女性ボーカルバンド/ユニット(1980年代~1990年代)

ファンファーレ|advantage Lucy 

1999/5/12 EMIミュージック・ジャパン

1. メトロ
2. Solaris
3. シトラス (album mix)
4. 真昼
5. カタクリの花
6. smile again
7. グッバイ (album mix)
8. 8月のボサ
9. so
10. Armond

本作は1995年に結成されたギターポップバンド「advantage Lucy」(バンド結成時はLucy Van Pelt)がメジャー移籍後にリリースした初のフルアルバムとなる。

イギリスのネオアコバンドやフリッパーズギターなどの渋谷系の流れを受け継いだサウンドが、耳に残るグッドメロディーと透明感ある真っ直ぐなアイコのボーカルと組み合わさり、良質なポップとして誰もが楽しめる魅力がある。

先行のシングルとしてリリースされた③と⑦は白眉の出来で、本作ではアルバムヴァージョンとして収録されている。③は切ないメロディーと瑞々しい歌声が胸に迫る素晴らしい曲で、ギターポップに限らずJ-POPとしても名曲のひとつだろう。このバンドの真骨頂といえる爽やかな⑦は日本の女性ボーカルのギターポップを代表するといっていい名曲。力強さと儚さを含んだメロディーとボーカルはいつまでも心に残る。⑥や⑩も上記2曲の流れを組む清涼感のある曲で、耳にすぐに馴染むメロディーはさすがか。また疾走感溢れる②やエモーショナルな轟音ギターロック⑨など曲調はバラエティに富んでおり、バンドの懐の深さが感じられる内容である。

良い意味でクセがないアイコのボーカルが楽曲の良さを最大限に引き出しており、J-pop的なギターポップとしてこれ以上ないほどの完成度を誇る名盤である。

HYS|ヤプーズ 

1995/6/21 日本コロムビア

1. ヒス
2. 本能の少女
3. ラブ・バズーカ
4. シャルロット・セクサロイドの憂鬱
5. 思春期病
6. 少年A
7. いじめ
8. それいけ!ロリータ危機一髪
9. あたしもうぢき駄目になる
10. 赤い花の満開の下

戸川純を中心としたバンド「ヤプーズ」の5枚目となるフルアルバム。様々な表情を見せる戸川純の変幻自在のボーカルは相変わらず強烈だが、楽曲はそれまでよりもポップになって聴きやすくなっている。また今作でも心の深いところまで抉ってくる戸川純による鋭い歌詞も冴えている。

メタ的な視点の批評性ある歌詞が良い①は、今聴いても痛烈な響きがある。②はテクノポップの名曲といえるだろう。これまでのヤプーズにはありそうでなかったオタク受けしそうな作風が楽しめる。④はヤプーズお得意のSF世界観のエレクトロポップで、いかにも近未来という感じのサウンドに胸躍る。曲名からして期待せずにはいられない⑧は、サックスと戸川純の可愛らしい歌声を生かしたスパイ映画のようなダンスポップ。⑨はメンタルの臨界点を表現した重いテーマの曲だが、シンプルな打ち込みサウンドにメロディアスな旋律と敷居の高さは感じさせない。ラスト⑩は大団円な心温まるナンバー。

戸川純による冴えまくる歌詞は大きなポイントで、それがキャッチーな作風と組み合わさり、聴き手に伝わりやすくなっているといえるだろう。それまでのヤプーズの名盤にも劣らない傑作アルバムである。

身体と歌だけの関係|Hi-Posi 

1995/8/25 キティ

1. 保存する方法
2. ママになっちゃダメ
3. 身体と歌だけの関係
4. あと何日?
5. 体重分の愛
6. バースディパーティ~いっぱいだ
7. あなたはなんでもいい
8. 愛の因数分解リミックス(BonusTracks)
9. 身体と歌だけの関係(プライベートスナップ)

「Hi-Posi」(ハイポジ)は1988年にボーカルのもりばやしみほを中心に結成された音楽ユニットである。

本作は1994年にインディーズでZABADAK主催のレーベルBIOSPHERE RECORDSからリリースされたミニアルバムにボーナストラックを加えて、メジャーのキティから再発したもの。作詞作曲も手掛けるもりばやしみほの色気ある可愛らしいウィスパーボイスが特徴的なエロティックな楽曲は一度聴いたら忘れられないインパクトがあり、質感は1980年代アイドル早瀬優香子にも通じるものがあり。

冒頭①からキュートでエロティックなボーカルに圧倒されるが、ドラムなど緻密なサウンドの完成度は非常に高い。タイトル曲③は9分50秒に及ぶアンニュイな雰囲気全開の楽曲で、エスニックテクノサウンドと官能的な歌詞を囁くウィスパーボイスが見事にハマった傑作。後に早川義夫もカバーしている。もりばやしみほの歌声はエロスだけではなく、アンビエント系の楽曲④では切なく癒しを与えるような表情も見せており、幅広い情感を表現できるボーカリストといえる。J-pop全盛時代の女性ボーカルポップの隠れた名盤である。

遠い音楽|ZABADAK 

1990/10/25 イーストウエスト・ジャパン

1. 満ち潮の夜
2. 夢を見る方法
3. 遠い音楽
4. 二月の丘
5. 愛は静かな場所へ降りてくる
6. 生まれた街へ
7. Sarah
8. Around The Secret
9. とぎれとぎれのSilent Night
10. harvest rain(豊穣の雨)

ZABADAK(ザバダック)は1985年に吉良知彦と上野洋子を中心に結成されたロックユニット。デビュー以来、様々な音楽要素を取り込んで思考錯誤していたZABADAKのイメージを決定づけたともいえる1枚。

イギリスの60~70年代のフォーク/トラッドやプログレッシブ・ロックからの影響を感じさせ、ケルト音楽等のワールドミュージック色の強いポップロックだが、上野洋子の澄んだ歌声を中心とした日本の伝統的な「歌」を大切している作風で、良質なポップミュージックとして聴ける名盤である。録音はピーター・ガブリエルのイギリスのリアル・ワールド・スタジオで行い、作曲はすべて吉良知彦と上野洋子が担当、作詞はKARAKの小峰公子が大半を手掛けている。また演奏陣にはヴァイオリニストの金子飛鳥、ベーシスト渡辺等、KARAKの保刈久明など豪華面子が参加している。

冒頭を飾る①は上野洋子ボーカルの美しい3拍子のワルツでこれぞZABADAKな幻想的な楽曲。②はアイリッシュ的なリズムの吉良智彦ボーカル曲で、間奏の金子飛鳥のフィドルがひたすらかっこいい。
③はZABADAKの代表曲となったアコースティック楽器主体の大名曲。吉良智彦の書く美しいメロディー、上野洋子の澄んだ瑞々しい歌声、「詩」としても優れている原マスミが手掛けた歌詞、奥行きのあるアレンジなど素晴らしい1曲。⑧はアコーディオンが印象的な民族音楽的な高揚感のあるダンス曲。⑩はジブリアニメ等にタイアップしてもハマりそうな壮大なフォーク/トラッドソング。

アルバム通して記憶に残る素晴らしい曲が多く、小難しい知識等は必要なく誰もが楽しめる内容なのでぜひ多くの人に聴いて欲しい1枚だ。

はちみつ白書|ZABADAK

1998/9/2 ‎ ポリスター

1. 100 AKER WOOD
2. CHRISTOPHER ROBIN
3. MERRY GO ROUND みたいな君
4. 北極を探しに
5. かえりみち
6. はねっかえりのTIGGR
7. COTTLESTON PIE
8. 太陽は眠っている
9. 悲しい夢なんか見ない
10. HARP & PIPE
11. 永遠の森
12. 世界中の悲しみがいっぺんに

1993年に上野洋子が脱退し吉良知彦のソロユニットとなった「ZABADAK」がシンガーソングライター「高井萌」をボーカルにフューチャーしたアルバム。くまのプーさんをコンセプトにしたメルヘンチックな作風で、高井萌のキュートな歌声を生かしたファンタジックな女性ボーカルポップが楽しめる(吉良知彦ボーカル曲もあり)。それまでのZABADAKとは少し違う異色の作品で、正統派ポップスを基調にした細部にまでこだわりを感じる可愛らしい世界観は感傷的でどこか懐かしさを感じるもので非常に良く出来ている。

インスト①に続く②から高井萌の子供っぽいキュートボイスの魅力が全開で、わくわくするような爽快なポップソングに胸躍る。吉良智彦にしてはストレートな曲調だが、可愛らしい陽気なポップスには新鮮な魅力がある。③はドリーミーで箱庭的な世界観が、ロマンティックで夢見心地な気分にしてくれる可愛らしいナンバー。④はしっとりしたシンプルなバラードで、透明感のあるウィスパーボイスが女性ボーカル好きの心をがっちりと掴んで離さない。派手さはないが、聴けばセンチメンタルな気分になり記憶に残る出来の良い曲だ。
⑤は吉良智彦節炸裂の民族音楽風味のノスタルジックな歌もので、いかにもZABADAKらしい名曲。子供の頃の無垢な自分に戻りたいという歌詞は切なさがあり、叙情的なメロディーや独自の歌い回しが光るボーカルが素晴らしい。
⑧は童話のような世界観の不思議系ポップスで、一風変わったサウンドやクセのあるメロディーは非常に印象的である。⑫はほぼアコースティックギターと歌のみで、絶品の美しさに癒される。

高井萌の可愛らしい声の魅力を100%引き出した曲の数々はさすが吉良知彦といったところ。企画盤という側面は強いが、女性ボーカルものとして文句のなし大傑作である。

Goddess in the Morning|Goddess in the Morning 

1996/3/10 biosphere records

1. Reincarnation
2. Ucraine
3. Goddess in the Morning
4. Flower Crown
5. Tribute of Jungle
6. Saga
7. 14

アニメソング系女性シンガーソングライターとして独自の世界観で支持を集める新居昭乃とYAYOIによる音楽ユニット「Goddess in the Morning」が残した唯一のアルバム。Hi-Posi も作品を出しているZABADAK系列の音楽レーベルBIOSPHERE RECORDSから1996年にリリースされて、同レーベル最高のセールスを記録したとのことである。

アンビエント風味もあるヒーリング/ワールドミュージックという感じで、民族音楽色のあるボーカルやコーラスなど細部にもこだわりを感じる意欲的な作風である。新居昭乃お得意のナイーブで箱庭的なファンタジー色が強い歌モノも収録されている。

①は新居昭乃の王道と言える透明感のある幽玄なボーカル主体のメロウな曲で、癒しを与えてくれる。③と⑥はブルガリアンボイスのような民族音楽色が強いもので、二人の高度なボーカル技術を楽しむことができる。④はこのアルバムの中核をなす楽曲で、童話のような世界に引き込まれる名曲。メロディーラインが素晴らしくて、記憶に残る旋律である。

新居昭乃と柚楽弥衣のお互いの個性を上手く調和させており、日本産のヒーリング/ワールドミュージックの傑作アルバムである。

空色帽子の日|ZELDA 

1985/10/21 CBSソニー

1. DEAR NATURAL
2. 自転車輪の見た夢
3. FOOLISH GO・ER
4. FLOWER YEARS OLD
5. WATER LOVER
6. 湖のステップ
7. 小人の月光浴
8. 時折の色彩
9. 無人号地・357
10. ハベラス

