⑦はこのアルバムをリリースしているインディーズレーベルUSAGI-CHANG RECORDSを主催する鈴木アキラの音楽ユニットSonic Coaster Popの楽曲をカバーしたもの。溢れる光の中を突き抜けるような爽快感に満ちた原曲とは一味違う、のんびりとした可愛いらしさが光るYMCKらしい良い出来となっている。
⑩はテンポの良い男女ツインボーカルと細部にまでこだわりを感じる8bitサウンドは聴きごたえ抜群で、ちょっぴりホラーな感じがするサビの歌メロが最高。⑪はYMCKのテーマ曲で、壮大な世界観はまさにRPGゲームみたいである。
テクノポップのようにファミコンの8bitサウンドとキュートな女性ボーカルは相性が絶妙である。こういった音楽性はレトロゲームと音楽、両方への愛がなければ作れないもので、その溢れんばかりの熱意がよく伝わる1枚だ。
short short|macdonald duck eclair
2004/6/9 USAGI-CHANG RECORDS
1. mac teenage riot
2. en route
3. texas
4. the yellow go
5. lily rose melody
6. amoureux solitaires
7. ニャンコ
8. butterfly in the stomach
9. sunflower202020
10. perpetuel
11. ni le jazz,ni le kir
12. my honey dip
13. over the rainbow
ネオ渋谷系/フューチャーポップ界隈で人気のあった3人組音楽ユニット「macdonald duck eclair」の1stアルバム。
良質な女性ボーカルものをリリースしてくれるインディーズレーベルである『KOGA RECORDS』と『USAGI-CHANG RECORDS』の両方から作品をリリースしているという期待を裏切らない音楽ユニットだ。
エレクトロサウンドをフレンチポップやギターポップなどで可愛らしく味付けしている。打ち込み主体ではあるが、突き抜けるようなパンキッシュな魅力が痛快な作風である。凄まじい勢いのハードコアテクノからキュートなボーカルを生かした歌モノまで幅広い音楽性が楽しめる1枚。
冒頭①はハードなテクノサウンドに可愛い歌を乗せており、独自の音楽センスの面白さが全開である。フロア向けデジタルサウンドとキュートなインディーポップの組み合わせは意欲的なもので聴きごたえがある。
続く②も力強いエレクトロビートでメロディックに疾走する。ロック色が強い分厚い電子音にウィスパーボイスというのが、マニアックな音楽的嗜好を満たしてくれて秀逸。
③はピコピコした電子音のテクノポップで、陽気にステップが踏めそうである。⑤は可愛い絵本のようなファンシーなナンバー。ファンタジックなチャーミングの歌に心が和む。
⑦はピコピコした猫がテーマの短曲で、ユーモラスな可愛さにほっこりする。
⑨はチップチューンっぽい音色も楽しい、レトロの感覚のキュートポップスで胸がキュンとする。⑪はオシャレなジャズポップで、フレンチポップ度数の高い囁く歌声がアンニュイである。
⑫は本作の中でも意表を突く、冬がテーマの美しいバラード。センチメンタルなメロディーや切なさと可愛らしさの両方を兼ね備えた歌声が光る名曲である。元々メロディーセンスが良いグループであったが、この曲での感傷的な旋律はその力量が十二分に発揮されており感動的だ。
情報量の多いサウンドを展開しながらもしっかりとポップで可愛らしいのが良い。またシンプルな音で純粋にメロディーと歌声で勝負した⑫などを聴くと逆に音楽的な懐の深さが分かるし、ポップミュージックとして色々な楽しみ方ができる内容となっている。
キュプラ|フレネシ
2009/6/3 乙女音楽研究社
1. アセテート
2. nero
3. 仮想過去
4. 覆面調査員
5. スカイバストーキョー
6. スプロウル
7. ローウィッツアーク
8. わたしのイエスマン
9. 砂と硝子
10. マージナル
11. サバラン
12. キュプラ
13. 超臨界流体
熊崎ふさ子によるソロユニット「フレネシ」の1stアルバム。1990年代後半から活動しているという実力派才女で、本作以前にもハモンドオルガン奏者の河合代介とのユニット「blueno」名義でも作品を発表するなどで話題となった。
