女性ボーカルバンド/ユニット(2000年代~2010年代~2020年代)

THE PARK|赤い公園 

2020/4/15 ERJ

1. Mutant
2. 紺に花
3. ジャンキー
4. 絶対零度
5. Unite
6. ソナチネ
7. chiffon girl feat.Pecori
8. 夜の公園
9. 曙
10. KILT OF MANTRA
11. yumeutsutsu

本作は4人組のガールズバンド「赤い公園」がボーカルの佐藤千明が脱退後、新ボーカルにアイドルグループ「アイドルネッサンス」のメンバーであった石野理子が加入しリリースしたフルアルバム。ソングライターであったギターの津野米咲死去により本作がラストアルバムとなった。

オルタナティブロックを基調としたポップロックで、オシャレに聴かせる曲もあってシティポップ要素も感じられるのがポイント。津野米咲の才気溢れる作曲センスと綿密に組み立てられたサウンドは圧巻の一言である。

爽快感がクセになる①は津野米咲節炸裂の凄まじくカッコいいロックナンバー。ずっしりとしたバンドサウンドにフックのあるメロディーは高揚感を与えてくれて、石野理子のパワフルだが耳あたりが良いボーカルも味わい深く、文句なしの名曲であるといえるだろう。
②は疾走感あるロックで、どこか和風を感じさせるメロディーが良い。④はアニメにタイアップされたキャッチーな曲で、新体制となった赤い公園の名刺代わりの1曲だ。
⑧はミドルテンポのエモロックで、サウンドメイキングも優秀だが、歌モノとしても素晴らしい曲。⑪はドラムが激しい熱くなれるハードなロックナンバー。

抜群のメロディーセンスに加えて、サウンドの作りこみが半端ではなく、津野米咲の才能爆発の内容である。2020年代のガールズロックを代表する名盤である。

若者たちへ|羊文学 

2018/7/25  felicity

1. エンディング
2. 天国
3. 絵日記
4. 夏のよう
5. ドラマ
6. RED
7. Step
8. コーリング
9. 涙の行方
10. 若者たち
11. 天気予報
12. 天使たちの会話

3人組のオルタナティブロックバンド「羊文学」の1stフルアルバム。鳴り響く轟音ギターと作詞・作曲を手掛ける塩塚モエカの透明感ある繊細なボーカルは心地良くすっと耳に入ってくる。ナンバーガールやスーパーカーからの影響も感じさせ、きのこ帝国の流れをくむ女性ボーカルギターロックである。

①は冒頭にも関わらず『エンディング』という曲名がユニークで、静から動へとエモーショナルに展開する幽玄な雰囲気のナンバー。
②はキャッチーなフレーズがシンガロングできそうなチャーミングさも感じる曲で、終盤の歪んだギターの音色がとても良い。
③はストレートな青春ロックで、情景が浮かぶような歌詞が記憶に残る。④は夏の気怠い空気が見事に表現されている素晴らしい曲。
⑥は歌声に熱量がある切なさ爆発のやるせないナンバー。⑦は軽快なギターポップっぽい曲調だが、非常にナイーブな印象を残す。
⑪はメロウなサウンド&メロディーが耳にすんなりと馴染んできて、何とも言えない儚い余韻を残す名曲。

轟音ギターサウンドはやかましい印象は受けず、繊細な歌声と絶妙に絡みあい癒しを与えてくれるようなみ耳触りの良さがある。敷居が低いというかなんとなく聴き始めてもすんなりと全曲聴き終えてしまえるような魅力がある傑作アルバムだ。

New Young City|For Tracy Hyde 

2019/9/4 Pヴァイン・レコード

1. Opening Logo (Photo High Inc.)
2. 繋ぐ日の青
3. ハル、ヨル、メグル。
4. 麦の海に沈む果実
5. ラブイズブルー
6. ハッピーアイスクリーム
7. 君にして春を想う
8. Hope
9. Grow With Me
10. ライトリーク
11. 曖昧で美しい僕たちの王国
12. Girl’s Searchlight
13. Can Little Birds Remember?
14. 水と眠る
15. 櫻の園
16. Glow With Me

ラブリーサマーちゃんがボーカルとして在籍していた時期もあることで知られるシューゲイザー/ドリームポップバンド「For Tracy Hyde」。本作はボーカルeureka加入後の3枚目となるフルアルバム。サウンドはラフなインディーロックではあるが、J-POP的な歌メロを大切にしており、eurekaのキュートな歌声を生かしたドリーミーなポップロックである。
Nav Katze、SUPERCAR、きのこ帝国などの日本産ギターバンドの流れを受け継いでいるような楽曲は懐かしさも覚えるし、渋谷系やアニソンからの影響もあり。
バンドの中心メンバーである夏bot(管梓)は、自身のもうひとつのバンド「エイプリルブルー」でも活動し、アイドルグループの「・・・・・・・・・」や「RAY」に楽曲提供するなど才能を発揮している。

これまでの作品よりも歌メロがキャッチ―になり聴きやすくなった印象で、乙女チックでロマンティックなドリームポップ②は本作のリードトラックとなる名曲。煌めく音とキュートな歌は清涼感に満ちており、青春の輝きや葛藤に胸がキュンとなる。同路線の傑作⑫と並んで映像作品にタイアップできそうなほどキャッチ―で鮮烈な印象を残す曲である。⑫はドリーミーなサウンドとJ-POPを理想的なバランスで組み合わせており、揺らぐ音と爽やかな歌が耳を捉えて離さない。
③は煌びやかなサウンドの音色が素晴らしくて、⑦のような可愛らしい歌モノも良い。
他にもしっとりしたと感傷に浸れる⑩、男女ツインボーカルのシューゲイザーのキラーチューン⑬、センチメンタルな叙情性の洪水にグッとくる⑮など音楽的な懐は深い。

こういったオルタナティブロックサウンドと可愛い女性ボーカルの組み合わせはある意味日本独自の文化といえるだろう。サウンド、ボーカル共に満足感が高い充実した内容である。

eureka|きのこ帝国 

2013/2/6 DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

1. 夜鷹
2. 平行世界
3. 春と修羅
4. 国道スロープ
5. ユーリカ
6. 風化する教室
7. Another Word
8. ミュージシャン
9. 明日にはすべてが終わるとして

女優として活動していた佐藤千亜妃が2007年に大学の同級生と結成したロックバンド「きのこ帝国」のインディーズ時代にリリースされたフルアルバム。

バンド名の名付け親はなんと「ゆらゆら帝国」とのこと。ナンバーガールからの影響も感じるオルタナティブロックサウンドを基調としており、歪んだギターと佐藤千亜妃の透き通った声質の幽玄なボーカルが別世界へといざなってくれるシューゲイザー/ドリームポップである。

①はTHA BLUE HERBやShing02などのヒップホップ勢からの影響を感じさせる意表を突くポエトリーリーディング調の轟音ロックで、佐藤千亜妃のクールなボーカルが良い味を出している。
②は別世界に連れていってくれるような緩やかな轟音ギターロック。③はヒリヒリとしたやさぐれ感を上手くキャッチーにまとめおり、ダイレクトに響くロックンロールである。④はやり場のない感情を吐き出すようなエネルギーに圧倒される。
⑤は美しい轟音ギターと壮厳なボーカルのシューゲイザー/ドリームポップの金字塔と言っていい名曲で、光が降り注ぐような神々しいまでの質感は日本人離れしており驚かされる。
⑧はスローでエモーショナルなオルタナティブロックバラードで、切なさの洪水に心揺らされる。

その後メジャーデビューしブレイクするきのこ帝国だが、この盤含めインディーズ時代の作品にはヒリヒリとした焦燥感が満ちており得体の知れないパワーが渦巻いている。この後に登場した女性ボーカルバンドへも絶大に影響を与えている希有な1枚だ。

Still Dreaming, Still Deafening|揺らぎ 

2018/8/8 FLAKE SOUNDS

1. B/C
2. Horizon
3. Utopia
4. Bedside
5. Unreachable
6. Path of the Moonlit Night

滋賀県出身の4人組のシューゲイザーバンド「揺らぎ」の2018年リリースのミニアルバム。

My Bloody ValentineとAsobi Seksuを掛け合わせたような重厚な轟音と美しい女性ボーカルは幻想的なトリップ感を与えてくれる。
日本の女性ボーカルシューゲイズの中でも洗練されたサウンドの完成度や力強さは群を抜いており、代表的なバンドといえるだろう。特に④は圧倒的な轟音に飲み込まれる、シューゲイザーの名曲というに文句なしの出来で、バンド名通り轟音ギターの揺らぎと美しいメロディー、ボーカルが心地良い浮遊感に浸らせてくれる。③も同路線の傑作で、④と並んでアルバムの中核をなすナンバーだ。ラストを飾る⑥は10分越えの大曲となっており、静から動へとドラマチックな曲展開を見せる圧巻の曲である。

ギターロックとしてこれ以上ないほどのサウンドの完成度を誇っており、日本を代表するシューゲイザーアルバムといえるだろう。

Evergreen|Moon In June 

2022/7/20  DREAMWAVES RECORDS

1. hikari
2. Summer Pop’97
3. Lovesong
4. ミストラル
5. Tremolo Mind
6. Noise Reduction

2018年に東京で結成されたシューゲイザー/ドリームポップバンド「Moon In June」の2枚目となるEP。
2010年代後半はFor Tracy Hydeや17歳とベルリンの壁など女性ボーカルのシューゲイザー系インディーロックは良質なバンドが多くあり、Moon In Juneも素晴らしいバンドのひとつだ。Pains Of Being Pure At HeartやAlvvaysのような海外のシューゲイザー/ドリームポップからの影響もあるが、メロディーや透明感のあるボーカルはSUPERCARやadvantage Lucyなどの日本のギターポップ/ロックに通じるものがあり、それらが好きなら文句なしにおすすめできるバンドだ。

まず注目はリードトラックとなる②で、清涼感のある歌声や煌びやかなメロディーがノスタルジックに心の奥を刺激する名曲。ギターポップっぽい柔らかさがあるサウンドや爽やかな雰囲気は耳に馴染みやすく、聴き手にしっかりと青春の儚さやイノセンスを伝えてくれる。
①は轟音ギターに透明感あるボーカルという王道的な安心感があるシューゲイズなギターロック。タイトル通り光が差し込むような前向きな気持ちを届けてくれる。④は叙情的なセンスが光る切なさ全開のエモロック。ノスタルジーにどっぷりと浸れる秀逸な曲である。⑤はまったりとした曲調などアンニュイなムードが耳に心地良く響き、メランコリーな雰囲気に気持ち良く浸れる。⑥は唸りをあげる轟音ギターとメロディックなビートが爽快感を与えてくれる。女性ボーカルの利点を生かした絶妙なポップセンスはMoon In Juneの強みと言えるだろう。

インディーバンドらしいラフなサウンドが魅力で、Mihoのボーカルも含め飾らない自然体の魅力が楽曲から感じられてとても良い。どの楽曲もポップセンスの良さは特筆するべきものがあり、良質なインディーロックを体現したような爽快感ある曲が楽しめる傑作EPだ。

Blue Peter|エイプリルブルー 

2019/12/4 Pヴァイン・レコード

1. Intro
2. エイプリルブルー
3. スターライト
4. ベイビーブルー
5. 朝
6. サンデー
7. 運命の人
8. イノセンス
9. 花とか猫とか
10. ミルキーウェイの岸辺から

For Tracy Hydeの管梓 (夏bot)を中心としたバンド「エイプリルブルー」の1stフルアルバム。For Tracy Hydeと同様にシューゲイザーとJ-POPを融合させたような作風で、ボーカルを務める船底春希の透明感ある歌声を生かした繊細で真っ直ぐと心に響く曲は、ポップミュージックとして完成度が高い。

イントロのギターだけでいい曲だと分かる②は、メロディアスなギターとの切ない歌声が見事に調和している名曲。メロディーはもちろんのこと、サウンドの音色が鮮やかで素晴らしいので、何度も聴きたくなる魅力がある。
他にも③や⑧など疾走する煌びやかなサウンド&メロディーの美しいギターロック曲の出来がとにかく良い。シューゲイザーとポップな歌メロを上手く組み合わせている。なんというか女性ボーカルオタク的にもこういうのが聴きたかったよというストライクな感じがある。特に⑧はタイトル通り光が差し込むようなイノセンスを揺らぐ音響の中で感じることができて秀逸。④や⑦はしっとりと感傷に浸らせてくれる曲で、まったりとした曲調なのでじっくりと船底春希の儚い歌声やメロディーの美しさを楽しむことができる。⑨は轟音ギターとJ-POPが理想的なバランス感覚で成立しており素晴らしい。

シューゲイザーというある意味マニアックなロックサウンドではあるが、単純に歌モノとしても優れており、幅広い層にアピールできる可能性を秘めていると言える。歌声、楽曲共にこれ以上ないほどの出来であり、聴くたびに新鮮な発見がある傑作アルバムである。

ALL SHIMMER IN A DAY| My Lucky Day 

2021/3/3  TESTCARD RECORDS

1. March
2. Young and Lost
3. Bootleg
4. Sunny day Highway
5. ameagari
6. no title
7. Farewell summer
8. Tully

熊本で2018年に結成されたシューゲイザーバンド「My Lucky Day」の1stフルアルバム。
サウンドはシューゲイザー基調だが、歌メロがキャッチ―でボーカルや音の輪郭もはっきりとしており、メリハリのあるギターポップ/ロックである。SUPERCARやadvantage Lucyといった1990年代後半のギターバンドからの流れを感じさせ、ただのインディーロックに終わらない大衆性も獲得できそうな楽曲が魅力的だ。

本作収録の①のMVを観たときはあまりのイノセンス溢れる旋律に胸が高鳴った。文句なしの名曲だと思う。疾走感ある王道ギターロックで、特筆すべきは透明感と清潔感のある歌声の良さ、クセがなく真っ直ぐ響くボーカルは青春ロックにぴったりだ。青春時代の瞬間的煌めきが切ない③は、キラキラしたジャングリーなギターと音楽好きなら共感できそうな歌詞や煌びやかなメロディーが心に潤いを与えてくれる。
④はネオアコライクな柔らかいサウンドとポップスとして優れている美しいメロディーが清涼感に溢れており、クセがない爽やかなボーカルも楽曲の良さを最大限に引き出しており良い。⑤は青春の切ない情景が胸に響くエモロック。⑥は③と同タイプの青い儚さが炭酸水のように胸に広がるキラーチューン。

サウンドには良い意味でインディーズバンド的な荒削りな部分もあり、ポップセンス溢れる良質な楽曲と綺麗な歌声は素晴らしい。爽快感のある青春ギターポップ/ロックはキラキラした魅力に満ちており、胸がキュンとすること間違いなしの好盤だ。

ex Negoto|ねごと 

2011/7/13 KRE

1. サイダーの海
2. ループ
3. カロン
4. ビーサイド
5. メルシールー
6. ふわりのこと
7. 七夕
8. week…end
9. 季節
10. AO
11. 揺れる
12. インストゥルメンタル

本作は4人組のガールズバンド「ねごと」の1stフルアルバムである。Base Ball Bearなど日本産ギターロックバンドからの影響も感じさせ、オルタナティブロック、シューゲイザー、エレクトロポップなど様々音楽を取り込んだガールズロックは儚く響く。幻想的な世界観と、それを盛り上げる蒼山幸子のパワフルに歌い上げるボーカルとシンセの音色が魅力のひとつのポイント。

冒頭①からねごとの独自の世界に引き込まれる。女性らしい柔らかいメロディーセンスが素晴らしい。続く②も煌びやかなサウンドとキャッチーなリズムで高揚感が得られる。
アニメにタイアップされて、ねごとがブレイクした③は、独自の浮遊感とうねるような伸びのあるメロディーがクセになる曲で、2010年代ガールズバンドの楽曲の中でも名曲といえるだろう。
⑤も浮遊感とメロディアスな疾走感が気持ち良い曲だ。優しさと癒しを与える⑥のようなミディアムバラード調の歌モノもとても良い曲である。

優等生的な感じは好き嫌いが分かれそうだが、良質なガールズポップロックのお手本のような作品で、楽曲はサウンド、メロディーともに非常に完成度が高い。

生命力|チャットモンチー 

2007/10/24 キューンレコード

1. 親知らず
2. Make Up!Make Up!
3. シャングリラ
4. 世界が終わる夜に
5. 手のなるほうへ
6. とび魚のバタフライ
7. 橙
8. 素直
9. 真夜中遊園地
10. 女子たちに明日はない
11. バスロマンス
12. モバイルワールド
13. ミカヅキ

3ピースのガールズバンド「チャットモンチー」のメジャー2枚目となるフルアルバム。オルタナティヴロック系のサウンドのキャッチーな曲に、橋本絵莉子のYUKI(JUDY AND MARY)やTama (Hysteric Blue)を思わせる可愛らしい声質のハイトーンボーカルが力強く、時に切なく響くエモロックだ。

変拍子である5/4拍子を取り込んでいることで有名な③は、音楽シーンでのチャットモンチーのブレイクを決定づけた重要な1曲。リズムの面白さを追求したガールズロックの名曲といえるだろう。
歌詞も非常に重いシリアスなギターロックの④はこのバンドでも異色な曲で、刹那的な情緒を感じるドラマチックな曲である。
⑦はこれぞ青春ロックと言ってしまいたくなる傑作で、切ない歌声とメロディー、オルタナティヴロック系のギターサウンドが心に響く。
心地良い疾走感の⑨はこのアルバムの目玉といえそうな爽快なナンバー。⑩はネガティブな歌詞とは裏腹に憂鬱を吹き飛ばそうとするラフなロックに元気を貰える。

チャットモンチーが大ブレイクを果たした作品で、メジャー感あるずっしりとした音作りとメロディーの充実ぶりが印象に残り、ガールズバンドの名盤というに相応しい出来のアルバムである。

ワールドイズユアーズ|MASS OF THE FERMENTING DREGS  

2009/1/21 Abocado Records

1. このスピードの先へ
2. 青い、濃い、橙色の日
3. かくいうもの
4. She is inside,He is outside
5. なんなん
6. ワールド イズ ユアーズ

兵庫県神戸市‎で結成されたオルタナティヴ・ロックバンド「MASS OF THE FERMENTING DREGS」通称マスドレのセカンドアルバム。
本作は元NUMBER GIRLの中尾憲太郎を共同プロデューサーに迎えて、1stに比べて音の分離が良くなっており、サウンドの輪郭がはっきりとしたダイレクトなギターロックだ。
NUMBER GIRLからの影響も感じさせ、ハードで疾走感のあるオルタナ系ギターロックサウンドに、センチメンタルなメロディーと青春の葛藤を含んだ歌詞、そこに透明感のある真っ直ぐとした宮本菜津子のボーカルが乗り、聴く物の心を揺さぶる。とにかく宮本菜津子の声質が良い、憂いを含みながらも先に進もうとするような力強さを感じる一方で、可愛らしさもあり、ジュブナイル小説の主人公のような情感を伝えてくれる。

