君のように生きれたら|宇宙ネコ子

2019/4/24 LOOM RECORDS
1. Virgin Suicide
2. 君のように生きれたら
3. Like a Raspberry
4. FILM
5. (I’m) Waiting For The Sun
6. Timeless
7. Flowers
2012年に結成されたオルタナティブポップ・ユニット「宇宙ネコ子」の2枚目となるアルバム。ジャケットのイラストを手掛けているのが大島智子で、泉まくらとのスプリット盤もリリースしていることからも分かるように、サブカル度数が高いちょっぴりメンヘラチックな女子ロックである。
これまでの作品ではラブリーサマーちゃんなどのゲストボーカルをフィーチャーした曲がメインであったが、本作からメインボーカルとしてkanoが加入し、より自分達のカラーを強く打ち出したアルバムである。
音楽的にはギターロック、ベッドルームポップ、シティポップと振り幅は大きいが、青い季節特有の淡く儚い感傷にどっぷりと浸れる雰囲気が特徴的だ。このアルバムはkanoの淡々とした囁きキュートボイスを生かした切ないオルタナティブロック路線の曲が多く収録されており、透明感のある繊細な世界観が好きならおすすめできる内容となっている。
冒頭①はノイジーなギターサウンドとkanoのウィスパーボイスが最高にセンチメタルな気分に浸らせてくれる。シンプルなギターロックであるが、青春時代特有の様々な感情を詰め込んだような雰囲気がずば抜けているキラーチューンだ。続く②も①同様の路線だが、こちらはよりメロディーの輪郭がくっきりと浮かび上がる歌モノとして秀逸である。
③はしっとりとした雰囲気に癒される美しいナンバー。女子力MAXのキュートな歌声の聴き心地が良い。
④はSteamのアートセンスがあるインディーズゲームのBGMみたいなノスタルジックなインスト。これも雰囲気抜群でグッドだ。
⑤はギターの音色が非常に耳に残る。生々しいサウンドと感傷的なメロディーが絶妙な味わいである。
⑥は喪失感などの切なさをたっぷり含んだ爽やかなギターポップ。耳当たりが良く、さり気なく日常に寄り添ってくれる優しい曲である。
ラスト⑦は美しいピアノ伴奏に合わせた遠くから響くような切ない歌声が印象的なバラード。アンビエントな雰囲気が心地良い。
全編通してじっくりと心に染み渡る作風が素晴らしい。等身大の雰囲気は自然と耳を捉えるもので、ポップミュージックとして良く出来ている。
下級生2 ソング・コレクション

2004/11/26 SOFTGARAGE
ディスク1
1.18 カチューシャ(河原木志穂、中島沙樹、美弥乃静)
2.天使のメロディー 猪口有佳
3.きおくのかなた 近藤志津香
4.鼓動 大津田裕美
5.Heart to Heart 美弥乃静
6.誰よりもいちばん輝いてるあなたへ 長崎みなみ
7.蜉蝣/西川宏美
8.ココロノカケラ 田中涼子
9.Lucky Day 及川ひとみ
10.夏 河原木志穂
11.waver leaf 永島由子
12.潮騒 中島沙樹
13.恋の歌 カチューシャ(河原木志穂、中島沙樹、美弥乃静)
ディスク2
TVアニメ版下級生2 サウンドトラック
『下級生2 ソング・コレクション』は、美少女ゲームブランド エルフ(élf)のPC用恋愛アドベンチャーゲーム「下級生2」(2004年)の主題歌やイメージソングとTVアニメ版のBGMを収録した2枚組のCDである。
エルフは1992年に発表した革命的美少女ゲーム「同級生」にて恋愛アドベンチャーゲームの源流を生み出し、アリスソフトと共に東のエルフ西のアリスと称されたエロゲ業界の大手ブランドであった。
さてまず音楽の話の前に「下級生2」と言えば本作のジャケットを飾るヒロイン 柴門たまきを巡る大騒動・・・通称【たまきん事件】について触れないわけにはいかないだろう。
この事件は主人公の幼馴染であった柴門たまきがゲーム開始時の時点で医大生の彼氏がおり非処女であったという設定に激怒したファンが、これを不具合としてゲームディスクを真っ二つに叩き割りエルフに返品したというものだ。当時は割れたディスク写真もアップされて、2ちゃんねる等のネットで大きな波紋を広げた。
元々エルフは恋愛ゲームのブランドではなかった。前述の「同級生」でナンパゲームのヒロインを少人数にしたことにより、個別のシナリオに厚みが増して恋愛要素が生まれた。そしてそれがPCエンジン「ときめきメモリアル」(1994年)などに飛び火したのである。後進の最初から恋愛を主軸としたゲームブランドとは違う経緯があるので、そのあたりの差異から生まれた事件だったかもしれない。そしてこのような純愛ゲームでの禁じ手をおかす大胆な姿勢がエルフ末期のNTR(寝取られ)の金字塔作品「ボクの彼女はガテン系~以下略」(2011年)にも繋がっていくのである。
さてここからは音楽の話だ。実はエルフのゲームは女性ボーカルの視点から見ても重要曲をいくつか送り出している。
特にPCエンジン版「同級生」のOPテーマである『夏色のシンデレラ』(1995年)は、アイドルポップ調の曲を丹下桜などの声優陣が不慣れながらも体当たりで歌った結果、奇跡的な瑞々しさを獲得した名曲である。この曲はノスタルジックなEDテーマの『MEMORY』と並んで、後に一大人気ジャンルとなるギャルゲ/エロゲソングや声優ソングの源流のひとつとなったと言えるかもしれない。
本作はそんなエルフ「下級生2」の声優陣が歌うテーマ&イメージソングがたっぷりと収録されている。曲の雰囲気が心地いいので、ゲームやアニメを思い出して感傷に浸るのも良いし、音楽だけ声優ソングとして聴いても楽しめる内容となっている。
ディスク1が下級生2の主題歌とイメージソングで構成されたソング・コレクション。
①と⑬が声優ユニット カチューシャ(河原木志穂、中島沙樹、美弥乃静)が歌う下級生2のテーマソングであり、これはアニメ版にもそのまま使用されている。
OPテーマの①は意表を突く昭和歌謡風のメロディーがグッドな18歳女子ソング。【やんやんややんや~ん】などの合いの手やポエトリーパートは、電波ソングにも通じるものがあるが、曲調自体はストレートな歌謡曲である。エロゲソングではI’veなどの洗練されたエレクトロポップが人気であった当時において、このようなベタな歌メロの曲をだして他との差別化を図るとは・・・これぞまさにエルフなキラーチューン。ゲーム同様に音楽も昭和色が強いのが良い。EDテーマの⑬も同じくハーモニーが心地良い歌謡路線である。こちらも懐かしさを覚える歌メロや青春王道感溢れる歌詞など、ゲームによく合っている曲だ。
②~⑫が下級生2のBGMをボーカルアレンジしたキャラクターのイメージソングとなる。ゲーム本編でも各キャラクターのEDテーマとして使用されている。
②は猪口有佳の透明感ある歌声とソフトなエレクトロアレンジが癒し効果を生み出す。
③は近藤志津香の中性的な歌声が印象的な切ないバラード。
④は大津田裕美のワイルドな歌声とヘヴィなギターリフがカッコいいハードロック。
⑤は美弥乃静が元気に歌うガールポップ路線の躍動感があるナンバー。
⑥は長崎みなみの可愛い声質を生かした心がほっこりするバラード。
⑦は西川宏美の色気ある歌声が柔らかいサウンドにぴったりとハマった美しいバラード。
⑧は田中涼子の儚い歌声と無駄のない透き通ったサウンドが絶妙に調和する。
⑨は及川ひとみが可愛らしく歌うキラキラしたエレクトロポップ。
⑩は河原木志穂のキュートフィーリングが冴えているキラキラした青春ポップ。
⑪は永島由子の歌い回しが耳に残る透明感溢れるナンバー。オシャレな雰囲気が良い。
⑫は中島沙樹の胸キュンボイスが破壊力抜群の1980年代アイドルポップ風の曲。
ディスク2はTVアニメ版下級生2のBGMが50曲収録されている。
ゲームやアニメを知っている人向きの内容であるが、心が癒される優しい曲調が多いので、そういったものが好きならおすすめである。
本作を聴きながらエルフのことを考えると下級生2だけでなく、「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」などエルフの名作ゲームの数々が脳裏に蘇る。今はなき偉大なるエルフに思いを馳せる・・・そんな1枚だ。
う・そ・つ・き|女的(ガールティック)