1979年にベースの小嶋さちほを中心に結成されたガールズバンド「ZELDA」。日本のガールズバンドの草分け的存在として1996年に解散するまでロックシーンを引牽していたバンドである。本作は前作に続いてムーンライダーズの白井良明がプロデュースした3枚目となるフルアルバム。
1970年代後半のパンク/ニューウェーブムーブメントから登場したバンドであり、イギリスのSiouxsie & The Bansheesなどのニューウェーブバンドからの影響が感じられるガールズロックだ。

冒頭を飾る①は意表を突く三拍子のワルツ。タイトル通りナチュラルスタイルの高橋佐代子のボーカルが映える傑作。彼女による歌詞もユニークな魅力があり、女性ならではの感覚的なセンスが光る。②はネオアコ風の可愛らしい曲。自転車で走り抜ける爽快感と情景描写に優れている。この女の子っぽい天然なキュートな質感は後の女性アーティストへ多大な影響を与えたと思われる。⑤はピアノと弦楽器が奏でる美しく幻想的な曲で、しっとりとした雰囲気を盛り上げる歌声やロマンティックな歌詞などすべてが素晴らしい。
⑥は乙女チックなときめきが眩しいニューウェーブ女性ボーカルポップの名曲。恋してダンスステップを踏むさまが頭に浮んでくる。白井良明が手掛けた解放感のある可愛らしいサウンドアレンジが素晴らしい。⑦はこのバンドお得意のぶっ飛んだ曲調と独創的な歌詞や歌唱がインパクト大のポストパンク系の曲。儀式的な雰囲気に圧倒されるが、リズムはキャッチーで親しみやすい。⑧はZELDAの代表曲といえる名曲で、エキゾチックなメロディーと文学的な歌詞、クールなボーカルと一度聴いたら忘れられない魅力がある。⑨は工業地帯の夜景が浮かぶようなメランコリーな空気と透明感あるボーカルで感傷的な気分に浸れる。

後のZELDAもそうだが、このアルバムでも曲によって表情が変わり、まったく印象が変わるというのは、女性の不可思議な魅力を表現しているようでもあり、いつまでも色褪せない女性の不可解さが味わえるアルバムである。

C‐ROCK WORK|ZELDA

1994/11/2     CBSソニー

1. 夜の時計は12時
2. Electric Sweetie
3. 風の景 -Mind Sketch-
4. 時計仕掛けのせつな
5. ファンタジウム
6. Endless Line
7. Emotional Beach, Communication Party
8. Question-1
9. MOO/六月はいつも魔の月
10. 浴ビル情

1980年代を代表するニューウェーブ系ガールズバンド「ZELDA」が1987年にリリースした4枚目となるアルバム。本作はサウンドプロデュースに佐久間正英を迎えて、それまでのZELDAの特色であったアングラ感は抑えめとなり、エネルギッシュに弾けるガールズロックを楽しむことができる。後期はレゲエに傾倒したり、時期によって音楽性が変わる彼女達だが、このアルバムは正統派女性ロック路線として完成された充実した内容である。

①はストレートなロックの高揚感を大切にしながらも、ファンタジックなセンスも感じるサウンドアレンジが秀逸。派手さはないがじわじわとくるメロディーも味わい深い。②はストレートなポップロックで、キャッチーなリズムと小気味よい演奏が爽快感抜群。シンプルだがポップセンスが光るサウンドと高橋佐代子のカリスマ性ある女性ロッカーを体現しているクールな歌声がカッコいい。
④は幻想的な雰囲気を盛り上げるサウンドと淡々とした飾らない歌声が心に安らぎを与えてくれる。意味深な歌詞や心地良いメロディーも秀逸で、ニューウェーブ系女性ボーカルの名曲と言っていいだろう。⑤は個性的なサウンドによって表現される奇妙な世界観が不思議な感覚をもたらすトリップ感ある曲。サウンド構築が独創性に満ちた刺激的なものでありながらもポップで洗練されており素晴らしい。⑥は1980年代の空気全開なロックに心が和む。⑦はZELDAのチャーミングな魅力が味わえるキュートなサマーチューン。きっぷがよさそうなはちゃめちゃな雰囲気に元気が貰える。⑧は野性的で自由奔放さを感じる歌いっぷりが痛快。

音楽的にはZELDAのニューウェーブ期最後となるアルバムで、これ以後はワールドミュージック路線に方向転換していくこととなる。1980年代のZELDAらしさがつまった集大成と言える傑作アルバムである。

Switch Complete 1986~1987| Nav Katze  

2001/8/23 アゲント・コンシピオ

1. 御亡夜の夢
2. 夕なぎ
3. ゆりかご
4. 入浴
5. 愛し合う夜
6. 水のまねき
7. 銀の羽の戦士
8. 螺旋階段
9. 赤い真夏
10. 闇と遊ばないで
11. 黒い瞳
12. 病んでるオレンジ
13. 駆け落ち
14. パヴィリオン

Nav Katze(ナーヴェカッツェ)は1984年に結成されたスリーピースガールズバンド。本作は1986年の「Nav Katze」と1987年の「OyZaC」の2枚をまとめた初期のベスト的内容のアルバムである。

当時和製ポリスと言われた通りイギリスのニューウェイヴ系のバンドからの影響を受けており、クールな質感のロックサウンドとアンニュイな雰囲気を持つ飾らない歌声が特徴的なギターロックである。メロディーや歌詞には日本的な叙情性があり、それがこのバンドの大きな個性と魅力になっている。

冒頭①はこのバンド独自の冷めたような批評性が感じられるが、シンプルなロックサウンドはカッコよくて、歌ものとしても優秀である。
②はエモーショナルなギター、メロディーと文学的な歌詞が、独自の空気とひとつの物語を紡ぎ出す「自己」への鎮魂歌のような曲。この時代のインディーシーンだからこそ生まれた奇跡のような大名曲である。
心に安らぎを与えてくれる③はジャングリーなギターポップナンバー。⑥は軽快で爽快感ある曲で、一筋縄ではいかない文学的な歌詞も記憶に残る。ワールドミュージック調の⑦は、ファンタジー色が強い旋律が別世界に連れていってくれる。⑩はネオアコサウンドと親しみやすい歌メロに可愛らしくも怖い意味深な歌詞が印象的な曲。疾走感ある⑬はギターリフが良くて、刹那的な情感が切ない。
⑭は作詞にサエキけんぞうを迎えた、SF世界観の退廃的で儚い名曲。サウンドやメロディーはシンプルだし、ボーカルもそっけないが、とにかく心揺さぶる。

アルバムとしてひとつの物語を奏でているような素晴らしい内容で、日本のガールズバンドの中でも屈指の内容の1枚である。

The Last Rose in Summer|NAV KATZE

1992/9/23 ビクターエンタテインメント

1. 海
2. フローズン・フラワー
3. マリリン
4. 不機嫌
5. アルカディア
6. 子供の名前
7. 光の輪
8. きらきら
9. 蒼い闇
10. 名残りの薔薇

イギリスのニューウェーブに影響を受けた繊細なギターロック/ポップを聴かせてくれるガールズバンド「NAV KATZE」の1992年リリースのアルバム。ドラマーが脱退し2人組となってからの初アルバムで、これまでよりネオアコ寄りになったシンプルなサウンドと魅力である飾らない素直な歌声など美しさが際立つ内容で疲れた心を癒してくれる。

①はエネルギッシュな轟音ギターと透明感あるボーカルというシューゲイザー要素を含む痛快なギターロックで、アルバムの開幕を飾るに相応しいパワフルな曲である。
②は奥深いセンスが光るアコースティックサウンドと淡々とした醒めた感覚を持つ歌声や文学的な歌詞など、『元祖セカイ系』と呼びたくなる、NAV KATZEらしい箱庭的な世界観がやるせなく胸を突き刺す。⑤はすべてが耳と心に優しく響く、桃源郷のような多幸感を与えてくれるナンバー。シンプルだが美しさは絶品で、これ以上ないほどの表現力に震える1曲。
⑦は祈りのような歌声とファンタジックな旋律が壮大な感動を呼ぶ。コーラスで遊佐未森が参加しており、幻想的な女性ボーカル曲として文句なしの出来である。⑧はタイトル通りきらきらしたフォーキーなサウンドとひたすら美しい歌声で感傷に浸ることができる。はっきりとした発音で歌われる詩の美しい響きも素晴らしい。⑩は情景が浮かぶようなノスタルジックな曲で、叙情的なメロディーや透き通った歌声が儚い情感を胸に運び切ない余韻を残す。

ハードなギターが唸りをあげる①を除けば、基本的にはソフトなアコースティックサウンドを基調とした無駄のない美しさが輝く。NAV KATZEの持ち味である儚さや刹那感を含んだ歌世界をじっくりと楽しむことができる1枚だ。

NON-FICTION|PSY・S 

1988/8/1 ソニー・ミュージックレコーズ

1. Parachute Limit
2. Spiral Lovers   
3. (Shooting Down) The Fiction     
4. Romeo            
5. EARTH〜木の上の方舟〜          
6. Angel Night〜天使のいる場所〜 (Album Version) 
7. Silver Rain      
8. Robot
9. 薔薇とノンフィクション           
10. HOURGLASS〜時の雫〜

PSY・S(サイズ)は1980年代から1990年代にかけて活動していた松浦雅也とCHAKAによる音楽ユニットである。本作は1988年にリリースした4枚目のフルアルバム。

フックのあるメロディーと透明感のある瑞々しいボーカルが印象的なニューウェーブ系の電子ポップで、1980年代のサブカル系女性ボーカルポップを代表するというに相応しい内容だ。特に冒頭を飾る①は青春のセンチメンタルな情感と真っ直ぐさが突き刺さる名曲で、美しいメロディーとエモーショナルなボーカルは最高である。アニメのタイアップで有名な代表曲⑥は、疾走感溢れる力強さと切なさが同居する傑作。⑨はまさに1980年代の女性ボーカルポップという感じで、王道の胸をキュンとさせるメロディーはさすが。また⑤のような自然・大地系の壮大なバラード曲もあり、収録曲はバラエティに富んでいる。

電子楽器を用いたニューウェーブポップとしては申し分ない出来である。特に松浦雅也の作るメロディーはセンス抜群で今聴いても楽しめる素晴らしいアルバムだ。

Silent Days|KARAK 

1991/6/21 キングレコード

1. 羽化 
2. ウィングス・オブ・アン・エンジェル    
3. 明日ヲ見ル丘 
4. 水の底の映画 
5. くじらの夢    
6. 雨の日のピアノ           
7. 傷つけぬよう 離れぬように      
8. スロウ・トゥ・ミー    
9. カデンツァの森           
10. 老人と船

KARAK(カラク)は小峰公子と保刈久明による音楽ユニットで、本作は1991年リリースの1stアルバムである。ケイトブッシュやコクトーツインズなどのイギリスの幻想的なプログレッシブロックやニューウェーブからの影響を感じさせるポップロックで、透明感ある小峰公子のボーカルと保刈久明による幻想的な楽曲が特徴的である。

冒頭①から遊佐未森と同時代性を感じるドリーミーでファンタジックな世界観に引き込まれ、続く②ではUKロックを思わせる繊細で耽美的な旋律を聴かせてくれる。⑦はPSY・Sにも通じるようなシンセとギターが唸りを上げるニューウェーブポップで、KARAKにしては珍しくストレートな盛り上がりで高揚感が得られる。⑧はネオアコ風の爽やかなサウンド&メロディーが懐かしい気持ちを運んでくれて、乙女チックなボーカルと歌詞に少し気恥ずかしさを覚える。⑨は壮大でエスニックなフォーク/トラッドソング。

