新着レビュー

Happy Kuru Kuru|ハッピーくるくる

2017/9/13 くるくるレコード

1. パーフェクトトリッパー
2. 夏の日のラビリンス
3. さよならクリケット
4. スカイシューター
5. くるくるファンタジー
6. マジカルガール
7. はんぶんこ花火

「ハッピーくるくる」は2016年に結成された「のの」と「きのこ」による2人組アイドルユニット。本作は1stミニアルバムである。
まずユニット名が可愛い。
篠原ともえの『クルクルミラクル』のような不思議ちゃんっぽいキューティーポップネスを感じるネーミングセンスが良い。BPM15Qの楽曲でアイドル界隈に一躍名を知らしめたトラックメーカーYunomiが楽曲を手掛けている。
音楽的には同時期にリリースされたYunomi名義のアルバム『ゆのもきゅ』とほぼ同路線で、Future BassやEDMを主軸としたエレクトロサウンドに女子キュートボイスを生かした歌が同居するというもの。
日本独自の文化である【Kawaii】フィーリングが感じられる音楽センスや近未来感溢れるSF感覚も魅力的だ。
おそらくYunomiはオシャレで可愛い女性ボーカルのエレクトロポップを作る才能は国内でも屈指のひとりと言えるだろう。小室哲哉や中田ヤスタカのように聴いてすぐにYunomi楽曲だと分かる音色やフレーズもあり、個性的な自身のカラーを確立している。
本作はそんなYunomiが手掛けたハッピーくるくるの絵に描いたような【Kawaii】楽曲が次々に繰り出される爽快感のある1枚だ。

冒頭①から印象的なイントロを合図に展開される和風テイストのエレクトロサウンドとアイドルボイスの組み合わせに胸躍る。Yunomi以外の何者でもないオリジナリティが感じられて秀逸だ。続く②は陽気な曲調なのになんだかしんみりとしてしまうセンチメンタリズムが良い。さりげなく耳に馴染むメロディーラインが強力である。
③は爽やかに流れる幻想的な浮遊感をもつサウンドが聴き心地抜群。曲展開も凝っており変則的である。
④はこれぞピコピコ電子ポップという感じのテクノポップ好きのツボを突きまくるキュートチューン。躍動感のあるエレクトロサウンドと可愛らしい歌声という理想的な組み合わせだ。
⑤もピコピコ跳ねるサウンドとキュートなボーカルで、ウキウキ気分でステップが踏めそうである。⑥は渋谷系フューチャーポップを彷彿とさせるオシャレでファンシーなセンスが効いたアイドルポップ。
ラスト⑦は夏の情景が浮かぶ和的な叙情性が優れている名曲。青春のノスタルジーに胸がキュンとなる可愛くも切ない歌モノとして記憶に残る。

どれも聴けばYunomiの曲だと分かる可愛い金太郎飴な魅力があるエレクトロポップは親しみやすく、アイドル好きに限らず幅広い層が楽しめるものとなっている。その後、ハッピーくるくるはメンバーチェンジしながらも活動を続けたが、残念ながら2018年に解散している。

満ち潮のわすれもの|Lighter190E

2011/1/14 clear

1. しおさい
2. 薄紅色の魚
3. ひとで
4. 太陽の匂いがしている
5. ドライブ・レコーダー
6. 貝がらのボート

「Lighter190E」は2008年に結成されたオルタナティブロック・バンド。本作は1stミニアルバムである。
この作品リリース当時、女性ボーカル・ギターロックの本命登場!という感じに音楽シーンで熱い注目を浴びた。ソリッドなギターなど、ドライブ感溢れるロックビートに「いとうりな」の存在感ありまくりのキュート&ワイルドなボーカルがのり、まさにカッコいい女子ロックを体現していると言うに相応しいバンドだ。
いとうりなの歌い回しは自己主張が強いので、好みが分かれる所もあるかもしれないが、耳を突き刺すような歌声は個性的で不思議な魅力があり、女性ボーカリストとして優れている。
本作は初期作品ということもあり、Lighter190Eの中でも初期衝動や焦燥が渦巻く作風が印象的で、プリミティブな魅力がある内容となっている。

アンビエントな導入曲①に続く②は、一聴してオルタナ系だと分かるイントロのギターリフから始まる焦燥感に満ちたミドルテンポの切ない旋律に引き込まれる名曲。歌詞も含めてシリアスな雰囲気の重い曲調かと思わせて、サビはしっかりとキャッチーで前向きになれる明るさがあり良い。
③はハードなギターサウンドはそのままにJ-POPなポップセンスが冴えている歌モノ。それにしてもボーカルの歌い回しは表現力がある。可愛いとヒステリックの間を行く絶妙なバランス感覚である。
④はメロディックに疾走するキラーチューン。ギターのドライブ感や思い切りのいい歌声も気持ちが良く爽快感MAXで走り抜ける。
⑤は車に乗りながら爆音で流せばいい感じに気分が上がりそうなご機嫌なロックナンバー。地に足がついた力強さを感じるバンドグルーヴが気持ち良い。
ラスト⑥は儚いギターイントロから始まるドラマチックな余韻を残すナンバー。緩急のついた演奏やエモーショナルな歌声が心を揺らす。メロディーも非常に耳に残る。

速さに頼らずじっくりと聴かせるミドルテンポの味わい深い曲の数々がLighter190Eのロックバンドとしてポテンシャルを示している内容である。このミニアルバムの時点では邦ロックの女性ボーカル勢の中でもトップクラスの期待値があったと言ってもいいだろう。
その後もバンドは精力的に活動を続けており、いとうりなは任天堂Switchゲームソフトである 『スプラトゥーン2』で登場した音楽ユニット「テンタクルズ」のヒメ役でブレイクしている。

ASa Project Vocal Collection My lovers story

2020/5/29   ASa Project

1. Shining days♪ /rian   
めいくるッ! ~Welcome to Happy Maid Life!!~ OPテーマ
2. HimeのちHoney /真優    
HimeのちHoney OPテーマ
3. マル秘☆恋愛法則 /NANA  
アッチむいて恋 OPテーマ
4. Dear you…/anporin  
アッチむいて恋 EDテーマ
5. 恋愛0キロメートル /榊原ゆい  
恋愛0キロメートル OPテーマ
6. Re-start!! /anporin  
恋愛0キロメートル EDテーマ
7. 春色メロディ /NANA  
ひとつ飛ばし恋愛 OPテーマ
8. 恋ココロ /西沢はぐみ  
ひとつ飛ばし恋愛 EDテーマ
9. カラフル /Manaca  
プラマイウォーズ EDテーマ
10. Heart beat /佐咲紗花  
スキとスキとでサンカク恋愛 OPテーマ
11. 夏恋 /Manaca  
スキとスキとでサンカク恋愛 EDテーマ
12. ふわり恋模様 /はな  
かりぐらし恋愛 OPテーマ
13. 君が好き / piquet  
かりぐらし恋愛 EDテーマ
14. 君に届けるstory /Rin’ca  
恋愛、借りちゃいました OPテーマ
15. 君との軌跡 /piquet   
恋愛、借りちゃいました EDテーマ

「ASa Project Vocal Collection My lovers story」は美少女ゲームブランドASa Projectのゲーム主題歌を集めたコレクションアルバムである。まず音楽の話の前にASa Projectのゲームについて少し語るとしよう。

ASa Projectのゲームはエロゲーの中でも並々ならぬギャグへのこだわりが感じられる作風でよく知られている。登場キャラ全員が積極的に笑いを取りにいき、明確にボケとツッコミを意識した掛け合いなど、何よりもギャグを優先するというストーリー構成が面白い作品が多い。例えば『恋愛0キロメートル』(2011年)の【男が喜びそうな台詞選手権】は、YouTuberの間で流行してもおかしくないほどのギャグが冴えているエピソードである。

そしてASa Projectのゲームで最も衝撃的だったことは、ギャグの主力となるヒロインに変顔させる【顔芸】である。これはただのギャグ狙い以外にも二次元美少女キャラクターの美的構造の解体とも言える刺激的な試みであった。この【顔芸】はリアルでよくある、女子が変顔してみました!と言いながらもただ可愛いだけの顔みたいなものではない。
木ノ本乃来亜(恋愛0キロメートル)や寿りさ(ひとつ飛ばし恋愛)に代表される美少女キャラクターは言い訳できないほどガチで変な顔をするのである。変顔からシリアスな顔まで豊かな表情をもつキャラクターは、より多彩な魅力がある萌えキャラであると言えるだろう。

さて本作はそんなASa Projectの美少女ゲーム歴代OP/ED曲がたっぷりと収録されており、音楽面からその歴史を振り返ることができる。
楽曲は美少女ゲームの音楽では定評のあるrianと山下航生(doubleeleven)が手掛けている。NANA(石田 燿子)、榊原ゆい、佐咲紗花といった安定感のある実力派シンガーを始めとして、様々な女性ボーカリストの曲を聴くことができるので、単純にコンピレーションとして楽しめる内容である。

