女性ソロアーティスト(2000年代~2010年代~2020年代)

ぼくはバカだよ。|アサキ 

2018/3/7 ‎ 術ノ穴

1. Gender
2. シンメトリー
3. Give me a hand
4. unwise
5. 夢中歩行
6. FR

2018年に泉まくらなどを輩出した音楽レーベル術の穴(現ササクレクト)からデビューしたシンガーソングライター「アサキ」(現在は4s4ki)の1stミニアルバムである。

泉まくらやDAOKOの流れをくむようなティーン女子の等身大のヒップホップ路線だが、切ない雰囲気を盛り上げるシンプルなトラックとキャッチーなメロディーは耳に馴染みやすく、自身の葛藤と向かい合って吐き出したようなリリックを歌う素直なボーカルに心揺らされる1枚だ。

冒頭①は渋谷の街と三角関係をテーマにした切なくメロウなナンバー。曲構成はシンプルだが、耳に引っかかるリリックなど感性の鋭さがダイレクトに聴き手に伝わり、その時代性を捉えたようなフィーリングに驚かされる。
②はメランコリックな雰囲気抜群のトラックが素晴らしくて、まるで独白するようなボーカルが心に沁みる名曲である。
③はサビの高音の儚い歌唱が美しくて引き込まれ、④はノスタルジックな旋律と青春の苦味に胸が締め付けられる。
⑥は有り体に言えばまさに等身大の言葉を紡ぐ楽曲、率直に飾らない自分自身の意思や葛藤をラップしており、聴き手の心に大きな引っかかりを残すだろう。

この後、アサキは4s4kiに改名して、ラップだけに留まらずハイパーポップ、エレクトロポップ、ロックなど様々な音楽を雑食的に取り込み独自の音楽スタイルを築き上げている。原点と言えるこのデビューミニアルバムでのシンプルかつ素直な作風は、まさに宝石の原石と呼べる輝きが感じられる。ここまでストレートな印象を残す作風も珍しいもので、貴重な作品といっていいだろう。

超怒猫仔/Hyper Angry Cat|4s4ki 

2020/12/16 SAD15mg

ディスク1

1. 超怒猫仔 (ブチギレニャンコ)feat.Mega Shinnosuke,なかむらみなみ
2. I LOVE ME
3. monmon
4. 猫Jesus猫
5. 35.5
6. Liar feat. CVLTE
7. 欠けるもの
8. escape from
9. ラストシーン
10. ラベンダー
11. kg
12. gekkou

ディスク2

1. おまえのドリームランド
2. プラトニック
3. NEXUS feat.rinahamu
4. moniko feat.Anatomia
5. 風俗嬢のiPhone拾った feat.Gokou Kuyt
6. サキオはドリームランド
7. lover
8. eyes feat.Rin音
9. bed
10. SUCK MY LIFE
11. SUCK MY LIFE2
12. クロニクル

2018年に泉まくらなどを輩出した音楽レーベル術ノ穴からデビューしたシンガーソングライター「4s4ki」(アサキ)の1stフルアルバム。2019年後半から2020年に配信した作品と新曲とで構成された2枚組の大作となっている。KOTONOHOUSE、Snail’s Houseなどの有名トラックメイカーやラッパーのGokou Kuyt、Rin音といった多彩なメンツが参加した刺激的な作品に仕上がっている。デビューミニアルバムでは、DAOKOの流れをくむようなティーン女子の等身大のヒップホップ路線だったが、その後はラップだけに留まらずエレクトロ、ロックなど様々な音楽を雑食的に取り込み、ハイパーポップというジャンルで語られるような独自の音楽スタイルを築き上げている。4s4kiは感性が非常に現代的であり、曲のテーマも時代性を捉えているものが多い。良い意味で初々しさもあるキュートな歌声も魅力で、優れた2020年代のオルタナティブガールポップである。

ディスク1は4s4kiの先悦的な姿勢が感じられる曲や心に沁みるものまでバラエティに富んだ内容である。
Gigandectと共作した①はゲームボーイ音源で作られた8bitサウンドがレトロな感覚を刺激し、情報量の多いカオティックな音響に飲みこまれる。②はメランコリックな雰囲気のエレクトロポップで、葛藤や苦悩を受け入れて前に進もうとする歌詞や切ないメロディーなど耳に残る傑作。⑤は疾走感溢れる電子サウンドにぴったりのボーカルが気分を高揚させてくれる。⑦は4s4kiの大きな魅力のひとつである飾らない素直な声で歌われる切なくメロウなラップが心に刺さる。⑫も自己の葛藤を素直に吐き出した歌詞や淡々としながらも感情の揺れを感じる歌声など切なく心に響く。