音楽的には乙女チックな世界観が特徴的な渋谷系ポップスで、8歳でささやき声しか出なくなったというフレネシの歌声にベストマッチしたオシャレで独創的な雰囲気の曲が楽しめる。
優雅な気分に誘われる短曲①に続く②からフレネシ独自のキュートな歌い回しが炸裂しており耳を惹きつける。サウンドやメロディーも上質な雰囲気を感じるもので、なんだか気恥ずかしい気分になれるのも良い。
③はレトロな感じがするサウンドと歌メロなど陽気なウキウキ感が楽しいナンバー。上機嫌でお買い物に行けそうなビートである。
④は個性的なフレネシワールドに引き込まれるキラーチューン。媚びるような可愛さではなく、自身のキュートなフィーリングを生み出すこだわりやインテリジェンスも感じさせる乙女な雰囲気が彼女の真骨頂。
⑤は不思議な感覚をもたらす音響や歌声の透明感が、日常から非日常に迷い込んでしまったかのようで楽しい。⑥も摩訶不思議な迷路に入ってしまったかのような現実離れした可愛い雰囲気に癒される。
⑦はユーモラスな歌唱の表現力に驚かされる。このボーカルテクニックは聴きごたえがある。
⑩はオールディーズ風味の雰囲気で、ダンサブルなリズムに体が揺れる。
アルバムタイトル曲⑫は、シンプルなピアノ伴奏と飾らない歌声が作り出すリラックスできる雰囲気が良い。
フレネシの『尖った可愛さ』を追求する姿勢がよく伝わる傑作アルバムである。ポップミュージックとして普遍的な魅力があるものを作りながら、同時に自分自身のオリジナリティも開花させているのは凄いの一言だ。
転校生|転校生
2012/5/2 EASEL
1. 空中のダンス
2. 人間関係地獄絵図
3. 東京シティ
4. エンド・ロール
5. ほうかご
6. 家賃を払って
7. ドコカラカ
8. 傘
9. パラレルワールド
10. きみにまほうをかけました
水本夏絵によるソロ・プロジェクト「転校生」の1stアルバム。熊本県出身のシンガーソングライターであり、本作が現在のところ唯一のアルバムとなっている。
ふんわりとした可愛らしい声で歌われる内省的で繊細な世界観は生々しい感情が溢れるものである。そしてそのリアルな感情をポップミュージックとして美しく昇華しているのが素晴らしい。孤独で鬱屈しながらも同時にドリーミーでキラキラしているところが転校生の音楽の真骨頂と言える。本作はその才能の輝きがいっぱいに詰まった1枚だ。
冒頭①はピアノを主体とした美しいサウンドと詩的な言葉を感情豊かに歌い上げるボーカルが心に刺さる。悲しみや孤独、そして自殺念慮を独自の目線で表現した歌詞はまるで詩人のようで儚い魅力があり、感傷的なメロディーや情緒的な歌声と見事にマッチしている。
②は陽気な雰囲気だが歌われている内容は自虐的で辛辣さがある。痛々しい歌をチャーミングな魅力で包んでキュートポップにしてしまうのはさすがと言える。
③は東京への憧れをストレートに歌うオシャレポップス。サウンド面ではマーチング風のドラムリズムにインパクトがあり、フックのあるメロディーも良い。この曲はかなり技巧的で驚かされる。④は感動的なサウンドでじわじわと盛り上げて、サビの力強いエモーショナルなメロディー&ボーカルにグっとくる王道的なバラード。⑤はシンプルなピアノ伴奏を中心にした、しっとりとした雰囲気のサウンドに独白するような等身大の歌声がベストマッチ。このやるせなさはどっぷりと浸っていたくなる魅力がある。⑦はパワフルな躍動感というか微妙にやけくそな感じがあるアップテンポなポップチューン。文学性のある歌詞もユニークで面白い。
⑨は不思議な感覚をもたらす中毒性の高い曲で、サウンドアレンジも凝っており聴きごたえがある。
アルバム通して彼女個人の様々な感情が渦巻いており、ポップセンスが優れているので聴き手をこの独自の世界観に引き込む力がある。
聴き心地が良いが、同時に切なさで胸が締めつけられる。もっと作品を聴いてみたかったが、この1枚だけだからこその瞬間の刹那を感じることができる名盤である。
九伝|ばってん少女隊
2024/11/13 BATTEN Records
1. トライじん
2. My神楽
3. it’s 舞 calling
4. ureshiino
5. でんでらりゅーば!