派手さはないが楽曲の完成度は非常に高くて、じわじわと心に沁みるアルバムである。また小峰公子の歌声が独特の可愛らしさがありそれが大きな魅力となっている。

ハニー・チャパティ|メンボーズ 

1997/9/21 ピープルズ

1. 電車にのって
2. はやくはやく
3. ななちゃん
4. たびたち
5. おばあちゃんが夏を待ってる
6. 窓
7. オロナイン
8. フラワー
9. 大正区
10. 水
11. 夢

1990年代のインディーシーンに少なからず衝撃を与えた2人組の音楽ユニット「メンボーズ」の1stアルバム。
音楽性はアコースティック主体の歌モノで、ふわふわというかフニャフニャした無垢なボーカルが心をほっこりさせてくれる。歌声はプロの歌手やカラオケ的な上手さとはまったく違う素人女子という感じで、独自の世界観を持つフォーキーなポップソングである。

冒頭を飾る①はこのユニットの魅力が詰まった名曲で、未完成な響きの女性ボーカルものの金字塔と言えそうである。いつもと変わらない日常の中でちょっとした幸せを見つけるような楽しい気持ちになれる。②は持ち前のゆるいキュートさが耳に優しく響く。③はみんなのうたにタイアップできそうな感じだが、歌詞のセンスが凄くて驚かされる。
⑤はおばあちゃんについて歌われており心が癒される。子ども時代の原風景が蘇るノスタルジックな曲である。⑨はリアルな日常の生活感や風景を感じる、不思議っぽい女の子の歌。
⑩は文学的なセンスが光る歌詞が印象的で、非常に美しい水彩画のような曲だ。

特筆すべきはやはり真っ直ぐで無垢な印象のボーカルで、イノセンスを具現化した歌声はインパクトが大きい。その歌声にマッチした楽曲は出来が良いものが多く、良質なポップソング集として楽しめるアルバムだ。

猿の宝石+2Songs|ミン&クリナメン 

2002/8/21 インペリアルレコード

1. フラッシュ・ザ・ナイト
2. タコツボ
3. ササヤキ
4. ハゴロモ
5. 猿の宝石
6. フューチャー・ナウ!!
7. 夢見るシャンソン人形I
8. 夢見るシャンソン人形II

「ミン&クリナメン」は1980年代に活動していたバンドで、ボーカルの泥比沙子がライブ中にセミを食べるなどの過激なパフォーマンスしたことでも有名であった。後にハイロウズで活躍するベーシストの調先人が在籍していたことでも知られている。
本作は1987年にリリースした唯一のメジャー作品にボーナストラック2曲を追加したものである。泯比沙子のボーカルは戸川純からの影響が強いと思われるエキセントリックなロリータボイスで、サウンドはパンキッシュなニューウェーブ系ロックだ。

冒頭を飾る①は1980年代的なニューウェーブ色の強いノスタルジックなポップロックで、今聴くとサウンドはやや古さを感じるが、爽やかなビートは懐かしい気持ちを運んでくれる傑作。泯比沙子のメーターを振り切ったテンションの高い歌声はインパクト大である。③はストレートなビートパンクで、可愛い歌声のおかげかかなりポップな印象。
原マスミが書いた④は、ドラマチックなサウンド構成が良い。意味深な歌詞や切ないメロディーも印象的で、心が揺れる感動的なナンバーだ。タイトル曲⑤は愉快な雰囲気が逆に怖いが、キュート&メロディックで聴きやすい。⑦⑧はフランスギャルの有名曲のカバーで、アバンギャルドなイントロダクション⑦から可愛らしい歌声を生かした本曲⑧まで出来が良いカバーとなっている。

楽曲はバラエティに富んだ内容で、全編に渡り泯比沙子の不思議ちゃんキャラといえそうな歌声が楽しめる1枚だ。

crossed fingers|D-DAY 

2009/10/20  Caraway Records

DISK 1

1.Yacht Harbour
2.失した遊園地
3.Peaches
4.Night Shift
5.CITRON
6.わたしの昼と夜
7.NOSTALGIA
8.Sweet Sultan
9.Dead End
10.MEMORY
11.DUST
12.KI・RA・I
13.So Thst Night
14.Vale of promises
15.Hills Dream
16.Float a Boat
17.僕には特別なクリスマス
18.ジェリー・ビーン
19.In The Midnight Hour

DISK2

1.Kiss Me At The Garden Gate
2.天使に似た君
3.Sunday Thinker
4.a slice of the night
5.Innocent Lover
6.Pho’be
7.Last Summer Wind
8.ひとりじめのx’mas
9.Here I Am
10.シェリーにくちづけ
11.Milky Way
12.さよならは突然いうものだから
13.Winter Wink

1982年に結成されて、当時のインディーズシーンで活躍したニューウェーブ系バンド「D-DAY」。本作は1980年代の全音源を収録した編集盤である。音楽性はニューウェーブサウンドの女性ボーカルポップであり、現在に至るまで多数登場したキュートな魅力があるインディー女子ボーカルバンドの元祖的な存在である。ボーカル川喜多美子の可愛らしい歌声やビジュアルは、当時の殺伐としたインディーズシーンでは異彩を放っており、一服の清涼剤のような存在であったといわれる。

DISK1はベスト的な内容である。
冒頭①から透明感のあるロックサウンドと川喜多美子のアイドル性がある歌声に耳が惹きつけられる。②は物憂げな雰囲気が堪らない、切ない幻想的なナンバー。『これぞニューウェーブ女性ボーカル!』と言いたくなるメランコリックな世界観と儚い歌声が胸に刺さる名曲。
③はシンプルイズベストを体現するメロディックなビートが最高の高揚感もたらすキラーチューン。⑤はアイドルポップ風の乙女ポップスで、とにかく可愛いボーカルに耳がとろける。
⑥は後の渋谷系にも通じるようなオシャレポップで、上質なサウンドと上品な歌声が心地良い。⑦は⑤同様にアイドル度数の高い清涼感溢れるナンバー。
⑧は繰り返されるシンセフレーズと病んだポエトリーボーカルが絶妙に調和し、空間がねじれたような衝撃を与える異色の曲で、アヴァンポップとして素晴らしい逸品。⑨はハードなロックサウンドと葛藤をストレートに吐き出すボーカルが印象的で、悶々とした空気が漂うがやはり声が可愛い。⑩はメロウな旋律が幽玄な世界へ誘うドリーミーなナンバー。⑬はキャッチーなメロディーのギターポップっぽい曲で親しみやすい。⑮は煌びやかなギターや印象的なベースの音色などサウンドの独創性が光るファンタジックなナンバー。⑰はみんなうた的な曲調やキュートな歌声に心が和むクリスマスソング。やはりこの可愛い声は反則である。

DISK2は未発表曲などのレア音源を収めたもの。未発表のデモやライブ音源がふんだんに収録されており、音質は良くないが川喜多美子のキュートな魅力を生かした①や⑧などを聴くとD-DAYが更なる可能性を秘めたバンドであったことがよくわかる内容となっている。
⑬はシングルリリースされている音源で、クリスマスをテーマに元タンゴ・ヨーロッパの斉藤美和子とコラボした胸がときめく必殺のガールズポップ。

キュートな歌声を生かしたインディーポップは、サブカル系の女性ボーカルバンドの走りといえそうで、その儚い輝きが詰め込まれた曲は色褪せない魅力がる。

幻想庭園+1|蟻プロジェクト 

1996/11/11  PROP-FIZZ RECORDS

1. 靑蛾月
2. マリーゴールド・ガーデン
3. 鏡面界 im Juni
4. アンジェ・ノワールの祭戯
5. 紅い睡蓮の午後
6. 桜の花は狂い咲き
7. 少女忌恋歌
8. パラソルのある風景
9. 硝子天井のうちゅう
10. 幻想庭園
11. Puppé Frou Frou
12. フラワーチャイルド

現在ではアニソンアーティストとして有名な音楽ユニット「蟻プロジェクト(現ALI PROJECT)」が1988年にインディーズからリリースした1stアルバムにボーナストラック⑫を加え再発したものである。

ゲルニカやザバダックからの影響もありそうなプログレからエレポップまで取り込んだゴシックロックで、片倉三起也のクラシックや西洋音楽からの影響が強いサウンド構成や作曲センスは様式美を感じさせる。

冒頭を飾る①は蟻プロジェクトの魅力が分かりやすく表現されている楽曲で、チープな打ち込みサウンドと幻想的な世界観、宝野アリカのゴシック/ロリータ的な魅力がある可愛らしい歌声が印象的である。本作のリードトラックといえる⑥はキャッチーな和風のメロディーラインに、チープなエレポップサウンドと粗削りなギターが組み合わさったダンサブルな楽曲である。③のようなクラシカルなバラードもあり、アルバムの良いアクセントとなっている。

全体的にサウンドはチープで軽いがそれが幻想的なゴシックロックと上手く調和している傑作アルバムだ。

銀の翼|STARLESS 

2001/3/7 キングレコード

1. プロローグ
2. 銀の翼
3. 瞳の奥に…アイ・ルック・イン・ユア・アイズ
4. アフロディジアック
5. 章末
6. ブレス
7. ダジリング・ディザイア
8. 予感
9. 明日の影

本作は元Scheherazadeの大久保寿太郎が1984年に結成したプログレッシブ・ハードロックバンド「STARLESS」のデビューアルバムがCDで復刻されたもの。バンド名はKing Crimsonの『STARLESS AND BIBLE BLACK』から。
音質はやや硬い質感だが、シンフォニックな様式美を基調としたハードロックサウンドと、歌謡曲やアニメソングのようなキャッチーさを持つ楽曲をボーカルの宮本 “JULLA” 佳子がパワフルに歌い上げている。

アルバムタイトル曲である②は、高揚感得られる文句なしの名曲で、日本産プログレハードとして先駆的な旋律は今も色褪せてはいない。
一度聴いたら忘れられなくなるメロディーを歌い上げるボーカルは渾身の熱唱という感じで、シンフォニックなシンセや堀江睦男の縦横無尽に叩きまくるドラムなど、サウンドも刺激的で良い。③はいかにも1980年代の日本的なハードロックという感じで、哀愁溢れるメロディーをエネルギッシュに歌い上げる。手数多いドラムはここでも存在感を発揮する。
⑤はまさにシンフォニックとしか言いようがないファンタジックなサウンドと懐かしさを覚える歌メロが絶妙にブレンドされている。
プログレ度数が高い⑥は本作の目玉トラック。美しい歌声やドラマチックな目まぐるしい演奏に引き込まれる。曲の構成が面白いので聴きごたえたっぷりである。⑧は美しいアコースティックギターのイントロから小気味よく疾走する。歌謡曲っぽい歌メロが親しみやすい雰囲気で印象に残る。

一緒に歌えるほどキャッチーなメロディーとアグレッシブな演奏が良いバランスで成り立っている。変則的なドラムなど、ただのメロディアスなロックではない一風変わった個性があり、それが本作の大きな魅力となっている。

LET’S KNIFE|少年ナイフ 

1992/8/26  MCAビクター

1. RIDINDG ON THE ROCKET/ロケットにのって
2. GET THE WOW
3. TWIST BARBIE
4. TORTOISE BRAND POT CLEANER`S THEME(SEA TURTLE)
5. ANTONIO BAKA GUY(アントニオバカ貝)
6. AH SINGAPORE/嗚呼、新嘉坡
7. FLYING JELLY ATTACK
8. BLACK BASS
9. CYCLING IS FUN/サイクリングは楽し
10. WATCHIN` GIRL
11. I AM A CAT
12. TORTOISE BRAND POT CLEANER`S THEME(GREEN TORTOISE)
13. DEVIL HOUSE/悪魔の館
14. INSECT COLLECTOR
15. BURNING FARM/焼畑農業のうた

