新着レビュー

テル・ディスコ|MAGI(C)PEPA

2017/4/12 GOTOWN RECORDS

1. 備長炭
2. メイク真似
3. なんだかわからんフラッシュモブ
4. 功夫ガール
5. LOVE-KISS-HUG-HUG
6. 浪人ボーイ
7. テンセイリンネ ~GONG! GONG! GONG!~ 2017
8. 君に、いんすぴれいしょん!
9. 不条理コズミック
10. TELL DISCO

NONA REEVESの西寺郷太や村田シゲなどの凄腕ミュージシャン達が、ラップなどで有名なアイドル「吉田凜音」をボーカルにフューチャーした7人組のバンド「MAGI(C)PEPA」(マジぺパ)の1stアルバム。メンバー全員が作曲を手掛けており、『2020年代のフリートウッド・ マックを目指す』がコンセプトとなっている。
吉田凜音の躍動感溢れるキュートな歌声の魅力を最大限に引き出した、オシャレかつ少しひねくれたセンスが刺さるポップソングの数々は中毒性が高いもの。バンドという形態ではあるが、非常に上質なアイドルポップを楽しむことができる。

①は自分自身の信念を曲げないというメッセージ性の強い歌詞をポップなサウンド&メロディーで包んでおり、活力に満ちた吉田凛音のパワフルなボーカルがぴったりハマっている。
②はニューウェーブ色が強いポップソング。爽快でキレのある歌声が痛快で、間奏のピコピコしたシンセやサビのメロディーの浮遊感など印象に残るもので秀逸。⑤はシティポップ度数が高い都会的な洗練されたポップスで、ちょっと大人っぽいラブソングをクールに決めておりカッコ良い。⑥は吉田凜音がラジオ放送風に語るユニークな電子ポップ。⑦は吉田凜音お得意のラップとスペーシーな浮遊感が良い。
ラスト⑩は壮大なノスタルジックな旋律が切ない余韻を残すディスコポップ。わくわくする楽しさがありながらもセンチメンタルな情感にどっぷり浸ることができる優れた曲だ。

実力派ミュージシャン達が、吉田凜音の声にジャストフィットする楽曲を提供しており、聴きごたえたっぷりの内容である。とにかく歌声に魅力があり、器用に様々な曲を自分のものにして歌いこなせるところが吉田凜音の強みである。

そういうことだった|マイミーンズ

2014/5/1 MYMEANS

1. そういうことだった
2. short days
3. 歩くような速さで
4. ハローグッバイハロー

音楽シーンに多大な影響を与えたロックバンド「ハヌマーン」解散後にメンバーであったベースの大久保恵理を中心に結成された「マイミーンズ」。本作は初リリースとなった4曲入りのCD。グッドメロディーと生々しいサウンドの音色や伸びやかで清涼感ある大久保恵理のボーカルなど、良質なポップセンスが光るギターロックである。

冒頭①はマイミーンズの代表曲となった女性ボーカルパワーポップの名曲。プリミティブなギターサウンドと親しみやすいメロディーを歌う飾らない素直なボーカルが良い。カラフルで爽快なビートはすぐに耳に馴染むもので、何度もリピートしてしまう魅力がある。
②は直球の青春ギターロック!という感じで、印象に残る痙攣するギターの音色や青空を見上げるような伸びやかな歌声が元気を与えてくれる。③は情景が浮かぶようなノスタルジックな旋律が胸に刺さる。淡々としながらも微妙な感情を伝える歌声など非常にエモーショナルな味わいがある。④は柔らかいメロディーやビートが爽やかな風のような心地良さを運んでくれる。ギターポップっぽいのんびりとした雰囲気は疲れた心を癒してくれる。

聴けば前向きな気持ちになれる良い曲揃いで、女性ボーカルのインディーロックとして文句なしの好盤。フルアルバムをリリースしていないのが残念だが、等身大のポップロックに胸がときめくこと間違いなしだ。

潮騒のうた|BELL&ACCORDIONS

2000/9/20 アンサンブル/Daizy Woods

1. 潮騒のうた
2. プロテストソング
3. HIMAWARI
4. STARZ
5. 空の重さ
6. 潮騒のうた(Chinese Version)
7. 潮騒のうた(Instrumental)

1980年代から活動しているロックバンド「ピカソ」とボーカル「かがわひろみ」によるバンド「BELL&ACCORDIONS」の1stミニアルバム。本作収録の『潮騒のうた』が1999年にNHKみんなのうたで使用されて人気となったことで知られている。かがわひろみの上品で真面目な印象を残すボーカルや哀愁漂う叙情的なロックサウンドと日本の正統派ポップスとして優れている歌メロなど、完成度の高い良質なポップソングを聴くことができる。

前述の①はやはり本作の白眉と言える名曲である。これでもかと叙情的なサウンドと歌謡曲っぽい切ないメロディーが鳴り響いており、歌声の真っ直ぐさや日本語として美しい歌詞などまさにこれぞ【日本の歌】という感じだ。
②はアコースティックサウンドのゆったりとしたパートからサビに向かって壮大に盛り上がる感動的なナンバー。日本人好みの叙情的なメロディーとシンフォニックな曲展開が大きなうねりを生み出している。④は幻想的なサウンドと歌謡的な歌メロを上手く組み合わせた切なさ爆発する曲。特にサビの泣きのメロディーは普遍的な感動を届けてくれるもので、情緒たっぷりに歌い上げるボーカルも良い。⑤も日本の歌謡ポップスとして印象に残る曲で、懐かしさを感じるメロディーは口ずさみたくなる親しみやすさがある。⑥は『潮騒のうた』の中国語ヴァージョンで、サウンドも中華風のアレンジになっているのが面白い。

基本的には冒頭の『潮騒のうた』と同タイプの曲が続くので、みんなうたで気に入った人が聴いたら満足できるように制作してあると感じる。日本人好みである哀愁の歌メロや叙情的なサウンドがふんだんに楽しめる1枚だ。

Shaking Memory+6 オール・ソングス・コレクション|かとうゆかり

2009/11/10  SONY MUSIC DIRECT

1. ダイナマイトに火をつけて
2. 夕闇 You & Me
3. ルート・涙・セブンティーン
4. 失恋エキスプレス
5. Knock Out Boogie
6. 恋するカレンダーガール
7. September Rainbow
8. 今夜どっきりTAKE OUT
9. アバンチュールに御用心
10. シュガーぬきのSaturday Night
11. 放課後ロック(Back To School Again)
12. 熱風半球
13. やめないでDancing
14. ダイナマイト・チャンス
15. Stay
16. Gotcha!