冒頭①から『青春ギターロック!』という感じでメロディックに疾走し、印象に残る清涼感あるギターの音色など解放感に満ちている。
②はタイトルからして文系ロックで、叙情的なセンスが光るメロディー、文学的な歌詞や儚い情感を伝える歌声など青臭いセンチメンタルがロックの衝動性と結びついた名曲。女性ボーカルギターロックのキラーチューンなのでぜひ聴いて欲しい逸品。
カオティックな轟音の③は、切れ味鋭いギターリフがカッコよくて、独自の雰囲気と中毒性があるメロディーに引き込まれる。⑤はシューゲイザー風の轟音ギターが奏でるメランコリックな世界観という異色の曲で味わい深い。
ラスト⑥は切ない表情を見せながらも前に進もうとする姿勢に元気が貰えるマスドレらしいナンバー。

6曲という少ない曲数だが捨て曲なし。サウンドもボーカルも聴いていてとにかく気持ちが良い。このバンドの唯一無二の個性がしっかりと聴き手に届く傑作である。

ハイファイ新書|相対性理論 

2009/1/7 みらいrecords

1. テレ東
2. 地獄先生
3. ふしぎデカルト
4. 四角革命
5. 品川ナンバー
6. 学級崩壊
7. さわやか会社員
8. ルネサンス
9. バーモント・キス

前作『シフォン主義』で、衝撃のデビューを果たし、サブカル系女性ボーカルバンドを代表する存在となった「相対性理論」の2枚目となるアルバム。
ニューウェーブやポストロックといったニッチな音楽性を、可愛らしいスタイルで昇華しており、メインソングライター真部脩一の個性的なセンスが光る楽曲とやくしまるえつこの小悪魔っぽいキュートなウィスパーボイスが魅力である。

①はオシャレな雰囲気と魅惑的なボーカルが甘い空間に誘ってくれる。サウンドの音響はポストロック的で、色気のある歌声と不思議な相性の良さを感じる。②は小悪魔的な女子高生という感じの青春ポップ、あざとくも聴こえるが、女性ボーカルものとしての虚構を完璧に構築しており面白い。そして聴いていると胸の奥がモヤモヤして気恥ずかしくなるのがこの曲の真骨頂。③は心霊がテーマの和風テイストの可愛らしい曲で、心がほっこりするリズムが秀逸。
④は相対性理論お得意のSF世界観な曲で、ここでないどこかへ連れていってくれる。一風変わった歌のリズムも印象的で、キュートボイスとポストロックが融合した新感覚のポップロックは耳を捉えて離さない。⑥は面白い曲展開や興味深い内容の歌詞を歌い上げるやくしまるえつこのボーカル技術が光る。
メロディーや言葉選びがキャッチーな⑦は、ガールズポップとしても優秀な名曲。奇妙でありながらもポップミュージックとして強度も兼ね備えており素晴らしい。⑨はやくしまるえつこの声の魅力を最大限引き出したバラード曲。ウィスパーボイスの破壊力が凄まじく、こちらも聴いていると照れてしまってどうしようもなくなる。

洗練されたポストロック系サウンドは洒落たセンスの良さがあり、不思議系女子高生なキャラクターという感じのやくしまるえつこの歌声と絶妙にブレンドされている。ある意味ではアイドルにも通じる虚構を楽しめる刺激的な1枚だ。

ADVANCE GENERATION|TRiDENT 

2021/3/17 ジャパンミュージックシステム

1.Opening -the return of us-
2.JUST FIGHT
3.IMAGINATION
4.RIDE ON
5.SURVIVOR
6.Dystopia
7.Ambivalent
8.Brand New World
9.Continue
10.Supernova
11.Re:ply
12.Last Hope

ガールズバンド「ガールズロックバンド革命」がドラムに新メンバーを迎えて、改名した新バンド「TRiDENT」の1stフルアルバム。

疾走感溢れるメロコア風の曲調であるが、演奏はテクニカルでメタル要素もある。パワフルに歌い上げるASAKAのボーカルもカッコよく、気持ち良い高揚感が得られる曲が魅力的だ。

インストの①に続いて始まる②はこれぞTRiDENTという感じの重厚なサウンドと疾走感が気分を上げてくれる。③はメロディーラインの良さと歌詞のメッセージが際立つ曲、⑦はテクニカルなサウンド、ドラマチックな曲展開、熱量あるボーカルが凄まじくカッコいい。
代表曲といえる⑨はキャッチーなメロディーの爆走ロックで、まさに名刺代わりの1曲。ラスト⑫は1990年代のガールポップを思わせるような曲調は懐かしさもあり新鮮で、何回もリピートしてしまう傑作だ。

とにかく演奏、ボーカルと勢いが凄い内容である。女性ボーカルのロックで熱い感情を感じたい人には文句なしにおすすめできる作品だ。

New Beginning|BAND-MAID 

2015/11/18 Gump Records

1. Thrill
2. FREEZER
3. REAL EXISTENCE
4. Price of Pride
5. Arcadia Girl
6. Don’t apply the brake
7. Beauty and the beast
8. Don’t let me down
9. Shake That!!

メイド衣装でハードロックを基調とした渋いロックをパフォーマンスする異色のガールズバンド「BAND-MAID」の2015年リリースのフルアルバム。
メイド喫茶で働いた経験があるメンバーもいるが、そういった可愛らしい秋葉原文化のイメージとは裏腹に、高い演奏力と圧倒的なパフォーマンスに度肝抜かれる本格派ハードロック/ヘヴィメタルである。楽曲はAC/DCなど海外のハードロックバンドからの影響が強くあり、海外での人気と評価も高い。

リフ主体の重厚なサウンドのクールな①は、BAND-MAIDを代表する名曲で、まさに女子ロック界のAC/DCと言いたくなるほどにカッコいい。ボーカルSAIKIのハスキーな歌声はカリスマ性があり、こういった硬派な音楽性に相性が良い。②はSAIKIと小鳩ミクのツインボーカル曲で、2人の掛け合いと熱いサウンドが気持ち良い高揚感を与えてくれる。
ハードな疾走感に痺れる③は、キャッチ―なフレーズやワイルドな歌声も魅力的。渋い作風ながらも女性バンドならではの柔らかさや可愛らしさを感じるところもありそれが良いアクセントになっている。⑤はポップに弾けるナンバーで、少しアイドルロック風なのがいい味を出している。パワフルな問答無用のビートで押す⑧は、アドレナリン吹き出るキラーチューン。キャッチ―なリズムと爽快な疾走感はダイレクトな快感が得られるもの。
アルバム全編通して浮ついた印象はまったくない硬派なロックンロールの嵐である。

楽曲の完成度、演奏力ともにずば抜けており、クールなSAIKIボーカルも非常に魅力的で耳を惹きつける。とにかく理屈抜きにひたすらカッコよさを追求した素晴らしいガールズロックアルバムだ。

PS2015|ふぇのたす  

2015/3/11 ユニバーサルミュージック

1. 今夜がおわらない
2. ふふふ
3. 女の子入門
4. ファッション戦争
5. サラダになあれ
6. 夜更かしメトロ

2012年に結成された3人組のエレクトロ・ポップユニット「ふぇのたす」のメジャー唯一となる3rdミニアルバム。
ギター・シンセサイザー担当のヤマモトショウが全ての作詞・作曲・編曲を手掛けている。
ボーカルMICOのキュートな歌声を生かしたニューウェイヴ系のエレポップで、曲のタイトルからも分かるようにガーリーでドリーミーな世界観が特徴的。渋谷系のフューチャーポップにも通じるような作風で、メジャーデビュー盤ということもありサウンドは前2作より洗練されており、シンセサイザー主体のキャッチーで爽快なガールズポップが楽しめる。

リードトラックとなる①はふぇのたすを代表するダンスポップ。キャッチーなリズム&メロディーとMICOの可愛らしい夢見る少女のような歌声は中毒性があり、何度もリピートしてしまうエレクトロ・ガール・ポップの名曲。女性ボーカルとテクノポップ好きのツボをピンポイントで突く作風はたまらない魅力がある。
②はボーカルが可愛らしいのはもちろんのこと、歌詞の語感もキュートで、ふんわりとした柔らかい雰囲気に癒される。③は『女の子』をテーマにしたラップとエレクトロサウンドというユニークなナンバー。とにかく可愛さへのこだわりが半端ではない印象だ。
④はレトロなテクノ歌謡風の作風がキュートかつクールでカッコいい。ラスト飾る⑥はギターリフが印象的な切ない余韻が残る良曲。ノスタルジックな世界観は心にさりげない優しさを届けてくれる。

残念ながら本作がラストアルバムとなってしまったが、後にアイドルポップの名曲を多く手掛けるヤマモトショウの楽曲は素晴らしいの一言だ。音楽としてとことんまで可愛さを追求した傑作ミニアルバムである。

pop go the happy tune|Melting Holidays 

2005/9/21 Air Records   

1. Pavement
2. Kiss your shadow
3. Butterfly dance
4. Memories of my love
5. Northern express
6. The first step in new party
7. Ladybug
8. I can fly

2000年代にインディーズで活動していた渋谷系音楽ユニット「Melting Holideays」の3枚目となるアルバム。

元祖渋谷系のピチカート・ファイヴやカヒミカリィからCymbalsなどの影響を感じさせる王道の渋谷系女性ボーカルポップだ。ソフトロックを基調としたオシャレサウンドに上品で清潔感のある女の子ボーカルが同居しており、爽やかな明るい楽曲は元気とハッピーを運んでくれる。

本作で注目したいのはこのグループでは珍しく日本語詩楽曲の①と⑤。①はイントロから胸躍る疾走感のある名曲。光が差し込むようなサウンド&メロディーそして透明感あるキュートなボーカルと三拍子揃ったパーフェクトなオシャレ系の女子ボーカルポップだ。⑤はミドルテンポのノスタルジックで切ないナンバーで、しっとりとした気分に浸らせてくれる。他にも清涼感ある②や洒落たボサノヴァの③など良い曲が多く充実した内容である。

楽曲の完成度は非常に高く、ほぼ理想的なイメージの渋谷系ポップなので、聴き手の期待を裏切らない1枚だ。

タイガー・リリィ|CECIL 

2004/3/24  ‎ UKプロジェクト

1. うらら
2. プラバルーン
3. 永遠と一日
4. 待ち合わせ

CECIL(セシル)は、元the REDSの中心人物であった大平太一がプロデュースした音楽グループで、本作はCECILとして最後の作品となった春がテーマのミニアルバム。大平太一が作るノスタルジックな楽曲に、セラニポージのボーカルも務めたゆきちのキュートなウィスパーボイスが見事にマッチングしており、非常に良質な渋谷系ポップロックである。

①はアコースティックサウンドと爽やかなメロディー、ゆきちが可愛らしい声で歌う春の情景に心が癒される名曲。曲構成としてはシンプルだが、誰が聴いても伝わる日本的な情緒は、音楽表現として優れており素晴らしい。
②は乙女チックなギターポップナンバーで、聴いていると少し気恥ずかしくなってくるが、可愛らしい青春ポップの傑作である。
③は力強さと切なさが同居するナンバー。伝わってくる芯の強さが聴き手に元気を与えてくれる。
④は遊び心がある楽曲で、おもちゃ箱をひっくり返したような雑多なサウンドがひたすら楽しい。

曲数は4曲と少ないがどれも粒ぞろいで、CECILの到達点といえる完成度の高い楽曲が味わえる1枚となっている。

That’s Entertainment|Cymbals 

2000/1/21 ビクターエンタテインメント

1. Show Business
2. What A Shiny Day
3. So You Want To Be A ROCK’N’ROLL STAR #4
4. Rain Song
5. So What?
6. So You Want To Be A ROCK’N’ROLL STAR #5
7. RALLY
8. Air Guitar
9. ANSWER SONG(alternate mix)
10. Mach 0.8~亜音速による移動~
11. So You Want To Be A ROCK’N’ROLL STAR #6
12. My Brave Face
13. Muzak Cycle
14. What’s Entertainment?

Cymbals(シンバルズ)は1997年から2003年まで活動していた3人組のバンドで、本作は2000年にリリースされた1stフルアルバムである。

後に作曲家としてアイドルポップなどを多く手掛けている沖井礼二のオシャレでポップな楽曲に土岐麻子のキュートなボーカルの渋谷系ポップは、サブカルに留まらない大衆性も獲得できそうな優れたポップロックであった。

冒頭①からこれぞ渋谷系という曲調であるが、目まぐるしいバンドサウンドはアグレッシブで、それまでの渋谷系バンドとは違う個性がある。②はキャッチーなリズムの胸躍るポップナンバー。
代表曲のひとつ⑦はこのバンドのコンセプトである「かわいくっていじわるな感じのバンド。ただしパンク」というキャッチーコピーのすべてが詰まった会心の傑作。可愛らしい女性ボーカル好きならほとんどの人に刺さりそうなJ-POP史上に残る名曲である。
⑧はネオアコな午後という感じのリラックスできる洒落たポップナンバー。⑫は清涼感溢れる爽快な気分を運んでくれる青春の名曲。

全編パワフルなロックサウンドとキュートな女性ボーカルが楽しめる贅沢な1枚といえる。後の女性アーティストに与えた影響もかなりあると思われる傑作アルバムだ。

APRIL|ROUND TABLE featuring Nino  


2003/4/23 ビクターエンタテインメント

1. Let Me Be With You
2. Dancin’ All Night
3. Beautiful
4. New World
5. Day by Day
6. Birthday
7. Book End Bossa
8. Where Is Love
9. Today
10. In April
11. Love Me Baby
12. Let Me Be With You (new step mix) (bonus track)

1993年に北川勝利を中心に結成された音楽ユニット「ROUND TABLE」が2002年から女性シンガーNinoをフューチャーして活動を開始し、本作はその名義での1stフルアルバムである。

音楽的には渋谷系のグループであるが、ゲストボーカルにNinoを迎えたこの名義では、アニメソングのタイアップを中心に楽曲を発表しており、ギターポップやソフトロックを基調としたオシャレな女性ボーカルポップは、元祖アキシブ系としても評価されている。

冒頭①はアニメにタイアップされてROUND TABLE featuring Ninoの名を世間に知らしめた名曲である。Ninoのキュートなボーカルやコーラスと洒落たサウンドは爽やかな風のように耳にスッと入ってくる。
②はファンキーなダンスポップナンバーで、職人芸のような高揚感が得られる旋律は文句なしの完成度で必聴だ。③は抜群のポップセンスに驚かされる可愛らしい曲。
④は力強いロックナンバーで、オルタナティブロック色の強い作風。
⑥はキラキラしたエレクトロポップナンバー。⑩は普遍的なポップネスを感じる傑作で、本作の目玉トラックといえるだろう。

とにかく北川勝利による楽曲が良く、抜群の才能を感じるポップセンスが随所に散りばめられている。渋谷系やアニメソングという枠だけではなく、良質なポップアルバムとして誰もが楽しめる内容だ。

Fennec!|SWINGING POPSICLE 

2000/1/26 ‎ ソニー・ミュージックレコーズ

1. 赤い光
2. something new
3. Rainyday&Sunshine
4. サテツの塔
5. あるべきかたち
6. my superstar
7. クラリネット
8. 冬休みにつき~いつか来る岐路に立ってすぐ飛ばされぬ様に
9. ROCK SHOW
10. シューゲイザー
11. 満月
12. TOURS DE FRANCE
13. remember

渋谷系スリーピースバンド「SWINGING POPSICLE」が2000年にリリースした2ndアルバム。同時期のAdvantage Lucyなどと共にオシャレなギターポップサウンドとJ-POP的な「歌」を交差させた楽曲で、1990年代後半~2000年代前半の渋谷系音楽界隈の女性ボーカルバンドものとしては人気の1枚である。

1stアルバムでは王道的なオシャレな渋谷系ポップを聴かせてくれたが、本作では輪郭がはっきりとした抜けが良いギターロックサウンドに、しっとりと歌い上げるボーカル、苦悩と向かいあった歌詞など味わい深い進化が見られる。

アコースティックギターが心地良い、切なさと力強さが同居するボーカルが印象的な①は、SWINGING POPSICLEの魅力が詰まった名刺代わりの1曲。フックのあるメロディーと作詞センスも光る疾走感溢れる④は中毒性も高い名曲で、淡々としながらもじわじわと心に沁みる切ないギターロック⑩と共にアルバムの中核をなしている楽曲だ。⑤はエモーショナルとしか言いようがない圧巻のバラードナンバーで、疲れた心にそっと寄り添ってくれる。⑧はドラマチックなオルタナティブロックで、サビの伸びのあるメロディーが良い。⑫は非常に上品な印象を残す日本産ギターポップの名曲だ。

単純にいい曲と良いサウンドがここにあるとった感じで、誰が聴いてもこのバンドの魅力はわかりやすく伝わる作風となっている。

CUTIE CINEMA REPLAY|CAPSULE 

2003/3/19 ヤマハミュージックコミュニケーションズ

1. open
2. sweet time replay
3. キャンディーキューティー
4. プラスチックガール
5. french lesson
6. music controller (piconova-mix)
7. おでかけ Go! Go!
8. fashion fashion
9. ウダガワフライデー
10. close

CAPSULE(カプセル)は中田ヤスタカとこしじまとしこの音楽ユニットで、本作は2003年リリースの2枚目となるフルアルバム。

ピチカート・ファイヴに代表される1990年代の渋谷系ミュージシャンの流れを受け継いでおり、当時ネオ渋谷系と言われたムーブメントの中心的な存在であった。ネオ渋谷系は、おもちゃ箱をひっくり返したような、女性ボーカルがキュートなエレクトロポップを聴かせるアーティストが多く、それらはフューチャーポップと呼ばれた。

本作の③はゲストにSonic Coaster Popを迎えた、ピコピコした可愛らしいテクノポップで、フューチャーポップのイメージがわかりやすく伝わる傑作である。初期のCAPSULEはこういったキュートさにこだわりを感じる電子ポップが多くあり、それらは後のkawaii future bassと言われるアーティスト達にも多大な影響を与えていると思われる。
Eelとコラボレーションした④は、オシャレかつファンシーな可愛い曲で聴き心地が良い。②や⑥などの渋谷系王道路線の小洒落たポップナンバーも嫌味なく聴かせ、中田ヤスタカの突出した音楽センスをふんだんに楽しむことができる。

Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースで、世間一般にも広く知られる中田ヤスタカだが、その才能の原石が詰まった、輝きのあるアルバムだ。

future electro star|Sonic Coaster Pop 

2001/1/25  LD&K

1. No.2001 [BPM135]
2. future electric machine [BPM180]
3. attraction pop [BPM185]
4. my star [BPM180]
5. sunny side up! [BPM205]
6. No.2002 [BPM135]
7. my star (star star mix) [BPM180]
8. attraction pop (happy space mix) [BPM185]

渋谷系エレクトロポップユニット「Sonic Coaster Pop」の2001年リリースの1stアルバム。

後にメンバーの鈴木アキラは自身のインディーレーベル『USAGI-CHANG RECORDS』を設立し、8bitポップのYMCKなどエレクトロ女性ボーカルユニットを多数輩出している。
中田ヤスタカのCAPSULEなどと共にネオ渋谷系フューチャーポップの先駆的な存在である。打ち込み主体のギターポップに清潔感のあるキュートな女の子ボーカルが乗るというスタイルで、おもちゃ箱をひっくり返したような音楽と形容されることが多かったフューチャーポップのひとつの形を完成させている。

ずっしりとした音作りとキャッチ―なメロディーは絶妙な味があり、非常に良く出来ている。胸をキュンとさせる王道ギターポップの旋律をエレクトロサウンドと組み合わせており、③や⑤などの傑作を収録している。特に疾走感溢れる⑤は胸をキュンとさせるエレクトロポップの名曲で、このまま埋もれるのはもったいない。いつ聴いても最高な1曲である。

2001年にこの音楽性を展開していたことは凄いことだと思うし、今聴いてもまったく色あせてはいない1枚だ。

乙女の勲章|デラ☆センチメンタル 

2006/3/15 R and C Ltd.