ニルヴァーナと全英ツアーを行うなど海外で非常に評価が高いガールズロックバンド「少年ナイフ」の1992年リリースのフルアルバム。それまで発表してきた代表曲の数々を再録し、収録したベスト盤的内容である。ラモーンズなどの海外パンクバンドからの影響を感じるヘタウマで可愛らしいポップパンクで、のんびりとした雰囲気があり親しみやすさがある。

冒頭を飾る①は少年ナイフを代表する曲のひとつで、これを聴けばこのバンド独自のゆるさと可愛らしさが伝わることだろう。ヘビーなギターがうなりを上げる⑤はやさぐれロック。センスの良いフィーリングが光る軽快な⑨はガールズポップとしても良い曲だ。⑪は味のあるつたない英語詩の歌唱とノスタルジックなメロディーが印象的で、胸に何とも言えない切なさが迫る名曲である。⑮はニューウェーブ色が強いキャッチーで凄まじくかっこいい曲。

全体的にはストレートなロックアルバムであるが、サウンドは凝っているものも多くあり一筋縄ではいかない内容となっている。洋楽的なセンスを感じるものが多くあり、少年ナイフが海外で受け入れられたことも頷ける傑作アルバムだ。

Wee Wee Pop!!|TEENY FRAHOOP 

1998/2/1  K.O.G.A Records

1. eat candy
2. Flower Goes On
3. SHE IS BABY PANDA
4. VOMIT
5. GRUDGE
6. A Bird in the Narrow Cage
7. THE LUCKY★STAR
8. BANANA JUICE
9. Happy Vanilla Pop
10. Soy bean sprouts
11. to lay
12. Kitchen
13. Heavy Smoked,Salmon Sand(wich)
14. Elephant mummy

ヴィーナス・ペーターの古閑裕が主催するインディーレーベルK.O.G.A Recordsからデビューした3ピースのガールズギターバンド「TEENY FRAHOOP」の1stフルアルバム。K.O.G.A Recordsは良質な女性ボーカルバンドの作品を多数リリースしており、このTEENY FRAHOOPもパンク、パワーポップ、ギターポップなどを取り込んだキュートなガールズロックが楽しめる。

基本的には②、③、⑩などの勢い一発といった感じのラフな疾走感溢れるパンクポップが多く収録されている。目玉はダイナソーJr.のようなエモーショナルなオルタナギターロックの名曲①で、切ない轟音とメロディーの洪水は◎。アルバム内では冒頭のこの曲だけ他とは毛色が違う作風となっており、このバンドの渾身の1曲といっていいだろう。

インディーバンドらしい粗削りなロックサウンドと可愛らしいボーカルが楽しめる当時のインディーシーンの熱さが感じられる1枚だ。

最後は天使と聴く沈む世界の翅の記憶|黒百合姉妹 

1990/12/25 SSE COMMUNICATIONS

1. 最後は天使と聴く沈む世界の羽根の記憶
2. Little Star
3. 深
4. 花
5. 地中海の夢
6. Under The Moon
7. Le Chant De L’etoile
8. 黒猫ティヴの子守歌
9. Marble Angel

1980年代後半から長年に渡りインディーズシーンで活動しているJURI(妹)とLISA(姉)による姉妹音楽ユニット「黒百合姉妹」。本作は1990年にリリースされた1stアルバムである。作詞/作曲は姉妹で行い、メインボーカルはJURIが担当し、LISAは主にピアノ/キーボード演奏を行う。宗教音楽や教会音楽のような荘厳な楽曲は尊さがあり、イギリスのゴシック系音楽グループのデッドカンダンスに通じるような独特の美意識と耽美感も魅力である。

①は黙示録的な世界観の中で天から救い光が降り注ぐような美しい讃美歌が心を癒してくれる。まだ熟練していない初々しい無垢な歌声が印象的である。③は美しいピアノ伴奏と悲哀を感じるメロディー&ボーカルがダークな世界にいざなってくれる。④はオルガン伴奏と終末的な世界観の歌詞が強烈なインパクトを残す、切なくも力強さを感じる曲。⑥は悲劇的なピアノがリードするドラマチックな曲構成に引き込まれる。ラスト⑨は天使のような旋律を聴かせてくれて、ひたすら美しいピアノと歌声にうっとりとしてしまう。

デビュー作ということもあってか歌声はまだ成熟していない部分が感じられるが、インディーズっぽい可愛らしい魅力があると言える。こういった音楽性をDIY精神で作り上げているのは凄いことだと思うし、当時のインディーシーンの中でも異色と言える傑作アルバムである。

Kokushoku Elegy|黒色エレジー

2020/12/30 SUPER FUJI

ディスク1

1. 訪れざる宴
2. 満月の夜
3. Warrior
4. Goddess
5. 花粉犯罪
6. 夢の成る頃
7. 安息日
8. □鵺の想い
9. 邪宗門
10. 太陽眼
11. サンストローク
12. 揺籃の刻
13. 神々のレース
14. 虹と蛇のブルース

ディスク2

1. Crepuscular Rays
2. Seiren
3. 虹と蛇のブルース
4. Dear Sheba
5. 青いダリア
6. □鵺の想い
7. Cosmictrigger
8. 訪れざる宴
9. 日々の泡
10. Goddess
11. 神々のレース
12. 夢の成る頃

1980年代に活躍した伝説のゴシック/ポジティブパンク「黒色エレジー」。本作は1985~1989年のスタジオ録音の14曲と初出6曲を含む未発表ライブの2枚組からなる27年ぶりとなるリリースの編集盤である。スージー・アンド・ザ・バンシーズに影響を受けたと思われるニューウェーヴ系のゴシックロックだが、ヒリヒリするような緊張感あるサウンドに和楽っぽいメロディーが組み合わさったスタイルは日本独自の個性がある。ボーカルkyokoのカリスマチックなダークで艶やかな歌声は存在感があり、1980年代日本の女性ボーカルゴシックロックでは「G-シュミット」と並んで代表的なバンドと言えるだろう。

スタジオ音源のディスク1は黒色エレジーの魅力が存分に味わえる濃い内容である。③はアンダーグラウンドな雰囲気全開のラフなバンドサウンドが堪らなく良い。ポストパンクとしても優秀な楽曲で、メロディアスなギターなど暗黒のエモーショナルさは特筆すべきものがある。代表曲⑤はキャッチーでこのバンドの魅力が分かりやすく聴き手に伝わる秀逸な曲。ざらついたギターの張り詰めた緊張感と和風なメロディーを歌う幽玄な世界に誘うような妖しいボーカルは必聴である。⑥は異様にカッコいいうねるベースなどクールなロックサウンドをポップに味付けしており、幻想的な雰囲気も素敵な曲。⑨はプログレッシブな展開を見せるドラマチックな楽曲で、ダークでパンキッシュな迫力とカオティックな旋律に圧倒される。
他にも狂気のゴシックロックという感じの①や透明感ある美しいボーカルと激烈なサウンドが上手く調和されている⑪など個性的な佳曲が揃っている。ディスク2のライブ音源は録音状態があまり良くないものの当時の熱さは伝わるもので貴重な記録と言えるだろう。

あまり似たような音楽性が浮かばないほど独自性があるバンドである。ニューウェーヴらしいパンキッシュさだけでなくプログレやハードロック的な部分が要所に感じられ、アンダーグラウンドなバンドらしい混沌渦巻く内容で聴きごたえ十分の1枚だ。

螺鈿幻想|ページェント 

2006/5/25 キングレコード

1. 螺鈿幻想
2. ヴェクサシオン
3. 木霊
4. 人形地獄
5. 夜笑う
6. セルロイドの空
7. エピローグ

1980年代に活動していたプログレバンド「ページェント」が1986年にリリースした1stアルバムを紙ジャケ再発したもの。ジェネシスなどのプログレバンドからの影響を受けたシンフォニックなロックサウンドを基調とし、歌謡曲っぽい日本的なメロディーをボーカルの永井博子(現在は大木理紗)が圧倒的歌唱力で表情豊かに歌い上げるという内容である。永井博子は同時期にミスターシリウスにも在籍した日本のプログレッシブロックを代表する女性ボーカルである。

タイトル曲①はシンフォニックな演奏と和を感じるメロディーと歌詞が見事に同居する秀逸なナンバー。永井博子の歌唱力の高さは特筆すべきものがあり、1人のシンガーとしても素晴らしいと言えるだろう。オルゴールのイントロとセリフが印象的な②は前半のアコースティックなパートから後半のドラマチックな演奏までひたすら美しい楽曲である。前半と後半で歌い方がまったく違うボーカルの表現力にも注目である。③はストレートなハードロック歌謡で、ベタとも言える臭いメロディーを情緒たっぷりに歌い上げるボーカルが力強い。④はメロディアスなギターがとても良い、日本的なホラー感がある曲。ラスト⑦は壮大なロックバラードで、タイトル通りエピローグという感じの感動がある。

演奏のドラマチックさは素晴らしいものがあり、親しみやすいメロディーも含めて聴きやすい内容である。永井博子の歌声にはこの幻想的な世界観に引き込んでくれる存在感があり、期待を裏切らない傑作アルバムだ。

クレヨン社の展覧会 BEST SELECTION 1988-1991|クレヨン社

1992/3/21 NECアベニュー

1. 夕映えのグラウンド
2. 痛み
3. いつも心に太陽を
4. さよならボーイフレンド
5. 手の中の魔法
6. 辻ヶ花浪漫
7. Broken Heart
8. 少年の時間
9. 口笛とビー玉とヒコーキ雲と
10. 風の時代
11. 地球のうた

柳沼由紀枝と加藤秀樹による音楽ユニット「クレヨン社」のベストアルバム。代表曲が多数収録されており、クレヨン社の魅力を知るにはうってつけの1枚。本作にも収録されている1988年デビューシングル『痛み』は愚直なまでにシリアスな歌詞が凄まじいインパクトであったが、音楽性はPSY・SやZABADAKなどに通じるようなワールドミュージックやファンタジックなものも多い。

前述した通りデビューシングル②は、サウンドはシンプルなチェロのみで、メッセージ性が強い歌詞を核にした楽曲である。尾崎豊やブルーハーツと同時代性を感じるものではあるが、柳沼由紀枝の優しい歌声で切々と訴えられるメッセージは青春時代に誰もが抱く葛藤であり、いつまでも色褪せることはないだろう。③は心を優しく包み込んでくれる温かい歌声とメロディーが良い。⑤は躍動感あるリズムのシンセポップで、わくわくする旋律に元気を貰える。⑥は古代の日本の情景が浮かぶような民族音楽色が強いポップソング。和を感じるサウンドや美しいメロディーは絶品で、透明感あるボーカルも良い。⑪は地球をテーマにした壮大な曲で、大地や生命の息吹に触れるような感動的な1曲。

楽曲はポップミュージックとして普遍的な魅力がありながらも個性的でもある。特に②のような曲はJ-POPシーンではほとんど聴くことができない、ある意味挑戦的なものであり、創作意欲に満ちた音楽性が楽しめる1枚である。

改造への躍動|ゲルニカ

2006/2/22  ‎ Sony Music Direct

1. ブレヘメン
2. カフェ・ド・サヰコ
3. 工場見學
4. 夢の山獄地帯
5. 動力の姫
6. 落日
7. 復興の唄
8. 潜水艦
9. 大油田交響楽
10. スケエテヰング・リンク
11. 曙
12. 銀輪は唄う
13. マロニエ読本