1990/11/5 Moon Drops
1. だけど
2. う・そ・つ・き
3. パノラマ島奇談
4. おやすみなさい
5. (Kiss) 3
「女的」(ガールティック)は1980年代から1990年代にかけてインディーズシーンで活躍したヴィジュアル系バンド。本作は1990年にリリースされたEP作品である。
当時としては非常に珍しい女性ボーカルのヴィジュアル系ヘヴィメタル・バンドだ。
ボーカルを務める鬼姫は、後に日本ジャズボーカル歌唱賞を受賞する実力派シンガーである「しげのゆうこ」だ。本作は世界を股にかけて活動する女性ボーカリストの若き日のインディーロックが聴ける貴重な内容である。
1989年に脱退したメンバーがZ.O.Aに加入していることからも分かるように、音楽性はアンダーグラウンド色もある硬派なヘヴィメタルであったが、本作はバンドブームの時代性が色濃くでた爽やかなビートロック路線となっている。女性ボーカル的にはこういった軽快なロックビートには可愛らしい声質のボーカルをのせるタイプのバンドが多そうだが、そこに圧倒的な歌唱力を誇る鬼姫の歌声がのることにより、独自の味わいが感じられるメタルポップが楽しめる1枚となっている。
冒頭①からイントロのメロウなギターを合図に小気味よく疾走する。いかにもバンドブーム時代の雰囲気が感じられるキャッチ―なロックであるが、鬼姫のテクニカルなボーカル技術が光っており耳を惹きつける。
続く②も勢いはそのままにメロディアスに走り抜ける。男女関係をテーマにしたコミカルな世界観を巧みな歌唱で表現しており愉快な魅力を放つ。浮気性の嘘つき男に一撃を加える歌詞は、女性の味方とも言える強力な内容なので、彼氏にムカついている女子におすすめである。
③は江戸川乱歩の同名小説をテーマにしたナンバー。幻想的なイントロから始まる壮大なメロディーを歌う力強いボーカルに迫力がある。ハードロック/メタル全開のギターもアグレッシブでカッコいい。まさに怪奇ロックンロールである。
④は鬼姫のボーカル技術の高さが堪能できる美しいバラード。インディーズバンドとは思えないその歌唱力は圧巻だ。
ラスト⑤は本作の中でもメロディー、歌詞共にフックがあるキラーチューン。爽やかなサウンドにのる濃厚な歌い回しがアンバランスなようで、熱い高揚感を与えてくれてグッド。
ノリが軽いロックのようで、演奏テクニックやハイレベルな歌唱が光る作品である。
やはりすでに風格の漂う鬼姫のボーカルは聴きごたえがあり、ジャズシンガーしげのゆうこの原点を感じられるものとなっている。
マリリンとウミガメスープ|有機生命体

1990/6/25
アイアン・シロップ・レーベル
1. マリリンとウォータークラウン
2. Neige-Angelは青空宮殿に眠る
3. ビニールローズ
4. Be My Baby (I Wanna Be Your Suger Cube Doll)
5. クレーター (食事のお礼)
6. オレンジの令嬢
7. ウミガメモドキ (ニセウミガメに捧ぐ)
8. マリリンとウミガメスープ
「有機生命体」は1986年に結成されたロックバンド。本作は1987年発足されたインディーズレコード会社UK.PROJECT傘下のアイアン・シロップ・レーベルからリリースされた1stアルバムである。
このバンドはTBSテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(以下イカ天)でのインパクトのあるパフォーマンスがよく知られているので、当時は高い知名度があったインディーズバンドと言えるだろう。
音楽的には幻想的なニューウェーブ・サウンドにボーカルを務めるパーム・ルージュ・マリリンの舌足らずなキュートボイスがのるというもの。耽美な美意識と可愛い歌声は元祖ゴスロリ系とも言えそうで、このタイプの同時代のバンドでは「妖娼ロマネスク」と双璧の存在感を誇る。有機生命体や妖娼ロマネスクは、イカ天に出演にした個性的なインディーズバンドであったが、2025年の今聴くと幻想音楽系の同人サークルに通じるところがあると思える。
例えば六弦アリスはこれらのバンドとはなんの関係もなく影響も受けていないと思われるが、表現の方向性や精神性は近いものがあると感じられる。つまりこれは日本人女性の可愛らしい歌声(アニメ声とも言う)でゴシック色のある幻想的な世界観を構築した場合、ある程度同系統の音楽性になりやすいことを示しており興味深い。本作はそんな有機生命体のオタクにも受けそうな音楽センスが冴えわたる刺激的な内容である。
冒頭を飾るヘンデル『メサイア』のハレルヤコーラスを使用した短曲①に続く②から、マリリンの可愛らしい歌声の響きを主役としたファンタジックな旋律に引き込まれる。透明感のあるパートからじわじわと盛り上げてメロディアスに疾走する。アニソンっぽいところがまた魅力である。
③は不思議系女子フィーリングが絶妙なキュートポップス。変幻自在のボーカルとサウンドが最後スカっぽくなるのが良い。
④はアヴァンギャルドな作風のサイバーポップ。独創性溢れる近未来感覚がグッド。
⑤は筋肉少女帯 大槻ケンヂのユニークな作詞センスが光る。歌唱法は戸川純の影響が色濃い。ロリボイスとドスの効いた声を使い分けており、ただならぬ迫力がある。こちらも①同様にハレルヤコーラスが登場する。
⑥はアンビエントな雰囲気が漂う神秘的な歌モノ。ヒーリング効果もある美しい曲だ。
⑦は重量感ある陰鬱なサウンドに意味深なポエトリーリーディングという、当時としては挑戦的な作風が面白い。後半の超加速するビートと早口ボイスがイカれており最高。追い詰められるかのような緊迫感が全身にぶっ刺さるキラーチューンである。
ラスト⑧は激烈なハードコア・ナンバーでアルバムの締めを飾る。
SFやアニメが好きな層に好まれそうなマニアックな世界観は個性的である。またサウンドもストレートなものからアヴァンギャルド路線までふり幅が広く聴きごたえがある。
Awesome|Overcoat’s