6. サニー・サイド・スリープオーバー
7. あんたがたどこさ~甘口しょうゆ仕立て~
8. ヒナタベル
9. BAIKA
10. でんでらりゅーば!feat.Daoko Produced by GuruConnect
2015年に九州を拠点に活動を開始したアイドルグループ「ばってん少女隊」の5枚目となるアルバム。ももいろクローバーZなどが所属するスターダストプロモーションが手掛けるグループであり、初期の頃はスカコアやメロコアなどのパンキッシュな作風が特徴的であった。
2020年に発表したシングル『OiSa』が、地元福岡のお祭りである博多祇園山笠をモチーフにしたエレクトロポップで、有線で多くの人の耳を捉えて一躍注目される存在となった。
伝統音楽とEDMを融合させた個性的なダンスポップからシティポップまで幅広い要素を持った洗練されたポップスは、2020年代アイドルポップの新スタンダートとも言える。
冒頭①はケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)が手掛けた、フラメンコ+EDMという透明感のあるエレクトロポップで、軽やかに舞うように曲調が変化していくのが刺激的で面白い。容易にイメージが湧くアイドルの瞬発力を上手く音楽として昇華したキラーチューンである。②は可愛らしい電子サウンドとリズミカルなボーカルが、おもちゃ箱をひっくり返したようなドタバタ感を生み出しており楽しい気分になれる。PARKGOLFが作曲・編曲しており、かつての渋谷系フューチャーポップを思い出すサウンドである。③は前述した『OiSa』を手掛けた渡邊忍(ASPARAGUS)が提供した楽曲。ナチュラルな雰囲気が親しみやすいキュートポップスで、特に矢継ぎ早に歌うボーカルが巧みで耳を惹きつける。
⑤は長崎の手遊び歌『でんでらりゅうば』をフューチャーしたユニークなラップソング。作詞はDAOKOがしており、⑩は彼女をゲストに迎えた別ヴァージョンとなっている。伝統音楽を取り上げているが音楽センスが今風というか、音楽情報が溢れている現代社会ならでは曲だ。⑦も肥後手まり唄『あんたがたどこさ』をキュートなエレクトロポップに仕上げている。作詞がRachel(chelmico)、作曲・編曲がPARKGOLFという面白い組み合わせである。
⑧はアイドルらしいエネルギッシュに弾けるクリスマスソングで胸がキュンとなる。
とにかく圧倒的な完成度に驚く内容である。良い曲というだけではなく音楽的な面白さをとことん追求しており、アイドルポップの最先端というに相応しい1枚だ。
episode|plums
2021/5/19 FrengersRecord/sambafree
1. 僕の世界
2. ナンバー
3. すべて
4. 夢想
5. おとぎ
6. 優しい嘘
7. エピソード
2013年に高校の軽音楽部で結成された北海道小樽のシューゲイザー/ドリームポップバンド「plums」の2枚目となるミニアルバム。
きのこ帝国に影響を受けたというセンチメンタルなサウンド&メロディーとボーカルを務める吉田涼花の感情豊かな美しい歌声は、ドリーミーなトリップ感があり心に癒しと潤いをもたらす。特に歌メロの良さとボーカルの柔らかい声質や歌唱の表現力は特筆すべきものがあり、ノスタルジーを感じる雰囲気も良い。
誰もが大人になるにつれて失ってしまったものを再び見つけ出せるかのような優しさや煌めきが心に響く1枚だ。
冒頭①は切なさと儚さが同居した内省的な雰囲気に心が揺さぶられる。優しく耳を包み込む安らぎがある一方で、やるせなさで胸が締めつけられる。眩い光のような轟音ギターや情緒たっぷりの歌声も心の内側に迫るもので生々しい魅力がある。②は爽快で甘酸っぱい『青春ギターロック』のキラーチューン。感傷的なサウンドの良さはもちろんのこと、吉田涼花の声質自体がジュブナイル小説のような情景が浮かぶのである。③はミドルテンポでじっくりと盛り上げる、幻想的な揺らぎが美しいナンバー。一言で表せば『ドラマチックでエモい!』というありふれた言い方になってしまうが、plumsの奥深さを感じる力作である。⑤もしっとりとしたパートから轟音ギターが鳴り響き感情が爆発する。静から動へとエモーショナルに展開される王道的なサウンドは期待を裏切らない。