戸川純、上野耕路、太田螢一による音楽ユニット「ゲルニカ」。本作は1982年にリリースされた1stアルバムに1stシングルを追加収録した紙ジャケ再発盤である。プロデュースは細野晴臣で、上野耕路のチープなシンセサウンドと戦前の大陸歌謡を思わせる楽曲を戸川純が演劇的に歌い上げるという超個性的な内容の1枚。

②はうねるようなシンセと透明感ある歌声が非現実空間に引き込む、アンダーグラウンド感が堪らない曲。⑤は歌い出しからオペラチックな戸川純独自の歌唱に耳を奪われ、怪奇映画のようなホラーな雰囲気のサウンドに圧倒される。⑥は現代音楽のような実験的なピアノ伴奏と暗く生々しいボーカルが印象的。⑦は本作の中核をなすナンバーで、シンプルなシンセにタイトル通リ戦後の復興をテーマにした歌をミュージカルのように歌うというもの。歌メロがキャッチーで親しみやすく、歌詞の内容も興味深い。⑪ドラマチックな組曲調の曲で、アルバムの最後を飾るに相応しい感動がある。ボーナストラックとして収録された⑫と⑬は本作リリース後に1stシングルとして発売された音源。青春と自転車をテーマにした⑫は当時としてもインパクトがあったと思われるオーケストラサウンドの大陸歌謡。⑬は戸川純の熱唱が胸に迫る西洋的な世界観の壮大なバラード。

独自の個性が光る内容で、今聴いても異質とも言える濃い世界観に圧倒される。その後の音楽シーンにも多大な影響を与えていると思われるが、このアルバムと同じ質感を再現できたものはなく、まさに唯一無二の名盤である。

フリー(アット・ラスト)|PLATINUM 900

2021/8/4 Sony Music Direct

1. 天国と地獄-Heaven or Hell
2. 眩しいフォトグラフ
3. フリー(アット・ラスト)
4. 夜明け前
5. ハリーは毛むくじゃら
6. 月灯りの下で
7. セイ・ホワット?
8. クライ・ベイビー・クライ
9. レッツ・ブギ・ザ・ナイト
10. カミーニョ・ド・マー

1990年代に活動していた3人組のバンド「PLATINUM 900」。本作は1999年にリリースした1stフルアルバムをリマスターした再発盤である。近年、名盤として紹介されることが多くあり待望の再発であった。キュートな坂田直子のボーカルやジャズ、ファンクを基調とした洗練された楽曲はポップネスに満ちており、聴き心地の良い上質な女性ボーカルポップが楽しめる1枚。

冒頭①からサックスをフューチャーしたファンキーなグルーヴと爽快なボーカルが気分を高揚させてくれる。続く②は感傷的なメロディーや情景が浮かぶ歌詞などノスタルジックな旋律に心が癒される秀逸な曲。③はジャズ/フュージョンからディスコまで感じさせるクールな極上のポップナンバー。⑤は懐かしい雰囲気の曲で歌詞も面白い。⑥は吸血鬼をテーマにしたユニークな曲で、ゆったりとしたお洒落なムードと美しいメロディーが味わい深い。⑨はジャジーでファンキーなダンスポップで、軽やかなリズムでスタイリッシュに決める名曲。

全編に渡って洗練されたグルーヴ感溢れる曲が楽しむことができ、耳にすんなりと馴染む坂田直子の歌声など、まさに魅力のある音楽がここにあるという感じだ。1990年代後半の隠れた名盤と言えるだろう。

重力泥棒|noodles

1995/5/26  BENTEN

1. Mellow Metallica
2. Brain Child
3. Blessed Someday
4. Lemon Tree
5. A Gravity Thief
6. Control
7. New Thrills
8. 6 Colors
9. My Cynic -Lovel

1991年に結成されたガールズバンド「noodles」(ヌードルス)の1stアルバム。ボーカルYOKOのガーリーでキュートな歌声を生かしたガレージロックで、インディーズバンドらしい粗削りで生々しいロックサウンドと甘く極上のメロディーは聴く物を虜にしてしまう中毒性がある。

冒頭①からラフな演奏の中でもメロディーと色気あるボーカルの良さが光っており、日本人離れしたポップセンスを感じることができる。
④はグランジっぽいサウンドでメロディアスに疾走する。⑤と⑧はヌードルスお得意のセンチメンタルで切ない旋律をこれでもかと聴かせてくれるロックバラード。可愛さの塊のようなキュートかつセクシーなボーカルの魅力がじっくりと味わえる。⑨はギターポップ感あるキャッチ―なナンバーで、乙女チックな雰囲気や歌声のカッコ良さが印象的。

楽曲の空気感は海外のバンドに近いものがあるが、YOKOの歌声の可憐さは日本ならではと言えるものである。このボーカルを聴くだけでも価値があるが、楽曲センスも良いので、音質などのインディーっぽさに抵抗がなければ文句なくおすすめできる1枚である。

manamoon(まなもぉん)|セラニポージ

1999/10/30 ヒートウェーヴ

1. spiral da-hi!
2. ふたごの恋
3. もじもじ
4. まなもぉん
5. 128号の謎
6. Octopus Daughter
7. 宇宙船はどこへいった?
8. 15秒
9. 僕のマシュ…
10. 勇気のでる歌

セガのドリームキャスト用ゲームソフト『ROOMMANIA#203』の音楽を手掛けるユニットとして結成された「セラニポージ」の1stアルバム。アルバムによってボーカルが違うメンバーとなっているが、本作では翌年から活動を開始する「CECIL」のボーカルを務める【ゆきち】が担当している。プロデュースは福富幸宏、メインソングライターはササキトモコ。ハウス色が強いエレクトロサウンドにゆきちの繊細で可愛らしいボーカルという都会的なポップスで、渋谷系の流れにあるオシャレな女性ボーカルポップが楽しめる。

②は爽やかな打ち込みサウンドと透き通ったボーカルが清涼感を与えてくれる。ゲーム音楽ということもあってかBGMとしても優秀である。③は王道渋谷系ポップという感じで、胸躍る洒落たリズム、センスの良いアレンジや爽快なメロディーにゆきちのキュートなボーカルがジャストフィット。⑦は印象としては不思議系ポップスというか、SFな歌詞のねじれ具合などちょっとズレた感じが堪らない1曲。⑧は恋をしているもどかしさを陽気なサウンドで表現した良質なポップソング。⑨は非常にユニークな歌詞とそれを違和感なく表現する洒落た雰囲気の楽曲が上手くマッチしている。⑩はのら犬の気持ちを歌った曲で、過酷な環境に置かれても生きることに前向きさを持てるようなメッセージが感動的である。

サウンド、ボーカル共に透明感が印象的で、通好みのメロディーラインも良い。聴けばさりげなく耳に馴染む曲が多いので、多くの人が楽しめそうな1枚である。

グラス・チューブ+シングル|After Dinner

2005/4/22 Arcangelo

ディスク1

1. セピア・チュール1
2. 加速度のエチュード
3. ソニャドール
4. おじょうさんとシャベル
5. 砂漠
6. グラス・チューブ
7. デザート
8. セピア・チュール2
9. 髪モビールの部屋(ボーナス・トラック)

ディスク2

1. アフター・ディナー
2. 夜明けのシンバル

1981年にHACOを中心に結成された音楽ユニット「After Dinner」。本作は1984年の1stアルバムとデビューシングルをリマスタリング音源で復刻したものである。ニューウェイヴ、電子音楽、民族音楽など様々な要素を組み合わせてプログレッシブに展開されるアヴァンポップはガラス細工のような繊細さと美しさを持つ唯一無二の音響芸術だ。

ディスク1は1stアルバム『グラス・チューブ』が収録されている。①は音楽楽団のような演奏で絵本のような幻想的な世界観をHACOが可愛らしく歌い上げる。みんなのうたのような親しみやすさもある一方で、奇妙な違和感というか異世界に連れていかれるような怖さがある。
⑧は①のパート2で、同じ旋律だがこちらはアヴァンギャルドなサウンドが牙を剥いており、狂気を感じるねじれ具合が圧巻である。②は早すぎたエレクトロニカと言ってしまいたくなるような先悦性がある。美しい歌声と実験的でアンビエントなサウンドの組み合わせは知的で刺激的なものだ。③は童謡のような可愛らしい歌と現代音楽のようなサウンドのミスマッチ感が楽しい。④はバイノーラル録音による実験的な立体音響が前衛的で面白い。アルバムタイトル曲⑥は本作の中でも特にドラマチックな曲展開や叙情的なメロディーが光る名曲。繊細なボーカルや細部にまで拘ったサウンドも凄いが、これだけ実験的な方向性であるのにシンフォニックな曲として優れているのが素晴らしい。

ディスク2はデビューシングルが収録されており、異国情緒溢れる前衛ポップ①は即興的な演奏の音響と荘厳なメロディー&ボーカルがひたすら美しい。②はミュージカルや演劇風の歌モノで、After Dinnerの中でも聴きやすい曲だがやはり個性的である。

挑戦的なサウンド構築は圧巻の出来で、一言で表せばまさに音の万華鏡。実験的でありながらもキャッチ―さも忘れないポップセンスやHACOの儚い歌声など、まさにアヴァンポップの最高峰と言える内容である。1980年代のアンダーグラウンドが生んだ奇跡のようなアルバムだ。

うたかたの日々|Mariah

2017/7/19 日本コロムビア

1. そこから……
2. 視線
3. 花が咲いたら
4. 不自由な鼠
5. 空に舞うまぼろし
6. 心臓の扉
7. 少年

サクソフォーン奏者の清水靖晃を中心に1979年に結成されたロックバンド「Mariah」(マライア)。本作は1983年にリリースされたラストアルバムである。ジャズ/フュージョン、ワールドミュージック、ニューウェイヴなど様々な音楽要素が刺激的に絡み合う実験的な作風で、エスニックかつメロディアスな旋律がプログレッシブに展開される。女性ボーカルはアルメニア人のジュリー・フォーウェルが担当。近年、海外でもレアな和モノとして高く評価されており、無国籍感漂う女性ボーカル音楽として非常に優れた内容の1枚である。

冒頭①は力強いパーカションの音色とエスニックなメロディーが壮大に鳴り響く。民族音楽的なリズムと語りのようなボイスが、ここではないどこかへと連れていってくれる。②はスティーヴライヒを思わせる現代音楽的な美しいサウンドと即興のように聴こえるポエトリーなボーカルが独創的な空間を生み出す。④は反復するリズムとスペーシーなサウンドがトリップ感を与えてくれる。ジャーマンプログレやニューウェイヴを取り込み、幾何学的にも聴こえるリズムなどとにかく個性的。⑥はオリエンタルな雰囲気と独自の浮遊感が堪らない名曲。エスニックなファンクという感じだが、無国籍感溢れるボーカルの独自の歌い回しなど中毒性がある。⑦は④同様にミニマルなビートとスペーシーなサウンドに引き込まれ、まるで呪文のようなボーカルが別次元に誘うようである。

多種多様な音楽ジャンルを複合させているが、それを上手く消化しマライア独自の個性として表現できている類まれな内容である。日本人離れしたセンスがありながらも、同時に強く『和』を感じさせる部分もある。1980年代邦楽の中でも必聴の名盤である。

第一歌曲集|招き猫カゲキ団

2010/8/25 SUPER FUJI DISCS

1. 人形
2. 砂漠のマリアンヌ
3. 森のおくりもの
4. 幻夜

日本を代表するガールズバンドであった「ZELDA」のボーカル高橋佐代子とベース小嶋さちほの音楽ユニット「招き猫カゲキ団」。本作は1984年にインディーズレーベルのテレグラフからリリースされた唯一となる音源作品の再発盤である。当時なんと1万枚のセールスを達成したというインディーシーンの大ヒット作品で、本家ZELDAとは一味違う箱庭的で演劇チックな幻想音楽が楽しめる。