1980年代に大映ドラマ【不良少女とよばれて】や【ポニーテールはふり向かない】に出演したことでも知られるアイドル歌手「かとうゆかり」。
本作は1982年にリリースしたアルバム『Shaking Memory』にボーナストラック6曲を追加収録した全曲集である。亀井登志夫、渡辺敬之、加藤和彦、大谷 和夫、鷺巣詩郎などの豪華作家陣が作り出すオールディーズ色が強いポップナンバーを愛嬌ある声でパワフルに歌い上げており、懐かしさを感じる爽やかな女性ボーカルポップスがふんだんに詰まった1枚。

①~⑩がアルバム『Shaking Memory』。
①は1960年代オールディーズ風味のウキウキするビートとチャーミングな歌声でノリノリな気分になれる。かとうゆかりの歌声は10代のキラキラ感や危うさが伝わるもので、レトロな感覚も楽しいこれぞ青春ガールポップという感じだ。②はセンチメンタルな胸キュンラブバラード。ストレートに好きという感情を表現しているスウィートな1曲だ。⑤はダンスフロアにぴったりな陽気なポップチューンで、ダンサブルなサウンドとスタイリッシュなカッコ良さを放つボーカルが印象的。
⑨はキュートなはっちゃけた歌声とキャッチ―なビートに胸躍る。デビューシングル⑩は極上のオールディーズ歌謡で、まるで歌劇のようなパンチのある歌い回しがインパクト大。

⑪~⑯はシングル曲などのボーナストラックとなっている。夏のアイドル歌謡の傑作⑫、①の歌詞違いヴァージョン⑭、ドラマの挿入歌となったご機嫌なロックンロール⑮などが収録されている。特に⑮は本人のキャラクターにもあっている感じで、今聴いても新鮮な魅力がある。

歌唱力は抜群で楽曲も良いが、コンセプトなどマニアックな魅力を追求している部分があり、そこがブレイクしなかった原因と思われる。女性歌手としての個性もあり、若さと勢いが存分に味わえる内容である。

私を赤痢に連れてって|赤痢

2022/8/3 P-VINE

1. デスマッチ
2. 4649
3. ヨーレイヒ
4. どろどろ大江戸
5. かつかつROCK
6. だーらだら
7. 青春
8. 仏滅ラプソディー
9. カメレオン
10. FUCKしよう
11. ちった
12. ENDLESS
13. ナンバー (BONUS TRACKS)
14. ニャンニャンで行こう (BONUS TRACKS)
15. 赤痢作用(セキリプロセス) (BONUS TRACKS)
16. 夢見るオマンコ (BONUS TRACKS)

1980年代のインディーズシーンを代表する京都発のガールズバンド「赤痢」。本作は1988年にアルケミーレコードからリリースした1stアルバム『私を赤痢に連れてって』にボーナストラックを追加した再発盤。後のガールズバンドに多大な影響を与えており、ソニック・ユースのサーストンムーアもファンであることを公言している。荒々しいガレージロックサウンドは初期衝動を感じるカッコ良さがあり、身も蓋もないことをストレートにぶちまける歌詞やぶっきらぼうな歌い方のボーカルなど、強烈なパンクロックを聴くことができる。

冒頭①から今では考えられないような、過激な歌詞のインパクトに驚かされるが、切れ味鋭いギターやポップなリズムで疾走するさまは王道のロックンロールと呼べるもの。
②はどんよりとした空気の中で、ボーカル「みゆ」の日常の鬱憤をぶちまける感情豊かな歌声の表現力が光る。投げやりに歌っているかと思えば、カリスマ性ある力強い歌声を聴かせたりと不良っぽいラフな雰囲気のボーカルは個性的で魅力がある。③はソリッドなサウンドと生活の不満を淡々と歌うくぐもったボーカルがカッコいい。④はタイトル通りどろどろした感情をヘビィなロックで発散する。
⑦は苛立ちを軽快なビートで昇華した青春ロック。⑧はドラムのカッコ良さが際立つミドルテンポの渋いナンバー。⑩はあまりにも直球な歌詞が痛快な赤痢らしい1曲。この曲もそうだがパンクを基調にブルースっぽいセンスが随所に感じられる。⑫はこの頃の赤痢にしては長尺のナンバーで、やさぐれたガールズロックがたっぷり堪能できる。ボーナストラックでは代表曲⑯などのレアトラックが楽しめる。

フラストレーションが渦巻くような荒々しい演奏はインディーロックならではの熱さがある。好き勝手に歌っている印象のボーカル含め、ルーズというより飾らない自然体の魅力があると言えるだろう。生々しいガールズパンクが楽しめる1枚だ。

SUPERSTUPID! |SUPERSNAZZ

1999/1/25 ダブリューイーエー・ジャパン

1. Breakout
2. Johnny
3. Black Cat
4. Sometimes
5. Middle of the Way
6. Playing With My Guitar
7. Uncle Wiggly
8. Hardcore
9. Comanche
10. Creeps
11. First Time Is the Best Time
12. Papa Oom Mow Mow

ガールズバンド「SUPERSNAZZ」が1993年にリリースした1stアルバム。Nirvanaを輩出したシアトルの名門インディーズレーベルSub Popからいきなりデビューしたというちょっとビックリな1枚。このバンドは後にキュートなパワーポップ路線で胸キュンパンクポップを聴かせてくれたイメージも強いが、このデビュー盤ではグランジ色の強いギターが特徴的な勢いのあるガレージパンクを楽しむことができる。

冒頭①からノイジーなロックンロール炸裂という感じで、ボーカル務めるスパイクのワイルドな歌いっぷりに痺れる。続く②も疾走するキャッチ―なガレージパンクで、ロック以外の何者でもないボーカルが良い。④は本作の中でも白眉のポップセンスが光るキラーチューン。エッジの効いたギターとポップなメロディーがバンドの初々しい雰囲気と上手くマッチしており躍動感溢れる1曲だ。⑦はロック魂を感じる渋いボーカルとヘビィなサウンドが気分を高揚させてくれる。⑧はガールズロックのカッコ良さを詰め込んだようなクールでスタイリッシュな魅力が溢れている。
⑫は1960年代のアメリカ西海岸のボーカルグループThe Rivingtonsのカバー曲。SUPERSNAZZ流のオリジナリティあるカバーとなっており、ガールズバンドのカッコ良さや楽しさを感じることができる。

いきなり海外レーベルからデビューするという当時のインディーシーンの混沌や熱さを象徴する1枚である。曲には日本人離れした空気感があり、アメリカのバンドと並べても違和感がないセンスが光る1枚だ。

殺人事件|少女閣下のインターナショナル

2016/7/1  TRASH-UP!! RECORDS

1. 真夜中に餌を与えてはならない
2. mug
3. グランギニョルのフラミンゴ
4. ATARI SHOCK LOVE
5. 乙女みたいな季節
6. 少女閣下のPKウルトラ計画
7. ecole
8. ショートクタイシ・イズ・デッド
9. みなごろしフライデー(naked)
10. HAL451
11. 怨み節/マカロンウエスタン
12. No where on-do
13. 僕らの心電図
14. 万国お化け博覧会
15. アイドルに恋をしてはならない