⑦はアコースティックギター主体の可愛らしい歌で、意味深な歌詞も興味深い。
サウンドは音質も良く、ダイナミックな高揚感が得られるもので文句なし。作詞・作曲も担当する吉田涼花の心の内面に入り込むような個性的な世界観と光が溢れ出すような歌声がとにかく耳を惹きつける。
SIRENS|空色ナイフ
2016/4/28
1. セイレーン
2. LIVEWELL
3. リトル・ストーリー
4. 夏の雨
5. 螺旋状のアリア
6. 空色
7. 月と青猫
8. 叫びと祈り
「日々の憂鬱や焦燥を切り開く音楽」をテーマに作品を発表している同人サークル「空色ナイフ」の1stアルバム。
サークル主・ユヤによる詩的世界観をオルタナティブロック系のサウンドと女性ボーカル(めらみぽっぷが担当)で表現している。注目は本作でメインの作曲・編曲を手掛ける松本文紀である。主に美少女ゲームの音楽を手掛けており、2010年の『空気力学少女と少年の詩』から始まり、『さくらとことり』(2013)、『櫻ノ詩』(2015)、『刻ト詩』(2023)と名曲を連発。
女性ボーカルの透明感やキュートな声質に合う楽曲として【これしかない!】という理想的な旋律を生み出す奇才である。本作はタイアップなしでその音楽センスがたっぷりと楽しめるお得な内容。ユヤ、松本文紀、めらみぽっぷが作り出す美しく幻想的な世界観に引き込まれる1枚だ。
冒頭①から期待を裏切らず、松本文紀節が炸裂。エモーショナルなギターの音色と切ないメロディーを歌う透明感あるボーカルがファンタジックな物語の幕開けを告げる。続く②も勢いそのままにメロディアスに疾走し、情緒たっぷりの歌いあげるボーカルに胸が熱くなる。
③はミステリアス&ドラマチックな雰囲気にぞくぞくするナンバーで、こちらも切なくて熱い。④はミドルテンポでじっくりと盛り上げる曲で、ギターリフと歌メロの良さが印象に残る。⑤はシンフォニック系のプログレっぽいインスト曲で、美しいピアノの旋律を主体に各楽器が奏でる刺激的なアンサンブルが楽しめる。
⑥は本作では唯一松本文紀ではなくアルクが作曲した楽曲。アルバムの中で浮いた印象はなくしっかりとこの世界観に溶け込んでおり良い。
⑧は幻想的な揺らぎのあるサウンドが切ない雰囲気をぐいぐいと盛り上げてくれる。耳に残るサビのメロディー、透き通った歌声や歌詞の美しさなど、ドラマチックな淡く儚い感傷に気持ち良く浸れる。
ユヤが紡ぎ出す物語を松本文紀が見事に音楽として表現した力作である。オルタナティブロックを主軸にしながらも女性ボーカルということを考慮した曲作りはさすがの一言で、その才能が存分に発揮されている内容だ。
STRUGGLE TO SURVIVE|G-SCHMITT
1989/8/15 ヴェクセルバルク
1. Kの葬列 (K)
2. Catholic
3. Limit
4. 千夜一夜 (The 1001 Nights)
5. Farewell
6. Waltz
7. Mescaline Dream
8. 赤い華 (Belladonna)
9. Lotus Garden
10. Someday Somewhere
11. Grand Circle
12. Public Game
13. Farewell
1983年に結成されたゴシックロック/ポジティブパンクを基調としたバンド「G-SCHMITT」(G-シュミット)のベスト盤。
AUTO-MODのジュネが主催するポジティブパンク専門のインディーズレーベル『ヴェクセルバルク』を代表する女性ボーカルバンドである。音楽性はUKポジティブパンクからの影響から受けた耽美感あるダークで幻想的なもの。
ボーカルを務めるSYOKOが持つ独自の美意識やカリスマ性のある雰囲気がこのバンドの肝であり、その透明感ある儚い歌声は、今聴いても色褪せない美しさを感じる。
冒頭①は名作コンピレーション・アルバムである『時の葬列』に収録された曲で、儀式のような荘厳な雰囲気に引き込まれる。祈りを捧げるようにも聴こえるSYOKOの歌声は気高い気品を感じるもので、孤高の歌姫と呼びたくなる存在感がある。
②は『時の葬列』に収録された曲の再録ヴァージョン。イントロのギターから幻想的な世界観に誘われる。暗黒の深淵という感じの雰囲気と圧倒的なカリスマ性を帯びた感情豊かな歌声にインパクトがあり、メロディーもキャッチ―なのでこのバンドの魅力がストレートに伝わる1曲である。③はソフトなアレンジで聴きやすいアイドル歌謡風の歌モノで、大衆性も獲得できそうな路線である。