①は音数の少ないシンプルな演奏で、虚空に響くような透明感ある歌声が美しい。演劇のようでもあり、ねじれたファンタジック歌謡という感じの独特の世界観に引き込まれる。②は民族音楽的なパーカションと天真爛漫なボーカルに無国籍感があり、歌詞のセンスも面白い。③はみんなのうたや童謡のような可愛らしい歌モノだが、得体の知れない怖さを感じさせるところは、まさにアンダーグラウンドミュージックである。④は叙情的なメロディーと美しい歌唱にうっとりするバラードで、夜に響く孤高の歌というに相応しい。

音楽性自体にはさほど難解さはなく美しいメロディー&透明感あるボーカルがたっぷり堪能できるが、少しズレている感覚というか異質な個性が随所に感じられ、1980年代のインディーズならではの独創的な内容となっている。 

スリーアウトチェンジ 10th Anniversary Edition|スーパーカー

2007/4/4 キューンミュージック

ディスク1

1. cream soda
2. (Am I)confusing you?
3. smart
4. DRIVE
5. Greenage
6. u
7. Autmatic wing
8. Lucky
9. 333
10. Top 10
11. My Way
12. Sea Girl
13. Happy talking
14. Trash&Lemmon
15. PLANET
16. Yes,
17. I need the sun
18. Hello
19. TRIP SKY

ディスク2

1. cream soda PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
2. (Am I) confusing you? PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
3. DRIVE PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
4. PLANET ~the end of childhood~ PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
5. Lucky LIVE AT GIGANTIC
6. RIGHT NOW LIVE AT GIGANTIC
7. Trash & Lemmon LIVE AT GIGANTIC

1995年に結成されて2005年まで活動していたロックバンド「スーパーカー」。本作は1998年にリリースされた1stアルバム『スリーアウトチェンジ』をリマスターし、ライブ音源等のレアトラックを追加収録した2枚組CDである。邦楽ロックを代表するバンドで、その後の音楽シーンに多大な影響を与えており、チャットモンチーのプロデュースを手掛けたいしわたり淳治もメンバーであった。この1stアルバムは1990年代を代表する邦楽ギターロックの名盤。基本的には作曲を手掛ける中村弘二がボーカルを務めることが多いのだが、フルカワミキが煌びやかな声で歌う楽曲もあり、これが実に魅力的で一聴で虜にしてしまう力がある。

ディスク1は『スリーアウトチェンジ』のリマスター盤。フルカワミキのボーカルが楽しめるのは④⑧⑨⑫⑬⑯⑱。可愛らしさとイノセンスを感じる歌声は、心に清涼感を与えてくれるもので、粗削りなギターサウンドとポップセンス溢れるメロディーとの相性も良い。④はアコースティックギターのキラキラした音色にぴったりのキュートで煌びやかな歌声とメロディーが心地良く響く。歌詞も印象に残るもので、語りかけるようなボーカルが心に届けてくれるものはまさに【元気】。
⑧は男女ツインボーカルの金字塔と言えるスーパーカーを代表する名曲。フルカワミキが歌い出した瞬間に胸に去来するものは初恋にも似た情感。眩しいほどの輝きを持つ旋律はまるで魔法のようだ。⑨は中性的な魅力も感じさせる歌声とラフなサウンドが織りなすセンチメンタルな青春ロック。⑫は力強いブリブリしたベースラインと轟音ギターで押しまくるアグレッシブな演奏に爽やかな透明感溢れるボーカルというまさにシューゲイズな1曲。⑬はインディーロックっぽいシンプルな曲調で、のんびりとした空気感に心が和む。⑯は⑫と同じく轟音ギターと透明感あるボーカルが浮遊感を生み出すシューゲイザーなギターロック。⑱はフレッシュな雰囲気の男女ツインボーカル青春ロック。
もちろん中村弘二ボーカル曲①⑮などキラーチューンも必聴で楽曲の出来は文句なし。

ディスク2は未発表のレア音源が収録されている。『DRIVE』の別ヴァージョン③は原曲よりも生々しい空気感にじっくりと浸ることができてこちらも良い出来となっている。ライブ音源はあまり音質が良くないが、熱い雰囲気は十分に伝わるだろう。

若さと勢いがこれでもかと溢れだすロックの初期衝動に満ちた名盤である。フルカワミキの歌声が良いアクセントとなっている部分が大きいので、女性ボーカルのバンドとしても優れている内容だ。

New Machinegun Etiquette|’else

1998/12/3 テイチクミュージックコーポレーション

1. New machinegun etiquette
2. Angel Talk
3. Love Eggman
4. Sweet Star,Jetset
5. The Sun Only Knows
6. Weasel
7. Comanche
8. POP 45
9. Melody Fair
10. High Time For Less Low Life
11. Swallow
12. “666”
13. Born to Sleep

1992年に結成されて2003年まで活動していたポップロックバンド「’else」のメジャー1stアルバム。UKロックに影響を受けたと思われる分厚いギターサウンドとフックのあるメロディーの女性ボーカルパワーポップで、理屈抜きに気分を上げてくれるご機嫌な1枚。1990年代の女性ボーカルバンドの中でも随一のストレートな作風で、小難しさは一切ないグッドミュージックである。

冒頭①からボーカルを務める河村裕子のキュートな掛け声を合図に疾走し、メロディックなガレージロックを決めてくれる。ウルトラキャッチーな楽曲に可愛い歌声という無敵感溢れるカッコ良さに痺れる。②は湿ったようなサウンドの空気感が印象的だが、ここでも無論ポップに疾走する。③はボーカルのギターポップ的な切なさがじんわりくる。⑧はこれでもかとキャッチ―なメロディーとエッジの効いたパワフルなギターで畳みかけてくれるので、憂鬱も吹き飛び爽快な気分になれる。⑪はエモーショナルな盛り上がりを聴かせるロックバラードで、情緒たっぷりに歌い上げるボーカルに聴き惚れる。⑫は轟音ギターと煌びやかなメロディーの嵐で押しまくり、センチメンタルな情感を伝える歌詞のナイーブさも良い。

ハードなギターサウンド、グッドメロディー、キュートな歌声と三拍子揃った女性ボーカルロックとして申し分のない出来。ここまで直球で勝負したバンドも珍しいので、今聴くと新鮮な魅力があると感じる人も多いかもしれない。

私を赤痢に連れてって|赤痢

2022/8/3 P-VINE

1. デスマッチ
2. 4649
3. ヨーレイヒ
4. どろどろ大江戸
5. かつかつROCK
6. だーらだら
7. 青春
8. 仏滅ラプソディー
9. カメレオン
10. FUCKしよう
11. ちった
12. ENDLESS
13. ナンバー (BONUS TRACKS)
14. ニャンニャンで行こう (BONUS TRACKS)
15. 赤痢作用(セキリプロセス) (BONUS TRACKS)
16. 夢見るオマンコ (BONUS TRACKS)

1980年代のインディーズシーンを代表する京都発のガールズバンド「赤痢」。本作は1988年にアルケミーレコードからリリースした1stアルバム『私を赤痢に連れてって』にボーナストラックを追加した再発盤。後のガールズバンドに多大な影響を与えており、ソニック・ユースのサーストンムーアもファンであることを公言している。荒々しいガレージロックサウンドは初期衝動を感じるカッコ良さがあり、身も蓋もないことをストレートにぶちまける歌詞やぶっきらぼうな歌い方のボーカルなど、強烈なパンクロックを聴くことができる。

冒頭①から今では考えられないような、過激な歌詞のインパクトに驚かされるが、切れ味鋭いギターやポップなリズムで疾走するさまは王道のロックンロールと呼べるもの。
②はどんよりとした空気の中で、ボーカル「みゆ」の日常の鬱憤をぶちまける感情豊かな歌声の表現力が光る。投げやりに歌っているかと思えば、カリスマ性ある力強い歌声を聴かせたりと不良っぽいラフな雰囲気のボーカルは個性的で魅力がある。③はソリッドなサウンドと生活の不満を淡々と歌うくぐもったボーカルがカッコいい。④はタイトル通りどろどろした感情をヘビィなロックで発散する。
⑦は苛立ちを軽快なビートで昇華した青春ロック。⑧はドラムのカッコ良さが際立つミドルテンポの渋いナンバー。⑩はあまりにも直球な歌詞が痛快な赤痢らしい1曲。この曲もそうだがパンクを基調にブルースっぽいセンスが随所に感じられる。⑫はこの頃の赤痢にしては長尺のナンバーで、やさぐれたガールズロックがたっぷり堪能できる。ボーナストラックでは代表曲⑯などのレアトラックが楽しめる。

フラストレーションが渦巻くような荒々しい演奏はインディーロックならではの熱さがある。好き勝手に歌っている印象のボーカル含め、ルーズというより飾らない自然体の魅力があると言えるだろう。生々しいガールズパンクが楽しめる1枚だ。

SUPERSTUPID! |SUPERSNAZZ

1999/1/25 ダブリューイーエー・ジャパン

1. Breakout
2. Johnny
3. Black Cat
4. Sometimes
5. Middle of the Way
6. Playing With My Guitar
7. Uncle Wiggly
8. Hardcore
9. Comanche
10. Creeps
11. First Time Is the Best Time
12. Papa Oom Mow Mow

ガールズバンド「SUPERSNAZZ」が1993年にリリースした1stアルバム。Nirvanaを輩出したシアトルの名門インディーズレーベルSub Popからいきなりデビューしたというちょっとビックリな1枚。このバンドは後にキュートなパワーポップ路線で胸キュンパンクポップを聴かせてくれたイメージも強いが、このデビュー盤ではグランジ色の強いギターが特徴的な勢いのあるガレージパンクを楽しむことができる。

冒頭①からノイジーなロックンロール炸裂という感じで、ボーカル務めるスパイクのワイルドな歌いっぷりに痺れる。続く②も疾走するキャッチ―なガレージパンクで、ロック以外の何者でもないボーカルが良い。④は本作の中でも白眉のポップセンスが光るキラーチューン。エッジの効いたギターとポップなメロディーがバンドの初々しい雰囲気と上手くマッチしており躍動感溢れる1曲だ。⑦はロック魂を感じる渋いボーカルとヘビィなサウンドが気分を高揚させてくれる。⑧はガールズロックのカッコ良さを詰め込んだようなクールでスタイリッシュな魅力が溢れている。
⑫は1960年代のアメリカ西海岸のボーカルグループThe Rivingtonsのカバー曲。SUPERSNAZZ流のオリジナリティあるカバーとなっており、ガールズバンドのカッコ良さや楽しさを感じることができる。

いきなり海外レーベルからデビューするという当時のインディーシーンの混沌や熱さを象徴する1枚である。曲には日本人離れした空気感があり、アメリカのバンドと並べても違和感がないセンスが光る1枚だ。

伝説を語りて|PROVIDENCE

1990/3/5 キングレコード

1. ガラテア
2. 永遠の子供達
3. 夢狩民幻想
4. 伝説を語りて

1982年に結成されたプログレバンド「PROVIDENCE」(プロビデンス)の1stアルバム。ヘヴィメタルバンド「SABER TIGER」のボーカルを務めるなど幅広い活動で知られる久保田陽子の表現力と深みのある歌声を主役にしたジャズロック要素を含むシンフォニックなプログレである。4曲すべてが長尺の大曲となっており、ドラマチックな曲構成やテクニカルな演奏は完成度が高いもので、目まぐるしく展開される刺激的なサウンドとパワフルで美しい女性ボーカルの組み合わせは絶品の味わいがある。