ディスク2は4s4kiの良質なポップセンスを感じられる曲が多くあり、より多くの層にアピールできそうな内容だ。
①はKOTONOHOUSEと共作した名曲で、印象に残るキャッチ―なリズムなど、楽曲の出来が良く、葛藤しながらも前を向こうとする姿勢を垢抜けたセンスで煌びやかに表現している。メロディーはPerfume的な親しみやすさがあり、歌詞の言葉選びのセンスやラップパートのリズム感もカッコいい。③もKOTONOHOUSE との共作曲で、ゲストボーカルにCY8ERのrinahamu(苺りなはむ)が参加している。4s4kiとrinahamuのフィーリングは相性ばっちりで、キュートでストリート感溢れるスタイリッシュな旋律に元気を貰える。⑤はGokou Kuytと共作、共演した楽曲で、4s4kiを代表する曲のひとつである。ユニークな曲名に驚かされるが、切ない歌唱とやるせない歌詞、メランコリックなメロディーが心に沁みる。Gokou Kuytのボーカルパートも良い味わいがある。⑧はRin音と共作、共演した楽曲で、2人のボーカルが切ない雰囲気をしっとりと盛り上げてくれる。ラスト⑫は切々歌われるメッセージに心震える名曲。弱者に寄り添うような視点の無力感がやるせない歌詞や儚さや刹那感が伝わるボーカル、切ないメロディーなどまさに魂が込められた渾身の1曲である。

雑食的な作風で4s4kiの音楽家としての様々な顔が楽しめるお得な作品である。根底にあるのは聴き手に良い曲を届けたいという真っ直ぐな姿勢で、全体通してそれがよく伝わってくる内容である。楽曲は無力感や虚無感といったネガティブな感情をテーマにしたものも多いが、聴き手を限定するような実験的な重さはなく、しっかりと4s4ki流のポップソングとして成立させているところが素晴らしい。

’99 PEACHY|uyuni 

2020/12/23  ROMANTIC°

1. intro
2. anone
3. MUSTARD
4. 711071
5. sparking romance
6. After hours
7. swimmer feat.Le Makeup
8. Blueberry Gum
9. stay alive feat.Saint Vega
10. Skit
11. whisper
12. Mellow feat.堂村璃羽
13. Sleeping Sheep – Kazui_Datura Remix

作詞、作曲、トラックまでセルフプロデュースで楽曲制作を行う福岡県出身のラッパー/シンガーソングライター「uyuni」の1stフルアルバム。

自己を俯瞰した鋭いリリックを可愛らしさもある特徴的な低音ボイスでラップしており、非常にエモーショナルなヒップホップだ。DAOKOや泉まくらなど文科系女子ラップの系譜にも通じる部分はあると思うが、uyuniの楽曲はメンヘラチックな部分はあまりなく、リアルなストリート的な生活感を感じるラフで突き抜けた力強さがある。また彼女の「声」そのものに言い知れぬ魅力があるのも注目すべき点である。

本作のリードトラックのひとつである③は、自身のバンド出身という経歴を生かしたギタープレイを存分に披露しているロックナンバー。uyuniのこういったガールズロック系の曲にも見事にピタッとハマるような尖ったキャラクター性は魅力的だ。④はシンプルでクールな雰囲気だが、uyuniのぶれない強い軸を感じる傑作。聴く物にしっかり届くメッセージ性があり、「言葉」を生み出すセンスに溢れている。⑥もシンプルなミドルテンポのラップだが、とにかく声が良い。
⑧はイントロから引き込まれる、突き刺してくるリリック&メロディアスな楽曲で、キュートな女性ボーカルポップの名曲。こういった耳にすんなり入ってくるポップセンスある曲が作れるのは才能を感じる。⑪もキャッチーなリズムと独特のフロウで引き込まれる。

他にも男性ラッパーをフューチャーした楽曲もあり充実した内容である。どれも、uyuni自身の音楽に対する真面目さとぶれずに自分を貫き通す意思が感じられ、それをポップに仕上げている傑作アルバムだ。

春と修羅|春ねむり 

2018/4/11 パーフェクトミュージック

1. MAKE MORE NOISE OF YOU
2. 鳴らして
3. アンダーグラウンド
4. 春と修羅
5. zzz
6. ロストプラネット
7. せかいをとりかえしておくれ
8. 夜を泳いでた
9. zzz
10. ナインティーン
11. ゆめをみよう
12. zzz
13. ロックンロールは死なない with 突然少年
14. zzz
15. 夜を泳いでた(Nemu remix)
16. アンダーグラウンド feat.NERO IMAI(shnkuti remix)
17. 鳴らして(長谷川白紙 remix)

