HOPE|遊佐未森
1990/9/21 ピックレコードジャパン
1. Forest Notes
2. 雨あがりの観覧車
3. いつの日も
4. 雪溶けの前に
5. Holiday of Planet Earth
6. 夢をみた
7. 午前10時午後3時
8. 君のてのひらから
9. 夏草の線路
10. Echo of Hope
11. 野の花
1988年にデビューしサブカル界隈では絶大な支持を獲得したシンガー/ソングライター「遊佐未森」の4枚目となるフルアルバム。代表作である『空耳の丘』、『ハルモニオデオン』に続く空耳三部作といわれるアルバム群のラストとなる作品。サウンドプロデュースは前二作に続いて外間隆史で、ファンタジックで個性的な世界観と澄んだボーカルの魅力はそのままに、更に洗練されたメロディーとサウンドの楽曲はポップソングとして圧倒的な完成度を誇っている。
遊佐未森の楽曲群の中でも決定的な名曲といえる⑥と⑨は、日本のポップスとしても歴史に残る素晴らしい曲である。⑥は日常(青春)とファンタジーが上手くかみ合わさったドラマ性のある曲で、心に響くメロディーと歌詞は特筆すべきものがある。⑨はケルト音楽風のサウンドと日本の普遍的な美しい夏景色を描写した清涼感のある名曲。他にも心に染み渡るノスタルジックな②やタイトルからしてSFっぽい⑦、トラッド風のバラード⑪など良い曲揃いである。
全盛期の遊佐未森のひとつの完成形の作品であり、独自のファンタジックな箱庭的世界に引き込まれる名盤である。
水の冠|鈴木祥子
1989/4/21 エピックレコードジャパン
1. Swallow
2. サンデーバザール
3. 水の冠
4. 電波塔
5 . Get Back
6. 最後のファーストキッス
7. 月の足音
8 . Sweet Basil
9. ムーンダンスダイナーで
同業のミュージシャンからも非常に高い評価を受ける女性シンガーソングライター「鈴木祥子」の1989年リリースの2ndアルバム。
卓越した作曲センスとドラムを始め多彩な楽器を演奏できるスキルを持ち、天才と言われることも多かった鈴木祥子だが、初期は同じエピックの遊佐未森と同じくサブカルのアイドルといえる存在で、彼女が瑞々しい透明感のある声で歌い上げるセンチメンタルで幻想的な世界観の文系ガールポップは心に癒しを与えてくれる。本作は全曲鈴木自身の作曲の他、作詞は川村真澄、メインアレンジは佐橋佳幸が手掛けている。
冒頭を飾る①はデビュー曲である『夏はどこへ行った』の流れにあるアコースティック曲で、彼女の澄んだ歌声が美しく印象的な傑作。②は異国の雰囲気を感じるドラマチックで切ない曲。物語として伝わる歌詞も秀逸だ。美しいメロディーと可愛らしいボーカルで胸キュンと締め付けられる③は映画のようなロマンチックな名曲。アニメにタイアップされた⑥と並んで彼女のキュートな魅力が楽しめる。⑤はネオアコといえるサウンド、メロディー、歌い回しなどすべてパーフェクトなガールポップの名曲。⑧はキュートな曲だが、歌詞は一筋縄ではいかない怖さがあり面白い。アルバム通して捨て曲が一切ない、素晴らしい出来の名盤だと思う。
4 to 3|小川美潮
1991/2/21 エピックレコードジャパン
1. デンキ
2. Four to Three
3. 夜店の男
4. 野ばら
5. On the Road
6. 記憶
7. ほほえみ
8. 天国と地獄
9. 窓
10. おかしな午後
音楽グループ「チャクラ」のボーカルであった「小川美潮」が1991年に発表した2枚目となるアルバム。本作から本格的なソロ活動を始めており、その後の『ウレシイノモト』、『檸檬の月』と共にEPIC3部作という位置づけのアルバムである。板倉文や近藤達郎などチャクラ時代からのお馴染みの作家陣によるポップな楽曲と小川美潮の透明感あるふんわりとしたボーカルに心が癒される1枚。
自身の作曲である①は、じっくりと心にしみわたるメロディーと恋をした瞬間のときめきを上手く表現したサウンドがばっちりとハマった名曲だ。工藤順子によるストレートな歌詞と乙女心を感じる歌声も素晴らしい。アルバムタイトル曲である②は、板倉文による洒落たシティポップなアレンジが心地良くて、小川美潮の天真爛漫なボーカルに元気を貰える。祭りがテーマの③は、近藤達郎によるパーカションアレンジが印象的な和を感じる壮大な曲。⑥はファンタジックなワールドミュージック色が強い曲でコーラスが美しい。⑨は感動的なバラード曲でエモーショナルな歌唱は圧巻。⑩は1stアルバム収録曲のリメイクで、小川美潮のキャラクターにもあった曲といえるだろう。
小川美潮と実力派ミュージシャン達が才能を遺憾なく発揮して、独自の世界観を作り上げている。じっくりと聴かせる良質な楽曲揃いの傑作アルバムだ。
グレープフルーツ|坂本真綾
1997/4/23 ビクターエンタテインメント
1. Feel Myself
2. I and I
3. グレープフルーツ
4. 右ほっぺのニキビ
5. ポケットを空にして
6. オレンジ色とゆびきり
7. 青い瞳
8. 約束はいらない
9. マイ・ベスト・フレンド(「ともだち英語」VERSION)
10. 風が吹く日
11. そのままでいいんだ