2001/4/1 Pirozhki Recordings
1. Smoker
2. Sunshine Blues
3. Horobasha
4. Waiting At The Station
5. Bayou Jubilee
6. Lonely Lonely Boy
7. Subway In My Town
8. One Way
「Overcoat’s」(オーバーコーツ)は2000年前後のインディーズシーンで活躍したギターポップ・バンド。
本作は好評であったシングル『HERE COMES THE SUN』(1999)に続いてリリースされた1stアルバムである。
SUNNYCHARやTIROLEAN TAPEなどの活動で知られる吉野桃子(ヨシノモモコ)が主宰するインディーズレーベルであるピロシキ・レコーディングスからリリースしていたバンドだ。
人脈的にはレイトアノラック(アノラック復興ムーブメント)の流れにあるバンドであるが、そういった予備知識がなくとも楽しめる良質なポップソングを聴かせてくれるバンドである。当時は同じくアノラック要素もあったKOGA RECORDSの「browny circus」と人気を二分していた・・・というか聴いている層が同じであった。
音楽的にはギターポップを基調としたパワーポップ・エッセンスもたっぷりのパンキッシュに弾ける演奏に、清涼感のある上品な声質の女性ボーカルがのるというもの。一聴して耳に残るグッドメロディーが冴えており、メインボーカル以外のメンバーによるコーラスも巧みで良い。全編通してバンドで音楽をやる楽しさがストレートに伝わるのが大きな魅力である。
冒頭①から勢いのある曲で、キュート!ポップ!パンク!という感じに爽快に疾走する。曲の始まりから終わりまで激ポップで、親しみやすいインディーポップとして優秀である。
続く②は打って変わってじっくりとミドルテンポのハッピーチューンを聴かせる。煌びやかメロディー、清潔感のあるハーモニーとコーラス、メリハリのある演奏と三拍子揃ったキラーチューンだ。
③はウキウキする軽快なリズムとメンバーのボーカルがとにかく陽気な雰囲気で元気が貰える。
④はスウェーデンの女性シンガーDorisが1970年に発表した楽曲のカバー。オーバーコーツらしい躍動感が感じられるパワーポップなアレンジが良い。
⑤はNitty Gritty Dirt Bandが1975年に発表した楽曲のカバー。原曲の良さも殺さず、男性ボーカルメインに非常にアグレッシブに決める。⑥はパパパコーラスも飛び出すキラキラしたギターポップで爽快感抜群。これは元々オーバーコーツのデビュー楽曲であったので、原点が詰まった1曲である。
⑦はメロディーに切ないノスタルジーが感じられるのが良い。
⑧は一緒に口ずさみたくなること必至のメロディーと力強いロックビートという理屈抜きにポップミュージックの楽しさが伝わる旋律でアルバムの締めを飾る。
いい曲を作って楽しく演奏するという音楽愛が小難しさ抜きに伝わる内容である。
純粋に音楽の楽しさが感じられる雰囲気は、後の「KUNG-FU GIRL」といったバンドに受け継がれた部分も大きくある。聴いて元気が貰えるインディーポップとしておすすめできる1枚だ。オーバーコーツは2020年から活動再開し、アルバムもリリースしている。
Unmet Needs|bedgravity

2025/9/17
WATERSLIDE RECORDS
1. Emptying
2. White Breath
3. We Don’t Say
4. Crappy Night
5. Moon
6. Don’t Call My Name
7. Another Town
8. On Fire
9. My Little Me
10. Listen Your Wind
「bedgravity」はシンガーソングライターとして16歳から活動していたSakuraを中心として2023年に結成されたオルタナティブロック・バンド。本作は1stアルバムとなる。
Four TomorrowやFLATBOWLといったバンドで活動していたメンバーと結成したということで、メロディック・パンクの要素も含んだギターロックである。
Sakuraはソロ作品ではアコースティックギターの弾き語りというシンプルなスタイルでありながら、USインディー系のように芯の強さを感じる凛とした歌声が印象的であった。バンドであるこのbedgravityでは自身のルーツでもあるパンクの直情性に向かい合ったエモーショナルな旋律と切なくも熱を帯びた歌声がとにかくダイレクトに心に響く。
こういった英詩のメロディックなロックを聴かせるバンドはどれも基本的にメロディーには自信ありという感じが伺えるが、そうなるとやはりボーカルの声質や歌い回しが明暗を分けるとも言えるだろう。そういった意味でもSakuraの歌声の瑞々しさと表現力は素晴らしいものがあり、聴く者に圧倒的な説得力をもって迫るのである。そしてその歌声と絶妙に調和するソリッドな演奏など、トータルで聴きごたえのある1枚である。
子守歌のような導入①に続く②は、闇を切り裂くギターを合図に切なげな表情を見せながらメロディックに疾走する。叙情性が光るギターやハートフルなメロディーがグッドで、感情豊かなSakuraのボーカルが胸を鋭く突き刺す。複雑な曲構成という分けではないが、ドラマチックな盛り上がりが熱い。
③も勢いはそのままに更に切なさ爆発といった感じの旋律に心揺らされる。
④は打って変わってミドルテンポのじっくりと聴かせるナンバー。じわじわと心に沁みるメロディーや無駄のない巧みなサウンドは完成度が高い。最後にはシューゲイザー風のノイジーな轟音ギターが鳴り響き、意外性があり良い。
⑤は静から動へのコントラストが見事。しっとりとしたパートから感情を爆発させる終盤へと鮮やかに展開させる。歌声、演奏共に最高にエモーショナルだ。
⑥はノスタルジーやセンチメンタルな感傷をすべて音に昇華したかのような傑作。切なさと共に力強さを感じさせるのがグッド。
⑦は揺らぎを感じる演奏と熱量のある歌声が気持ちをぶち上げてくれて爽快な気分になれる。⑧も⑤同様に徐々に感情を高めていき、爆発させる後半は盛り上がりが最高潮に。特にSakuraの全身全霊の叫びに痺れる。
⑨は最初のギターを聴いただけで、良い曲だと確信できるキラーチューン。切れ味鋭い切ないギター、大きなうねりを生み出すメロディー、雰囲気抜群の歌声とまさに究極のエモさここに極まるという感じで最高だ。本作のクライマックスを劇的に飾り秀逸である。⑩は①同様のアンビエントな短曲でアルバムを締める。
感傷的なギターロックとしてどれも出来が良く、文句なしの内容である。Sakuraの存在感あるボーカルを主役として、すべてが尋常じゃなくエモいのである。
もし2025年エモい女性ボーカル・インディーズロック選手権があったら優勝しそうな力作だ。
酸欠少女|さユり