冒頭①は萌え系の美少女ゲームにはぴったりの曲で、底抜けの明るさで可愛く元気に弾ける。王道的なゲーソン/アニソンに電波曲要素もまぶしたという感じで、キャッチーな萌えソングとして出来が良い。ASa Projectではメインで作詞/作曲をしているrianがボーカルを担当している。②はノリノリの合いの手やピコピコしたサウンドからして電波ソング一直線という感じの中毒性の高いナンバー。
③はいかにもこれから萌え系のエロゲーが始まるよ!という感じの期待感を含んだ曲調に胸躍る。ボーカルを担当するNANAは声量があり、爽快感溢れる歌声を聴かせてくれる。
④はエロゲーのエンディングではよくある切ない歌メロの曲で、anporinの透明感のある歌声が耳に残る。anporinの声質によくあった作風が良い。
⑤は大ヒット作『恋愛0キロメートル』のテーマソングとして有名なキラーチューン。スピード感のあるロックビートと畳みかけるボーカルは電波ソング/萌えソングとして申し分ないもの。歌うはエロゲソングでは定評のある榊原ゆい。彼女が歌うととりあえず音楽としては何とかなりそうな信頼感がある。
⑥は感傷的なサウンド&メロディーがダイナミックに展開される。こちらもAnporinの声の良さが光る。
⑦は煌びやかなイントロのギターから始まる青春の躍動感溢れた旋律が心に潤いをもたらす。春にぴったりと合う良い曲だ。
⑧は恋愛ゲームのエンディングにはばっちりと合う爽やかな曲だが、歌い出しを聴くとどうしても『ひとつ飛ばし恋愛』のローションのくだりを思い出して笑ってしまう。
⑨はオーソドックスなエロゲソングであるが、Manacaの歌声やサウンドの音色を含めキュートなポップセンスがグッド。
⑩はこれから新しい日々が始まる活力に満ちており、その前向きさに元気が貰える曲だ。佐咲紗花は声質が良く歌唱力も高いうえに楽曲にも恵まれているので、一通り曲を聴いておくことをオススメしたい良いシンガーだ。
⑪はガムシャラに突っ走る青い季節の衝動が感じられて爽快感がある。
⑫はケロQのゲーム主題歌などで人気が高い はなの歌声がキュートなキラキラしたポップソング。はなは良い意味でクセのない綺麗な声に魅力があるので、様々な曲調で真価を発揮する良い歌い手である。
⑬はパワフルな歌声やポップな歌メロなどストレートに高揚感が得られる。
⑭は前のめりに疾走するメロコアタイプの曲で、Rin’caのエネルギッシュな歌い回しや荒々しいサウンドなど非常にアグレッシブなナンバーだ。
⑮はドキドキ/わくわくが止まらないよ!という感じの曲調でありながらもちょっぴりセンチに胸を締め付けるのが良い。

楽曲を手掛けているのがすべてrianと山下航生ということもあってか曲調や世界観は一貫性があり、ASa Projectのゲームによく合っている。女性ボーカルものとしては安心して聴ける金太郎飴的な魅力があると言えるだろう。
ASa Projectは2025年現在も精力的に美少女ゲームを制作している。これからもギャグセンス溢れる萌えゲーを発表し続けて欲しいものである。

コレクション|麻田華子

2004/2/21 ビクターエンタテインメント

1. 好き□嫌い
2. キミがわかるよ
3. Doubt!
4. バン バン バン
5. 魔法
6. 真赤なプリテンダー
7. さよなら、DANCE
8. DOWN TOWN BOY
9. 1人でいいもん
10. アクエリアス
11. MELODIES
12. ムジュン◇してる!?
13. 偶然の君
14. 夏の終わり
15. Ya!
16. ファーストシーンはさよならで
17. 悲しき15才
18. 好き□嫌い (Vitamin Mix)

「麻田華子」は1988年にデビューしたアイドル歌手。本作は1989年までのビクター在籍時の音源から選曲されたベスト盤である。
1980年代後半のアイドルの中でもしっかりとした歌唱力をもつひとりだが、ブレイクとまでは至らず、当時から現在までアイドル好きやコアな音楽好きにマニアックな人気を得ている存在である。
若干13歳でデビューした中学生であるが、可愛らしい声質の伸びやかな歌声は清涼感に溢れており、まさにアイドルというに相応しい。楽曲も都志見隆や中崎英也などの1980年代アイドルポップの実力派作家陣が手掛けているので、安心して聴ける完成度の高い内容だ。

アイドル歌手としての活動は短かったが、1999年にはエイベックスから松浦勝人プロデュースの女性3人組TRINITY(トリニティ)のメンバーMOCAとして再デビュー。
ビジュアルは垢抜けたイケイケ女子になっており、一見しただけでは麻田華子とは分からなかったが、フジテレビ音楽番組HEY!HEY!HEY!に出演した際、ダウンタウンの浜田雅功に正体を見破られるという面白いひとコマがあった。
J-POPの時代に入り、シンガーソングライターとして活動した森下恵理(Eri)もそうだが、まったく音楽性が違うスタイルで再登場した1980年代アイドルというのも面白い経歴である。

本作は都志見隆、中崎英也などの強力な作曲家が提供したポップなアイドルソングがふんだんに収録されている。麻田華子の少女フィーリングが冴えわたる名曲『魔法』を筆頭として、彼女のアイドル歌手時代の魅力がふんだんに詰まったキラキラと輝くアイドルポップが楽しめるものとなっている。

冒頭①は正統派アイドル路線のデビュー曲である。陽気なサックス演奏や清涼感のある歌声からして王道の1980年代アイドル歌謡という感じで、ひたすら可愛い洗練されたポップネスが感じられてグッド。萩田光雄のアレンジの手腕が光る。
続く②はちょっぴりセンチなキュートなバラードで、可愛らしい歌声に癒される。
③はチャーミングな歌い回しにぴったりとあった躍動感のある曲調が気分を上げてくれる。コーラスなどはオールディーズ風味もあり、トータルで底抜けに元気いっぱいで良い。
⑤はアニメ三銃士に使用されたことでよく知られているナンバー。このアニメのイメージソングは伊藤かずえ『星屑のイノセンス』など強力な曲揃いで、この『魔法』も名曲である。1980年代後半のアイドルポップはユーロビートなどの影響を取り込んだデジタルサウンドが多くあったが、この曲はその中でも非常に良く出来ている。耳に残るフックあるメロディーと乙女チックな歌詞、そして天真爛漫な魅力があるキュートボイスと文句なしの逸品。
⑥はロックフィーリングを感じるラフな可愛さが良い。
⑦は清水信之による煌びやかなサウンドアレンジが素晴らしい。麻田華子の歌唱力の高さも存分に生かされたダンスポップのキラーチューンである。
⑧はキラキラ元気MAXアイドル歌謡の王道を行く。このパターンが好きな人には堪らない1曲だ。
⑨はドライブ感満点の大人びたカッコ良さが光るロックチューン。ハードなサウンドとロリボイスが絶妙にマッチングする傑作だ。
⑩は今聴いても古さを感じさせないデジタルポップで、非常にスタイリッシュな音楽センスに痺れる。
⑫はこれぞアイドルソングという感じの輝きに満ちた胸をキュンとさせるナンバー。
⑬は10代女子の煌めきに満ちた青春ソング。いかにも秋元康の歌詞という感じの言葉の響きにフックがある。
⑭はしっとりしたムーディーなバラード。少女が背伸びした感じが良い。
⑮はまさに少女ロック!という感じの初期衝動を感じる熱さがほとばしる。ロックに出会ってしまったティーン女子みたいなアグレッシブな雰囲気が良い。
⑯はインパクトのあるイントロから始まる陰りを帯びた旋律がいかにも1980年代という感じだ。
⑰は15歳という多感な時期の青い感情がストレートに表現されている。いい感じのキャッチ―さなので何度もリピートしてしまう。

10代ならではの初々しい魅力がありながらも歌唱力も高いという1980年代アイドルならではの実力派である。また様々な作家陣が手掛ける楽曲もしっかりと彼女のキャラクターに合ったものを提供しており、当時の麻田華子への期待値の高さがよく分かる内容だ。

ハルカリベーコン|HALCALI

2003/9/3 フォーライフミュージック

1. intro.HALCALI BACON
2. タンデム
3. ギリギリ・サーフライダー
4. 嗚呼ハルカリセンセーション
5. おつかれSUMMER
6. ハルカリズム “CANDY HEARTS”
7. Conversation of a mystery
8. Peek-A-Boo
9. Hello, Hello, Alone
10. スタイリースタイリー
11. エレクトリック先生
12. 続・真夜中のグランド

「HALCALI」(ハルカリ)はHALCAとYUCALIによる2人組の音楽ユニット。
本作は1stアルバムである。
2002年に開催されたfemaleラッパー・オーディションで優勝し翌年にメジャーデビューしている。音楽性はヒップホップにパフィー、チボマット、少年ナイフなどに通じる脱力的なゆるさをもつキュート・フィーリングを組み合わせた親しみやすい雰囲気が魅力の女子ラップである。当時テレビ番組にもよく出ており、お茶の間でも名前は知られていたが、そこまで売れまくっていたというわけではなく、あくまでサブカル音楽としてマニアックな人気を獲得していたという感じであった。