声優として活動していた「坂本真綾」が1996年に『約束はいらない』で歌手デビューし、その後にリリースされた1stフルアルバム。アニメ音楽やCMソングを手掛けていた作曲家「菅野よう子」がプロデュース手掛けており、今では本格派女性シンガーとしての存在感を確立した彼女の第一歩となった記念碑的な1枚だ。菅野よう子のじっくりと聴かせることを意識したようなじわじわと染み渡るサウンド&メロディー、岩里祐穂や自身が手掛ける歌詞、当時10代であった坂本真綾の光が差し込むような瑞々しい歌声とすべてが素晴らしい出来である。
冒頭①からサックスが印象的なリラックスして楽しい気持ちになれるような良質なポップナンバーで、菅野よう子の抜群のメロディーセンスが味わえる。②も小気味よい可愛らしいポップチューンでスッと耳に馴染んでくる。③はアンビエント風味と洒落た雰囲気が同居し、聴き手を別世界に連れていってくれる。⑤はアコースティックアレンジが心地良いキャッチーでキュートな曲。デビューシングル⑧は幻想的なサウンドの3拍子ナンバーで、菅野よう子の独自の音符割りは面白さがあり、坂本真綾のあまりにも無垢な歌声に飲み込まれてしまう。神々しさを感じるほどの名曲である。ワールドミュージック調のエスニックな⑨は真っ直ぐな歌声と歌詞が心に響いきて、自然と前向きな気持ちになれる素晴らしい1曲。
デビューアルバムながら菅野よう子独特のセンスを感じる楽曲と坂本真綾のピュアな歌声に存分に浸れる内容で多幸感が得られるアルバムである。
月姫|山口美央子
1983/1/1 Pinewaves
1. 夕顔 ―あはれ―
2. 夏
3. 沈みゆく
4. 鏡
5. 白昼夢
6. 月姫 ―Moon Light Princess―
7. さても天晴 夢桜
8. 恋は春感
CoCoやQlairなどのアイドルポップの名曲を多く手掛けたことでも知られる山口美央子がシンガソングライターとして活動していた1983年にリリースした3枚目となるフルアルバム。長らくCD化されていなかったが、2017年にリマスター音源で初CD化されており、入手がしやすくなっている。
エキゾチックな香りが漂うテクノポップの大傑作で、山口美央子の色気のあるボーカルとミステリアスな雰囲気も相まって、幻想的な世界に取り込まれてしまう。冒頭①はピアノが印象的なしっとりとした空気感の切ない「歌」の名曲。民族音楽のような要素も感じられるが、とにかく問答無用にいい曲である。②は民族音楽的な要素に加えてプログレッシブな曲展開がドラマチックで、アンニュイな雰囲気も最高な名曲。タイトル曲⑥はシティポップといえるファンタジックで可愛らしいテクノポップ。他にも大衆性も獲得できそうなテクノ歌謡の⑦や⑧などもあり、音楽性の振り幅は広くて、楽曲センスも抜群の内容である。埋もれるにはあまりにも惜しい才能の塊のようなアルバムだ。
エポック・ドゥ・テクノ|コシミハル
2009/11/18 ソニー・ミュージックダイレクト
ディスク1
1. ラムール・トゥージュール
2. レティシア
3. スキャンダル・ナイト
4. ラムール…あるいは黒のイロニー
5. シュガー・ミー
6. プッシー・キャット
7. キープ・オン・ダンシン
8. 日曜は行かない
9. プティ・パラディ
10. Belle Tristesse 妙なる悲しみ (bonus track)
ディスク2
1. 龍宮城の恋人
2. Capricious Salad
3. IMAGE
4. サン・タマンの森で
5. メフィストフェレスを探せ!
6. 逃亡者
7. パラレリズム
8. Decadence 120
9. 薔薇の夜会~あるいは甘い蜜の戒め
10. プティ・パラディ (English Mono Version) (MONO) (bonus track)
1979年にデビューした女性シンガーソングライター「コシミハル」(越美晴)がアルファレコード内に細野晴臣が立ち上げたYENレーベルからリリースした1983年作「Tutu」と1984年作「Parallelisme」の2枚を収録した、リマスターされた編集盤CD。
細野晴臣プロデュースのもと本格的にテクノポップサウンドを導入しており、細部まで作りこまれたサウンドと彼女の小悪魔的なボーカルを生かした耽美な雰囲気が魅力のテクノポップである。
ディスク1(Tutu)は、冒頭のヨーロッパ風で耽美的な①がベルギーのテクノポップユニット「テレックス」の日本語カバーで、テレックスのメンバーもゲスト参加している。②はリズムがクセになるサウンドと透明感ある歌声が爽やかな風のように響く。⑤はキッチュでチープなテクノポップという感じで、とってもキュートな作品。⑥は小生意気で小悪魔的な表情を見せるオシャレなナンバー。⑨はみんなのうたで流れても違和感なさそうな親しみやすい曲。
ディスク2(Parallelisme)も前作で流れを受け継いだ内容で、冒頭①はキャッチーな王道のテクノ歌謡で、今聴いても新鮮な感動がある名曲だ。②は耽美的ないじわるな可愛らしさが炸裂しており面白い。⑤は1980年代的な勢いのあるアレンジが印象に残るカッコいい曲。⑧は演劇的なダンサブルなサウンドとリズムに中毒性があり、一度聴いたら忘れられなくなる。
細野晴臣のプロデュースが優れている。非常に完成度が高いサウンドと、彼女のヨーロッパ的な持ち味が絶妙に組み合わさっており、唯一無二の味わいがある。2枚とも1980年代を代表するテクノポップの名盤である。