⑤はしっとりとしたバラードで、繊細な感情が伝わる切ない歌声と幻想的なサウンドはガラス細工のように美しい。また⑬は同曲のヴァージョン違いであり、こちらはアップテンポなニューウェーブ・ロック色が全開のアレンジが楽しめる。⑥はタイトル通り幻想的なワルツで、刹那的な儚い世界観はSYOKO独自の【美】へのこだわりが感じられるものである。
⑦は意表を突くプログレッシブな展開が冴えている名曲。なんの脈絡もなく突然導入されるジャーマンプログレを彷彿とさせるシンセサイザーの音色が異空間にトリップするかのような感覚をもたらし最高。このバンドのサウンド面での面白さがよく分かる1曲だ。
⑧はアグレッシブなギターの音色がカッコよく、ボーカルも魂の熱唱という感じがエネルギッシュで良い。G-SCHMITTの中でもダイナミックな高揚感が得られるナンバーで、ポップな魅力がある。⑨はアンビエント風味の歌モノで、意味深なポエトリーが良い。一風変わった方向性ではあるが、バンドの懐の深さを感じさせる。⑪は壮大で感動的なバラードで、特に叙情的なギターフレーズが感情を刺激する。
ベスト盤というとことで代表曲も多く収録されている充実した内容である。インディーズバンドならでは独創的な作風は刺激的なもので、【孤高の美】を体現するようなSYOKOの歌姫としての魅力が存分に楽しめる1枚である。
メルクリウス|いんど猫
1990/8/21 日本クラウン
1. ムネモシュネー
2. 逆行
3. カプリチオ
4. 境界線
5. 極楽鳥
6. 月の光
7. 水の中
8. 白日-HA・KU・JI・TSU-
9. クラック・オブ・ドゥーム
1986年に結成されたガールズバンド「いんど猫」の1stアルバム。
バンドブームの中でもサイケデリックな作風で異端の存在感がある音楽性で、TBSテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(イカ天)に出演したことで一躍世間的にも知名度を獲得した。イカ天に出演したというポピュラーな経歴ながらもZELDAに通じるようなひねくれたニューウェーブロックは、アンダーグラウンドな雰囲気を感じるもので、アクの強い独創的な世界観がユニークな魅力を放っている。
冒頭①からサイケデリックな雰囲気全開の揺らぎを感じる演奏と個性的な歌唱を聴かせるボーカルなど、その独自のバンドグルーヴに引き込まれる。不穏な空気を漂わせながらもしっかりとメロディアスに仕上げており良い。
②はミドルテンポでじっくりと聴かせるヘヴィなナンバーで、気だるい雰囲気が心地良い快感をもたらす。
③はプログレ風味あるドラマチックな展開が光る曲で、幻想的な儚さを静から動へとシンフォニックに表現している名曲である。
④は美しいアコースティックギターのイントロからじわじわと盛り上げていく長尺の曲。いんど猫節みたいなものが確立されているとよく分かる構成である。
⑤は土着的な歌モノとしてインパクトがある曲で、民族音楽風のメロディーと気持ち良いギターリフが耳に残る。不思議な世界に誘われるような未知のドキドキ感が楽しい1曲である。
⑦はダンサブルなリズム、アグレッシブなサウンドに呪術的にも聴こえる歌声がばっちりとハマっておりインパクトがある。ポストパンク色が強い曲と言えそうだ。
⑨は大地を感じさせる壮大な世界観を美しく歌い上げており、それを最大限に盛り上げるメリハリのある演奏が良い。
今聴いてもかなり面白い音楽センスを持ったバンドである。考えてみればイカ天に出演したバンドは人間椅子やたまといった本来はアングラで愛されるバンドも多かったのだ。このいんど猫もバンドブームの中で自身の立ち位置を模索していたバンドだったと言えるだろう。
バニラビーンズ|バニラビーンズ
2009/2/25
Tokuma Japan Communications
1. Opening (Instrumental)
2. サカサカサーカス
3. U□Me
4. happy merry-go-round
5. 気まぐれなパレットタイプ
6. Winter Has Gone
7. あしたはあしたの夏がくる (Album Ver.)