2014年から2016年まで活動していた地下アイドルグループ「少女閣下のインターナショナル」の1stアルバム。本作リリース直後に活動休止したので、唯一のフルアルバムとなっている。メンバーにはシンガーソングライターとして活動している里咲りさも在籍。B級ホラー映画や昭和特撮のようなユニークな世界観を、ヒップホップやロックなど色々な音楽要素をごちゃ混ぜにした変態アヴァンギャルドサウンドで表現しており、尋常じゃないテンションのボーカルも含めメーターを振り切ったプログレッシブなアイドルポップが聴くことができる。

冒頭①からねじれた電子サウンドとはっちゃけたラップの怪奇な世界観に驚かされる。②は疾走するハードなジャズロックで、勢いあるボーカルのやさぐれた感じもグッド。サウンドはかなり凝っておりアイドルと思えないアグレッシブな演奏のアングラ感が良い。③はホラーな歌詞と怪談のようなボーカルの語りにぴったりの緊張感ある電子音がインパクト大で、殷の踏み方などラップとしても面白い。④はスペーシーな近未来的な美しい旋律にユーモラスな可愛らしい歌が乗るというもので、アイドルらしいプラスのエネルギーに憂鬱も吹っ飛び陽気な気分になれる。
8分に渡る大曲⑥はこのグループを象徴するぶっ飛んだ曲で、アイドルとプログレを強引に融合させて先悦化したようなカオティックな曲展開に圧倒される。⑦は西洋的な世界観の歌自体は綺麗なバラードだが、凝ったサウンドや怖い歌詞は聴いていて不安になってくる。⑪はタイトル通りマカロニウェスタンのパロディで、踊りだしてしまいそうな軽快なリズムに胸躍る。⑬は哀愁漂うメロディーと切なさ爆発のハーモニーが壮大な感動を呼ぶ。奇妙な楽曲が多い本作の中では逆に異色な魅力がある王道アイドルポップ路線である。

実験的な作風ではあるが、聴く物に元気を与えるというアイドルの基本姿勢に沿った、エンターテイメント性ある楽しさも忘れていないところが良い。一度聴けば記憶にいつまでも残るであろう鮮烈な1枚だ。

Me|AliA

2021/12/22  SLIDE SUNSET

1. 天気予報
2. ノスタルジア
3. まあいっか
4. ケセラセラ
5. 翼が生えたなら
6. 100年に一度のこの夜に
7. impulse
8. equal
9. かくれんぼ
10. あかり
11. おにごっこ
12. SLIDE SUNSET
13. Me

2018年に結成された男女混合のロックバンド「AliA」の1stフルアルバム。ロックやクラシックなど様々なルーツを持つメンバー全員が主役であるという意味合いの『ハイブリッドロックバンド』をコンセプトにしている。キーボートとヴァイオリン含む編成でエモーショナルなビートを鳴らし、情緒たっぷりに歌い上げるAYAMEのボーカルの熱量も凄い。どこか懐かしい感じがする普遍的なポップロックの魅力を追求している作風はストレートで好感が持てる。またメンバーはアイドルグループ「yosugala」への楽曲提供を行うなど多方面で活躍しておりその才能を発揮している。

冒頭①は温かいサウンド&メロディーと感情豊かに歌われる前向きなメッセージに勇気づけられる。曇り空から青空に突き抜けるような旋律は心に感動的に響く。②はエモロック風のJ-POPという感じで、ヴァイオリンなどのシンフォニックなサウンドと王道感溢れるフレッシュな歌メロは一聴して耳に残るものだ。⑥は哀愁漂うメロディーを美しく歌い上げており、ハードロック調のギターとヴァイオリンの絡みも良い。⑦はアニソンやメロコア風のキャッチ―なメロディー&全身全霊の熱いボーカルが力強く疾走する。
⑨はアニメのMAD動画に使われることが多い人気曲で、AliAの真骨頂と言える速いテンポで畳みかける壮大なサウンドと叙情的なメロディーを歌う【エモい】としか言いようがない熱唱がドラマチックに迫る名曲。他の楽曲にも言えることだが、曲の最初から最後までここまでキャッチ―で盛り上がるのは普通に凄い。ポップミュージックの快楽原則を大切にしているバンドと言えるだろう。⑪は泣きのメロディーと力強く歌い上げるボーカルに心地良さがありいつまでも浸っていたくなる。⑫は王道感ある心に沁みる必殺バラードで、アニメやゲームのエンディングテーマとしてすぐに使えそうなノスタルジックな女性ボーカル曲として秀逸である。

とにかく日本人好みの哀愁漂うメロディーの楽曲を作るのが上手い。そしてそれにぴったりのAYAMEのエモーショナルな歌声はAliAの大きな魅力となっている。ノスタルジーやセンチメンタルな情感を直球で伝えてくれる熱い1枚だ。

ONE!|ネクライトーキー

2018/12/5 Necry Talkie

1. レイニーレイニー
2. こんがらがった!
3. めっちゃかわいいうた
4. タイフー!
5. 許せ!服部
6. オシャレ大作戦
7. がっかりされたくないな
8. だけじゃないBABY
9. ゆうな
10. 遠吠えのサンセット
11. 明日にだって
12. 夏の雷鳴

ロックバンド「ネクライトーキー」が2018年にインディーズでリリースした1stアルバム。バンド「コンテンポラリーな生活」やボカロP「石風呂」として活動していたギターの朝日が、女性ボーカルバンドをやるため2017年に結成。本作はそれまでに発表したシングルなどの既存曲はすべて新録されている。ボーカルを務めるもっさのチャーミングな可愛らしい歌声を生かした爽快なポップロックで、ちょっとひねくれた感じが面白いサウンドや脱力的な世界観など、渋谷系とアニソンを掛け合わせたようなユニークなパワーポップが楽しめる。

冒頭①からフレッシュな雰囲気と可愛らしさ全開の歌声に元気を貰える。手数の多いドラムやキッチュなキーボートの音色も楽しい。続く②はリズミカルなボーカルとメロディーの力強さが印象に残る。陰キャっぽい屈折した歌詞はユーモアセンスがあり、言葉をメロディーに乗せるのが上手い。③はタイトル通りひたすらかわいいうたであるが、ぶっ飛んだ歌詞や終盤の爆走などやけくそな感じが最高。⑤はユニコーンの『服部』オマージュしたと思われるコミカルで陽気な曲調だが、お金の貸し借りに関する身も蓋もないことを言ってしまう歌詞は、皮肉が効いておりメタな視点が冴えている。
⑥はもっさのチャーミングな魅力が全開の歌声と目まぐるしいキャッチ―な演奏が気分を上げてくれる。一緒に歌えそうなメロディーは親しみやすさがあり、劣等感をキュートに昇華して突き抜けるような爽快感を与えてくれる。
⑧はおもちゃ箱をひっくり返したようなキラキラしたサウンドと明るい歌声とは裏腹に、趣味などの現実逃避は楽しいが、しっかりと現実に向き合わななければならない時があるというリアルが胸に突き刺さる。⑨はノスタルジックなバラードで、もっさが声が可愛いだけでなく、歌唱力があることがよくわかる。ラスト⑫はアコースティックギター主体のシンプルな演奏から徐々に音数が増えて盛り上がるドラマチックな曲。叙情的で大きなうねりを生み出すメロディーが素晴らしい。