コンプリート・スーザン|スーザン
2005/2/23 Sony Music Direct
ディスク1
1. MODERN FLOWER IN BOOTS
2. 24,000回のキッス
3. DREAM OF YOU
4. DO YOU BELIEVE IN MAGIC?
5. AH! SOKA
6. FREEZIN’ FISH UNDER THE MOONLIGHT (Eatin’ my backbone)
7. GLASS GIRL
8. IT’S NO TIME FOR YOU TO CRY
9. SCREAMER
ディスク2
1. YOU’RE MY NUMBER ONE
2. 恋せよおとめ
3. TRAINING
4. “BLOW-UP”
5. I NEED YOUR LOVE
6. I ONLY LOVE OUT AT NIGHT
7. GO GO
8. NUIT DE SAINT-GERMAIN (サンジェルマンの夜)
9. TOKYO SUE
10. MY LOVE
11. モダン・ワールド
12. サマルカンド大通り
13. シャボン・ドール
14. 恋はダンス
テクノポップの歌姫「スーザン」がリリースした2枚のアルバム(1980年『DO YOU BELIEVE IN MAZIK』、1981『恋せよおとめ』)とシングルを網羅した全曲集である。YMOの高橋幸宏がプロデュースした、キッチュなニューウェーブサウンドのテクノポップは今聴いても新鮮な響きがある。
ディスク1はまるごとアルバム『DO YOU BELIEVE IN MAZIK』が収録されている。加藤和彦が作曲したキャッチーな②は、スーザンのキュートな歌い回しが魅力に溢れており、ガールポップの名曲といっていいだろう。オールディーズのテクノアレンジカバー④、細野晴臣作曲のまさに当時のテクノポップという感じのユーモア感ある⑤、切ないゴリゴリのエレクトロポップ⑨など、高橋幸宏のアレンジが印象的なややマニアックな作風のテクノポップが多数あり。
ディスク2はアルバム『恋せよおとめ』とシングルのみで発表された曲で構成されている。前作よりポップで聴きやすくなっており、大村憲司による冒頭①から可愛らしいガールポップが楽しめる。②は細野晴臣が提供したテクノ歌謡で、個性的な細野節全開の傑作。④は立花ハジメによる爽快感あるナンバー。⑩は壮大な宇宙のような愛を表現したエレクトロポップの名曲。⑫はシングルのみで発表されたもので、胸躍るテクノ歌謡で良い曲だ。
キュートでポップな胸をキュンとさせる曲から、細部にこだわったコアな楽曲まで様々なテクノポップが楽しめるお得な1枚だ。
Atttack Treatment|ちわきまゆみ
1987/2/4 東芝EMI
1. オーロラ・ガール
2. プリーズ・プリーズ
3. 妖精の海
4. あなたなくなる
5. エンジェル・ダスト
6. ピストル・ソング
7. シネマキネビュラ
8. スキャンドール
9. ムーンライト・マッドネス
10. 遊星少女フィオラ
11. Revenge Of Publison
1980年代にステージでは過激なSM風衣装を着るなどビジュアル面でも話題を呼んだ女性シンガーちわきまゆみの2枚目となるフルアルバム。
沖山優司、岡野ハジメ、ホッピー神山、外間隆史からJUN(THE WILLARD)までバラエティに富んだ豪華作家陣が参加している。グラムロックやニューウェーブを基調としたポップロックで、当時の異名通り「グラマラスロック」な1枚。
代表曲のひとつといえる爽やかな風が吹いてくるような①は透明感あるサウンド&ボーカルが心地良いポップロック。⑦は外間隆史と岡野ハジメによる王道的なグラムロックナンバー。メリハリのついたロックサウンドとキャッチーなメロディー、ちわきまゆみの自信たっぷりに歌い上げる挑発的ボーカルが気分をアゲアゲにしてくれる。そして注目はピンキー青木とJUNが提供したご機嫌なロックンロール⑩である。ちわきまゆみのチャーミングな魅力がよくでており、憂鬱を吹き飛ばすような爽快感が気持ち良い名曲である。
今聴くと多少サウンドに古さを感じるものの、1980年代ロックの熱量がたっぷりと詰まっており、楽しめる内容のアルバムだ。
HURTS|大塚純子
1990/7/21 ソニー・ミュージックレコーズ
1. HURTS
2. Be With You
3. So Sorry
4. Dreamers’Shuffle
5. 星降る夜に
6. シューズ・ショップで聴いた歌
7. はだかの窓
8. オフィス街のクライマー
9. Money,Money
10. 金網ごしのBlue Sky
大塚純子はソロでは1980年代後半から1990年代にかけて起こったガールポップムーブメントの全盛期に活躍していた女性歌手。90年代後半にはSPEEDのプロデュースで有名な伊秩弘将のユニットThe gardensのボーカルとして活動していた。本作はそんな彼女の90年にリリースされた1stアルバムで、伊秩弘将が4曲提供しており、作詞は6曲大塚純子自身が手掛けている。編曲は西本明がアルバムの半数を手掛けており、抜けの良いサウンドと大塚純子の元気でパワフルな歌声、ストレートな青臭い詩と、まさに青春ガールポップといった感じだ。
冒頭を飾る①はシンプル&キャッチ―なロックナンバーで、サウンドに乗る詩も印象に残る傑作。伊秩弘将の作曲だが、90年代後半の彼の全盛期の作品とは一味違う味があり。②はサックスが印象に残るシティポップ度数が高いオシャレなガールポップ曲。シングル曲の③はまさに「90年のガールポップ」といった感じの良曲だ。⑩はテレビ番組熱闘甲子園のテーマとして有名な代表曲のひとつ。青春時代のひと夏にかけた思いを上手く表現している名バラードである。