8. Afternoon a Go-Go (Album Ver.)
9. Shopping☆Kirari (Album Ver.)
10. ニコラ
11. バニラード
12. Ending (Instrumental)
13. Afternoon a Go-Go -We Love You Mix- (Remastering Ver.) (Encore)
14. Shopping☆Kirari -掟ポルシェ+Dr.USUI Waterfront Mix- (Remastering Ver.) (Encore)
15. あしたはあしたの夏がくる -掟ポルシェ+Dr.USUI Death Techno Mix (Remastering Ver.) (Encore)
16. (エンハンスド)サカサカサーカス (Promotion Video)
2007年デビューした2人組のアイドルユニット「バニラビーンズ」の1stアルバム。
『北欧の風にのってやってきた』というキャッチ―コピーで分かる通り、The Cardigansに代表されるスウェディッシュ・ポップ要素をふんだんに含むオシャレでキュートなポップスは清涼感に溢れており胸キュン必至。
新しいスタイルのアイドルポップであったこともあり、音楽シーンで大きな注目を集めた。
渋谷系ミュージックを標榜するアイドルとしては代表的な存在であり、音楽的にも「キュート」(可愛い)という部分では並ぶ物がいないほど強烈に可愛らしい魅力がある。
爽やかなインスト①に続く②は、おもちゃ箱をひっくり返したようなワクワクするサウンドと可愛らしい歌声に胸躍る。細部にまでこだわりを感じる優雅な音色や透き通ったメロディー&ボーカルなど、とにかく聴き心地の良さは特筆すべきものがあり、パーフェクトな出来のポップソングと言っていいだろう。
続く③も上質で爽やかなポップスで、自然と耳に馴染む柔らかさはさすがである。そしてとにかく2人の歌声が可愛くて癒される。
④はソフトな音と歌声でドリーミーな甘い気分を届けてくれる。⑤はゆったりとまろやかな雰囲気のファンシーなナンバー。バニラビーンズにはこういったまったりとした楽曲も声質的には相性ぴったりな印象だ。
⑦は口ずさみたくなる歌メロと前向きな気分になれる歌詞が良い。ネオアコ気分の夏という感じでほっこりする。
⑧はお天気のいい日に散歩しながら聴きたくなるウキウキするポップチューン。
⑩はイントロ~歌い出しから魔法に掛けられたように耳が惹きつけられる名曲。どこかノスタルジックな余韻を残すのも良い。数多くあるギターポップや渋谷系などの音楽要素があるアイドルソングの中でも屈指の出来である。まさにグッドミュージックという言葉を具現化した旋律であり、多くの人の心を捉える煌めきが感じられる。
ボーナストラックとしてリミックスが収録されており、大胆なアレンジバージョンを楽しむことができる。
衝撃的なほどに完成度が高いアルバムである。オシャレではあるが聴き手を限定しない柔らかい雰囲気がとにかく良い。ここまで心を癒してくれるアイドルポップも珍しい。
RIDE|Subway Daydream
2023/1/18
RAINBOW ENTERTAINMENT
1. Skyline
2. Timeless Melody (Album ver.)
3. Radio Star
4. Stand By Me
5. シュガードーナツ (Album ver.)