キャッチ―で中毒性がある曲が多く収録されており何度もリピートしてしまう魅力がある。キュートなだけでなく、文学的な歌詞やメロディーへの言葉の乗せ方など、日本語ロックとしても優れており、何より女性ボーカルバンドの重要な要素である好感が持てる雰囲気を持っているのが良い。

スリーアウトチェンジ 10th Anniversary Edition|スーパーカー

2007/4/4 キューンミュージック

ディスク1

1. cream soda
2. (Am I)confusing you?
3. smart
4. DRIVE
5. Greenage
6. u
7. Autmatic wing
8. Lucky
9. 333
10. Top 10
11. My Way
12. Sea Girl
13. Happy talking
14. Trash&Lemmon
15. PLANET
16. Yes,
17. I need the sun
18. Hello
19. TRIP SKY

ディスク2

1. cream soda PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
2. (Am I) confusing you? PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
3. DRIVE PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
4. PLANET ~the end of childhood~ PREVIOUSLY UNRELEASED VERSION
5. Lucky LIVE AT GIGANTIC
6. RIGHT NOW LIVE AT GIGANTIC
7. Trash & Lemmon LIVE AT GIGANTIC

1995年に結成されて2005年まで活動していたロックバンド「スーパーカー」。本作は1998年にリリースされた1stアルバム『スリーアウトチェンジ』をリマスターし、ライブ音源等のレアトラックを追加収録した2枚組CDである。邦楽ロックを代表するバンドで、その後の音楽シーンに多大な影響を与えており、チャットモンチーのプロデュースを手掛けたいしわたり淳治もメンバーであった。この1stアルバムは1990年代を代表する邦楽ギターロックの名盤。基本的には作曲を手掛ける中村弘二がボーカルを務めることが多いのだが、フルカワミキが煌びやかな声で歌う楽曲もあり、これが実に魅力的で一聴で虜にしてしまう力がある。

ディスク1は『スリーアウトチェンジ』のリマスター盤。フルカワミキのボーカルが楽しめるのは④⑧⑨⑫⑬⑯⑱。可愛らしさとイノセンスを感じる歌声は、心に清涼感を与えてくれるもので、粗削りなギターサウンドとポップセンス溢れるメロディーとの相性も良い。④はアコースティックギターのキラキラした音色にぴったりのキュートで煌びやかな歌声とメロディーが心地良く響く。歌詞も印象に残るもので、語りかけるようなボーカルが心に届けてくれるものはまさに【元気】。
⑧は男女ツインボーカルの金字塔と言えるスーパーカーを代表する名曲。フルカワミキが歌い出した瞬間に胸に去来するものは初恋にも似た情感。眩しいほどの輝きを持つ旋律はまるで魔法のようだ。⑨は中性的な魅力も感じさせる歌声とラフなサウンドが織りなすセンチメンタルな青春ロック。⑫は力強いブリブリしたベースラインと轟音ギターで押しまくるアグレッシブな演奏に爽やかな透明感溢れるボーカルというまさにシューゲイズな1曲。⑬はインディーロックっぽいシンプルな曲調で、のんびりとした空気感に心が和む。⑯は⑫と同じく轟音ギターと透明感あるボーカルが浮遊感を生み出すシューゲイザーなギターロック。⑱はフレッシュな雰囲気の男女ツインボーカル青春ロック。
もちろん中村弘二ボーカル曲①⑮などキラーチューンも必聴で楽曲の出来は文句なし。

ディスク2は未発表のレア音源が収録されている。『DRIVE』の別ヴァージョン③は原曲よりも生々しい空気感にじっくりと浸ることができてこちらも良い出来となっている。ライブ音源はあまり音質が良くないが、熱い雰囲気は十分に伝わるだろう。

若さと勢いがこれでもかと溢れだすロックの初期衝動に満ちた名盤である。フルカワミキの歌声が良いアクセントとなっている部分が大きいので、女性ボーカルのバンドとしても優れている内容だ。

New Machinegun Etiquette|’else

1998/12/3 テイチクミュージックコーポレーション

1. New machinegun etiquette
2. Angel Talk
3. Love Eggman
4. Sweet Star,Jetset
5. The Sun Only Knows
6. Weasel
7. Comanche
8. POP 45
9. Melody Fair
10. High Time For Less Low Life
11. Swallow
12. “666”
13. Born to Sleep

1992年に結成されて2003年まで活動していたポップロックバンド「’else」のメジャー1stアルバム。UKロックに影響を受けたと思われる分厚いギターサウンドとフックのあるメロディーの女性ボーカルパワーポップで、理屈抜きに気分を上げてくれるご機嫌な1枚。1990年代の女性ボーカルバンドの中でも随一のストレートな作風で、小難しさは一切ないグッドミュージックである。

冒頭①からボーカルを務める河村裕子のキュートな掛け声を合図に疾走し、メロディックなガレージロックを決めてくれる。ウルトラキャッチーな楽曲に可愛い歌声という無敵感溢れるカッコ良さに痺れる。②は湿ったようなサウンドの空気感が印象的だが、ここでも無論ポップに疾走する。③はボーカルのギターポップ的な切なさがじんわりくる。⑧はこれでもかとキャッチ―なメロディーとエッジの効いたパワフルなギターで畳みかけてくれるので、憂鬱も吹き飛び爽快な気分になれる。⑪はエモーショナルな盛り上がりを聴かせるロックバラードで、情緒たっぷりに歌い上げるボーカルに聴き惚れる。⑫は轟音ギターと煌びやかなメロディーの嵐で押しまくり、センチメンタルな情感を伝える歌詞のナイーブさも良い。

ハードなギターサウンド、グッドメロディー、キュートな歌声と三拍子揃った女性ボーカルロックとして申し分のない出来。ここまで直球で勝負したバンドも珍しいので、今聴くと新鮮な魅力があると感じる人も多いかもしれない。

籐子|tohko 

1998/8/26 ポニーキャニオン

1. take a breath
2. is it too late?
3. BAD LUCK ON LOVE~BLUES ON LIFE~
4. ふわふわ ふるる
5. It`s all about us-from the motion picture”BEAT”
6. etude1
7. LOOPな気持ち
8. Orgel
9. I`ll be there
10. eternal dreams
11. and now the party`s over
12. ANGEL

1990年代に全盛を誇った小室ファミリーのメンバーの中でも良質なポップソングを多数発表し、未だに音楽好きからは人気が高いシンガー「tohko」の1stフルアルバム。tohkoの歌唱は小室ファミリーの特徴といえるハイトーンボーカルだが、可愛らしさから美しさまで表情豊かに歌い上げる優れた女性シンガーである。小室哲哉と日向大介の共同プロデュースであり、楽曲も小室哲哉だけでなく日向大介も提供していることから、小室哲哉単独プロデュースの女性シンガーとはひと味違う音楽性を楽しむことができる。