本作は大塚純子のガールポップシンガーとしての魅力が全開で、問答無用に元気を貰える楽曲の数々は、ぜひ多くに人に聴いて欲しい。
POISON KISS|熊谷幸子
1994/4/8 EMIミュージック・ジャパン
1. WORD GAME
2. 光の鐘を鳴らせ
3. 恋の黙示録
4. Night Flyer
5. Bye Bye My Happy Days
6. 女神とピアニスト
7. そして…
8. 紫陽花の坂道
9. ONE
10. 風と雲と私
1992年にデビューした女性シンガーソングライター「熊谷幸子」の3枚目となるフルアルバム。テレビドラマ『夏子の酒』の主題歌⑩がスマッシュヒットして、一躍J-POPシーンで注目される存在となった。
その⑩はやはり代表曲といえる素晴らしい出来で、いつまでも心に残るこれぞ日本ポップスの名曲と言いたくなる。名バラード⑧も聴いていると情景が浮かんできて、楽曲とボーカルの見事な調和と、その豊かな表現力は凄いの一言。①や②を聴けば分かるように、その独自の作曲センスは才能の塊で、当時の女性シンガーソングライターの中でもひとつ抜けていたといえるだろう。
本作の作詞に関してはマイカプロジェクトが担当しているように、作曲家という意識が高い人である。同業者からも絶賛された作曲スキルが、たっぷりと楽しめる1枚だ。
トワイライトの風|相曽晴日
2001/12/19 ヤマハミュージックコミュニケーションズ
1. トワイライト
2. コーヒーハウスにて
3. 雨の日にはワルツ
4. 舞
5. フルムーンに寄せて
6. 歳末の街角
7. 彼女はまき毛
8. 哀しみのトワイライトゾーン
9. 金糸雀色の風
10. マジカルソング
ヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)で入賞や優秀曲賞をとり、1982年にTDKコアからデビューした女性シンガーソングライター「相曽晴日」の1stアルバム。こちらは後にCD化したものである。
相曽晴日の情緒たっぷりに歌い上げるボーカルと、フォークを基調とした歌謡曲要素を持つ楽曲はじんわりと心に沁みる。本作では全作曲と①②⑥以外の作詞を自身で手掛けており、アレンジにはクニ河内が参加。
①は切ないメロディーとハーモニカ―が印象的で、黄昏時に独り歩く情景が浮かんでくる。
②はノスタルジックな歌謡曲寄りのフォークソングで、青春のやるせなさを描写した歌詞が非常に印象に残る。これはいつまでも記憶に残る名曲だ。デビュー曲の④は幻想的で美しいナンバー。⑧は王道的な癒される切ないバラード。
基本的にはフォーク/歌謡曲だが、シティポップ的な要素も感じさせる。シンプルな美しいアレンジが印象に残り、相曽晴日のソングライティングの才能が遺憾なく発揮された傑作アルバムである。
にんじん +1|佐々木好
2013/09/30 オーダーメイドファクトリー
1. ストレート
2. 残雪草
3. カニさん卯月
4. 21才
5. 客観
6. 終点駅
7. You
8. 雪虫
9. 多分
10. 以前
11.雪虫(シングル・ヴァージョン)
1980年代に活動していた女性シンガーソングライター「佐々木好」が1983年にリリースした2枚目のアルバムにボーナストラックを加えて、再発したもの。
中性的で透明感のある歌声が胸に迫る繊細なフォークソングは森田童子にも通じるものがあり。前作に引き続きアレンジには鈴木茂が参加している。1987年のアルバム『りらっくす』を最後に活動停止しているが、現在でも音楽好きからは根強い人気がある。
①は由紀さおりに提供した楽曲をセルカバーしたもので、佐々木好を代表する曲のひとつといえる。とにかく繊細でナイーブな旋律と、タイトル通り本音をストレートに吐き出す歌詞が心に沁みる。④はキャッチーなリズムに乗った文学的な歌詞が印象的な曲。⑧は冬の訪れを知られる雪虫がテーマの曲で、儚い美しさが感じられ素晴らしい。⑩はやるせない感情が怒涛のように押し寄せて心揺らされる。
佐々木好の歌声が放つ孤独感は強烈なものがあり、ストレートな歌詞と卓越したサウンドアレンジも含め独自の世界観を確立している。特に①や⑧は絶品な味わいがあり、埋もれるには惜しい傑作アルバムである。
GIRL’S TALK|川崎真理子
1993/10/25 WEA JAPAN
1. 失恋はつかれる
2. 知るときがきたから
3. Tea Potラヴソング
4. ティースブラッシング
5. コンビニエンスヘヴン
6. 教えてあげられない
7. ティッシュの箱
8. 電話ベイビー
9. 大好きチャーリー
10. 行かないでね
ロックバンド「UNISEX」のボーカルを務めた「川崎真理子」がソロに転向し発表した1stアルバム。複雑な乙女心を分かりやすく表現した歌詞やひねくれたポップセンスを感じるメロディー、鼻にかかった独自のふにゃふにゃとした歌声などシンガーソングライターとして個性的な才気溢れる1枚である。