6. ケサランパサラン
7. Yellow
8. Pluto
9. Twilight (Album ver.)
10. The Wagon
2020年に結成されたロックバンド「Subway Daydream」の1stフルアルバム。
ギターポップ、シューゲイザーなどのインディーロックエッセンスが効いた瑞々しいサウンドとキラキラした魅力がある力強いメロディーやボーカル・たまみの思い切りの良い歌声は、大空を突き抜けるような爽快感に満ちている。
「REBECCA」や「JUDY AND MARY」から脈々と続く無敵感あるポップネスを持つ女性ボーカルバンドに通じる輝きを持っており、前向きな気持ちになれるパワーを届けてくれる。それがこのバンドの大きな魅力となっている。
冒頭①はシューゲイザー風の浮遊感と透明感ある歌声が特徴的で、センチメンタルな感傷に気持ち良く浸らせてくれる。
②はギターポップエッセンスが光るエバーグリーンな1曲。煌びやかギターと文字通りタイムレスなメロディーの歌に胸躍る。
③はパワーポップ調のメリハリのあるサウンドとグッドメロディーが耳を強烈に捉える。憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれそうなパンチのあるボーカルも良い。タイトルで分かるが、「The Buggles」の『Video Killed The Radio Star』と同じポップミュージックの普遍性を感じる名曲である。④はメロディックに疾走する直球の青春ロック。小気味よいビートとキャッチーな歌というシンプルな作風はエネルギッシュで気分も上がる。⑤は心に沁みる爽やかなポップロックで、温かいメロディーや真っ直ぐと歌うボーカルなどポップソングとしての良さが際立っている。⑥は口ずさみたくなる歌メロが親しみやく、ウキウキ陽気な気分になれる。
⑨はイントロのギターを聴いただけで甘酸っぱい気持ちになり、一瞬で良い曲だと確信できる。インディーロック系のサウンドながらもその枠には留まらない記憶に残るメロディーラインが素晴らしい。⑩はまさに元気をくれる女性ボーカルバンドの王道的なポップロックチューン。このバンドならではの音楽の魔法を体現する雰囲気は本当に良い。
数多くいる2020年代のインディーズ女性ボーカルバンドの中でも、期待を裏切らない王道感や良い曲が聴ける信頼感という部分ではピカイチの逸材である。音楽が多様化した今だからこそ逆にこの路線が求めてられていると感じる。
LUCKY|Lucie,Too
2018/2/7 THISTIME RECORDS
1. Lucky
2. キミに恋
3. Siesta
4. ドラマチック
5. 幻の恋人
6. May
7. リプレイ
2016年に結成されたガールズバンド「Lucie,Too」の1stミニアルバム。
2017年に初音源となるシングル『Lucky』を配信リリースすると各所で話題になり、MVも爆発的な再生回数を記録している。音楽性はギターポップを基調とした女性ボーカルインディーロック王道のど真ん中。
躍動感があるギターの煌びやかな音色、グッドメロディー、飾らない自然体の歌声と三拍子揃った清涼感あるポップロックを楽しむことができる。
冒頭①は前述のブレイク曲となった軽快なポップチューン。短い楽曲であるが、ギターのキラキラした音色とじわじわとくる歌メロの良さが光る。また歌詞内容は直球のラブソングだが、それとは対照的な等身大の淡々とした歌声が、リアルな感じがして好感が持てる。
続く②も爽やかなギターポップでメロディックに疾走する。ここでもギターの音色が耳を惹きつける。③は春に散歩しながら聴きたくなる感じで、明るいがどこか切ない余韻を残すのが良い。⑤は女性ボーカルだからこそのチャーミングなセンスが効いているキュートな歌。インディーロックとしては満点を上げたいドライブ感あるサウンドも素晴らしい。
⑥もセンチメンタルな気分になれる歌とアグレッシブなサウンドのバランスが良い。
⑦はバラード調の切ない曲で、静かな曲調ゆえに歌声の美しさが十二分に伝わる。
近年のインディーロックの定番であるノイジーな音ではなく、品のある綺麗なサウンドの響きにこだわりを感じるところが良い。バンド自身による手作り感が親しみやすい雰囲気を作り出しており、多くの人を虜にしたのも頷ける内容である。
Somehow hear songs.|cattle
2015/7/8 ZERO COOL
1. Somehow hear
2. Bit and little
3. Fluff
4. Amy
5. Blue star
6. Birth
2013年に結成されたシューゲイザーバンド「cattle」の1stミニアルバム。