1. 恋するBeat!
2. 純情☆乙女ゴールド
3. 勝手にシンドロ~ム
4. マジョリカマジョリカ
5. Boyz BB Ambitious・・・orz
6. ロマンス宣言
7. センチメンタルブレイカー
8. <ボーナストラック>デラデラ宣誓しょん。

2000年代にインディーズで3枚のアルバムを残している女性ボーカルロックバンド「デラ☆センチメンタル」の2006年リリースのラストアルバムである。
ガレージロックやヘヴィロックを基調とした荒削りなサウンドに早口ラップが特徴的な乙女ロックンロールとでもいうべきか。ボーカルの可愛いが投げやりな歌声や身も蓋もない本音を言ってしまう歌詞など、インディーズでしか表現できない女性ボーカルバンドの面白さがある。

冒頭①からイカしたロックビートに乗って色恋に関する女子のリアルな本音が炸裂しており、辛辣さにびっくりするのと同時にロックンロールとしてのカッコ良さに痺れる。
代表曲?といえそうな早口ラップと脱力ボーカルがインパクト大の②は名曲である。この早口ラップは今聴くと初音ミク登場前の人力ボーカロイドのようである。ユーモアセンス溢れる歌詞も似たものが浮かばないほど個性的で凄い。③は女性ボーカルの音楽では禁じ手ともいえる駄目な女子を表現しており面白い。人間は本質的に怠け者であることを可愛らしく突きつけてくれる。④は可愛いのにやさぐれた響きのラップが中毒性を生み出している。⑤は当時の2ch全盛のオタク文化をメタ的な視点で見た歌詞が冴えている。こういった社会学の視点に立った批評性は唯一無二もので痛快である。⑥はGS風の歌謡ロックでガレージロックバンドとしての本領発揮といったところ。

とにかくオリジナリティーは特筆すべきものがあり、超個性的ながらも共感してしまう説得力がある。初期のような早口ラップはほとんどなく、純粋にロックンロールという内容だが、ボーカルや歌詞も含めクセになる独自の音楽性が楽しめる好盤である。

SPACE DREAM BATHROOM|エイプリルズ 

2005/5/18 SOFTLY!

1. THE BATHROOM SYMPHONY-Opening
2. キ・ラ・メ・キ・ムーンダイバー
3. COSMO ’80s
4. タイム・アフター・タイム
5. ADVENTUR IN SPACE
6. 虹の惑星
7. 世界を越えて
8. END OF DREAMING-Closing

本作は男女ツインボーカルの渋谷系バンド「エイプリルズ」が2005年にリリースしたアルバムである。ネオ渋谷系/フューチャーポップのアーティストの中でも、1980年代のエレポップに通じる音楽性で、キュートな女性ボーカルとレトロ感あるサウンドが楽しめる1枚だ。

曲のタイトルからして1980年代的な②は清涼感ある男女ボーカルの掛け合いが気持ち良い、疾走感あるスペーシーなエレクトロポップ。
③はTommy february6に通じるような、1980年代のエレポップを現代解釈したガールポップで、胸がときめくこと間違いなしの名曲である。④も王道の打ち込みサウンドで、ドリーミーな雰囲気が楽しめる。

渋谷系というサブカル音楽の枠に留まらない、多くの人にアピールできる傑作ポップアルバムである。

SURF-TRIP!|browny circus 

2004/8/4 GROOOVIE DRUNKER RECORDS

1. BOY meets SURF
2. walking with a smile
3. RIDE ON
4. your song
5. my girl
6. SURF AROUND
7. wendy
8. タイムマシンにおねがい

女性ボーカルのパワーポップ/パンクを聴かせるインディーバンド「browny circus」が KOGA/ GROOOVIE DRUNKER RECORDSからリリースした2枚目のアルバム。

ラモーンズmeetsビーチ・ボーイズmeetsフランス・ギャルと呼ばれた楽曲は、超キャッチーかつ超キュートなパンクポップで爽快感抜群である。透明感あるのに子供っぽい可愛い女性ボーカルがこのバンドの大きな魅力となっている。

冒頭①からアクセル全開なサーフパンクで、まさに「夏到来!」といった感じだ。②と③も問答無用に畳みかけるパンキッシュなパワーポップで、サビのメロディーの良さとキュートなボーカルに胸がキュンとなる。⑤は他の楽曲に比べるとテンポが遅めなので、メロディーの良さがじっくりと味わえる。
⑧は映画『下妻物語』のエンディングテーマに使用されたサディスティックミカバンドの名曲のカバー。本作唯一の日本語詩の曲であるが、これが実に良い出来でパワーポップ解釈の素晴らしいカバーとなっている。

理屈抜きに楽しい気持ちになれるパワーポップ/パンクが収録されており、独自の魅力があるキュートなボーカルに元気が貰える1枚だ。

アージ|Catch Up 

2000/3/9 Major Records

1. アージ            
2. やさしい光    
3. 6月   
4. マイペアレンツ           
5. STAR
6. アンダーフラワー        
7. U2    
8. Cold Green Soup(L)     
9. 窓際のコッコちゃん    
10. 暑い日はブレイク

現在はシンガーソングライターとして活動している「ミナクマリ」がメンバーだったガールズバンド「Catch Up」のセカンドアルバム。UKギターロックやUSインディーロックからの影響を感じるオルタナティブロックである。可愛らしい歌声とインディーバンドらしい荒削りなサウンドはライブ感があり、当時のインディーシーンの熱さを感じることができる。

アルバルタイトル曲である①は、シューゲイザーサウンドの揺らぎが味わい深く、透明感あるボーカルと切ないメロディーが印象的なナンバー。本作随一の名曲と言ってもいいだろう。可愛らしくも物悲しげな雰囲気は女性バンドならではの魅力がある。
②や⑧はストレートなオルタナティブギターロックで、葛藤や焦燥感を感じさせながらも可愛らしい歌声のおかげか重くはない。青春時代に誰も抱くモヤモヤした気持ちを切ないロックとして昇華している。④は感動系のバラードナンバーで、温かい気持ちになれる。
⑦は憂鬱の中で悶々としながらも突き抜けようとするさまにグッとくる。⑨はみんなのうたのような曲調が印象に残るガールズバンドならではの楽しい曲だ。

当時は希少な存在であった女性ボーカルのギターロックで、耳を捉えるポップセンスを持っていた。ノイジーなギターサウンドと日本ならではともいえるキュートな女性ボーカルの組み合わせが楽しめる傑作アルバムである。

Chronicle2nd|Sound Horizon

 2004/3/19  Sound Horizon

1. 黒の予言書
2. 詩人バラッドの悲劇
3. 辿りつく詩
4. アーベルジュの戦い
5. 約束の丘
6. 薔薇の騎士団
7. 聖戦と死神 第1部「銀色の死神」 〜戦場を駈ける者〜
8. 聖戦と死神 第2部「聖戦と死神」 〜英雄の不在〜
9. 聖戦と死神 第3部「薔薇と死神」 〜歴史を紡ぐ者〜
10. 聖戦と死神 第4部「黒色の死神」 〜英雄の帰郷〜
11. 書の囁き
12. 蒼と白の境界線
13. 沈んだ歌姫
14. 海の魔女
15. 碧い眼の海賊
16. 雷神の左腕
17. 雷神の系譜
18. 書の魔獣
19. キミが生まれてくる世界
20. <ハジマリ>のクロニクル (隠しトラック)
21. <空白>のクロニクル (隠しトラック)

現在ではオタク音楽界の大物アーティストとなったRevoが率いる音楽ユニット「Sound Horizon」。本作は2004年にリリースした同人音楽作品としては最後となる6枚目のアルバム。全編インストゥルメンタル作品であったファーストアルバムのリニューアル盤となっている。アニメやゲーム系のファンタジックな物語性とそれを盛り上げるナレーションのような『語り』とドラマCDのようなキャラクターのセリフのパートがあるのが特徴的である。その『語り』とZABADAKや平沢進などに通じる幻想的な楽曲に、Aramaryの澄んだ美しい歌声が同居し、この手の幻想音楽系女性ボーカルものが好きなら堪らない魅力がある。

冒頭を飾る①はアニメ・ゲームソング的な疾走感あるシンフォニックな楽曲で、彼らの魅力が詰まった名曲である。語りや登場キャラクターのセリフは迫力があり、美しいメロディーをドラマチックに歌いあげるAramaryのボーカルの豊かな表現力にも注目である。③はアイリッシュサウンドの歌モノで、ファンタジックな大陸の歌という感じで良い。
Sound Horizonの独創的な魅力がたっぷりと味わえる⑦⑧⑨⑩は4部からなる壮大なスケールのファンタジーオペラ。独特の美意識に彩られた世界観は、開いた口が塞がらなくなるほどのインパクトがある。霜月はるかをゲストボーカルに迎えた⑬は、演劇的な表現がユニークで、物語の登場キャラクターのような奇抜な歌の掛け合いが楽しめる。シンフォニック系のプログレやゲーム音楽のようなインスト⑯からメロディーとコーラスが美しい⑰への繋ぎは非常にドラマチック。RPGゲームのラストバトルのような⑱は、まさにクライマックスという感じの熱さが伝わる曲。⑲はひたすら美しいバラードで、怒涛の⑱の後で心を癒してくれる。
⑳は優しさと勇気を貰えてほっこりくる良い歌で涙腺に来る。

ファンタジー音楽として聴き手の期待を裏切らない楽曲が多く収録されている。美しい女性ボーカルと民族音楽やハードロックを取り込んだサウンド、そして過剰なまでの「語り」やセリフがドラマチックに組み合わさり、圧巻の音楽オペラが楽しめる1枚だ。

Today Is A Beautiful Day|supercell 

2011/3/16 SMR

1. 終わりへ向かう始まりの歌
2. 君の知らない物語
3. ヒーロー
4. Perfect Day
5. 復讐
6. ロックンロールなんですの
7. LOVE & ROLL
8. Feel so good
9. 星が瞬くこんな夜に
10. うたかた花火
11. 夜が明けるよ
12. さよならメモリーズ
13. 私へ

ニコニコ動画で初音ミクの楽曲を発表していたryoを中心としたクリエイター集団である「Supercell」。本作はゲストボーカルにnagi(やなぎなぎ)を迎えた2枚目となるフルアルバムである。

サウンドはオルタナティブロック基調としており、ストレートに高揚感が得られるポップロックだ。ryoは音楽シーンに新しい価値観をもたらした初音ミクの「メルト」に代表されるように、聴いた人をスッと引き寄せる良質なポップネスをもっており、本作でもその魅力を存分に楽しむことができる。

アニメにタイアップされてヒットした②は、Supercellの名前を世間に知らしめた曲で、センチメンタルな青春の情景が浮かぶ名曲である。
⑨も②と同路線の疾走するロマンティックな青春ロックナンバー。
③は切なさと力強さを兼ね備えた傑作で、nagiのボーカルが良い味を出している。④はエモーショナルなロックバラードでこれも切ない曲。⑥は勢いあるハードなロックンロールで、ラフな演奏とボーカルがカッコいい。⑫は卒業をテーマにしており、J-POPの名曲のひとつに挙げたくなるほど良く出来ている。

一聴して耳に残るポップセンスある曲が多く収録されており、アルバム全体としてもまとまりが良い1枚だ。

Love+|第二文芸部  

2010/08/13

1. Like a Life, Like a Live!
2. O.H.B.I~校歌絶叫~
3. Let’s Jump!
4. 君の元へ
5. 南風
6. t r a v e l e r s
7. lead to your dream
8. go on a trip
9. Keep on going!!
10. 悲しきラガー
11. Happy Go!!
12. Get out!!

青春恋愛ロックンロールノベルゲーム【キラ☆キラ】の劇中に登場する架空のガールズバンド(女装男子含む)「第二文芸部」の1stアルバム『Love』に追加曲を加えて再発したもの。

音楽ユニット「milktub」が手掛けたと思われる楽曲(作家表記は第二文芸部)は粗削りなサウンドのビートパンクで、YUKI(JUDY AND MARY)やTama(Hysteric Blue)を思わせる椎野きらり(UR@N)のキュートでパワフルなハイトーンボーカルは聴いていて気持ち良い爽快感が得られる。

①はザラついたロックサウンドがクセになるストレートな青春パンクの傑作で、とにかく音色が良い。③は問答無用にアゲてくれるロックンロールナンバー。④は「静から動」に展開するドラマチックで切ないナンバー。⑥はJ-POPとして聴いても優秀な力強くキャッチーなポップロック。⑩はニューロティカのカバーで、女子ボーカルだと原曲とは違った味があり楽しく聴ける。

後にリリースしたアルバムのサウンドに比べると本作はインディーバンドのような粗削りさが特徴的で、宝石の原石のような魅力があり、ダイレクトに心に響く作品である。

T H E|tricot 

2013/10/2 BAKURETSU RECORDS

1. pool side
2. POOL
3. 飛べ
4. おもてなし
5. artsick
6. C&C
7. おちゃんせんすぅす
8. 初耳
9. 99.974℃
10. タラッタラッタ
11. CGPP
12. Swimmer
13. おやすみ

海外でも高い評価を獲得している4人組のオルタナティブロックバンド「tricot」の1stフルアルバム。ポストロックからの派生ジャンルであるマスロックという変拍子を多用した複雑なリズムの楽曲が特徴的である。椎名林檎に影響を受けたと思われる中嶋イッキュウのパワフルで色気あるボーカルとナンバーガールにも通じる切れ味抜群のサウンド、メロディーのキャッチーさは1度聴いたら忘れられないインパクトがある。

インスト①に続くこのバンド独自の不思議なユーモアセンスが感じられる②はリズム、歌メロ、歌詞などすべてにインパクトがあり、tricotの魅力がストレートに伝わる傑作ナンバー。③は青春時代の葛藤やノスタルジーを含んだ焦燥感が心に刺さる曲。代表曲といえる⑦はtricotの演奏テクニックが存分に楽しめるインストパート中心のナンバー。⑨はスリリングなバンドサウンドとサビメロのキャッチーさが耳に残る曲。ラスト⑬はセンチメタルでノスタルジックな気分になれる叙情的なナンバー。

演奏技術の高さはもちろんのこと、楽曲には女性的なしなやかさを感じさせる部分が多くありそれが大きな魅力となっている。2010年代のガールズバンドを代表する傑作アルバムである。

The Rooms 1st Demo|The Rooms 

2010/10/30

1. チアチアゴー
2. 炭酸幽霊
3. シャンプー

現在はシンガーソングライターとして活動しているkonore(こうのれい)がボーカルを務めていたインディーズロックバンド「the rooms」の初音源となる作品。粗削りなガレージロックサウンドに可愛らしい声質だが投げやりな歌い方のボーカルという組み合わせは、GO!GO!7188にも通じるものがあり。期待されていたバンドであったが、残念ながらほとんど音源は残さずに2013年に無期限活動休止しその後解散している。本作はデモ音源ではあるがこのバンドの魅力がストレートに伝わる優れた内容である。

代表曲①はまず強烈な歌詞のインパクトに驚かされるが、こうのれい独自の歌い回しとメロディーセンスが光るインディーロックの名曲といえるだろう。この個性的な魅力はかなり面白いので、アルバムを残さなかったのがやはり残念である。②は疾走感ある爽快なロックンロールで、①と同じく独自の作詞センスも良い。③もラフな勢いのあるナンバーでチャーミングな魅力がある。
曲数は3曲と少ないがこのバンドが可能性を秘めていたことが伝わる傑作である。

BLU-SWING 10th ANNIVERSARY BEST|BLU-SWING  

2019/5/8 JUNONSAISAI RECORDS

1. Sunset (2019 Y.Nakamura Remastering)
2. Syndrome
3. I am
4. Find Your Way
5. Pulse
6. Fabulous
7. Sum
8. ゴールデンタイム
9. Lark
10. 満ちていく体温
11. 蜃気楼
12. 太陽のベール
13. Rain
14. Like We’re Lovers
15. Flash
16. ひとひら

2008年にメジャーデビューしたジャズ/シティポップバンド「BLU-SWING」の10周年を記念してリリースされたベストアルバム。オリジナルアルバムは入手困難なものが多くあるので、いいとこどりの内容である本作は手っ取り早くこのバンドの凄さと魅力が味わえる1枚だ。

シンセのイントロから始まる①は、ピアノ/サックス/ベースが絶妙に調和する緻密なサウンドとボーカルを務める田中裕梨のアンニュイな雰囲気漂う表現力抜群の歌声が、見事に組み合わさった名曲である。一度聴けば記憶に残るメロディーラインも優秀で、まさにパーフェクトな1曲。②はアップテンポな軽快に疾走するポップナンバーで、シンプルだが力強さを感じるバンドサウンドやメロディーは素晴らしい出来だ。
③は気持ち良いギターのカッティングやベースラインなど、お洒落なポップソングというイメージを具現化したような曲。⑥は大人な雰囲気のジャズポップで、技術の高いバンド演奏など刺激的な旋律が楽しめる。⑩は鳴り響くサックスが高揚感を与えてくれて、自然に耳に馴染む良質なメロディー&ボーカルは、J-POPとしても最高水準である。⑬はアコースティックでメロウなサウンドと美しいボーカルが心に安らぎを与えてくれる。⑮はドライブミュージックにしたくなる疾走感あるシティポップ王道チューン。

ジャズ/フュージョンを基調としたサウンドは隙のないほどの作り込みがされており、高度なバンド演奏が楽しめる。シティポップやJ-POPとして優れたポップな楽曲と豊かな表情を見せるボーカルの圧倒的な歌声は、文句なしにおすすめできるグッドミュージックと呼べる内容である。

NEW KINGDOM|the peggies 

2015/11/11  ぽっぽエクスプレス

1. グライダー
2. 青春なんかに泣かされて
3. LOVE in the TOKYO
4. ブリキ
5. 花
6. いきてる
7. 深海
8. ときめきシンフォニー
9. P/F

2011年に結成された3ピースガールズバンド「the peggies」の1stフルアルバム。
ソングライティングはボーカルを務める北澤ゆうほが手掛けている。JUDY AND MARY、Hysteric Blue、チャットモンチー等の流れをくむ北澤ゆうほの可愛らしい声質のハイトーンボーカルにストレートなロックサウンドという王道的なガールズポップロックである。