2022/8/10 ariola
1. 酸欠少女
2. 花の塔
3. 航海の唄
4. DAWN DANCE
5. 世界の秘密
6. 葵橋
7. 月と花束
8. かみさま
9. summer bug
10. レイメイ
11. ねじこ
「さユり」は2015年にメジャーデビューした福岡県出身のシンガーソングライター。
本作は2枚目となるアルバムである。
自らを酸欠少女と称し、ネットなどの2次元とライブ等の3次元の活動をミックスさせた2.5次元パラレルシンガーソングライターとしてよく知られていた。才能も人気があったが、残念ながら2024年に亡くなられている。
歌声に独自のクセがあり、特徴的な声質や歌い回しは椎名林檎や矢井田瞳などの系譜を受け継ぐ強力な存在感があった。孤独、葛藤、悲しみ、喜びなど様々な感情を含んだ力強くも儚い歌声は聴く者の心にリアリティをもって迫る。自身の内面を剝き出しにしたように響く生々しい歌声をポップミュージックとして優れた旋律に包んで届けてくれるのが、さユりの大きな魅力と言えるだろう。
またあまりアニメ主題歌向きの歌声ではない気がするが(これは筆者の古い価値観で、実際にはsupercellのこゑだなども歌声には独自のクセがあった)、アニメのタイアップ曲が大量にあり、オタクを含めた若者全般の心を掴んでいた。本作はそんな彼女の卓越したポップセンスが楽しめる内容となっている。
冒頭①からメロディックに疾走するロックにさユりの情緒たっぷりに歌い上げるボーカルがのり、切なげな表情を見せながらも尋常ではない熱量で走り抜ける。葛藤を抱えながらも衝動に突き動かされる様が感じられて良い。
続く②はTVアニメ『リコリス・リコイル』のEDテーマとして有名な人気曲。疾走するロックビートをバックに、パワーポップ要素も感じる力強いメロディーを激エモーショナルに歌い上げている。ネガティブな感情もすべて受け入れて光の中を突き進むような旋律は非常にドラマチックな余韻を残す。2020年代アニソンの名曲と言っていい会心の出来である。
③はTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』のエンディング曲。曲調は邦ロックとアニソンを組み合わせた感じで、耳に残るサビのメロディーや勢いのある歌唱が良い。これは手の汗握る熱い1曲だ。
④は緩急のある曲調が良い。サビの矢継ぎ早に歌われる歌詞にフックがあり、胸に引っ掛かりを残す。
⑤はTVアニメ『EDENS ZERO』のEDナンバー。しっとりとした切ないバラードで、さユりの美しい歌唱が清々しい。
⑥はTVアニメ『イエスタデイをうたって』の主題歌。こちらもセンチメンタルなメロディーや力強い歌声が印象的な良いバラードとなっている。⑦はTVアニメ『Fate/EXTRA Last Encore』のエンディングテーマ。曲調がFateにぴったりのカッコいい王道的なアニソンでダイナミックな高揚感が得られる。
⑧はTVドラマ『東京怪奇酒』のOPテーマ。陰りのある雰囲気の歌謡曲っぽい歌で、さユりのキャラクターにもぴったりと合っている一風変わった世界観とやさぐれたラフな歌唱がグッド。
⑩はTVアニメ『ゴールデンカムイ』のオープニングテーマ。ロック・バンドMY FIRST STORYをフィーチャリングしている。切れ味のあるギターリフから全力疾走し、さユりとMY FIRST STORYのボーカルの掛け合いが絶妙なコンビネーションで熱い。後半のポエトリーやサビのユニゾンが良い。ラスト⑪はメッセージ性のある言葉をキャッチ―なメロディーにのせて爽やかに耳に届ける。
アニメへのタイアップが多いシンガーソングライターというある意味では商業的な立ち位置の中で、上手く自己の個性を発揮している表現性が優れている。印象に残るメロディーセンスがあり、自身のすべてを絞り出すかのようなアグレッシブなボーカルには魅力がある。
Jasmine|Littlestone