バンド名は岩井俊二の映画『リリイ・シュシュのすべて』に登場する架空のライヴハウスからつけたという、聴く前から期待してしまうバンドである。プロデュースはZEPPET STOREの五味誠。インディー系のシューゲイザーバンドの中でも随一の洪水のようなノイジーな轟音ギターの強度やドリーミーなメロディー&透明感あるボーカルが生み出す浮遊感は聴いていて気持ちが良い。メロディックな旋律と暴力的なノイズギターが絶妙なバランスで成り立っており優れた内容の1枚だ。
冒頭①からドリーミーな雰囲気抜群のメロウな歌とノイジーかつダイナミックに響く轟音ギターで幽玄な世界に誘われ、気持ちの良いトリップ感が得られる。シューゲイザー/ドリームポップと聞いて頭に浮かぶイメージを具現化したような理想的な出来であり、ボーカルの素直な歌い回しもキュートで良い。続く②もメロディックに疾走するギターロックで、ハードなサウンドとセンチメンタルメロディーが上手く同居しておりとても良い。
③はこのバンドが鳴らすサウンドの存在感これでもかと感じられるナンバー。ノイズギターの嵐が美しいガラス細工のように繊細に響き渡る。轟音であるのに甘美な聴き心地の良さを感じるのが素晴らしい。④は爽快な疾走感とドライブ感、そして清潔感ある女性ボーカルと、ギターロックのお手本とも言える傑作。⑥は最後を飾るに相応しい幻想的な揺らぎが見事で、疲れた身も心も解放される。
分厚いサウンドとギターポップセンスが光るメロディー、飾らない魅力があるボーカルなど、これぞインディーロックの神髄と言いたくなる傑作である。特に印象に残る美しい爆音ノイズギターの音色が耳に残るもので良い。
The Best of Bonjour Suzuki|ボンジュール鈴木
2017/8/9 2.5D PRODUCTION
1. 甘い声でちくってして
2. キミと恋したいのです
3. ごめんあそばせ
4. 21時のクラゲと月
5. Tick Tock Skip Drop
6. Lollipopシンドローム
7. 金魚
8. Pipo Password
9. Lovin’ You
10. 5番目のPoupee “コレット”
11. 私こぶたちっく
12. allo allo
13. アゲハ蝶の破片とキミの声
14. 月のかけてく夜に
15. PM9:55
16. Je ne sais pas pourquoi
17. あの森で待ってる
ヨーロッパ風のキュートなポップスを聴かせてくれる女性シンガーソングライター「ボンジュール鈴木」のベスト盤。まずアーティスト名がユニークで、名前だけで西洋の優雅なイメージが湧いてくる。いわゆる宅録系のアーティストであり、囁くような甘いロリータボイスとエレクトロポップやラップを取り込んだレトロな感覚のポップスは海外でも受け入れられそうだ。印象としてはMylène Farmerを全力でロリータ趣味にしたような感じである。その独自の美意識によって表現される耽美的な世界観は一風変わった魅力がある。
冒頭①からタイトル通り甘い歌声が強烈で、フレンチポップスっぽい雰囲気も良い。とにかく個性的な歌い方はインパクトがあり、彼女オリジナルの『可愛さ』に対するこだわりが強く感じられる。②はウィスパーボイスのラップと幻想的なメロディーが、童話のような世界に誘ってくれる。曲構成も刺激的で面白く、この声でラップするのは反則技である。
④はESNOがボンジュール鈴木をフィーチャリングした楽曲。透明感あるキュートボイスでラップしており、サビの叙情的なメロディーをふわふわと歌うのが印象的である。この曲は結構シティポップ的な部分もあるので親しみやすい。⑥は1980年代のエレポップ感あるダイナミックなポップセンスが光るキラーチューン。ダンサブルなビートにロリータボイスが見事にマッチしている。⑧はTeddyLoidとのコラボレーションで、重厚なエレクトロサウンドと透き通った歌声が違和感なく組み合わさり聴き心地が良い。⑪はラップとメロウな雰囲気で押すお得意のスタイルだが、普遍的なポップミュージックに距離が近いと感じる洗練された作風で聴きやすい。⑫はうっとりするほど美しくロマンティックで、形容しがたい切なさに胸が締め付けられる。⑬は妖精の囁きかと思う幻想的なボーカル処理がとても印象的。⑮はバラードとして優秀な綺麗なメロディーが心地良い。
⑰はアニメにタイアップされた有名な曲で、作曲センスが遺憾なく発揮されたメロディアスな旋律が耳に残る。
ベスト盤ということもあり、粒ぞろいの曲が揃っている充実した内容である。独創的な世界観ながらもしっかりとメロディアスに仕上げるセンスはさすが。ラップパートは音楽的にもかなり面白いので聴きごたえがある。