冒頭①は前向きな気持ちに溢れている直球のポップロックで、伸びやかなメロディーと力強い歌声に元気を貰えること間違いなしの名曲。②は切ないギターサウンドの青春エモロック。
③は北澤ゆうほのラフでキュートな歌声が光るロックンロールナンバー。⑥は真っ直ぐなメッセージが込められた心を打つバラードナンバーでとてもエモーショナルである。⑧は遊び心を感じるチャーミングな曲。ラスト⑨は静から動へとドラマチックに感情が波打つ渾身の1曲。

邦楽女性ボーカルバンドの伝統的な形のひとつであるパワフルでキュートなロックがいっぱいに詰まった傑作アルバムである。

Miracle Milk|Mili

2016/10/12 さいはてレコーズ

1. Red Dahlia
2. Ga1ahad and Scientific Witchery
3. RTRT
4. Unidentified Flavourful Object
5. Meatball Submarine
6. Vulnerability
7. 与我共鸣-NENTEN-
8. Bathtub Mermaid
9. Cerebrite
10. Space Colony
11. world.execute(me);
12. Utopiosphere -Platonism-
13. Painful Death for the Lactose Intolerant
14. YUBIKIRI-GENMAN -special edit-
15. Sl0t
16. Past the Stargazing Season
17. Colorful
18. Komm, susser Tod

音楽ゲームDeemoやCytusなどのゲーム音楽を中心に多くの楽曲を手掛けている音楽グループ「Mili」のセカンドアルバム。
『世界基準の音楽制作集団』というキャッチーコピー通り、ファンタジックな世界観や異国情緒ある楽曲は海外でも受け入れられそうである。メンバーはボーカロイド系楽曲に関わっていた経歴があり、初音ミク登場以降と言えるボーカルの歌唱や楽曲構成など近年のアニメ/ゲーム系女性ボーカルポップの中でも興味深い内容である。

冒頭の荘厳な美しいバラード①に続く②は、西洋の雰囲気漂うプログレッシブなサウンドとシンフォニックなメロディーが素晴らしくて、ボーカルのmomocashew(現在はCassie Wei)の独自歌唱が中毒性を生み出す名曲である。③は中華な世界観とメロディー、クセになるリズムとボーカルなどMiliの真骨頂といえる曲。
④⑧⑫はガラス細工のように美しく、まさに幻想音楽と呼ぶに相応しい楽曲で、高揚感が得られる傑作バラードは聴いていてうっとりさせられる。Miliはこういった西洋的なシンフォニックに盛り上がるバラード曲を作るのが本当に上手。⑭もお得意の美しいバラードだが、日本語詩であることもあって切なくダイレクトに心に響くだろう。
代表曲である⑪は一聴すればSFな世界観が聴き手にしっかりと伝わるのが優れている。サウンドやボーカルの近未来的な雰囲気など、音楽としての表現力はピカイチだ。
ラスト⑱は新世紀エヴァンゲリオンの映画挿入歌のカバー。Momocashewの甘い歌声が持つ魅力が光っており原曲とは一味違う儚さがある。

全編に渡り完成度が高い楽曲のオンパレードで圧巻の内容だが、特筆すべきはやはりMomocashewの個性的な歌い回しである。ファンタジーやSFなど空想世界を表現するにぴったりのボーカルと言えるだろう。

circulation|ASHADA  

2006/7/20 ポセイドン/インター・ミュージック

1. 鍵〈Kagi〉 (Instrumental)
2. Snowflake (Instrumental)
3. 扉〈Deperture〉
4. sacred visions
5. ある少女の願い〈A girl’s wish〉
6. 螺子〈Neji〉
7. birth

本作は妙(vo.Mandolin.p)と緑(p.accordion)の2人からなる女性ユニット「ASHADA」の1stアルバムにして唯一となったアルバムである。プログレ風味もあるアコースティックでファンタジー色が強い楽曲は、影響を受けたというZABADAKに通じるものがあり。プログレバンドKBBの壺井彰久(vln)とDani (b)がゲスト参加しており、シンフォニックさもある楽曲を盛り上げてくれる。

プログレッシブなインスト曲①はピアノ、ヴァイオリン、アコーディオン、ベースなど様々な楽器が絶妙に絡み合う素晴らしい名曲。コーラスもいい感じで、異世界の物語が幕を開けるようなファンタジックな世界観に引き込まれる。続くタイトル通り冬を感じさせる②も同路線のインスト曲で、刺激的なアンサンブルが楽しめる。③は切ないバラード曲で、飾らない魅力がある歌声が印象に残る。⑥はこのアルバムと目玉と言っていいドラマチックでシンフォニックな歌モノで、アレンジの完成度も高い。⑦はナイーブな歌と浮遊感、透明感あるサウンドが癒しを与えてくれる。

プログレからの影響もある幻想音楽としてのサウンド構築は見事な出来で、素直でまっすぐな印象を残すボーカルも魅力がある傑作アルバムだ。

13leaves|fra-foa 

2002/9/19 トイズファクトリー

1. edge of life
2. light of sorrow
3. blind star
4. 出さない手紙
5. perfect life
6. green day
7. 消えない夜に
8. lily
9. 小さなひかり。
10. crystal life
11. 煌め逝くもの
12. afterglow

2000年にメジャーデビューしたオルタナティブロックバンド「fra-foa」のセカンドアルバム。ソングライティングはボーカルを務める三上さち子、プロデュースはCoccoなど数多くのアーティストを手掛けた根岸孝旨(Dr.Strange Love)。
1stアルバムは三上さち子の凄まじい気迫のボーカルなど、メランコリックで青臭い切なさが全開で情念が渦巻くような重い内容であったが、本作ではスタイリッシュで洗練されたサウンドとメロディーにシフトチェンジしており、多くの人におすすめできる良質なギターロックである。

冒頭①は唸りを上げるギターと自信とパワーに溢れた歌声に気持ちが高揚する、ロックンロールと呼びたくなる熱い曲。②と⑦は三上さち子の艶やかな歌声が印象に残るロックバラード。歌も上手いがとにかく声質に色気があり可愛らしくもあるので耳にすんなりと入って馴染みやすい歌声である。③はカッコいいストレートなロックで、心に真っ直ぐと響いてくる。⑨はオルタナティブロックとしても歌ものとしても優れている楽曲で、エモーショナルなメロディー&ボーカルが胸に迫る名曲。⑪は伸びやかなボーカルとメロディアスな旋律に飲み込まれる切なく力強い1曲。

やはり三上さち子のカリスマ性ある歌声の魅力は特筆すべきものがある。またシンガーソングライターとしても才能を感じる良質なポップロックが多く収録されており、根岸孝旨のプロデュースも素晴らしい。オルタナティブロックの名盤と言っていいだろう。

Dragonvarius|Dragon Guardian

2010/1/30  Dragon Guardian

1. 序曲
2. 暗黒舞踏会
3. 旅立ちの朝
4. 港街バッカス
5. 忘却の島
6. ドラゴンヴァリウス
7. 邪神への鎮魂歌
8. 白銀の髪
9. 忘却の島(SPECIAL MIX VER.)(ボーナストラック)

勇者アーサーによるヘヴィメタル音楽プロジェクト「Dragon Guardian」。2009年にリリースしたサードアルバムをリマスター&リミックスしてボーナストラックを加えた新装版である。
コンセプトはアニソンとメロスピ(メロディックスピードメタル)の融合で、疾走感あるメタルサウンドとシンフォニックなメロディーをパワフルに歌い上げる女性ボーカル(本作のゲストボーカルはFuki)が特徴的である。Sound Horizonと同じくRPGゲームのようなファンタジックな物語性があり、ナレーションのような語りでストーリーを説明したり、キャラクターのセリフなどのパートあり。

②はアニソンに親和性がある超シンフォニックなメロディーと激烈なメタルサウンド、Fukiの全身全霊の歌唱が高揚感を与えてくれる白眉のナンバーで、本作のリードトラックといえるだろう。③はタイトル通りに冒険の始まりを告げる力強いナンバーで、ベタな王道感みたいなものが良い。アルバムタイトル曲である⑥は10分を越える大曲で、静パートと動パートがドラマチックに絡みあい、壮大な叙事詩を奏でる。⑦はクライマックスのラストバトルという感じで物語の盛り上がりが頂点に達する熱い曲だ。

聴きやすいシンフォニックなファンタジーメタルとして重宝しそうな傑作アルバムである。

Cell-Scape|Melt Banana

2003/6/10 ‎ A-ZAP Records

1. Phantasmagoria
2. Shield for Your Eyes, a Beast in the Well on Your Hand
3. A Dreamer Who Is Too Weak to Face Up to
4. Lost Parts Stinging Me So Cold
5. Chain-Shot to Have Some Fun
6. Like a White Bat in a Box, Dead Matters Go on
7. Key Is a Fact That a Cat Brings
8. A Hunter in the Rain to Cut the Neck Up in the Present Stage
9. If It Is the Deep Sea, I Can See You There
10. Outro for Cell-Scape

海外での人気や評価が非常に高いノイズロックバンド「Melt Banana」。本作は2003年にリリースされた5枚目のアルバムである。日本のアンダーグラウンドノイズロックを象徴するような激烈な作品を多く発表していたバンドだが、前作『Teeny Shiny』(2000年)からボーカルYakoのハイトーンボイスを生かしたポップな作風にチェンジしており、本作ではその路線を更に進化させたキュートかつ奇天烈な独特のオルタナティブロックを聴くことができる。

冒頭のエレクトロニックなインスト①に続く②は音色が良いノイジーなギターリフと野太いベースラインが圧巻で、クセになるスペーシーな感覚と個性的だがキャッチーなリズムのボーカルも面白い魅力がある。③はスピード感ある幾化学的でSFチックなハードコアパンク。サウンドはハードだがボーカルがチャーミングなので親しみやすさがある。⑤も③と同路線のハードコアパンクで、痙攣したようなギターリフとドリルのような突進で高揚感が得られる。
⑦は奇天烈に疾走する変態ロックで、ボーカルの歌いっぷりがインパクト大だがキャッチーなのはさすが。⑨はこのバンドにしては珍しくサビで聴かせるギターポップっぽいメロウな旋律が耳に残る傑作。

注目ポイントはやはり可愛い声質とポップなリズムが魅力のYakoのボーカルで、歌唱法はぶっ飛んではいるが、ヒステリックな印象はなく親しみやすくファニーである。重厚なサウンド構築もロックとしてダイレクトな快感が得られるもので、女性ボーカルの長所を生かしたポップなノイズロックとして文句なしの1枚だ。

LISTENING SUICIDAL|Boat

2000/8/23  イーストウエスト・ジャパン

ディスク1

1. LISTENING 40(burn up the club ’99)
2. PLANET FOXY
3. 狂言メッセージ
4. グッバイ・マイ・ストレンジ・ナンバー28
5. 銀色うつ時間
6. ラッキー・スイサイダル
7. PRETEND
8. 代打デストロイ&サーチ
9. NO MESSAGE
10. 紋味
11. 雲番人Bと釣人A
12. DON’T YOU
13. LISTENING 40(close your eyes ’00)

ディスク2

1. Theme of BOaT
2. I CAN SEE THE RADIO WAVE
3. NIGHT HAWK NIGHT(NO MIX Version)

大学の音楽サークルを母体として1996年に結成されたロックバンド「Boat」。本作は2000年リリースの通算3枚目となるメジャー1stアルバムである。パンク、ヘビィメタル、サイケデリックロック、ギターポップなど様々な音楽要素を意欲的に取り込んだ個性的なミクスチャーロックで、リーダーA.S.E(ボーカル、ギター)が生み出すファンキーでサイケデリックな楽曲やアインのキュートなボーカルが魅力である。

冒頭エレクトロノイズインスト①に続く②は激烈なサイケデリックロックサウンドに圧倒されるが、メロディーセンスの良さが光り、透明感ある男女ツインボーカルが非常にポップに響く1曲。シューゲイザー楽曲として聴いても優れた逸品である。メジャーデビューシングル③はアインの可愛い歌声の魅力を最大限に生かしたファンキーかつキャッチーな曲で、特にメロディーラインはいつまでも記憶に残るものである。可愛い+激情な⑥はサビのA.S.Eのデスボイスとアインのキュートなコーラスの掛け合いが奇妙で面白い。良質なギターポップセンスを感じる⑧は、Boatのメロディーの良さとチャーミングさが味わえる。インスト曲⑫ではポストロック系の轟音を聴くことができて、懐の深さが垣間見える1曲。⑫はこれぞBoatという感じのラフなポップロックで、このバンドが持つ独特のノリ(サークルっぽさ?)も魅力である。
初回盤には3曲入りのボーナス8cmCDが付属しており、次作『RORO』で本格的に展開されるプログレ/ポストロック路線に通じるインストロック③などの佳曲が収録されている。

音楽的にはサイケデリックでマニアックな方向性だとは思うが、定評のあるメロディーの良さや飛び道具的とも言えるアインのキュートボイスで、ポップ感が際立つ仕上がりとなっている。またバンド自体に親しみやすい雰囲気があるので、それがアルバム全体からも感じられ大きな魅力となっている。

the Post|リーガルリリー

2016/10/19 Biotope records

1. ジョニー
2. ぶらんこ
3. リッケンバッカー
4. White out
5. 魔女
6. 好きでよかった。

3人組のガールズバンド「リーガルリリー」の1stミニアルバム。グランジやシューゲイザーから影響を受けたオルタナティヴロックだが、たかはしほのかのイノセンスを感じる歌声やポップなメロディーセンスには定評があり、聴きやすいJ-POP風のギターロックとして楽しめる内容である。

冒頭①はシンプルながら力強いギターサウンドと口ずさめそうなキャッチーなメロディーが親しみやすく、言葉選びのセンスを感じる意味深な歌詞も素晴らしい。②は感傷的なメロディーの良さが光り、センチメンタルな雰囲気に引き込まれる。リーガルリリーの代表曲と言える③はアグレッシブな演奏、メロディーに張り付いている個性的な歌詞など絶妙なバンドアンサンブルを奏でる文句なしの1曲。⑤は静から動へとエモーショナルに響く轟音ポストロックナンバーで、こういった曲調でもリーガルリリー色と言える個性が確立されているのはさすが。

オルタナティヴロックとして完成度が高いが、メロディーの良さや歌詞の鋭さなど歌モノとしても優れた魅力があり、幅広い層にアピールできる傑作ミニアルバムである。

人間なのさ|Hump Back

2019/7/17 林音楽教

1.LILLY
2.拝啓、少年よ
3.サンデーモーニング
4.コジレタ
5.生きて行く
6.オレンジ
7.Adm
8.クジラ
9.恋をしよう
10.ナイトシアター
11.僕らは今日も車の中

3人組のガールズバンド「Hump Back」のメジャー1stアルバム。フラワーカンパニーズやサンボマスターなどの『The日本語ロック』と呼べるような音楽性が女性ボーカルで楽しめる貴重なバンドである。メッセージほとばしるギミックなしのロックンロールで飾らない魅力があり、ボーカルの林萌々子の歌声はカリスマ性と親しみやすさの両方を兼ね備えており聴く物の心を揺らす。

冒頭①からストレートな等身大のロックが疾走し気分を上げてくれる。そして続く②はHump Backを代表する名曲で、シンガロングできる歌メロやメッセージ性の高い歌詞などすべてにインパクトがあるパーフェクトな1曲。多くの人にいつまでも愛されるような優れた楽曲である。⑤はつまらない日常の中でも前向きなパワーも貰える実にこのバンドらしい良い曲。⑨は切ないメロディーや歌詞が光る直球のラブソング。⑪はマイペースな雰囲気が心地良くて、気負わずのんびりと生きる力を与えてくれる佳曲。

2分前後の楽曲も多くあり、シンプルに歌いたいことをストレートなロックとして表現しており好感が持てる。憂鬱な日常の鬱憤を晴らしてくれるようなパワーに満ちた傑作アルバムである。

アラビアの禁断の多数決|禁断の多数決

2013/11/20 AWDR/LR2

1. 魔法に呼ばれて
2. トゥナイト、トゥナイト
3. 真夏のボーイフレンド
4. 今夜はブギウギナイト
5. リング・ア・ベル
6. ココアムステルダム
7. くるくるスピン大会
8. 踊れや踊れ
9. 勝手にマハラジャ
10. Crazy
11. フライデイ・ナッツ
12. 渚をスローモーションで走るも夢の中
13. バンクーバー
14. アイヌランド

動画サイトに投稿したPVが話題を呼び、2012年デビューした音楽制作集団「禁断の多数決」のセカンドアルバム。当初は謎に包まれていたグループであり、そういった匿名性を武器にしたネット時代を象徴するようなガールズポップである。音楽的にはアイドルポップや渋谷系に距離が近いと言えるが、前作収録の『透明感』のようなエレクトロポップやオルタナティヴロックをオマージュした楽曲もあり、遊び心を感じるところも魅力である。

本作のリードトラックと言える②は懐かしさを感じるキュートなエレクトロポップ。センチメンタルな情感が波のように押し寄せて胸がキュンとなる。③もキラキラした爽やかなエレクトロサウンドと感傷的なメロディーを歌う可愛らしいボーカルが心地良い。禁断の多数決はノスタルジックな雰囲気を作り出すのが非常に上手。⑤は渋谷系やソフトロックっぽいオシャレポップで疲れた心を癒してくれる。⑨はサイケデリックなムードのダンスポップで、歌謡曲っぽい歌メロも含めレトロなセンスが楽しい。
⑩はゆったりしたビートに乗った美しいメロディー&キュートなボイスに胸がときめく。⑭はワールドミュージック色が強いサウンドとビートが高揚感と感動を与えてくれる。

女子ボーカルの可愛らしさを生かした楽曲が多く収録されており、アイドルポップなどが好きであれば気に入る人が多いだろう。サウンドはよく作り込んである印象で、単純にメロディーの良さが光る楽曲が多い。ポップミュージックとして優れた1枚だ。

amp-reflection|school food punishment

2010/4/14  ERJ

1. signal
2. goodblue
3. butterfly swimmer
4. future nova -album edit-
5. 電車、滑り落ちる、ヘッドフォン
6. light prayer
7. after laughter
8. 04:59
9. 駆け抜ける
10. futuristic imagination -album version-
11. line
12. パーセンテージ
13. sea-through communication

ボーカル&ギターの内村友美を中心としたロックバンド「school food punishment」。本作はメジャー初となるアルバムである。ポストロックやエレクトロニカを取り込んだ洗練されたサウンドと内村友美のカリスマ性ある歌声はスタイリッシュで魅力的。特に内村友美の声質や歌い方が素晴らしく、それを生かした曲の数々はポップロックとして素晴らしいの一言に尽きる。2010年代のJ-POPとしても完成度の高い1枚だ。