ハルカリは2013年以降活動していないが、2025年に入り本作収録の『おつかれSUMMER』が突然世界中でバズり、TikTokやSpotifyで驚異的な回数を記録している。元々日本人女性ならではの可愛らしい魅力をスタイリッシュに表現した曲は、海外の音楽と並べて聴いても違和感のない空気感を持っていたが、ここまでリバイバルヒットするとは驚きである。
そんな話題の尽きないハルカリが2003年にリリースしたこのCDは当時批判されまくったCCCD仕様というのがまた懐かしさを感じさせる。
内容はRIP SLYMEのRYO-ZとDJ FUMIYAによるO.T.Fがプロデュースし、見た感じはイケイケ女子なのにダラダラ、ゴロゴロしているイメージが浮かぶ世界観に好感が持てる中毒性の高い女子ラップをふんだんに楽しむことができるものとなっている。

導入の2人の声が可愛い短曲①に続く②は、遊園地のようなファニーな雰囲気のトラックにパフィーを彷彿とさせる空気感をもつリズミカルでゆるゆるなラップがのり、聴いていると自然に深く考えるのをやめてポジティブな気分になれる。続く③は海がテーマでありながらも暑い日に家で怠けながら聴くといい感じに更に怠惰になれるサマーチューン。サーフィンやるリア充でなくとも好きになれる親しみやすい空気感がハルカリの真骨頂である。
④は結構本格的な力強い雰囲気のカッコいいラップが聴けるが、サビではやはりハルカリらしさ全開で愉快に決める。サッカー界の有名人物が登場するリリックも当時が思い出せて楽しい。
⑤は前述した通り、2025年に世界中で注目浴びたバズ曲。矢継ぎ早に繰り出さられる夏にぴったりの軽快なラップは爽快感抜群。耳当たりの良いキュートなフロウと底抜けに陽気なトラックは絶妙にオシャレかつ脱力的な雰囲気を生み出しており、延々とリピートしてしまう魅力がある。海外での大ヒットを受けてイラストの新MVも公開されて話題を呼んだ。
⑥は不思議な浮遊感をもつピコピコしたトラックをバックに展開されるチャーミングなラップの掛け合いがとにかく楽しい。いつの時代でも今風の若者と言われそうな若い女子のみがもつキラキラしたフィーリングが感じられて秀逸だ。⑧は前のめりに走るジャジーなトラックに勢いのある2人のボーカルがのり、ロックに親和性のある直情的な快感が味わえる。
⑨はサウンドやリリックなど、トータルで叙情性が優れている。
⑪は音色がクセになる可愛らしい電子サウンドがかなりの存在感を示す。それに負けじと爽やかな風が吹くように展開されるユーモアセンスたっぷりのキュートラップが見事。
ラスト⑫はハイポジのもりばやしみほが全面プロデュースしており、本作では異色の王道路線のポップソング。青春のセンチメンタリズムが胸をキュンキュンさせる名曲である。ハルカリはメロディーをしっかりと歌唱しており、飾らない素直な歌声がまさに青春!という感じで良い。ロマンティックで心に残る曲だ。

最近の曲だよと言われても違和感がない、今聴いてもまったく古びることはない内容である(1990年代後半以降の平成J-POPはそういったものが多くある)。ゆるい雰囲気は奇をてらっているわけではなく、あくまでも若い女子の自然体の表現として出来上がっていると感じられる傑作アルバムである。

WATER|SHE IS SUMMER

2017/11/8 B Zone

1. (mirage)
2. とびきりのおしゃれして別れ話を
3. 私たちのワンピース
4. NIGHT OUT
5. WATER SLIDER
6. ナイトブルー
7. LAST DANCE
8. 思い出はシャンプーの中に
9. あれからの話だけど
10. 冬の街とキミと永遠に
11. 待ち合わせは君のいる神泉で
12. 出会ってから付き合うまでのあの感じ

「SHE IS SUMMER」は「ふぇのたす」でボーカルを務めたMICOのソロプロジェクト。
2016年に始動し2021年まで活動していた。本作は1stフルアルバムである。
音楽的にはふぇのたすの流れを受け継ぐガーリーテイストのオシャレポップで、MICOのキュートボイスを主役とした恋愛をテーマにした楽曲が多い。
『とびきりのおしゃれして別れ話を』『出会ってから付き合うまでのあの感じ』など、タイトルからしてイケてるリア充女子の恋愛ソングという感じの路線が印象的だ。こういったサブカル系の女性シンガーのリア充オーラを漂わせたオシャレなテイストというのは、あくまでも音楽的なコンセプトに過ぎないので、特に構えて聴く必要はない。はっきり言ってサブカルだろうがオタク向けだろうとある程度の支持を獲得した女性歌手はその大半が男性にモテる基本リア充である。本人に人を惹きつける魅力があるからこそ人気があるのである。
本作は釣俊輔を筆頭とした強力な作家陣が、基本MICOが作詞する【女の子】フィーリングMAXな世界観を盛り上げる楽曲を提供しており、聴きごたえがある内容である。

導入のエレクトロ・インスト①に続く②は、MICOのキュートな魅力全開のキラーチューン。日本独自の文化として世界でもよく知られている【KAWAII】を体現するキューティーポップネスが炸裂している良い曲だ。作詞がMICOとヤマモトショウ、作曲/編曲が釣俊輔で、SHE IS SUMMERのカラーを決定づけた人気曲である。
③は渋谷系度数の高い軽快に疾走する青春ポップ。MICOの声の出し方や歌い回しがかなり可愛く、自身による歌詞や石井浩平が手掛けたメロディーもキラキラしているので胸キュンものだ。④は躍動感に満ちたノリノリになれるエレクトロポップ。小島英也(ORESAMA)が作曲したサビのメロディーが気持ち良い。
⑤は非常に鮮やかな印象を残すセンチメンタルなポップス。アイドルポップとして聴いても良く出来ている煌びやかな旋律が堪らない。この曲はyonigeのサポートメンバーである土器太陽が作曲している。
⑦は木暮晋也(ヒックスヴィル)が作曲している。ピコピコしたサウンドにキュートボイスというピンポイントでツボを突く作風だ。
⑧はマジカルな雰囲気のサウンドと可愛らしい歌の組み合わせにノックアウトされる。聴いていると照れてしまう歌詞も良い。これは原田夏樹(evening cinema)が作曲している。
⑨は廣瀬成仁(nicoten、フレンズ)が作曲している。サビの力強いメロディーが印象的で、MICO伸びやかな歌唱がダイナミックに響きグッド。
⑩はかせきさいだぁ×宮野弦士が提供した楽曲。ロマンティックなムードでありながら元気に弾けている清涼感のある曲調が良い。
⑪も廣瀬成仁が作曲している。ちょっとコミカルな曲調やチャーミングな歌声が耳に残る。
ラスト⑫は作詞がMICOとヤマモトショウ、作曲が釣俊輔、編曲が小島英也という強力布陣。EDM風のキャッチ―なエレクトロポップで、特に曲タイトルや歌詞がありそうでなかった語呂センスで鋭い。

キュートでガーリーなポップソングを好む人には次々と可愛い曲が連発される どストライクな内容である。渋谷系やアイドルポップまで満足できる傑作アルバムだ。

let love be your destiny|bice

2002/4/17 
徳間ジャパンコミュニケーションズ

1. Talk Talk
2. The Girl In The Letters
3. Cloudy Sky
4. blossom diary
5. Linsey de Butterfly
6. Slow dive
7. Walking in the rain
8. ハムラビラヴ
9. 私とポールの事
10. 悲しき鳥
11. 包んであげる

「bice」は1998年にデビューしたシンガーソングライター。本作は2枚目となるフルアルバムである。元々は1994年に「中島優子」名義で活動を開始しており、ガールポップ界隈でマニアックな人気を集めていた。1998年からは心機一転アーティスト名をbiceに変えて、より自身のオリジナリティを追求した作品をリリースしていたが、2010年に心筋梗塞のため逝去されている。

音楽的には中島優子時代の試行錯誤から自身のスタイルとして完成させた透き通ったウィスパーボイスでの歌唱を駆使したオシャレなポップスである。位置付けとしては渋谷系にも入るであろうし、実際に人脈はそっち系でプロモーションも渋谷系として推されていた。ちなみにラストアルバムとなった『かなえられない恋のために』(2008年)は小西康陽プロデュース作品である。
また自身の作品以外にもTVアニメ【きらりん☆レボリューション】のBGMや【けいおん!】の劇中歌などの映像作品の音楽を手掛けており、劇伴の作曲家としても活躍した。そして他のシンガーへの楽曲提供も積極的に行っていた。
本作ではこれまでの作品とは違い、宅録をベースに、よりリアリティをもって自身のイメージを具現化しているプライベートな空気感に引き込まれる名作となっている。