1997/9/20 KOGA RECORDS
1. Brand New Day
2. Lavender Sweet Smells
3. Perfume
4. Ruby
5. Littlestone
6. Vision Of Light
7. Never More
8. Super Red
9. Tarantula
10. Star Spangle Way
11. Wish
12. Jasmine
「Littlestone」は1990年代後半に活動していたギターロック・バンド。
本作はKOGA RECORDSからリリースした唯一となるアルバムである。
ボーカルを務める逢野亜紀子を中心に「advantage Lucy」(Lucy Van Pelt)の石坂義晴(ギター)、番場要(ドラム)を含むメンバーで構成されたバンドだ。
音楽的にはUKギターロックに影響を受けたサウンドを軸にフォーク/トラッドのエッセンスも吸収し絶品の美しさを奏でる。感傷的なメロディーや逢野亜紀子の歌声のガラス細工のような透明感も存在感があり、その叙情性の美しさにため息が出るほど。
洗練された曲からは和的な雰囲気はほとんど感じられず、Date of Birthに並ぶ洋楽に聴こえるインディーズ系の邦楽と位置づけていいだろう。ここまで日本の空気を感じさせないバンドは珍しいと言える。基本的にKOGA RECORDSはある程度の完成度をもつバンドをリリースする傾向にあるが、この作品はその極みと言える圧倒的完成度を誇る1枚であり聴きごたえ抜群である。
冒頭①は揺らぎを感じるアグレッシブな演奏に逢野亜紀子の美しい歌声が同居し、日の光を浴びるような高揚感が得られる。ドラムとギターの絡みが絶妙で音色も良い。牧歌的な雰囲気と爽快感を併せ持つキラーチューンである。
続く②はしっとりとしたメロウな雰囲気から徐々にノイジーなギターが鳴り響く展開に。後半は深海に沈むような轟音ギターがひたすら気持ち良い。トータルでシューゲイザーとして秀逸なナンバーだ。
③は打って変わってドライブ感のある王道ポップ・ロックを聴かせる。夜走らせる車のBGMにぴったりの1曲だ。
⑤は爽やかに疾走するギターポップで、フックのあるメロディーの良さが発揮されている。アコースティックギターの音色も良い。
⑥はいかにもブリティッシュな幻想的な雰囲気に引き込まれる。ここではないどこかへと誘われる旋律が秀逸だ。
⑦⑧は本作の中でも随一の力強さを感じるロックナンバー。⑦は演奏もボーカルもラフな雰囲気で熱いがしっかりとメロディアスだ。緩急のあるサウンドの出来が良い。
⑧は前のめりに突っ走るパンキッシュな魅力を放つナンバー。切れ味のあるギターや途中のハーモニカが耳に残る。こちらもちゃんとポップで良い。⑨は7分を超える長尺の曲で、徐々にハードになるサウンドとひたすらメロウな歌が心地良く耳に響く。
⑪は美声が響き渡る癒されるバラード。英国フォーク/トラッド節全開で、遠くを見つめるような感じの儚い歌声が良い。
⑫は印象に残るギターリフがグッドで、爽快なドライブ感が優れている。ストレートなロックンロールでアルバムの締めを飾る。
日本人離れした音楽センスに驚かされるが、単純にポップセンスが優れている曲が多い。
ブリティッシュロックの歴史を詰め込んだような作風は同時代でもあまりない方向性に思える。スタイリッシュなロックが聴きたいならも文句なしにおすすめの1枚である。
ねむりのラムネ|マフマフラー

2002/11/25
GYUUNE CASSETTE / CHILDISH SOUP
1. Apple Candy
2. That Boy
3. クローバー
4. 慈悲を…
5. Beachboys For Me Beach Girls For You
6. ねむりのラムネ
7. メロメロンソーダ
8. My Sailor Man
「マフマフラー」(muffmuffler)は女性2人組の音楽ユニット。
「くまとりあ あゆこ」(ボーカル、ギター)と「たなか みきえ」(ドラム、コーラス)で1990年代後半に活動を始めている。
本作はデモ作品やコンピレーションアルバム参加を経て、インディーズレーベルCHILDISH SOUPからリリースされた1stアルバムとなる。
まずユニット名が女性ならではのセンスで、名前だけで可愛い音楽性だろうと想像できるのが良い。このアルバムはKOGA RECORDSから作品をリリースしていた「The Playmates」の山本聖がプロデュースを手掛けている。
音楽性はガレージパンク×ギターポップという感じのサウンドに、キュートなボーカルをのせるというインディーポップ好きのど真ん中を突くエバーグリーンな輝き溢れる作風である。
通好みのロウなサウンドが素晴らしい出来で、可愛らしくもラフに疾走する初期衝動に満ちたロックからサイケデリックな雰囲気をもつふわふわした曲まで多彩な魅力が光る1枚となっている。
冒頭①からドライブ感満点のガレージサウンドにキュートボイスが組み合わさり、ノイジーなのに可愛いというマフマフラー独自の魅力が全開。続く②は心地良い浮遊感とセンチメンタルなメロディーの良さが光るシューゲイザー/ドリームポップ路線のキラーチューン。透き通った歌声がかなり可愛いのがポイントで、延々と聴いていられる魅力がある。
③はみんなのうたに通じる親しみやすい歌とおもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドが融合しており、楽しさと切なさを同時にたっぷりと伝えてくれるのが秀逸。
④は①同様に荒々しいガレージロックにキュートなボーカルをのせて力強く疾走する。ただ可愛いだけの歌は世の中に腐るほどあるが、マフマフラーのような好感の持てる可愛らしさは希有である。⑤もスピード感あるパンキッシュなナンバーで気分爽快。
アルバムタイトル曲⑥は、メロディアスで上質な美しさを持つ一方で、ワールドミュージックやプログレなどの要素もあるアヴァンギャルドなサウンドが凄い。
⑦は女子インディーポップ史上に残る素晴らしい名曲。胸キュンと締めつける甘酸っぱいメロディーと超絶キュートな歌声が、ドリーミーなギターポップ・サウンドと絶妙に溶け合う旋律には【ときめき】という言葉がぴったりだ。
ラスト⑧は疾走するメロディック・パンクで、元気いっぱいにアルバムの締めを飾る。
当時のインディーズシーンを語る上で重要な音楽要素であるギターポップやパワーポップのキラキラしたフィーリングを大切にしている作風で、女性音楽ユニットならではふんわりとした可愛らしさは特筆すべきものがある。また王道路線から一風変わったものまでバラエティに富んだサウンドは聴いていて楽しい気持ちになれるもので、山本聖のプロデュースが優れていると感じられる。インディーズ女性デュオの名作と言っていい内容だ。
000321|スパナ

2000/3/21 OW Records
1. EISBAHN1
2. CR-2032
3. アイノカンフル
4. EISBAHN2
5. ワラウナギサ
6. JOY
7. アクノアカシ
8. シエル
9. コスモス(MACHA MIX)
10. EISBAHN M1+2
「スパナ」は2000年前後のインディーズシーンで活躍した大阪のインディーポップ・バンド。本作は1stアルバムである。
当時、山本精一(ボアダムス、羅針盤、ROVO)に大絶賛されたという逸話がよく知られている。
サウンドは雑多な印象で、エレクトロポップ、ヒップホップ、ジャズ、ロックなど、様々な音楽要素を独特のスペーシー感覚で表現している。不思議なトリップ感覚をもたらす一風変わった世界観を盛り上げるハルコ(ボーカル、ギター)のスタイリッシュなキュートボイスが曲の印象をカラフルにしており、見事に女性ボーカルの利点を生かしたバンドだと言えるだろう。凝りまくった音作りなど、かなりマニアックな雰囲気も感じさせるが、トータルで爽快感のあるダンスポップとして聴きやすい優れた内容の1枚である。
導入の電子音①に続く②は、近未来感覚溢れるドライブ感満点のエレクトロポップ。ハルコのチャーミングな歌い回しはアニメキャラクターのような魅力があり、サウンドはロックフィーリングも感じるのがグッド。
③はサックスをフューチャーしたエレクトロサウンドをバックにクールなラップを聴かせる。これはオシャレでかなりカッコいい。
④は①同様の電子音の短曲。アルバムでは冒頭、中盤、最後にこのタイプのインストが配置されている。
⑤は渋谷系やシティポップに通じる洗練されたグルーヴ感やポップなメロディーが冴えている。ピコピコした電子音やサックスも良い感じだ。⑥は怪しげな空気を漂わせるアンビエントテクノという感じで、チルアウトしてしまいそうになる。
⑦は「Gang of Four」に通じる硬質なギターリフに合わせた可愛らしい歌が、ロックの未体験ゾーンに導くポストパンク系ダンスポップのキラーチューン。これはノリがファンキーで楽しい気持ちになれるし、切れ味鋭いギターの音色が良いので何度も聴きたくなる。
⑧は浮遊感のあるエレクトロサウンド&透き通った歌声が生み出す旋律が宇宙の海を漂うかのようで心地良い。
⑨は緊張感のあるアヴァンポップで空間がねじれたようなサウンドがカッコいい。
⑩は①④同様のインストの短曲で、このアルバムの締めを飾る。
インディーズバンドならで毒やトゲトゲしいものを感じるところもあるが、基本的にはキュートポップスなので、女性ボーカル好きなら満足できるだろう。規則性にとらわれずやりたいようにやっているという感じは好感が持てる。
THE LITTLE GIRLS RECIPE|NICE FELLOW