インスト曲①に続く②からシンセとギターを軸に展開されるスペーシーな雰囲気と爽快なメロディー&ボーカルでschool food punishmentの世界観に一気に引き込まれる。②はしっとりとした序盤パートから力強いバンドサウンドが一気に疾走し、特にギター音色が良い。清涼感溢れるメロディーや透明感ある歌声は上質でポップセンスがある。③は新しい朝に未来への前向きな気持ちを込めたような瑞々しい旋律が気持ち良い。メリハリのついた立体的な音像は耳に残るものである。
⑥は暗闇の中を駆け抜けるような雰囲気と小気味良い疾走感が心地良くて、伸びやかなメロディーも素晴らしい。⑦は爽やかな風が吹くようなキュートなポップナンバーで胸躍る。⑧は都会的でクールなシティポップっぽいオシャレなナンバー。⑩はシンフォニックな旋律が怒涛のように押し寄せる名曲。この曲での内村友美のボーカルのカッコ良さは特筆すべきものがあり必聴である。

サウンドは細部までこだわりを感じるマニアックさもあるが、あくまでポップミュージックとして良いものを作っている印象で、幅広い層が楽しめる内容となっている。表現力豊かな歌声を聴かせてくれる内村友美は1人のボーカリストとしても才能があり、その魅力がたっぷりと楽しめるだろう。

あらためまして、はじめまして、ミドリです。|ミドリ

2008/5/14 Sony Music Associated Records

1. スキ
2. ゆきこさん
3. かなしい日々。
4. お猿
5. 根性無しあたし、あほぼけかす
6. ちはるの恋
7. ひみつの2人
8. 5拍子
9. ハウリング地獄
10. 無欲の無力

2003年に大阪で結成されたロックバンド「ミドリ」のメジャー初となるフルアルバム。2000年代に起こった関西ゼロ世代というムーブメントを代表するバンドのひとつで、ボーカルである後藤まりこの絶叫やセーラー服衣装での過激なパフォーマンスも話題になった。音楽性はラフなパンクを基調とするが、ジャズやプログレなどの要素もあり一筋縄ではいかないものとなっている。

パンキッシュな破壊衝動に満ちた②は本作の核となるナンバー。カオティックな凄まじい演奏だがメロディアスでもあり、その絶妙なバランスが素晴らしい。④はジャジーでキャッチ―なリズムのブルースといった感じで、後藤まりこの歌い回しがカッコいい。⑦はピアノの美しいメロディーと大阪弁のストレートな歌詞、やさぐれた歌唱という組み合わせが異色で面白い。⑧はタイトルそのまま5拍子の楽曲で、手数の多いドラムや哀愁漂うメロディー&ボーカルがエモーショナルに響く。⑨はメルトバナナを彷彿とさせるキャッチ―なアバンギャルドロックという感じで、アンダーグラウンドな激烈サウンドとポップなリズムの絶妙なブレンドが楽しめる。

メジャーリリースということもありインディーズ時代の作品よりもポップになった印象があるが、パンクな攻撃性は鋭さを増しており圧倒される内容である。またピアノをフューチャーしたジャズ要素によるものか、昭和の歌謡曲や場末のクラブのような雰囲気があり、それが大きな魅力となっている。

Indifferent|Interpose+

2007/6/27 POSEIDON Records

1. Rosetta
2. Man from the Forest
3. Dayflower – Part Three
4. Heliopause
5. Alive
6. Anonymous

1980年代から活動しているという長いキャリアを持つプログレバンド「Interpose+」のセカンドアルバム。前作はシンフォニック系のプログレとして優秀なアルバムであったが、今作はジャズロックを基調とした刺激的なバンドアンサンブルを奏でており、透明感という言葉がぴったりの女性ボーカルを生かした叙情的なロックが楽しめる1枚だ。

冒頭①は目まぐるしくスリリングな演奏のジャズロックでドラマチックな構成が光る。テクニカルな演奏と感傷的なメロディーや透明感あるボーカルが絶妙に調和しており聴き心地が良い。②は美しいピアノと優しい歌声から徐々に盛り上がり、後半はエモーショナルな爆発を見せる大曲。静から動への展開を違和感なく聴かせてくれており、このバンドの魅力が良く伝わる楽曲である。⑤は切ないロックバラードで叙情的なメロディーと歌声の良さがじっくりと味わえる。⑥は①同様のアグレッシブなバンドサウンドと美しいメロディーをバランス良く聴かせてくれる。

ラフで技巧的な演奏は文句のないカッコ良さがあり、そこに情緒に溢れるメロディーと耳に優しい声質の女性ボーカルが見事にハマっている。日本の女性ボーカルプログレの中でも傑作と言えるアルバムである。

or|Spangle call Lilli line

2003/6/11  felicity

1. piano
2. rrr
3. dism
4. B
5. nano
6. ma
7. metro
8. carb cola
9. ice track
10. soto

1998年に結成されたバンド「Spangle call Lilli line」の3枚目となるアルバム。ポストロックやエレクトロニカを基調とした透明感と浮遊感あるサウンドで、メランコリックでメロウな旋律に大坪加奈のアンニュイな雰囲気のボーカルがばっちりとハマっており、心に安らぎを与えてくれる。

①はミニマルなピアノのフレーズなど静かで美しいサウンドがドラマチックに展開されており、幽玄な世界へ連れていってくれる。孤独感や空虚感を感じるハスキーな歌声や親しみやすい叙情的なメロディーはこのバンド独自の魅力である。②もシカゴ音響派のような質感のポストロックサウンドではあるがキャッチ―でポップな魅力がある。③は浮遊感漂うシューゲイザーっぽいギターロック。代表曲のひとつ⑤は琴線に触れるメロディーと物憂げな歌声がメランコリックな情景に引き込む名曲。⑦はクセになるリズムと無駄を削ぎ落としたサウンドがエモーショナルに心に刺さり、⑧はひたすら美しい歌声とメロディーにうっとりさせられる。

アルバムとしての統一感は抜群で捨て曲なし。ポストロックはある意味ニッチで難解なジャンルに思われがちだが、個性的ながらもポップネスを大切にしている作風なので、幅広い層が楽しめる内容の1枚である。

CIRCLE|POLLYANNA

2016/1/6  Two sHOT

1. TAKE ME WITH OVERLAND
2. YUMEMITERU
3. HIT SPIKE
4. WANDERING ON THE SATELLITE
5. FURNITURE AND MOVING
6. CHEESE CHEESE CHEESE
7. LONG SPELL OF RAINY WEATHER

『最新型渋谷系バンド』をテーマに掲げて2014年に結成されたロックバンド「POLLYANNA」の1stミニアルバム。Cymbals直系の王道渋谷系女性ボーカル路線という感じで、アグレッシブなバンドサウンド、煌びやかなメロディー、キュートなボーカルと三拍子揃った爽快なポップロックが楽しめる。

①から期待を裏切らない直球の渋谷系ロックビートが鳴り響き気分爽快。ギターポップエッセンスをまぶしたワクワクするような旋律と可愛らしいボーカルは胸をキュンとさせてくれる。②はシューゲイザーなギターサウンドの浮遊感とキラキラしたメロディーに引き込まれる名曲。通好みのサウンドをポップに昇華しておりこのバンドのセンスを感じる1曲だ。③は切れ味鋭い演奏と大人な雰囲気のボーカルなど、クールなカッコ良さが光る。⑤は小洒落たレトロな雰囲気の男女ツインボーカル曲で渋い魅力がある。⑥はドタバタしたハードな演奏で、オシャレに疾走するご機嫌なロックナンバー。

渋谷系路線ではあるがロックサウンドは轟音ギターなどハードな印象で、インディーっぽいラフな部分と職人芸のようなポップネスが上手く融合していると感じる。

上々|ポップしなないで 

2020/11/11   ‎ KINGAN RECORDS

1. 魔法使いのマキちゃん
2. 夢見る熱帯夜
3. 救われ升
4. Creation
5. UFO surf
6. おやすみシューゲイザー
7. 2人のサマー
8. オシマイノリティ
9. 前頭葉
10. Life is walking
11. エレ樫
12. ミラーボールはいらない

2015年に結成された男女2人組のユニット「ポップしなないで 」の1stフルアルバム。キャッチコピーの【セカイ系おしゃべりJ-POP】というフレーズでも分かるように、ラップを主体にした独創的な世界観のポップロックである。ボーカルのかめがいあやこのハイトーンボーカルはチャーミングで爽快感があり、ポエトリーリーディングのような言葉の意味深な響きや相対性理論やパスピエにも通じるひねくれたポップ感など、まさにサブカル系ポップという感じの興味深い内容の1枚だ。

ポップしなないでの代表曲と言える①は日常の隣にあるファンタジーをユーモラスに表現しており、可愛らしくも切ない余韻が残る。②はポップなリズムとサビのはっちゃけた歌唱がインパクト大の不思議で奇妙なポップソング。イマジネーションを掻き立てる意味深な歌詞も面白い。③は可愛らしいパートからやさぐれたカッコ良さが光るサビへの展開が秀逸。⑥は夜にぴったりのメランコリックな切なさ全開だが、それと同時に前向きになれる力強さも与えてくれる感動的なナンバー。⑨は言葉遊び的なセンスのリリックとキャッチ―なリズムの殷踏みが印象に残るユニークなポエトリー楽曲。⑪は吉幾三の『俺ら東京さ行くだ』をオマージュしたと思われるパートのインパクトが凄いが、ポップかつねじれた世界観はハードSFのようで唯一無二の存在感がある。

力強い言葉をポップなリズムで歌っているので中毒性が非常に高く、歌詞など随所にインテリジェンスの高さを感じてしまうという不思議な魅力がある。一風変わった音楽性ではあるが、ポップミュージックとしての強度があるのが素晴らしい。

春愁秋思|空気公団

2011/2/16 フワリスタジオ

1. まとめを読まないままにして
2. 春が来ました
3. だんだん
4. 毎日はカノン
5. 絵の具
6. 僕ら待ち人
7. 日寂
8. 文字のないページ
9. 春愁秋思
10. なんとなく今日の為に

1997年に結成されたポップロックバンド「空気公団」の6枚目となるアルバム。はっぴいえんどからの流れを感じさせる日本の『歌』を大切にした作風で、何気ない日常の美しさを表現した楽曲がボーカルの山崎ゆかりの飾らない声で歌われている。普段の生活にそっと寄り添ってくれるような温かさがある良質なポップスに心が癒される1枚。

冒頭①から心地良い空気感のソフトロックなサウンドと山崎ゆかりの優しい歌声に心が和む。歌詞は印象に残るような言葉を上手く選んでおり、メロディーへの乗せ方も優れている。
②は春の訪れを爽やかな風のように表現したノスタルジックな歌で、ソフトながらも躍動感を感じるサウンドや美しいボーカルワークなど絶品である。③はのんびりとした雰囲気の歌モノだが、鋭い歌詞など前向きなメッセージに元気を貰える。⑤はピアノ伴奏を主体とした切ない歌声が光る曲。リバーブが効果的に響き、幻想的な空間に連れて行ってくれる。⑨は街の風景が浮かぶような季節感と心にふと感じる寂しさを叙情的に表現している。誰もが感じたことのある情感を美しい音色で紡ぎ出しており秀逸。
⑩は変わらない毎日の中に小さな幸せを見つけて、自己肯定できる勇気を貰えるメッセージが心に刺さる。さりげなく傍にいてくれるような柔らかさと芯の強さを併せ持つ名曲である。

街の風景やそこに生きる人の情感など、都会的なセンスを感じるアルバムであるが、格好つけたような所はなく、あくまで自然体で作られているので耳にスッと馴染んでくる魅力がある。

シー・ガット・ザ・ブルース|microstar

2016/7/20  VIVID SOUND/HIGH CONTRAST

1. Chocolate Baby
2. Tiny Spark
3. 月のパレス
4. 友達になろう
5. My Baby
6. 夕暮れガール (Album Mix)
7. 私たちは恋をする
8. She Got The Blues
9. 夜間飛行
10. おやすみ

渋谷系音楽ユニット「nice music」の佐藤清喜とボーカル飯泉裕子による音楽ユニット「microstar」(マイクロスター)のセカンドアルバム。1996年に結成されたという長いキャリアを誇るが2008年に1stアルバムを発表しており、近年多方面で高評価を得ている良質なポップユニットである。シティポップや渋谷系として語られるような都会的なオシャレポップスで、その卓越したポップセンスがふんだんに詰まった1枚。

冒頭①からウキウキするリズム、ご機嫌なメロディー、飯泉裕子の上品なボーカルとメリハリのある力強いポップネスが全開で、高揚感が得られる。耳への馴染みやすさなどお手本のようなグッドミュージックである。続く②も才気を感じさせる楽曲センスが光り、ワクワクするポップソングに胸躍る。③は爽やかな胸をキュンとさせるビートと歌声に自然と笑顔になれる。⑥は絵に描いたような王道シティポップのキラーチューン。普遍的なポップミュージックの魅力を大切しており、泣き笑いのようなセンスも印象的で素晴らしい。アルバムタイトル曲⑧はナイアガラサウンドのエモーショナルなバラード。いいバラード曲の教科書に乗りそうな職人芸が堪能できる。⑨は情景が浮かぶようなロマンティックな叙情性と美しさに心が洗われる素敵な1曲。ストレートに曲が良いのはもちろんこと、しっかりと情緒を含み表現されている世界観は胸の奥を刺激する。

とにかく全編に渡り曲が良いの一言に尽きる。シティポップ系女性ボーカル曲の理想形と言えるような完成度の高い内容だ。ある意味では似たような曲が多いのも事実だが、小難しさ抜きにこれだけいい曲ばかり聴かせてくれるのは凄いことである。

Little Gang Of The Universe|INSTANT CYTRON

2021/7/7    GT music

1. Ma petite fille
2. Little gang of the world (Dreamsville Version)
3. Playtime’ll be over
4. Love your way
5. Happy puppy in the desolation
6. My melodies
7. Christmas kills me
8. Stylissimo!
9. Good day broken heart
10. Jolly fellows
11. Lullaby in winter (bonus track)
12. Sing along (with your heart) (bonus track)

片岡知子と長瀬五郎の2人組の音楽ユニット「INSTANT CYTRON」(インスタントシトロン)。本作は2000年にリリースされた3枚目のアルバムをリマスターしてボーナストラックを加えて再発したもの。片岡知子の上品でキュートなボーカルを軸としたギターポップ、ソフトロック、ラウンジなどの幅広い音楽要素を含んだ渋谷系ポップロックである。ゲストにNRBQのメンバーが参加した楽曲もあり、その類い稀なポップセンスが冴えわたる1枚。

①はおもちゃ箱をひっくり返したようなトイポップサウンドの可愛らしいナンバー。ドリーミーという言葉がぴったりと合う聴けば笑顔になれる1曲だ。②はのんびりとした雰囲気と小さな幸せをみつけたようなビートが心地良く響き、メロディーセンスの良さとそれを最大限に生かす片岡知子キュートな歌声が最高である。③はアコースティックなサウンドのふんわりとした空気感の可愛らしい歌で、みんなのうたのような親しみやすさがある。⑥はカフェでまったりするようなオシャレで可愛らしいサウンド&温かいメロディーに優しく癒される歌声という上質な女性ボーカルポップのお手本のような曲。⑦はアレンジの良さが光るクリスマスソングで、切ないボーカルとスペーシーなサウンドに引き込まれる。⑨はカントリーミュージック風の軽快なビートが気持ち良く響く、陽気だがどこか切ない雰囲気もあるナンバー。ボーナストラック⑪⑫も本編の流れのままの完成度の高い楽曲が楽しめてお得である。

サウンドやメロディーの良さはもちろんこと、元気や癒しを与えてくれるような片岡知子のチャーミングな歌声が素晴らしい。まさにグッドミュージックと呼べる曲がふんだんに楽しめる内容である。

Chilli Beans.|Chilli Beans.

2022/7/13 A.S.A.B

1. School
2. lemonade
3. It’s ME
4. This Way
5. neck
6. アンドロン
7. マイボーイ
8. L.I.B
9. Tremolo
10. HAPPY END
11. blue berry
12. Vacance
13. シェキララ
14. call my name

YUIやVaundyを輩出した『音楽塾ヴォイス』の生徒だったMoto、Maika、Lilyの3人で2019年に結成されたガールズバンド「Chilli Beans.」の1stフルアルバム。レトロな感覚のガレージロックから現代風のエレクトロポップまで幅広い洗練された楽曲とMotoのクールだが静かな熱を感じるボーカルなど、アメリカのガールズバンドHaimにも通じるスタイリシュな踊れるガールズポップがふんだんに楽しめる1枚。

まず注目はVaundyとの共作で話題になった②と⑥である。②はChilli Beans.のブレイク曲となったキラーチューンで、シンプルなロックビートと抜群のポップネスが、耳にスッと入り馴染んでくる。メロディ―センスや楽曲の良さを最大限に引き出すボーカルなどJ-POPだけではなく洋楽エッセンスを上手く吸収した旋律を聴かせてくれる。⑥はシンプルだがダイナミックなサウンド&メロディーが大きなうねりを生み出す良質なガールズポップのお手本のような佳曲。他にも気だるい日常を突き抜けようとするようなレトロな感覚の青春ロック①、やさぐれ感とオシャレ感が同居するボーカルとギターリフが印象的な③、飾らない魅力が溢れる小気味よい⑦、Chilli Beans.流のシティポップという感じの⑨、メロディーセンスが光る、チャーミングで爽快感がある⑩など良い曲揃い。

いわゆるルーズな部分が魅力となるガールズバンドも多いが、フレッシュな雰囲気を持ちながらも熟練を感じるほどの完成度の高い音楽性は素晴らしいの一言。無駄を削ぎ落としたシンプルなサウンドが、メロディーの良さとボーカルの声質と上手くマッチしている傑作アルバムである。

Me|AliA

2021/12/22  SLIDE SUNSET

1. 天気予報
2. ノスタルジア
3. まあいっか
4. ケセラセラ
5. 翼が生えたなら
6. 100年に一度のこの夜に
7. impulse
8. equal
9. かくれんぼ
10. あかり
11. おにごっこ
12. SLIDE SUNSET
13. Me

2018年に結成された男女混合のロックバンド「AliA」の1stフルアルバム。ロックやクラシックなど様々なルーツを持つメンバー全員が主役であるという意味合いの『ハイブリッドロックバンド』をコンセプトにしている。キーボートとヴァイオリン含む編成でエモーショナルなビートを鳴らし、情緒たっぷりに歌い上げるAYAMEのボーカルの熱量も凄い。どこか懐かしい感じがする普遍的なポップロックの魅力を追求している作風はストレートで好感が持てる。またメンバーはアイドルグループ「yosugala」への楽曲提供を行うなど多方面で活躍しておりその才能を発揮している。

冒頭①は温かいサウンド&メロディーと感情豊かに歌われる前向きなメッセージに勇気づけられる。曇り空から青空に突き抜けるような旋律は心に感動的に響く。②はエモロック風のJ-POPという感じで、ヴァイオリンなどのシンフォニックなサウンドと王道感溢れるフレッシュな歌メロは一聴して耳に残るものだ。⑥は哀愁漂うメロディーを美しく歌い上げており、ハードロック調のギターとヴァイオリンの絡みも良い。⑦はアニソンやメロコア風のキャッチ―なメロディー&全身全霊の熱いボーカルが力強く疾走する。
⑨はアニメのMAD動画に使われることが多い人気曲で、AliAの真骨頂と言える速いテンポで畳みかける壮大なサウンドと叙情的なメロディーを歌う【エモい】としか言いようがない熱唱がドラマチックに迫る名曲。他の楽曲にも言えることだが、曲の最初から最後までここまでキャッチ―で盛り上がるのは普通に凄い。ポップミュージックの快楽原則を大切にしているバンドと言えるだろう。⑪は泣きのメロディーと力強く歌い上げるボーカルに心地良さがありいつまでも浸っていたくなる。⑫は王道感ある心に沁みる必殺バラードで、アニメやゲームのエンディングテーマとしてすぐに使えそうなノスタルジックな女性ボーカル曲として秀逸である。