冒頭①からbiceの囁きボーカルが破壊力抜群。オシャレな雰囲気のアコースティック・サウンドとの組み合わせは、どこか懐かしい感傷を呼び覚ます。続く②も優しいウィスパーボイスとちょっぴり切ないメロウな旋律に心が癒される。とてもスウィートなナンバーだ。
③はイントロのギターから胸の高鳴りを感じる魔法のポップネスが詰め込まれた名曲。biceの歌声やセンチメタルなメロディーは心に奥の方に沁み込むもので、松本隆による情景が浮かぶ歌詞も素晴らしい。孤独でも前向きな気持ちになれるグッドミュージックである。
④はキュートなフィーリングが光る極上のポップス。乙女チックでファンシー・・・女子力が高い音楽があるとすればまさにそのお手本が本曲。⑤はイギリスの女性シンガーソングライターLynsey de Paulをイメージした楽曲。本作の中でも劇的に盛り上がるバラードで、大きな存在感を示す曲となっている。
⑥は軽快なビートの一音一音の響きが非常に耳に残る。心を浄化してくれる淡い透明感が絶品である。
⑦は躍動感のあるソフトロックなサウンドとキュートなウィスパーボイスで爽やかに疾走する。センチメンタリズムが心に引っ掛かりを残し、雨の街の風景が浮かぶ優れた曲だ。
⑧は可愛らしいサイケデリック・ガールズポップという感じで、プリミティブなサウンドや色気たっぷりの歌い回しなど、biceならではの個性があるポップセンスが感じられる。
⑨はゆったりとしたパートから力強いサビへの展開が爽快感抜群。
⑩は温かいアコースティック・サウンドをバックに一語一語噛みしめるように歌うボーカルが耳に優しく響く。この空気感は彼女ならではと言えるもので光を浴びたような余韻を残す。
ラスト⑪もアコースティック主体のしんみりとくるナンバー。恋愛をテーマにしたポップソングとして出来が良い。こういった曲は女性アーティストならではと言えるもので、色気のある歌声や男性が聴いていると照れる歌詞など秀逸だ。

自身のカラーであるウィスパーボイスとそうではないオーソドックスな歌唱法を上手く使い分けているのが良い。biceのボーカルスタイルはただ囁くだけではなく表情豊かでテクニカルなものである。またソングライティングも突出した才能を持っており、存命なら音楽家としても更にたくさん良い楽曲を生み出せたと思われる。

Infinity+integral Perfect Vocals

2009/7/23 5pb.Records

1. 千億の星屑降らす夜ノ空/ Asriel
2. TREASURE DREAM/川島優夏(川上とも子)
3. 綻びし華/ Asriel
4. It’s a fine day/今井麻美
5. LeMU ~遙かなるレムリア大陸~/ KAORI.
6. The Azure~碧の記憶~/今井麻美
7. Aqua Stripe/笠原弘子
8. 宇宙のステンシル/宮崎羽衣
9. little prophet/ KAORI.
10. キレナイナイフ/宮崎羽衣
11. Darkness of chaos/皆川純子
12. 時のない世界/榊原ゆい
13. third bridge/ KAORI.
14. Distance/榊原ゆい
15. プロセス/ KAORI.

『Infinity+integral Perfect Vocals』はコンシューマーゲーム・ブランドKIDから発売されたビジュアルノベル・ゲームInfinityシリーズ「Never7」「Ever17」「Remember11」とintegralシリーズ「12Riven」のすべてのボーカル曲を収録したコレクション・アルバムである。PSP版での新OP/EDも入っており充実した内容となっている。

さてまず音楽の前に希有のシナリオライターである打越鋼太郎が脚本を手掛けたこのシリーズのゲームについて少し語ろう。Infinityシリーズと言えばPS2とDCで発売された「Ever17」(2002年)が有名である。この作品はTVゲームとプレイヤーという構造を解体したメタな視点の世界観がとにかく衝撃的であった。それまでのゲームの常識を覆すギミックは後のビジュアルノベル、アドベンチャー、Steamのインディーズゲームにまで影響を与えており、現在では珍しくない手法となっているが、当時はコントローラーを持つ手がガタガタと震えてしまうほどの衝撃と興奮が味わえた。一見普通っぽいギャルゲ―にしか見えないにも関わらず、内容は類を見ないほど刺激的であったEver17はそれ以前とそれ以後で語られるほどの歴史的名作なのである。もうひとつ印象的な作品としては「Remember11」(2004年)が挙げられる。この作品、緻密な伏線を張り巡らし、それを回収せず中途半端なところですべてをぶん投げてエンディングを迎えた伝説のゲームである。プレイヤーからはかなり不評であったが、後に考察サイトで明かされたその真相はあまりにも衝撃的な内容であった。

このようにゲーム本編も重要作が目白押しであるが、ここからは本作の音楽面について語っていこう。楽曲は5pb.やMAGES.でゲーム会社経営にも携わった音楽家 志倉千代丸が提供をしたものが多い。収録アーティストは同人で大人気であったAsrielやこのシリーズで多くの主題歌を担当しているKAORI.、美少女ゲームソングでは人気が高い榊原ゆいといった声質が良い女性ボーカルがたっぷり収録されており、ゲーム本編への知識がなくとも良質な女性ボーカル・ソング集として楽しめる内容となっている。

①②③が「Never7-the end of infinity-」のテーマソング。②がPS2版(2003年)のED曲で、①③がPSP版(2009年)の主題歌である。PSP版では、当時 同人音楽シーンで売れまくっていた人気の音楽ユニットAsrielがOP曲①とED曲③を提供している。商業作品へのタイアップということもあり、同人で発表していた音源よりもポップで聴きやすくなっている印象だ。
アニメ/ゲーム/同人といった数多くのオタク向け女性ボーカリストの中でも唯一無二の個性を発揮するKOKOMI独自の美意識を感じる歌声の良さはよく知られているところだ。
①はAsriel らしいシンフォニックに疾走するナンバー。サウンドは比較的ソフトだが、壮大なファンタジーを奏でる持ち味を発揮している。③もいかにもAsrielなスピード感のあるゴシックメタルっぽい歌モノ。耽美な雰囲気を盛り上げる歌い回しが良い。
②は声優の川上とも子が歌うキャラクター・ソング。ゲームの世界観にぴったりと合った切ない歌唱を聴かせてくれる。

④⑤⑥⑦が「Ever17-the out of infinity-」のテーマソング。
Ever17というと阿保剛が手掛けたBGM『Karma』が人気の高い名曲として有名だが、ボーカル曲も粒ぞろいである。
⑤⑦がDC/PS2版(2002年)のOP/ED曲。
⑤は志倉千代丸が手掛けたギャルゲーソングの中でも未だに人気が高い曲だ。声優でもあるKAORI.がボーカルを担当している。深海のイメージが浮かぶ透き通ったサウンド、切なさ爆発の歌メロ、海の底から虚空に叫ぶようなKAORI.の歌声の存在感など、まさにパーフェクトな名曲。おそらくこの曲は、シューゲイザー/ドリームポップ・アレンジにしてもかなり良さそうである(親和性がある)。
⑦は茜ヶ崎空の声を担当した笠原弘子が、ふんわりとした癒しボイスで歌うしっとりとしたナンバー。声質の良さを生かした作風が心地良い。
④⑥が声優の今井麻美が歌うPSP版(2009年)のOP/EDテーマ。
④は哀愁漂うメロディーなど、往年の志倉千代丸節が炸裂する熱いナンバー。切なくも力強い旋律はゲームの世界観をしっかりと盛り上げてくれる。⑥も切ないメロディーが印象的な美しいバラード。声優というより本格派シンガーと言えそうな今井麻美の渋い歌唱が良い。

⑧⑨⑩⑪が「Remember11-the age of infinity-」のテーマソング。
⑨⑪がPS2版(2004年)のOP/ED曲。
⑨はゲーム本編と同じくミステリアスな雰囲気が漂う。独特の味があるサビの歌メロをカッコいい歌い回しで熱唱するKAORI.の歌声が胸に刺さる。⑪は楠田ゆにの声を担当した皆川純子が歌う中二病タイトルな1曲。曲調はゲーム内容に合っている儚いものである。
⑧⑩は声優の宮崎羽衣が歌うPSP版のOP/ED曲。
⑧はfripSideを彷彿とさせるアニソン/ゲーソンど真ん中な曲調や透明感ある歌声が理屈抜きの気分を高揚させてくれる。⑩はゲームのエンディングにぴったりのノスタルジックな気持ちに浸れるメロディーが良い。

⑫⑬⑭⑮が「12RIVEN-the Ψ climinal of integral-」のテーマソング。
⑬⑮はKAORI.が歌うPS2版(2008年)のOP/ED曲。⑬はKAORI.のボーカルが映えるエレクトロポップ。志倉千代丸らしい鋭いメロディーラインが良い。⑮は王道的なエンディング・ソングという感じで、温かいメロディーを優しく歌うボーカルが耳に残る。
⑫⑭は榊原ゆいが歌うPSP版(2009)のOP/ED曲となっている。
⑫はロック調のゲーソンの王道という感じで、これからゲームが始まるわくわく感が良い。
⑭は力強いバラードで、榊原ゆいの堂々した歌いっぷりがグッド。

ゲームの世界観によく合っているものを音楽として作っており、熱さと切なさを兼ね備えたゲームソングとして優れている曲が目白押しの内容である。特にKAORI.の歌声や曲は耳を捉えるインパクトのあるもので印象に残る。

Hue|Golden Syrup Lovers

2001/5/21  UMMO Records 

1. Fravtaloop-introduction-
2. Super Girl
3. Great Lost Tunes
4. Echo
5. In A Haze
6. Cubic Transition
7. (Untitled)
8. Fractaloop I
9. Kiss My Lips
10.Homework
11.Last Cruising
12.Dream On
13.Fractaloop II