冒頭①から小室哲哉お得意の切なくダンサブルな歌が聴けるが、編曲が日向大介ということもあって新鮮な魅力がある。日向大介が作曲・編曲したデビューシングル③は、まったりとした前半パートから後半の性急なビートに変化させる曲展開が一度聴いたら忘れられなくなる。洋楽エッセンスを感じるドラマチックかつメロディックな曲であり、あまりJ-POPでは聴けない鮮やかな曲である。小室哲哉の④はTK節炸裂の切ない曲で、本領発揮といったところ。特にサビのメロディーは印象的なもので、ガラス細工のような繊細な歌声はいつまでも耳に残る。まったりとした雰囲気のバラード⑤ではtohkoの歌声の魅力がじっくりと味わえる。
⑦は日向大介による春の風景が浮かぶような温かいサウンド&メロディーは爽やかな風のようで、tohkoの表現力あるキュートな歌唱の魅力は特筆すべきものがある。作詞は小室哲哉で、10代の葛藤や輝きを飾らない言葉で表現しており素晴らしい。イノセンスとノスタルジーが心の奥の扉をノックするJ-POP女性ボーカルの名曲である。⑩は儚さを具現化したようなサウンドやメロディ―とそれを繊細に歌い上げる表情豊かな歌声が絶品の味わいである。

今聴いてもまったく色褪せていない③と⑦を筆頭に完成度の高い曲が多く収録されている。小室哲哉、日向大介という希有な才能を持った音楽家が、天性の声を持ったtohkoの可憐な歌声を最大限に生かした楽曲を提供しており、聴きごたえがある傑作アルバムだ。

Melian|じゅじゅ

2018/10/2 箱レコォズ

1. 祈り
2. 蜘蛛の糸
3. 煉獄
4. ゆらりゆらり
5. コノ世界・闇
6. 月光ピエロ
7. 零
8. 呪呪
9. イトシスギテ
10. 黒糸
11. 僻心
12. アンシェント・ファーメンティング・イービル
13. 35席
14. イケニエ
15. 怨返し
16. idoll
17. 君が産声を上げたのは
18. Melian
19. 食

『呪い』をコンセプトにしたアイドルグループ「じゅじゅ」が2018年にリリースしたフルアルバム。4人体制となってからの初のフルアルバムで、過去に発表した曲の再録なども含むベスト盤的な内容となっている。音楽性はアイドルの中でも珍しいゴシックロック路線であり、アニメ/ゲーム系のゴシック系女性ボーカルに距離が近い方向性である。アイドルらしい可愛らしい歌声とダークでメロディアスな楽曲はゴスロリ系アイドルとして完成度が高いもので、Asrielや電気式華憐音楽集団などに通じるようなシンフォニックなゴシックメタルが楽しめる。

美しいコーラスが聴ける短曲①に続く②は、ヘヴィなギターサウンドやおどろおどろしい雰囲気を盛り上げる歌声が、まさに『呪い』といった感じで暗黒の世界に引き込まれる。③も陰鬱なムード全開のヘヴィロックで歌詞の世界観も面白い。⑤はファンタジック感あるシンフォニックなアレンジやアニメにタイアップできそうなメロディーの王道感が良い。幻想的なイントロが印象的な⑧はメロディックに疾走するナンバーで、アイドル版メロスピという感じの質感が新鮮である。⑩は歪んだベースのイントロが強烈で、キャッチ―なテンポのボーカルなど中毒性が高い。⑬は青春ホラーという感じで、現世とあの世をテーマにした世界観も凄いが、特にサビの哀愁漂うメロディーラインが耳に残るもので優れている。⑯は音圧を感じる力強いサウンドのアイドルメタル。リズムやメロディーはアイドル的なもので、可愛らしさがある旋律が印象に残る。⑱はドラマチックに奏でられる幻想的なバラード。西洋的なサウンドとメンバーの歌声が美しく響き、じっくりと退廃的な世界観に浸らせてくれる。

大ボリュームのアルバムでたっぷりと「じゅじゅ」独特のホラー色が強い世界観が楽しめる。陰鬱だがキュートなボーカルのおかげかそこまで重苦しくはないので、ゴシック色が強いアイドル曲が聴きたいならマストな1枚だ。

超怒猫仔/Hyper Angry Cat|4s4ki 

2020/12/16 SAD15mg

ディスク1

1. 超怒猫仔 (ブチギレニャンコ)feat.Mega Shinnosuke,なかむらみなみ
2. I LOVE ME
3. monmon
4. 猫Jesus猫
5. 35.5
6. Liar feat. CVLTE
7. 欠けるもの
8. escape from
9. ラストシーン
10. ラベンダー
11. kg
12. gekkou

ディスク2

1. おまえのドリームランド
2. プラトニック
3. NEXUS feat.rinahamu
4. moniko feat.Anatomia
5. 風俗嬢のiPhone拾った feat.Gokou Kuyt
6. サキオはドリームランド
7. lover
8. eyes feat.Rin音
9. bed
10. SUCK MY LIFE
11. SUCK MY LIFE2
12. クロニクル

2018年に泉まくらなどを輩出した音楽レーベル術ノ穴からデビューしたシンガーソングライター「4s4ki」(アサキ)の1stフルアルバム。2019年後半から2020年に配信した作品と新曲とで構成された2枚組の大作となっている。KOTONOHOUSE、Snail’s Houseなどの有名トラックメイカーやラッパーのGokou Kuyt、Rin音といった多彩なメンツが参加した刺激的な作品に仕上がっている。デビューミニアルバムでは、DAOKOの流れをくむようなティーン女子の等身大のヒップホップ路線だったが、その後はラップだけに留まらずエレクトロ、ロックなど様々な音楽を雑食的に取り込み、ハイパーポップというジャンルで語られるような独自の音楽スタイルを築き上げている。4s4kiは感性が非常に現代的であり、曲のテーマも時代性を捉えているものが多い。良い意味で初々しさもあるキュートな歌声も魅力で、優れた2020年代のオルタナティブガールポップである。

ディスク1は4s4kiの先悦的な姿勢が感じられる曲や心に沁みるものまでバラエティに富んだ内容である。
Gigandectと共作した①はゲームボーイ音源で作られた8bitサウンドがレトロな感覚を刺激し、情報量の多いカオティックな音響に飲みこまれる。②はメランコリックな雰囲気のエレクトロポップで、葛藤や苦悩を受け入れて前に進もうとする歌詞や切ないメロディーなど耳に残る傑作。⑤は疾走感溢れる電子サウンドにぴったりのボーカルが気分を高揚させてくれる。⑦は4s4kiの大きな魅力のひとつである飾らない素直な声で歌われる切なくメロウなラップが心に刺さる。⑫も自己の葛藤を素直に吐き出した歌詞や淡々としながらも感情の揺れを感じる歌声など切なく心に響く。