2018年にリリースされたラッパー/シンガーソングライター「春ねむり」の1stフルアルバム。

少年のような声で歌われるポエトリーリーディング色が強い〈言葉〉を主軸に、ヒップホップからシューゲイザーまで幅広いジャンルのサウンド取り込んで独自の世界観を構築している。その異質ともいえる個性は海外でも評価が高い。本作はそんな彼女の圧倒されるほどの熱量が存分につまっている1枚だ。

名曲②や突然少年をフューチャーした⑬は、まるで戸川純と神聖かまってちゃんが出会ってしまったような熱いロックンロールで、彼女のスピリットを感じるエキセントリックな感情に胸を突き動かされる。
アルバムタイトル曲の④は、宮沢賢治の同名小説からインスパイアされたという、ポエトリーラップ×シューゲイズといった感じの、轟音をバックに綴られる文学的な歌詞は叙情的でもあり、聴く物を春ねむりの世界に取り込んでしまうような力強さがある。代表曲のひとつである愚直までの真っ直ぐさの⑪など、春ねむり節といえるような独特の世界観がありオリジナリティを確立している。

いわゆる文科系女子ラップではなく文学系激情ラップと言ってしまいたい希有な女性アーティストのひとりである。

 

as usual|泉まくら 

2019/7/24  術ノ穴

1. as usual
2. あの夜に
3. エンドロール
4. 思い出の昼下がり
5. ラスト
6. sunshine
7. something blue
8. yunagi
9. 君のかがやき
10. いのち feat.ラブリーサマーちゃん

2012年に音楽レーベル術の穴よりデビューしたフィメール・ラッパー「泉まくら」の6枚目となるアルバム。DAOKOなどと共に『文科系女子ラップ』の代表的なヒップホップMCである。打ち込みやジャズなどオシャレなトラックに乗るポエトリーリーディング調の日本語をハスキーなウィスパーボイスでラップするのが特徴的で、少しメンヘラチックな女の子のリアルな生活感を上手く表現している。

冒頭を飾る①や⑧はサウンドも歌唱もドープな雰囲気な曲。彼女のボーカルは可愛いらしものも多いが、こういった低音ボイスでつぶやくような歌唱スタイルは魅力的で、聴き手の心の深い場所に入り込んでくる。③はシティポップ風な洒落たトラックにメロウなフロウが心地良い傑作。⑩は「202」以来となるラブリーサマーちゃんとの共作となる切なさ爆発のエモーショナルな名曲。泉まくらのラップもリリックが心に引っ掛かり、サビでのラブリーサマーちゃんの歌唱も良い。

初期にあった初々しさに比べるとアーティストとしての成熟が感じられ、完全に泉まくらとしての独自のラップスタイルを確立しており、音楽作品として完成度が高い。

ALWAYS FRESH|仮谷せいら 

2022/6/15 PUMP!

1. シュドン
2. ZAWA MAKE IT
3. Midnight TV
4. ONE S’MORE
5. 話をしようよ
6. Odora Never Cry
7. HOME
8. HYPE
9. 水星
10. Colorful World
11. 本音

tofubeatsの『水星 feat.オノマトペ大臣』のPVに出演したことで一躍有名になったシンガー/シンガーソングライター「仮谷せいら」の1stフルアルバム。

フックのあるメロディーと清涼感と力強さに元気を貰える彼女のボーカルはまさにグッドミュージックの申し子のようだ。本作はこれまでにEPで発表された名曲群と新曲も収録された充実した内容である。

代表曲といえる⑩は、2010年代のガールズポップの名曲といえるだろう。楽曲はもちろん、憂鬱を吹き飛ばすようなエネルギーを与えてくれる歌声は素晴らしいの一言。⑩と同路線のAbema TVの番組タイアップの⑥も前向きなパワーに満ちているかっこいい曲で文句なし。
②のようなオシャレかつ大人っぽいスタイルも違和感なくこなしており、これまたとても良い曲だ。前述のtofubeatsの名曲カバー⑨は以前カバーしたものにあった初々しさとは異なり、シンガーとしての大きな成長を感じることができ、感情豊かな歌の表現力を感じることができるだろう。
自身作詞作曲のアコースティックバラード⑪はしっとりとした雰囲気の中にも葛藤に立ち向かう意思が込めらている。