1998/8/25 CHILDISH SOUP
1. ホラ Femme Fatale をうたおう
2. 1.2.3.4
3. Fluffy
4. My Dear Dan
5. オレンジ
6. おやすみよ
7. @シークレット・トラック@
「NICE FELLOW」(ナイス・フェロー)は1995年に結成されたギターポップ系の4人組ガールズバンド。本作は須原敬三が主宰するインディーズレーベルGYUUNE CASSETTEのサブレーベルCHILDISH SOUPからリリースされた1stアルバムである。
このCHILDISH SOUPという音楽レーベルは女性ボーカルものに定評があることで知られており、レーベルを主宰する黒瀬順弘のスパロウズ・スクーター、マドモアゼル・ショートヘア!、シノワ、マフマフラーなど、ポップでありながらも一風変わった魅力がある女性ボーカル作品をリリースしている。ギターポップを主軸としながらもサイケデリックな雰囲気も併せ持つのが特徴的だと言えるだろう。そしてこのナイス・フェローも「Talulah Gosh」や「Heavenly」といったUKアノラックバンドに影響を受けながらもそこに不思議ちゃん的なへんてこなフィーリングが組み合わさることにより、個性的なギターポップを生み出しており非常に面白いバンドである。
冒頭①は「The Velvet Underground」の『Femme Fatale』への愛情がよく伝わる楽しいポップチューン。ドタバタと騒ぎ出すようなラフな演奏とボーカルを務める池田ミチヨの天真爛漫な魅力を放つ歌声が強烈である。牧歌的だが勢いのある歌い回しはユニークなもので、チープなキーボードも良い。
続く②もガレージバンドのような不安定な演奏とキュートなハーモニーが楽団みたいな迫力である。これぞインディーポップ!という感じのゆるさと力強さが同居しているのが面白い。
③はトイポップみたいなおもちゃ箱をひっくり返した感じのインストナンバー。
④は楽団が行進するかのような怒涛の演奏と好き勝手に歌っています!という雰囲気の歌がプリミティブな衝動を伝える。
⑤はギターポップの伝家の宝刀シャララコーラスがこれでもかと炸裂するキラーチューン。これを聴けば荒んだ心も浄化されるに違いない。
⑥は疾走感溢れるギターポップにヘタウマボーカルがのり、インディーズ女子の等身大を叩きつける。当時のメジャーなJ-POPでは聴くことができない いなたい雰囲気がグッド。
ラスト⑦はメンバーへのインタビューから始まるユニークな曲で、綺麗なハーモニーに癒されるナンバー。ルンルン気分でステップ踏めるキュートチューンでアルバムの締めを飾る。
いわゆる完成度の高いポップミュージックという感じではなく、格好つけることなく自然体で奏でられた生々しい音楽である。1990年代インディーズ女子バンドの面白さがたっぷりと詰まったキラキラ輝く1枚だ。
mary’s 9th cut|mary’s 9th cut

1999/1/2 Smile Records
1. Cherry Red Coke
2. Good Friend
3. Mon Cher Fairy
4. Brand New Day
5. Today Is The Day
6. Cheek Fellow
7. Orange
8. Hello Goodbye
9. Snowfall (Theme)
「mary’s 9th cut」は永野朋子と神宇知正博によるギターポップ系音楽ユニット。
本作は1999年にインディーズレーベルSmile Recordsからリリースされたフルアルバムである。音楽的には基本英詩の純然たる清々しいネオアコ/ギターポップで、休日昼下がりのカフェタイムに聴いたり、青空の下を自転車で走りながらイヤホンで聴いたりと色々と楽しみ方がありそうなキュートなポップスだ。
胸をキュンと締めつけるメロディーや永野朋子の清潔感のあるボーカルはエバーグリーンな輝きがあり、しっかりとインディーポップの王道的なツボを押さえたサウンドも普遍的な魅力があるので、特に予備知識なく聴いても楽しめる内容となっている。
冒頭①から小気味よく疾走する清涼感溢れる旋律で気分爽快。インディーポップ好きなら曲名からしてニヤリとさせられるはず。
続く②はこれぞネオアコという感じの輝きが溢れている。無駄のないドリーミーなサウンドも出来が良い。
③もソフトなサウンドと可愛らしい歌声で奏でられるほのぼのとした雰囲気が心地良い。
④は珍しく日本語詩の曲で、アコースティックギターの音色と和的な叙情性をもつ歌が良い。⑥は本作の中でも特にキャッチ―な歌メロが光る。このグループにしては珍しく力強さを感じるのが面白い。
⑦はカラフルな印象の可愛らしい曲で、魔法にかけられてしまった!という感じのポップミュージックとして普遍性が宿るナンバーとなっている。
⑧は楽しさと切なさを併せ持つ青春ギターポップのキラーチューン。曲調は明るいがどこか寂しさを感じさせ、センチメンタルな気持ちにどっぷりと浸らせてくれる。
1990年代のギターポップの中でも、メロディーの良さを追求し、直球で勝負している瑞々しい魅力がある。パワーポップやサイケデリックな要素を取り込まず、ネオアコ好きによるネオアコ好きのための音楽という感じの真面目さを感じる1枚だ。
MARGINAL POLARITY|moonwalk