「Golden Syrup Lovers」は1993年に大阪で結成されたインディーロック・バンド。
本作は三沢洋紀と山本精一が主宰する音楽レーベルUMMO Recordsからリリースされた2枚目となるアルバムである。
サイケデリックロックやギターポップの要素をもつ曲を得意としており、異次元にトリップしてしまいそうになるトランス感覚溢れる曲から長辻利恵の飾らない自然体の歌声を生かしたポップなものまでどれも個性的だ。
プリミティブな衝動からインテリジェンスまで感じるところがグッドで、Shinowaにも通じる音楽性は大阪のバンドならではのユニークな魅力がある。本作は前作『ripper』から大きく進化を遂げており、より音楽的な振り幅が広くなったバラエティに富んだ楽曲が楽しめる意欲的な内容となっている。

導入の電子音インスト①に続く②は、イントロのギターリフからぞくぞくさせられるポップロック。パパパコーラスも飛び出すギターポップ寄りの作風でありながらもサイケデリックな空気感がどこか懐かしさを感じる。
③はメリハリのある演奏がダイレクトにロック衝動を伝えるパワフルなナンバー。
④はオシャレな雰囲気の良さが光るネオアコ度数の高い1曲。センチメンタルなメロディーを歌う透明感のあるボーカルが心地良い。
⑤はギターのミニマルなリフレインと美しい歌声に心が癒される。トータルでこれ以上ないほどの透き通った旋律を奏でており上質な聴き心地である。
⑧は疾走感のあるトライバルなビートが素晴らしい。ほぼインストであるが、各楽器が火花を散らすバンドグルーヴは刺激的で、このバンドの懐の深さを感じるキラーチューンだ。
⑨はスタイリッシュに決めるエレクトロポップ。サウンドがピコピコしており中毒性がある。⑩はまったりとした雰囲気でノスタルジーを刺激するナンバー。感傷的であるが前向きな気持ちになれる良い曲だ。
⑪は12分を超えるプログレッシブな大曲。UKロック好きなら気に入るであろう、ギターロック、ネオアコ、フォーク/トラッドが混然となった壮大なサウンドが力強く響き渡る。
ラスト⑬は⑧の続編で、こちらもほぼインストのスピード感のあるトランスロックで、絶妙に絡み合う一音一音が未知の感覚を刺激する。ロックのダイレクトな快感と不思議なトリップ感覚を併せ持つキラーチューンである。

バンド独自の世界観や空気感を大切にしながらも、枠には囚われず自由奔放にやっているという感じの様々なサウンドが興味深い。インディーズバンドだからこその作品であると言えるだろう。

Common Multiple|Mana

2002/12/21  Comma

1. Natural Sequence Part 1
2. Natural Sequence Part 2
3. Common Multiple         
4. Cocoro            
5. Natural Sequence (Daichi Remix)
6. Cocoro (Tycoon Tosh Remix)
7. Baraki (Folklore Remix)

「Mana」は1996年に結成されたロックバンド。本作は2枚目となるアルバムである。
音楽性はポストロック、サイケデリック、プログレ、エレクトロ、ゴシックといった要素が混在する浮遊感のあるサウンドにボーカルを務めるChisatoの儚げなハスキーボイスがのるというもの。ダークで幻想的な雰囲気を盛り上げる鋭い演奏や美しいメロディー歌うボーカルが優しく耳に残る。ドラマチックに奏でられる一風変わった世界観はインディーズバンドならでは個性があり、一聴して耳を捉える魅力がある。

①②はひとつの曲で、それぞれパート1とパート2に分かれている。
①は妖しくサイケデリックな雰囲気に引き込まれる。異空間にトリップしてしまう透き通ったアンビエントなサウンド&ボーカルが気持ち良い。続く②は一気にアグレッシブなバンドグルーヴが炸裂し、うねるようなビートが爽快な気分を届けてくれる。ポストロックのようでフュージョンっぽい部分もあるサウンドが面白い。
アルバムタイトル③は、プログレ度数が高いインスト曲。ギターのミニマルなリフレインで徐々に緊張感を高めていき、終盤にはカオティックなサウンドに突入する。King Crimsonを彷彿とさせる切れ味鋭い重厚な演奏が光るキラーチューンである。
④は17分超える大曲。Cocteau Twinsといった4AD系のバンドにも通じるものがありそうな上質な透明感をもつ揺らぎのある旋律が心地良く響き渡る。⑤はDaichi Matsuokaによる本作収録曲のリミックスヴァージョン。ポップなエレクトロニカとして出来が良いアレンジだ。
⑥はTycoon Tosh(中西俊夫)による④をリミックスしたもの。終盤には電子ノイズが炸裂するなど、アヴァンギャルド風味もあるアレンジが刺激的だ。ラスト⑦はトライバルなテクノサウンドの洪水でアルバムの締めを飾る。

様々な音楽要素が絡み合いMana独自の世界観を構築する意欲的な内容である。
サウンドやボーカルが作り出すアンダーグラウンド感覚に満ちた空気感は聴く者を強く引き込む吸引力をもっており秀逸である。

Alice Theme Song Collection

2015/5/29 ALICESOFT

ディスク1

1. 心のツバサ
「See In 青 -シーンAO-」OPテーマ          
2. だから今は笑顔のままで・・・
「See In 青 -シーンAO-」EDテーマ            
3. A night comes!  豊田瀬莉香
「夜が来る!-Square of the MOON-」OPテーマ     
4. Over Beat ~明日へのエスカレーション~ E-mi
「超昂天使エスカレイヤー」OPテーマ      
5. Dash! To Truth  ブリジット本田
「大番長-Big Bang Age-」OPテーマ      
6. Blue Planet  Duca
「ウルトラ魔法少女まなな」OPテーマ      
7. Dreaming Conitnue  NANA
「ぱすてるチャイムContinue」OPテーマ 
8. 虹の向こうのHorizon   UR@N
「ぱすてるチャイムContinue」EDテーマ  
9. 風のように炎のように  UR@N
「超昂閃忍ハルカ」OPテーマ      
10. get the regret over  片霧烈火
「闘神都市III」主題歌

ディスク2

1. ときめき☆ガーディアン 片霧烈火
「ももいろガーディアン」OPテーマ          
2. say your prayer  片霧烈火
「しゃーまんず・さんくちゅあり -巫女の聖域-」OPテーマ  
3. The Day Takeoff  橋本みゆき
「大帝国」OPテーマ      
4. THE BIND SEEKER 片霧烈火
「パステルチャイム3 バインドシーカー」OPテーマ            
5. way to my frontier 遊女
「パステルチャイム3 バインドシーカー」EDテーマ            
6. ツバサノキセキ 民安ともえ
「パステルチャイム3 バインドシーカー」挿入歌    
7. 新しい世界へ 鈴谷まや
「パステルチャイム3 バインドシーカー」挿入歌    
8. 夢はおいしく無限大!! 鶴屋春人 / 柚原みう
「どらぺこ! ~おねだりドラゴンとおっぱい勇者~」OPテーマ        
9. Escalation heart  NANA
「超昂天使エスカレイヤー・リブート」OPテーマ   
10. BLADE LINKAGE 榊原ゆい
「武想少女隊ぶれいど☆ブライダーズ」OPテーマ

『Alice Theme Song Collection』は美少女ゲームブランドALICESOFT(アリスソフト)のゲーム主題歌を集めた2枚組のコレクション・アルバムである。
アリスソフトは1989年から2018年まで続いたランスシリーズなどのヒット作品で、かつてエルフと共に東のエルフ、西のアリスと称されたエロゲ業界の大手ブランドだ。

まず音楽ついて語る前にアリスソフトのゲームについて簡単に説明しよう。
エロゲはその性質上基本的にビジュアルノベルが多いが、アリスソフトのゲームはRPGやSLGなどのゲーム性が高い作品を多く発売しており、アダルトゲームでありながらもコンシューマの有名ゲームと比較しても引けを取らない面白さをもつ作品がある。
例えばアリスソフトが提唱する地域制圧型シミュレーションである「大悪司」(2001年)や「戦国ランス」(2006年)などのゲームシステムは戦略性が高いうえに中毒性もあり、延々とプレイしてしまう名作だ。

ゲームの世界観もユニークなものが多く、ランスシリーズの有名な勇者システムは、人類の死滅率が上がれば勇者がどんどん強くなり、より上位の敵を殺せるようになるという衝撃的なもので非常によく練ってある。また「大悪司」の売春宿や「ドーナドーナ」(2020年)のハルウリなどの18禁だからこそ可能な倫理観に囚われない過激なゲームシステムも印象的だ。こういった純粋にゲームとしての面白さを追求した作品以外にも実用性が高い作品も多くあり、特に変身ヒロインものには定評がある。まさにトータルで唯一無二の独創性があるキング・オブ・エロゲメーカーと言えるだろう。

さて本作はジャケットからして「超昂天使エスカレイヤー」と「超昂閃忍ハルカ」の2大ヒロインがメインということで、かつてお世話になった2人にノスタルジーが刺激されてしまう男性も多いかもしれない。内容としてはその2作品を含めた2000年から2014年までのアリスソフトのテーマソングの美味しいところを網羅した選曲となっており、美少女ゲームを代表するシンガーの曲が多く収録されている。人気のゲーム音楽作曲家Shadeを中心として、平原綾香『Jupiter』で日本レコード大賞の編曲賞を受賞したことで知られる坂本昌之などの作家陣が手掛けた楽曲は粒ぞろいで、女性ボーカルものとして出来が良く楽しめるものとなっている。