仮谷せいらのボーカルは王道的なガールズポップ/ロックにベストマッチする。透明感と力強さの両方を兼ね備えた歌声は、聴き手にパワーを与えてくれること間違いなしだ。

VILLA|HALLCA 

2019/9/25  MAGELLAN-BLUE RECORDS

1. Diamond
2. Show the Night
3. burning in blue
4. WANNA DANCE!
5. コンプレックス・シティー
6. Utopia
7. Dreamer
8. Milky Way
9. モイスチャーミルク
10. guilty pleasure (Blackstone village remix)
11. Diamond (Yohji Igarashi remix)

Especiaのリーダーであった冨永 悠香がグループ解散後に「HALLCA」名義で活動を始めて、2019年に発表した1stフルアルバム。Especia時代から楽曲制作に携わっていたPellyColoやRillsoulが楽曲提供しているほか、自身でも作詞と作曲も手掛けており、シンガーソングライターとしても一歩踏み出した記念碑的作品である。Especiaからの流れを組むシティポップ、アーバンポップ路線で、大人の魅力を感じるオシャレポップが楽しめる内容となっている。

その魅力は冒頭①から全開で、良質なシティポップのお手本のような楽曲は素晴らしいの一言。HALLCAの透明感あるアンニュイな雰囲気のボーカルも楽曲にベストマッチしており、文句なしの傑作だ。②は胸躍る王道シティポップナンバーで気分が高揚する。
代表曲といえる④はHALLCAが初めて作曲したそうで、これが元気を貰えるダンスポップの名曲である。シンプルだが力強いサウンドも良いし、何よりHALLCA自身の音楽に対する真面目さが伝わってくる。
⑤は1980年代的な懐かしい感じのポップでカッコいい。⑦は細部にもこだわりを感じる煌びやかなサウンドの出来が素晴らしくて、何度聴いても新鮮な感動がある。

希有なガールズグループであったEspecia解散後に、再び自分自身で素敵な音楽を作りだそうとする姿勢とその真っ直ぐな楽曲が心に響いてくる。聴いていて真摯な気持ちが伝わる傑作アルバムだ。

THE THIRD SUMMER OF LOVE|ラブリーサマーちゃん

2020/9/16 日本コロムビア

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

キュートな歌声を武器にイケてるロックンロールを鳴らす女性シンガーソングライター「ラブリーサマーちゃん」。これはフルアルバムとしては3枚目となる作品である。初期の頃は可愛らしいウィスパーボイス、音楽性ともに相対性理論(やくしまるえつこ)からの影響が強かったが、作品を重ねるごとにオリジナリティー開花させている。本作はUKロック色が強い作風で、the brilliant greenへのリスペクト精神も感じる。

③や⑥はハードなギターサウンドに、声質は可愛らしいのに気だるげな歌い方のボーカルが乗り、それがたまらなく良い。⑨はまさにブリグリ風だが、彼女の儚げなボーカルが印象的。⑦と⑪は彼女の真骨頂ともいえる傑作。⑦は前向きに生きるパワーを与えてくれて、⑪はシンプルなギターロックだが、メロディー、歌詞ともに素晴らしく心に沁みる。ロック好きにはぜひ聴いて欲しい名曲。

全体通してノリノリで気持ちよく聴けて、ラブリーサマーちゃんのロックスピリットが全身に伝わってくる傑作アルバムである。

絶対少女|大森靖子 

2013/12/11  PINK RECORDS

1. 絶対彼女
2. ミッドナイト清純異性交遊
3. エンドレスダンス
4. あまい
5. Over The Party
6. 少女3 号
7. プリクラにて
8. PS
9. hayatochiri
10. W
11. 展覧会の絵
12. 青い部屋
13. あれそれ
14. 君と映画
15. I&YOU&I&YOU&I

サブカル系女性シンガーソングライターの代表的な一人といえる超歌手「大森靖子」の2枚目となるフルアルバム。プロデュースはカーネーションの直枝政広が手掛けている。戸川純や椎名林檎の流れを受け継いだ不思議ちゃんキャラと女性の情念が渦巻くメンヘラチックな楽曲はインパクト大だ。ソングライティングの才能がずば抜けており、個性的な面白い女性ボーカルポップを多く生み出している。