とにかく日本人好みの哀愁漂うメロディーの楽曲を作るのが上手い。そしてそれにぴったりのAYAMEのエモーショナルな歌声はAliAの大きな魅力となっている。ノスタルジーやセンチメンタルな情感を直球で伝えてくれる熱い1枚だ。

ONE!|ネクライトーキー

2018/12/5 Necry Talkie

1. レイニーレイニー
2. こんがらがった!
3. めっちゃかわいいうた
4. タイフー!
5. 許せ!服部
6. オシャレ大作戦
7. がっかりされたくないな
8. だけじゃないBABY
9. ゆうな
10. 遠吠えのサンセット
11. 明日にだって
12. 夏の雷鳴

ロックバンド「ネクライトーキー」が2018年にインディーズでリリースした1stアルバム。バンド「コンテンポラリーな生活」やボカロP「石風呂」として活動していたギターの朝日が、女性ボーカルバンドをやるため2017年に結成。本作はそれまでに発表したシングルなどの既存曲はすべて新録されている。ボーカルを務めるもっさのチャーミングな可愛らしい歌声を生かした爽快なポップロックで、ちょっとひねくれた感じが面白いサウンドや脱力的な世界観など、渋谷系とアニソンを掛け合わせたようなユニークなパワーポップが楽しめる。

冒頭①からフレッシュな雰囲気と可愛らしさ全開の歌声に元気を貰える。手数の多いドラムやキッチュなキーボートの音色も楽しい。続く②はリズミカルなボーカルとメロディーの力強さが印象に残る。陰キャっぽい屈折した歌詞はユーモアセンスがあり、言葉をメロディーに乗せるのが上手い。③はタイトル通りひたすらかわいいうたであるが、ぶっ飛んだ歌詞や終盤の爆走などやけくそな感じが最高。⑤はユニコーンの『服部』オマージュしたと思われるコミカルで陽気な曲調だが、お金の貸し借りに関する身も蓋もないことを言ってしまう歌詞は、皮肉が効いておりメタな視点が冴えている。
⑥はもっさのチャーミングな魅力が全開の歌声と目まぐるしいキャッチ―な演奏が気分を上げてくれる。一緒に歌えそうなメロディーは親しみやすさがあり、劣等感をキュートに昇華して突き抜けるような爽快感を与えてくれる。
⑧はおもちゃ箱をひっくり返したようなキラキラしたサウンドと明るい歌声とは裏腹に、趣味などの現実逃避は楽しいが、しっかりと現実に向き合わななければならない時があるというリアルが胸に突き刺さる。⑨はノスタルジックなバラードで、もっさが声が可愛いだけでなく、歌唱力があることがよくわかる。ラスト⑫はアコースティックギター主体のシンプルな演奏から徐々に音数が増えて盛り上がるドラマチックな曲。叙情的で大きなうねりを生み出すメロディーが素晴らしい。

キャッチ―で中毒性がある曲が多く収録されており何度もリピートしてしまう魅力がある。キュートなだけでなく、文学的な歌詞やメロディーへの言葉の乗せ方など、日本語ロックとしても優れており、何より女性ボーカルバンドの重要な要素である好感が持てる雰囲気を持っているのが良い。

そういうことだった|マイミーンズ

2014/5/1 MYMEANS

1. そういうことだった
2. short days
3. 歩くような速さで
4. ハローグッバイハロー

音楽シーンに多大な影響を与えたロックバンド「ハヌマーン」解散後にメンバーであったベースの大久保恵理を中心に結成された「マイミーンズ」。本作は初リリースとなった4曲入りのCD。グッドメロディーと生々しいサウンドの音色や伸びやかで清涼感ある大久保恵理のボーカルなど、良質なポップセンスが光るギターロックである。

冒頭①はマイミーンズの代表曲となった女性ボーカルパワーポップの名曲。プリミティブなギターサウンドと親しみやすいメロディーを歌う飾らない素直なボーカルが良い。カラフルで爽快なビートはすぐに耳に馴染むもので、何度もリピートしてしまう魅力がある。
②は直球の青春ギターロック!という感じで、印象に残る痙攣するギターの音色や青空を見上げるような伸びやかな歌声が元気を与えてくれる。③は情景が浮かぶようなノスタルジックな旋律が胸に刺さる。淡々としながらも微妙な感情を伝える歌声など非常にエモーショナルな味わいがある。④は柔らかいメロディーやビートが爽やかな風のような心地良さを運んでくれる。ギターポップっぽいのんびりとした雰囲気は疲れた心を癒してくれる。

聴けば前向きな気持ちになれる良い曲揃いで、女性ボーカルのインディーロックとして文句なしの好盤。フルアルバムをリリースしていないのが残念だが、等身大のポップロックに胸がときめくこと間違いなしだ。

潮騒のうた|BELL&ACCORDIONS

2000/9/20 アンサンブル/Daizy Woods

1. 潮騒のうた
2. プロテストソング
3. HIMAWARI
4. STARZ
5. 空の重さ
6. 潮騒のうた(Chinese Version)
7. 潮騒のうた(Instrumental)

1980年代から活動しているロックバンド「ピカソ」とボーカル「かがわひろみ」によるバンド「BELL&ACCORDIONS」の1stミニアルバム。本作収録の『潮騒のうた』が1999年にNHKみんなのうたで使用されて人気となったことで知られている。かがわひろみの上品で真面目な印象を残すボーカルや哀愁漂う叙情的なロックサウンドと日本の正統派ポップスとして優れている歌メロなど、完成度の高い良質なポップソングを聴くことができる。

前述の①はやはり本作の白眉と言える名曲である。これでもかと叙情的なサウンドと歌謡曲っぽい切ないメロディーが鳴り響いており、歌声の真っ直ぐさや日本語として美しい歌詞などまさにこれぞ【日本の歌】という感じだ。
②はアコースティックサウンドのゆったりとしたパートからサビに向かって壮大に盛り上がる感動的なナンバー。日本人好みの叙情的なメロディーとシンフォニックな曲展開が大きなうねりを生み出している。④は幻想的なサウンドと歌謡的な歌メロを上手く組み合わせた切なさ爆発する曲。特にサビの泣きのメロディーは普遍的な感動を届けてくれるもので、情緒たっぷりに歌い上げるボーカルも良い。⑤も日本の歌謡ポップスとして印象に残る曲で、懐かしさを感じるメロディーは口ずさみたくなる親しみやすさがある。⑥は『潮騒のうた』の中国語ヴァージョンで、サウンドも中華風のアレンジになっているのが面白い。

基本的には冒頭の『潮騒のうた』と同タイプの曲が続くので、みんなうたで気に入った人が聴いたら満足できるように制作してあると感じる。日本人好みである哀愁の歌メロや叙情的なサウンドがふんだんに楽しめる1枚だ。

In your fragrance|クレナズム

2019/12/18 MMM RECORDS

1. 花弁
2. 夜に溺れて
3. 鯨の鳴き声
4. いつかの今頃
5. 月のようで
6. ヘルシンキの夢

2018年に福岡で結成されたロックバンド「クレナズム」の2枚目となるミニアルバム。
シューゲイザーやドリームポップを基調としたサウンドで、浮遊感のある轟音ギターとボーカルを務める萌映の実直な歌声がストレートに心に響く。きのこ帝国からの影響もありそうで、メロディーは王道的なJ-POPという感じなので親しみやすさがある。淡く切ない感傷にたっぷりと浸らせてくれる内容である。

冒頭①はMy Bloody Valentine直系の轟音ギターが響き渡り、ドリーミーな切ない歌メロとメランコリックな空気が漂う儚い歌声にどっぷりと浸らせてくれる。雰囲気抜群のポップソングとしてよく出来ており、何度もリピートしてしまう魅力がある。③はシューゲイザーとして秀逸なノイジーなギターと美しい歌が見事に調和しており、ノスタルジックな感情に包まれるような聴き心地の良さがある。④は幻想的な萌映のボーカルと眩いギターサウンドがトリップ感を与えてくれる。
ラスト⑥は煌びやかなサウンドで疾走し、エモーショナルなメロディーと透明感あるボーカルが鋭く胸を突き刺す。本作の中でも特にストレートな作風だが、王道的な旋律は最高に気持ちの良い高揚感が得られる。

曲調に違いはあるが、どれもこのバンドのカラーが感じられるもので、表現したい世界観は統一されている印象。女性ボーカルのギターロックが好きならおすすめできる1枚である。

月明かりのせいにして|aquarifa

2013/7/10 redrec/sputniklab.inc

1. はじまりのおわり
2. Alice Blue
3. Self-harm
4. 水平線のむこうがわ
5. バーミリオンキッチン
6. 36.5℃
7. 幼い靴
8. switch

オルタナティヴロックバンド「aquarifa」の2枚目となるミニアルバム。シューゲイザーやエモコアに影響を受けたと思われる幻想的で浮遊感あるギターロックで、ボーカルを務める岩田真知の特徴的な声で歌われる内省的な世界観や繊細な感情表現は個性的で中毒性が高い。

アンビエントな小曲の①に続く②は、力強く荒々しい演奏でメロディックに疾走するエモロック。③はダークな世界観で疾走し、メロディックなビートや透明感のある歌声が印象に残る。メンヘラチックな苦悩に満ちた歌詞など暗いムードと勢いのあるバンドサウンドのバランスが良い。
④は可愛らしくもナイーブな歌声や切なさ爆発の旋律などメランコリックな世界観に気持ち良く浸らせてくれる名曲。緩急あるサウンドも良いし、美しいメロディーを感傷的に歌い上げる岩田真知の声が胸に迫る。⑦は王道的なミドルテンポのギターロックバラードで、期待を裏切らない静から動へのエモーショナルな展開が楽しめる。代表曲⑧はノイジーな轟音ギターとキュートなボイスの組み合わせを違和感なく聴かせくれて、爽快な気分になれるだろう。

轟音ロックにふんわりとした女性ボーカルが同居するという好きな人には堪らない作風である。サウンドはハードだが不思議なふわふわ感が心に安らぎを与えてくれる1枚だ。

GREATEST HITS 2011-2017“ALTER EGO”|EGOIST

2017/12/27 SACRA MUSIC

1. 英雄 運命の詩
2. Welcome to the *fam
3. KABANERI OF THE IRON FORTRESS
4. Door
5. Ghost of a smile
6. リローデッド
7. s
8. 好きと言われた日
9. All Alone With You
10. カナデナル
11. 名前のない怪物
12. Planetes
13. The Everlasting Guilty Crown
14. エウテルペ
15. Departures ~あなたにおくるアイの歌~
16. Departures ~あなたにおくるアイの歌~ (Acoustic Ver.) -Bonus Track-

「EGOIST」はテレビアニメ『ギルティクラウン』に登場する架空の音楽グループで、アニメ終了後も2023年まで活動していた。本作は2017年リリースのアニメタイアップ曲をふんだんに収録した良いとこ取りのベスト盤である。プロデュースと楽曲はsupercellのryoが手掛けており、打ち込みサウンドを主体とした幻想的でシンフォニックな楽曲とボーカルを務めるchellyのカリスマ性ある歌声が魅力である。ryoの音楽家としての才能が存分に発揮されており、Supercell同様にアニメ系女性ボーカルグループでは最高品質の内容で聴きごたえたっぷり。

冒頭①から壮大な物語が幕を開けるようなシンフォニックな旋律が全開。Sound Horizonや妖精帝國に通じる日本ならではのオタク文化を消化したファンタジックな物語性のある女性ボーカル曲が楽しめる。③も凄まじくスケールがでかいサウンドやメロディーが印象的で、ゴシックロックっぽい耽美な世界観がこれでもかと盛り上がる。⑤はピアノ伴奏で歌うシンプルな構成ゆえにchellyの美しい歌声の魅力がよく伝わる。儚くやるせない雰囲気は胸を打つものがあり、文句なしの絶品のバラードである。
⑥はEDM感あるメロウなダンスポップで、サウンドは細部までよく作り込んである印象だ。
⑦もEDM色が強いスタイリッシュなエレクトロポップでカッコいい。⑪はヘヴィなサウンドとダークな雰囲気に引き込まれる。特にサビのメロディーは一度聴けば耳に残るもので秀逸。 
⑬は人類規模の壮大な歌詞やドラマチックなメロディー展開など、『超ド級のシンフォニックがここに極まる』という感じのインパクトある曲だ。プログレのような複雑な曲構成というわけではないが、とにかく壮大なスケールで圧倒的な盛り上がり見せる、まさにアニソンの名曲。

さすがryoという感じの印象に残るサウンドやメロディーはさすがの一言。そして何よりchellyの声質がとても良く、ずっと聴いていられる心地良さがある。

Reflect|17歳とベルリンの壁

2017/5/3 

1. 地上の花
2. プリズム
3. 反響室
4. 窓際
5. 平面体
6. ハッピーエンド

2013年に結成された男女ツインボーカルロックバンド「17歳とベルリンの壁」の2枚目となるミニアルバム。シューゲイザーやドリームポップに影響を受けたギターロックで、青春の儚さや尊さを透明感あるサウンドや歌声で表現しており、直球のイノセンスが心に潤いをもたらしてくれる。

冒頭①は重厚な轟音ギターとダウナーな男女ツインボーカルにより、メランコリックな世界観に引き込まれる。サウンドやメロディーの美しさや浮遊感は特筆すべきもあり非常に完成度が高い。②は女性ボーカルシューゲイザーのキラーチューンで、唸りをあげるギターが生み出す浮遊感と揺らぎ、爽やかな歌声など文句なしの逸品。③はギターポップセンスある煌びやかな音やキュートな歌声が清涼感に溢れており、このバンドのポップセンスが光っている名曲。きらきらした光が差し込むような旋律は何度聴いても新鮮な感動があり、初恋のようなときめきが眩しい1曲である。ラスト⑥は③と同じく持ち前のポップセンスが遺憾なく発揮されており、小気味よいメロディックなギターが爽快な青春ロックに胸躍る。

ハードなロックからポップな曲まで粒ぞろいの楽曲が収録されている力作。特に③⑥のようなポップな音響はフレッシュな雰囲気で清々しい気分を届けてくれる。

kimi wo omotte iru|kurayamisaka

2022/10/2 tomoran

1 theme (kimi wo omotte iru)
2 cinema paradiso
3 seasons
4 last dance
5 farewell
6 curtain call
7 さあ冒険だ [bonus track]

2021年に結成された5人組のロックバンド「kurayamisaka」のEP作品。Twitterにアップした曲が話題となり、一気にインディーロック注目のバンドとなった。ノイジーな轟音ギターに透明感ある女性ボーカルという王道的なスタイルのシューゲイザーで、ボーカルを務める内藤さちのアンニュイな雰囲気の歌声や爽快感あるメロディックなビートなど、女性ボーカルのギターロックとしては申し分ない魅力がある。

冒頭①は1分に満たない短曲だが、このバンドのやりたい方向性が充分に伝わってくる。続く②はメロディーセンスの良さが光るミドルテンポのエモロックで、ノイジーなギターサウンドとセンチメンタルな感情を刺激する歌声がとても良い。③は疾走感溢れる小気味いい演奏とポップスとしても優れている歌メロが理屈抜きに気分を高揚させてくれる。爽快なスピード感と哀愁のメロディーは、パワーポップやメロコアなどに通じる無敵感あるもの。⑤も③と同じく轟音ギターとフックのあるメロディーで疾走し、J-POP度数が高い歌メロや気怠い空気を生み出す歌唱が良い。⑥は暴力的なギターサウンドの中で浮かび上がってくる透明感あるボーカルが耳に心地よく響く。⑦は『ポンキッキーズ』で使用された和田アキ子の曲をカバーしている。可愛らしい素敵な出来で心がほっこりとする。

ハードなギターサウンドとポップネスが絶妙なバランスで成立しており、とにかく聴いていて気持ちが良い。インディーロックの枠には収まらず、大衆的な人気も獲得できそうなグッドミュージックである。

天使のいない街で|Blurred City Lights

2024/2/17

1. 流星の子守唄
2. 蜃気楼
3. 花束
4. 夢際
5. Orange
6. 帰路
7. 回葬
8. saisei no hoshi
9. 彗星
10. 夜明け
11. 始発列車
12. citylights

2022年に名古屋で結成されたシューゲイザーバンド「Blurred City Lights」の1stアルバム。
轟音ギターと透明感ある女性ボーカルというインディーロックの王道スタイルだが、他と大きく違う点として表現している世界観が『セカイ系』であることである。刹那的な美しさが儚い箱庭的な世界観は、幻想浮遊系と呼ばれるアーティスト達やアニメ/ゲーム系音楽に親和性があるものだが、インディーズ系ならではのラフなサウンドや飾らない歌声は自然体の魅力がある。

タイトル通り子守歌のような優しい歌に癒される短曲①に続く②は、ノイジーな轟音ギターとボーカル神谷の繊細で美しい歌声の組み合わせが切ない揺らぎを生み出しており、幻想的な甘い感傷に気持ち良く浸ることができる。③は静から動へとドラマチックに展開するエモロックで、特に静パートのキュートなウィスパーボイスが儚くて良い。④はノイズギターと透明感ある歌声が幽玄な世界に誘ってくれる。⑦はメランコリックな雰囲気全開で、ギターの音色のカッコ良さが印象に残る。
⑨はタイトル通り彗星という感じの鮮やかなギターサウンドや叙情的なメロディーがセンチメンタルな感情を刺激する。夜空を浮遊するようなトリップ感は心地良いもので秀逸である。
⑩はピアノを中心とした美しいサウンドと刹那的な感情を伝える歌声に心揺らされる。バラード曲なので神谷のボーカルの良さをじっくりと感じることができる。
ラスト⑫はポストロックとシティポップを掛け合わせたようなノスタルジックな曲で、情景が浮かんでくるメロディーと歌声、サウンドのエモさは特筆すべきものがある。超ド級の切なさが胸を貫く名曲である。

数多くいるシューゲイザー系バンドの中でも一風変わった個性があるバンドと言えるだろう。自分達が表現したい世界観へのこだわりが感じられるのが良い。独創性があり耳を惹きつけること間違いなしの傑作アルバムである。

wind surfing school|cephalo

2024/5/22

1. NocturnE
2. 夜窓
3. cinnamon
4. アコンドライト
5. phew

2023年に結成されたロックバンド「cephalo」の初となるEP作品。
音楽性はシューゲイザーやドリームポップに影響を受けたと思われるギターロックで、デビューEPにも関わらず完成度が高い内容で、すでに貫禄ある存在感を示す1枚となっている。女性ボーカルシューゲイズ勢の中でも大人っぽい渋い作風で、透明感あるサウンドとボーカルfukiのアンニュイな雰囲気漂う歌声が織りなす暗い海を彷徨うような世界観は、奥深い魅力がある。サウンドは違うが歌声や空気感はSalyuやAimerに通じるものがあり。