良質なポップソング揃いだが、まず注目は槇原敬之が編曲している①の名曲ぶりである。失恋したやけくそな感じとそれを受け入れて前を向こうとしている姿勢が上手く表現されている楽曲で、失恋とバッティングセンターという絶妙な組み合わせの歌詞とクセのあるメロディーは聴いていると情景が浮かんできて素晴らしい。②は煌びやかなサウンドと切ないメロディーが印象的で素直な歌詞も良い。③は乙女チックでドリーミー、何とも言えない味わいがあり、川崎真理子のオリジナリティが良く伝わるナンバー。⑥は王道ガールポップという感じだが、シンプルな曲構成の中でメロディーセンスの良さが光る。⑧はストレートなやさぐれたロックでこういったラフな楽曲とも相性の良さを感じさせる。
①を筆頭に川崎真理子の音楽家としての力量が発揮された充実した内容のアルバムである。やはりボーカルは印象的で、あまり似たタイプが思い浮かばない個性的な歌声であり、それがナイーブな楽曲にぴったりとハマっている傑作アルバムだ。
かれん|桐島かれん
1990/6/27 EMIミュージック・ジャパン
1. 憂鬱な姫君
2. 世界の果てまで追いつめて
3. こんな素敵な日に
4. Traveling Girl
5. はだかになりたい
6. CHATTANOOGA CHOO CHOO
7. LIFE LINE
8. WILD FLOWERS
9. INFINITY
10. FAMILIES(家庭の構造)
モデルであり、第二期のサディスティックミカバンドのボーカルを務めた「桐島かれん」。本作は1990年にリリースされたソロファーストアルバムである。高橋幸宏、鈴木慶一、加藤和彦など非常に豪華なプロデュース/作家陣を迎えた力作で、桐島かれんのキュートでアンニュイな魅力が上手く引き出されている。
森雪之丞、高橋幸宏、鈴木慶一が共作した①は、ワールドミュージック色あるエキゾチックな楽曲の雰囲気がアンニュイな歌声とばっちりハマっており秀逸。いとうせいこう、高橋幸宏、鈴木慶一による②は可愛らしい声質を生かした壮大な世界観のガールポップで、特にサビのメロディーラインがキュートなボイスと絶妙に調和しており中毒性がある。佐橋佳幸が作曲した④は、メロディーセンスの良さが光るクールなポップナンバー。1人旅をテーマにした尾上文による作詞も素晴らしく、淡々しながらも色気を感じるボーカルも素晴らしい。⑦は懐かしさを覚える1980年代的な王道アイドル歌謡で熱くクールに燃え上がる。高橋幸宏、鈴木慶一が手掛けたラスト⑩は澄んだ歌声が印象的なバラードナンバーで感動的、まさにエンディングという感じだ。
シティポップ的な洒落たガールポップとして文句なしの完成度を誇っており、埋もれるにはあまりにも惜しい傑作アルバムである。
時の記憶|福島祐子
1991/10/21 ヴァージン・ジャパン
1. 桜舞い
2. Sensitive Heart
3. ひめた想い
4. 平安栄華
5. 逢いたい
6. MIKO
7. 天球の音楽
8. 雪
9. Army Grief
10. 夏のよるの夢
劇伴を多く手掛けている音楽家「福島優子」の1stアルバム。ミステリアスな雰囲気の幻想音楽という感じで、山口美央子にも通じるようなプログレ風味もある『和』の世界観が楽しめる1枚。
冒頭①から美しいピアノの音色とウィスパーボイスでファンタジー世界に誘ってくれる。続く②は透明感あるシンセサウンドが印象的で、パワフルなギターと囁くような歌声と一体となり、独自の空気感を生み出しており秀逸である。④は民族音楽色が強いキャッチーなデジタルポップで高揚感が得られる。⑥はタイトル通り古代の巫女が祈りを捧げるような旋律が印象に残る。⑦はひたすら美しい壮大なバラードで心に癒しを運んでくれる。⑨は儀式のような荘厳な雰囲気の楽曲で、独特の味のある歌声がダークな世界観を盛り上げてくれる。
1991年というガールポップ系女性アーティストの全盛期にリリースされた作品であるが、太古の日本をテーマにしたワールドミュージック色ある音楽性は異色と言えるもので、その独自の世界観は特筆すべきものがある。
世界なんて終わりなさい|畑亜貴
1999/2/19 ディスクユニオン
1. 琥珀
2. 針の実
3. 火を見る未来
4. 紀元前
5. 天狼星
6. 不眠が全て
7. 窒素揺れて
8. 熱
9. メソポタミアの殺人
10. 赤い蝋燭
11. 海への眺めの
12. けだし,目とは
13. 香気よ
14. 安堵
15. 死霊の館
16. 世界なんて終わりなさい
現在はアニメソングを中心に手掛ける作詞家としても有名なシンガーソングライター「畑亜貴」。本作は1995~1996年にテープなどで発表した音源に未発表曲を加えたコレクションアルバムである。音楽性はプログレ風味のアイドル歌謡という感じで、畑亜貴の可愛らしい声質と少しぶりっ子な歌い方はアイドル度数が高い。いかにも自主制作なローファイな音質の中で花開く乙女チックな幻想音楽が楽しめる1枚。
①から少女漫画のような世界観を甘いボイスで歌い上げており、メロディーの良さもあり独特の屈折した世界に引き込まれる。②はシンフォニックなアレンジと1980年代のアイドルのような歌唱とメロディーが同居しており面白い。⑤は民族音楽っぽいファンタジックな曲で、ゴシックで箱庭的な世界観が印象的。⑨は囁くようなボーカルとゲーム音楽のようなチープなアレンジが通好みの味わいを醸し出している。⑩は爽やかなサウンドや透明感ある歌声など清涼感ある旋律が心地良い。⑭は1980年代っぽい懐かしいデジタルポップで、歌詞のインパクトなど記憶に残る曲だ。
音質はあまり良くないものが多いが、曲自体はポップセンスが発揮された良いものが多い。歌詞もそうだがとにかく自身が音楽として表現する世界へのこだわりを感じさせる内容である。
薬屋の娘/ ナチコ・ファースト+1|NACHIKO
2014/5/30 ソニーミュージック