ディスク1から「超昂天使エスカレイヤー」と「超昂閃忍ハルカ」の主題歌を筆頭に
アリスソフトの女性ボーカル曲が存分に楽しめる内容だ。Shadeが手掛けた曲が多く収録されている。
①はアイドルポップ風の清涼感のあるメロディーを透明感のある声で歌い上げている(歌手名は非公表)。煌びやかなキーボートの音色やアグレッシブなギターが躍動感のある曲を盛り上げる。②はいかにもエンディングという感じの優しい雰囲気のバラード。こちらも①と同じボーカルである。
③はアリスソフトのゲーム音楽を多く手掛けているShadeが作曲した初となるボーカル曲。切ないイントロから始まるハードロック調のメロディアスなナンバーだ。豊田瀬莉香の熱を帯びた歌声など、カッコいい系のゲーソンとして秀逸である。
④はE-miが歌った「超昂天使エスカレイヤー」のOPテーマで、後に平原綾香『Jupiter』のサウンドプロデュースでJ-POP界隈でも有名になる坂本昌之が作曲・編曲している。かなり良い仕事をしており、子供の頃に見ていたTVアニメの主題歌に胸躍らせた感覚が蘇る旋律が素晴らしい。ストレートにイノセントが伝わるメロディーやサウンドが記憶に残る名曲である。
⑤はShade節が炸裂するエネルギッシュなビートポップ。ほぼ打ち込みだと思われるが、ハードなロックサウンドとブリジット本田のパワフルなボーカルで疾走する手に汗握るナンバーだ。
⑥はゲーム/アニメ系の女性作曲家として熱い支持を集める安瀬聖が作曲・編曲しているキュートなエレクトロポップ。美少女ゲームソングで人気が高いDucaが作詞とボーカルを担当している。可愛らしく陽気な曲調にハスキーボイスというのが不思議な魅力があり良い。
⑦は安定のShade楽曲。フックのあるポップな曲をNANA(石田燿子)が元気に歌ってフレッシュに弾ける。
⑧はハイトーンボーカルに定評があるUR@N(AiRI)が自信満々に歌い上げる爽やかな青春ポップ。こちらも耳にすんなりと馴染むShadeのメロディー&サウンドが良い出来だ。
⑨もUR@N(AiRI)が歌う「超昂閃忍ハルカ」のOPテーマ。これがShade史上最強のキラーチューンのひとつで、問答無用の熱さに心が燃え上がる。ハードロック風のサウンドも一音一音丁寧に作ってあり、口ずさみたくなる歌メロも良い。聖闘士星矢の『ペガサス幻想』にも通じる理屈を超えた何かがここにはあると言える。⑩は「闘神都市III」主題歌。アリスソフトのボーカル曲の中でも特に人気のあるナンバーで、歌うのは片霧烈火。Shadeが作曲した哀愁のメロディ―が心をぞくぞくさせてくれてグッドだ。

ディスク2は人気がある「大帝国」のテーマソングなど、こちらも引き続き良い曲が収録されている。Shadeと『ドーナドーナのうた』でお馴染みの水夏えるが作曲・編曲を手掛けた楽曲が多い。①②③④がShade、⑦⑧⑨⑩が水夏える、⑥が共作である。
①は片霧烈火が歌う疾走感のあるキラキラした胸キュンポップ。カラフルではっちゃけた電波ソングっぽい雰囲気があり、ボーカルの歌い回しが巧みである。②も①の流れを受け継ぐキュートな電子ポップだ。
③は橋本みゆきの「大帝国」OPテーマで、未だにゲーソン好きには人気が高い1曲。アニソンっぽい熱量全開の王道感溢れる曲であり、一回聴けば覚えられる歌メロが印象的だ。
④は片霧烈火のワイルドなボーカルがカッコいいメタルっぽいナンバー。
⑤は多くの美少女ゲーム主題歌を歌っている遊女がボーカルを担当している。DJ C++が作曲しているメロディアスに疾走する爽快感溢れる曲だ。
⑥は声優の民安ともえがボーカルを務めるスピード感のあるハードロックという感じナンバー。
⑦は声優の鈴木まやが歌う可愛い乙女ソング。
⑧は声優の鶴屋春人と柚原みうが元気いっぱいのツインボーカルを聴かせるナンバー。
⑨は「超昂天使エスカレイヤー・リブート」のOPテーマで、NANA(石田燿子)のキュートな歌い回しが光る。
⑩は榊原ゆいがボーカルを担当する清涼感のあるキラキラしたエレクトロポップ。

アリスソフトの歴史がたっぷりと詰まった聴きごたえのある内容である。すでにエルフも戯画もなく・・・多くの美少女ゲームブランドが解散や活動停止となってしまった。最後の牙城とも言えるアリスソフトには何としても存続してほしいものである。

天界のペルソナ|静香

P.S.F. Records 1994

1. 十
2. パンドラの匣
3. 少女の唇に蝶よとまれ
4. 孤独を図る
5. 血まみれの華
6. 水晶の翼
7. 6グラムの星

「静香」(Shizuka)は1992年に結成されたサイケデリックロック・バンド。
本作はP.S.F. Recordsからリリースされた1stアルバムである。人形作家としてゴシック系の球体関節人形を制作していた三浦静香をフロントマンとしたバンドで、夫であるギタリストの三浦真樹(不失者、裸のラリーズ)もメンバーであった。音楽的にはサイケデリック、フォーク、ノイズ、プログレなどが混在するアンダーグラウンド感覚全開の演奏をバックに三浦静香のこの世のものとは思えないほど幽玄な儚いボーカルが響き渡るというもの。繊細で内省的な空気感とただならぬ緊迫感を併せ持つ幻想的な世界観はまさにここではない何処かへと誘われる音楽である。女性ボーカルの一風変わったロックとしての完成度は申し分ないもので、マニアの間では人気が高い1枚と言える。

冒頭①からいきなり裸のラリーズやハイライズを彷彿とさせる凄まじい歪んだギターが唸りをあげ、洪水のようなノイズが押し寄せる。激烈なインストパート終了後には三浦静香の意味深なポエトリーリーディングが響き渡る。
続く②は怪奇幻想的なしっとりとした雰囲気が怖い。ギターを中心に最小限の音数で静かに緊張感を作り出しており、サウンドの透明感と淡々と呪詛を吐くような歌声に耳が惹きつけられる。③は教会音楽っぽい神秘的な雰囲気も漂うサウンドと祈りを捧げるような歌が孤高の存在感を示す。
④はトリップ感のあるギターとやるせない歌声など、じっくりとサイケデリックな旋律を奏でていき、終盤には神経爆撃ノイズギターが炸裂するカオスに突入するプログレッシブなキラーチューン。
⑤はスローで気怠い雰囲気の中から浮かび上がる生々しい歌声に心が震える。
⑥は文字通り水晶のように透き通ったサウンド&ボーカルによる不思議な高揚感が得られるナンバー。何かの始まりを告げる光が差し込むような雰囲気が抜群で、聴いていてぞくぞくとさせられる。ラスト⑦はこのアルバムの中でも最長の10分越えの大曲。④と同タイプの構成で、切ない歌と叙情性のある演奏でじわじわと緊張感を高めていき、終盤は一線を越えた尋常じゃないノイズギターが暴れまくる。

過激なノイズサウンドも盛り込まれているが、大半のパートは無駄のないシンプルな演奏が奏でる叙情的な世界観が特徴的である。三浦静香の悲しみや孤独を感じさせる切ない歌声には中毒性があり、一度聴けば病みつきになる内容である。

リングの女神達~女子プロスーパースター列伝~

2013/6/5
徳間ジャパンコミュニケーションズ

1. かけめぐる青春/ビューティー・ペア
2. 燃える青春/マッハ文朱
3. インベーダーWALK/マキ上田
4. アマゾネス女王/ナンシー久美
5. 燃えつきるまで/デビル雅美
6. ポ・ケ・パ・イ・ブ・ギ/ little Army Rockers
7. ジャガーのテーマ/ジャガー横田
8. セクシーパンサー/ミミ萩原
9. 愛のジャガー/ジャガー横田
10. セクシーIN THE NIGHT/ミミ萩原
11. 炎の聖書/クラッシュギャルズ
12. MAJI/ダンプ松本
13. (CHANCE)3/ J.B.エンジェルス
14. 颱風前夜(The Eve of Fight)/ 海狼組

『リングの女神達~女子プロスーパースター列伝~』は、吉田豪が選曲、監修した昭和女子プロレスラーの楽曲を収録したコンピレーション・アルバムである。全日本女子プロレスの全盛期を彩ったレスラー達の歌が時代を超えて蘇る!という感じの熱い1枚だ。
社会現象を巻き起こした「ビューティー・ペア」、元祖アイドルレスラーとして女子プロレスラーの活動の場を広げた「マッハ文朱」、アントニオ猪木の目を持つ女と称され、ストイックなオーラを纏っていた「ジャガー横田」、アイドル性が優れており、大ブームを巻き起こした「クラッシュギャルズ」、極悪同盟を率いてクラッシュギャルズと激戦を繰り広げたヒールレスラーとして一時代を築いた「ダンプ松本」など1970年代~1980年代の女子プロレスラーの華やかな歌がふんだんに詰まった楽しめる内容だ。
歌謡曲、テクノ歌謡といった王道的な路線からマニアックな方向性のアンビエントなものまで、幅広い音楽性が女子プロレスラーの歌手としての魅力を引き出しており聴きごたえがある。