冒頭①からfuki独自の情緒たっぷりな歌い回しと内省的な世界観が耳を捉える。ソフトな演奏なので、気怠いムードの中で様々な感情を伝える歌声の魅力がじっくりと楽しめる。
本作のリードトラックとなる②は、ノイジーな轟音ギターと雰囲気抜群の歌が絶妙なバランスで成り立つキラーチューン。ギター音色が聴き心地よく響き渡り、情景から空気や匂いまで伝わる優れた表現力はポップソングとしても極上である。③はメロディックに疾走しする爽やかな曲で、やはりギターの美しい音響が良い。
⑤はまったりとした雰囲気やメロウなギターが心に癒しを与えてくれるポストロック風味のエモロック。

新人バンドとは思えない成熟した内容で、シティポップ的でもある都会的な洗練された楽曲は出来が良く、それを盛り上げる歌声も素晴らしい。またギターの音色が美しいのが大きなポイントで、本作の大きな魅力となっている。

dayflower|mel

2020/11/6

1. Yours
2. See You Never
3. Haze
4. Ghost
5. This Moment

2019年に札幌で結成されたロックバンド「mel」の1stEP。シューゲイザーやドリームポップに影響を受けたと思われる美しいギターサウンドやアンニュイな雰囲気の歌声が特徴的な女性ボーカルインディーロックである。直球のギターロック路線でありながらも、ギターのドリーミーな音響が素晴らしくて、気持ちの良いトリップ感を与えてくれる。

ギターが鳴り響いた瞬間にいい曲だと分かる①は、本作のリードトラックとなるキラーチューン。煌びやかなギターの音色などの、音響が優れているサウンドは強烈に耳を捉えるもので、淡々とした歌声やメロディーも親しみやすいので、一聴してドリーミーな世界観に引き込まれること間違いなし。②もイントロのギターリフからの歌いだしからして良い曲だと確信できる切ないエモロック。楽曲が派手なわけではないが、単純に初聴きで『これは!』と思える音作りはさすが。③は叙情的なメロディーセンスや透明感ある歌声が光るミドルテンポのナンバー。メランコリックな世界観を盛り上げるギターと物憂げなボーカルが心地良く響き文句なしの逸品。⑤はノイジーな轟音ギターでパワフルに疾走するシューゲイズな1曲。気持ち良く聴くことができる歪んだギター音色は中毒性があり、何度もリピートしてしまう魅力がある。

サウンドの良さは特筆すべきものがあり、ボーカルも主張しすぎずに音に上手く溶け込んでいる印象である。随所に音楽センスの良さを感じる部分があり、可能性に満ちた輝きを感じることができる1枚だ。

dawn praise the world|toddle

2007/6/8 World Wide Waddle

1. colonnade
2. sack dress
3. recollection
4. in a balloon
5. gulp it down
6. step with the gloom
7. callgram
8. wind chimes
9. dawn praise the world
10. ode to joy

NUMBER GIRL解散後にギターの田渕ひさ子が結成したロックバンド「Toddle」の2枚目となるアルバム。プロデュースは吉村秀樹(bloodthirsty butchers)。ナンバーガールの流れを受け継ぐオルタナティブロック路線で、轟音ギターと飾らない歌声がダイレクトに心に響いてくる、淡く儚いギターロックである。ボーカルは透明感ある歌声の田渕ひさ子と可愛らしい声質の小林愛の2人が担当している。女性ならではの柔らかいセンスが随所に感じられて、メロディックなロックとしても秀逸な内容である。

冒頭①から田渕ひさ子の透き通った歌声と揺らぐイメージが浮かぶメロディックな旋律が耳を捉える。NUMBER GIRLではボーカルを取ることはなかった彼女だが、素直で真っ直ぐな印象を残すボーカルは心に安らぎを与えてくれるもので、浮遊感あるギターロックにぴったりの女性ボーカルだ。続く②は孤独感を伝える憂いを含んだ歌と繊細なサウンドがメロディーと上手く調和している。淡々としながらも非常にエモーショナルであり、静かに燃え上がる青い炎のような熱を感じるナンバー。③は爽やかに疾走し、どこかセンチメンタルな情緒と、小林愛の物憂げなキュートな歌声が素敵。⑤は細部まで作り込んで組んである力強いバンドグルーヴが良い。⑥は印象に残るギターリフなどパンキッシュに弾けている。アルバムタイトル曲⑨は、小林愛の呟くような可愛らしい歌声の魅力によるものか、ギターポップと言ってもさしつかえない優しいナンバー。

女性ボーカルのギターロックとしてはポップセンスあるキラーチューンが連発される充実したアルバムである。田渕ひさ子と小林愛のツインボーカルで、それぞれ異なる個性が発揮されているので、飽きずに聴ける傑作アルバムである。

cocoro|PLASTIC GIRL IN CLOSET

2011/7/6 Only Feedback Record

1. Pretty Little Bag
2. Raspberry Plant
3. Rabbit House
4. Stompin’+Swingin’
5. Animal Brooch
6. Pearl
7. Collage Flowers
8. Lip Stick
9. Swimmer
10. Take me away
11. Tiny Tambourines
12. KIDS

岩手県出身のシューゲイザー/ドリームポップバンド「PLASTIC GIRL IN CLOSET」の2枚目となるアルバム。
須貝彩子と高橋祐二の男女ツインボーカルやノイジーな轟音ギターとセンチメンタルなメロディーが織りなすドリーミーな浮遊感が心に潤いを与えてくれるギターロックである。SUPERCARにも通じる感傷にどっぷり浸れる曲の数々はポップセンスを感じるもので、若さとイノセンスが走る1枚となっている。

冒頭①から清涼感溢れる煌びやかなサウンドと透明感あるボーカルに胸がキュンとなる。ギターポップエッセンスを感じる可愛らしい旋律は、インディーロックならではの魅力があるものだ。③はキュートな歌声や懐かしさを感じるメロディーでノスタルジックな気持ちになれる。ポップソングとしても優れており、心がほっこりするのでいつまでも聴いていたくなる名曲である。④はキュートでカオティックという感じの刺激的サウンドが耳に残る。⑤は幻想的な浮遊感が絶品で、上質なシューゲイザーが楽しめる。⑨はかなりハードな轟音サウンドで、浮世離れした美しさに酔うことができる。
⑪は音が鳴りだした瞬間に良い曲だと確信が持てる。大きなうねりをもたらすサウンド&メロディーが感傷の渦となって押し寄せてきて、とにかくエモいとしか形容しようがない。可愛らしくも切ないを体現する極上の逸品である。
⑫はウィスパーボイスで歌われるみんなのうた的な親しみやすいメロディーに癒される。

ノイジーながらもポップであることを意識したサウンド作りや抜群のメロディーセンスはさすがの一言で、まさにグッドミュージックと呼べるものである。センチメンタルなロックが聴きたいなら文句なしにおすすめできるバンドだ。

悪夢のような1 週間|ブランデー戦記

2024/8/21 JORYU RECORDS

1. Coming-of-age Story
2. 土曜日:高慢
3. 悪夢のような
4. Twin Ray
5. ストックホルムの箱

2022年に結成された3人組のロックバンド「ブランデー戦記」の2枚目となるEP作品。
YouTubeで公開した昭和歌謡風のロックナンバー『Musica』のMVが話題となり一気にインディーズシーンの注目のバンドとなった。音楽性はGO!GO!7188にも通じるガーレジロックという感じで、懐かしさを覚えるメロディーラインやボーカルを務める蓮月のキュートとワイルドの両方を併せ持つ歌声は一度聴けば病みつきになる魅力がある。

冒頭①はギターリフが非常に印象的で、美しい歌声と爽快なメロディックなビートに心が洗われる。青春の儚さや危うさが伝わる湿った空気感が絶妙な味わいのキラーチューンである。
②はヒリヒリとした焦燥感や切迫感を感じる渋い歌声と性急なロックビートに痺れる。
③はシティポップっぽい都会的な洗練されたポップロックで、オシャレで上質な雰囲気の歌声とラフな質感のサウンドが絶妙なバランスで成り立っている。⑤はちょっとやさぐれたインテリ女子という感じの歌唱や歌詞などの個性的な世界観が面白い。キャッチーなので親しみやすさがありながらも一風変わっているという、まさにサブカル音楽と呼びたくなる感じだ。

近年の女性ボーカルバンドの中でも耳を惹きつける存在感があり、オルタナティブロックとレトロな雰囲気を持つ歌の組み合わせは新鮮な魅力がある。大衆性も獲得できそうな路線ではあると思うので、今後の期待が高い注目のバンドである。

MILESTONE|Hysteric Blue

2002/2/20 Sony Records

1. キミと会う瞬間
2. ベイサイドベイビー
3. Party!
4. ちょっとゲンカ
5. Great Love
6. フラストレーション ミュージック
7. なみだ
8. ドントマインド
9. 路傍の人々
10. Reset me
11. Motive Power Live
12. 暖炉

1999年に発売したセカンドシングル『春〜spring〜』が大ヒットし、当時のJ-POP女性ボーカルバンドを代表する存在となった「Hysteric Blue」。本作は2002年リリースの4枚目となるアルバムである。
ボーカルTamaの声質やJUDY AND MARYと同じく佐久間正英がプロデュースを手掛けたこともあってか、フォロワー的な扱いをされていたが、実際には音楽性は似て非なるもの。
JUDY AND MARYがYUKIのキャラクター性が重要な要素となっているのに対して、Hysteric Blueはストレートに良質なポップロックを追求していた印象が強い。本作で聴けるボーカルTamaの青空に突き抜けるような元気な歌声を生かした爽快感溢れるパワーポップは完成度が高いもので、後続の女性ボーカルバンドに与えた影響は絶大なものと思われる。

冒頭①からメリハリのあるパワフルなロックサウンドが鳴り響き、フックのあるメロディーのパワーポップで気分爽快。Tamaのボーカルは可愛い声が魅力的なので、耳に馴染みやく、伸びやかなハイトーンボイスも女性ボーカルバンドとしては文句のないもの。
続く②もキレッキレの演奏とキャッチ―なビートにチャーミングな歌声という無敵感ある曲で、爽快感を与えてくれる。
⑤は当時インディーズシーンで盛り上がっていたスカコア/メロコア風の曲で、メーターを振り切ったパンキッシュな高揚感が得られる。
⑥はフラストレーションをキュートに昇華してくれて理屈抜きに元気が貰える。⑧はサビのメロディーが印象に残るものでクセになる良さがある。⑩は西海岸風の清涼感溢れる爽快な曲で、憂鬱を吹き飛ばし前向きな気持ちになれるHysteric Blueの魅力が詰まった名曲。

アルバム通してフレッシュな魅力に溢れており、ロックからバラードまで音楽的に共通するのは単純に楽曲の良さと元気が貰える歌声である。女性ボーカルバンドのポップロックとしては非常に完成度が高い非の打ち所が無い傑作アルバムである。

For Cherry Girls|THE ★SCANTY

2002/3/20 ユニバーサルミュージック

1. Home Girl
2. Promise List
3. レディースナイト
4. ウサミツ
5. Waist (Album Mix)
6. I □ U
7. ラブレターヒストリー (Album Mix)
8. Chocolate Day

2001年にモデルとして活動していたYOPPYを中心に結成されたガールズバンド「THE ★SCANTY」の1stアルバム。
コンセプトが『女の子の、女の子のための、女の子によるギャルバン』という女の子成分の高いポップミュージックへのこだわりを宣言していたバンドで、プロデュースは佐久間正英が担当している。佐久間正英が手掛けているのでもちろんJUDY AND MARYやHysteric Blueの流れをくむガールズロックで、YOPPYのキュートな歌声の魅力を最大限に引き出したカラフルなポップセンスが光る楽曲は未だに色褪せてはいない。

冒頭①からフレッシュに弾けるご機嫌なガールズロックが炸裂し、イカした女子ロックのギアが全開。②は軽快なリズムでパンキッシュに疾走する青春ロック。
③はキュートでカッコいいガールズバンドの理想を体現するキラーチューン。ギャルっぽいサバサバした感じとロックンロールの衝動性が上手くブレンドされており、突き抜けた明るさに元気を貰える。④は王道的なエモいバラードで、期待を裏切らず盛り上がる。
⑥はウキウキするキャッチ―なリズムとサビのどこか切ない歌メロが良い。パワーポップと呼べそうなダイナミックなビートは理屈抜きに爽快な気分になれるもの。⑧はバレンタインデーの乙女心をストレートに表現しており、キラキラしたメロディーや力強さを持つ可愛い歌声に胸がキュンとする。この曲もサビのメロディーが切ない余韻を残すのが良い。

キュートでカッコいい爽快なガールズロックが連発される内容で、佐久間正英らしいメリハリのあるサウンドプロデュースが素晴らしい。憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれるYOPPYのチャーミングな歌声にパワーを貰える1枚だ。

ORANGE JUICE|YUM!YUM!ORANGE

2004/8/25  DONA DONA RECORDINGS

1. SUNNY SUNDAY
2. 星のカケラ
3. CARTOON HEROES
4. MY JOURNEY
5. 葛飾ラプソディ→(ヤムヤムversion)
6. ★SMILE★
7. DON’T WORRY!
8. NOTHING SPECIAL
9. CHANGE MY LIFE
10. DON’T WORRY BE HAPPY

1999年に愛知県名古屋市で結成されたスカバンド「YUM!YUM!ORANGE」のセカンドアルバム。メロコア/スカコアシーン全盛のインディーズシーンで人気があったバンドで、本作収録のTVアニメ【こちら葛飾区亀有公園前派出所】のテーマ曲『葛飾ラプソディー~ヤムヤムVersion~』(堂島孝平のカバー曲)で一躍お茶の間にも名前が知れ渡った。キュートな歌声がばっちりとハマったパンキッシュに弾ける陽気なスカポップは爽快感に溢れており元気になれる魅力がある。

冒頭①からハッピーでご機嫌なスカビートで気分爽快。ボーカルKUMIの気風が良さそうな歌声がエネルギッシュで憂鬱な気分も吹き飛ぶ。続く②も陽気なリズムとチャーミングな歌で元気100倍。小難しさ抜きのロックサウンドとグッドメロディーはポップスとして良質である。③はデンマーク出身のダンスポップバンドAqua のカバー曲で、非常に可愛らしい出来となっており心が和む。
⑤は前述した堂島孝平のカバー曲で、しっとりとした原曲とはまったく違う大胆なアレンジに驚かされるが、陽気でハチャメチャな感じはこのバンドならではの名アレンジであり、ポップセンスの良さが光るカバーである。⑥は前向きな気持ちになれるメッセージに自然と笑顔になれるパワフルなポップチューン。⑨もポジティブなパワーがみなぎる歌声とサウンドがとにかく良い。⑩はスカの魅力を最大限に表現したキレのある演奏が楽しい。

当時の音楽シーンではスカコアという若者が好む音楽性にも関わらず、老若男女問わず楽しめるポップソングを作っているのが良い。オリジナル曲の良さはもちろん、カバー曲を完全に自分達のカラーにしてしまうセンスなど、そのポップネスがたっぷりと楽しめる1枚だ。

八紘一宇|SOFTBALL

2003/1/16 cutting edge

1. SHEENA IS THE MISSLE
2. PROSTRATE
3. HISTORY
4. NO FALL BACK
5. POLITICS
6. MOMENT
7. IGNITE
8. 故郷の空
9. VANITY GROUND
10. LEAPER
11. 童部-WARAWABE-
12. WHERE IS THE CRIME (Res Heads)
13. TOKOSHIENI (FRENZAL RHOMB)

1998年から2003年まで活動していたガールズパンクバンド「SOFTBALL」のラストアルバム。
当時インディーズシーンで盛り上がっていたメロコアバンドのひとつである。10代のガールズバンドであることや、当時あまりいなかった女性ボーカルのメロディックパンクということもあり大きな注目を集めたバンドだ。初期は王道の英詩メロコア路線であったが、徐々に日本語詩も増えて、楽曲のテーマが戦争などの社会的なメッセージ性が強いものに変化していった。とは言え音楽性自体は女性ボーカルの魅力を生かしたポップなパンクなので敷居は高くない。

②はお得意の英詩メロディックパンクで、初期の頃に比べて重厚になったサウンドは地に足のついた力強さを感じることができる。ボーカルMOEの歌声も自信に満ち溢れておりカッコいい。③は切ない歌い出しから疾走し、パンキッシュに弾けながらも真っ直ぐと歌われるメッセージに耳を奪われる。日本語詩を上手くビートに乗せている印象だ。⑥はオイ!という掛け声が熱い直球のパンクナンバー。⑦は美しいピアノ伴奏からパワフルに走りだすエモーショナルな曲で熱い。⑧はスコットランド民謡のメロディーに大和田建樹の詩を乗せた古典唱歌のカバー曲。若さと勢いあるロックの衝動性が土着的な歌と結びついて新鮮な感動がある。
⑪はこのバンドの真摯な姿勢が感じられる渾身の1曲。ただの軽快なパンクではなく、クセのあるメロディーや文学的な歌詞など独特のアクの強さがポイントで一風変わった魅力がある。

SOFTBALLの個性的なカラーを打ち出したパンクはこのラストアルバムでほぼ完成している。バンドは軽快なメロコアから始まり、本作のようなストイックなこだわりを感じるパンクに到達したのだ。ボーカルのMOEは解散後に「秋茜」を結成し、本作のような路線を更に突き詰めていくこととなる。

Underlight & Aftertime|downt

2024/3/6 P-VINE

1. underdrive
2. Whale
3. AM4:50
4. prank
5. Yda027
6. 煉獄ex
7. mizu ni naru
8. 8/31(Yda011)
9. 紆余
10. 111511
11. 13月

2021年に結成された3人組のロックバンド「downt」の1stフルアルバム。
ポストハードコアと呼べそうなヒリヒリとした緊張感のある尖った演奏とボーカル富樫ユイのドライな歌声が織りなすメランコリックな世界観はひたすら美しい。焦燥感を感じるざらついた音には渋い魅力がある。

冒頭①からギター、ベース、ドラムと各楽器の音響が絶妙に絡み合って凄まじい緊迫感を生み出しており、硬質な音と独白するようなボーカルに耳が釘付けになる。③はスロウテンポのメロウな雰囲気と儚い歌声がエモーショナルに響く。ドラマチックな盛り上がりを聴かせる演奏など完成度が高い。⑤はポエトリーする醒めたボーカルとアグレッシブな演奏の対比が面白い。静かに青い炎が燃えるような熱さがある。⑥はキャッチ―なリズムとダイナミックな演奏がカッコいい。⑦はポストロック/マスロック的な質感のサウンドに淡々した歌声が上手く溶け込んでいて良い。⑩は本作の中でもポップセンスを感じさせる軽快な曲で、downtの魅力が非常に分かりやすく伝わる。
⑪は8分を超える大曲で、リアルな感情が伝わる歌声とノイジーな轟音ギターが見事なコントラストを描くキラーチューン。J-POPバンドではないが、和的な音楽センスを感じる1曲である。