本作の①と②は大森靖子のカラーを決定づけた名曲で、未だに色褪せないサブカル系女性ボーカルポップの金字塔である。①はクセになるキャッチーなリズムと突き刺してくる独自の歌詞センスなど素晴らしい曲。②は1980年代っぽいサウンドのレトロチックなポップソング。この作曲センスの良さは特筆すべきものがある。
③は心がほっこりする可愛らしいアコースティックバラードの傑作。切なさ爆発の④、Theピーズの名曲『実験4号』のオマージュと思われる⑥、アバンギャルドなサウンドとボーカルの表現力が凄い⑪、重くシリアスなピアノバラード⑫など、そのボーカルスタイルも含めソングライターとしての才能が遺憾なく発揮された楽曲の数々は聴きごたえ抜群である。

人にサブカルっぽい女性ボーカル音楽とはどんな感じかと聞かれれば、迷わず本作を聴いてもらうほどに、少し奇妙なポップミュージックがふんだんに味わえる名盤である。

R°(アール)|RURUTIA 

2002/3/6 EMIミュージック・ジャパン

1. エレメンツ
2. 知恵の実
3. 愛し子よ
4. ロスト バタフライ
5. 赤いろうそく
6. 雨の果て
7. 僕の宇宙 君の海
8. 僕らの箱庭
9. 銀の炎
10. ハートダンス

プロフィールは非公開で謎に包まれ、ライブ活動も一切行わないシンガーソングライター「RURUTIA」(ルルティア)の2002年リリースの1stアルバム。

当時、音楽性を説明する際にCoccoが引き合いに出されており、確かにサウンドや曲調は通じるものあるのだが、大きく違う点として、ルルティアのボーカルスタイルは囁くようなウィスパーボイスである。

彼女の神秘的な魅力が全開の①、オルタナ系ギターサウンドに儚い歌唱が乗る②、女神のような母性を感じるデビューシングルの③、エモーショナルなメロディーが炸裂する⑧など傑作揃いだが、特に曲名からして秀逸なセカンドシングルの名曲④は白眉の出来で、苦しみを受け入れながらも最後の希望を絞り出すような歌唱は必聴。

ルルティアの最大の魅力は彼女の繊細なウィスパーボイスであるが、実はアイドルのような可愛らしい声質であり、楽曲も神秘性を持ちながらもポップでキャッチ―、この手の女性ボーカル好きなら誰もが楽しめる1枚である。

Kung-fu Master|Eel 

2001/4/11 Fille Unique

1.Fille Unique 2001
2.Kung-Fu Master
3. homme sympathic (charmant)
4. Cherry Pie
5. Sa vous plait?
6. DO RE MI
7. HAPPY MONDAY
8. who can teach me?
9. 神様
10. JUMP
11. 幸せな日
12. a Paris

CAPSULEとコラボするなど、ネオ渋谷系ムーブメントにて注目を集めた、大阪の女性アーティスト「Eel」が2001年にリリースしたフルアルバム。フューチャーポップの文脈で語られることが多く、打ち込みサウンドとキュートなボーカルに胸がときめくエレクトロガールポップである。特にEelの歌声には特筆すべきものがあり、カヒミ・カリィとも違う、自身のこだわりを感じるキュートなウィスパーボイスは魅力がある。

アルバムタイトル曲の②は遊び心あるEelの魅力が良く伝わる曲で、軽快なリズムとファニーな歌声が印象に残る。③は王道のオシャレ渋谷系という感じだが、ここまで極端に可愛らしいものを追求する女性アーティストも珍しい。⑧は疾走感あるロックナンバーで、まさにおもちゃ箱をひっくり返したようなEelのボーカルの表現力が凄い。⑨はシンプルなギターポップナンバーで、Eel独自のキャンディーボイスが良い。⑪のようなみんなのうたのような曲調もばっちりハマっている。

Eelの可愛い声質を生かした軽快なポップナンバーが多数収録されている。とにかく「可愛らしさ」に対するこだわりが半端でなく、ある意味異色ともいえる世界観が楽しめる1枚だ。

Lia*COLLECTION ALBUM Vol.1 「Diamond Days」|Lia 

2007/9/19  PONYCANYON INC.(PC)(M)

ディスク1
1.disintegration
2.Spica ~Reaching for the Stars version~
3.Moon
4.夏影
5.鳥の詩
6.Farewell Song
7.Last regrets ~acoustic version~
8.Light Colors
9.Ana
10.小さなてのひら

ディスク2
1.Love Sick Maze
2.will
3.somewhere
4.GIRLS CAN ROCK
5.Over the Future
6.I wish
7.HAIL THE NATION
8.Light In the Air
9.桜風 ~Another Dream Mix~
10.Starting Over ~Reproduction STAYCOOL 2007 Edition~
11.射光の丘
12.Diamond Days
13.青空 ~Lia 1st Concert Lia’s Cafe “Prologue” LIVE音源~ <BONUS TRACK>