1. 魂が旅に出ちゃった
2. 昨日から明日ヘ
3. 水の炎
4. 足跡を食べないで
5. ボストンバックの詩
6. ブラック・ジャックの子守唄
7. あんた
8. 絵の中のDoor
EPIC・ソニーの女性アーティスト第一号としてデビューしたシンガーソングライター「NACHIKO」(ナチコ)が1980年リリースした1stアルバムにボーナストラック1曲を加えてCD化したもの。プロデュースは四人囃子やプリズムのメンバーであった森園勝敏。和製ケイトブッシュと呼ばれたエキセントリックな歌い回しとジャズ/フュージョンやプログレを基調としたドラマチックな楽曲は時代を越えて異形の存在感を放っている。
冒頭①から個性的なナチコワールドが全開といった感じで、サウンドはシンプルなジャズ/フュージョンだが、ぶっ飛んだ歌詞やメーターを振り切ったような歌声は切迫感があり圧倒される。③はアルバムの中核をなす13分に及ぶプログレッシブな大作。間奏の緊張感溢れる演奏や静から動へとドラマチックに展開される構成は刺激的で秀逸である。④はパーカッションが印象的なキャッチ―に弾けるナンバー。ファンキーというかチャーミングな感じもする歌声が良い。⑤は重く叙情的な曲で、切なさを伝えるボーカルの表現力や後半のエキサイティングな演奏が素晴らしい。⑥は親しみやすい歌メロや可愛らしい歌声にほっこりするレゲエ調のナンバー。
ナチコの魅力である天真爛漫で自由奔放なところが、洗練されたテクニカルなジャズ/フュージョンサウンドと上手く結びついており、アクが強いが聴きやすい内容となっている。
最新式ひるね百科|大正九年
1998/11/21 KIRAKIRA RECORD
1. ICE CITY 78
2. 驚き一発
3. ベイベ
4. 青春のしるし
5. ロック魂
6. 昔の話
7. 野望の星
8. ティーンエイジストーリー
9. 会議でgo
10. 小池の幽霊さん
11. 目がハート
12. マイエンジェル
テクノポップアーティスト「大正九年」のインディーズからリリースされた1stアルバム。
作詞・作曲はもちろんのことアレンジや打ち込み、ボーカル録音とすべて自身で手掛けているという才女である。不思議系テクノ少女という感じの毒のある可愛らしい世界観にどっぷりと浸れる1枚。
冒頭①から透明感あるキュートな歌声と繊細なテクノサウンドが奏でる大正九年ワールドに引き込まれる。②はピコピコした電子サウンドに乗るチャーミングなボーカルが耳に優しく響く。電波な歌詞などオリジナリティ溢れる表現に驚かされる。⑤は打ち込みサウンドなのにロック魂を感じさせる秀逸な曲。歌詞やリズムがユーモラスで面白い。ひねくれた感じが全開の⑦は愉快なキャッチ―なリズムが中毒性を生み出す摩訶不思議なナンバー。⑧はミニマムなフレーズがドリーミーな世界に連れて行ってくれる。⑫はみんなのうたのような親しみやすい歌メロの可愛らしい曲で心がほっこりする。
最初のアルバムということもあり、生々しいというか宝石の原石のような魅力がある。1人で全部作っているのも凄いが、1990年代後半にこのような方向性の音楽をやっていた個性は特筆すべきものがある。
秘密のナイフ|Phew
1995/9/1 Creative Man Disc
1. わたしときみのわかれめ
2. おそい春
3. 秘密のナイフ
4. 急がなければ
5. 花がきれいなわけ
6. おわりのあと
7. みえない道
8. ひとのにせもの
9. きれいな日
10. いつか
11. きょうの名残り
パンク/ニューウェイヴ全盛の1979年にバンド「アーント・サリー」で活動を開始し、長年に渡り日本のアンダーグラウンドで孤高の存在感を示し続ける女性アーティスト「Phew」の1995年リリースのアルバム。近藤達郎、西村雄介、山本久土、植村昌弘などの凄腕ミュージシャン達と作り上げた世界観は唯一無二のもので、ゲストとして大友良英も参加している。 Phewは前衛的で難解な音楽というイメージもあるが、本作ではその尖った魅力と普遍的なポップネスが上手く融合しており、とても味わい深いアヴァンポップを聴くことができる。
①はドリーミーなサウンドと煌びやかなメロディーの洪水が圧巻で、ファンタジック感溢れる旋律と淡々としながらも温かさを感じる心地良い歌声がエモーショナルに響き渡る。特にギターの音色やドラムのカッコ良さは特筆すべきものがあり、記憶に残る素晴らしい曲である。②はノスタルジックな情感を伝える美しいサウンドがトリップ感を与えてくれる。アルバムタイトル曲③はアヴァンポップの金字塔と言える名曲。サウンドやボーカルが生み出す荘厳な雰囲気に圧倒されるが、Phewの刹那感や儚さを含んだ歌声やポップな歌モノとして優れているメロディーなど秀逸である。
④は意表を突くラップに驚かされるが、アバンギャルドなサウンドと絡み合いカオティックな未体験ゾーンに引き込まれる。⑤は8分以上あるプログレッシブな大曲。幻想的なサウンドと透明感あるボーカルが印象的で、穏やかな前半パートから徐々に盛り上がっていき、終盤はエキサイティングな演奏が炸裂する。⑧はフラストレーションをぶちまけるような、やさぐれた歌声やヘヴィなサウンドがダイナミックに響き、初期衝動を感じる快感が得られる。⑩はプログレッシブに展開されるノスタルジー溢れるサウンドとまさに歌姫と呼びたくなるボーカルがひたすら美しい。
サウンドの完成度は圧巻で非の打ち所がない。よくこれほどの音を構築できたなと溜息が出るほど。メロディーも印象に残る素晴らしいもので、カリスマ性あるボーカルの存在感を最大限に生かした曲の数々は必聴である。1990年代の女性ボーカルアルバムの中でも名盤と言える内容の1枚だ。