2001/2/28 Slow Records
1. THE NEW BORN EVIL RISES FROM THE FRIDGE OF JEFFERY DAHMER
2. SEASICK ASTRONAUTS
3. .45 AUTOMATICS
4. RITES FOR YOUR MARGINAL ONE
5. CORNERSTONE
6. SINCE YESTERDAY
7. WEST COAST HOLOCAUST
8. A.R.R.O.W
9. THE PLACE WHERE I WANNA GO
10. ASTERISK YOUR SWAMP
11. BUT EVERLASTING DAYS
12. NEVERGREEN
13. THE DARKSIDE OF THE MOON
「moonwalk」は「COWPERS」のベーシストKOMORIを中心とした札幌のロック・バンド。本作は2枚目となるアルバムである。
KOMORIはこのバンドではベースではなく、ドラムを担当している。
音楽的にはエモ、ハードコア、メタルなど様々な音楽要素を取り込んだソリッドな演奏にボーカルを務めるAYAHOのスウィートボイスがのるというスタイルだ(ギターのISAIボーカル曲もあり)。ハードな音楽性を女性ボーカルの利点を生かしてポップに聴かせるのは「BP.」と同系統の方向性をもつバンドと言えるが、「moonwalk」はシューゲイザーの要素は濃くなく、メロディックなエモロックという側面が強い。
本作ではメロウな曲以外にも男性メンバーが絶叫するボーカルを叩きつける過激なハードコアナンバーも繰り出されるので、アルバムとして飽きずに聴ける構成もナイスだ。
また全体的に音の抜けが良いのが特筆すべき点で、KOMORIの縦横無尽なドラミングやISAIのエモーショナルなギター、透明感のあるAYAHOの歌声などのバンドグルーヴがくっきりとした輪郭で浮かび上がってくるので、自然とダイナミックな高揚感が得られる内容となっている。
冒頭①はいきなり意表を突く激烈なハードコアで、凄まじいスピード感で駆け抜ける。勢いあるシャウトとメタル度数の高いギターが印象的だ。
続く②はイントロの爽快なギターリフを合図に軽快に疾走するキラーチューン。AYAHOの歌声がとにかくポップで聴き心地が良く、曲全体の印象をカラフルなものにしており秀逸だ。
③はKOMORIの怒涛のようなドラムが強烈な刺激的な演奏パートとメロディックなボーカルパートが交差するのが熱い。後半パートではAYAHOとISAIのユニゾンも聴ける。
⑤はこのバンドのメロディックな旋律を作るセンスが存分に発揮されている。それにしてもAYAHOの声質がグッド。
⑥はキュートな女性ボーカルの定番である「Strawberry Switchblade」の名曲のカバー。儚さ全開の原曲とは違い、ポップなパンクとしてドライブ感のあるサウンドに昇華している。
⑦は①同様に激烈なサウンドで爆走するハードコア。何かに取りつかれたような絶叫が心を震わせる。曲の終わりには「Brutal Truth」の『Fisting』を彷彿とさせる過激なサンプリングセリフパートあり。⑨は儚く揺れるバンドグルーヴが良い。ギターの音色が印象的である。
⑩はISAIがメインボーカルで、キャッチーなパンクとしては文句なしの渋い魅力がある。
⑪はこれぞエモコアという感じのサウンドの叙情性が光る。女性ボーカルが切ないギターロックと思わせて、終盤にカオティック・ハードコアな展開になるのが良い。
⑫は胸を熱くする王道的なメロディック・パンク。ISAIの静かに熱を秘めたようなボーカルが映えるナンバーだ。
⑬はアンダーグラウンド感覚溢れるハードコアでフラストレーションをぶちまけてアルバムの締めを飾る。
サウンドやボーカルは耳を惹きつける吸引力があり素晴らしい。メロディックなパンクとしても個性的なセンスが光っており文句なし。「Strawberry Switchblade」のカバーから悶絶するハードコアまでこなすところは、まさにポストハードコアと呼ぶに相応しい。名盤と言っていい1枚だ。
yesterday,12 films later.|chouchou merged syrups.

2015/10/21 Imperial Records
1. 何度も
2. ラストダンサー
3. overdose
4. scapegoat worldend
5. スローモーション
6. 赤い砂漠
7. メロウ
8. irony
9. 或る種の結論
10. strobila
11. sweet november
12. あなたの笑う頃に
「chouchou merged syrups.」(シュシュ・マージド・シロップス)は2010年に京都で結成されたオルタナティブロック・バンド。
本作はインディーズの残響レコードでミニアルバムを2枚発表した後、満を持してメジャーでリリースされた1stフルアルバムである。
『孤独の中にある美しさ』を音楽で表現することをコンセプトにしており、その世界観にぴったりと合う、ポストロック/マスロックを主軸とした切れ味鋭い演奏と川戸千明(ボーカル/ギター)の静かな熱をもった透明感のある歌声が特徴的である。
「School Food Punishment」や「mass of the fermenting dregs」を彷彿とさせるボーカルの声質や歌メロなど、日本ならではの親しみやすい旋律が魅力的だ。本作はメジャー作品ということもあり、より幅広い層にアピールできる洗練されたサウンドとポップセンスが冴えている力作となっている。
冒頭①から幾化学的な演奏に感傷的なメロディーを歌う川戸千明の淡く儚いボーカルが同居し、このバンド独自の切なさと焦燥感が全開。続く②はマスロックとJ-POPが華麗に融合したダンサブルなキラーチューン。歌モノ好きにもアピールできるメロディーには普遍性があり、リアルな感情を伝える歌声が味わい深い。
③はドライブ感たっぷりに疾走するギターロック。矢継ぎ早に歌われるメロディーに中毒性がある。④もリピート必至の不思議な魅力があるナンバー。割とストレートな曲調で、サビでの少年のような歌声が瑞々しい。青臭い真っ直ぐさが感じられてグッドだ。
⑤は和的な叙情性が刺さる切ないバラード。葛藤を含んだやるせない感情が見事に表現されおり秀逸。
⑥は疾走感溢れるソリッドな演奏とちょっとアニソンっぽい歌が気分をアゲてくれる。実際このバンドの世界観やメロディーはアニメと相性が良さそうであったので、フジテレビのアニメ枠ノイタミナなんかにタイアップされたら売れたかもしれない。
⑧は切なげな表情を見せながら走る青春ロック。小気味良い疾走感とジュブナイル小説の主人公のような歌声。10代や20代で抱えるような複雑な葛藤を含んだ歌詞も心に響く。
⑨は痙攣ギターを合図にメロディックに走り出す。キレキレの演奏や歌い回しは爽快感抜群だ。⑩は切なく揺れるソフトなサウンドと淡々としながらも悲しみを伝える歌声が良い。
ラスト⑫はこのバンドらしいセンチメタルなバンドグルーヴで疾走してアルバム締めを飾る。
基本的にメロディーはキャッチーだし、マスロックの要素を含んではいるものの、ストレートな作風のギターロックもあるので、聴きやすいアルバムと言えるだろう。
女性ボーカルバンド好きの間ではすでに伝説となった感もあったchouchou merged syrups.だが、2025年まさかの活動再開し、新曲もリリースしているので今後が楽しみである。
GOLDEN BP. PLATINUM COMPLETE 93-97|BP.