①はジャッキー佐藤とマキ上田のタッグチーム「ビューティー・ペア」が1976年にリリースしたデビュー曲にして大ヒットしたことでよく知られている。古き良き歌謡曲という感じで、サウンドの生々しさや歌声の真っ直ぐさはまさに1970年代の日本という時代のカラーがよくでている。②はアイドルレスラーの源流を生み出した「マッハ文朱」の1978年の作品。元々歌手志望であったそうだが、それも頷けるパワフルな歌声である。
③はビューティー・ペアの「マキ上田」が1979年にリリースした当時大流行したスペースインベーダーをテーマにしたテクノ歌謡シングルのA面曲。爽やかに疾走するチャーミングな魅力を振りまくポップスで、電子音と生楽器の絶妙な組み合わせが気分を高揚させてくれる。
④は「ナンシー久美」が1981年に発表したシングル曲。やや不安定なボーカルが中毒性を生み出すダイナミックなディスコ歌謡だ。
⑤は「デビル雅美」が1982年にリリースした演歌要素もある歌謡曲。おそらく女子プロレスラーの中でも屈指の歌唱力と言っていいだろう。こぶしの効かせ方などプロの歌手も顔負けのテクニカルなボーカルを聴かせる。
⑥は全日本女子プロレスの前座として開催されていたミゼットプロレス(小人プロレス)のレスラー達が歌っている。本作では唯一の男性ボーカルで、オールディーズ路線のノリノリのブギである。
⑦は「ジャガー横田」がミミ萩原、デビル雅美と共にリリースしたアルバムに入っている曲だ。今ではおしどり夫婦ぶりでお茶の間でも愛される芸能人となったジャガーだが、レスラーとしての全盛期は、視線だけで相手をビビらせる殺気と自己を律して修練に励む者だけが纏えるストイックなオーラが特徴的であった。この曲ではそんなジャガーの殺伐とした雰囲気をポップソングとして音楽エンターテインメントに昇華できており秀逸だ。
⑧はアイドルから女子プロレスラーに転向した「ミミ萩原」が1983年に発表した曲。色気たっぷりの歌い回しが破壊力抜群のラテン風ディスコ歌謡のキラーチューンだ。馬飼野康二によるアレンジも良い。
⑨は再び登場する「ジャガー横田」の1983年シングル曲。スピード感のある勇ましい雰囲気のディスコ歌謡でカッコいい。
⑩は再びセクシーボイスが光るミミ萩原が登場。1982年発表のシングルで、こちらも色気のある歌い回しにノックアウトされる。
⑪は空前の大ブームを巻き起こした長与千種とライオネス飛鳥によるタッグチーム「クラッシュギャルズ」の1984年リリースの有名曲。作詞/作曲の森雪之丞と後藤次利が良い仕事をしている。止められない青い衝動が今走り出す・・・凄まじい情熱がほとばしる問答無用の青春アイドル歌謡のキラーチューンである。
⑫は「ダンプ松本」が1985年に発表した曲。ダンプと言うと極悪で暴力的なイメージが強いが、この曲ではそういった世間的なイメージとは異なる内面の孤独や葛藤などの繊細な一面にスポットを当てている。独白するかのようなボーカルが印象的なメロウでナイーブな作風である。作曲は坂本龍一が手掛けており、藤井丈司のアレンジも素晴らしい名曲だ。
⑬は立野記代、山崎五紀によるタッグチーム「J.B.エンジェルス」の1986年のデビューシングル。青空の下を駆け抜けるようなアイドルポップは爽快感抜群で伸びやかなボーカルも良い。⑭は北斗晶とみなみ鈴香によるタッグチーム「海狼組」の1989年発表のデビューシングル。ヘヴィメタルバンドEARTHSHAKERの石原慎一郎(SHARA)が作曲しており、ドライブ感溢れる熱いサウンドと2人のアイドルボイスが上手く同居している。

女子プロレスラーのアイドル性や歌手として魅力がふんだんに詰まっている。
2025年現在も大人気の女子プロレス・・・その礎を築いた偉大な女子レスラー達の歌は今聴いても説得力をもって心に響くだろう。

君のように生きれたら|宇宙ネコ子

2019/4/24  LOOM RECORDS

1. Virgin Suicide
2. 君のように生きれたら
3. Like a Raspberry
4. FILM
5. (I’m) Waiting For The Sun
6. Timeless
7. Flowers

2012年に結成されたオルタナティブポップ・ユニット「宇宙ネコ子」の2枚目となるアルバム。ジャケットのイラストを手掛けているのが大島智子で、泉まくらとのスプリット盤もリリースしていることからも分かるように、サブカル度数が高いちょっぴりメンヘラチックな女子ロックである。
これまでの作品ではラブリーサマーちゃんなどのゲストボーカルをフィーチャーした曲がメインであったが、本作からメインボーカルとしてkanoが加入し、より自分達のカラーを強く打ち出したアルバムである。
音楽的にはギターロック、ベッドルームポップ、シティポップと振り幅は大きいが、青い季節特有の淡く儚い感傷にどっぷりと浸れる雰囲気が特徴的だ。このアルバムはkanoの淡々とした囁きキュートボイスを生かした切ないオルタナティブロック路線の曲が多く収録されており、透明感のある繊細な世界観が好きならおすすめできる内容となっている。

冒頭①はノイジーなギターサウンドとkanoのウィスパーボイスが最高にセンチメタルな気分に浸らせてくれる。シンプルなギターロックであるが、青春時代特有の様々な感情を詰め込んだような雰囲気がずば抜けているキラーチューンだ。続く②も①同様の路線だが、こちらはよりメロディーの輪郭がくっきりと浮かび上がる歌モノとして秀逸である。
③はしっとりとした雰囲気に癒される美しいナンバー。女子力MAXのキュートな歌声の聴き心地が良い。
④はSteamのアートセンスがあるインディーズゲームのBGMみたいなノスタルジックなインスト。これも雰囲気抜群でグッドだ。
⑤はギターの音色が非常に耳に残る。生々しいサウンドと感傷的なメロディーが絶妙な味わいである。
⑥は喪失感などの切なさをたっぷり含んだ爽やかなギターポップ。耳当たりが良く、さり気なく日常に寄り添ってくれる優しい曲である。
ラスト⑦は美しいピアノ伴奏に合わせた遠くから響くような切ない歌声が印象的なバラード。アンビエントな雰囲気が心地良い。

全編通してじっくりと心に染み渡る作風が素晴らしい。等身大の雰囲気は自然と耳を捉えるもので、ポップミュージックとして良く出来ている。

下級生2 ソング・コレクション

2004/11/26 SOFTGARAGE

ディスク1

1.18 カチューシャ(河原木志穂、中島沙樹、美弥乃静)
2.天使のメロディー 猪口有佳
3.きおくのかなた 近藤志津香
4.鼓動 大津田裕美
5.Heart to Heart 美弥乃静
6.誰よりもいちばん輝いてるあなたへ 長崎みなみ
7.蜉蝣/西川宏美
8.ココロノカケラ 田中涼子
9.Lucky Day 及川ひとみ
10.夏 河原木志穂
11.waver leaf 永島由子
12.潮騒 中島沙樹
13.恋の歌 カチューシャ(河原木志穂、中島沙樹、美弥乃静)

ディスク2

TVアニメ版下級生2 サウンドトラック

『下級生2 ソング・コレクション』は、美少女ゲームブランド エルフ(élf)のPC用恋愛アドベンチャーゲーム「下級生2」(2004年)の主題歌やイメージソングとTVアニメ版のBGMを収録した2枚組のCDである。
エルフは1992年に発表した革命的美少女ゲーム「同級生」にて恋愛アドベンチャーゲームの源流を生み出し、アリスソフトと共に東のエルフ西のアリスと称されたエロゲ業界の大手ブランドであった。

さてまず音楽の話の前に「下級生2」と言えば本作のジャケットを飾るヒロイン 柴門たまきを巡る大騒動・・・通称【たまきん事件】について触れないわけにはいかないだろう。
この事件は主人公の幼馴染であった柴門たまきがゲーム開始時の時点で医大生の彼氏がおり非処女であったという設定に激怒したファンが、これを不具合としてゲームディスクを真っ二つに叩き割りエルフに返品したというものだ。当時は割れたディスク写真もアップされて、2ちゃんねる等のネットで大きな波紋を広げた。

元々エルフは恋愛ゲームのブランドではなかった。前述の「同級生」でナンパゲームのヒロインを少人数にしたことにより、個別のシナリオに厚みが増して恋愛要素が生まれた。そしてそれがPCエンジン「ときめきメモリアル」(1994年)などに飛び火したのである。後進の最初から恋愛を主軸としたゲームブランドとは違う経緯があるので、そのあたりの差異から生まれた事件だったかもしれない。そしてこのような純愛ゲームでの禁じ手をおかす大胆な姿勢がエルフ末期のNTR(寝取られ)の金字塔作品「ボクの彼女はガテン系~以下略」(2011年)にも繋がっていくのである。