ゲーム・アニメソングを中心に活動を行うシンガー「Lia」の初期の代表曲を網羅したベストアルバム。美少女ゲームブランドKeyの麻枝准や折戸伸治、美少女ゲームやアニメソングを多く手掛ける音楽集団I’veの高瀬一矢などが手掛ける良質な楽曲とLiaのクリスタルボイスと称された透明感ある伸びのある美声が楽しめる一枚だ。

ディスク1では何と言ってもオタクの間では国歌と呼ばれた、Liaの出世作の⑤の名曲ぶりである。ゲーム・アニメのオープニングソングは盛り上がりを重視したキャッチーかつシンフォニックなものが多いが、これは全盛期の遊佐未森にも通じるようなノスタルジックな旋律が心に突き刺さる素晴らしい曲だ。
ドラマチックなトランステクノでエモーショナルな高揚感が得られる⑧やこれぞエンディングテーマという感じの⑥もいい曲だ。④は元々ゲームのBGMだったものに歌をつけたもので、夏景色の儚さにグッとくる。ケルト民謡のカバー⑨はLiaの美声が存分に味わえる。

ディスク1の良さに比べるマニアックな選曲のディスク2だが、ストレートなロックナンバー④やメッセージ性を感じるロックバラードのアルバムタイトル曲⑫などその真っ直ぐな歌声を楽しむことができる。

収録曲の曲調は様々だが、一聴すればLiaだと分かる個性が確立されており、ゲーム・アニメソングの枠だけで語るのは惜しい優れた女性シンガーである。

MAIDEN VOYAGE|Salyu 

2010/3/24 トイズファクトリー

1. messenger
2. イナヅマ
3. EXTENSION
4. コルテオ ~行列~
5. 新しいYES
6. L.A.F.S.
7. emergency sign
8. iris ~しあわせの箱~
9. HALFWAY
10. SWEET PAIN
11. cruise
12. BIRTHDAY
13. LIBERTY
14. VOYAGE CALL

小林武史プロデュースで、味わい深い独自のボーカルやメランコリックな楽曲の世界観が音楽好きを惹きつけてやまないJ-POPシーンを代表する女性シンガー「Salyu」の3枚目となるアルバム。
本作は初の自身によるプロデュース作品であり、小林武史はコ・プロデュースとなっている。リリィシュシュ名義も含め初期作品では、低音で呟くような声を生かした陰鬱な楽曲が特徴的であったが、徐々に歌声は高音を意識したものとなり、本作は良質な日本のポップスがふんだんに詰まった傑作アルバムである。

佳曲揃いのアルバムだがまず注目は代表曲となった④と⑨である。④はSalyuの情緒感たっぷりに歌い上げるボーカルが心に響く切ないバラードナンバー。歌謡曲風味もある小林武史によるエモーショナルなメロディーがいつまでも耳に残る。⑨は小林武史の才気煥発のソフトロック、ネオアコ風の爽やかな楽曲で、温かさを感じるメロディーラインとSalyuの優しい歌声に夢見心地になってしまう名曲である。
他にも疾走するサウンドと力強い歌声に元気を貰える②、ドラマチックで切ないムードが素晴らしい⑦、シンフォニックに盛り上がるバラード⑧、重厚なサウンド、ダークな雰囲気と全身全霊の歌唱に心揺れる⑬など聴きどころは多い。

小林武史を初めとした作家陣の安定したクオリティの高い楽曲と非常に個性的でありながらも聴く物の心を揺さぶるSalyuのソウルフルな歌声がとにかく凄い1枚。

「0」|青葉市子

2013/10/23 ビクターエンタテインメント

1. いきのこり●ぼくら
2. i am POD (0%)
3. Mars 2027
4. いりぐち でぐち
5. うたのけはい
6. 機械仕掛乃宇宙
7. 四月の支度
8. はるなつあきふゆ

2010年に19歳でデビューしたシンガーソングライター「青葉市子」が2013年にリリースしたメジャー1stアルバム。クラシックギターの弾き語りというシンプルなスタイルで、スピリットを感じる独自の世界観がある楽曲と味わい深い歌声が魅力である。