冒頭①から14分超える大作で、いかにもプログレなイントロから始まる叙事詩を奏でるような壮大な世界観に引き込まれる。ベースの音色が耳に残り、転調や変拍子を多用しながらもハードロック度数も高いので、ダイレクトにロックの高揚感が得られるパートが多い。終盤には心の琴線に触れるメロディアスなパートがありこれが素晴らしい。②は本作の中でもキャッチーで親しみやすいプログレハードといえる楽曲。表情豊かに歌い上げる久保田陽子のシンガーとしての魅力がストレートに伝わってくる。
③はファンタジックなサウンドと物語を盛り上げるボーカルの表現力などが光る。
アルバムタイトル曲④は20分に及ぶ超大作で、女性ボーカルプログレの神髄がこれでもかと堪能できる逸品。アコースティックギターの美しい歌から幕を開け、各楽器が競い合うアグレッシブな演奏と伸びやかで熱をもった歌声が生み出すエネルギーは圧倒されるものがある。

和的な旋律を大切した部分が随所に感じられる作風で、海外のプログレとはひと味違う日本ならではのものを作っていると思う。女性ボーカルプログレ勢の中でもトップクラスの出来なので、文句なしにおすすめできる1枚だ。

Water Blue|VERMILION SANDS

1999/12/7 Musea Records

1. My Lagan Love
2. Ashes Of The Time       
3. In Your Mind  
4. Coral D – The Cloud Sculptors    
5. Kitamoto        
6. Living In The Shiny Days            
7. The Poet         
8. The Love In The Cage  
9. In The Night Of Ancient Tombs 
10. The Love In The Cage (Live)   
11 In Your Mind (Live)

ボーカルの蝋山陽子やキーボートの山田雅弘を中心として1986年に結成されたプログレバンド「VERMILION SANDS」。本作は1987年にリリースされた1stアルバムにボーナストラック4曲を加えた再発盤。RenaissanceやILLUSIONといったイギリスの女性ボーカルプログレバンドから影響を受けており、ブリティッシュフォーク/プログレを基調とした美しいサウンドと蝋山陽子の透き通った美声が特徴的である。

①~⑦がアルバム『Water Blue』。
まず注目はタイトルからしてRenaissanceライクな大曲②である。アコースティックな質感を持ちながらシンフォニックに展開されるスリリングなバンドサウンドは刺激的かつ癒しを与えてくれて、幻想的な透明感ある歌声と絶妙にマッチしており素晴らしい。こういった西洋的なサウンドで日本語詩であるのも新鮮な魅力がある。③は瑞々しいサウンドが徐々に盛り上がっていき、メロディアスなギターソロが印象的である。サウンドも歌声もひたすら美しい旋律を奏でており桃源郷に降り立ったような心地良さがある。⑥は青空が広がるような軽快なサウンドのアップテンポのナンバー。⑦は牧歌的ながらも壮大さを感じるサウンドや蝋山陽子のボーカルの表現力が光る。ワールドミュージックやニューエイジとしても聴ける大地の息吹を感じる秀逸な曲。

ボーナストラックではオムニバス盤提供曲であった⑧は白眉の出来で、美しいアコースティックサウンドから壮大な広がりをみせるプログレッシブなフォークロックの大傑作である。⑩⑪のライブ音源は録音状態が良くないが、生々しい空気感が味わえる貴重な音源と言えるだろう。

イギリスのフォークロックやプログレを真っ直ぐと継承した正統派のバンドという印象で、日本の女性ボーカルプログレの中でも代表的な作品のひとつと言える。和的な魅力も随所に感じられるので、日本ならではの魅力もあるバンドだ。

BOYS TREE|コクシネル

2002/2/25 いぬん堂

1. 天と地の偶像
2. 少年の木
3. 記憶
4. 再生
5. 夜の歌
6. 叫び
7. この光の中

1970年代に活躍したロックバンド「めんたんぴん」のメンバーであった池田洋一郎とボーカル野方攝を中心に1980年に結成されたバンド「コクシネル」。本作は1986年にリリースされた1stアルバムにボーナストラック1曲を加えてCD化したものである。
初期メンバーであったアンダーグラウンドを代表する音楽家である工藤冬里がピアノで参加している。音楽性はアヴァンギャルドな要素も含むニューウェイヴ色が強いポップスという感じで、荘厳な雰囲気やノスタルジックな空気を感じる楽曲と野方攝の美しい歌声が心に安らぎを与えてくれる。

冒頭①はシンセのイントロから始まるアンビエントサウンドに野方攝の自由奔放な印象の独特の歌唱が耳に残る。②は音数の少ないシンプルな演奏にまるで子守唄のように聴こえるノスタルジックな歌が心を癒してくれる。③は現代音楽要素を含む万華鏡のようなサウンドと幻想的な雰囲気漂う歌が上手く絡み合っており、不思議な世界観に浸ることができる。⑤は本作の中でもギターの音色や叙情的なメロディーの良さが光っており秀逸。テクニカルなギターと素朴だが芯の強さを感じる歌声が絶妙に調和している。⑥はプログレッシブに展開するサウンドと美しいメロディーが心地良く耳に響き、いつまでも聴いていたくなる魅力がある。⑦はボーナストラックでアンビエントな電子ポップが楽しめる。

サウンドは先悦的で実験的な部分もあるが、基本的には野方攝の歌声をフューチャーした女性ボーカルポップスである。アンダーグラウンドなバンドならではの一風変わったポップソングを聴くことができる傑作アルバムである。

Along Ago|Oxz

2020/3/13 Captured Tracks

1. Fall in the Night
2. Along Ago
3. Life and Death
4. Touching My Heart
5. Vivian
6. Be Run Down
7. Etranger (1985)
8. Boy Boy
9. Etranger (1988)
10. Is Life
11. Teenage B
12. ()
13. Blue Sing
14. Bleed Love
15. Down Easy
16. Angel
17. Orgel Bony
18. Truth
19. Baby Again

関西を拠点に1981年から1989年まで活動していた3人組のガールズバンド「Oxz」。
本作は活動期間にリリースした3枚のEPとデモや未発表曲を収録したコンプリートアルバムである。ポストパンクやポジティブパンクに影響を受けたと思われるダークな雰囲気や気だるげな空気感は引き込まれるものがあり、ボーカルMikaの呟くような淡々とした歌声や切迫感あるプリミティヴな演奏などは同時代のガールズバンドとはひと味違う尖った魅力がある。Siouxsie And The Banshees、Cocteau Twins、Joy Divisionあたりに親和性が高いのでそれらが好きならおすすめできるバンドだ。

冒頭①からノイジーな荒削りなサウンドとダウナーな雰囲気に圧倒される。音楽センスが日本人離れしており、イギリスのニューウェーヴバンドに近い空気感である。②は独自の美意識を感じる曲調や世界観がドラマチックに響く。耽美なメロディーは浮世離れした味わい。③はやさぐれたガールズロックという感じの渋い格好良さが光る。④は幻想的なサウンドとメロディーが異世界にトリップさせてくれる美しいバラード。⑤は野性的なドラムのリズムが印象的で、儀式のような雰囲気が漂う。呪術的なボーカルなど民族音楽色が強い曲である。
⑧はインディーズならではの破壊力を持つソリッドなサウンドにキャッチ―なリズムが見事にハマっているキラーチューン。
⑫はピーンと張りつめた緊張感あるパートから解放的なダンサブルなパートへの展開が鮮やかで、中毒性のあるビートが耳を捉えるダンスロック。日本のポストパンクの名曲と言っていいクールなカッコ良さだ。⑯はどこかグラムロックっぽい割とストレートなパンクで、シンプルなロックとして楽しめる。

聴けば思わず『1980年代にこんなバンドが日本にいたの?』と言ってしまうほど、海外のニューウェーヴっぽい音楽センスが光る1枚である。インテリジェンスを感じるクールさとロックの初期衝動が絶妙なブレンドされた凄いバンドだ。

もはやこれまで&モア 1985~1987|パパイヤ パラノイア

2010/6/16 SOLID RECORDS

ディスク1

1. ゴーゴンズ
2. 夏が終わる
3. 極楽コレクション
4. 月のうさぎ
5. 貴婦人の散歩
6. 鬼の好物アニマルプリント
7. ダンスがスンダ
8. シュールアンダースタンド
9. わがままな肉食
10. あなたに会いたい
11. もはやこれまで
12. たこのおんがえし (デモ)
13. おじさんよってって (デモ)
14. 貴婦人の散歩 (第28回 Yamaha Popcon 実況録音)
15. 踊らにゃソン!
16. おじさんよてって
17. リンス
18. もはやこれまで (シングル・ヴァージョン)
19. パパイヤパラダイス(デモ)
20. ジャングルの夕日(デモ) 

ディスク2

1. 金曜金髪
2. A・X・I・A
3. 踊らにゃソン!
4. Swimming In The Pool
5. ジャングルの夕日
6. 20世紀の子供達
7. WAR×3

ボーカルを務める石嶋由美子を中心としたパンク/ニューウェーブ系ガールズバンド「パパイヤパラノイア」。本作は宝島社が設立したインディーズレーベル【キャプテンレコード】からリリースしたアルバム『もはやこれまで』(1985年)と『WAR WAR WAR』(1986年)に加えて、シングル、オムニバス参加曲、デモやライブ等のレア音源を収録した編集盤である。戸川純や高橋佐代子(ZELDA)と同時代性を感じさせる石嶋由美子のエキセントリックなボーカルやソリッドなパンクサウンドなどはメーターを振り切った初期衝動を感じるもので、得体の知れないエネルギーに満ちている。

ディスク1は『もはやこれまで』(①~⑪)を中心にシングルやデモ音源が収録されている。
冒頭①から切れ味の鋭いパンキッシュな演奏で疾走し、尋常ではないテンションのボーカルを含めて勢いが凄い。②は打って変わってアンビエント風味のサウンドが神秘的な旋律を奏でており、荘厳な雰囲気や祈りを捧げるような歌声など懐の深さに驚かされる。⑤はスカっぽいチャーミングな曲調から突然ブチ切れるボーカルが痛快。サウンドも後半カオティックになり面白い。⑨はエキゾチックなサウンドやメロディーがここではないどこかに誘ってくれる。
⑪は縦横無尽という言葉がぴったりの暴力的な歌唱に圧倒される。デビューシングル⑰は緊迫感あるサウンドから解放感を感じるパートへの展開がお見事。歌詞もユーモラスで楽しい。

ディスク2は『WAR WAR WAR』(①~⑧)を中心に収録。
①からキャッチ―なビートのロックンロールが炸裂する。やはりテンションが高いボーカルはこのバンドの大きな魅力のひとつである。②は斉藤由貴の名曲をパンクロック解釈でカバー。原曲のバラード調とはまったく違う暴力的なパワーが渦巻いており、パパイヤパラノイア流の個性的な仕上がりとなっている。④は神秘的なサウンドと透明感ある歌声という異色のナンバー。パンキッシュに弾けるだけではなくこういった奥深さを感じる音色の楽曲があるのが面白い。⑦はポストパンク色が強いヘヴィな激烈サウンドと野性的なボーカルが絶妙に組み合わさり、理屈抜きに高揚感が得られる名曲。
⑧は幻想的なシンセの音色が印象に残るプログレッシブなポップス。ワールドミュージックを取り入れた独創的なセンスが光るキラーチューンである。