さてここからは音楽の話だ。実はエルフのゲームは女性ボーカルの視点から見ても重要曲をいくつか送り出している。
特にPCエンジン版「同級生」のOPテーマである『夏色のシンデレラ』(1995年)は、アイドルポップ調の曲を丹下桜などの声優陣が不慣れながらも体当たりで歌った結果、奇跡的な瑞々しさを獲得した名曲である。この曲はノスタルジックなEDテーマの『MEMORY』と並んで、後に一大人気ジャンルとなるギャルゲ/エロゲソングや声優ソングの源流のひとつとなったと言えるかもしれない。
本作はそんなエルフ「下級生2」の声優陣が歌うテーマ&イメージソングがたっぷりと収録されている。曲の雰囲気が心地いいので、ゲームやアニメを思い出して感傷に浸るのも良いし、音楽だけ声優ソングとして聴いても楽しめる内容となっている。

ディスク1が下級生2の主題歌とイメージソングで構成されたソング・コレクション。
①と⑬が声優ユニット カチューシャ(河原木志穂、中島沙樹、美弥乃静)が歌う下級生2のテーマソングであり、これはアニメ版にもそのまま使用されている。
OPテーマの①は意表を突く昭和歌謡風のメロディーがグッドな18歳女子ソング。【やんやんややんや~ん】などの合いの手やポエトリーパートは、電波ソングにも通じるものがあるが、曲調自体はストレートな歌謡曲である。エロゲソングではI’veなどの洗練されたエレクトロポップが人気であった当時において、このようなベタな歌メロの曲をだして他との差別化を図るとは・・・これぞまさにエルフなキラーチューン。ゲーム同様に音楽も昭和色が強いのが良い。EDテーマの⑬も同じくハーモニーが心地良い歌謡路線である。こちらも懐かしさを覚える歌メロや青春王道感溢れる歌詞など、ゲームによく合っている曲だ。

②~⑫が下級生2のBGMをボーカルアレンジしたキャラクターのイメージソングとなる。ゲーム本編でも各キャラクターのEDテーマとして使用されている。
②は猪口有佳の透明感ある歌声とソフトなエレクトロアレンジが癒し効果を生み出す。
③は近藤志津香の中性的な歌声が印象的な切ないバラード。
④は大津田裕美のワイルドな歌声とヘヴィなギターリフがカッコいいハードロック。
⑤は美弥乃静が元気に歌うガールポップ路線の躍動感があるナンバー。
⑥は長崎みなみの可愛い声質を生かした心がほっこりするバラード。
⑦は西川宏美の色気ある歌声が柔らかいサウンドにぴったりとハマった美しいバラード。
⑧は田中涼子の儚い歌声と無駄のない透き通ったサウンドが絶妙に調和する。
⑨は及川ひとみが可愛らしく歌うキラキラしたエレクトロポップ。
⑩は河原木志穂のキュートフィーリングが冴えているキラキラした青春ポップ。
⑪は永島由子の歌い回しが耳に残る透明感溢れるナンバー。オシャレな雰囲気が良い。
⑫は中島沙樹の胸キュンボイスが破壊力抜群の1980年代アイドルポップ風の曲。

ディスク2はTVアニメ版下級生2のBGMが50曲収録されている。
ゲームやアニメを知っている人向きの内容であるが、心が癒される優しい曲調が多いので、そういったものが好きならおすすめである。

本作を聴きながらエルフのことを考えると下級生2だけでなく、「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」などエルフの名作ゲームの数々が脳裏に蘇る。今はなき偉大なるエルフに思いを馳せる・・・そんな1枚だ。

う・そ・つ・き|女的(ガールティック)

1990/11/5 Moon Drops

1. だけど
2. う・そ・つ・き
3. パノラマ島奇談
4. おやすみなさい
5. (Kiss) 3

「女的」(ガールティック)は1980年代から1990年代にかけてインディーズシーンで活躍したヴィジュアル系バンド。本作は1990年にリリースされたEP作品である。
当時としては非常に珍しい女性ボーカルのヴィジュアル系ヘヴィメタル・バンドだ。
ボーカルを務める鬼姫は、後に日本ジャズボーカル歌唱賞を受賞する実力派シンガーである「しげのゆうこ」だ。本作は世界を股にかけて活動する女性ボーカリストの若き日のインディーロックが聴ける貴重な内容である。
1989年に脱退したメンバーがZ.O.Aに加入していることからも分かるように、音楽性はアンダーグラウンド色もある硬派なヘヴィメタルであったが、本作はバンドブームの時代性が色濃くでた爽やかなビートロック路線となっている。女性ボーカル的にはこういった軽快なロックビートには可愛らしい声質のボーカルをのせるタイプのバンドが多そうだが、そこに圧倒的な歌唱力を誇る鬼姫の歌声がのることにより、独自の味わいが感じられるメタルポップが楽しめる1枚となっている。

冒頭①からイントロのメロウなギターを合図に小気味よく疾走する。いかにもバンドブーム時代の雰囲気が感じられるキャッチ―なロックであるが、鬼姫のテクニカルなボーカル技術が光っており耳を惹きつける。
続く②も勢いはそのままにメロディアスに走り抜ける。男女関係をテーマにしたコミカルな世界観を巧みな歌唱で表現しており愉快な魅力を放つ。浮気性の嘘つき男に一撃を加える歌詞は、女性の味方とも言える強力な内容なので、彼氏にムカついている女子におすすめである。
③は江戸川乱歩の同名小説をテーマにしたナンバー。幻想的なイントロから始まる壮大なメロディーを歌う力強いボーカルに迫力がある。ハードロック/メタル全開のギターもアグレッシブでカッコいい。まさに怪奇ロックンロールである。
④は鬼姫のボーカル技術の高さが堪能できる美しいバラード。インディーズバンドとは思えないその歌唱力は圧巻だ。
ラスト⑤は本作の中でもメロディー、歌詞共にフックがあるキラーチューン。爽やかなサウンドにのる濃厚な歌い回しがアンバランスなようで、熱い高揚感を与えてくれてグッド。

ノリが軽いロックのようで、演奏テクニックやハイレベルな歌唱が光る作品である。
やはりすでに風格の漂う鬼姫のボーカルは聴きごたえがあり、ジャズシンガーしげのゆうこの原点を感じられるものとなっている。

マリリンとウミガメスープ|有機生命体

1990/6/25 
アイアン・シロップ・レーベル

1. マリリンとウォータークラウン
2. Neige-Angelは青空宮殿に眠る
3. ビニールローズ
4. Be My Baby (I Wanna Be Your Suger Cube Doll)
5. クレーター (食事のお礼)
6. オレンジの令嬢
7. ウミガメモドキ (ニセウミガメに捧ぐ)
8. マリリンとウミガメスープ

「有機生命体」は1986年に結成されたロックバンド。本作は1987年発足されたインディーズレコード会社UK.PROJECT傘下のアイアン・シロップ・レーベルからリリースされた1stアルバムである。
このバンドはTBSテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(以下イカ天)でのインパクトのあるパフォーマンスがよく知られているので、当時は高い知名度があったインディーズバンドと言えるだろう。

音楽的には幻想的なニューウェーブ・サウンドにボーカルを務めるパーム・ルージュ・マリリンの舌足らずなキュートボイスがのるというもの。耽美な美意識と可愛い歌声は元祖ゴスロリ系とも言えそうで、このタイプの同時代のバンドでは「妖娼ロマネスク」と双璧の存在感を誇る。有機生命体や妖娼ロマネスクは、イカ天に出演にした個性的なインディーズバンドであったが、2025年の今聴くと幻想音楽系の同人サークルに通じるところがあると思える。
例えば六弦アリスはこれらのバンドとはなんの関係もなく影響も受けていないと思われるが、表現の方向性や精神性は近いものがあると感じられる。つまりこれは日本人女性の可愛らしい歌声(アニメ声とも言う)でゴシック色のある幻想的な世界観を構築した場合、ある程度同系統の音楽性になりやすいことを示しており興味深い。本作はそんな有機生命体のオタクにも受けそうな音楽センスが冴えわたる刺激的な内容である。

冒頭を飾るヘンデル『メサイア』のハレルヤコーラスを使用した短曲①に続く②から、マリリンの可愛らしい歌声の響きを主役としたファンタジックな旋律に引き込まれる。透明感のあるパートからじわじわと盛り上げてメロディアスに疾走する。アニソンっぽいところがまた魅力である。
③は不思議系女子フィーリングが絶妙なキュートポップス。変幻自在のボーカルとサウンドが最後スカっぽくなるのが良い。
④はアヴァンギャルドな作風のサイバーポップ。独創性溢れる近未来感覚がグッド。
⑤は筋肉少女帯 大槻ケンヂのユニークな作詞センスが光る。歌唱法は戸川純の影響が色濃い。ロリボイスとドスの効いた声を使い分けており、ただならぬ迫力がある。こちらも①同様にハレルヤコーラスが登場する。
⑥はアンビエントな雰囲気が漂う神秘的な歌モノ。ヒーリング効果もある美しい曲だ。
⑦は重量感ある陰鬱なサウンドに意味深なポエトリーリーディングという、当時としては挑戦的な作風が面白い。後半の超加速するビートと早口ボイスがイカれており最高。追い詰められるかのような緊迫感が全身にぶっ刺さるキラーチューンである。
ラスト⑧は激烈なハードコア・ナンバーでアルバムの締めを飾る。

SFやアニメが好きな層に好まれそうなマニアックな世界観は個性的である。またサウンドもストレートなものからアヴァンギャルド路線までふり幅が広く聴きごたえがある。

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