①は青葉市子の魅力が分かりやすく伝わる秀逸な楽曲で、まさにシンプルイズベスト。不安定で不気味な世界観とギターと美しく調和する歌声が作り出す雰囲気は個性的な魅力がある。②は暗闇から浮かび上がるようなエモーショナルな佳曲で、ギターと歌のみで深淵な世界に誘い込んでくれるのが素晴らしい。④は10分以上ある環境音などを取り入れたアンビエント風の楽曲。⑥は山田庵巳の楽曲を自身のセンスでカバーしており、原曲とは一味違う女性的な嫋やかさが感じられるものである。⑧はアルバムのラストにドンピシャな淡く儚い情感が胸に沁みる感動的なナンバー。

ほぼギター1本と歌声のみのシンプルな構成でここまで唯一無二の表現ができるのが素晴らしくて、才能あるシンガーソングライターとしての力量が遺憾なく発揮された傑作アルバムである。

Ephemeral|Piana

2005/10/1 ‎ Happy

1. Something Is Lost
2. Early in Summer
3. Beside Me
4. Color of Breeze
5. Little Girl Poems
6. Muse
7. Mother’s Love
8. Moon and Cello
9. Beginning

エレクトロニカやアンビエントを基調とした音楽作品を発表している女性アーティスト「Piana」のセカンドアルバム。ビョーク、ムーム、シガーロスなど北欧エレクトロニカ女性ボーカルの影響を感じさせる、幻想的な電子サウンドと妖精のような可愛らしいボイスで歌うのが特徴的である。繊細な音作りと多重録音ボーカルが織りなす、まるで絵本のような世界観が楽しめる1枚。

冒頭①からキュートなウィスパーボイスとアコースティックな質感の電子サウンドで幻想世界に引き込まれる。メロディーやPianaの可愛い声質などは和のセンスを感じるものがあり、北欧系の旋律を上手く消化して日本的なものとして表現している。続く②はヴァイオリンなどの生楽器としっとりとしたエレクトロサウンドで、夏のノスタルジックな情景が胸に迫る。ポエトリーのような囁きと幻想的なコーラスから叙情的なメロディーへの繋ぎはドラマチックでお見事。③はメルヘンチックで箱庭的な世界観の優しく美しい曲。情緒たっぷりに歌い上げる透明感あるボーカルなど、女性ボーカル好きのツボをピンポイントでつくような作風である。⑤は荘厳な雰囲気のパートからエモーショナルに展開する感動的なナンバー。⑧はアンビエントなサウンドと幻想的なコーラスという環境音楽に女性ボーカルを組み合わせたような曲。

楽曲の出来はどれも素晴らしく、親しみやすいメロディーラインも魅力的である。Pianaのキュートなボイスは破壊力抜群で、少し気恥ずかしさを覚えるが、これぞ日本流の女性ボーカルエレクトロニカと言いたくなる存在感がある。

RADIO ONSEN EUTOPIA|やくしまるえつこ

2013/4/10   みらいrecords

1. ノルニル
2. 恋するニワトリ
3. ヴィーナスとジーザス
4. COSMOS vs ALIEN
5. 北風小僧の寒太郎
6. ヤミヤミ
7. 少年よ我に帰れ
8. キャベツUFO
9. ラジャ・マハラジャー
10. ときめきハッカー
11. メトロポリタン美術館
12. ロンリープラネット

相対性理論のボーカル「やくしまるえつこ」のソロ1stアルバム。相対性理論同様にやくしまるえつこの小悪魔っぽいキュートなウィスパーボイスを生かしたアートのようなポップロックであるが、バンド時に比べよりやくしまるえつこの歌声に焦点を当てた内容となっているので、その魅力がじっくりと味わえる1枚となっている。シングル曲も新アレンジで収録されているので、新鮮な感覚で楽しむことができる。

冒頭①から可愛らしいボイス、SF世界観の歌詞、プログレ風味ある曲展開など、やくしまるえつこ節が炸裂しており、その不思議ワールドに引き込まれる。③はキャッチ―でストレートな作風のキュートなポップソング。歌声の可愛らしさと清涼感溢れる楽曲の相性は抜群に良い。④はユーモラスな歌詞のラップや個性的な殷を踏むほんわかしたボーカルなどインパクトがある。スペーシーなアレンジもいい味を出しており中毒性がある。⑥は童話のような世界観をキュートに歌い上げており、声質的にこういった曲調とも相性はばっちりである。⑦は切なく壮大な世界観をドラマチックに疾走するシンフォニックな曲。こちらも①同様に可愛らしさにプログレ成分をまぶしたような不可思議さがあり面白い。⑫は9分を越える大曲で、静から動へとエモーショナルな爆発を見せるオルタナティヴギターサウンドとやくしまるえつこのボーカルが絶妙なバランスで成立しており秀逸。他に②⑨⑪などみんなのうた有名曲のやくしまるえつこ流のカバーが収録されており、原曲と違いなど興味深く楽しめるものとなっている。