パンクバンドらしい暴力的なロックからニューウェーブ色が強いナンバーまで幅広い音楽性が楽しめる。ストレートなロック一辺倒ではなくてインテリジェンスを感じる不思議な楽曲を差し込んでくるのがパパイヤパラノイアの面白いところである。

つちのこ男爵|マサ子さん

1989/10/10 IKA-TEN

1. マサ子さんのテーマ
2. LOVE:LOVE SONG
3. 花梨(リーフォア)
4. DEVO
5. Nonsense Song
6. 雨にヌレテモいーや
7. PSYNOMEY
8. 知らぬ世界
9. PUNK花梨
10. フルーツ オレ ヨーグルト
11. 夜の都会(まち)に眠れ
12. 車からみてね

マユタンとサブリナの姉妹ボーカルを中心としたガールズバンド「マサ子さん」。本作は1989年にリリースした1stアルバムである。
これ以前には有頂天のケラが主宰していたインディーズレーベル『ナゴムレコード』からリリースしており、元々姉妹はナゴムギャル(奇抜なファッションをした女性ファン)だったとのこと。TBSテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』に出演以降は一風変わった女子バンドとして一般的な知名度も獲得していた。

音楽性はニューウェーブを基調としているが、頭のネジがとんだような個性的な世界観は電波ゆんゆんの不思議少女系ポップスという感じだ。またサウンド面では弦楽器にギターではなく大正琴を使用しているのが特徴的である。

冒頭①はバンドの自己紹介ソングで、はっちゃけた雰囲気のボーカルが陽気な気分を運んでくれる。②はトイポップ風の愉快なサウンドとへんてこりんな歌がふわふわとしながら脳神経を直撃する。④はチャーミングな電波を発しながら軽快に疾走する。ユニークな歌詞も面白い。⑤は浮遊感あるニューウェーブサウンドと淡々しながらもどこかおかしい歌声により異世界への扉が開かれてしまうようなトリップ感の強い曲。⑥は学芸会みたいな未成熟な歌声と奇妙な雰囲気が耳を虜にする。奇妙な作風ではあるが、歌メロがキャッチ―なので親しみやすさがある。⑪は都会的な洗練されたカッコ良さが光る良い曲だが、途中で林家ぺーの語りが入ったり、サビの歌詞も林家ぺーに関するもので、やはり普通のバンドではない。⑫はぶっ飛んだ世界観やキュートなコーラスなどマサ子さんの魅力がつまった渾身の1曲。リズムやボーカルの掛け合いは中毒性が高いもので、狂気を感じる陽気な雰囲気が最高である。

一言で内容を表せばまさに【Strange Girls Music】と呼べるものである。不思議で一風変わっているが、同時にガールズバンドならではのキュートな魅力もあるので、敷居はそれほど高くはなく、多くの人が楽しめる1枚である。

MILKICKING|CRAWL

1995/12/10 K.O.G.A Records

1. Slow Burn
2. High and Dry
3. Quick Freeze
4. Gabage Truck
5. Frantic
6. Super Turn
7. Feeder
8. Power Dive
9. Across the Line
10. A Hit

1990年代半ばのインディーズシーンで人気のあったロックバンド「CRAWL」の1stアルバム。聴いていると心が安らぐ透明感あるボーカルに、ギターポップやオルタナティブロックを基調としたサウンドという、聴き心地の良さを追求したようなインディーロックである。多くの女性ボーカルバンドを輩出した『K.O.G.A Records』リリース作品の中でも傑作アルバムのひとつに数えられる。

冒頭①からインディーバンドらしい生々しいギターサウンドとネオアコ系のキュートボイスが胸キュンもので耳を強く捉える。
②は男女ツインボーカルの掛け合いとスリリングなギターの音色が鮮やかに響くキラーチューン。サウンドの質感もボーカルの声質もネオアコ/ギターポップ好きのツボを突きまくりでセンスがある。③はチャーミングな歌声と轟音ギターが良い味を出しておりファニーなギターロックという感じの傑作。⑤は轟音ギターを入れるタイミングや音色が非常に良くて痺れる。
⑧は清涼感と疾走感ある男女ツインボーカルパワーポップで気分爽快。⑨はシンプルながらもエモーショナルなビートが胸を熱くする。まさにオルタナティブロック+ギターポップという質感で、ラフなサウンドと可愛らしい歌声の組み合わせは日本ならではものである。

全編に渡りギターの音色が素晴らしく、やや荒削りなサウンドに清涼感ある女性ボーカルが乗るのがたまらなく良い。

Retinae|dip in the pool

1989/4/10  MOON RECORDS

1. On Retinae (West Version)
2. A Green Spangled Deer
3. マルイ月トゥスヰート
4. Over The Rainbow
5. Land
6. A Quasi Quadrate
7. Kesalan
8. Six – Lovesixy
9. Gladiolus (Breath Mix)
10. On Retinae (East Version)

ボーカルの甲田益也子とキーボードの木村達司による音楽ユニット「dip in the pool」の3枚目となるアルバム。本作にはMARIAHの清水靖晃や佐久間正英などが参加している。
芸術的な雰囲気が漂うニューウェーブ系ポップで、アンビエントやニューエイジに親和性が高いサウンドや甲田益也子の美しい歌声が生み出す独自の浮遊感が心に安らぎを与えてくれる。

冒頭①からメロウで柔らかく、不思議な揺らぎをもった旋律に引き込まれる。現代音楽的でもある緻密なサウンドと上品な歌声はいつ聴いても新鮮な感動をもたらしてくれる。
②はダンサブルで煌びやかな音と幻想的なメロディーやボーカルが心地良いトリップ感をもたらす。サウンドはかなり凝っているが、ポップスとしても優れた曲である。③はファンタジックな雰囲気の曲で、カラフルなサウンドと可愛らしい歌声は中毒性が高い。⑤はワールドミュージック色が強い壮大なバラードで、透明感ある歌声が極上の癒しを与えてくれる。
⑥は細部にまでこだわりを感じるサウンドが凄いが、フレンチポップのような甘い聴き心地の良さも同居する。⑧はジャジーでスペーシーなサウンドがスリリングでカッコいい。⑩は①の別バージョンで違いを楽しむことができる。

サウンドはとにかく良く出来ており、細かい音にも耳を向けると次々に新しい発見がある興味深いものである。洗練されたサウンドと気品ある歌声がここではないどこかへ連れて行ってくれる傑作アルバムだ。

Pleiades|Kirche

1999/6/20 桜詩舎

1. Pleiades
2. 千の夜の睛 ~celestine
3. セイリオス
4. 五月はベリルの風をつれて
5. Breeze
6. Mirage of sands
7. Swim ~水夢~
8. 三日月の舟
9. ティル・ナ・ノグ
10. 星によせて
11. 空の青 水の青

みとせのりこと井上俊彦による音楽ユニット「Kirche」の2枚目となるアルバム。
1993年に結成されてから、『風景の見える音楽』をコンセプトにインディーズで幻想的な音楽作品を発表している。ZABADAKからの影響が色濃い1stアルバムから大きな進化を遂げており、Kircheの魅力であるファンタジックな叙情性がプログレッシブなサウンドで展開される力作となっている。同年にPlayStation用ゲームソフト『クロノ・クロス』のED曲【Radical Dreamers ~盗めない宝石~】での美しい歌声が話題となったみとせのりこボーカルにも注目である。

②はワールドミュージック色が強いシンフォニックなサウンドと透明感ある歌声が幻想的な世界に誘ってくれる。壮大な世界観を盛り上げるプログレ度数の高い演奏はスリリングで、繊細な歌声と上手く調和している印象だ。
③は9分を超える大作で、美しい揺らぎを感じるサウンドや叙情的なメロディーを情緒たっぷりに歌い上げるドラマチックな歌唱など、まさに幻想音楽と呼べる箱庭的な淡い感傷に気持ち良く浸れる。④は遊佐未森にも通じるカラフルなファンタジックサウンドと優しさに満ちた歌という癒されるナンバー。
⑥はエキゾチックな雰囲気にゾクゾクするメロウなプログレという感じの大曲。異国情緒溢れる幻想的な世界観にぴったりと合うヴァイオリンやパーカションの生々しい音響やメロディーや歌声の美しさなどすべてが素晴らしい名曲。特にサビでのノスタルジーを感じる繊細なメロディーはいつまでも記憶に残る。⑨はアイリッシュトラッドサウンドに土着的な歌メロが親しみやすい雰囲気で、小難しさ抜きに楽しい気持ちになれる。ラスト⑪は流水のように美しい旋律を奏でており、ボーカル含めてまさに透き通った魅力がある。

基本的には歌メロを大切にした幻想的なポップソングではあるが、⑥に代表される様々な楽器が刺激的に絡み合う緻密なサウンド構築はプログレと言っても良いものである。壮大かつ箱庭的でもある一風変わった世界観にどっぷりと浸ることができる傑作アルバムだ。

GOLCONDA|Adi

1993/10/21 ビクターエンタテインメント

1. Pi-ta-rit
2. ジンババヤ
3. Co-Cu-u
4. ARICA
5. Snobに抱かれて
6. チープな日々
7. 開店休日
8. ペーパーバビロンの庭で
9. 水の贈りもの(Adiバージョン)
10. スティルネス
11. 水の贈りもの(ASKAストリングス・バージョン)

ヴァイオリニスト金子飛鳥を中心に結成されたバンド「Adi」の1993年リリースのフルアルバム。金子飛鳥はエレキヴァイオリンを駆使した刺激的なロックを展開するなど、様々なジャンルとクロスオーバーしたプログレッシブな作風が持ち味である。自身のバンドとしての代表作である本作では、TECHIE(本間哲子)や金子飛鳥自身のボーカルを全面にだした、ワールドミュージック色が強い超絶技巧サウンドのポップスを聴かせてくれる。金子飛鳥、渡辺等(ベース)、塩谷哲(ピアノ)のバンドメンバーに加えてゲストの仙波清彦(パーカション)も含めた豪華メンツが作り出す緻密な音は聴きごたえがある。

冒頭①は透明感ある美しいサウンドと可愛い歌声が生み出す不思議な浮遊感が心地良い。ポップソングとして出来が良いのはもちろんのこと、細部にまでこだわりを感じる隙のない演奏は当時の一般的なJ-POPとはまったく違うもので、ベースやヴァイオリンの印象的な響きなどはさすがといったところ。②は南国の風に吹かれるような爽やかな曲で、野性的なパーカションとキャッチ―なリズムに気分が高揚する。金子飛鳥のヴァイオリンの個性的な音色を始めとして各楽器が競い合うアグレッシブなバンドアンサンブルが素晴らしい。③はアンビエントな雰囲気の歌モノで、美しい歌声と奥行きのあるサウンドが幽玄な世界へと誘ってくれる。
⑤はキュートな歌モノで、ふわふわしたボーカルや温かいアコースティックサウンドが疲れた心を癒してくれる。⑦はプログレとガールポップが融合したようなワクワクするポップナンバー。歌モノなのに存在感を発揮しまくるにヴァイオリンのカッコ良さに痺れる。
⑩はこれ以上ないほど美しさを持つバラードで、特に『絶対の美』を体現するような優雅なヴァイオリンの響きは記憶に残る。

女性ボーカルのポップスが聴きたいけど演奏のクオリティーも妥協できない人におすすめの1枚である。とにかく金子飛鳥の感情豊かに舞うヴァイオリンが良い。歌モノでありながらここまで刺激的なバンドアンサンブルを奏でている作品はあまりないので貴重な傑作アルバムだ。

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