夢の崖(ユメノキリギシ)|多加美
1995/4/25 ベル・アンティーク
1. 紫陽花の庭にて
2. 例えば・・・とあなたは言う
3. 冥い森
4. 夢ノ崖
5. 雪の境閾
6. 空の迷宮
1980年代のアンダーグラウンドシーンで2枚アルバムを残した伝説の女性アーティスト「多加美」。本作は1985年にリリースしたセカンドアルバムである。プネウマが作り出すジャーマンプログレやアンビエントのようなシンセサウンドに多加美の『和』と『狂気』を感じさせる暗い情念が渦巻いた歌声が乗るというもの。実験的な作風でありながらも多加美のボーカルが主体の曲も多くあり、幻想的な女性ボーカルものとして超個性的な世界観が味わえる1枚だ。
冒頭①は4分に渡るアンビエントサウンドが展開されて、その後多加美の歌パートが始まるが、その緊張感たるや凄まじいものがあり、一気に陰鬱とした世界に引き込まれる。歌声の緊迫感は凄いが、透明感と美しさがあるので聴きやすい。歌詞はJ・A・シーザーのような日本的な土着性があり狂気を感じるものだ。②はクラウス・シュルツェに通じる万華鏡的な透き通ったシンセサウンドにまるで独白するようなボーカルが同居し、何とも言えない切ない余韻が残る。③は大地の混沌を感じさせる、シンセサウンドの構築が圧巻で、うねるような先悦性ある音にただただ畏怖してしまう。そして孤高の存在感を放つボーカルの凄さも際立っている。④は静かな癒される旋律だが、シンプルな音に囁くようなボイスが絡み合い唯一無二の音響空間を作り上げている。⑥は14分に渡るプログレッシヴな大作。静から動へドラマチックに展開され、多加美の儚い歌声とジャーマンプログレや民族音楽など多種多様な音楽要素がカオスを生み出す。とにかく他に類を見ないほど独創的で神々の領域に踏み込んでしまった感すらある。
巫女のようにも聴こえる多加美の歌声はカリスマ性があり、そのボーカルの魅力を最大限に生かす前衛的なサウンドは圧巻の一言。多加美の声自体も音の素材のひとつとして捉えたような音響構築がとにかく凄い。
籐子|tohko
1998/8/26 ポニーキャニオン
1. take a breath
2. is it too late?
3. BAD LUCK ON LOVE~BLUES ON LIFE~
4. ふわふわ ふるる
5. It`s all about us-from the motion picture”BEAT”
6. etude1
7. LOOPな気持ち
8. Orgel
9. I`ll be there
10. eternal dreams
11. and now the party`s over
12. ANGEL
1990年代に全盛を誇った小室ファミリーのメンバーの中でも良質なポップソングを多数発表し、未だに音楽好きからは人気が高いシンガー「tohko」の1stフルアルバム。tohkoの歌唱は小室ファミリーの特徴といえるハイトーンボーカルだが、可愛らしさから美しさまで表情豊かに歌い上げる優れた女性シンガーである。小室哲哉と日向大介の共同プロデュースであり、楽曲も小室哲哉だけでなく日向大介も提供していることから、小室哲哉単独プロデュースの女性シンガーとはひと味違う音楽性を楽しむことができる。
冒頭①から小室哲哉お得意の切なくダンサブルな歌が聴けるが、編曲が日向大介ということもあって新鮮な魅力がある。日向大介が作曲・編曲したデビューシングル③は、まったりとした前半パートから後半の性急なビートに変化させる曲展開が一度聴いたら忘れられなくなる。洋楽エッセンスを感じるドラマチックかつメロディックな曲であり、あまりJ-POPでは聴けない鮮やかな曲である。小室哲哉の④はTK節炸裂の切ない曲で、本領発揮といったところ。特にサビのメロディーは印象的なもので、ガラス細工のような繊細な歌声はいつまでも耳に残る。まったりとした雰囲気のバラード⑤ではtohkoの歌声の魅力がじっくりと味わえる。
⑦は日向大介による春の風景が浮かぶような温かいサウンド&メロディーは爽やかな風のようで、tohkoの表現力あるキュートな歌唱の魅力は特筆すべきものがある。作詞は小室哲哉で、10代の葛藤や輝きを飾らない言葉で表現しており素晴らしい。イノセンスとノスタルジーが心の奥の扉をノックするJ-POP女性ボーカルの名曲である。⑩は儚さを具現化したようなサウンドやメロディ―とそれを繊細に歌い上げる表情豊かな歌声が絶品の味わいである。
今聴いてもまったく色褪せていない③と⑦を筆頭に完成度の高い曲が多く収録されている。小室哲哉、日向大介という希有な才能を持った音楽家が、天性の声を持ったtohkoの可憐な歌声を最大限に生かした楽曲を提供しており、聴きごたえがある傑作アルバムだ。
海とあなたの物語たち|未来玲可
1999/3/17 ポニーキャニオン
1. 海とあなたの物語
2. DOWN TO EARTH
3. ONE MORE CHANCE
4. Please tell me…
5. cherish way
6. 裸のココロ
7, ONE SIDED LOVE
8. all my love
9. 夢をつかまえた人
10. 19 NINETEEN