ギリギリのところで成立しているようなシリアスな雰囲気のサウンドがとにかくカッコいい。ボーカルも必要以上の自己主張はせずに、しっかりとサウンドにあったスタイルの歌唱をしているが良い。

Marble Town|Beachside talks 

2023/2/15 Dead Funny Records

1. Boring Train
2. Always
3. ダイヤモンド
4. Take me Down/Freedom
5. 時間の欠片
6. 海辺の話

2017年に大学のサークルで結成されたロックバンド「Beachside talks」の1stミニアルバム。結成当初は相対性理論のコピーバンドだったそうで、以後はシューゲイザー/ドリームポップ路線のオリジナルバンドとして活動している。
煌びやかなギターの音色、センチメンタルなメロディー、キュートなボーカルと三拍子揃ったギターポップ/ロックである。初々しい歌声と幻想的なサウンドが上手くマッチしており、瞬間の輝きをとらえた儚さとイノセンスが走る美しい旋律に心が洗われる1枚。

冒頭①から透明感あるギターサウンドと瑞々しい歌声に耳を奪われる。派手さはなく淡々とした印象だが、上品な聴き心地の良さがある。
②はギターポップエッセンスたっぷりのジャングリーなギターと可愛らしい歌声が青春の煌めきを見事に伝えてくれる。キラキラ眩い光に包まれる感覚がある一方で、どこか切なさを感じる儚さが良い。③も光が差し込むような煌びやかなギターと真っ直ぐなボーカルが絶妙に調和し、エバーグリーンな魅力にあふれている。
④はミドルテンポのノスタルジックなナンバーで、美しいサウンドと感情の揺れを捉えた生々しい歌声が心に突き刺さる。
⑥は本作の中でもキャッチ―な歌メロが親しみやすく、Beachside talksのポップな魅力がふんだんに詰まった1曲。青い季節の葛藤や迷いが切なく響き、忘れられない感傷の波に打たれる。

綺麗なサウンドの音色にキュートな歌声が上手く溶け込んでいる印象で非常に耳当たりが良い。一度聴けば自然にリピートしてしまう、まさにグッドミュージックと呼ぶにふさわしい内容である。

Drop You Vivid Colours|LUMINOUS ORANGE

2002/11/25 Tone Vendor

1. Drop You Vivid Colours
2. How High
3. the Sky
4. Turbo R
5. Give a Hint
6. Utatane no Hibi (I’ecume des jours)
7. Starred Leaf
8. Sun Ray
9. Mother Pearl
10. Rusty Wheel

1992年に結成されたロックバンド「LUMINOUS ORANGE」の4枚目となるアルバム。2002年以降は竹内里恵のソロプロジェクトとして活動しており、本作ではゲストとしてNUMBER GIRLのアヒト・イナザワと中尾憲太郎が参加している。
ノイジーな轟音ギターを中心としたハードなサウンドとメロウな旋律を歌い上げる上品で透明感あるボーカルが特徴的なギターロックである。基本的にはUKシューゲイザー路線であるがSonic Youthなどに代表されるUSオルタナティブロック色も強い作風だ。

冒頭①からこれぞシューゲイザーという感じの歪んだ轟音ギターが鳴り響き、暴力的な音が揺らめきながらメロディックに疾走する。エモーショナルなビートに対して淡々とした歌声という組み合わせが絶妙なコントラストを生み出している。続く②も力強く疾走し、唸るギターの音色とキュートなボーカルが爽快感を与えてくれる。この独自のポップ感はクセになる魅力がある。③はスペーシーな感覚の浮遊感が不思議な心地良さを与えてくれる。かなり凝っているサウンドの音色や鮮やかな曲展開などが記憶に残るもので素晴らしい出来である。④は爆走するノイジーなサイケデリックロックで、メーターを振り切った感じが凄まじくカッコいい。
⑦はMy Bloody Valentine直系のトリップ感の強い轟音ギターとポップな歌が上手くブレンドされており聴き心地が良い。女性ボーカルの耳当たりの良さを生かした必殺のギターロックである。⑧もハードな音響とメロディーのバランスが良いので聴きやすい。⑨はハードな作風の本作の中でもしっとりとした雰囲気のメロウな1曲。温かいメロディーを歌う竹内里恵のボーカルがじっくりと楽しめる。

日本で女性ボーカルのシューゲイザーやオルタナティブロックを標榜するバンドがほとんどいなかった時代から活動している先駆者であり、密度の濃いサウンドの完成度は凄いの一言。メロウで和的な部分はあるがJ-POP的な歌モノではないというところが、海外のシーンへの意識の高さを感じさせる、このバンドならではの独創性である。

FAREWELL YOUR TOWN|Laura day romance

2020/6/10 lforl

1. 季刊フィルム
2. 憧れの街
3. girl friend
4. worrying things
5. lookback&kicks
6. PM4
7. slumbers
8. float
9. radio
10. FAREWELL FAREWELL
11. good night
12. rendez-vous

2017年に早稲田大学の音楽サークルのメンバーで結成されたロックバンド「Laura day romance」の1stフルアルバム。
渋谷系からシティポップまで取り込んだスタイリッシュな音楽性は懐かしくも新しさを感じるもので、ボーカル井上花月の上品で可憐な歌声が心の奥のセンチメタルな感情を刺激する上質なポップロックである。
シングル『sad number』に代表されるインディーポップやサブカル系女性ボーカルポップ好きのツボを突きまくる楽曲センスは突出しており、近年の音楽シーンではかつてのadvantage Lucyのような間違いなく良い曲を発表してくれる安定感と存在感がある。

アコースティックな短曲①に続く②は、ストレートなポップスながらも緻密なサウンドや温かいメロディーを生き生きと歌う井上花月のボーカルが耳を捉える。のんびりとした雰囲気の中で楽しさや切なさといった感情を表情豊かに伝えてくれる。③はレトロな空気のサウンドが心地良くて、爽やかなセンチメンタリズムが心に沁みる。④は軽快に疾走するポップロックで、ギターポップやソフトロックエッセンスたっぷりのアグレッシブなサウンドは素晴らしいの一言。キュートな歌声、グッドメロディー、ご機嫌なロックサウンドと三拍子揃ったキラーチューンである。
⑤はウキウキするサウンドやハートフルなメロディーなどすべてが可愛らしい魅力を放つ1曲。⑦はアコースティックギター弾き語りに近い優しい歌で、シンプルな作風ゆえに井上花月の美しい歌声の魅力が際立っている。
⑩はノスタルジックな気持ちさせてくれる感傷的なセンスが光るポップチューン。
⑫は渋谷系やインディーポップなどの過去の女性ボーカルポップスの最良の部分が結晶化したような【音楽の魔法】と呼びたくなる旋律が胸に響く名曲である。

職人芸のような完成度が高いポップミュージックを作っているが、インディーズバンドならではの自然体の雰囲気や素直な歌声は好感が持てるもの。荒削りな部分が抜群のポップセンスと上手く結びついており、リアルな感情とポップスとしての強度を兼ね備えたグッドミュージックである。

SALE OF BROKEN DREAMS|Homecomings

2016/5/11 felicity

1. THEME FROM SALE OF BROKEN DREAMS
2. ALPHABET FLOATING IN THE BED
3. HURTS
4. DON’T WORRY BOYS
5. BLINDFOLD RIDE
6. MAYBE SOME OTHER TIME
7. ANOTHER NEW YEAR
8. MORE SONGS OF PAIN
9. PERFECT SOUNDS FOREVER
10. BUTTERSAND
11. CENTRAL PARK AUDIO TOUR
12. LIGHTS
13. BASEBALL SUNSET

本作は2012年に結成されたロックバンド「Homecomings」の2枚目となるフルアルバムである。
ギターポップなどのインディーポップのエッセンスがこれでもかと詰め込まれた楽曲は、心の奥にあるセンチメンタルな感情を刺激するもの。全曲英詩で歌われており、情景が浮かぶような雰囲気抜群のサウンド&メロディーや畳野彩加の飾らない歌声の美しさは特筆すべきものがある。派手さはないシンプルな作風にも関わらず、聴けば非常にドラマチックな余韻が残るのが素晴らしい。

良質な曲揃いの本作であるが、やはり代表曲のひとつである③は、特別な感傷を呼び起こす名曲である。青春時代に誰もが抱く葛藤や痛みをプリミティブなロックビートに昇華した切ない旋律は聴き手の心を強烈に捉える。好感が持てる等身大の雰囲気を保ちながらもポップミュージックとしての完成度も高い。⑫もこのバンドの真っ直ぐな姿勢が清々しく響くナンバーで、瑞々しい躍動感に胸が突き動かされる。
④は本作のリードトラックとなる重要ナンバー。ダンサブルな感じで、特徴的なギターの音色やクセになるリズムが良い。
他にもセンチメンタルな叙情性が心に沁みてくる切ないパワーポップの②、フォークロック調の優しい歌声とメロディーに癒される⑦、気だるい雰囲気とギターリフが良い⑧、青春の儚さをノスタルジックに表現した⑨、弾き語りに近いので歌声とメロディーの美しさが堪能できる⑬など、バンドのポンテンシャルを十二分に発揮した内容となっている。

荒削りなギターの音色や飾らない歌声など、素直な印象の作風が心に優しく響いてくる。その後の作品がアニメ映画にタイアップされたことからも分かるように、映像作品にも合う作風である。次作から日本語詩の楽曲も多くなったHomecomingsだが、感傷的な雰囲気が良いという点に置いてはこのアルバムは格別の魅力があると言える。

腐っても私|Su凸ko D凹koi

2018/9/19  ‎ BUDDY RECORDS

1. ゆうと
2. サラバ、男達よ(選手宣誓)
3. ミステリーサークル
4. 店長、私バイト辞めます。
5. 満身創痍
6. 元カノ地獄
7. 神様のいない日(一人芝居)
8. 陰気者
9. くず息子
10. メンヘラ
11. セックスレスピストルズ
12. ブス
13. MOMANAIDE
14. すっぱだカーニバル(サンバ)
15. 全力裸ブリー
16. 筋肉道場 (ボーナストラック)

2010年に結成されたガールズバンド「Su凸ko D凹koi」(すっとこどっこい)の1stフルアルバム。まず曲のタイトルがとてもユニークで、曲名を見ただけで聴いてみたくなる日本語センスである。音楽性はガールズバンドらしいキュートな歌声のストレートなパンクで、身も蓋もない本音をぶちまける曲が痛々しくも爽快に胸に刺さる。「大森靖子」+「Theピーズ」という感じの鋭い歌詞が印象的な日本語ロックは自虐で泣き笑いしながらも前向きな気持ちになれるものだ。

冒頭①は直球のパンクサウンドで疾走し、失恋した未練を切ないメロディーに乗せて歌う。荒削りではあるが、青春時代の喪失感をノスタルジックに表現しており、このバンドの魅力がつまっているキラーチューンである。
④はバイト先への不満をストレートにぶちまける。スピード感あるサウンドにキャッチ―な歌メロを乗せて日常のフラストレーションを爆発させるいかにもパンクな1曲。
⑥は現在でも運動会等では定番のBGMであるオッフェンバックの『天国と地獄』に、恋愛における嫉妬をテーマにした歌詞を乗せるという実にパンクバンドらしい過激なセンスが光る。
古くは「Sid Vicious」の『My Way』や「LAUGHIN’ NOSE」の『聖者が街にやってくる』に連なる権威のある楽曲をパンクアレンジするというものである。
⑨は劣等感やダメ人間ぶりをオブラートに包まずに歌っているが、可愛らしいのでなぜか笑顔になれるという女性ボーカルバンドの利点が効いているナンバー。⑩は切なさ溢れるバラードで、そのものずばりメンヘラソングである。
⑪は皮肉が効いたタイトルだが、普通にやるせない曲である。こういった生々しい感情表現がこのバンドの真骨頂。⑫は歌詞の強烈なインパクトにびっくりするが、やりきれない感情をポップに昇華しており秀逸。⑬はあまりにもストレートな歌詞に笑ってしまうが、メロディックなハードコアパンクとしてよく出来ている傑作。

あまりにもストレートな暴力的な日本語が印象的であるが、随所にメロディーの良さを感じるところがあり、ポップパンクとして優秀。切なさと笑いが同居しており、悲哀とユモーアのバランスが良い。

white hot|simsiis

2022/3/25  PAPER MADE SHELL RECORDS

1. yodachi
2. cycling
3. chouchou
4. pageant

2019年に仙台で結成されたロックバンド「simsiis」の2枚目となるEP作品。
ミッドウェスト・エモやポストロックに影響受けたというエモーショナルなギターサウンドと文学的な世界観を繊細に歌い上げるボーカルkokoronoの美しい歌声が印象的である。
飾らない雰囲気は好感が持てるもので、その真っ直ぐさは聴き手の日常にも寄り添ってくれるものである。

①はノイジーな轟音ギターサウンドと和的な叙情性を持つ歌の切なさが胸を締め付ける。透明感あるボーカルは淡々と歌いながらも憂いを含んだ感情をしっかりと伝えてくれる。
②はより感傷的な歌を全面に出した作風で、儚い世界観にどっぷりと浸ることができる。終盤の激情パートも意外性があり良い。
③は躍動感あるメロディックな旋律が心地良い。繊細な響きのサウンドやセンチメンタルなメロディーを歌うボーカルは清涼感に満ちている。
④は揺らぐ轟音ギターとしっとりしたメロディーが大きなうねりを生み出していて秀逸。このバンドの魅力が詰まったキラーチューンである。

4曲すべてがしっかりと個性分けされており、ひとつひとつがまるで小説を読むように楽しめる。特にメロディーセンスは素晴らしいものがあり、いつまでも聴いていたくなるそんな1枚だ。

結束バンド|結束バンド

2022/12/28  アニプレックス

1. 青春コンプレックス
2. ひとりぼっち東京
3. Distortion!!
4. ひみつ基地
5. ギターと孤独と蒼い惑星
6. ラブソングが歌えない
7. あのバンド
8. カラカラ
9. 小さな海
10. なにが悪い
11. 忘れてやらない
12. 星座になれたら
13. フラッシュバッカー
14. 転がる岩、君に朝が降る

TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場するロックバンド「結束バンド」の1stアルバム。
過去にも「放課後ティータイム」(けいおん)や「Girls Dead Monster」(Angel Beats!)といったアニメ内に登場するガールズバンドは爆発的な人気があったが、この結束バンドも社会現象に近いレベルのブームを巻き起こしており、各方面で話題となった。
音楽的には本作でもカバーしている「ASIAN KUNG-FU GENERATION」等の流れを汲むメジャー感ある邦ロックで、声優ボーカルの強みであるカラフルな歌声を武器にした洗練されたガールズロックを楽しむことができる。また楽曲提供を行ったガールズバンドや女性シンガーソングライターなどの豪華作家陣にも注目の1枚である。

冒頭①はアニメ本編のOPテーマ曲で、メロディックなビートやカッコいい女子ロックの雰囲気を見事に作り出す喜多郁代(長谷川育美)の歌声が良い。演奏自体はメジャーロックの王道という感じだが、楽曲の良さを上手く引き出しているボーカルの声質と歌唱テクニックが結束バンドの肝である。作曲は音羽-otoha-で、他にも⑤⑨⑬を手掛けている。
②はアニメのイメージにぴったりなエモいメッセージほとばしる傑作。切ない感情を表情豊かに歌い上げるボーカルや叙情的なメロディー&サウンドが胸を突き刺す。
③は谷口鮪(KANA-BOON)の提供曲。KANA-BOONらしいフレッシュなキュートポップで気分爽快。
⑤は実にロックな熱唱や尖った歌詞が印象的で、やり場のない衝動をぶちまける熱量を全身で感じられるキラーチューン。前のめりの疾走感やラフなサウンドも気持ち良い。⑦も勢いのある演奏とメロディックな疾走感が熱い。
⑧は中嶋イッキュウ(tricot)の提供曲で、山田リョウ(水野朔)がボーカルを担当している。クールな歌声にぴったりなちょっぴりセンチなメロディーに胸がキュンとなる。
⑩は伊地知虹夏(鈴代紗弓)のボーカル曲で、北澤ゆうほ(the peggies)が作詞・作曲している。元気な歌声にベストマッチする清涼感あるポップチューンで清々しい気持ちになれる。
⑫は胸の奥にあるノスタルジック気持ちを刺激する青春ロック。聴き手それぞれが自分にとっての大切なものを思い起こすことができそうな優れた1曲。⑬はエモーショナルなギターロックを絵に描いたような切なさ爆発の旋律が波のように押し寄せる。感情の揺らぎを上手く表現しており秀逸。

才能あるミュージシャン達が提供した楽曲とメリハリのあるサウンドは、ダイレクトに快感が得られるもので良く出来ている。またメインボーカルを務める喜多郁代(長谷川育美)の声質や歌い方がこのバンドの作風に合っていると感じる。

ONOMIMONO|パスピエ

2012/6/27 ワーナーミュージック・ジャパン

1. トロイメライ
2. デモクラシークレット
3. プラスティックガール
4. 脳内戦争
5. 気象予報士の憂鬱
6. トリップ
7. 最終電車
8. ただいま

2009年に結成されたロックバンド「パスピエ」の2枚目となるアルバム。
クラシックの印象派音楽とニューウエーブ系サウンドを融合させるというユニークな音楽性を標榜しており、バンド名もドビュッシーの曲からつけている。キーボートの成田ハネダが作る玄人好みのサウンドは音楽好きのハートをがっちりと捉えるもの。基本的にはボーカルを務める大胡田なつきの可愛らしい歌声を全面にフューチャーしたキャッチ―なポップロックなので、小難しいこと抜きに誰もが楽しめる内容である。

冒頭①は疾走感溢れるキュートポップチューン。ノスタルジーを呼び起こすキーボートの音色やメロディーが素晴らしい出来で、大胡田なつきのパワフルな歌唱も良い。続く②も前のめりに突っ走るポップロックで、プログレっぽい重厚なサウンドと表情豊かに歌うボーカルなど、その切れ味の鋭さに痺れる。
③はしっとりしたミドルテンポのナンバーで、感傷的なメロディーや存在感ありまくりのギターの音色が印象的。
④は頭のネジが飛んだようなはっちゃけた曲で、いかにもサブカル系の一風変わった女性ボーカルポップスは、好きな人にはどストライクな感じである。⑥はタイトル通りドリーミーなトリップ感が気持ち良いファンタジックな曲。
⑦はよりストレートな作風により逆に持ち前のポップセンスが光り輝く名曲。印象的なイントロからセンチメンタルなメロディー、情景が浮かぶ歌詞とすべてが心に残る。本作には未収録だが、ラッパーの泉まくらをフューチャーしたヴァージョンもあり、そちらも名アレンジで必聴である。

初期の作品ゆえに後のアルバムに比べると荒削りな部分もあるが、ポップミュージックとしてすでに貫禄ある完成度である。①や⑦などの一音で耳を惹きつけるセンスはさすがの一言で、メロディーやボーカルも含めて良いポップネスが感じられる1枚だ。

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