ディスク2は4s4kiの良質なポップセンスを感じられる曲が多くあり、より多くの層にアピールできそうな内容だ。
①はKOTONOHOUSEと共作した名曲で、印象に残るキャッチ―なリズムなど、楽曲の出来が良く、葛藤しながらも前を向こうとする姿勢を垢抜けたセンスで煌びやかに表現している。メロディーはPerfume的な親しみやすさがあり、歌詞の言葉選びのセンスやラップパートのリズム感もカッコいい。③もKOTONOHOUSE との共作曲で、ゲストボーカルにCY8ERのrinahamu(苺りなはむ)が参加している。4s4kiとrinahamuのフィーリングは相性ばっちりで、キュートでストリート感溢れるスタイリッシュな旋律に元気を貰える。⑤はGokou Kuytと共作、共演した楽曲で、4s4kiを代表する曲のひとつである。ユニークな曲名に驚かされるが、切ない歌唱とやるせない歌詞、メランコリックなメロディーが心に沁みる。Gokou Kuytのボーカルパートも良い味わいがある。⑧はRin音と共作、共演した楽曲で、2人のボーカルが切ない雰囲気をしっとりと盛り上げてくれる。ラスト⑫は切々歌われるメッセージに心震える名曲。弱者に寄り添うような視点の無力感がやるせない歌詞や儚さや刹那感が伝わるボーカル、切ないメロディーなどまさに魂が込められた渾身の1曲である。

雑食的な作風で4s4kiの音楽家としての様々な顔が楽しめるお得な作品である。根底にあるのは聴き手に良い曲を届けたいという真っ直ぐな姿勢で、全体通してそれがよく伝わってくる内容である。楽曲は無力感や虚無感といったネガティブな感情をテーマにしたものも多いが、聴き手を限定するような実験的な重さはなく、しっかりと4s4ki流のポップソングとして成立させているところが素晴らしい。

祝祭|カネコアヤノ

2018/4/25 we are

1. Home Alone
2. 恋しい日々
3. エメラルド
4. ごあいさつ
5. ジェットコースター
6. 序章
7. ロマンス宣言
8. ゆくえ
9. サマーバケーション
10. カーステレオから
11. グレープフルーツ
12. アーケード
13. 祝日

女性シンガーソングライター「カネコアヤノ」の3枚目となるフルアルバム。ギター弾き語りからバンドサウンドまでこなす才女で、飾らない歌声や親しみやすく温かいメロディーライン、日常を鋭く切り取った文学的な歌詞など、孤独にそっと寄り添ってくれるような優しさのある音楽である。特に歌声の良さは特筆すべきものがあり、素直で素朴な感じの声質だが芯の強さを感じさせ、独特のクセがある歌い方は感情表現として非常に優れている。

冒頭①は真っ直ぐな歌声で伝える前向きなメッセージが心を勇気づけてくれるフォークロックの名曲。力強いが押し付けがましい感じではなく、日常の小さな幸せを見つけるような等身大の表現に元気を貰える。続く②も柔らかなサウンドが光るフォークロックで、変わらない日常のちょっとしたウキウキ感を弾けるリズムで心地良く聴かせてくれる。③は「Television」の『marquee moon』をオマージュしたと思われるギターリフが印象的で、まったりとした雰囲気の中で、自分にとって大切なものを美しく歌い上げている。⑦は昭和歌謡のような歌メロやグループサウンズを思わせるガレージサウンドがレトロな気分に浸らせてくれる。⑪はアコースティックギターの音色やのびのびとした歌声が清々しさを運んでくれて、心がふっと軽くなったような開放的な気分になれる。⑫は日々の鬱憤をロックで昇華したエネルギー溢れる旋律がダイレクトに心に響く。ラスト⑬はアコースティックギターの弾き語り曲で、切々とした歌声が生み出すシリアスな空気感に圧倒される。シンプルがゆえにカネコアヤノの存在感がより強く感じられる1曲となっている。

アルバム全体を通して、聴き手に良い音楽を届けたいという真摯な思いが伝わってくる。何気ない日常の大切をそっと教えてくれる、温かさに満ちた1枚だ。

秘密のナイフ|Phew

1995/9/1 Creative Man Disc

1. わたしときみのわかれめ
2. おそい春
3. 秘密のナイフ
4. 急がなければ
5. 花がきれいなわけ
6. おわりのあと
7. みえない道
8. ひとのにせもの
9. きれいな日
10. いつか
11. きょうの名残り

パンク/ニューウェイヴ全盛の1979年にバンド「アーント・サリー」で活動を開始し、長年に渡り日本のアンダーグラウンドで孤高の存在感を示し続ける女性アーティスト「Phew」の1995年リリースのアルバム。近藤達郎、西村雄介、山本久土、植村昌弘などの凄腕ミュージシャン達と作り上げた世界観は唯一無二のもので、ゲストとして大友良英も参加している。 Phewは前衛的で難解な音楽というイメージもあるが、本作ではその尖った魅力と普遍的なポップネスが上手く融合しており、とても味わい深いアヴァンポップを聴くことができる。

①はドリーミーなサウンドと煌びやかなメロディーの洪水が圧巻で、ファンタジック感溢れる旋律と淡々としながらも温かさを感じる心地良い歌声がエモーショナルに響き渡る。特にギターの音色やドラムのカッコ良さは特筆すべきものがあり、記憶に残る素晴らしい曲である。②はノスタルジックな情感を伝える美しいサウンドがトリップ感を与えてくれる。アルバムタイトル曲③はアヴァンポップの金字塔と言える名曲。サウンドやボーカルが生み出す荘厳な雰囲気に圧倒されるが、Phewの刹那感や儚さを含んだ歌声やポップな歌モノとして優れているメロディーなど秀逸である。
④は意表を突くラップに驚かされるが、アバンギャルドなサウンドと絡み合いカオティックな未体験ゾーンに引き込まれる。⑤は8分以上あるプログレッシブな大曲。幻想的なサウンドと透明感あるボーカルが印象的で、穏やかな前半パートから徐々に盛り上がっていき、終盤はエキサイティングな演奏が炸裂する。⑧はフラストレーションをぶちまけるような、やさぐれた歌声やヘヴィなサウンドがダイナミックに響き、初期衝動を感じる快感が得られる。⑩はプログレッシブに展開されるノスタルジー溢れるサウンドとまさに歌姫と呼びたくなるボーカルがひたすら美しい。

サウンドの完成度は圧巻で非の打ち所がない。よくこれほどの音を構築できたなと溜息が出るほど。メロディーも印象に残る素晴らしいもので、カリスマ性あるボーカルの存在感を最大限に生かした曲の数々は必聴である。1990年代の女性ボーカルアルバムの中でも名盤と言える内容の1枚だ。

夢の崖(ユメノキリギシ)|多加美

1995/4/25  ベル・アンティーク

1. 紫陽花の庭にて
2.  例えば・・・とあなたは言う
3. 冥い森
4. 夢ノ崖
5. 雪の境閾
6.  空の迷宮

1980年代のアンダーグラウンドシーンで2枚アルバムを残した伝説の女性アーティスト「多加美」。本作は1985年にリリースしたセカンドアルバムである。プネウマが作り出すジャーマンプログレやアンビエントのようなシンセサウンドに多加美の『和』と『狂気』を感じさせる暗い情念が渦巻いた歌声が乗るというもの。実験的な作風でありながらも多加美のボーカルが主体の曲も多くあり、幻想的な女性ボーカルものとして超個性的な世界観が味わえる1枚だ。