2012/1/25 Meguro Records
1. ES
2. Cereal
3. Diving Death Drive
4. a girl in closet
5. Count
6. Picnic
7. (Behind the)Green door
08. Nameless
09. Giant(Long version)
10. Apollo
11. ES
12. Nameless
13. Picnic
14. a girl in closet
15. Giant
16. Go Go Pea
17. (Behind the)Green door
18. Diving Death Drive
19. unknown
20. unknown
「BP.」は1990年代に活躍したオルタナティブ・ロックバンド。
本作は1997年にリリースされたミニアルバム『ゴールデン BP』と7インチ・シングル『Giant EP』に未発表音源を加えた編集盤である。このバンドは後に「COALTAR OF THE DEEPERS」でギターを弾いたイチマキ(ボーカル、ギター)がやっていたバンドということでよく知られている。
音楽性はシューゲイザー、エモ、ガレージロック、ハードコアパンク、メタルなどの要素を含むカオティックなサウンドが怒涛のように迫りくるインディーズ・ギターロックである。つまり演奏はかなりハード路線なわけだが、その激烈な音にイチマキのスウィートボイスをのせることにより、上手くポップに聴こえるロックに仕上げている。嵐が吹き荒れる変態オルタナティブ・ロックにギターポップのフィーリングをもつ女子ボイスを組み合わせるという当時としては画期的なアイデアが冴えており面白い(イマニシもボーカルをとるので、実質男女ツインボーカル)。この方法論はもしかしたら1990年代インディーズ系ギターポップの清潔感への皮肉みたいなものかもしれない。札幌の「moonwalk」といった後進バンドに影響を与えた部分も大きいと思うので、歴史的な価値も高い興味深い内容の1枚となっている。
①~⑧がミニアルバム『ゴールデン BP』収録曲。
①から凄まじい勢いのアグレッシブなバンドグルーヴが火花を散らす。疾走感というより前のめりに突進していく感じで、そこにイチマキのキュートなボーカルがのることにより、曲の印象は浮遊感があり華やかである。特に手数の多いドラムが熱い。
②はグランジなどのオルタナティブ・ロック好きのど真ん中を突く曲調がグッド。渋谷系と呼ばれてもおかしくない声質のボーカルとノイジーなギターロックの融合は刺激的である。
③は激情と繊細な感情がドラマチックに交差する名曲。ドリルのように突進するハードコアパンクパートとエモやポストロック度数が高い切ない轟音パートが劇的に胸に迫る。この曲はイマニシとイチマキの男女ツインボーカルで、その利点を生かした巧みな感情表現が光る力作だ。
④は軽快に疾走感とキラキラした躍動感をもつギターポップ寄りの曲だが、シューゲイズな唸りをあげる轟音ギターやハードコアなシャウトなど一筋縄ではいかない。
⑤は物憂げな表情を見せる叙情的なパートから激烈なハードコアパンクが炸裂するパートへの繋ぎが見事。こちらも男女ツインボーカルの掛け合いが良い。
⑥はヘヴィなドラムなど重厚なサウンドと可愛らしい歌声が同居するのが何とも言えない味わいである。⑦は爽やかな曲調であるが、間奏のメタリックなギターの音壁に痺れる。
⑧はメロディックなビートの爽快感溢れる旋律で、『ゴールデン BP』の優秀の美を飾る。
⑨⑩が『Giant EP』収録曲。
⑨は車をアクセル全開で飛ばすかのようなスピード感とまさに混沌という感じラフな演奏が熱すぎるキラーチューン。ボーカルの爽やかな歌声に対比するメーターを振り切りそうなサウンドが良い。⑩も尋常ではない熱量に溢れたナンバーで、メタリックなギターリフが印象に残る。
⑪~⑳が未発表のデモ音源。
本編より更に生々しい剝き出しの演奏を聴くことができる。
最初期にあたる1993年のデモ⑲⑳など、インディーロックとして刺激的で興味深い。
プリミティブな衝動をそのまま音にしたような荒々しいサウンドとふわふとした可愛らしい女性ボーカルの組み合わせはまさに1990年代インディーズシーンの至宝と言えるだろう。ぜひ聴いておきたい凄いバンドだ。
Rainy Days|MINT AFTER DINNER

1999/9/22 日本クラウン
1. 5年後
2. 君と僕の
3. マンホール
4. きっと、もっと、すっと、そっと
5. 月のない夜
6. 永遠
「MINT AFTER DINNER」は「山中ナッツ」によるソロプロジェクト。本作は1999年にメジャーでリリースされたミニアルバムである。
インディーズシーンで話題を呼んだデビュー作品『One Day』発表時はバンドであったが、後にシンガーソングライター山中ナッツのソロプロジェクトとなった。
音楽性は【京都のソフィー・セルマーニ】と称された山中ナッツの儚いウィスパーボイスを主役とした不思議な浮遊感をもつネオアコ/ギターポップである。
メジャー作品ではあるが『そうそう!インディーズ女子ボーカルものってこんな感じだよね』というふうに妙にしっくりとくるセンチメタルな叙情性や繊細な空気感が心地良い1枚だ。
冒頭①は透明感ある歌声や揺らめくサウンドが心にやすらぎを与えてくれるキュートチューン。可愛らしくふわふわとした旋律はインディーズ女子ボーカル好きのど真ん中を突く。
続く②は、どこか懐かしさを覚えるアコースティック・サウンドと口ずさみたくなる親しみやすい歌メロに心が和む。これは素直で良いラブソングだ。③はアンニュイな雰囲気を生み出すキュートボイスとフォーキーな切ないサウンド&メロディーが見事に調和している名曲。儚く刹那的な感傷の波が心に押し寄せてきて秀逸だ。この曲は前作にも収録されているが、これは新ヴァージョンとなる。
④はステップが踏めそうな陽気なリズムと可愛らしい歌に元気が貰える。サウンドが結構凝っており、一風変わった魅力が光る。
⑤はしっとりとした美しさが浮かび上がる旋律が印象的だ。シンプルなギターの音色が良い。ラスト⑥は切ない雰囲気のロックバラード。声質の良さを武器にした淡々と歌われるメロディーと歌謡ロックアレンジがノスタルジーを伝えてくれる。
箱庭系のネオアコ/ギターポップとして、ドリーミーな儚い世界観をしっかりと伝えてくれるのが秀逸。当時は結構有名だったMINT AFTER DINNERだが、今ではあまり語られることはない。日本のインディーポップ系は新旧の入れ替わりが激しいのが宿命だが、こういったその隙間に生まれた良質な作品に耳を傾けると色々と新鮮な発見もあるものだ。