やくしまるえつこのキュートなボーカルは心をほっこりさせるのと同時に怖さや違和感なども含んでおり、不思議少女という感じの尖った感覚とプログレッシヴな壮大さを併せ持つ個性的な世界観がこれでもかと表現されている。

呼吸が止まる前に|swancry

2023/6/28

1. 花
2. snowdome
3. 深海から
4. ambivalence
5. Re:spiration

「swancry」は2022年に始動したボーカルhikageによるソロプロジェクト。本作は2枚目となるEPである。以前はアイドルグループ(ゆくえしれずつれづれ)で活動しており、その頃からの持ち味である個性的な激情ボーカルが更に進化。Envyにも通じる、激情系ハードコア、エモ、ポストロックなどを基調としたラフなインディーロックで、可憐で繊細な歌声のパートから感情を一気に爆発させる激情ボーカルパートなど、起伏のあるドラマチックな曲が楽しめる。

冒頭①からメランコリックで内省的な歌と感情を吐き出す全身全霊の叫びが胸を突き刺すように響く。静と動のコントラストは鮮やかで、hikage自身による歌詞の言葉選びも印象に残るもので優れている。②は囁くような歌声と幻想的でメロウなサウンドが印象的。③は透明感あるボーカルが歌うポエトリーリーディングのような意味深な言葉と轟音ギターの浮遊感に飲み込まれる。シューゲイザー+ポエトリーという感じの質感は新鮮な魅力があり、歌声はキュートだが同時に繊細で美しくもある。⑤は軽快なビートに乗った可愛らしくも切ない歌声と激情シャウトがダイレクトに心に伝わる。女性らしい柔らかさがあるキャッチ―な旋律なので、理屈抜きに感情が突き動かされ、気持ちの良い高揚感が得られる。

女性ボーカルでこれだけ激しくシャウトするスタイルは珍しいのでそれだけでも貴重と言えるが、非常に個性的な魅力があり、女性ボーカルのインディーロックとして優れた独創的な世界観がじっくりと味わえる1枚となっている。

祝祭|カネコアヤノ

2018/4/25 we are

1. Home Alone
2. 恋しい日々
3. エメラルド
4. ごあいさつ
5. ジェットコースター
6. 序章
7. ロマンス宣言
8. ゆくえ
9. サマーバケーション
10. カーステレオから
11. グレープフルーツ
12. アーケード
13. 祝日

女性シンガーソングライター「カネコアヤノ」の3枚目となるフルアルバム。ギター弾き語りからバンドサウンドまでこなす才女で、飾らない歌声や親しみやすく温かいメロディーライン、日常を鋭く切り取った文学的な歌詞など、孤独にそっと寄り添ってくれるような優しさのある音楽である。特に歌声の良さは特筆すべきものがあり、素直で素朴な感じの声質だが芯の強さを感じさせ、独特のクセがある歌い方は感情表現として非常に優れている。

冒頭①は真っ直ぐな歌声で伝える前向きなメッセージが心を勇気づけてくれるフォークロックの名曲。力強いが押し付けがましい感じではなく、日常の小さな幸せを見つけるような等身大の表現に元気を貰える。続く②も柔らかなサウンドが光るフォークロックで、変わらない日常のちょっとしたウキウキ感を弾けるリズムで心地良く聴かせてくれる。③は「Television」の『marquee moon』をオマージュしたと思われるギターリフが印象的で、まったりとした雰囲気の中で、自分にとって大切なものを美しく歌い上げている。⑦は昭和歌謡のような歌メロやグループサウンズを思わせるガレージサウンドがレトロな気分に浸らせてくれる。⑪はアコースティックギターの音色やのびのびとした歌声が清々しさを運んでくれて、心がふっと軽くなったような開放的な気分になれる。⑫は日々の鬱憤をロックで昇華したエネルギー溢れる旋律がダイレクトに心に響く。ラスト⑬はアコースティックギターの弾き語り曲で、切々とした歌声が生み出すシリアスな空気感に圧倒される。シンプルがゆえにカネコアヤノの存在感がより強く感じられる1曲となっている。

アルバム全体を通して、聴き手に良い音楽を届けたいという真摯な思いが伝わってくる。何気ない日常の大切をそっと教えてくれる、温かさに満ちた1枚だ。

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