冒頭①は4分に渡るアンビエントサウンドが展開されて、その後多加美の歌パートが始まるが、その緊張感たるや凄まじいものがあり、一気に陰鬱とした世界に引き込まれる。歌声の緊迫感は凄いが、透明感と美しさがあるので聴きやすい。歌詞はJ・A・シーザーのような日本的な土着性があり狂気を感じるものだ。②はクラウス・シュルツェに通じる万華鏡的な透き通ったシンセサウンドにまるで独白するようなボーカルが同居し、何とも言えない切ない余韻が残る。③は大地の混沌を感じさせる、シンセサウンドの構築が圧巻で、うねるような先悦性ある音にただただ畏怖してしまう。そして孤高の存在感を放つボーカルの凄さも際立っている。④は静かな癒される旋律だが、シンプルな音に囁くようなボイスが絡み合い唯一無二の音響空間を作り上げている。⑥は14分に渡るプログレッシヴな大作。静から動へドラマチックに展開され、多加美の儚い歌声とジャーマンプログレや民族音楽など多種多様な音楽要素がカオスを生み出す。とにかく他に類を見ないほど独創的で神々の領域に踏み込んでしまった感すらある。

巫女のようにも聴こえる多加美の歌声はカリスマ性があり、そのボーカルの魅力を最大限に生かす前衛的なサウンドは圧巻の一言。多加美の声自体も音の素材のひとつとして捉えたような音響構築がとにかく凄い。

きみわずらい|まねきケチャ

2018/4/18 日本コロムビア

1. きみわずらい
2. タイムマシン
3. 青息吐息
4. ありきたりな言葉で
5. 奇跡
6. キミに届け
7. 僕が僕を
8. カクカクシカジカ
9. 一刀両断
10. 妄想日記
11. キミが笑えば
12. SEVENTH HEAVEN
13. 冗談じゃないね

日本ツインテール協会のプロデュースで2015年に結成されたアイドルグループ「まねきケチャ」の1stアルバム。日本ツインテール協会が手掛けたということもあってメンバーの美少女ぶりに注目が集まったが、本作にも収録の『きみわずらい』が2010年代のアイドルポップを代表する曲のひとつとなり音楽的にも高評価を獲得した。作曲・編曲はアニメやゲームの楽曲を数多く手掛ける音楽制作集団Elements Gardenが担当しており、直球のエモロックから王道アイドル曲まで、真っ直ぐと心に響く良質なアイドルポップが楽しめる1枚。

注目は藤永龍太郎が作曲・編曲を手掛けている①~④で、ストレートな作風ながらもよく作り込んであり、メロディーの良さや音作りなどその卓越したセンスが味わえる楽曲は聴きごたえたっぷり。前述のアイドル史上に残る名曲①は、ストリングスやギターの音色などシンフォニックなサウンドアレンジや大きなうねりを生み出すメロディーラインは記憶に残る旋律で、未完成な魅力に溢れるボーカルとドラマチックなサウンドの絶妙な調和が素晴らしい。②はストレートな青春エモロックで、切ないメロディーを歌い上げる飾らない歌声が印象的。
③はsupercellにも通じるスタイリシュなギターロックで、青春の葛藤をロックで昇華した熱いビートが高揚感を与えてくれる。メンバーのハーモニーも美しさを感じるもので、優れたアイドルロックだ。④はアイドルらしい清涼感あるセンチメンタルな情感が胸に刺さる。他にはチャーミングな魅力がある⑤、ピコピコしたテクノポップ⑧、はっちゃけたアゲアゲな⑬など底抜けな明るさに元気を貰える曲もあり、アイドルポップとしては申し分ない内容である。

①の存在感はやはり別格で、まねきケチャのイメージにもあっている。シリアスで切ないキラーチューンが連発される前半と元気なアイドルロックを聴かせる後半まで、気持ち良く聴けるアルバムである。

Chilli Beans.|Chilli Beans.

2022/7/13 A.S.A.B

1. School
2. lemonade
3. It’s ME
4. This Way
5. neck
6. アンドロン
7. マイボーイ
8. L.I.B
9. Tremolo
10. HAPPY END
11. blue berry
12. Vacance
13. シェキララ
14. call my name

YUIやVaundyを輩出した『音楽塾ヴォイス』の生徒だったMoto、Maika、Lilyの3人で2019年に結成されたガールズバンド「Chilli Beans.」の1stフルアルバム。レトロな感覚のガレージロックから現代風のエレクトロポップまで幅広い洗練された楽曲とMotoのクールだが静かな熱を感じるボーカルなど、アメリカのガールズバンドHaimにも通じるスタイリシュな踊れるガールズポップがふんだんに楽しめる1枚。

まず注目はVaundyとの共作で話題になった②と⑥である。②はChilli Beans.のブレイク曲となったキラーチューンで、シンプルなロックビートと抜群のポップネスが、耳にスッと入り馴染んでくる。メロディ―センスや楽曲の良さを最大限に引き出すボーカルなどJ-POPだけではなく洋楽エッセンスを上手く吸収した旋律を聴かせてくれる。⑥はシンプルだがダイナミックなサウンド&メロディーが大きなうねりを生み出す良質なガールズポップのお手本のような佳曲。他にも気だるい日常を突き抜けようとするようなレトロな感覚の青春ロック①、やさぐれ感とオシャレ感が同居するボーカルとギターリフが印象的な③、飾らない魅力が溢れる小気味よい⑦、Chilli Beans.流のシティポップという感じの⑨、メロディーセンスが光る、チャーミングで爽快感がある⑩など良い曲揃い。

いわゆるルーズな部分が魅力となるガールズバンドも多いが、フレッシュな雰囲気を持ちながらも熟練を感じるほどの完成度の高い音楽性は素晴らしいの一言。無駄を削ぎ落としたシンプルなサウンドが、メロディーの良さとボーカルの声質と上手くマッチしている傑作アルバムである。

呼吸が止まる前に|swancry

2023/6/28

1. 花
2. snowdome
3. 深海から
4. ambivalence
5. Re:spiration

「swancry」は2022年に始動したボーカルhikageによるソロプロジェクト。本作は2枚目となるEPである。以前はアイドルグループ(ゆくえしれずつれづれ)で活動しており、その頃からの持ち味である個性的な激情ボーカルが更に進化。Envyにも通じる、激情系ハードコア、エモ、ポストロックなどを基調としたラフなインディーロックで、可憐で繊細な歌声のパートから感情を一気に爆発させる激情ボーカルパートなど、起伏のあるドラマチックな曲が楽しめる。