1998年に小室哲哉と久保こーじの共同プロデュースによりシングル『海とあなたの物語たち』でデビューした歌手「未来玲可」。14歳でデビューして引退までわずか4ヶ月という短い活動期間であり、本作は唯一のアルバムである。ハイトーンボーカルなどの高い歌唱スキルを持つ歌手が多かった1990年代小室プロデュースの女性シンガーの中では珍しいアイドルボイスを武器にした初々しい魅力溢れるポップスが楽しめる。
前述のデビューシングル①は、小室哲哉楽曲の中でも珍しいワールドミュージック風味ある作風で、Coccoの『強く儚い者たち』に通じる曲調が印象的。未来玲可の透明感ある真っ直ぐな歌声が壮大な曲世界に見事にハマっており、記憶に残る名曲である。②は彼女のアイドルっぽい可愛らしい歌声にぴったりとマッチした正統派ガールポップ。③は幻想的な曲調のバラードで、サビのメロディーの力強さが印象的。癒される透明感と切ない感傷に浸れる傑作である。⑦はシンプルな美しさが光るサウンド&メロディーが、彼女のキュートな声質と相性が良い。⑨は前向きなパワーみなぎる元気いっぱいな雰囲気が気分を上げてくれる。⑩は内田有紀のカバーで、素直な歌唱で10代の葛藤を切なく歌い上げており、原曲とは違った魅力がある。
実質、小室哲哉が作曲・編曲しているのは①⑩のみで、他は久保こーじや木根尚登など様々な作家が手掛けた楽曲で構成されている。歌唱テクニックよりも声質の可愛らしさで勝負するボーカルなので、ほぼアイドルポップと言っても良い内容である。4ヶ月で引退したことも含めて瞬間の煌めきが感じられる1枚だ。
クリシュナ|村田有美
2019/11/27 Bridge
1. Let It Blow
2. Red High Heel
3. Morning Telephone
4. Midnight Communication
5. Mischief
6. Glenn Miller Medley
7. クリシュナ
8. 街角で
9. Love Survival
1979年にデビューしたシンガー「村田有美」が1980年にリリースしたセカンドアルバム。
サウンド・プロデューサーが清水靖晃で、コ・プロデューサーが笹路正徳、演奏陣も含めてロックバンド「Mariah」(マライア)のメンバーが全面的に参加している力作である。
ジャズ/フュージョン、ファンク、ディスコなど様々な音楽要素をスタイリッシュに昇華したグルーヴィーな楽曲、デビューしたばかりとは思えない村田有美の表情豊かな熱い歌唱と非常に聴きごたえがある内容だ。
冒頭①から村田有美の圧倒的な歌唱力に驚かされるが、よくあるただ上手いだけの歌ではなく、歌声から伝わる凄まじい熱量が最高。海外でも違和感なく聴かれそうな壮大なサウンド&メロディーも良い。②はうってかわって、クールなトーンの歌声でイカしたグルーヴを決めておりカッコいい。③ではキュートなウィスパーボイスで歌っており、ちょっと気恥ずかしくなるセリフパートがあったりして、とんでもなく幅が広い『声』の表現力が光る。アンニュイな朝にぴったりな洒落た曲である。
④は自信満々に歌いあげるワイルドなボーカルにマッチした熱いロックナンバー。⑥はジャズミュージシャンGlenn Millerの楽曲にボーカルを入れたメドレー。陽気な気分になれる元気な歌声に胸が弾む。アルバムタイトル曲⑦は、じっくり腰を据えて聴きたいファンキーなダンスポップで、濃厚なグルーヴ感など、軽いノリではなく渋い作風なのが味わい深い。⑨は美しいロックバラードで、シンフォニックな盛り上がりが王道的な感動をもたらす。
実力派ミュージシャンによるセンスの塊のような楽曲は完成度が高い。そして何よりも歌手として村田有美の魅力が最大限に発揮されており、その歌の表現力は凄いの一言だ。
夢のはじまり|須山公美子
2016/2/3 SUPER FUJI DISCS
1. 月夜の真空管
2. 新しい大陸
3. 空中ブランコの唄
4. しゃべらないわ
5. 船唄
6. 花まつり
7. 東京一の軽業師
8. 星のかけら
9. 乙女のワルツ
10. マラソンランナー
11. すたあまいん
日本のパンク/ニューウェーブシーン伝説のバンド「変身キリン」のメンバーであった「須山公美子」の1986年リリースのソロ2枚目となるアルバム。After Dinnerを輩出した京都の音楽レーベル『zero records』が当時のインディーズとしては破格の予算をかけて制作した力作である。プロデュースは「すきすきスウィッチ」の佐藤幸雄。
戦前の昭和歌謡をモチーフにしたアヴァンポップの意欲作で、豪華演奏陣による独創的なサウンドと須山公美子の躍動感に溢れた美しい歌声が織りなすレトロなポップスを楽しむことができる1枚。
冒頭①から須山公美子の個性的な歌い回しと優雅な弦楽器のアンサンブルで不思議な世界に引き込まれる。芸術性と衝動が結びついた旋律は異様な存在感を放つ。②はダンスしたくなる大陸歌謡で、エネルギッシュな演奏と可愛らしい歌声が気分をあげてくれる。④はリズミカルな歌とドタバタした陽気な演奏が強烈に耳を捉える。ポップだが迫力が凄い。⑥はみんなのうたでもいけそうな優しい曲調と子供のような無垢な歌声に心が和む。⑦はちんどん太鼓の愉快なリズムと生々しい歌声には実際に軽業師の芸を観ているような臨場感がある。⑧は彼女の美声がこれでもかと堪能できる【絶対の美】を感じるバラード。⑩はアンビエントな歌モノで、緻密なサウンドとダイレクトに感情が伝わる歌声は味わい深い魅力がある。
サウンドはアバンギャルドな要素も含むが、基本的には様々な表情を見せる須山久美子の歌声が主役となっている。その強烈な個性や美しさは【アンダーグラウンドの歌姫】と呼べるもので、1980年代の女性アーティストの名盤のひとつと言えるだろう。