冒頭①からメランコリックで内省的な歌と感情を吐き出す全身全霊の叫びが胸を突き刺すように響く。静と動のコントラストは鮮やかで、hikage自身による歌詞の言葉選びも印象に残るもので優れている。②は囁くような歌声と幻想的でメロウなサウンドが印象的。③は透明感あるボーカルが歌うポエトリーリーディングのような意味深な言葉と轟音ギターの浮遊感に飲み込まれる。シューゲイザー+ポエトリーという感じの質感は新鮮な魅力があり、歌声はキュートだが同時に繊細で美しくもある。⑤は軽快なビートに乗った可愛らしくも切ない歌声と激情シャウトがダイレクトに心に伝わる。女性らしい柔らかさがあるキャッチ―な旋律なので、理屈抜きに感情が突き動かされ、気持ちの良い高揚感が得られる。

女性ボーカルでこれだけ激しくシャウトするスタイルは珍しいのでそれだけでも貴重と言えるが、非常に個性的な魅力があり、女性ボーカルのインディーロックとして優れた独創的な世界観がじっくりと味わえる1枚となっている。

グラス・チューブ+シングル|After Dinner

2005/4/22 Arcangelo

ディスク1

1. セピア・チュール1
2. 加速度のエチュード
3. ソニャドール
4. おじょうさんとシャベル
5. 砂漠
6. グラス・チューブ
7. デザート
8. セピア・チュール2
9. 髪モビールの部屋(ボーナス・トラック)

ディスク2

1. アフター・ディナー
2. 夜明けのシンバル

1981年にHACOを中心に結成された音楽ユニット「After Dinner」。本作は1984年の1stアルバムとデビューシングルをリマスタリング音源で復刻したものである。ニューウェイヴ、電子音楽、民族音楽など様々な要素を組み合わせてプログレッシブに展開されるアヴァンポップはガラス細工のような繊細さと美しさを持つ唯一無二の音響芸術だ。

ディスク1は1stアルバム『グラス・チューブ』が収録されている。①は音楽楽団のような演奏で絵本のような幻想的な世界観をHACOが可愛らしく歌い上げる。みんなのうたのような親しみやすさもある一方で、奇妙な違和感というか異世界に連れていかれるような怖さがある。
⑧は①のパート2で、同じ旋律だがこちらはアヴァンギャルドなサウンドが牙を剥いており、狂気を感じるねじれ具合が圧巻である。②は早すぎたエレクトロニカと言ってしまいたくなるような先悦性がある。美しい歌声と実験的でアンビエントなサウンドの組み合わせは知的で刺激的なものだ。③は童謡のような可愛らしい歌と現代音楽のようなサウンドのミスマッチ感が楽しい。④はバイノーラル録音による実験的な立体音響が前衛的で面白い。アルバムタイトル曲⑥は本作の中でも特にドラマチックな曲展開や叙情的なメロディーが光る名曲。繊細なボーカルや細部にまで拘ったサウンドも凄いが、これだけ実験的な方向性であるのにシンフォニックな曲として優れているのが素晴らしい。

ディスク2はデビューシングルが収録されており、異国情緒溢れる前衛ポップ①は即興的な演奏の音響と荘厳なメロディー&ボーカルがひたすら美しい。②はミュージカルや演劇風の歌モノで、After Dinnerの中でも聴きやすい曲だがやはり個性的である。

挑戦的なサウンド構築は圧巻の出来で、一言で表せばまさに音の万華鏡。実験的でありながらもキャッチ―さも忘れないポップセンスやHACOの儚い歌声など、まさにアヴァンポップの最高峰と言える内容である。1980年代のアンダーグラウンドが生んだ奇跡のようなアルバムだ。

うたかたの日々|Mariah

2017/7/19 日本コロムビア

1. そこから……
2. 視線
3. 花が咲いたら
4. 不自由な鼠
5. 空に舞うまぼろし
6. 心臓の扉
7. 少年

サクソフォーン奏者の清水靖晃を中心に1979年に結成されたロックバンド「Mariah」(マライア)。本作は1983年にリリースされたラストアルバムである。ジャズ/フュージョン、ワールドミュージック、ニューウェイヴなど様々な音楽要素が刺激的に絡み合う実験的な作風で、エスニックかつメロディアスな旋律がプログレッシブに展開される。女性ボーカルはアルメニア人のジュリー・フォーウェルが担当。近年、海外でもレアな和モノとして高く評価されており、無国籍感漂う女性ボーカル音楽として非常に優れた内容の1枚である。

冒頭①は力強いパーカションの音色とエスニックなメロディーが壮大に鳴り響く。民族音楽的なリズムと語りのようなボイスが、ここではないどこかへと連れていってくれる。②はスティーヴライヒを思わせる現代音楽的な美しいサウンドと即興のように聴こえるポエトリーなボーカルが独創的な空間を生み出す。④は反復するリズムとスペーシーなサウンドがトリップ感を与えてくれる。ジャーマンプログレやニューウェイヴを取り込み、幾何学的にも聴こえるリズムなどとにかく個性的。⑥はオリエンタルな雰囲気と独自の浮遊感が堪らない名曲。エスニックなファンクという感じだが、無国籍感溢れるボーカルの独自の歌い回しなど中毒性がある。⑦は④同様にミニマルなビートとスペーシーなサウンドに引き込まれ、まるで呪文のようなボーカルが別次元に誘うようである。

多種多様な音楽ジャンルを複合させているが、それを上手く消化しマライア独自の個性として表現できている類まれな内容である。日本人離れしたセンスがありながらも、同時に強く『和』を感じさせる部分もある。1980年代邦楽の中でも必聴の名盤である。

第一歌曲集|招き猫カゲキ団

2010/8/25 SUPER FUJI DISCS

1. 人形
2. 砂漠のマリアンヌ
3. 森のおくりもの
4. 幻夜

日本を代表するガールズバンドであった「ZELDA」のボーカル高橋佐代子とベース小嶋さちほの音楽ユニット「招き猫カゲキ団」。本作は1984年にインディーズレーベルのテレグラフからリリースされた唯一となる音源作品の再発盤である。当時なんと1万枚のセールスを達成したというインディーシーンの大ヒット作品で、本家ZELDAとは一味違う箱庭的で演劇チックな幻想音楽が楽しめる。

①は音数の少ないシンプルな演奏で、虚空に響くような透明感ある歌声が美しい。演劇のようでもあり、ねじれたファンタジック歌謡という感じの独特の世界観に引き込まれる。②は民族音楽的なパーカションと天真爛漫なボーカルに無国籍感があり、歌詞のセンスも面白い。③はみんなのうたや童謡のような可愛らしい歌モノだが、得体の知れない怖さを感じさせるところは、まさにアンダーグラウンドミュージックである。④は叙情的なメロディーと美しい歌唱にうっとりするバラードで、夜に響く孤高の歌というに相応しい。

音楽性自体にはさほど難解さはなく美しいメロディー&透明感あるボーカルがたっぷり堪能できるが、少しズレている感覚というか異質な個性が随所に感じられ、1980年代のインディーズならではの独創的な内容となっている。 

PAGE TOP